超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
信次元国家間連携機構、通称信国連が発足したのは、神生オデッセフィアの建国と、事情はどうあれ四ヶ国による友好条約が破棄された事による、新たな国際的協力の形、枠組みが必要となったから、というのが最大且つ、直接の理由。けれど同時に、信国連には信国連として…即ち信次元全体での目標とする、三つの大きな計画が存在している。
度重なる軍拡や復興により加速している資源の消耗、それによる懸念を今現在だけでなく『未来』においても永続的に解消し、更には資源のみに留まらない凡ゆるリソースの限界を取り払う第一の柱、オペレーション・フロンティア。別次元における危機、それが人と人によるものであれば積極的な仲裁と調停を行い、人類以外による脅威であれば武力介入による制圧を執行し、森羅万象全ての次元を在るべき姿に導く、例外なく全次元の人々に幸福と繁栄をもたらす第二の柱、オペレーション・メサイア。そして、無限に存在する可能性を研ぎ澄まし、その先を目指す…人の歩みに不可能などないと、真なる理想を自分達の手で創り出し実現する事すら出来ると『新たな次元を生み出す』事で証明する第三の柱、オペレーション・ジェネシス。この三本の柱を取り纏めたのが、トリニティプラン。
三つの柱はどれも、容易に実現し得るものではない。信国連発足時点では、あくまで将来的に着手したいという程度の目標だった。けれどあれから時が経ち、仮想世界形成装置に十分なデータが溜まった事で高度且つ多彩なシミュレーションが可能になった事や、そのテスト運用の中で期せずして最難関と目されたオペレーション・ジェネシス実現の片鱗が見られた事、オペレーション・フロンティアとオペレーション・メサイアに共通する課題であった、『別次元への大規模な移動手段の確保』にも目処がたった事から、遂にトリニティプランは次の段階へと移行した。まだまだ先は長い、果てしない。それでも今私は、私達は、信次元は……スタートラインに、立った。
*
一瞬であったような、そうではないような、正しく認識出来ない感覚。今となってはもう慣れた、それでもやっぱり不思議なその感覚を経て……ある次元へと、移る。
「皆、体調はどう?問題なければ、各艦及び信次元への通信状態の確認を」
「はっ。各種レーダーとセンサー、加えて艦内機器のチェックも怠るなよ」
『了解』
私と艦長の指示を受け、ブリッジのオペレーター達がコンソールに指と目を走らせる。同様に私も、艦橋からゆっくりと外を見回す。
今私がいるのは、
「イリゼさん、皆さん、聞こえていますか?
(´・ω・`)」
「聞こえてますよ、イストワールさん。全艦、次元移動完了です」
「みてーだな。最初に開いた時と座標のズレもねーか?」
通信状態が良好である事を確認したところで、イストワールさんとクロワールの…信次元からの通信がアヴァラスに届く。
最初というのは、今日に先んじて一度、この次元への扉を開き、こちらの状態、ここがどんな次元なのかを軽く確認した時の事。その時は、私一人で確認をしていて…だけど今は、私一人じゃない。
「全艦全システム、異常ありません。すぐにでも行動可能です」
「それは良かった。なら…これより我々は、先行調査艦隊として行動を開始する。オペレーション・フロンティア──始動だ!」
腕を横に振るい、宣言する。この作戦に参加する全ての人へ、私の声を届かせる。
そう。私が艦隊と共にこの次元へと踏み入れたのは、別次元の開拓を目指すオペレーション・フロンティアの為。厳密には今後の、本格的な遂行の為の、試験的作戦。とはいえ、試験ではあっても練習ではない。試しにという形ではあるけど…本番である事には違いない。
そしてその第一段階、イストワールさんとクロワールが協力する事で可能となった巨大な次元の門を用いて、艦船の次元移動を行うという行程は滞りなく成功した。だから、既にオペレーション・フロンティアはスタートしてて、今「始動だ!」っていうのは実は間違っているんだけど…そこは突っ込まないでほしいと思う。
(見渡す限りの荒れた土地。いや…荒れたというより、まだ何もない…かな)
