超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

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第十八話 天の星と共に

 俺はくろめと、二人きりで出掛けた。この表現をするのは、少しだけ気恥ずかしいものがあるが…それは紛れもない、くろめとのデートだった。振り返るまでもなく、考える必要もなく、くろめとのデートは楽しかった。くろめとそういう事が出来た…そう思うと、感慨深さすらあった。

 だがまだ、終わりじゃない。くろめとのデートは俺にとって掛け替えのない新たな思い出になったが…俺が心から大切だと思う相手は、くろめだけじゃない。だから、俺のデートは……まだ、終わっていない。

 

「前日と、違う相手と、デートする…うん、なんか不誠実っぽい一句が出来てしまった……」

 

 一人呟きながら、プラネタワーの廊下を歩く。俺としては、不誠実な想いなんてない…むしろうずめにもくろめにも、自分の心にも…何より『うずめ』へと誠実でありたいからこそ、今の関係を選んでいる訳だが、それはそれとして二日連続デート、それもそれぞれ別の相手っていうのは、凄く常識外れな気がする。

 ただ、この気持ちは引き摺らない。引き摺る訳にはいかない。そんな雑念なんて置いといて、純粋な気持ちで今日一日を過ごしたいから。だから俺は、スイッチを切り替えるように深呼吸をし……リビングに当たる部屋へと入る。

 

「うずめ…っと、いた。悪い、遅くなっちまったか?」

「……!い、いや、大丈夫だ!俺も、たった今来たところだからな!」

 

 座るでも楽な姿勢を取っているでもなく、部屋の中をうろうろとしていたうずめ。そのうずめに声を掛けると、うずめはばっと振り向き、いきなり高めのテンションを見せてくる。…いや、たった今来たところなら、俺は廊下でうずめの姿を見ている筈なんだが…とは、言わなかった。何せ、うずめが俺への気遣いからそう言ってくれた…ってより、シンプルにテンパってるのが一目瞭然だったから。

 

「…えーっと…一応訊くが、大丈夫か?一回ちょっと、落ち着く時間取ってもいいぞ?」

「な、何言ってんだウィード!そんな事はいいから、さっさと俺達の戦争を始めようぜ?」

「うん、そこはちゃんとデートってルビを振ろうな。それだとただの宣戦布告だからな?」

 

 やっぱりテンパっているうずめを、取り敢えず俺は落ち着かせにかかる。…まあ、正直気持ちは分かる。昨日俺は、くろめと会うまで結構緊張してたし、今日だって決して平常心ではなかった。ただ、俺は勿論、くろめもこんな動揺した姿は見せていなかった訳で……もしかするとこれは、記憶の有無が関係しているのかもしれない。思い返せば、デートって形ではないものの、俺と『うずめ』は過去にも二人で出掛ける…なんて事があった。けど、その記憶をうずめは持っていない。だからこそ、俺やくろめ以上に緊張しているのかも…そう思うと、なんだか可愛く見えてきた。

 

「うずめー、深呼吸だ深呼吸。吸ってー、吐いてー」

「すぅ…はぁ……」

「どうだ?少しは落ち着いたか?」

「あ、あぁ…。…どうして、深呼吸すると落ち着くんだろうな……」

「あー、なんか自律神経とか副交感神経とかが関係してるらしいぞ。もうこういう単語の時点で難しそうだったから、それ以上の事は調べようとも思わなかったが」

「それは分かる。別に研究したい訳でもねぇし、ちゃんと理由があるって分かりゃそれでいいんだよな。…ふぅ……」

 

 深呼吸のおかげ…というよりはデートの話から離れたからか、うずめは平常心を取り戻す。けど、このままじゃスタートすら出来ない訳で…これはアレだな。うずめが悪い意味で意識し過ぎないよう、俺が自然体でいるのが一番だ。

 

「じゃ、行こうぜうずめ」

「お、おう。…その、俺……」

「おっと、気負わなくていいぞ。それともあれか?意識してくれてるのか?」

「んなっ!?ち、違ぇし!別に気負ってもいねぇし!」

 

 滅茶苦茶強がるうずめの姿に笑ってしまいそうになるのを堪えつつ、それなら良かった、と俺は歩き出す。部屋を出て、廊下を進み、うずめと共にエレベーターに乗る。

 

(この時点でもう、くろめと結構違うんだよな)

 

 昨日、くろめはプラネタワーの外で待ち合わせする事を望み、最初のやり取りでこそお互い多少照れてしまったものの、割とすんなりスタート出来た。一方うずめは、待ち合わせ場所には拘らず、けどかなりあたふたしてる感じで……俺はこの違いを、良いものだと捉えている。だって、それぞれに違う魅力が、可愛さがあるって事なんだから。

 

「こ、こほん。…で、最初はどこに行くんだ?」

「それなんだが、俺が考えたプランで回るのと、その場その場で決めながら行くのと、どっちがいい?」

「んー…まずはウィードのプランに任せるとするよ。お手並み拝見、ってな」

「ほぅ…なら覚悟しとけよ?」

「覚悟…って、何をだ?」

「そりゃ……すまん、そこまでは考えてなかった」

「おいおい…」

 

 エレベーターを降り、真っ直ぐプラネタワーの外へ。テンパったままだと流石に困るな…と思ったが、流石にうずめもそこまでじゃなかったらしく、外に出る頃には普段の調子に戻っていた。

