超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
今という時代に、オリゼは…信次元の原初の女神は、再び現れた。過去とは違う形で、わたしやイリゼが望んで、もう一度形になった。だから今のオリゼは、わたしやイリゼとはまた別の意味で、本来の生まれ方をした女神じゃない。
そんなオリゼは、模索している。自分の歩む道を。今の自分が、嘗ての『原初の女神』とはもう同じではない自分が、どのようにして歩んでいくかを。でもそれは、前途多難な道。本当に、難しい歩みであると思う。……色んな意味で。
「オリゼ、準備は良い?」
「は、は、はいっ…!」
びくりと肩を震わせながら、オリゼは答える。そこまで緊張しなくても…と思ったけど、考えてみればオリゼは普段から割とびくびくしてたりするし、一応は今も平常運転の範囲…かもしれない。
ともかくわたし達は今、客人を待っている。ついさっき、間もなく着くという連絡があって…今度は職員から連絡が入る。それを受けたわたしは、オリゼに伝え、教会の礼拝堂へと向かう。そして客人を、迎え入れる。
「お邪魔します、セイツさん、イリゼ様m(_ _)m」
「えぇ、いらっしゃい」
「よ、ようこそっ、神生オデッセフィアの教会へ…!」
小さく笑みを浮かべて答えるわたしと、ぺこんと深く頭を下げるオリゼ。その大仰な返答に、わたしと客人の一人…イストワールは苦笑をし、残りの客人もそれぞれに反応。
「あぁうん、宜しく頼むよ」
「な、何もそこまで頭を下げなくても……」
「あ、頭をお上げ下さいオリゼ様!」
一人は軽く流し、一人は困惑し、一人はわたわたと言葉を返す。三者三様の反応を見せる…教祖の三人。イストワール含め、今日うちには…神生オデッセフィアの教会には、四ヶ国の教祖が揃って来ている。
「会う度感じるけど、これがあの時の原初の女神と同じとは思えないわね……」
「あはは…イリゼ様はネプテューヌさんに負けず劣らず女神化前後での変化が激しいですからね……( ̄▽ ̄;)」
「オリゼ様、ロム様とラム様がいつもお世話になっております。心ばかりのものですが、どうぞこちらを……」
「うぇっ!?あ、い、いやそんな、えっと……」
「受け取って良いと思うわよ、そっちの方がミナも安心するだろうし。…というか、こっちこそオリゼがお世話になっているわ」
「…雑談するのは構わないけど、一先ず移動するべきじゃないかな」
その場でやり取りを交わしていた(後、オリゼはお土産を受け取った)わたし達だけど、ケイに突っ込み…という程でもない指摘を受けて、それもそうだと移動をする。元々まずは行く予定だった応接室へと場所を移し、用意してもらったお茶で一息。
「こほん。それじゃあ改めて…教祖の皆、今日はよく来てくれたわ。皆忙しい身だし、あまりゆっくりは出来ないと思うけど、神生オデッセフィアの教会をよく見ていって頂戴」
教祖の皆を軽く見回し、わたしは言う。今日皆がうちに来たのは、見学の為。新たな国家、神生オデッセフィアの教会を見て回る事で、それぞれに学びや見識を得る…というのが、名目上の目的。
でも本当に、100%それだけが目的…という訳じゃない。むしろこれは、本当に名目上の目的であって、実際には教会と教会、国と国とのお付き合いというか、そういう事をした、しているっていう形を得る為のものだったりする。…なんて表現すると、無駄な事みたいに思えるかもしれないけど…こういう無駄を排して、合理的な事ばっかりしていると、むしろそっちの方が仕事上の、業務上の、利害だけの関係になっちゃって、上部だけのやり取りしか出来なくなるものなのよね。
「それから今回の案内は、オリゼが担当するわ」
「は、はい。わ、私が皆さん、を…案内、します。よ、宜しく…お、願いします…っ!」
わたしが視線を送りつつ振れば、オリゼは再び勢い良く頭を下げる。今は座っている事もあって、かなり頭とテーブルとの距離が近くなっていた。もう少しで触れそうだった。…ぶつけてたら、泣いていたんじゃないかしら……。
「…イストワール。彼女の案内は、大丈夫なの?」
「だ、大丈夫ですよ。その、不安になる気持ちは分かりますけど、実務能力は今も昔も変わりませんから( ̄O ̄;)」
「それはわたしも保証するわ。で、だけど…早速行く?」
