超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

59 / 59
第十六話 国の中で、国の外で

 信次元において、わたしは神生オデッセフィアの女神の一人。イリゼと共に、国を守り、国民の皆の安寧の為に…更には信次元全体の為に力を尽くすのが、わたしの女神としての使命。わたしはそれに、そうして生きる事に、誇りを持っている。

 だけどわたしは、神次元の女神でもある。信次元と神次元、その両方の女神であるのがわたし。神次元においてわたしは国を守る女神ではないけど、神次元の住民も、わたしにとっては大切な人達。そして、そんな神次元においても……わたしには、使命がある。

 

「ふぅむ…やっぱり積極性はラステイションが頭一つ抜けてるというか、余念がないわね。逆にルウィーはきっちりこれまでやってきた事を続けてるし、リーンボックスは二国と比較してもらう事に重点を置いてるって感じな訳か……」

 

 神次元のプラネテューヌにある教会。そこでわたしはタブレット端末を使い、ある情報に目を通している。

 わたしが見ているのは、女神の皆に纏めてもらった自国の特色及びアピールポイント。じっくりゆっくり見て、情報を頭の中に叩き込んでいって……そうする中で、わたしのいる部屋にこの国の女神の一人が入ってきた。

 

「…せーつ、どう?」

「どう、っていうのは…プラネテューヌの情報の事?」

 

 呼び掛けられた事で、わたしは端末から顔を上げる。そうして、入ってきた相手に…ピーシェに軽く肩を竦める。

 

「中々よく纏められてるわ。自分の国、プラネテューヌの強みだったり好まれていたりする面をしっかり把握出来てると思うし…纏め方も、読む側の事を考えて作ってるのが分かるもの。ピーシェの事務能力、また向上したんじゃない?」

「そ、そう?…まあ、それなら良いんだけど……」

 

 素っ気ない感じで横を向くピーシェ。けどわたしは、ピーシェの頬がちょっぴり緩んでいる事を見逃していない。全くもう…ほんと、ピーシェは素直じゃないんだから。

 

「…でも、やっぱり他国に比べるとアピールが控えめというか、遠慮してる感じがあるわね。プラネテューヌの事だけを伝えるならこれでも問題ないでしょうけど、他国と比較される事まで踏まえるなら、もっとこういう分野はプラネテューヌが抜きん出ている、これだけの実績がプラネテューヌにはある、プラネテューヌではこんな事も実現出来る…って感じに推してくれなきゃ、中々選んでもらえないわよ?」

「あ…うん。…遠慮してるつもりはなかったんだけど…せーつがそう言うなら、そうなんだろうね」

「そうよ。…ピーシェ、自分はまだプルルートや他の女神の皆より未熟だ、って思ってるでしょ。多分それが、『女神として』情報を纏める中で影響しちゃってるんだと思うわ」

 

 きっとこういう事なんだろう、というわたしの言葉に、ピーシェは何も言わない。言わないって事は、自覚が…思い当たる部分がある、って事だと思う。

 

「…それで、良いと思うわ。自分の未熟さを理解しているのなら、そこから成長出来る筈だもの。それに実際、経歴はピーシェが一番浅いんだからね。だから何も恥じる事はないし…むしろよくプルルートを支えてると思うわよ」

「……ありがと、せーつ。…偶には良い事言うじゃん」

「でしょ?…って、ちょっと?偶には、は余計じゃないかしら?」

「え、偶にしか良い事言わないのは事実だし…」

「そういうところは相変わらず遠慮ないわね……」

 

 この子はほんと……と思いながらも、わたしは少しだけ笑う。素直じゃないところ、ちょっと捻くれてるところ、でもほんとは実直なところ…そういうの全部ひっくるめて、ピーシェだと思うから。それがピーシェだと知っているから。

 

「にしてもほんと、まだ改善の余地はあるとはいえ、よく纏められてるわ。…プルルートに纏めてもらってた時の事を思えば、一体どれだけ情報としての質が向上した事か……」

「それは、まぁ…苦労してたよね、ほんと……」

 

 過去の事を思い出し、わたしは肩を落とす。これにはピーシェも同情してくれる。

 日々、ピーシェは頑張ってくれているようだけど、ここプラネテューヌの守護女神はあくまでプルルート。そして当然、アピールポイントを纏めるのも最初はプルルートに頼んでいたんだけども……ここから先は、説明しなくても分かってくれるわよね…。

 

「…さて、と。事前の確認は出来たし、明日からは実際に回って、そのまま行ってくるとするわ。だから少しの間不在にするけど、大丈夫?その前に頼みたい事とかある?」

「じゃあ、焼きそばパン買ってきて」

「わたしをパシリに使おうとするんじゃないっての。そんな事言うと、ホットドック寿司とか買ってくるわよ」

「ふざけたぴぃが言うのもあれだけど、何その突っ込み……せーつって、ボケたいのか突っ込みたいのかよく分からない事あるよね。いりぜはいつでも突っ込みたいみたいだけど」