 

「それで、最初はどこなんだよ?」

「それは着いてのお楽しみだ。…っていっても、普段から普通に行くような場所だけどな」

 

 変にハードルを上げてもらっても困るが、先に言うんじゃ幾ら何でも詰まらない。だから最初の行き先は黙ったまま、雑談しながら歩いていき……到着。

 

「ここは……へへ、確かに普段から行くような場所だな。けど……」

「悪くないだろ?」

 

 うずめが目をやったのは、ゲーセンの看板。ここはプラネタワーから一番近い事もあって、これまで何度も来た事がある。

 だが、何度も来た事のある場所だからって、デートに適さない訳じゃない…ってのは、それこそ昨日のデートで把握済み。

 

「今日も混んでるなぁ…もう少し空いてる店の方が良かったか?」

「いやいや、混んでてガヤガヤしてる方がゲーセンって感じがあっていいだろ。それに…良いじゃねぇか。人が沢山いるってのは」

「…そうだな」

 

 中に入り、ゆっくりと店内を見回したうずめは、ふっと遠くを眺めるような表情を浮かべる。それは俺は、小さく頷く。…確かに、そうだ。誰も人のいない、廃墟となった街…零次元のあの光景は今でも忘れていないし、だからこそうずめの言葉は、その思いは、よく分かった。

 

「さぁて、そんじゃ何やるよ?リズムゲームにレースゲーム、コインゲームとよりどりみどりだぜ?」

「それじゃあ、クレーンゲームに苦戦してる外国の女の子を助けにでも……」

「…………」

「い、いや冗談だよ…そんな失望しきったような顔するなよ……」

 

 一瞬で好感度が吹き飛んだような表現になるうずめ。うん、まぁ…流石に今のは俺のチョイスが悪かったよな…。

 

「ったく…けどまあ、二人でやれるゲームの方が良いよな」

「それは確かにな。ホッケーとかどうだ?」

「いいぜ?協力じゃなくて対戦ゲームを選んだ事、後悔させてやるよ」

 

 気を取り直し、俺達は店の奥にあるエアホッケーのコーナーへ。だが生憎、エアホッケーには先客がいた。しかもゲームを始めたばかりらしく、すぐに終わりそうな気配はない。

 

「あちゃー、タイミングが悪かったか…一旦別のゲームにするか?」

「どうすっかな…それで戻ってきたら、別の人がやってた…とかありそうなんだよなぁ…」

「確かに…じゃあ、仕方ないからホッケーのフリで我慢するか。…エアホッケーだけに」

「さっむ」

「反応早っ!そして冷たっ!ちょっ…そこまで寒かった……?」

「うん」

「…そっか…すまん……」

 

 マジで寒かったんだな…と俺は、悲しい気持ちになりながら受け入れる。…ま、まあそれはともかく…俺としてもホッケーをしたい気持ちになっていたから、その場で駄弁りつつ開くのを待つ。そうして終了したところで入れ替わり、今度こそうずめと勝負する。

 

「さぁ、やるとしようじゃねぇか。圧倒的な実力差がある事を、これから見せてやるよ」

「へぇ、言うじゃねぇかよウィード。だったら、手加減してやる必要はなさそうだな…!」

 

 にっ、と笑ったうずめが見せる、本気の顔。それを真っ向から見つめて、俺はマレットを握る。そして俺達の勝負は始まり……十数分後、俺の完敗という形で決着する。惜しくも…ではなく、何点も差を付けられた状態で敗北する。

 この結果に、ぽかーんとするうずめ。そんなうずめに対し、俺は肩を竦めて……言った。

 

「ほらな?あったろ、圧倒的な実力差」

「いや、実力差を付けられる側かよ!?」

 

 

 

 

 エアホッケーの後も、俺達は複数のゲームで対戦をした。通算成績は…まあ、お分かりの通り俺の惨敗という形になったが、そんな結果でも楽しい…そう言えるような時間だった。…負け惜しみじゃないぞ?

 

「ふー、やっぱり勝負は真剣にやってこそだよな。ウィードもそう思うだろ?」

「だな。…まあ、真剣っていうか、容赦ないって感じだった気もするが……」

「へへ、悪いなウィード。俺は、手加減出来ないタチなんだ」

「くっ、情けも慈悲もない非道女神め……!」

「いやそこまでじゃねぇだろ…」

 

 そこまで言われる事はしてねぇよ、とうずめは半眼で突っ込んでくる。勿論これは冗談であって、非難するつもりなんてない。

 

「まあそれはともかく…うずめ、もう空腹だったりするか?もしそうだったらあんま楽しめないかもしれないし、先に早めの昼食を取ってもいいと思うんだが」

「んー…いや、まだ空腹って程じゃねぇな。それよりさっさと行こうぜ?」

 

 そう言って、うずめはにっと笑う。女性のそれ…というより、少年を思わせる笑みを見せる。…こういう笑顔が、何気なくこういう笑顔を見せてくれる事が、うずめの魅力の一つだと思う。しかも、少年を思わせる…なんて表現をしたが、うずめは文句なしの美少女な訳で、だったらどんな笑みだろうと可愛いのは必定。

 

(…っていうのを言ったら、絶対顔真っ赤にするし、そういううずめも見たいんだが…後が怖いんだよなぁ……)

 