陸上艦と空中艦による混成の艦隊が、地上を進む。今のところ見えているのはただの広大な土地だけで、目ぼしいものは見当たらない。勿論地中には貴重な、或いは豊富な資源が眠っているかもしれないし、例えばこの土地の土一つとっても、信次元とは全く違う組成をしている可能性もあるけど、その辺りの本格的な調査を行うのは、本隊の役割。ここにいる先行部隊の役割は、大まかな環境の把握と、危険の確認及び対処。こっちで何とかなるのであればそうするし…ならないのであれば、本隊である信国連第二艦隊と合流し、全力で対処に当たる。
つまり、気になるものを見つけたり、何らかの襲撃を受けたり等がなければ、機器で情報収集をしつつひたすら進む事になる。それが、どういう事かというと……
「オリジンハート様。一つ伺いたいのですが、オリジンハート様が先んじて確認した範囲は……」
「もう二時間位前に完全に通過したね」
「…そうですか…」
「…まあ、言いたい事は分かるよ」
微かに気落ちした様子の副長に、私は肩を竦めてみせる。彼女だけじゃなく、他の皆も同じように思っているんだろう。この状況が、いつまで続くのか…と。
いつまで経っても景色が変わらない、ちゃんと進んでいるのかどうかも不安になる…というのは、中々に堪えるもの。その点が、
「…そうだ。皆に一つ、伝えておきたい事がある」
だから…という訳ではないけど、私は皆に呼び掛ける。艦長に艦内の全フロアへと放送が入るようにしてもらって、私は立ち上がる。そして女神化をし…言う。
「今回の作戦に当たり、先の未開領域調査を思い出した者も多いだろう。あの調査には、オペレーション・フロンティアに近い目的があったのだから。そしてその調査の中で、幾つかの緊急事態が起こり…そしてその末に、私は君達に、苦渋の選択をさせる事となってしまった。あのような形となってしまったのは、偏に私の力不足であり、あの瞬間に至るまでに、私の選択に万全とは呼ばないものがあった結果だ。君達に不備はなく、非などないのだから気に病む必要もない…と言っても、気にしてしまう者もいるだろう。そしてそれを、私は深い責任感と、より良い結果を望まんとする心があるが故のものだと考えている。その精神は、決して正さねばならないものではなく…むしろその崇高な精神性を、女神として誇らしく思う」
あの時を思い出すように、私は語る。あの時は、辛かった。身体の事ではない。耐えられるかどうかなんて、微塵も不安ではなかった。それより、そんな事より、皆に負わせてしまう心の重荷の方が、ずっと辛く…女神として、不甲斐なかった。女神は人を守るもの、救うもので…けれどそれは、命だけの話じゃない。命やその人の未来と共に、心も守る事が出来なければ、助けられたとしても幸せにしてあげる事は出来ない。…これは傲慢?いいや、違う。それが、女神というものだ。私の考える、私という女神の在らんとする姿だ。故にそれが、私の道。そこにもし驕りが生まれる余地があるとすれば、それは私一人で為そうとした場合。でも私は…そうは、ならない。
「だからこそ、私はここに宣言しよう!もう、あの日のようにはならないと。君達へ、誰一人としてあの時のような思いはさせないと!そしてそれは、私一人で為すものではない!私一人の力ではなく、私と君達の力で、あの戦いの記憶を塗り替えよう!私は、君達となら出来ると──信じている!」
はっきりと、力を込めて言い切り、私は宣言を終える。…これは、皆への鼓舞、皆の士気を上げる為だけのものじゃない。皆へ向けたものであると同時に…私自身へ向けた、誓いでもあるのだから。
言わなければ気持ちを固められない訳じゃないけど、それを逃げにするつもりなんて毛頭ないけど、言う事で、言葉にする事で、自分への応援になる…ような気がする。何せ、他でもない自分自身が、あの事を気にしていたんだから。もう誰にも、あんな目には遭わせない…その為の、誓い。
「…さて、突然の事に付き合わせてしまい、申し訳なかった。そして、快く付き合ってくれた事を感謝するよ」
「いえ。女神様の思いと共にあるのが我々
「ふふ、それは心強いね」
答えてくれた艦長へ小さく笑い、女神化を解いて座り直す。…我ながら、結構守護女神が板に付いてきたんじゃないかと思う。けど勿論それは、私の努力や経験を重ねてきた事だけじゃなく、皆がいて、支えてくれるからこその事で…うん、身が引き締まる思いだ。これを足掛かりに、もっと守護女神として上を目指さないと…なんて、ね。
*
よく言えば問題のない、悪く言えば大した成果のない調査は、それからも続いた。
とはいえそれも仕方のない事。きっちりと情報収集や周辺警戒はしてくれているようだし、極度の緩みでなければ私も咎めるつもりはない…そう、思っていた時だった。
「…少し、風が出てきたみたいだね」