「ふふん、イリゼといえば突っ込みだもの」

「別に褒めてる訳じゃないんだけど……」

「なんですって!?」

「怒るところでもないと思うんだけどなぁ…!」

 

 ちょっと語気強めに突っ込んでくれるピーシェの反応に、わたしはくすくすと笑う。結構ピーシェも突っ込み気質というか、捻くれてるのは表面だけでほんと素直よね、とも言おうとしたけど…流石にそれを言ったら本格的に怒りそうだから、止めておいた。

 

「全くもう…。…まあ、頼みたい事っていうか、あんまり何日も戻って来ないと、折角セイツちゃんが来たのに〜ってぷるるとがぴぃに不満漏らして来そうだから、寄り道はせずに行ってきてほしい…かな」

「ふふ、確かにプルルートならやりそうね。…でもそうは言いつつ、ほんとはピーシェも早く戻ってきてほしいんでしょ?」

「え、全然」

「ちょっ、酷くない!?全く感情を揺らす事なく返すのは流石にちょっとショックがデカいんだけど!?」

「自業自得だよ、自業自得♪」

「ぐっふ……」

 

 冗談抜きに全く感情の揺れを感じられなかった…本当にどうでも良いと思ってるレベルの反応を返された事で、わたしは心にダメージを負う。そして普段ピーシェを弄るわたしへお返しが出来たからか、ピーシェは機嫌が良くなり……わたしは胸を押さえた。凪の様なピーシェの精神状態から、一気に嬉しいという感情が溢れ出していた事で。ふ、ふふっ…ピーシェ、貴女はわたしにしてやった、と思ってるのかもしれないけど…わたしはむしろ、サプライズで喜ばせてもらった気分よ……。

 

「…まあ、頑張ってせーつ。せーつのやってる事は、凄いと思うし…それで道が開けた、一歩踏み出せたって人も、沢山いると思うから」

「……えぇ、ありがとうピーシェ。貴女や他の皆が纏めた情報は、ちゃんと活かすわ」

 

 そうしてピーシェは部屋を出ていき、わたしも明日からの動きの予定を確認して、休む事にした。翌日はプルルートやピーシェ、イストワールと一緒に朝食を食べて、それから出発した。プラネテューヌを皮切りに、四ヶ国を順に回っていった。

 一体何の為に、わたしは各国のアピールポイントを纏めてもらったのか。…それは、わたしの使命を果たす為。四ヶ国のどこにも属さず生きる人に、女神の守護や国という組織の恩恵を受けられずに生きている人達に、国の良さを伝える為。当然その為には、イメージや印象ではない、はっきりとした最新の情報が必要で…その上で、データだけじゃ分からないものもあるから、実際に見て回って、肌で感じて、伝えられるようにする。

 これこそが、今の神次元におけるわたしの使命。こっちに戻ってくる度に、欠かさず行っている…神次元が信次元との繋がりを持つ前から、続けてやっている事。

 

 

 

 

「よ、っと」

 

 ゆっくりとした降下軌道を取り、高高度から低空域にまで降りる。そこからぐるりと、見回しながら回っていく。

 今、わたしがいるのはどこの国にも属していない、四ヶ国のどこからも離れた地域。四ヶ国を見て回ったわたしは準備を整え…今日、ここへと訪れた。

 

(モンスターの気配や痕跡はない。自然環境も悪くないし…一先ず、差し迫った危険がある場所とかではなさそうね)

 

 最初からこの地域の住民に接触するんじゃなく、まずは軽く回って、環境を知る。初めは生活環境の外から、その生活環境がどんな場所に置かれているのかを把握し……その上で、降りる。女神化も解き、村の様になっている場所へ足を踏み入れる。

 

「こんにちは」

「うん?あぁ、こんにちは」

 

 少し歩いたところで、第一村人発見!…ではないけれど、とにかく人を見つけたわたしは、声を掛けてみる。すると、普通の反応が返ってきて…今ので、ここに外部の人間が(わたしは女神だけど)訪れるのはそこまで珍しい事じゃない、っていうのが分かった。

 けどまあ、それは予想していた事。この地域には、村がそこそこの距離で点々としているから、四ヶ国からは離れていても、そこでの交流があるだろうと考えていた。…結構慎重に事を進めている?それはそうよ。わたしは観光に来た訳じゃないんだから。

 

(さて、次は…あのお店なんかが良さそうかしら)

 

 暫く村の中を歩き、道沿いのお店の人を中心に話し掛ける事でここの雰囲気を把握していったわたしは、敷地の広そうな飲食店へと入る。そこでまずは食事を摂って、食べ終わってから店主へと声を掛けた。…あ、シェフを呼んでくれ、的なアレじゃないわよ?