 ゲーセンを出て、次の目的地へ向かう。歩きながら、赤面するうずめを見たいという欲求と、デートの最中でそんなリスキーな事をするべきじゃないという理性がせめぎ合い…なんとか理性の方が勝利。俺は冷静な判断を下し…普段から行く機会のあったゲーセンとは対照的に、俺は勿論恐らくうずめも初めて行くであろうある『カフェ』へと訪れる。

 

「うん?ここはカフェ…いや、ペットショップか?」

「カフェで合ってるぞ。けど、ペットショップってのも、当たらずとも遠からず…ってところだな」

「……?」

 

 首を傾げるうずめを連れて、中に入る。そして次の瞬間、うずめは目を見開く。店内をほんわかとした雰囲気で彩る──何匹もの犬を見た事で。

 

「こ、ここってまさか……」

「あぁ。うずめも聞いた事あるだろ?…犬カフェ、ってやつをさ」

 

 カフェはカフェでも犬カフェ。ただの飲食を楽しむ店じゃなく、犬との触れ合いをメインに据えた店。こういう店は、当然普通の飲食店より人を選ぶ訳だが……

 

「い、犬カフェ…これが、犬カフェ……!」

 

 のびのびとした様子で過ごしている、中にはこちらを見つめている個体もいる犬達の姿に、うずめは目を輝かせていた。

 

「おー、よしよし。お前は人懐っこいな〜」

「こっちも中々人懐っこいぞ?…まあ、多かれ少なかれそういう犬じゃなきゃ駄目なんだろうけども」

「ウィード、そういう冷める事言うんじゃねーよ。なー?うりうり〜」

 

 受付をし、注意事項の確認もし、触れ合いエリアへと入ってから数分。早速うずめは犬達と戯れ始め、大いに癒されていた。撫でられている犬も、気分良さそうにうずめの前でのんびりとしていた。

 そんなうずめの近くで、俺も座って犬を撫でている。こっちはうずめの撫でている犬よりも反応が多くて、今撫でている場所が気に入っているか、そうじゃないのかが分かり易い。…ほんと、初めて犬カフェに来たけど…デート関係なく、結構良いな……。

 

「…けど、アレだな。こうして犬と接してると……」

「ぬらりん達を思い出す、ってか?」

 

 うずめからの言葉に、俺は頷く。こんな速攻で当ててきたって事は…恐らく、うずめも同じように思っていたんだろう。

 

「確かに、ぬらりん達も撫でられるのが好きだったよなぁ。…案外、ここにいる犬達も喋ったりするんじゃ……」

「いやいやいや…一応言っておくが、ぬらりん達が例外なんだからな…?」

「冗談だよ、そんな事分かってるって。…でもなんか、ぬらりんや海男達に会いたくなってきたな…また近い内に、会いに行こうぜ?」

「そうするか。っとと」

 

 今は神生オデッセフィアの自然保護区…という名目になっている地域に住んでいるぬらりん達の事を思い出し、今は何をしてるんだろうなーなんて考える。だがそれが伝わったのか、或いは思考がそっちに向いて手の動きが雑になったのか、もっとちゃんと撫でろとばかりに犬がくっ付いてきた。くっ、あざとい…あざといけど、つい撫でたくなるんだよなぁ…!

 

「ほれほれ、ここか?ここがいいのか?…んー?お前も撫でられたいのかー?」

 

 (恐らく)望み通りに撫でてやっていると、別の犬もくっ付いてくる。片方の毛並みはさらさら、もう片方はもこもこと、左右で違う感触が掌に伝わってくる。…癒されるなぁ…アニマルセラピーってあるけど、確かに効果は絶大だわな…。

 とか何とか思いながら、その後も暫し撫でていた俺。ここは犬カフェで、犬が求めてくるんだから、撫でるのは至って普通の事ではあるが……

 

「むー……」

 

 気付いたら、うずめが羨ましさと不満感の混じったような目つきで俺を見ていた。

 

「…えぇと…なんか、すまん……」

「別にー?ウィードは何も悪い事してねーだろ?」

「いや、実際そうなんだが…。……あ、そうだ。うずめ、餌やったらどうだ?そうしたら、寄ってくるんじゃないか?」

「えぇー…なんかそれは、負けた気がするんだけど……」

「別に勝負でも何でもないだろ…まあでもそういう事なら仕方ないな。俺の分も渡そうかと思ったが、そういう事なら俺の分はそのまま俺が……」

「そ、そうは言ってねぇだろ?つか、一度は渡そうと思った餌をやっぱり止めたするなんて、男らしくねーぞ!」

「そんなピンポイントな男らしさなんてあるか!…ったく…こんな事で見栄を張らなくたっていいのに……」

 

 基本素直で真っ直ぐなのに、変なところで見栄っ張りだったり意地っ張りになったりするんだよなぁ…でもそれも愛おしいんだよなぁ…なんて思いつつ、俺は予め買っておいた餌をうずめに渡す。まあ、うずめは動物に避けられるタイプでもないし、二人分の餌があればうずめにももっと寄ってくるだろう。

 

「へっへっへ…これさえあれば、あんなウィードなんかに……」

「あんなってなんだよ、あんなって……あぁそうだ。さっき店員さんも言ってたが、一気に見せたりあげたりするなよ?場合によっちゃ、一斉に来て大変な事に──」

「ほーら、寄ってこーい!」

「あっ」

 