「そのようですね。むしろこれまでが、やけに無風だったとも言えますが」
艦内で風を感じる事はなくとも、景色は相変わらずでも、地上の、砂ばかりの地面を見れば風が吹いている事が分かる。ただ艦長の言う通り、ずっと無風というのもあまりない事。これがこの次元においては普通の事なのか、そうじゃないのかについても、まだ私達には判別が出来なくて…そんな中、コンソールを操作していた一人が声を上げる。
「これは…艦長、女神様、こちらのデータを見て頂けますか?」
その言葉と共に示されたのは、観測している気象データ。それ単体では何とも言えないけど、続けてこれまでのデータとの比較が表示された事で、少し前から色んな数値が異常な反応を見せている事が見て取れる。急に出てきた風と、気象データ…これだけで、気を付ける理由としては十分。
「このデータは、即座に各艦と共有。同時に観測を強化し、一層の異常があれば一時着陸も……」
艦長へ頷き、判断は任せると意思を伝える。そして艦長が、警戒を強めるよう指示を出そうとした…その時だった。
『……──ッ!』
突如、艦を襲った大きな振動。何かがぶつかった、どこかで爆発が起こったという類いのものではなく、艦全体が大きく揺さ振られたような衝撃が、激しく響く。
「砂嵐…!?馬鹿な、どうしてこんな急に…!」
「気候の変化が早過ぎる…!仕方ない、今すぐ着陸を……」
「待って下さい!アルシアより入電!これは……ッ!」
愕然としたような副長の言葉通り、さっきまではただ多少風が吹いていただけだったのに、今や巨大な砂嵐が迫っていた。それだけなら、如何に大型であろうと所詮は砂嵐。艦船の装甲が破壊されるなんて事はないし、一旦着陸してやり過ごすのがベター…そんな判断を艦長が下そうとした直後、更に私達は驚愕する。
反射的に、視線を名前の挙がった陸上艦…ヘルヘイム級汎用戦闘陸上艦へと向ける私。そうして私は目にする。まるで砂嵐に呼応するようにそれまでなかった大規模な流砂が発生し、400mクラスの陸上艦がそれに巻き込まれている光景を。
「艦長!緊急浮上は!?」
「この砂嵐の中で無理矢理飛ぼうとすれば、流砂の中で横転する可能性があります!」
「下手に飛ぶ訳にはいかないという事か…!」
砂嵐で船体がひっきりなしに揺さ振られる中、私は立つ。流砂で着地がままならない以上、アヴァラスは宙に留まるしかない。そして流砂に船体が沈み始めたアルシアだけじゃなく、陸上艦はもう一隻ある。今はまだ大丈夫でも、いつ同様の状態になるか分からない。
即ち、今必要なのはアルシアの救助と、もう一隻の安全確保。私は艦の事を艦長達に任せ、救助の為に艦橋を出ようとし…足を、止める。
(…いや、ここは……)
ここで私が動くのは間違いない。下手に動けば、今は大丈夫な各空中艦も危険に晒される。だけど…守るだけが、私のするべき事じゃない。あの時は、全て私が引き受ける事が、最高ではなくとも最善だったけど…きっと今は、違う。
「…皆。各艦と協力し、ミハイルまで巻き込まれる事のないよう尽力してほしい。それと…全艦に繋いでもらえるかな?」
静かに振り向き、艦長だけではなく、ここにいる皆へと頼む。全艦への通信を繋げてもらい…私は、言う。
「全MG部隊の隊長に告ぐ!これより私は、アルシアの救助に入る!君達には、私に手を貸してもらいたい!状況が状況だ、MGは展開するだけでも危険が伴うと思うが…隊長の名が伊達ではない事を、指揮能力だけが隊長の素養ではない事を、示してみせよ!」
女神化と共に声を響かせ、ここは任せたと皆へ頷く。そして私は艦橋を出て、艦外への扉へと急行し…外へと飛び立つ。
その瞬間、打ち付けるような強風が、砂が襲い掛かってくる。けど、この程度…女神の障害になんてならない。
「アルシア!いつでも飛び立つ事が出来るよう、準備を整えよ!それを阻む流砂は、私と隊長達で退ける…!」
インカムで通信を掛けると共に、一気にアルシアの近くまで飛ぶ。バスタードソードを一本精製し力を込めて流砂へと投げ込む。半端な物体であれば砕き貫くだけの威力を持った私の投擲が、砂嵐に負ける事なく真っ直ぐに流砂へと飛び込み、多量の砂を吹き飛ばし…けれどそれだけ。大勢には殆ど何の影響も及ぼす事なく、バスタードソードは飲まれて消える。
「ちっ、一本や二本投げ込むだけでは焼け石に水か…ならば…!」
両腕を広げ、今度は十本の片手剣を精製。砂嵐に吹っ飛ばされる前に、柄尻へと圧縮シェアエナジー解放による爆発を与え、先と同じように流砂へ打ち込む。