 

「お客様、どうかしましたか?」

「チーズドリア、凄く美味しかったわ。勿論、苺パフェもね」

「ありがとうございます。パフェの苺は、有名な農家から仕入れているんですよ」

「へぇ、そうなのね。…こほん。でも、話したいのはその事じゃないの。単刀直入に言うけど…ここの外で、路上ライブをさせてもらえないかしら」

 

 敷地の中で歌わせてほしい。そうわたしが伝えると、店主は目を丸くする。でも、それも当然の事。いきなりこんな事を言われたら、驚くし困惑するに決まってる。

 

「何かトラブルがあったら、責任は全部わたしが持つわ。場所を使わせてもらうって事で、お礼もするつもりよ。突然の話で困らせちゃってるとは思うけど…させてもらえると、嬉しいわ」

「は、はぁ…あの、こういう訊き方をするのは失礼かもしれませんが、お客様はアマチュアのシンガーか何かで……?」

「まあ、そう思うわよね。…こほん。こういう事よ」

 

 これまた当然の問いを投げ掛けられた事で、わたしは店内を確認。そこまで人数が多くはない事、こっちを注目しているしている人もいない事を確かめて……その上で、女神化。レジストハートとしての姿を見てもらって、それからすぐに女神化解除。

 

「分かってもらえたかしら?」

「あ……は、はい。貴女が女神である事は、分かりましたが……」

「なんで女神がこんな事を、って話よね?実はちょっと、この地域に住む人達と色々話をしたいの。だから、歌って注目を集めようって事よ。…改めて、どう?」

「…まあ、そういう事であれば……」

 

 まだ少し釈然とはしないけど…という様子を見せつつも、店主は了承してくれる。許可を得られたわたしは感謝を伝え、お会計を済ませて外に出る。多分、他のお客は誰もわたしが女神化するのを見ていなかった…って事はないだろうし、外に向かう最中で視線も感じたけど、それ以上の事はなかった。

 四ヶ国の外、女神の守護する領域に属さない場所での反応なんて、こんなもの。女神の存在が根付いている場所では特別視される女神も、こういう場所では『遠くの地域に存在する国の長。何か凄いらしい』位の認識だったとしても不思議じゃない。それどころか、女神の存在や統治が嫌いで各国から距離を取っている人もいたりはする訳だから、普通に接してくれただけでも良かったというもの。

 

「ふー…。…それじゃ、始めようかしらね」

 

 携帯端末と持ってきたスピーカーを置いて、曲を準備。始める前に軽く発生練習をして、喉の状態を確認する。そして、数度深呼吸し、曲を再生させ……路上ライブをスタート。

 

「〜♪〜〜♪」

 

 選んだのは、わたしが信次元での女神のライブを行う際にも歌った事がある、自分の曲。アップテンポの、明るくてちょっと激しさもある歌。路上ライブを始めた直後は、通行人から驚愕と奇異の視線を向けられ……でも少しずつ、ちょっとずつだけど聴いてくれる人も現れ始める。

 

(ふふ、我ながら良い方法を思い付いたわよね)

 

 歌う事で人を、注目を集める。この方法は、信次元てライブ活動をするようになってから思い付き、始めたもの。それ以前はもっと地道にやっていたから、当然効率もよくなかった。大事なのは効率よく回す事じゃなくて、一人一人に国の魅力を伝える事だけど…効率が悪ければ、求めていた人に紹介をする事が出来なくなるかもしれない。だから確率が大事なんじゃなくて、効率『も』大事。

 

「……ふぅ。皆、聴いてくれてありがとう!皆が聴いてくれたおかげで、気持ち良く歌えたわ!」

 

 手始めに一曲、続けてもう一曲歌ったところで、わたしは見物していた皆へと呼び掛ける。ここまでは好調。でも重要なのは…ここから。

 

「でも…ごめんなさい、皆。こうして歌を聴いてもらうのは好きだけど、わたしの目的は別にあるの。…わたしはレジストハート、女神の一人よ。今日は皆に、国の良さを伝えたくてここに来たの。突然何?って思うかもしれないけど…この後場所を変えて話せるようにするから、もし相談をしたい、話だけでも聞いてみたいって人は、来てくれると嬉しいわ。…という訳で、お知らせは終了よ!もう何曲か歌うつもりだから、良かったら聴いていって頂戴!」

 