 ばっ、と自分の足下に二人分の餌を纏めて撒くうずめ。恐らくそうする事で、沢山の犬に群がられる状態を作ろうとしたんだろうが……次の瞬間、きゅぴーんと目を輝かせた(気がする)犬達が凄い勢いでうずめへと殺到する。反射的にうずめは飛び退こうとしたっぽいが、背後からも犬が来ていた事、ここで下手に跳ぶと最悪犬を踏んでしまいそうな事がうずめを躊躇わせたようで、犬の殺到を受けたうずめはその場にすっ転ぶ。

 

「お、おい。大丈夫か…?」

 

 流石に怪我はしていないだろうけども…と思いつつ、俺はすっ転んだうずめの側へ。…因みにこの時、撫でていた内の片方は餌につられて早々にうずめの方へ行ってしまったが、もう一方はつられる事なく、俺が移動する際も黙って着いてきた。…可愛いやつめ。

 

「いてて…びっくりしたぁ……」

「びっくりしたのはこっちだっての。ほら、立てるか?」

「…いや、無理だ」

「無理…?まさか、どこか痛めた──」

「この状況で、そんなすぐ立てる訳がねぇ……!」

 

 尻餅状態のうずめは現在、犬に囲まれて引っ付かれているような状況。うずめはそれを、四方八方からの柔らかい感覚を、噛み締めるように楽しんでいた。

 

「ったく、餌を見た途端に寄ってくるなんて、現金な犬達だよなぁ…あ、こら、くすぐったいっての。…へへっ……♪」

 

 群がられた状態で、次々とうずめは犬の頭を撫でていく。うずめの手にはまだ匂いが残っているのか、何匹かは近付かられた掌を舐める。するとうずめは困ったような反応を見せつつも、明らかに表情が緩んでいて……その姿を眺めながら、俺は思うのだった。うずめと犬との絡み、めっちゃ和むなぁ、と。

 そうしてその後も暫くの間、俺達は犬カフェで過ごした。犬達と戯れ、癒された。うずめは犬に癒されたんだろうが、俺はそれに加えて、うずめと犬との絡みでも癒された。懐っこい犬達をうずめは可愛いと評していたが、それを聞いた俺が、心の中で「うずめも可愛い」と断言したのは言うまでもない。…まあ、絶対恥ずかしがるし、変な反応して犬を驚かせかねないから口にはしなかったが。

 

「いやぁ、想像の倍楽しかったな!また行こうぜ、ウィード!」

「あいよ。けど、あれだぞ?ほんと餌をばら撒くのは止めた方がいいぞ?」

「分かってるっつの。…てか、そうだ。さっきウィード、空腹だと楽しめないかも…って言ってたよな?あれ、結局どういう事だったんだ?」

「だってほら、犬は餌を貰える訳だし……」

「あー、つまり餌を貰える犬を見て空腹の俺が不機嫌になると思った訳か。よーしウィード、今から殴るからじっとしてろよー?」

「ちょっ、冗談!冗談だって!」

 

 犬カフェを出てから数十秒後。さっきまでは和気藹々としていたのに、速攻で俺はうずめから逃走する羽目に。何とか「空腹じゃそれが気になって心から楽しめない」…という本当の理由を伝えて納得してもらう事は出来たが、まさか街の中を走り回る羽目になるとは思わなかった……。

 

「ったく…次同じような冗談を言ったら、その時は本当に殴るからな?」

「すみませんでした…」

「ふん。……で、なんで犬カフェだったんだよ」

「……?それは、どういう……」

「ほら、犬じゃなくて猫カフェだってあるだろ?勿論犬カフェが嫌だった訳じゃねぇし、凄く楽しめたが…それはそれとして、犬カフェにしたのは何か理由があるのかな、と」

「あー…いや、うずめは犬派だと思ってさ。だって、女神化するとモンスターの事をわんわん、って呼んでるし」

「理由それかよ……」

 

 また変なところから…と微妙そうな顔をするうずめ。よくよく考えればモンスター…つまりこれから倒す相手の事をわんわんと呼んでいる訳だから、むしろ嫌いである可能性もあったな、と今更ながら俺は思う。

 だがまあ何にせよ、うずめは楽しんでくれた。俺も大いに楽しめた。だから結果としては、大正解だったって訳だ。

 

 

 

 

 丁度良い頃合いだし、と犬カフェを後にした俺達は、昼食を取る事にした。くろめとの時は、屋台で買って食べたが、うずめに同様の質問をしたところ、うずめからは店で、という返答が返ってきた。ゲーセンじゃお互いはしゃいだし、犬カフェ…での過ごし方は普通だったにせよ、その後追いかけっこ(って程緩いもんじゃなかったが)をした事もあって、昼食は落ち着いて食べたい…という至極真っ当な意見の下、レストランに行く事となった。

 けど、本当にただ落ち着いて食べるだけじゃ俺達らしくないって思ったのか、うずめが選んだのはテラス席。そこで俺はカツカレーを、うずめはハンバーグセットを注文し、談笑をしながら食べた。…うずめって、がっつり食べるんだよな。勿論俺もカツカレーを注文した訳だけど、うずめは女の子な訳だし。……まあ、うずめに限らず、女神は皆結構食べる方だとは思うが。

 

「不思議なもんだよな。そんな特別なもの食べた訳でもないのに、テラス席ってだけで、なんか新鮮な気がするんだから」

「分かる分かる。多分、外で食べるからだろうなー」

 