ただ、さっきのようにはいかない。元々圧縮シェアエナジー解放を用いた射出は精密攻撃には向かない上、今は砂嵐の影響下。途中で吹き飛ばされる事こそなくとも、その二つの要素が絡む事で大半の剣が少しずつ狙いから逸れ、バラバラの位置や角度で流砂に飛び込む。これじゃあ、結果は一度目と同じ。
「…駄目だね。やっぱり、ここは……」
上手くいってくれれば御の字だったけど、こうなるのは予想の範囲内、だから私は残念にこそ思えど、落ち込む事はなく……次の瞬間、砂嵐の轟音に混じる形で、エンジンが唸り、スラスターが吠える音が聞こえてくる。
「お待たせしました、イリゼ様」
「こちらプライマリー1、いつでも行動可能です」
真っ先に私の視界に現れたのは、紅の機体。私同様、砂嵐の影響を跳ね除けて…いや、違う。ある程度は跳ね除けつつも、巧みな姿勢制御と操縦によって影響を受け流しながら飛んできたサクリスタン特務中佐の機体が私の側に付き、続く形で指揮官機仕様のマエリルハが集まってくる。アルシアのカタパルトも開き、そこからも機体が出撃する。
そうして集結したのは、先行艦隊に属するMG部隊の全小隊長。誰一人砂嵐に負ける事なく集結し、焦りや動揺を浮かべる様子もない隊長達の姿は、機体越しであっても壮観で…そんな隊長達に向けて、私は作戦を、私達で流砂から助ける為の策を話す。
「全機の集中砲火で流砂を吹き飛ばし、一瞬でもアルシアが逃れられるようにする…ですか。それは、なんというか……」
「力押しも甚だしいですね。この状況でなければ、下策と断じていたでしょう。…ですが……」
「今はじっくり作戦を練っている場合でも、それが出来る状況でもないですもの。わたしは賛成です」
力押しというのは承知の上。隊長の一人、チュイル特務中佐の厳しい指摘も予想していた。その上で賛同してくれるのなら良し、私の考えより良い案があればそっちに切り替えるまでと私は思っていて…一人の女性の隊長を皮切りに、今は即断即決こそが必要だと隊長達は私の言葉に応じてくれる。
勿論それは、ただの賛成ではない。策の内容を、状況を踏まえた上で判断して、今の最善として賛成している。その思考こそが、人を率いる指揮官に求められるもの。そしてその能力を、全員が不足なく備えているなら…いける。
「この規模の指揮ならば、私よりも君達の方が適任だ。提案だけしておいて任せる、というのも格好が付かないが…任せても良いかな?」
一国の長である私と、一部隊の長である隊長達とでは、同じ指揮でもその性質が違う。だから私はこの場における最高階級且つ、最先任の隊長に指揮を任せ、それに従う事を示す。
そうして私と隊長達は散開。砂嵐の中で飛び、射撃を、砲撃を、遠隔攻撃をそれぞれに放つ。撃ち込む事で、その結果、流砂への影響を観測し、最も狙うべき場所を探す。
(吹っ飛ばす事にかけては、私の射出よりセイツの圧縮シェアエナジー弾の方が上手くやれる筈。もしここにセイツがいたら…。……なんて、考えるべきじゃないね。そんな考えをしても仕方ないし…皆は私に、ここにいるオリジンハートに応えてくれているんだ。なら、私が私に自信を待たずして、どうするつもりだオリジンハート…!)
ふと頭に浮かんだ思考を振り払い、多種多様な武器を射出しては反応を見る。より衝撃を与えられる武器や形状を把握し、『その瞬間』の為に試しを重ねる。
少しずつ、少しずつアルシアはバランスを崩し、状態が悪くなっていく。心がざわつく、焦ってしまいそうになる状況。だけど誰も慌てる事なく…少なくともそういう様子を見せる事なく、きっちり攻撃を重ね、情報を蓄積してくれている。そして……
「こちらアルシア!割り出しが完了した!本艦より五時の方向、距離はポイント2から4の範囲!」
「了解!さぁ、隊長各機!これより流砂を吹き飛ばすぞ!」
声を上げ、どこぞの狂戦士ばりの斧剣を精製。それを掴み、同時に叩き斬る事に重点をおいたような大剣を複数私の周囲に展開する。隊長達もビームマシンガンやロングビームライフルを構え、砲を開き、ミサイルを照準。全員が指定された範囲を見据え…号砲が如く、アルシアから対艦ミサイルが打ち上げられる。何十もの大型ミサイルが空に登り、そこから降り注ぎ…着弾の寸前、私は叫ぶ。
「一斉、掃射ぁッ!」
手にした剣を、展開した刃を纏めて放つ。隊長達の総攻撃が火を吹き、牙を剥き…陸上艦の巨砲が、爆音を響かせる。全ての攻撃が、狙い通りの範囲へと殺到し、圧倒的な力と衝撃を叩き込む。