 伝えるべき事を伝えて、わたしは歌に戻る。今集まっているのは、あくまで歌に興味を持ってくれた人達だから、ここで早速相談を…っていうのは違うし、内容が内容だから、相談をしたのを周りに知られたくない…って人の配慮の為にも、この場で行うつもりはない。それに、女神の統治に好意的ではない人がいる可能性も踏まえて、わたしはこういう形を取った。

 という訳で、ダンスも交えつつわたしは歌う。路上ライブの目的は人目を集める事だけど、たとえ今回相談に繋がらなかったとしても、この路上ライブが皆の頭の片隅に、記憶の端っこにでも残っていてくれれば、今の生活やこれからの暮らしに迷いを感じた時、思い出してくれるかもしれない。そこから、国の中で住む事を選択肢に入れてくれるかもしれない。だから、わたしが皆の記憶に残るような路上ライブが出来れば…それだけで、意義が生まれる。

 

(それに…楽しいのよね。こういう、勢い重視のライブっていうのも)

 

 そうしてわたしは宣言の通り、更に数曲歌い、ありがたい事にアンコールもあったからおまけでもう一曲歌って、路上ライブを終了した。最後にもう一度相談を受けるって事と、その場所…それに、ここは良いお店だから是非寄ってみてほしいって事も言って、一度お店の中に戻る。店主に感謝を伝えて、お礼を…と思ったけど、そこまではしなくていいとの事。それどころか、路上ライブを聴いていてくれたみたいで、今の時間帯は元からお客もあまり入らないから、店内の奥を使って相談を受けてくれてもいいとまで言ってくれた。

 多分これは、上手くいけば今の時間帯でも利益を上げられるという狙いもあっての事。だとしてもありがたい話だし、受けない理由はない……って、あ。

 

「み、皆ごめんね!相談場所変更よっ!」

 

 慌ててお店を出たわたしは、解散していく人だかりへとダッシュで近付き店内で相談を受ける事になったと伝える。あ、あっぶなぁ…あのままのんびり動いてたら、場所変更を伝えられなかった可能性があるわ……。

 

「さてと。場所も貸してくれた訳だし、一人位は来てほしいものだけど……」

 

 完全な自画自賛だけど、わたしはわたしに自信がある。だからこそ、相談者ゼロ人になったら流石に辛い…なんて思っていたけども、早速一人来てくれた事で、わたしの不安は杞憂に終わった。

 

「あ、あの。宜しくお願いします」

「来てくれてありがとう。…貴女は…確か、きょろきょろしながら少しずつ前に来てくれた子よね?」

「うっ…み、見てたんですね……」

「見てたというか、わたしの視点からはそこそこ目立っていたのよ」

 

 恥ずかしそうにする最初の相談者、大人一歩手前の女の子へとわたしは肩を竦める。相談の前に、支払いはわたし持ちで飲み物を注文してもらって…そこから本題へ。

 

「それじゃあ紹介を…といきたいところだけど、四ヶ国の説明を最初に聞いても頭に入ってこないでしょ?だから、どうして話をしに来てくれたのか、どういう思いがあるのか…それを聞かせてもらえる?」

「え、っと…それは、その…すみません。私も、そんなはっきりとした思いがある訳じゃなくて……」

「そうなの?なら、今の生活に不満があるの?それか逆に、違う生活に対する期待があったり?」

「あ…はい、そうです。私、生まれも育ちもここで、ここも悪いところじゃないと思いますけど…このままここで、大人になってからもずっと過ごすのかなって思うと……」

 

 おずおずと女の子が語るのは、漠然とした思い。期待と不安、興味と好奇心、そういう感情がまぜこぜになった、正に成長中の女の子って感じの思いで……くぅっ、良い!良いわこれ!こういう初々しい感情って、わたしの周りで見せてくれる人があんまりいないから、なんかもうすっごく楽しい!

…けど、漠然としたものであっても、彼女は悩んで、わたしを頼りにしてくれた訳で…それには真剣に応えなくちゃいけない。そしてこの子の今の思いからして、まだはっきりとした移住まで考えている訳でもないのなら……うん。

 

「だったら、まずは旅行をしてみるのはどう?勿論、旅行で訪れるのと、実際に移住して生活するのとでは色々違うものだけど、外に目を向けた先の一歩目として、とにかく一度行ってみるのは悪くない筈よ」

「ですよね…でも、旅行っていってもどこに行ったらいいのか分からないっていうか……」

「分かっているわ。だから、旅行の観点で紹介をさせてもらうけど…ここと比較的近い雰囲気の国といったら、リーンボックスね。次に近いのがプラネテューヌで、逆にラステイションとルウィーは雰囲気としては離れているわ。ただ、観光の面はルウィーが強いし…んー、貴女趣味とか学問で興味のあるものとかある?或いは、旅行するならどこに行きたい?」

