超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

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第二十二話 格好良いと可愛いと

 軽やかに、でも熱く激しく流れる音色。それは、歌。何の準備も何の道具も必要のない…だけど奥深く、聴いている人の心を震わせるには真剣に、真摯に思いと力を込めなくちゃいけない、馴染み深いけど凄い存在。わたしも女神としての活動の中で、歌って踊って…ってする機会があるからこそ、分かる。

 今行われているのは、そんな歌のコンサート…のリハーサル。わたしはそれに訪れていて……あ、でも、先に言っておきますね。今日の話のメインは、それじゃないです。

 

「お疲れ様ですっ、5pb.さん!」

 

 リハーサルが終わり、会場から出てきた女性に…5pb.さんに声を掛ける。わたしの声に、5pb.さんは反応し、わたしは一緒に待っていた皆さんと一緒に小走りで駆け寄る。

 

「あ…もしかして、待っていてくれたの?」

「もっちろん!嫁候補を置いて帰ったりなんてしないよ!」

「リハーサルではあったけど、良い歌だったと思うわ」

「あたしもそう思うな。手伝いの途中なのに、思わず聴き入っちゃった位にはね」

 

 屈託のない笑みをREDさんが浮かべて、ケイブさんと第二期パーティー組のファルコムさんも歩きながら微笑みを見せる。…えっと、さっき皆さんと一緒に…って表現しましたけど、駆け寄ったのはわたしとREDさんで、ケイブさんとファルコムさんは普通に歩いてました…。

 

「そ、そんな…歌だったら、ネプギアさんだって勝負だし……」

「そ、そんな事ないですよ!…その、わたしも応援してくれる人、素敵だって言ってくれる人達がいるので、わたしなんて全然…とは言いませんけど…同じようにライブを何回もしてるからこそ、分かります。5pb.さんの方が、より洗練されていて、深みもあるって」

「ネプギアさん……」

「あははっ、二人共言い出しの部分が同じだったね!」

『そこは今触れなくても……』

 

 経験しているからこその思いを返せば、5pb.さんはわたしの言葉を受け止めてくれる。そして横では、ケイブさんとファルコムさんがREDさんに突っ込みを入れていた。

 そんな感じで暫しやり取りを交わして、わたし達はその場を後にする。わたしとお三人とは、この後一緒に食事をする約束をしていて、その旨を5pb.さんにも伝えて誘ったら、5pb.さんは快諾してくれる。

 

「でも、本当に皆ありがとう。スタッフでもないのに、こうして手伝ってくれて」

「貴女と私の仲だもの、気にする事はないわ」

「そうそう!アタシと5pb.の仲だもんね!」

「はは、ライブの準備の手伝いなんて、普段は出来ない経験だからね。それに手伝い…というより、協力という意味ではやっぱりネプギアが一番じゃないかな」

「そうね。今回は色々とゴタゴタしちゃってスケジュールが大変だったみたいだけど、ネプギアが手を回してくれたおかげで上手くいってるし」

「いえいえ、5pb.さんのライブは経済効果も結構ありますし、わざわざこうしてプラネテューヌに来てくれたんですから、成功出来るよう女神として協力するのは当然の事です」

「……さっきの5pb.への返しでも思ったけど…本当に、立派な女神になったものね」

「そうだね。そんなネプギアと仲間だって事は、あたしの誇りだよ」

「皆さん……」

 

 再び柔らかい笑みを浮かべるケイブさんとファルコムさん。REDさんと5pb.さんも、お二人の言葉にうんうんと頷いていて…そう言ってもらえるのは、そう思ってもらえるのは、嬉しかった。わたしが立派な女神になれてるとしたら、それは皆さんのおかげでもあると思うし、そんな皆さんの仲間である事は、わたしにとっても凄く誇り。…でも、面と向かってこんな事を言われちゃったら、正直恥ずかしくて……

 

「あ、あのっ、食事の後って皆さん空いてますか?もし空いてるなら、一緒にショッピングでもどうかなー、って……」

 

 気付けばわたしは、話を逸らして誤魔化していた。うぅ、お姉ちゃんならこういう時も、堂々と受け止められていたんだろうなぁ……。

 

「ショッピング…ショッピング、かぁ……」

「…あ…す、すみません5pb.さん、本番を明日に控えてるんですから、今日はゆっくりしたい──」

「うん、良いかも。ボク、賛成だよ」

(あっ、いいんだ)

 

 しまった、今のは良くなかった…と思ったわたしだったけど、なんと5pb.さんはOKしてくれた。…もしかして、気を遣ってくれたのかな?それとも、5pb.さんは下手に万全の準備を整えようとするより、普通に遊んだりする方がリフレッシュ出来るタイプなのかな?