 今はレストランを後にし、次の目的地へ向かう真っ最中。俺の振った雑談に、うずめは腕を組み、うんうんと頷きながら返してくれる。

 

(こういうやり取りが、心地良いんだよな……)

 

 微塵も飾らない、うずめの態度。男口調って事もあって、うずめと何気ない話をしている時は、本当に自然体でいられる。昔、立場も経歴も『うずめ』とは全く違った俺が仲良くなれたのも、うずめのこういう在り方が大きかったんだろうな…と、今振り返ってみれば思う。

 

「……?どうしたんだよウィード、そんなふやけたような顔して」

「し、失礼な…てか、それを言うなら腑抜けた、だろ」

「いや、実際ふやけてるみたいな顔だったし」

「…マジで?」

 

 ふやけてる顔って何なのか、一体俺はどんな表情をしていたのか。…気にはなるけど、追求するのは恐ろしい…そう思って俺は、これ以上触れない事にした。

 

「こほん。次の場所行くぞ、次の場所」

「へいへい。んで、次の場所はどこなんだ?」

「アクセショップ」

「アクセショップ?」

 

 なんでまたそんな場所に?…と首を傾げるうずめ。そう思われるのは想定内だったから、俺は軽く頷いて返す。

 

「ほんとは服屋に行きたいんだよ?けど、服屋っつったら嫌がるだろ?」

「それはまあ…折角出掛けてるってのに、服屋じゃな……」

「そう言うとは思ったけど…もうちょっと洒落っ気を持とうぜ、うすめ……」

 

 全くもって予想通りの反応だが、だとしても俺は肩を落とす。…くろめは取り敢えず来てくれたんだがなぁ…まあ結局くろめに服はプレゼント出来なかったし、それどころか逆にハンカチをプレゼントされたんだから、服屋を回避するのはやっぱりベターなのかもしれない。

 

「はぁ…とにかくアクセショップだ。服屋は駄目でも、それ位はいいだろ?」

「仕方ねーな…よし、良いアクセを見つけようぜ」

 

 こうしてさっぱりと切り替えてくれるのは、うずめの良いところ。そんな感じに俺は捉えて、予め調べておいたアクセショップへうずめと共に歩いていく。

 そうして訪れたのは、デパートの一角にある店舗。そんなに大きい店ではないが、俺もうずめもファッションに詳しい訳じゃないから、選択肢が多過ぎても恐らく手に余ってしまうだけ。それを思えば、こじんまりしてる位の方がいいよな。……こじんまりなんて表現したら、店主さんに失礼か…。

 

「おー、こうして見るとアクセも色々あるんだな」

「だよな、俺もあんまり普段は気にした事なんてなかったが……お、これ中々格好良いな」

「確かに良いな、それ。けど、ちょっと足りなくないか?それだけじゃなくて、もっと腕とかにシルバー巻くとかよ!」

 

 さっきの乗り気じゃなかった様子はどこへやら、今はうずめは完全にノリノリ。まあでも、分かる。アクセサリーって、装備品みたいでグッとくるものがあるし。

 それに、考えてみればうずめはファッションにこそ興味なしだが、格好良いものには興味津々。そしてアクセサリーには格好良い物も色々ある訳で、この選択は正解だったのかもしれない。

 

「おいおいうずめ、俺に似合うやつ探すのもいいけど、こういう時はまず自分の……」

「いーや、今はウィードを飾らせてもらう。さっきウィードは洒落っ気云々っつってたが、それはウィードにも言える事だからな」

 

 そう言ってうずめは、あれよあれよとアクセサリーを持ってくる。ブレスレットにネックレス、指輪に眼鏡と、それはもう楽しそうに色々と選ぶ。初めはこれもうずめが俺を想う気持ち…ちょっと恥ずい表現をするなら、俺にもっとお洒落で格好良い男になってほしいって気持ちからやる気になってくれてるんじゃないかと内心少し喜びましたが……途中で気付いた。あ、これ、うずめが好きなアクセサリー選んでるだけだ、と。

 

(…けどまあ、いいか。それはそれで、うずめが楽しんでくれてるのなら)

 

 これはデート。でもデートに、決まった形はない。強いて言うなら、多分お互い満足出来る事が重要で…もしそうならば、うずめは今楽しんでいて、俺もそれで良かったと思えてるんだから、これは正解だ。少なくとも、俺達にとってはこれが正解……

 

「……って、次から次へと持ってき過ぎじゃねぇかなぁ!?なんかもう俺、全身ジャラジャラなんだけど!?しかも最後に持ってきて首に掛けたこのチェーン、暴走キングコングさんのやつじゃねぇか!何でこんな物まであるんだよ!」

 

……と思ったけど、やっぱ違う。やっぱりなんか違うわ、これ…ほんとうずめは楽しんでる…ってか、愉快に思ってるっぽいけども…。

 

「全く…ちょっと一回自分用のアクセを探してきなさい。俺も個人的に見たいものがあるから」

「えー」

「えー、じゃない」

「びー」

「びー、でもない」

「しー」

「ちょっ、まさか最後までやる気か!?時間の無駄極まりないから止めろ!」

 

 うずめの変な絡みを何とか振り切り、一度俺は一人になる。ゆっくりと息を吐き、心を落ち着かせ…それからアクセサリーを見ていく。あまり時間はかけず、だがしっかりと見ていって…少ししたところで、同じく別のアクセサリーを見ていたうずめと合流する。