「そうしてもらえると助かるよ。さっき君が言った通り、僕も忙しい身だからね」
「まあ…それは、そうですね。オリゼ様、こちらこそ宜しくお願いします」
という訳で、わたし達は応接室を出て、オリゼが案内を開始する。教会の中を、ぐるりと回るルートで歩き始める。
案内というのは、単に「どこに何があるか」を見てもらう事じゃない。そこで何をしているのか、どういう目的で設置されているのか、どのように職員が働いているのか…そういうあれこれを知ってもらうべく伝えるのが案内。そして、オリゼが出来ているかといえば……
「こ、ここが食堂…です。イリゼと、セイツは、て、定期的にここ…で、お昼ご飯を取って、います。食事の場、と時間…を、共有…する事で、職員の皆さんと親睦を深め、たり、交流を通じてリフレッシュしてもらったり…するのが、目的…です。ぁ、も、勿論私もそう、で…職員の皆さん…と、厨房の方が丹精込めて、作ってくれた食事を食べ、ながら、沢山の話が出来るのは…凄く、価値のある、時間…です…っ!」
いつものようにおどおどと、言葉も途切れ途切れの喋り方で話すオリゼ。けれど、ちゃんと説明が出来ていた。どんな料理があるか、何が美味しいか…みたいな職員としての目線じゃなく、人としてのトップであり、女神を直接支える立場でもある教祖相手の案内になっていた。
(…でもほんと、当たり前よね。女神としては、わたしやイリゼより、オリゼの方がずっと経験豊富なんだから)
時折投げ掛けられる質問にも懸命に答えながら、オリゼは案内を続ける。その姿を最後尾で眺めながら、わたしはオリゼの力を改めて感じる。
「…ねぇ、イストワール。イストワールにとっては、退屈な案内かしら?」
「そんな事ありませんよ。勿論ここの事は、案内されるまでもなく知っていますが……イリゼ様と、プラネテューヌの教祖として接する機会はあまりありませんから( ̄∇ ̄)」
「ああ、それはそうかもね」
家族であるからこそ、わたしが『原初の女神』としてのオリゼと接する機会があまりないように、イストワールもまた教祖として接する事は少ない。元々の目的とはズレているけど、これはこれで良い機会なった…イストワールはきっと、そう思ってくれている。…こうなると、イリゼもいれば尚良かったと思うけど…今は別な仕事で出てるのよね。これが女神の見学ならイリゼが直々にってしていたところなんだけども。
なんて、そんな事も考えながら、わたしはオリゼの案内を見守った。結果から言えば、わたしがフォローに入った場面は一つもなくて、案内としてはばっちりだった。そうして案内は、滞りなく終了し…だけどまだ、終わりじゃない。
「つ、続いてはっ、神生オデッセフィア教会で行っている、福利厚生や各種活動…に、ついて、せ、説明をします…!」
ぐるりと一周したところで、オリゼは教祖の皆を会議室の一つへ誘導。皆には座ってもらって、モニターを用いた説明を展開していく。
この説明に、原稿はない。暗記してるとかじゃなくて、そもそもオリゼには…わたし達には、必要ない。だって、全部頭に入っているし、熟知しているんだから。
「女神による、保育の活動…か。初めて聞いた時から中々悪くない活動だとは思っていたし、実際神生オデッセフィアへ移住する上での魅力の一つにはなっているだろうけど…人口が増えれば増える程、需要が増せば増す程、それに応えられない状況は増えていく筈だ。何せ、女神は二人、神を含めたとしても三人しかいないんだからね」
「さ、流石はケイさん…鋭い、指摘…です…!で、でも、安心して、下さい。日常的な、保育…だけでは、確かに手が…足りなくなりつつあります、が…女神が参加して、のお遊戯会、や…え、遠足など、より多くの子と接する、事の出来る…『思い出』を作れる、企画で対応していく…予定、です」
「それは良い事かと思います。ただ、だとしても女神様のご負担が気にはなりますね…保育である以上、どうしても時間の制約はあるでしょうし、一度行えば良いというものでもありませんし。その辺りの考えもお話し頂けますか?」
「あ、それなら教育についても訊きたいわ。保育の政策だとか、仕事や住まいみたいな働く人への支援だとかは色々あるようだけど、教育についての話は比較的少なかったように思うし」
「あ、は、はいっ。で、では先に教育の方からお話…を、します。空き家…な活用、は先程お話しした通り、ですが、現代…からすれば、古い作りである、事を利用し……」