 

「あたしも賛成だよ。あたしもこの後は空いてるしね」

「5pb.が良いなら、私も」

「アタシもアタシもー!一緒に食事をして、ショッピングする…なんかデートみたいだねっ!」

「デートって…なんかセイツさんみたいですね……」

 

 ぱっと浮かんだセイツさんの名前を口にすると、REDさんはそうかなぁ?と首を傾げる。わたしもわたしで、「セイツさん=デート」みたいなイメージになってる事に気付いて、何とも微妙な心境になる。

 ま、まあそれはともかく、食事の後の予定も決まった。本当にショッピングをしたかったんじゃなくて、照れ隠しで言っただけの事だったけど…折角皆さんがいいよって言ってくれたんだもん。わたしも楽しまなくっちゃだよね。

 

 

 

 

 元々お昼ご飯を食べるには少し早い時間だった事もあって、お店にはすぐに入る事が出来た。わいわい話しながらのお昼ご飯は楽しくて…話した通り、その後は五人でショッピングをスタートした。わたしは特別何か欲しいものがあった訳じゃないし、皆さんもそうだったから、ウィンドウショッピングがメインにはなったんだけど…皆さんとこういう事をする機会ってあんまりなかったから、新鮮だったしこっちも楽しかった。…っていっても、別にまだ終わった訳じゃないですよ?

 

「へぇ、5pb.もこういうタウン誌を読むんだね」

「読むっていうか、参考にする感じかな。仕事柄ほんとに色んな場所に行くし、行く先の事を予め知っておけば、ちょっとは緊張も軽くなるし」

「貴女、相変わらず緊張してるのね。…というか、こういう雑誌じゃなくても情報なら得られるんじゃ?」

「いやいや、そういうものでもないよ。勿論調べる対象、ジャンルがはっきりしてるなら、ネットで調べても良いけど……それより前の段階、まだ向かう先の事を全然知らない状態だと、調べてもよく分からないというか、上手く自分の中に入ってこないんだよね」

「あ、分かるかも。だから一通りの情報をプロが一冊に纏めてくれているタウン誌は参考になるっていうか、気になる事はそこから更に調べていけばいいっていうか……」

「アタシはそういうの、あんまり読んだ事ないなー。いつもその時行きたい場所に行ってるし…タウン誌に嫁になってくれそうな相手の情報は載ってないしね!」

 

 今わたし達がいるのは、本屋さん。そこでタウン誌を手に持ちながら、皆さんは話をしていて…それを眺めながら、わたしは思う。

 

(やっぱり、皆さん格好良いなぁ……)

 

 信次元各地で歌手活動をしている5pb.さんと、冒険家であるファルコムさんがタウン誌を活用しているのは分かるし、わたしもあまりそういう雑誌を読む方じゃないから、REDさんとケイブさんの気持ちも分かる。

 それよりも意外だったのは、性格的には結構離れてるタイプな5pb.さんとファルコムさんが分かる分かる、と共感し合っていたり、そんな二人に対して同じくタイプ的にはあまり似ていないREDさんとケイブさんもまた、似たような反応を返している事で…そんな皆さんに対して、わたしは格好良さを感じている。

 といっても別に、今のやり取りが…って訳じゃない。今のやり取りに限らず、背が高くて物腰が柔らかい…でも頼もしさに溢れているファルコムさんはいつでも格好良いと思うし、同じようにスタイルが良くてクールで、でも結構面倒見が良いケイブさんも大人の女性って感じで格好良いとわたしは思う。そんなお二人と違って5pb.さんは格好良いイメージこそないけど、一度舞台に上がれば終始プロとして堂々とした、そして歌手として魅力的な姿を皆に見せ続ける精神性が間違いなく格好良いし……REDさんのどんな時でも明るくて自分らしくいる、自分らしさを見失わずに貫ける姿がお姉ちゃんみたいで格好良いって凄く思う。格好良いし、素敵さもある。

 

「……?ネプギアー、どうかしたの?」

「あ……いえ、何でもないです」

「…本当に?そこはかとなく、頬が緩んでるように見えるけど……」

「そ、そうですか…?うーん……」

 

 自分でも思っていた以上にじーっと眺めていてしまったのか、不思議そうな顔をしたREDさんに尋ねられる。更にそこから、ケイブさんに頬が緩んで…と言われてしまう。…わたしって、表情に出易いなんて言われる事もあるし、今も格好良いなぁと思っている内にだらしない顔になっていたのかな…なんて思ったわたしは、マッサージするように両手で頬をふにふにとして……数秒後、聞こえてきたのは小さな笑い声。

 

「ふふっ」

「へ?ファルコムさん……?」

「あぁいや、ごめんねネプギア。ただちょっと、ネプギアは可愛いなぁって」

「ふぇ?え、っと…可愛いっていうのは……」

「今の仕草、だよ。ボクもネプギアさんは可愛いと思うな」

 