私、各指揮官機、それに戦闘艦による、一斉掃射。限られた範囲へと撃ち込むには、いっそ過剰過ぎる程の火力が襲い掛かり……次の瞬間、流砂は爆ぜる。大爆発を起こしたように、凄まじい量の砂が吹き飛び…抉れる。そしてその一瞬、地形は変わり…アルシアは、その瞬間を逃しはしない。
「リミッター解除、全魔光動力炉臨界駆動!アルシア、緊急浮上!」
エンジンが吠え、船体が大きく揺れ…アルシアは、浮き上がる。流砂を振り払い、砂嵐に揺すられながらも、陸上艦はその名に反して地上から空に浮き上がる。
けれどそれも、想定された機能の一つ。元より戦闘艦…というより信次元に由来を持つ凡ゆる物質は、超高エネルギーを内包する事によって浮遊という性質を持つようになる。女神が飛べるのもその性質のおかげで、空中艦の飛行能力も、その浮遊が根幹を成している。そして空中艦に出来るのなら、同等のエンジンを、出力を持つ陸上艦もまた、浮遊出来るのは当然の事。普段は陸戦の為に、機能をセーブしているだけの事。勿論浮遊状態から素早く動いたり旋回したりするには別の力が必要になるし、そこで陸上艦と空中艦の設計の差が表れる訳だけど…ともかくホバー移動に留まらない、完全な浮遊能力すらも、陸上艦は有している。だから状態さえ整えられれば…こうして、飛べる。
「よし、これで……」
「これで後は、この砂嵐を切り開くのみ。──各機、母艦まで後退!全艦、対ショック防御!」
艦が完全に流砂を振り切り、その艦長の声からも窮地を脱した事を感じ取った私は、皆にまだ終わっていないと、このまま砂嵐に耐えて過ぎ去るのを待つつもりなどない事を示す。
そこからの私の言葉で、次の行動を理解した…訳ではないだろうけど、私が大きなアクションに出ると察したように、各隊長機は速攻で後退。母艦の甲板に着陸したところで、各艦も高エネルギーシールドでの全方位防御を展開する。…うん、それでいい。一点への集中攻撃より狭い範囲で複数の箇所へ負荷を掛けられる方が厳しい高エネルギーシールドを、全方位から叩かれる砂嵐の中で展開するのはあまり得策ではないけど…それでも防御を固めてくれる方が、私も思いきってやれるというもの。
「…さて」
空で踏み締めるように翼を広げ、リバースフォームを解放。まずは周囲にシェアエナジーを放出し、砂嵐を相殺する。意図的に強く放出する事で、微細な砂の連打を一粒残らず弾き返す。
でもそれは、私の周囲のみ。依然砂嵐は、私と先行艦隊を、この一帯を包んでいて…だから私は、超巨大剣を精製する。それも刀身は表面部分のみにし、内部を圧縮シェアエナジーで満たしていく。通常よりも大量のシェアエナジーを、通常よりも高圧縮状態で、無理矢理凝縮を繰り返す。
(まだ、まだだ…まだ足りない…もっと、もっと……!)
強引に、既に飽和状態の刀身内へ更にシェアエナジーを注ぎ、圧縮する。限界を超える圧力に刀身の至るところへ亀裂が入るも、そこを逐一修復し、尚も刀身内のシェアエナジーを増す。そうして作り上げるのは、限界を超えた超密度、僅かにでも制御を誤れば壊滅的な被害をもたらすであろう、巨大剣の形をした超圧縮シェアエナジーの巨塊。
私はそれを振り上げる。振り上げ、見据える。砂嵐ではなく、その先の光景を。私の一手…そこから先にあるものを。そして……
「自然風情が…図に、乗るなぁああああああああッ!!」
一閃。私は超巨大剣を真っ直ぐに振り抜く。振り抜き…ほんの少しの衝撃でも爆ぜてしまう状態の圧縮シェアエナジーを、全て纏めて解放する。瞬間、私の視界はシェアエナジーの輝きで埋め尽くされ……音が、消える。一瞬消失し、直後に砂嵐の音を遥かに超える激音が轟く。
これを行う自分自身ですら、リバースフォーム且つ万全の状態を整えていなければ吹っ飛ぶ、下手すれば粉微塵になるような大爆発。圧縮状態から解放されたエネルギーの爆発という、純粋な…本当に純粋で単純な力解き放たれ、空間を軋む程に震撼させ……刹那の内に、砂嵐を消し飛ばす。私の力が、女神の力が、それを生み出した人の力が…心無き、空虚な自然の猛威を真正面から捩じ伏せる。
「ルミリエより全艦へ!本艦が先陣を切る、我に続け!」
砂嵐を吹き飛ばす一撃が艦隊に何の影響も及ぼさない筈がなく、防御態勢を整えた上でも尚、全艦大きく姿勢を崩していた。だけどそこからの立て直しが…ただ切り裂かれ消えていく自然の力と、その姿を保ち動き出す人工物の決定的な差を見せていた。