 

「何か、良いのあったか?」

「いや…良いなと思うのは色々あったけど、いざ身に付けるってなると本当に俺に似合うのか、そもそも自分のセンスは大丈夫なのかって、ちょっと不安になっちまってさ……」

「…そういうところは、普通に女の子なんだな」

「おい…そういうところは、ってなんだよ……」

「すまん、間違えた。普通に女の子じゃなくて、滅茶苦茶可愛い女の子だったわ」

「ぶッ…い、いきなりそんな事言うんじゃねぇよ馬鹿ぁ!」

 

 かぁっと顔を赤くしたうずめの、全力否定。その赤面する姿も可愛いんだけどなー、と思っていたら、心を読まれたのかうずめはギロリと睨んでくる。顔を赤くしながら睨む表情もまた良い…とか思ってたらいつまでも終わりそうにないから一旦冷静になろうと思うが、とにかくカワイイ、うずめ可愛い。

 

「まあでも、アレだな。冗談抜きに、普通の女の子っぽい事を気にしてるのを見ると安心するよ。俺は大した事の出来ない男だけど…それでも、うずめには普通に、変に背負ったり気負ったりしないでいてほしいからさ」

「ウィード……」

 

 元が良いうずめなら大体何でも似合うだろう、とは思うものの、本人にその気がないのに買うよう勧めたって気持ちの良い買い物にはならない。俺自身は目的を果たせたし、なら今回はいいか、とうずめを連れ立って俺は店を後にする。でも折角デパートに来たんだし、と俺達は色々な店舗を見て回り……一通り回ったところで、休憩用ベンチでほっと一息。

 

「うずめ、飲み物買ってきたぞ」

「悪いな、ウィード。……まさかとは思うが、変なもん買ってねぇだろうな…?」

「ネプビタンだけど?」

「回復アイテム!?お汁粉とかコーンクリームとかじゃなくて、まさかの原作シリーズの回復アイテムかよ!」

「いや冗談だって。というか、お汁粉とかコーンクリームを変なもん扱いするのはどうかと思うぞ……」

「うっ…お、俺は別に、どっちも嫌いじゃないけどな……!」

 

 誰に弁明してるのか分からないうずめに飲み物を渡し、俺は隣に座る。ぐっと一口飲んで、吐息を漏らす。

 

「なんかこう…疲れたな。なんかこう、色んな場所でうずめに突っ込む事になって」

「それに関しては、ウィードの方もまあまあボケてると思うんだが?」

「まあ、否定はしない。…というか、色んな場所でうずめに突っ込むって、なんかエロい──」

「とうっ」

「痛ぁっ!?」

 

 ガッ!と脛に走る衝撃。打ち込まれる爪先。不意打ちの痛みに、俺は飛び跳ねる。蓋をしていたおかげで中身は溢さなかったが、飲み物も俺の手からは落ちる。

 

「な、何しやがるうずめ!」

「こんな場所でんな事言ってんじゃねぇよ」

「だとしてもおまっ、脛に女神のキックは駄目だろ…!」

 

 流石に手加減はしてくれたっぽいが、だとしても痛い。超痛い。おかげで俺は暫く痛みが続き…ただまあ、この件を引き摺りはしない。実際場所をわきまえない発言ではあったし。…後、うずめがちょっと顔を赤くしてそっぽ向いてたのも中々良い光景だったから、これで良しとする。

 そんな事を考えながら、俺はうずめの隣に戻る。だが何を思ったのか、うずめは黙り…何だか気不味くなる。もしかして、実はさっきの発言を俺の思った以上に不愉快だと感じていたのかと、うずめの沈黙で俺は不安になり…されど俺が謝るより先に、うずめは静かに口を開く。

 

「…ウィードは俺を、心配してくれてるのか?」

「へ?…うずめ……?」

「さっきの発言だよ。変に背負ったり、気負ったりって…俺がいつか、【オレ】と同じような間違いを犯すかもしれないって、そう思っていたからさっきは……」

 

 うずめが発したのは、全く予想しなかった言葉。それに俺は驚き、数秒の間答える事が出来ず…けれど首を、ゆっくりと横に振る。そうしてから、改めて答える。

 

「…そういう事じゃねぇよ。そういう意味で、さっきは言った訳じゃない。断言は出来ねぇが、きっとうずめはくろめみたいにはならないと思うしな。うずめとくろめ…いや、『うずめ』とは状況も経歴も違うから、その時点で話は変わってくるし……少なくとも、俺がいる。もう昔みたいに、大事な時に側にいてやれない俺じゃない」

「……っ…ウィード……」

「けど、うずめにしろくろめにしろ、責任感の強さが悪い方に転がりがちなのは事実だからな。だからそういう方向で、変に背負ったり気負ったりが心配だって事だ。ちょっと失礼な例え方になるけど、その辺りはネプテューヌなんかを見習っても良いと思うぜ?」

「ほんとに失礼だな…てか、それで言うならねぷっちもちょっと前に……」

「あ、あー…そうだな、これ二重に悪い例えだったわ……」

 

 例えの人選間違えた…と、俺は肩を落とす。…けど、今語ったのは全部本心。うずめはその責任感の強さが危うさでもあるし、皆を思う心が悪い方に転がる姿なんて、もう本当に見たくない。でも、責任感が強いってのは本来良い事だし、それがうずめの魅力や強さにも繋がっていると思うからこそ…完全否定なんてしない。