当然こっちでも、色々と質問が上がる。見学も説明も知ってもらう、学びに繋げてもらう事が通常の目的ではあるけど、質問を受ける事で、逆にこっちが気付きを得る事もある。新たな視点を得る事は勿論、聞いた人はこう感じるのか…というのが分かるだけでも、情報として価値がある。
(参考になりそうな部分は参考にしようと思っているのか、指摘や質問を通じて塩を送ってくれているのか、単に興味から言っているのか…なんであれ、助かるわね)
教祖という、女神と共に国の運営を行う立場の彼女達がどんな意図で発言をしているのかは、分かりかねる。どれかじゃなくて、複数の意図があるのかもしれない。だからある意味ここにも、自国の利益を見据えた立ち回りがある筈で……だけど女神の皆と同じように、教祖の皆もお互いを競合相手だとは思っていても、殺伐とした関係を望んでいる訳じゃない、有効的な関係で在りたいと考えている…そんな意思が感じられるのも良かった。
そうして質問と回答の時間も暫く続いた。オリゼは答えられる事は全て答え、決まっていない事やこの場での即答は難しい事についてはその旨をきちんと伝え、誠実な対応を徹底していた。これはオリゼが心掛けてるって事じゃなく、元からオリゼがそういう性格、そういう性質であるって事なんだろうけど……その誠実さもあったおかげで、大分質問を引き出せていたように思う。
「ほ、他に質問…は、あ、ありますか…?もう大丈夫、ですか…?……で、では、これにて説明と、質疑応答…も、終了…さ、させて、頂き…ますっ!」
「はい。ありがとうございました、イリゼ様(´・∀・`)」
またまた深く頭を下げるオリゼにイストワールが応えて、三人も頷く。一先ずこれで、予定していた行程は終了。もしこれが女神の皆であれば、なんだかんだ毎回駄弁りに入ったり、イリゼがお菓子を振る舞ったり、場合によってはゲームに興じちゃったりする事もあるけど、教祖の皆だとそういう事はない…と思う。だから、このまま見送りをして、後は解散…となると思ったけど……
「あ、あ、あのっ。み、皆さん、ちょっとお時間頂けます…か……?」
なんだか某便利屋の平社員みたいな言い方で、教祖の皆を引き留めるオリゼ。これは誰も予想していなかったようで、わたし達全員が首を傾げる。
「どうか、なさいましたか?」
「そ、その…わ、私、皆さんと前から…お、お話を、して、みたくて……」
「話…?それは……」
「これまでの、女神と教祖としての話とは別…って事かしら?」
怪訝そうな顔でチカが問い、オリゼはこくこくと頷く。教祖の四人は顔を見合わせ…そして、首肯をする。一度は後にしていた椅子に、座り直す(勿論イストワールに関しては元から浮遊状態で本に座っているし、今もそうだけど)。
「で、話というのは具体的に何かな?」
「み、皆さんの事を、知りたいんです。女神を支えてきた…今という時代を、築き上げてきた皆さんの、こ、これまでの歩みを、聞いて…みたいん、です」
「あぁ、そういう…。…三人はともかく、アタクシはそんな立派な歩みなんてないわ。教祖としての経歴だって、一番浅いし……」
「そ、そんな事ありませんっ!きょ、教祖は人の、国民の代表、であり、最も女神の近くで人の在り方を伝えると共に、時には女神に変わって人を、国を取り纏める、多忙にして重責な務め…で、ある筈です…!人の為に在る、その為に存在する女神よりも、遥かに過酷な道な筈です…!それ…を、こうして今まで務めてみせて、いる…不甲斐ない姿を見せた女神に対しても、見限る事なく信じ、進化へ、と導いた…そんな皆さんが、立派ではない事など何があろうとあり得ません……っ!」
真剣そのものの表情で、更には興味津々な雰囲気で頼み込むオリゼの姿に、若干気圧される教祖の三人。イストワールは対象外という事もあってか、そんな様子に苦笑を見せる。…ちょっと良くない言い方もしてたし、それについて言っていた時三人は面白くなさそうな顔をしていたけども……その前後でやたらと称賛されたものだから、全体的に反応に困っていた。…これ、助け船を出した方がいいかしら…オリゼに悪意はないんだし、ここはわたしとイストワールが上手く仲裁するのが一番……