 

 質問を混ぜながら、運ばれてきた飲み物に口も付けながら、少しずつわたしは紹介をしていく。彼女に明確な目的、目標はないと分かっているからこそ、わたしが主体になって、聞き出すような形を取る。

 旅行となると、わたしの狙いとは少し外れる。だけど、別に良い。誰にとっても住み慣れた場所を離れるのはハードルが高いものだし、まだ自分の望みもはっきりしていない子に、言葉巧みに誘導して移住を決めさせるなんて、そんなの女神のする事じゃない。それに…わたしの願いは、より多くの人が楽しく、幸せに暮らせる事。国の紹介はあくまでその手段に過ぎないんだから、たとえ移住に繋がらず、旅行で終わったとしても、そこにこの子の満足があるならそれで良い。

 

「…ふぅ。旅行に関しては、こんな感じかしらね。もっと細かく話してほしいって事なら、まだ話すけど…どう?」

「い、いえ、大丈夫です。それぞれどんな風土の国で、どんな見どころがあるかはよく分かりましたし…なんていうか、自分の中で目標が決まった気がします。今までは、何となく国って良いものなんだろうなぁって思っていたものが、自分で直接見に行って、感じてからもっとちゃんと考えるようって思えるようになった……みたいな」

「それなら良かったわ。…でも、真剣に旅行を考えてくれるのなら、旅行先の事だけじゃなくて、費用や道中の事もよく考えてね?特に道中に関しては、安直に決めちゃ駄目。理由は…分かるわね?」

 

 こくり、と女の子は頷く。ここ周辺はモンスターも出ないみたいだし、普通に生活する分には意識しないのかもしれないけど、ここと四ヶ国とはかなり離れている。話をしてみた限り、身体能力や戦闘能力に自信がある訳でもないみたいだから、そんな彼女が安易に向かおうとすればどうなるかなんて…考えるまでもない。

 ただ、ここと各国との交流がある事自体は分かっている。そもそも今回ここに来たのも、調べる中で交流があると分かったからで…彼女がちゃんと計画を立て、用意をすれば、安全に旅行する事も出来る筈。

 

「じゃあ、最後にもう一つ。ここまで国の魅力を話してきたけど、国に、違う場所に移住したからって、それだけで素敵な毎日が送れるようになる訳じゃないわ。環境は確かに変わるけど、そこで充実した生活を送れるかどうかは貴女次第。逆に言えば、移住する事なくここで大人になったとしても、そこに貴女の幸せはあるかもしれない。だから…ちょっとずつでも良いから、自分の好きなもの、本当に譲りたくないと思うものを、探して頂戴」

「わ、分かりました。今日は、ありがとうございますっ」

「えぇ。わたしはこうして出る事も多いし、プラネテューヌに来てくれても会えるかどうか分からないけど、もし見かけたら…また話しましょ?」

 

 そうしてわたしと女の子との話は終わった。実際彼女の心にどの程度わたしの言葉が響いたのか、実際に何かの行動を起こしてくれるのかは分からないけど…彼女の人生は、彼女の人生。この子が納得の出来る選択を出来たのなら、それで良い。

 

「こほん。それじゃ、次の人は……」

 

 一つだけ深呼吸をし、飲み物を飲んで、次の人を呼びにいく。その人とも話をして、更に次の人を…と進めていく。

 ありがたい事に、ここでは思った以上の人が相談に来てくれた。相手の為、相談しに来てくれた人の為って思いは本物だけど、わたしの求心力を確かめられた…っていうのも嬉しい。だから、わたしは相談を受けた側、情報を提供した側だけど、なんだか満足感があった。

 

「今日は本当にお世話になったわ。もし持ち帰りの出来る料理があったら、何品か注文したいんだけど、あるかしら?」

「ありがとうございます。では、こちらのメニューから選んでもらえますか?」

 

 お礼は受け取らないけれど、注文という形であるならありがたく受け入れるという、感じの良いさっぱりさがある店主の人に持ち帰りの品をお願いして、わたしはのんびりと待つ。出来たところで受け取り、それを持って店を出る。

 

「さってと、食事は確保出来たし次は宿ね。んーと……」

 

 調べたり、人に聞いたりする事なく、歩きながら泊まれる場所を探す。こうして四ヶ国から遠く離れた場所に来るのももう幾度となくやっているから、初めて来た場所でも、泊まれる施設がどこにあるかは何となく分かる……気がする。多分。

…あ、フリじゃないわよ?残念ながら空きのある宿泊施設はどこも見つかりませんでしたからの野宿…なんて展開も、そんなわたしを不憫に思った優しい人が家に泊めてくれたみたいな話も特にないからね?もう食事は持ち帰りで確保してあるから、宿より食事を優先した結果、道端をキャンプ地とするなんて事にもならないからね?