 肩を竦めたファルコムさんは、わたしの事を可愛いと言う。その言う姿もさまになっていて格好良い…っていうのはともかく、5pb.さんまでそれに同意してきた事で尚更びっくり。しかもREDさんやケイブさんまでお二人に頷いていて…ど、どうしよう、また恥ずかしさが……。

 

「可愛いなんて、そんな…それを言ったら、皆さんは凄く格好良いですし……」

「格好良い?あたしが?」

「…私も?」

「いや、二人は疑うまでもないと思うんだけど……」

「うんうん、ケイブとファルコムは絶対格好良いよね」

 

 訊き返してくるお二人に対して、今度は5pb.さんとREDさんが言葉を返す。するとファルコムさんは「…やっぱりそう思う?」って感じに苦笑をし、ケイブさんはちょっぴりと照れたような顔を見せる。上手く流れを変えられた事でわたしはほっとし…だけどすぐに、お二人が何とも言えない面持ちを浮かべている事に気付く。

 

「…あの…もしかして、格好良いって言われるの、あんまり好きじゃないんですか…?」

「あー……好きじゃない、っていうか…あまりしっくりこない、って感じかな。別に、可愛いって言われたい訳でもないというか、多分そっちの方がより似合わないとは思うんだけどね」

「私も似たようなものよ。可愛いなんて言葉はネプギアや5pb.の方がずっと似合うし、どちらかと言えばまだ格好良い…の方が分かるけども」

「アタシは?アタシはー?」

「貴女も可愛いと思うわ」

「えへへー、でしょでしょー?」

 

 すんなり可愛いと返されたREDさんは、にこーっと笑う。やっぱりREDさんはお姉ちゃんに負けない位にマイペース(あ、勿論良い意味で、ですよ?)で…だけど同時に、こうも思った。ケイブさんもファルコムさんも、格好良いと思われるのが嫌なんじゃなくて、そのつもりもないのにそう思われている事に違和感を抱いてるんだろう、って。…だったら……。

 

「…その、皆さん。次は、服屋さんに行きませんか?」

「服屋さん?それって……」

「はい。わたしはケイブさんとファルコムさんに、一度格好良いファッションをしてみてほしいんです。そうすれば、ちょっとは自分の中での意識が変わるというか、ファルコムさんの言う『しっくり』に繋がる……かもしれないと思うんです」

 

 思い切って、わたしは踏み込む。格好良い服装をしてみませんかとお二人に提案する。当然お二人はわたしの発言に目を丸くして、うーんと考え込むような雰囲気になって、少しの間沈黙する。

 勿論、無理強いするつもりはない。そもそもわたしも、何としても格好良い服装をしてほしい訳でもない。ただ、これが自分への評価に対する、意識の変化へ些細なレベルでも繋がれば良いなと思っていて…沈黙の末、ケイブさんが口を開く。

 

「…分かったわ」

「……!良いんですか…?」

「良いも何も、ネプギアが提案した事でしょう?…貴女がからかってやろう、って気持ちで言った訳じゃない事は、伝わってきているもの」

「うん、そうだね。こういう機会でもなければ、ファッションを意識する事もないし…あたしも構わないよ」

「ケイブさん、ファルコムさん…ありがとうございますっ。わたし、お二人に似合う服を頑張って選びますね!」

「これは楽しみだね、ネプギア!」

「はいっ!…あっ、いや、今の楽しみっていうのは変な意味じゃなくて……!」

 

 反射的に返事をしてしまったわたしは、慌てて否定。しまった、折角お二人が乗り気になってくれたのに…とこの時は本当に慌てたけど、そんなわたしを見て、皆さんはむしろ苦笑をしていた。

 とまあ、こんなやり取りを経て、わたし達は服屋さんへ。お店に入って、ぐるりと見回して……じわりと緊張を感じ始める。

 

(なんか、勢いで言っちゃったけど…ケイブさんとファルコムさんに変な格好をさせる訳にはいかないし、全力で選ばなきゃだよね……)

 

 お二人共顔もスタイルも良いからふざけたチョイスさえしなければ酷い出来にはならないと思うけど、それじゃ意味がない。ちゃんと素敵な格好にさせてあげなくちゃ、乗ってくれた二人に悪い。ただでもそもそもの話として、わたしもファッションセンスにあんまり自信がなくて……

 

「…ネプギア、表情が硬いよ?」

「あ……あはは、やっぱりわたしって表情に出易いみたいですね…」

「もしかして、プレッシャー感じてる?それなら、ボクも手伝うから安心して」

「アタシも協力するよ!だって、その方が楽しそうだもん!」

「あ、ありがとうございます…!でもREDさん、遊びじゃないんですからね…?」

「分かってるって。……あっ、今のは『遊びでやってんじゃないんだよ!』って言った方が良かった?」

「いやいやいや……」

 