「…それ、に…皆さんの、ご、ご先祖様を…私は、知って…います。皆さん…の、ご先祖様も、立派な方で…私がオデッセフィアを築けたのは…国という形…で、人が一丸になって生きる信次元を作る事が出来たのは、皆さんのご先祖様のご協力が…あってこそ、でした。皆、それぞれの形で、わ、私を支えてくれた、多くの方々と共に、人の凄さを見せてくれた、私の大事な人達で…だ、だから、知りたいんです。そんな皆さんの、歩み…そのずっと先にいる、貴女達の事を」
そう、思っていたけれど、オリゼは更に言った。オリゼだからこその…遥かな昔に、信次元最初の女神として今に繋がる時代を作り上げてきた原初の女神としての、言葉と思いを。
声は辿々しい、でも思いは溢れんばかりに籠ったオリゼの言葉。それを受けた三人は顔を見合わせ…ミナが、口を開く。
「…分かりました。わたしも、オリゼ様のご期待に添えるような話が出来るかは不安ですが…聞いて頂けますか?」
「も、も、勿論ですっ!せ、セイツと揃って、勿論ですっ!」
「え、わたしも?…まぁ、折角だし聞かせてもらうけど……」
どうしてわたしもなのか、教祖という立派な人間の話なんだから聞きなさい、って事なのかは分からないけど、別に嫌って訳でもないし、わたしも佇まいを正して聞く事にする。
そうして聞いた、三人の教祖の話は…結論から言うと、聞けて良かった。思えばわたしは三人の事をよく知らなかったし、だから知る事が出来て良かった。それにやっぱり、三人共女神との関係を話す時は、それまでより感情の揺れ動きがあって…んふふ、良いものを見せてもらったわ♪
「はふぅ…いやぁ、しみじみとする時間だったわ……」
「わ、分かります…私も、凄く、しみじみしました……」
「ま、まさか同じ顔をするとは…。…セイツさんとオリゼ様が.その方向で共感する事なんてあるんですね……(。-∀-)」
「あはは……あの、ところで今更ですけれど、オリゼ様という呼び方は良かったのでしょうか…?オリゼ様というのは、本来の名前ではない訳ですし……」
「別にいいんじゃないかしら?当の本人は普通に受け止めてるし」
「そうですね。普通にというか、イリゼ様自身はその呼び方を気に入っていますから( ・∇・)」
「気に入っている、か…本当に、あの原初の女神と同一人物だとは思い難い程の変化だね。別に、否定するつもりはないけれど」
暫しわたしとオリゼとがぽわんとしていると、イストワール達は違う話を展開していた。それは特筆する事もないような、多分普通のやり取りで……でも何となく、そこはかとなくオリゼへ対する意識が、イストワール以外がオリゼに対して取っていた心の距離が、少しだけ変わったような気がした。自分の事を話して、それをオリゼが聞いた事で、ちょっぴりと距離が近付いたような……そんな風に、わたしは感じる。
(…でも、そっか…オリゼだって、『過去』の繋がりは沢山あるのよね。…わたしも……)
それと共に、わたしは思う。思い出す。わたしが初めて目覚めた時代を。そこで共に戦った、わたしを信じてくれた、皆の事を。
もう、全ては過去であり、終わった事。わたしは時間を過去に戻したい訳じゃない。だからただ、昔を懐かしんでいるだけ。今より遥かに不便で、大変で、何より討つべき悪神のいた……それでもそれぞれが懸命に生き、それぞれの思いを胸に歩んでいたあの時代が…皆の事が、ちょっぴり恋しくなっちゃっただけ。
そしてわたしは、皆の行く末を見守る事が出来なかった。神次元で、人の時代が続いていた事が、あの時の皆の『未来』を証明してはくれているけど、今のオリゼの様に、明確な繋がりを感じる事は出来ていないから……オリゼの事が、羨ましかった。
「セイツさーん?セーイーツーさーん?(・・?)」
「…ぁ……な、何かしら?」
「皆さん、お帰りですよ?わたしはこのまま泊まっていきますけどね( ̄∀ ̄)」
思っていたよりわたしは思考に耽ってしまっていたのか、イストワールに呼び掛けられて我に返る。オリゼ達は、わたしの事を怪訝そうな顔で見ていて…イリゼが別件で不在な今、神生オデッセフィアのもう一人の女神であるわたしが、変な姿を見せる訳にはいかない。だから意識を切り替えて、わたしも三人の見送りに向かう。…変な姿なら、普段から散々晒してる?し、失礼な。皆はわたしを変態だってよく言うけど、あれはあくまで弄りであって、世間一般基準で見ればわたしはそこまで変態なんかじゃないわ。……そう、よね…?