先導するように先行艦隊の一隻、ヨトゥンヘイム級汎用空中戦闘艦のルミリエが前に出る。もう一席の空中艦がまずそれに、その後は宙へ上がった二隻の陸上艦が続き、最後はアヴァラスが砂嵐の消えた…けれど力技で消し飛ばした結果、それはそれで大気の状態が大いに荒れた空を駆ける。私もゆっくりと息を吐き、力を抜くようにしてリバースフォームを解いた後、アヴァラスを追って甲板に降りる。
「ふー、ぅ…思い付きを、ぶっつけ本番でやったけど…やっぱりまだまだ、鍛錬が必要だな……」
見事に砂嵐を消したとはいえ、準備を整えるのに時間が掛かったし、今のやり方じゃ各艦への影響も大きいから、戦闘なんかで被害を受けていたり、流砂に巻き込まれていたさっきのように状態が悪くなっていたら使えない。前にオリゼが害虫駆除の為に、周囲の地形ごと害虫を殲滅させていた時の事を思い出して、似たような事が出来るかなと思ったけど…リバースフォームでもやっぱり、オリゼとの差は大きい。側から見たら似たようなものかもしれないけど、私にはその差が分かる。
思えばあの時、私はオリゼにやり過ぎだと思った。一理ある、一つの正しさは確かにあると感じながらも、流石に環境破壊が過ぎると、唖然とした。でも…今なら分かる。自然の価値とか、そういう事ではなく…単に優先順位の話だって。あの時オリゼは人を笑顔にする事が出来た、私は今皆の安全を確保出来た。中長期的な視野も大事ではあるけど…まずは目の前の『人』を大切にしてこそ、女神だって。
*
「私からの報告は以上だ。細かい部分は送ったデータで確認をしてほしい」
先行艦隊からの、本隊たる第二艦隊へ向けた定期報告。ここまでに得られた情報…特に気象の急変とそれによる危険性について、重点的に伝える。
本隊を構成しているのは、各国の部隊。そして私の報告を受けているのは、各国軍の将官クラス。高級士官相手に一国の長が直接報告を、というのは通常変な形ではあるけど、今の私は先行艦隊の代表的な立場でもあり、先行隊と本隊なら当然メインは後者な訳だから、本隊の中核を担う面々に先行隊の代表が連絡するのはそう間違った事ではない。
「砂嵐に流砂…ふむ、それ自体はそう対処に難を要する事ではありませんが、突発的且つ複合的に発生するとなると、話は別…でしょう」
「気象データを十分に蓄積出来ればそれもまた変わってくるのだろう。尤も、そもそも『気象』を我々の知る、我々の概念とある程度でも合致するものであるとした場合ではあるが」
「何れにせよ、このまま進めるのは危険かと。母国から遠く離れた地で艦隊を、多数の部下を預かる身としては、慎重な判断を女神様にはして頂きたいです」
「ああ、分かっている。私とて、悪戯に人を危険に晒すつもりはない。こちらの先行艦隊を構成する、私の神生オデッセフィアの皆は勿論、本隊たる君達も全員…な」
報告を受けた上での、それぞれの反応とやり取り。口を開いたのは、プラネテューヌの中将と、ラステイション、ルウィーの大将。プラネテューヌだけが将官級の最高位である大将ではなく中将なのは、プラネテューヌの…ネプテューヌやネプギアからの、私への信頼と見るべきか、それともノワールやブランが、良くも悪くも同じ守護女神として『警戒』しているからこそ、大将を派遣してきたのか…それは私には分からない。
そして当然、この場にはリーンボックスの人間もいる。ただ、リーンボックスだけは純粋な軍人ではなく……
「元々今回の作戦は、オペレーション・フロンティアの導入実行におけるテストとしての側面が強いのです。であれば重要なのは、この作戦単体の成果ではなく、この作戦の過程と結果がどう『次』に繋がるか、繋げられるものであるかでしょうな。故に、それを踏まえて頂けるのなら、私はイリゼ様のご判断を尊重致しますぞ」
表情は柔らかく、されど眼光は鋭く提言をする老年の男性。リーンボックスから派遣された…イヴォワール。嘗ては軍にも所属し、その頃は深緑の猛将という名を轟かせていたらしい彼の言葉に私は頷き、彼等と会話を重ね…一つの結論を、下す。
「艦長、アルシアの修理状況はどうかな?」
「問題ありません。元々被害は軽微なものでしたし、修理もじきに終わります」
「ドック艦を連れてきたのは正解でしたね」
「イストワールさん達が常時接続を維持してくれているとはいえ、ここはそう易々とは信次元へ戻れない地。可能な限りの備えはしておくべきというものだよ。ミハイルの搭乗員にとっても初の長距離遠征として、良い経験になっただろうしね」
報告とそこからの会議を終えた私は再びアヴァラスの艦橋へ訪れ、今度は逆に報告を受ける。