 大丈夫かなぁ…と一抹の不安を感じながらも、わたしはREDさん、5pb.さんと一緒に服選び開始。ケイブさんとファルコムさんは待っているって事で、まずは一通り服を見ていく。

 

「ネプギアー、格好良いファッションってどんなのイメージしてるの?」

「それは……実は、わたしもはっきりとはイメージ出来てないっていうか…。格好良いメカならすぐに思い浮かぶんですけど……」

「そ、それはあんまり参考にならなそうだね…。うーん…ボクもこれ、っていうのはないけど、まずは格好良さ関係なく、二人に合いそうな服を選んでみるのはどうかな?それで、そこからより格好良い服装に切り替えていく…みたいな……」

「おぉー。ネプギア、アタシより頼もしそうだよ!」

「えぇと……」

 

 それは自虐なんですか…?だとしたら、一体わたしはどう返せば…?…という返しは飲み飲んで、5pb.さんの提案通りまずはお二人に似合いそうな服を考える。ただ格好良いファッションを、ってだけだとハードルが高いように感じるけど、そこに指針が一つ出来るだけで、ぐっとその難易度は下がってくれる。

 例えば、ケイブさんに似合いそうなのはシュッとしたシルエットの服とか、明るい色合いをしたファッション。ファルコムさんに似合いそうなのは、ジャケットみたいな羽織ものやベルトの意匠。途中までわたし達は、順調に服選びを進めていて……だけどある時、気付く。

 

「あ、あれ…。…ねぇ、ネプギアさん、REDさん…これって……」

「うん…なんか、見覚えがあるっていうか……」

「…今、お二人が着てる服…ですよね……」

 

 やけに順調だと思ったら、わたし達がしていたのは似合いそうな服の選択じゃなくて、ただの再現。本人のイメージに合うって意味ではばっちりだけど、ここからだとお二人も「見覚えがある…」って感想にしかならないだろうし、全体的に無難な結果にしかならない気がする。

 

(でも…ここからアップデートする、って事自体はそう間違ってもいないよね)

 

 元の雰囲気を残したままだと無難止まりになりそうだけど、スタート地点にする分には悪くない。これじゃ駄目じゃん、でただ否定しちゃ勿体ない。そんな思考の切り替えで、わたしは次の段階へと意識を向け、それをREDさん達に伝える。

 らしさ、を残しつつも、そのまんまで終わらないファッションを。それは口で言うよりずっと難しい事だけど、一人で考える必要はない。悩んだ時は相談すれば良いし、逆に相談を受けた時はわたしも自分の考えを言って、ちょっとずつファッションを組み替えていく。そして……

 

「ケイブさん、ファルコムさん、お待たせしましたっ」

 

 雑談をしつつ、お店の入り口付近にあるコーナーの商品を眺めていたお二人のところまで戻って、わたしは声を掛ける。わたしの呼び掛けに、お二人はぴくりと肩を震わせ振り向く。

 

「ネプギア、良さそうな服は見つかったかい?」

「はい。時間は掛かっちゃいましたけど…自信は、あります」

「…確かに、そのようね」

 

 ふふん、と胸を張るREDさんと、わたしの言葉に無言で頷く5pb.さん、わたしだけじゃなくお二人の顔を見て、ケイブさんは小さく微笑む。

 わたしはまず、ケイブさんに服を渡す。ケイブさんは、それを持って試着室へ向かう。試着室は一部屋じゃないし、ファルコムさんにも同時に着替えてもらってもいいんだけど…やっぱりここは一人ずつ着てみてほしいと思って、まずはケイブさんだけに渡した。

 

「三人共、ケイブにはどんな服を?」

「それは出てきてからのお楽しみかな!」

 

 まだ秘密にしようとするREDさんの言葉に、わたしもうんうんと首肯。その返答を受けたファルコムさんは、それなら仕方ないね、と言うように肩を竦めて…数分後、ケイブさんが試着室から姿を現す。

 

「…その…似合って、いるかしら……?」

 

 恥ずかしそうにほんのりと頬を染めて、試着室の中から出てきたケイブさん。そのケイブさんが今着ているのは、白のブラウスに、赤のタイトスカートとダークグレーのサイハイソックス。更にブラウスの上には黒のロングベストを羽織ってもらっていて…そんなケイブさんの姿を見たわたし達は、顔を見合わせる。そして……言う。

 