「皆、今日はわざわざ来てくれてありがとう。こちらとしても、今日は価値ある時間を過ごせたわ」
「こちらとしても、有意義な時間だったと思うよ。知っている情報だとしても、直接見て、その場で説明を受けると、また新たな発見があるものだからね」
「アタクシも、有意義だったと思うわ。お姉様が如何に素晴らしい女神か、とことん伝える事が出来た……それだけでもう、アタクシは満足だもの」
「あ、有意義に感じているのそこなんですね…。…わたしは身が引き締まる思いでした。違う国である以上、競う部分も当然ありますが、同時に今後も手を取り合える事を切に願います」
「み、皆さん、ありがとうございました…!わ、私も、凄く沢山の事を、教えて頂いて、学ばさせて頂いて、皆さんには感謝、しかなく──あぅッ!?」
「え、あの、イリゼ様…!?Σ(・□・;)」
ぺこぺこぺこん、と深く頭を下げまくるオリゼ。何度も何度も下げる姿に、わたし達は苦笑していたけど……最後の最後で、遂にオリゼは頭を下げる際にぶつけてしまう。開いていた扉にヘッドバットをしてしまい、みるみる内に瞳に涙が浮かんでいく。
こういう展開も、今や慣れたもの。だけど、慣れている=軽く流せる、ではない。というか、普通に考えて泣きそうなオリゼをスルー出来る訳がなくて…教祖の皆共々、わたしはオリゼを慌ててあやすのだった。
*
見学に来た教祖の三人は、帰っていった。実際どこまでの価値を皆に提供出来たかは分からないけど、感触としては悪くなかったと思う。三人が寄り道をしていない限り、恐らく時間的にはもう神生オデッセフィアを離れていて…だけど今日、うちの教会を訪れる予定になっていたのは、教祖の皆だけじゃない。
「お邪魔するわ!」
「ごめんなさい、ちょっと遅くなりました」
「取り敢えず、今日お世話になるお礼も兼ねたお土産よ」
教会の正面出入り口とは別、主に私用で使われる玄関から、三人の女の子が入ってくる。ミリオンアーサー、ゴッドイーター、ニトロプラス…第三期パーティー組の三人が、うちの教会を訪れた。
「いらっしゃい、三人共。お土産ありがとう……ってこれ、うちの国のお菓子じゃない…。いや、くれたものだし、うちのものを買ってくれるのは嬉しいけど、なんでうちのを……」
『それは……』
謎のチョイスにわたしが困惑していると、三人はバツが悪そうに目を逸らす。それから三人は理由を教えてくれたんだけど…結論から言うと、ここに来る直前で、何かお土産があった方がいいんじゃないか、という話になって、でももう近くまで来ちゃってたから、神生オデッセフィアのお土産品にするしかなかった…って事らしい。
「ミリオンアーサーはともかく、基本しっかりしてる印象の二人の二人までとはね……」
「む、失礼な。私もしっかりしているぞ。そうであろう?チーカマよ」
「えっ?」
「えっ?」
「…………」
何を言っているの?…とばかりに、ミリオンアーサーのパートナーである、チーカマが困惑の顔を見せる。煽りでも何でもない、純粋なその顔にミリオンアーサーは表情が固まり…流石にちょっと落ち込んでいた。
「…え、えぇと…取り敢えず上がって。ご飯、まだでしょ?」
「…そうね。行くわよ、ミリオンアーサー」
気を取り直すように、わたしは玄関口から中へ招く。向かうのはリビングで…入ったところで、ゴッドイーターが声を上げる。
「そういえば、今日イリゼ様はいないって話でしたよね。という事は、今日は出前ですか?」
「そうね。最初はそのつもりだったけど、今日は貴女達が泊まりに来るって事になったから……今回は特別に、このわたしが夕飯を作るわ!」
「お、おぉー……?」
ふふん、とわたしは胸を張る。それを受けて、ゴッドイーターは期待の声を上げ…てくれたら嬉しかったんだけど、実際に上がったのは困惑の声。…まあ、でも…仕方ないわね。わたし自身、その反応は理解出来るもの。
「…確認だけど、貴女料理は出来るの?」
そう。イリゼは一通り料理が出来るし、スイーツ作りは本当に上手だって事は皆も知っているけど、わたしに料理のイメージはないと思う。だからさっきのゴッドイーターの反応や、ニトロプラスの質問は当然の事で…でもわたしだって、料理が出来ない訳じゃない。
「安心して頂戴。わたしだって、実はちょっと出来るのよ。普段こっちにいる時はイリゼがいつも作ってくれるし、自分で作るより美味しいし上手ってなったら、お願いするのは当然の事でしょ?」
「…取り敢えず、それは自慢気に言う事じゃないと思うわ」
「でもほら、自慢の妹の話だし」
「……そう」
何ともまあ淡白な、ニトロプラスの反応。一応突っ込んではくれたけど…ちょっと味気ない。
でもまあ、それはそれ。彼女の性格は知ってるし、口下手なだけで内心で呆れてる事は…呆れの感情はばっちり感じられているから問題なし。