現在は気候も安定状態。陸上艦アルシアは修理中で…それを担っているのが、ミハイルと呼ばれるウルザルブルン級支援陸上船渠艦。MGは勿論、400m級の戦闘艦すら修理出来る設備と、小規模ながら工廠をも備えたかなりの大型艦。汎用戦闘艦と違い、信国連主導で開発されたこの艦と、陸上艦一席に空中艦二隻、それにアヴァラスを加えた五隻が私の率いる先行艦隊。オペレーション・フロンティア…というよりトリプルプラ…もとい、トリニティプラン自体が私やセイツの強く推す計画って事もあって、先行艦隊は神生オデッセフィアのみで務めている。
「それじゃあ、修理が完了したら呼んでもらえるかな?皆も知っての通り、ここから先は……」
「本格的な調査、開発、有効利用の為の拠点構築までを目指すプランAではなく、一定レベルの調査が完了した時点で帰還し、様子見とするプランBの方針を取る…ですか。私はそれに反対です」
私の言葉を遮る、或いは先に言う形でかかった待った。それは艦橋に来ていたチュイル特務中佐のもの。遠慮のないその物言いに一瞬艦橋の中の空気がピリつき…けどそれを気にも留めない様子で、彼は更に話す。
「百歩譲って、本隊が帰還するのはいいでしょう。我々の動きに目を光らせている他国の部隊が引き上げてくれるのならむしろ好都合です。それに関して貴女や上層部のみで決めた事も…まあいいでしょう。だが、これはチャンスなのです。幾ら上り調子とはいえ、所詮神生オデッセフィアはまだ技術に劣る途上国。そして、それぞれがそれぞれの形で高水準な技術を持つ四ヶ国と、現状では『資源』が最大の売りである神生オデッセフィアがそのままではどうなるか、それが分からない貴女ではないでしょう?」
「…新興国としてこのまま差を縮められれば良いものの、逆に良いように使われ、先進国に食い物にされる可能性もある、と?」
「ええ、それも十分に。無論それを如何に回避し、巧みに立ち回り、自国の利を確保出来るかどうかが女神たる貴女の腕の見せどころですが…残念ながら、『今』の貴女にそこまでの手腕があるとは思いません。少なくとも、強力な手札を複数確保しなければ危うい程度には」
「チュイル特務中佐!」
更に遠慮のない発言を口にするチュイル特務中佐、それを咎めるような一つの声。それ以上は許さない、許されない…声音にそんな響きを籠らせた、同じく艦橋にいたサクリスタン特務中佐の制止。
彼だけではない。今の発言…特に終盤の部分には、全員が厳しい目を向けていた。…それは、理解出来る。何せ軍人が、国の長たる私を侮辱したんだから。幾ら実力主義の軍でも実力があれば何でも許される訳じゃないし…国民や軍の中でも特に私やセイツへの信仰心、忠誠心が強い人の多い
「ありがとう、サクリスタン特務中佐。それに、君達皆の気持ちも伝わっている。君達の思い程信頼出来るものはそうそうない。その信仰は、私にとって尊く、美しく…守らなければならないものだ。だからチュイル特務中佐、この場でそのような発言をする事は控えてもらいたい」
「…それが、女神としての命令であるのなら」
「いいや、命令ではなくお願いだよ。そして…その上で言わせてもらおう。私もチュイル特務中佐に同感だ。神生オデッセフィアが四ヶ国に肩を並べる…いいや、追い付くだけでなく追い越す為には、私が一枚どころか二枚も三枚も他国の女神を上回らなければならないが、まだ私にそこまでの力はない。加えて、国と国の駆け引きにおいて悠長な考えなど出来ない以上、手札を増やす事…この次元を神生オデッセフィア単独で更に調査、研究し、アドバンテージを作る事が出来れば、それは大きな意味を持つ。故に、君達の思いは、『私』において間違いなく正しいが…同時にチュイル特務中佐の考えも、『神生オデッセフィアの未来』の為には間違っていない。だから…これだけは理解しておいてくれるかな、チュイル特務中佐。私は君達の、皆の安全の為に、本隊と協議しプランBを選択したが……何もただ手を引くつもりではない。チャンスは最大限に活かす、それが私の主義だ」
同感、理解、肯定…そして、私の意思。その全てを、全員に示す。私が決して安易に手放した訳ではないと、むしろまだ『先』を見ていると納得してくれたのか、チュイル特務中佐は満足気な表情を見せ…全く、と軽く呆れた様子の艦長や副長、サクリスタン特務中佐に向けて、私は軽く肩を竦める。そうして皆を見回した私は、こほんと一つ咳払い。