「いい…良いですケイブさん!スタイリッシュで大人格好良いというか、綺麗です!」

「うん、ボクもそう思う…!ケイブにはフォーマル寄りな格好が似合うと思ったから、こういうコーディネートにしたけど…思っていた以上に似合ってる…!」

「そ、そう…?…それなら、安心したわ。でも、フォーマルって言うならブラウスじゃなくて普通のシャツの方が良かったんじゃ…?」

「フォーマルそのものじゃなくて、フォーマル寄り…だからね。ちょっとだけ緩い…っていうか、女の子らしさも出してるのがポイントだよ」

 

 ぐっ、と胸の前で両手を握りながらわたしと5pb.さんが言えば、更にケイブさんは恥ずかしそうな顔をする。でも言葉通り、安心しているようでもあって……それからつんつんと、ワンポイントとして選んだ頭上のサングラスを指でつつく。

 

「…ところで、これなんだけど……」

「あ、それ選んだのアタシ!何となくだけど、こういう服ならその丸いサングラスが似合うと思ったんだー」

「そうなのね。それはまあ、いいんだけど…何というか、某コート集めが趣味のハンターっぽくなってないかしら……」

 

 何とも言えない表情をしたケイブさんに、わたし達も苦笑。というか、サングラスは渡しただけで、どう身に付けるかは指定してないのに、頭に掛けておくなんて…ケイブさん実は、結構乗り気だった…のかも?

 

「…でも、なんていうか……」

「……?どうしたの、ネプギア」

「あ…す、すみません。大した事じゃないです。ただ…格好良いし綺麗だけど、そういう部分が主体になってるからこそ、フリル付きのブラウスで可愛らしさも強調されてるっていうか…ケイブさんって、格好良さの中に可愛さもあるのかな…って」

「……っ!…た、大した事じゃないって割には…結構言うわね……」

「い、言われてみれば確かに……!」

 

 指摘されてからの自覚で、わたしも何だか恥ずかしくなる。けどケイブさんはそれ以上に恥ずかしがっているというか、顔が真っ赤で……だけど何故か、頬は微かに緩んでいた…ような気がした。

 ともかく、ケイブさんに選んだファッションは予想以上のばっちりさ。だからこれまで以上の自信を持って、今度はファルコムさんに服を渡す。ファルコムさんも、それを持って試着室に入る。

 

「ファルコムにも、私と同じような服を?」

「ううん。でも、どんな服装なのかは見てのお楽しみ…かな」

 

 さっきと同じようなやり取りを、今度はケイブさんと5pb.さんが交わす。ケイブさんの時もそうだったけど、自分が着る訳でもないのに少し感じる緊張を抱きながら、わたしは待ち…ケイブさんの時と同じ位の時間で、再び試着室の扉が開く。

 

「お待たせ、四人共。……どうかな?」

 

 いつもとそんなに変わらない…ように見えるファルコムさんだけど、よく見れば少しだけ落ち着かない様子。そんなファルコムさんに着てもらったのは、白のシャツと黒のホットパンツに、赤のレザージャケット。更に膝上までを覆う茶色のロングブーツも履いてもらっていて、ホットパンツとロングブーツにはそれぞれベルトがあしらってある。そして、その姿を見たわたし達の口から出たのは……歓声。

 

「わぁ…やっぱり格好良いですファルコムさん!クールというか、大人っぽさがより増したというか……!」

「うんうん、格好良いよファルコム!格好良いし、なんか強そうだよね!あ、でも、ファルコムは元から格好良いし強いと思うな!アタシはそういう嫁候補も好きだよ!」

「あ、ありがとう。REDの方は半分位いつもと同じような事を言っている気がするけど……そう言ってもらえるのは、悪い気はしないね」

 

 そう言って、ファルコムさんは肩を竦める。比較的ではあるけど、ファルコムさんに着てもらっているのは、ケイブさんに比べれば普段よく着ている服に似ているもので、だからその分ケイブさんより落ち着いている…のかもしれない。ただでも、わたしとしては一つだけ迷った部分が…ううん、今でも本当にこれでよかったか迷ってる部分があって……

 

「…あの、ファルコムさん。今更ですけど…スカートとかの方が良かったですか?」

「へっ?す、スカート……?」

「あ、ネプギアさんもそう思う?正直、ボクも選ぶ中でふとそう思ったっていうか、もっと探せばファルコムさんに合うスカートもありそうだっていうか……」

「え、いや、スカートは流石に……ほ、ほら、スカートと格好良さとはミスマッチだしね!」

「えー、そうかなー?格好良いスカートとかもあるんじゃない?」

 

 わたし、REDさん、5pb.さんで、スカートパターンも有りだったんじゃないかと盛り上がる。元々これは格好良いファッションを…って事だったし、初めは何となくスカートを選択肢から外していたけど、REDさんの言う通り、スカートにだって格好良くなるポテンシャルはある筈。でもファルコムさん自身はそう思わない…というより、スカートに対して距離を取ってるみたいで、ここにきてファルコムさんの顔が赤くなっていく。