「ともかく、君が作るという事は分かった。では、期待はしてもいいのかな?」
「あ、復活したのねミリオンアーサー。まあ、期待してくれて良いわよ。今日作る予定なのは、わたしが作り慣れてる料理の一つだから」
話しながら、わたしはリビングから繋がる台所へと移る。手を洗い、今日の夕飯の準備に入る。
「あ、因みに苦手なもの、食べられないものって──」
「ないです!何でも食べられます!」
「そ、それは良かったわ。ミリオンアーサーとニトロプラスは……やっぱりチーズかまぼこと生肉?」
「いや、食べられるぞ」
「生肉は基本的にそのまま食べるものじゃないと思うんだけど……」
食い気味な反応なのはともかく、ゴッドイーターの答えは想定通り。ニトロプラスの返答と、ご尤も。ただ、ミリオンアーサーの回答については…なんていうか、それで良いのか不安だった。…だってほら、チーカマがなんて言ったらいいのか分からない感じの顔してるし…。
ま、まあだとしても、問題ないって事は分かった。これならいつも通りに作れそうね。
「皆、折角だし見る?別にそっちでくつろいでてもいいけど」
「ならば、君の腕前を見学させてもらおう」
「あたしもそうするわ」
「私も同じく」
「だったら、わたしの包丁捌きを見せてあげるわ!」
冷蔵庫から食材を出し、まな板の上で切っていく。野菜とベーコンを切り、細かくしていく。まずは普通に切っていって…ここからが、わたしの真骨頂。
「え?包丁二本…まさかこれは……」
「包丁の、二刀流?」
こくり、とわたしはゴッドイーターとニトロプラスの言葉に頷く。そしてその想像通り、わたしは左右両方の手に包丁を一本ずつ持ち、二本で更に細かく切り刻む。
別に、こうする事でより美味しくとか、普通じゃ出来ないサイズまで細かく出来るとか、そういう事は特にない。強いて言えばペースは上がるけど、ほんとにそれだけ。だからこれは、わたしが編み出した……単なる魅せ技。
「よし、こんなものね。もし要望があれば、音楽と映像に合わせて切りまくる芸もやるけど…どう?」
「いやそれはクッキングナビのコントじゃない…って、そういえば包丁の二本使いって……」
「ミュージック、スタート!」
『やらなくていい(ですよ!?・から!)』
途中で冗談も交えて、ゴッドイーターとチーカマから突っ込みも貰って、食材を切るパートは終了。そこで冷蔵庫からご飯も出し、油を敷いたフライパンをコンロに置く。順に食材を入れていって、炒めていく。
「ふむ…この食材といい、炒めている行程といい、さてはアレを作るつもりだな?」
「さて、それはどうかしら?違うかもしれないわよ」
今度は魅せ技とかもせず、普通に食材を炒める。途中で塩胡椒も加えて、味見もしつつ、整えていく。
段々香ってくる、良い匂い。正直、このままでも美味しそうな気がするし、偶に面倒になってこれで完成にしちゃったりする事もあるけど、流石に人へ振る舞う料理でそんな事はしない。あくまでちゃんと混ぜ、炒め…頃合いを見て、溶かした玉子を投入。それを絡めて、更に炒めて……完成。
「…ん、今回は中々良い出来ね。皆、お待たせ」
「やはり思った通り、炒飯だったな。ふふ、確かに美味しそうだ」
「でしょ?でも残念、これは炒飯じゃなくて──」
「焼き飯、ですよね?」
再び胸を張って言おうとしたわたし。でも、この料理が何なのか答えたのは、わたしではなくゴッドイーターだった。
「…分かってたの?」
「はい。炒飯だったら、先にご飯に玉子を絡めている筈ですから」
「…焼き飯と炒飯って違うの?」
「一応違うんですよ。今言った通り、玉子の投入タイミングが違いますし。ただでも、呼び方が違うだけで同じもの…って考えもありますし、味も同じ食材や味付けで作れば正直そんなに変わりませんし、実のところはっきり違うとまでは言えないというか、違うっていうのも違うという前提で考えるならこんな事が差と言えますよ…って程度の話でしかないんですよね。あ、でも、お店によってはちゃんと違うメニューとして提供してる場合もありますよ?その場合はさっきも言った、食材や味付けで違う料理に仕上げてる事が多く──」
「ま、待って。分かった、知りたい事はよく分かったから……」
凄くがっつり解説するゴッドイーターに気圧されたように、質問したニトロプラスが待ったを掛ける。流石ゴッドイーター、食への熱意は相変わらずね。…ニトロプラスの方は…多分、何の気無しに質問した事を後悔してたんじゃないかしら。
「さてと、それじゃあ後はスープね。確かこの辺に……あった」
「今から作るのか?わたしも料理に明るい訳ではないが、そういうのは同時並行で準備をするものではないのか?」
「あぁ、それなら大丈夫よ。だってスープは即席のだから」