 と、いう訳で無事に泊まれる場所を見つけ、チェックインしたわたしは、のんびり食事をして、お風呂にも入って、暫くだらだらした後その日は眠るのだった。

 

 

 

 当たり前だけど、都会程インフラは整備されているし、人工物が溢れる街並みというのも、進んだ人の文明を感じられてわたしは良いものだと思う。

 でも、都会の空気感があるように、自然を感じるからこその空気感というものもある。そしてそれは、多くの人が活動する時間より、朝早くの方がより感じられる。だからわたしは、早めに起き、早朝の散歩に繰り出す。

 

「やっぱりこう…あれよね。この何となく、ひんやり濡れたような空気感って良いわよね」

 

 うんうんと頷きながらわたしは歩く。まだ早い時間帯だから殆どのお店が空いていないし、通行人もほぼいない。これを寂しいと感じるか、この環境を独り占めと感じるかはその人次第。…まあ、本当に独り占めって事はないんだけど。

 

(…思い出すわね。勿論昔は、もっともっと未発達だったけども)

 

 ふと頭に浮かぶのは、わたしが長い眠りに就く前の事。キセイジョウ・レイを皆と共に打倒し、在るべき人の未来を切り拓いた時代の事。遥か昔の事だから、当然文明のレベルは全然違う訳だけど……あの頃もまた、人の心には光があった。それぞれの輝きを抱いていた。

 人の心の煌めきに、時代や文明は関係ない。いつだろうと、どこだろうと、心には美しいものがあって、だから本当にわたしは、ここに住む人達がこれからもここで生きていく事を否定しようとは思わない。危険だったり明らかに劣悪だったりする環境なら別だけど、そうでないなら無理に移住する必要もないんだから。

 そういう意味じゃ、わたしは国への移住を進める為に出向いていると言うより、国の外で生きる人達の幸せを確かめる為に出向いてると言うべきかもしれない。…と、歩きながら自分の行いを振り返っていた時だった。

 

「…うん?あれは……」

 

 ふと視界の端に映ったのは、何らかの飛翔体。一瞬だけだったから菅間はよく見えなかったけど、モンスターではなかったと思う。

 とはいえ万が一という事もあるし、単純に何だったのか気になるという事もある。だからわたしは見えた方向へと走り、角を曲がり……

 

「ぬわっ!?貴様、いきなり飛び出してくるな!」

「あ、ごめんなさい……って、マジェコンヌ?」

「…何だ、お前か……」

 

 姿形は人のそれ、だけど纏う雰囲気は別物。角を曲がった先で遭遇したのは、あまりにも意外な人物だった。

 

「何だとはご挨拶ね。でも貴女の驚く感情が見られたのは普通に嬉しかったわ、ありがとう」

「気持ち悪い切り替えの速さだな……」

「切り替えてるんじゃなくて、普通にどっちも思っていたってだけの話よ。……で、貴女はどうしてここに?(というか、ここって……)」

 

 軽く肩を竦めた後に、わたしは問う。今でもマジェコンヌはわたし達女神を敵視してるし、一瞬女神の目の届き辛い場所で何か企んでるんじゃ…とも思ったけど、それにしては冷静というか、女神であるわたしを見てもいきなり出てきた事以外では特に動揺している様子もない。

 なら、何の目的でここにいるのか。それを考えると共に、わたしはここが昨日訪れたお店のすぐ側である事にも気付く。しかも丁度そのタイミングで店主が、お店の隣にある家から出てきて……

 

「おはようございます、マジェコンヌさん。前回頂いた苺、大盛況でした」

「ふっ、当然だ。あの苺は、より甘いものと合わせる前提で調整を重ねたのだからな。無論、今後も使うのだろう?」

「えぇ、是非とも宜しくお願いします。…っと、貴女は……」

「…ええ、っと……え、何!?つまり、有名な農家ってマジェコンヌの事だったの!?」

 

 一日越しに明かされる、衝撃の事実。なんとマジェコンヌの名前は、この地域にまで知れ渡っていた。四ヶ国から遠く離れた場所でも、マジェコンヌの農園は需要があった。

 

「貴女、何でこんなところにまで販路を拡大してるのよ…どこへ向かおうとしている訳……?」

「当然、全ての女神を我が手で捩じ伏せる未来だが?」

「言ってる事とやってる事が違い過ぎる…。……野望を抱くのは自由だけど、ここで襲ってこようとはしないで頂戴。ここは人が暮らしてる場所なんだから」

「抜かせ。この地域は土壌が良く、特に根菜系に向いた場所が多いのだ。ならば、このような場所を荒らす訳がないだろう?」

「…………」

 