 

「いや、いやいやいや…人には向き不向きがあってだね、やっぱりそこは弁えないといざという時に……」

「いざという時?…ファッションの、いざという時って…も、もしや好きな相手とか……」

「そ、そういう事じゃなくて!…うぅ…ならせめて、スカートの下にスパッツを履くとか……」

「いやそんな、某太陽の娘さんとか超電磁砲(レールガン)さんみたいな着こなしを主張されても……」

 

 別に今はホットパンツだから気にする必要なんかないのに、スカートの裾を引っ張るような仕草を見せるファルコムさん。その仕草も、恥ずかしがってる表情も、そもそもこの流れ自体もわたしにとっては予想外で…でもそんなファルコムさんは、凄く可愛かった。

 じわじわと可愛さが、きゅんとするものが見えてくるケイブさんの姿と、予想外の形でぐっと可愛さを見せてくるファルコムさんの姿。お二人はそれぞれ方向性が違っているけど、どちらも確かな可愛さがあって……わたしはREDさん、5pb.さんと深く頷き合う。

 

「格好良さを追い求めた先には、可愛さもある…そういう事だったんですね……!」

『違うと思うんだけど…!?』

 

 そんな結論に至らないで!?とばかりに背後からケイブさん、ファルコムさんに突っ込まれる。だけど実際、お二人のイメージに合う、格好良いファッションを考えていった結果(ファルコムさんは服装そのものではないけど)、可愛い姿が引き出されたのは間違いなくて……あっ。

 

「そうだ、REDさんと5pb.さんもどうですか?お二人もきっと、格好良い格好も似合うと思うんです」

「え、もしかして選んでくれるの?それじゃあお願いね!」

「あ、即答なんだ…。…うーん…でも、折角だし…ボクもお願い、しようかな」

 

 やる気のエンジンが掛かったわたしはREDさん5pb.さんにも提案し、了承を受ける。今度はこっちのお二人に待ってもらう形になって、再びわたしは服選びに入る。

 

「うぅん…お二人も格好良いところはあるけど、ケイブさんやファルコムさんとは方向性が違うし、勢いで提案しちゃったけどどうしよう……」

「お困りかな、ネプギア」

「この際、どこまで力になれるかは分からないけど手伝うわ」

「お二人共…ってあれ、いつの間に元の服に……?」

 

 まだ買った訳じゃないんだから、着替え直すのは当然の事…だけど、その着替えがあまりに早くてわたしは少しびっくり。まあでもお二人の意見を受けられるのはありがたいから、協力をお願いしてファッションを考えていく。

 格好良いより可愛い系なREDさんと、歌手のイメージが強い5pb.さんに合う、格好良い服装はどんなものか。やっぱりこれは、さっきよりも難しくて…でも、難しくても選ぶのは全然苦痛じゃなかった。

 

「REDさん、5pb.さん、出来ましたっ」

「あ……ふふっ、待ってたよネプギア」

「どんな服?どんな服?」

 

 楽しみだって気持ちを見せてくれるのはやっぱり嬉しいもの。特にREDさんは目を輝かせていて、それじゃあとまずはREDさんに服を渡す。

 先の二回の流れで分かっているからか、5pb.さんはREDさんにどんな服を渡したのか、自分はどんなファッションにしたのか…って事を訊いてはこない。だから四人で軽く話しながら待って…REDさんが、着替えを終える。

 

「ふふん、REDちゃんお着替え完了!」

 

 試着室の扉が開いた直後、ばっと出てくるREDさん。わたし達の前に躍り出たREDさんは、どうだ、とばかりに胸を張る。そうして現れたREDさんの服装は、赤のオーバーサイズパーカーにダメージ加工がされたデニムのショートパンツ。それに白のルーズソックスを合わせていて、頭には黒のキャスケット帽を被っている。そしてそれを見たわたし達は…一瞬、沈黙。

 

「……あれ?もしかして、似合ってない…?」

「あ、い、いえ。そんな事はないんです。ないんですけど……」

「…何かこう、格好良い要素がない訳じゃないけど……」

「…可愛いの方が、強いかもね」

 

 そう。似合ってるかどうかで言えば、似合っている。だけどケイブさんやファルコムさんの様にはいかず、可愛いの方が先に来る感じになっていた。…う、うーん…REDさんってお二人と違って背が高い訳じゃないし童顔だし、格好良くするのって予想以上に難しかったのかも…。ほんと、可愛さ目的ならばっちりだけど……。

 