 

「…こほん。ともかく、俺が言いたいのは変に、って事だ。女神なんだから、責任感は必要だろうし…だから抜く時は抜いて、休む時は休もうぜ?俺も、俺といる時はのんびりゆったりした気持ちでいられるよう、頑張るからさ」

「……そっか。…ありがとな、ウィード。いつも、ありがとう」

「ははっ、お互い様だ」

 

 重ねるような、二度のありがとう。それに俺は、笑って返した。実際のところ、うずめが俺の言葉をどう捉えたかは分からない。オンオフをちゃんと切り替えられるかもまだまだ謎。だけど、言うべき事は言ったんだから…後は俺も、有言実行するだけだ。

 

 

 

 

 長いようで短い…じゃないな。楽しいし充実してるからこそ、あっという間に感じてしまう今日のデートは、終わりに差し掛かっていた。昼食とは別の店で夕食を取り、夜の街を俺はうずめと歩いていた。

 

「ふぅ…夜の都会を二人きりで歩いてるだけで、なんかちょっと大人になった気がするのってなんでだろうな?」

「それはよく分からねーけど、ウィードは元から都会育ちなんじゃないのか?」

「それはそうだが、昔のプラネテューヌと今のプラネテューヌを比べると、結構違うもんがあるんだよ。当たり前だけど」

 

 話ながら、少しだけ昔の事に思いを馳せる。一緒にいるのがくろめなら、そのまま昔話をしてもいいが…今いるのは、デートしているのは、うずめ。それに、プラネタワーに着くのももうすぐだから、その思考を早々に切り上げる。

 

「てか、うずめが最後に食べたパフェ凄かったな。デカさもそうだが、あれを最後まで美味しそうに食べ切ったうずめも凄いっていうか……」

「自分ならくどくなりそう、ってか?はぁ、分かってねぇなウィードは。それぞれ違う甘さがあるし、甘酸っぱいフルーツもあるからこそ、最初から最後まで楽しめるんだよ。第一あの、甘いを詰め込んだ大ボリュームの良さが分からないかなー?生クリームにアイスにチョコにクッキー、苺にバナナに蜜柑に、嬉しいものが一杯あるんだから、あんなの完食しなきゃ損に決まってるじゃーん!でもでもうずめ的には〜、チョコスプレーも入れてもーっとカラフルにした方がアガるっていうか〜!」

「…うん、まぁ…うん…滅茶苦茶満足したって事は、よーく分かったよ……」

 

 なんか思わぬ形でスイッチが入ってしまったうずめだが、機嫌良さそうだから今回はそのままにしてやる事にする。…と思った俺だったが、うずめは案外早く我に返り、顔を赤くし……それから不意に、不安そうな顔になる。その表情のまま、ぽつりと呟く。

 

「…満足…ウィードは満足、出来たか……?」

「……?何でそんな事訊くんだよ」

「だって、ほら…俺ってやっぱり、【オレ】以上に全然女の子っぽくないし、今思えば服屋を断るのもアレだった気がするし…普段ならともかく、折角デートに誘ってくれたのに、プランも考えてくれたのに、俺がこんなんだから満足出来てないんじゃないかと思って……」

 

 立ち止まり、気弱そうな声音で言葉を紡ぐうずめ。その言葉で、吐露した思いで、俺はうずめが自分の性格、女の子らしくない在り方について、思い悩んでいたのだと知った。

 いや、こう表現するのは適切じゃないかもしれない。本人も触れた通り、普段は気にしていないけど、今はデートだから、デートという形を取ったからこそ、気になってしまった…多分うずめの事だから、実際はこっちなんだろう。何れにせよ、うずめは本当に気にしているようで……けどはっきり言って、それは要らぬ心配もいいところだった。頓珍漢そのものだった。

 

「…はぁ…あのなぁうずめ、うずめは根本的に間違ってるからな?てか、俺を舐めんなっての」

「な、舐める…?なんでそんな話に……」

「俺は、女の子らしいかどうかでうずめを好きになった訳じゃねぇよ。うずめが女の子らしくなくても、だからってデートに不満を抱いたりしねぇよ。はっきり言うがな、俺は今日超楽しかった。楽しいし、面白いし、うずめの可愛いところも沢山見られたし、デートとして大満足だ。そんな俺の、うずめを好きだって気持ちを舐めんじゃねぇよ。つか、アレだからな?女の子らしくなくても、うずめって滅茶苦茶魅力的だからな?女神なんだから魅力的に決まってるし、そんなうずめとデート出来た今、幸せ以外の感情なんて心に存在しないからな?」

 

 不快に思った…訳ではないが、正直ちょっと呆れてしまった。だからその分も乗せて、うずめの前に出た俺は思いきり俺は言ってやる。恥ずかしくさせてやろうかとばかりに、好きだって事を惜しみなく伝える。すると予想通り、うずめは慌てだし、顔を赤くし……最後には「もういい!もういいからぁ!」とぶんぶん首を横に振っていた。ほーらまた可愛い反応する。実際冷静な第三者から見たらどの程度可愛いのかは謎だが、好きな相手なら些細な言動も魅力的に見える…そういう事ってあるよな。

 