 本当に、マジェコンヌの思考は一体どうなっているのか。どうしたら、女神への敵意と農業への熱が当たり前のように共存出来るのか。わたしにはそれが分からない。多分、誰にも分からない。

 

「…まぁ、うん…その気がないなら良かったわ」

「命拾いをしたな。さて……」

「…えっ、待って。今度はわたしが貴女から、どうしてここにいるのか訊かれる流れじゃないの?」

「知るか。貴様の事情などどうでもいい」

「んもう、乗りが悪いわね…。わたしは国で生きる道もある事を紹介しにきたのよ」

「訊いてないんだが?」

「えぇ、知ってるわ」

 

 突っ込み…というかシンプルに突っ撥ねるような反応を返してくるマジェコンヌに、わたしも調子を崩さず答える。するとマジェコンヌは数秒黙り…鼻を鳴らす。

 

「ふん。盗人猛々しいものだな」

「盗人?突然何よ」

「貴様の行いだ。元来この神次元に、女神などという存在はいなかった。女神という存在も、その概念もなく、人は生きていた。にも関わらず、後から生まれた女神が国という形で人を管理し、あまつさえそれがより良い事であるかのように振る舞う…全く、高慢にも程がある」

 

 不愉快そうに、けれど冷静さの感じる声音で語るマジェコンヌ。予想外の言葉にわたしは面食らい…けれどすぐに、首を横に振る。

 

「…それは違うわ、マジェコンヌ。わたしは、わたし達女神は、人を管理なんてしていない。勿論国の制度上、或いは組織としての運営をする上でルールを敷いたり、義務や制限を発生させなきゃいけなかったりする面はあるけれど、それは女神関係なく、人と人が共に生きる上で必要なものよ。貴女の育てている作物だって、同じ場所へ考えなしにやたらめったら植えたらちゃんと育たないでしょう?」

「理解が浅いな。私は農作物を管理しているぞ?より多く、より効率良く、より高品質に育てる事が出来るよう、徹底的に管理している。そして私は、それが正しい事だと考えている。…正しい、という言葉を使うのは些か癪だがな」

 

 言い返してから、それが悪手だったとわたしは理解する。マジェコンヌと同じという事は、わたし達女神も人を管理しているという事。…ものは言いよう、管理って言葉もどう捉えるか次第、と言えばそれまでだけど……やっぱりわたしは、管理という言葉を使いたくない。だって女神は、人と共に歩む存在なんだから。

 

「…貴女は、人が人の力だけで立てると言いたいの?なら、もしかして…マジェコンヌがわたし達を敵視するのは、ある意味わたし達と同じように人の力を信じて──」

「下らない事を言うな。私の望みは、私の為のものだ。他者などどうでもいい、他者など何の意味もない」

「…そうね。今のはわたしが間違っていたわ。だけどやっぱり、わたし達女神は人を管理なんてしてないわ。それに今だって、国の中で暮らす事がより良いって伝えてる訳じゃない。今の生活の方に価値を感じるなら、それも素敵な事だってわたしは思うもの」

「だが、貴様はわざわざここまで出向いているのだろう?その根底にあるのは、総合的に見れば国の方が良い、女神の庇護の下生活する方が良いという考えではないのか?そうではないと、貴様は否定出来るか?」

「…それは……」

 

 否定は、出来なかった。良し悪しは別にしても、そういう考えが根底にある、あるのかもしれないという言葉を、完全否定なんてしようがなかった。

 マジェコンヌは、何も間違った事は言っていない。女神が生まれる前の神次元は果たして豊かだったのか、多くの人の望みの結晶とも言える女神メモリーが存在して、それが人を女神にする以上、本当に女神か不要なのかとか、反論する糸口は色々あるけど…マジェコンヌは事実を述べている以上、それは覆らない。だから、マジェコンヌの指摘は…正しいというより、上手い。

 自分の中にあった、自分自身でも気付かなかった視点。それを突き付けられて、わたしは暫し言葉を返せなかった。黙るしかなかった。……でも。

 

「…一理あるわ。マジェコンヌ、貴女の言っている事は…一つの真実を、捉えているんじゃないかと思う」

「ほぅ?」

「──だけど、わたしに相談をしてくれた人は、最後にありがとうって言ってくれたわ。わたしが話した人は皆、真剣に話をしてくれて、わたしの言葉を聞いてくれて…その上で、それぞれに考えてくれていたわ。だからわたしは、話した事が、そのやり取りが、ほんの少しでも皆の心に残ってくれたと思ってる。そして、ほんのちょっぴりでも皆の心に響くものがあったのなら…価値があったと、わたしは信じてる」