「そっかぁ…でも、可愛いんだよね?」

「それは勿論。すっごく、可愛いです、REDさん!」

「それなら良し!じゃあじゃあ、これでネプギアもこれまでよりアタシにメロメロかな?」

「えぇ…と、それは……」

 

 そもそも別にメロメロって訳じゃ…と頬を掻きつつ、わたしは目を逸らす。そんなわたしの反応をどう思ったのか、REDさんはわたしに迫ってきて、見上げてきて……あっ。

 

「…格好良いかも」

「ほぇ?」

「今、気付いたんですけど…素の表情っていうか、落ち着いた様子だと、なんかちょっと格好良く見える気が……」

「え、そーなの?アタシ今、どうしたんだろうと思って見つめてたんだけど……もしかしてアタシ、クールキャラもいけそうって事?」

「そ、そういう訳じゃないと思います……」

 

 可愛さが強く見えたのは表情や言動も要因の一つであって、それを抜きにした状態だと可愛さと格好良さが共存する。これは完全に予想外で…だけどREDさんは、なんかちょっと飛躍した解釈をしていた。…こういうところも、お姉ちゃんと少し似てる気がするなぁ……。

…という感じで、少し予想外の展開だったけど、REDさんには満足してもらう事が出来た。一番難しいと思っていたREDさんに満足してもらえて、わたしもほっとした。だからわたしは、最後の一人…5pb.さんに服を渡す。

 

「よく考えたら、これボクがトリって事?うぅ、緊張するなぁ……」

 

 そう言いながら、5pb.さんは試着室へ入っていく。多分この中じゃ一番…それこそわたしより緊張慣れしててもおかしくない筈の5pb.さんだけど、それでも緊張するのはそういう性格だからだと思う。わたしもそういうタイプだから、分かる。

 そんな5pb.さんの事を待つ事数分弱。多分これまでの中で、一番おずおずと…控えめな様子で、ゆっくりと扉が開かれる。

 

「ど、どうかな?その…おかしかったり、しない……?」

 

 自信なさ気な様子で出てきた5pb.さんは、ちらちらとわたし達の方を見る。その5pb.さんのファッションは、グレーのワイシャツに水色のネクタイ、青のミニスカートに黒のアシンメトリーソックスと、肩をはだけさせた状態で着たハーフコートという出立ち。その格好を見たわたしは、REDさん達と顔を見合わせ…それから、拍手。

 

「す、凄い…凄いですよ5pb.さん!雰囲気がガラッと変わったというか、格好良さの伸びはここまでで一番な気がします!」

「えぇ、素敵よ5pb.。元々貴女はスレンダーなスタイルをしてるし、考えてみたら普段も暗色系のクールな服を好んでるから、結構格好良い系のファッションと親和性が高かったのかもしれないわね」

「同感。でも、もっと落ち着いた…というか、普段通りの調子でいたら、もっとそれっぽくなるんじゃないかな?」

 

 全く以ってその通りだと、わたしはお二人の発言に頷く。ある意味予想通り格好良くなったケイブさんやファルコムさん、基本は可愛さの方が強かったREDさんと違って、5pb.さんは綺麗で可愛いって印象から、一気にクールで格好良い印象へと変わっている。そしてその上で、アドバイスを受けた5pb.さんはキリッと表情を引き締めて…あ、いや、でも……。

 

「待って下さい5pb.さん。今のも良いんですけど、こう…もう少し気怠げというか……」

「け、気怠げ?こんな感じ……?」

「あ、はい、そんな感じです!それで更に、溜め息なんかも吐いちゃったり出来そうです?」

「溜め息……。…はぁ…これでいい?」

 

 片手を腰に当て、呆れたように吐息を漏らす5pb.さん。その姿から感じるのは、更なる格好良さ。クールはクールでも、ちょっと斜に構えてるというか、枯れてる感じというか…そういうのこそ、今の5pb.さんに似合う。しかもそれは、普段とのギャップががっつり効いてて…本当に、凄い。

 

「わぁぁ、凄い…なんかわたし、ここまでで一番興奮してる気がします!ダウナー系5pb.さん…いいかも……!」

「え、えぇ…?凄いって思ってもらえるのは嬉しいけど、そういう評価は流石にどう反応したらいいか分からないっていうか……」

「…あ、でも、勿論可愛いなって感じもありますよ?特に最初、わたし達が褒めた時の安心した顔とか、5pb.さんらしい良さがばっちり出てたと思いますし」

「ふぇっ?ちょ、ちょっとネプギア…そういう不意打ちの褒め方は、良くないよほんと……」

「え、あれ?何か、不味かったです……?」

 

 困ったように言う5pb.さんにわたしは困惑し、どういう事かと助言を求める…けど、ケイブさんはやれやれと首を横に振っていて、ファルコムさんも苦笑しつつ肩を竦めている。そしてREDさんは、きょとんとしていて……結局この意味は分からず終いだった。