「重ねて言うが、私は君達を信頼している。だからこそ、君達も意見や主張があれば、それを口にしてほしい。それは、私にとって学びとなるかもしれない。自らの見落としに気付ける機会となるかもしれない。たとえ間違っていたとしても、短慮だったとしても、そこに私や国を思う気持ちがあったのであれば…私は女神として、嬉しく誇らしい。…別段、身構える事ではないよ。私への進言が出来る人材が、立場ではなくその心を持つ者達がここには集まっていると、私は知っているのだからね」
そう言って、私は笑みを浮かべる。そんな事を言われても、緊張するものは緊張するし、気にしてしまうものは気にしてしまう…多分、そう考えている人もいると思う。それならば、それでいい。いいというか、そう思われない、発言出来ると思ってもらえる女神に私がなるだけだから。そこを目指せば良いだけだから。それに、直接伝えるのではなく、部下から上司へ、上司から私へ…という形でも問題ない。組織である事を重んじてくれるのなら、それもまた大切な事だから。
そうしてオペレーション・フロンティア…『信次元』としての新天地への第一歩は、順風満帆とは言わない形となった。ベターではあるけど、ベストには遠い結果を迎える事となった。だけどこれで終わりじゃない。この次元の事も、これから先の実行も、まだまだ道は続いている。そこへ繋がる、その道へ進む為の貴重な始まりとなったのだから……この一歩目には、確かで大きな価値がある。
今回のパロディ解説
・〜〜身が引き締まる思い〜〜上を目指さないと
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONに登場するキャラの一人、V.Ⅷペイターの台詞の一つのパロディ。別にイリゼの上司が戦死した訳ではありません。そもそもイリゼは国のトップですし。
・どこぞの狂戦士
Fateシリーズに登場するキャラの一人、ヘラクレス(バーサーカー)の事。どこら辺が斧…?と言いたくなりますが、そもそもこれは神殿の一部であって、正式な武器ですらないんですよね。
・〜〜トリプルプラ〜〜
ファフナーシリーズに登場する用語の一つ、トリプルプランの事。こちらはパロディという訳ではないですが、信国連(しんこくれん)があって、三つの大きな作戦が…となれば、当然これをパロしたくなります。
・「〜〜のはいいでしょう〜〜まあいいでしょう。だが〜〜」
こちらもARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONに登場するキャラの一人、V.Ⅱスネイルの台詞の一つのパロディ。彼がスネイルのパロネタをやるのは、もう完全に意図的です、はい。
・「〜〜チャンスは最大限に〜〜私の主義だ」
ガンダムシリーズに登場するキャラの人は、シャア・アズナブル(キャスバル・レム・ダイクン)の名台詞の一つのパロディ。でも、状況を抜きにした台詞だけで見るなら、割と当たり前の事ですよね、これ。
突然の報告となりますが、次話より恒例(?)の合同コラボ第三回目となります。今回の参加は、OSにて行った合同コラボと同じ…即ち私がこれまでコラボしてきた全作品、具体的には、
・超次元ゲイム ネプテューヌG 蒼と紅の魔法姉妹-Grimoire Sisters-(橘 雪華さん作)
・並行世界の放浪者(フェルデルトさん作) ※1
・超次元ゲイムネプテューヌ とある青年のエクスペリエンス(S・TOMさん作)
・空次元ゲイムネプテューヌ〜月光の迷い人〜(ほのりんさん作)
・新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット(ジマリスさん作) ※2
・超次元ゲイム ネプテューヌ G.C2017 ラスト・ウォーズ(Skyjack02さん作)
・ガラルのワイルド散歩(愛月 花屋敷さん作)
・大人ピーシェが頑張る話。(エクソダスさん作)
・冥次元ゲイムネプテューヌ(ロザミアさん作)
・─計算の果てに何があるか─(ロザミアさん作)
・イリスちゃんは知りたい(ロザミアさん作)
・大人ピーシェ番外編 追憶のアサシン(ノイズシーザー(旧ノイズスピリッツ)さん作)
…のキャラ達が再び登場しますので、是非お楽しみに!今回もまたかなり長いストーリーになると思いますが、どうぞお付き合い下さいっ!
※1 シリーズ作品である為、現行の最新作の名前を挙げさせて頂きました
※2 こちらもシリーズ作品ですが、現行の最新作は現段階ではシリーズとの関係性が不明である為、こちらのタイトルを挙げさせて頂きました