答えながら、わたしは器に即席のオニオンスープの素を入れて、お湯を注ぐ。そんなわたしに向けられるのは、ぽかんとした表情。
「…今日は特別にわたしが作る、って言っていなかった?」
「だから焼き飯を作ったじゃない。スープはあんまり作らないし、慣れない事して失敗したら悪いでしょ?」
「い、いやまぁそれは…。…料理に関しては、セイツ様って結構ざっくりさっぱりしてるっていうか、イリゼ様と結構違うんですね……」
「性格が出ている気がするわね」
何だかゴッドイーターとニトロプラスがひそひそ話をしていたけれど、わたしは気にしない。フライパンや菜箸を取り敢えず水に漬けて置いて、よそった焼き飯とオニオンスープをリビングに運ぶ。
因みにこの際、ミリオンアーサーが真っ先に手伝ってくれた。何でも、美少女の手伝いをするのは王として当然の事だから、なんだとか。……配膳の手伝いって、王がする事かしら…いや、女神のわたしが料理も配膳もしてる時点で今更だけど…。
「あぁ、香ばしくて良い匂い…も、もう食べてもいいですか?」
「悪いけど、もう少し待ってもらえないかしら?多分だけど、そろそろ──」
「すみません、遅くなりましたセイツさん(><)」
「ぁ……こ、こんばんはっ、皆さん…!…あ、ち、違う…いらっしゃい、ませ、皆さん……!」
「ん、ドンピシャなタイミングね」
リビングに入ってくる、イストワールとオリゼ。二人はあの後出掛けていて、帰りに夕飯のデザートを買ってきてくれる事になっていた。その用事が想定より長くなっちゃう可能性もあった(あると聞いていた)から、一旦二人の分の焼き飯は別にしてたけど…これなら最初から並べていても良かったかもね。
「お帰り、二人共。デザートは何を買ってきてくれたの?」
「け、ケーキです。ケーキは、甘くて、美味しくて、見た目も綺麗…なので…とっても、良いんです、よ?」
「あはは、確かにね。それじゃあ二人の分もスープを用意するから、二人も手を洗って待ってて」
買ってきてくれたのは、ホールのショートケーキ。わたしが二人分のスープを用意している間に、ケーキを切り分けてくれていて……これで今度こそ、準備は完了。
『頂きます』
皆で手を合わせ、食事の挨拶。まずわたしは、自分で作った焼き飯をスプーンで口に運ぶ。味については、味見もしているからもう分かっている事だけど……うん、やっぱり中々の出来栄えね。
「…意外と美味しいわ」
「でしょ?って、意外は余計じゃないかしら?」
「ああ、確かに意外と美味しいな」
「ちょっとー?だから、意外は余計だと思うんだけど?」
「結構パワーのあるコンロみたいでしたので、もしかしたらと思ってましたけど、パラパラ具合はばっちりですね。味はちょっと濃いめですけどくどくはないですし、具材の大きさも丁度良いですし…うん、やっぱり美味しいです!」
「あ、う、うん…ありがとう、ゴッドイーター…。でもここは、貴女にも意外と美味しいって言ってもらいたかったわ……」
「え、えぇー……?」
褒めてくれるのは嬉しいけれど、ここは流れ的に…と微妙な心境になるわたし。ただまあ、イストワールやオリゼも美味しいと言ってくれた。…基本イリゼがいる時はイリゼが作ってくれるし、イリゼの方が上手なんだから、わざわざ自分が作ろうだなんて思わないけど…それでもこうして、美味しいって言ってもらえるのは心が温かくなるものよね。
「そういえば、ご飯は冷蔵庫から出してすぐに使っていたわよね。やっぱり、冷やご飯の方がパラパラになるの?」
「それはよく言われますね。でもそれが十分な効果を発揮するのは、業務用の高出力コンロの場合で、一般家庭のコンロの場合は一度温めた方が良いらしいですよ(´・∀・`)」
「……ねぇオリゼ、なんかこう…可愛くない?」
「わ、分かります。ほわわん、って気持ちになります、よね…!」
妖精みたいな見た目のイストワールと、パートナー妖精らしいチーカマのやり取り。それは何とも和むもので、わたしはオリゼとうんうん、と頷く。…因みにうちのコンロに結構パワーがあるのは、イリゼが料理をするからってのが理由。まあ実際、家庭用を大きく超えるようなパワーが求められる事はあんまりないけど、あって困る訳でもないし、今日みたいに人が集まったりする時はそのパワーが役立つ事もあるしね。
あぁ後、チーカマも焼き飯とスープを食べているわ。ついでにニトロプラスの相棒である生肉も食べているんだけど……
「やっぱりまだ少し熱いですにく。申し訳ないですけど、冷めるまでまたせてもらうですにく」
「悪いわねセイツ。生肉、身体が温まっちゃうと傷む可能性があるから……」
「だ、大丈夫よ。わたしは別に、出来立てにこだわってほしい訳じゃない……」