 

「その…よく分からないけど、ごめんなさい……」

「あ…うん。別に強く責めてる訳じゃないから安心して。…それに、この服装自体は、ボクも結構気に入ってるし…」

「アタシもー!っていう訳で、買ってくるね!」

「こらこら、店内で走らない。…でも、折角こうしてネプギア達が選んでくれたんだから、あたしも買おうかな。…よく考えると、服を買う機会自体あんまりないし」

「私もそうしようかしら。誰かに選んでもらった服っていうのも、悪くないしね」

「…皆さん……」

 

 わいわいと、四人全員が服を持って(というかREDさんは着たままで)お会計へ向かう。まさか購入までしてくれるなんて、それも全員がだなんて全く予想していなかったわたしは、勿論びっくりして…だけどなんだか、嬉しかった。わたしなりに一生懸命考えて、似合うと思って選んだ服だからこそ、気に入ってもらえてほんとに良かった。…あ、でも…よく考えたら、元々は『しっくり』を感じてもらう為の服選びだっけ…まあでも、いっか。皆さんも、喜んでくれたみたいだし。

 

「今日はありがとう、皆。明日の本番に向けた、良いリフレッシュになったよ」

「それなら良かったわ。私からも、感謝するわ」

「いやいや、お礼を言われる程の事はしてないよ。ただ一緒に食事をして、その後街を回っただけなんだからね」

「そうそう、一緒に遊んで楽しんだだけなんだから、お礼なんて必要ないよ!」

「ふふ、ですよね。5pb.さん、明日も女神候補生として贔屓し過ぎない程度に協力しますから、頑張って下さい!」

 

 あからさまな贔屓は女神として良くないけど、何もしちゃいけないなんて事もない筈。だからわたしは明日の協力も約束して、REDさん達も明日観にいくと口々に伝える。

 元々は誤魔化しの為、思い付きで決まったショッピングと、そこからの服選び。こんな流れになるとは微塵も思っていなくて…だけど、充実した時間を過ごせた。これは勿論、わたしの閃きが凄い…って事じゃなくて、親しい仲間の皆さんと過ごす時間だったから。それに…ちょっとだけだけど、これまでよりわたしは、自分のセンスに自信を持てた。今回は一人で選んだんじゃないし、先に方向性が決まってたから上手く選べた点もあるけど…もしかしたら、わたしは女神としてだけじゃなくて、女の子としてもちょっとずつ成長出来てるのかな?…なんて。

 

「さて、それじゃあ次はどうする?明日の事を考えるなら、この辺りで解散しても良いのかもしれないけど」

「うーん…なんだかやり残した事があるような……」

 

 お店を出て街を歩く中、やり残し?とわたしはREDさんの発言に首を傾げる。全員の服を選んだし、当然お会計もしてるし、もうやり残した事なんて何も……そう思ったわたしだけど、そこで5pb.さんがあっ、と声を上げる。

 

「そうだ、ネプギアさんの服。ボク達だけ選んでもらって、ネプギアさんにはなし…なんて、それは違うよね?」

「そういえばそうだったわね。それじゃあ…今度は私達で、ネプギアの格好良いファッションを選ぶとしましょ」

「え、わ、わたしのですか……?」

 

 意外な答えに、わたしは目を丸くする。いやいや、わたしのは別に…と遠慮しようとしたけども、もうその時点で皆やる気満々で、既にどんなファッションにするか、どんな組み合わせが似合うかという話になっていて……結果、さっき出たばかりの服屋さんに、わたし達は蜻蛉返りをするのだった。




今回のパロディ解説

・「〜〜遊びでやってんじゃないんだよ!〜〜」
機動戦士Zガンダムの主人公、カミーユ・ビダンの名台詞の一つのパロディ。この台詞、割と使い易い方かな…とは思います。今回の様に、戦闘中やシリアスな場面以外で使うのはまた変わってきますけども。

・「〜〜某コート集めが趣味のハンター〜〜」
崩壊:スターレイルに登場するキャラの一人、カフカの事。今回登場したファッションについては、全員がそう…ではないにせよ、ある程度イメージしてるキャラ(の服装)はあったりします。

・「〜〜某太陽の娘さん〜〜」
軌跡シリーズの主人公の一人、エステル・ブライトの事。彼女の服装、最終的にはスカートとスパッツの合わせになってるんですよね。でもなんか、キャラのイメージには合っている気がします。

・「〜〜超電磁砲(レールガン)さん〜〜」
とあるシリーズの主人公(ヒロイン)の一人、御坂美琴の事。創作のキャラで、スカートの下にスパッツを履いているキャラ…というと、まず彼女を連想する方が多いかな、と思う私です。
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