 

 昨日わたしは、わたしに相談しに来てくれた人を何人も見てきた。面と向かって、話をした。マジェコンヌの語った言葉も、一つの事実ではあるけど…わたしが見てきたもの、感じたものも、確かな事実。

 そして、何より大事なのは、わたしの主張でも、マジェコンヌの主張でもない。一番大事なのは、わたしの話を聞いてくれた人や、国で生きる人達の思い。それは絶対に、忘れちゃいけない。

 

「…甘く緩い見方だな」

「好きな相手に優しくするのは普通の事でしょう?」

「不特定多数の人間を対象に、よくそんな事が言えるものだ。だがまあ、いい」

「え?…ひょっとして、わたしの言葉も少しは認めて……」

「私はまだこれからやらねばならん事があるのだ。農作物において朝は貴重且つ重要な時間。その朝の時間をこれ以上女神になど使ってはいられん」

「あ、うん、それは悪い事をしたわね……」

 

 物凄く真面目なトーンで返されたわたしは、こくりと頷きそのまま見送る。…ほんと、農作物に対して真摯よね、マジェコンヌって…。

 

(…だけど本当に、マジェコンヌの言う事は一理あるわ。…まさかこんな形で、考えさせられるなんて……)

 

 内容も、それを言ってきた相手も、色々と意外過ぎた。ここで会ったのも含めると、物凄くレアな経験なんじゃないかと思う。…と、ちょっと冗談めかして言ってみたけど…実際、わたしはそういう事も考えなきゃいけない。そのつもりはなくても、無意識の内に持っている視点…それは確かに、あるんだから。

 

「……よし」

 

 少しだけ、その場でわたしは考える。一人静かに施行して、頭の中を整理して…宿泊施設へと戻る。朝食を食べて、準備を整えて、行動を開始する。

 それからわたしは、二日目三日目と、同じような活動を続けた。場所を変えながら、多くの人と話していった。時には快い訳ではない反応をされる事もあったけど、それでも沢山の情報を、沢山の人に届ける事が出来た。そして、その結果がどうなっていくかは……今はまだ、分からない。

 

 

 

 

 予定していた場所を全て回り終えて、わたしはプラネテューヌへと戻った。当たり前だけど、回った地域の全ての人に声を掛けられた訳じゃない。流石にそれは無理ってもの。だけど幸い、今のわたしにはまだまだ沢山の時間がある。だから無茶な事はせず、教会へと帰ってきた。

 

「お帰り〜、セイツちゃん」

「ただいま、プルルート。お土産買ってきたから、皆で食べましょ?」

「ほんと〜?わーい!」

 

 いつも通りの緩い調子なプルルートと共に、教会の中を歩く。こうして「お帰り」と言ってもらえると、ここもわたしにとっては帰る場所、帰れる場所なんだって実感する。

 

「それで〜、今回はどんな感じだったの〜?上手くお勧め出来た〜?」

「んー、そうねぇ……」

 

 紹介する国の中にはプラネテューヌも入っている、という事を忘れているんじゃないかと思う程のんびりした雰囲気で訊いてくるプルルート。その事に内心でちょっと呆れつつも、わたしは今回の事を振り返る。回った場所、そこで出会い、話した事、更にはマジェコンヌとのやり取りも、一つ一つ思い出していって……それから、言う。

 

「色々あったし、百点満点だったかどうかは分からないけど……今回も、凄く有意義だったわ」

 

 そう。マジェコンヌの件なんかは顕著だけど、そうでないところでも、一つ一つのやり取りでも、わたしには得られるものや、学べるところがあった。それは今回に限った事じゃなくて、毎回何かしらわたしは得ている。今でもわたしは、女神として成長出来ている気がする。だから、わたしにとってこの活動は、女神含む皆の為だけじゃなく、わたし自身の為でもあるし……だからこそ、これからも続けていきたい。




今回のパロディ解説

・「〜〜ホットドック寿司〜〜」
MOTHER3に登場するアイテムの一つの事。でも現実には寿司ドッグというものが本当にあるんですよね。事実は小説よりも奇なり、とはよく言ったものです。…小説じゃなくてゲームですが。

・〜〜第一村人発見〜〜
一億人の大質問⁉︎笑ってコラえて!におけるコーナーの一つ、日本列島ダーツの旅の代名詞的な台詞の一つのパロディ。でもセイツはこんな感じに定期的に神次元を回ってるのである意味旅的な感じです。

・〜〜宿より食事を〜〜キャンプ地とする〜〜
水曜どうでしょうにおける代名詞的な台詞の一つのパロディ。このパロネタは、前にコラボの中で使いましたね。どの場面だったか、結構しっかり覚えています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。