どこからどう見ても薄切りのロース肉な生肉が、焼き飯(ベーコンも入ってる)やオニオンスープを食べているというのは、シュールを超えて奇々怪々としか言いようのない光景だった。それに対して当たり前のような顔をしているニトロプラスも、なんか色々凄いとしか言いようがなかった。
「しかし、やはり美少女と食卓を共にするのが一番の隠し味だな。ゴッドイーターやニトロプラスだけでなく、セイツやイストワール、オリゼと共に食べる事が出来てわたしは嬉しいぞっ!」
「わたしも貴女の歓喜の感情が見られて嬉しいわっ!」
「お元気ですね、お二人は…。…皆さんは、最近行動を共にしているんでしたっけ?(。・ω・。)」
「あ、はいそうですよ。やっぱりこちらの次元はまだ慣れない場所も多いので、誰かと一緒の方が心強いというか……」
「それにまだこの次元にも、悪の残滓は点在する。旅をする上で、彼女達の助力を得られるのは助かるわ」
「あ、あ、あのっ。神生オデッセフィアに来た、時だけじゃ…なくて、いつでも私やセイツ達を、頼って…下、さい。わ、私達も、皆さんへの助力は、いつでもどこでも何度でも──ぴゃあっ!?」
「へ!?お、オリゼどうし…わひゃあっ!?」
食事をしながら、会話を交わす。教祖の皆とのやり取りは有意義なものだったけど、こういう雑談もまた日々に彩りを添えてくれるもので…けれどそんな中、突然オリゼが悲鳴?…の様な声を上げる。いきなりそんな声を上げるものだから、わたしはびっくりして……その直後、わたしの脚にぬるりとした、でもざらりとした感触もある、生温かい何かが触れる。触れたそれは、足先から脛の辺りまでを一気に滑る。
思わずオリゼと似たような声を上げてしまったわたしは、オリゼと共に速攻でテーブルの下を覗く。そして、テーブルの下にいたのは……
「キュイィー…キュウゥ!」
「あれ…?わぁぁっ、うちのアバどんがごめんなさい!」
「なんだか不満そうね…って、あぁ…二人共素足で何も食べるものがないから……」
「あぁ、そういえばアバとんは女の子の服が好物だったな。先日もニトロプラスの紐パンが食べられそうになった時は大変だった……」
「お、思い出させないで頂戴……」
慌ててゴッドイーターが謎の生物(?)であるアバどんを引っ張り出し、わたし達に平謝り。どうやら脚に何か履いていたら、それを食べられたいたっぽい。…生肉は見た目というか存在そのものが大分トリッキーだけど、アバどんもアバどんで大概よね…。
とまあ、こんなハプニングが起こりつつも、賑やかな夕食は進んでいく。皆焼き飯とスープを完食して、デザートのケーキも食べていく。もしここにイリゼがいたのなら、もっと楽しかったんだろうけど…別に第三期パーティー組の皆とは滅多に会えない訳じゃないし、イリゼがいないからこそ、わたしが皆に料理を振る舞う事に繋がった。それはそれで、悪くない。
「…あ…イストワール…お、お菓子……」
「あ、そうですね。先に渡しちゃいましょうか(о´∀`о)」
ショートケーキはスポンジと生クリームだけでも十分美味しいけど、この苺の甘酸っぱさが良いアクセントになるのよね、とか、やっぱりイリゼ、スイーツ作りの腕前凄いわよね…もうお店で提供出来るレベル、とは言わないにしてもこのケーキに追い縋れる位の味ではあるんだから、とか思いながら食べていたところで聞こえた、オリゼとイストワールのやり取り。どうも二人はケーキとは別に、三人に持って帰ってもらう用にお土産を買ってきてくれたらしく、オリゼが脇に置いていた紙袋を取り出す。
自国のお土産を、というのはベタだけど、折角うちの国に来ているんだから、うちならではの物を味わってほしいし、それで美味しいと思ってもらえたのなら尚嬉しい。…そう、わたしは思っていたんだけど……
『…………』
「ふぇ……?あ、あの…?み、皆さん……?」
「これ、って……」
紙袋の中から取り出されたのは、三人がお礼兼お土産として持ってきてくれたのと、同じお菓子。それが見えた瞬間、皆はぴくっと肩を揺らし、わたしは三人と顔を見合わせ……誰からともなく、何とも言えない苦笑をしてしまうのだった。
今回のパロディ解説
・「〜〜み、皆さん、ちょっとお時間頂けます…〜〜」、〜〜某便利屋の平社員〜〜
ブルーアーカイブに登場するキャラの一人、伊草ハルカ及び、彼女がメインとなるショート動画のパロディ。このシリーズ、かなり沢山あるんですよね。びっくりなものです。
・「も、も、勿論〜〜勿論ですっ!」
ちぃかわの主人公及び登場するキャラの一人(一匹?)、ちぃかわとハチワレの台詞(?)の一つのパロディ。五級に関しては、ちぃかわ以外が合格するシーンが好きですね。
・「〜〜クッキングナビのコント〜〜」
お笑い芸人、陣内智則さんのコントの一つの事。全体的に面白いコントですが、リズムゲーと化してるところが特に好きです。後、ナビのキャラがちょっとマリオに似てる気がします。