「分かってくれたか?」

「わ、分かった…分かりました……」

「ならば良し。…だからさ、自信を持ってくれよ。それから…訊かせてくれ。うずめは今日、楽しかったかどうかを。満足出来たかどうかを」

「そんなの…楽しかったし、満足したに決まってる…!だ、だって…俺だって……」

 

 きゅっと両手を握って、顔を赤くしながらうずめは言う。言ってくれる。恥ずかしいからか、俺だって、の後に続く言葉はなかったが…聞きたい答えは聞けた。なら、それで十分。

 

「それなら良かった。じゃあ、って訳じゃないが…俺から、プレゼントだ」

「プレゼント…?…これって……」

 

 そう言って、俺は手にした小箱を差し出す。うずめは困惑した顔で受け取り、箱を開け……目を、見開く。

 それは、俺がアクセショップで買った物。元々データの中で買おうと思っていた……うずめへ贈る、髪留め。

 

「ずっと、思ってたんだ。前にくろめにはプレゼントをしたのに、うずめには何もなしじゃ不公平だってさ。ほんとはうずめにも、誕生日とかの記念日に渡したかったんだが…その、初デート記念って事で…どう、かな……?」

「……これ…こんなの…」

「…その、気に食わなかったら返却してくれてもいいぞ…?勿論その場合、改めて何か別のプレゼントを……」

「いいっ!これでいい…ううん、これがいい…っ!俺、これ大切にする…大切にするから……っ!」

 

 胸の前で、抱き寄せるようにしてうずめは箱を、髪留めを握り締める。その時のうずめは、本当に嬉しそうな、幸せそうな顔をしていて……なんだか俺の方が、贈り物を貰った気分だった。きっと今のうずめにも負けない位、俺も今幸せだった。

 

「…こ、こほん。それじゃ、戻ろうぜ。ほんと、今日は楽しかったよ」

「う、うん…俺も、うずめも、凄く楽しかった…。だから、その……」

「……?」

 

 少しの間大切そうに髪留めを抱えていたうずめは、何か意を決したように、ぱっと俺の背後に移る。どういう事だ?と俺は振り返ろうとし……だがそれよりも早く、背後から俺の胴に手が回される。それと共に、背中に柔らかな感触が触れる。

 

「……っ!う、うずめ……?」

「…こ、これはお礼だ…今日のデートと、プレゼントのお礼…お、お返しは要らないからな……っ!」

「…おう。ありがたく貰うよ」

 

 背中に、服越しに伝わる、人肌の温もりと、特に感じる二つの膨らみ。それはまさかの、くろめとほぼ同じ行動。ドキッとした俺だが、背後から聞こえる声からは、必死に羞恥心を我慢しているのが伝わってきて…だから努めて、表面上だけでも落ち着いた反応を返す事にした。……ほんとはお返しを、熱烈な返礼をしたかったのは、言うまでもない。

 

「……よ、よし、これは終了!」

「お、お疲れうずめ。じゃ、今度こそ…って、ん?これはって……」

 

 なんだか一仕事終えたみたいな言い方をするうずめに、ちょっぴり笑ってしまう俺。それからうずめが離れた事で、俺は振り向き…歩き出す直前、うずめの言い方が気になった。

 一体それはどういう事か。俺が振り向いたのと、言おうとしたのはほぼ同時。そしてその時、離れはしても距離は取っていなかったうずめは、俺の本当にすぐ側にいて……次の瞬間、再び柔らかなものを感じた。今度は頬に、より柔らかく、濡れた感触が触れて…一瞬限界まで距離が近付いたうずめの姿が、瞬時に元の位置に戻る。

 

「ぁ、え?…うずめ…今のって、キ──」

「い、言うなッ!ほら、さっさと戻るぞウィードっ!」

 

 今日何度目か分からない赤面顔を見せたうずめは、勢い良く振り向きそのまま一人でプラネタワーへ向かってしまう。またもやくろめとほぼ同じ(しかも偶然にもくろめと逆側)行動を見せたうずめに、俺はぽかんとしてしまい……やっぱりうずめって可愛いよなと、再確認する。

 

 

 

 

 そうして、俺の二人とのデートは終わった。うずめとのデート、くろめとのデート…それぞれのデートが、幕を下ろした。そして、この二つのデートを、二人との時間を振り返った時…俺は、改めて思う。うずめとくろめは、それぞれ同じような魅力と、それぞれ違う魅力があって、それ等は全てどうしようもなく魅力的で…だから『うずめ』と同じ位に、うずめの事も、くろめの事も……俺は、大好きだ。そんな二人が、俺は大好きなんだ。




今回のパロディ解説

・「〜〜俺達の戦争〜〜」、「〜〜デート〜〜」
デート・ア・ライブにおける、代名詞的なフレーズの一つのパロディ。ウィードが突っ込んでいますが、ルビがないと単なる物騒な台詞なんですよね。

・「〜〜もっと腕にシルバー巻くとかよ!」
遊☆戯☆王の主人公の一人、闇遊戯ことアテムの名台詞の一つのパロディ。割と有名な台詞の一つですが、内容的に使える機会はあんまりないんですよね。

・「〜〜暴走キングコングさん〜〜」
プロレスラー、真壁刀義こと真壁伸也さんの事。あのチェーンもまあ、一応アクセサリーと言えますが、流石に普通の店にはないでしょう。因みにあれ、本人が金属アレルギーなのでその対策をしてるみたいです。
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