超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

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第二十四話 ギルド支部長

 女神の務めは、人を守り、導く事。戦闘も、国営も、結局のところはそこに帰結する。人がより安全に、より文化的に、より幸せに生きられるように…希望を持って、楽しく日々を重ねられるように邁進するのが、女神の仕事であり責務。それこそが、女神の在り方。

 だから、極端な話をするならば、女神の務めじゃない仕事なんてものは存在しない。世の中にある仕事は全て、直接的であれ間接的であれ、生きるのに必要不可欠か否かを問わず、どこかで『人の為』に繋がる訳だから。でもだからって凡ゆる事に手を出すのは現実的に不可能だし、それは現代社会の仕組みを否定しているようなもの。故に基本的には、『導く』の方…国営の方は、大枠も大枠と言うべき部分だけで、そこから先は大概どれも専門家やそれぞれの業界、機関や企業に任せている訳だけど……例外も、幾つか存在する。

 

「ふむふむ…うん、良いね。前の企画書で指摘されてた事がちゃんと反映されてるし、これなら進化してるってのがより分かり易い。だから後は……」

 

 送られてきたデータを見て、私は呟く。今のは完全に独り言。誰かと話している訳じゃないから、言う必要もないんだけども…ついつい言っちゃう事ってあるよね。

 

「こっちも良い…良いけど、ちょっと特典で押し切ろうって感じは否めないかな。それじゃ本末転倒だし、もっと色々詰めてもらわないと……」

 

 ただ目を通すだけじゃなく、指摘するべき事項は纏めて、その内容を送り返す。肯定するだけじゃいけない、それじゃあ確認の意味がないし、より良いものは生み出せない。だから大事なのは、より良いものへ繋がる指摘をする事。その際に、単なる否定ではなく『改善』の余地があると伝える事。それが出来てこそ、リーダーってもの。

 

(…でもほんと、ゲーム産業も軌道に乗ってきたな。うちの国の方向性も大分認知されてきてるみたいだし、これは順調と言えるよね)

 

 今の段階で送られてきた分の企画書データへ全て目を通した私は、うんうんと頷く。そして、人が生きる上で必須という訳ではない…だけど日々に彩りを与えてくれる、生活をより充実にする娯楽の一つである、ゲーム産業の伸びに頬が緩む。

 

「さってと、それじゃあお昼にしようかな。ライヌちゃんとるーちゃんも待ってるだろうし、取り敢えず机の上だけ片付けて……」

 

 私もセイツも定期的に食堂で、職員の皆と一緒に昼食を取っているけど、そうじゃない時は居住区画の方に戻って、ライヌちゃんやるーちゃんと食べる事が多い。可愛いライヌちゃんるーちゃんと戯れながら食べれば、疲れがあっても吹っ飛んでいく…っていうのもあるけど、いつも良い子にしてるライヌちゃんやるーちゃんとの時間を、仕事の合間に少しでも取りたいからって理由も大きい。今みたいに平和な時はいいけど、有事には教会を長期間離れる事も少なくないし、そういう時は当然構ってあげられない訳だから、その分一緒にいられる時はその時間を大切にしたい。

 ついでに言えば、セイツやオリゼも一緒に…って事も普通にある。仮に私が一緒に食べられない時も、大概はセイツかオリゼが、イストワールさんが来ていればイストワールさんが一緒にいてくれるから、そういう意味でも安心ってもの。ともかく私はすぐに戻るべく、手早く片付けをしようとして……そこで、私の携帯端末がメッセージを受け取った。

 

(あ、シーシャからだ。内容は……)

 

 まずは画面に表示された名前を確認し、続けざまに開いて中身も確認。メッセージの内容は、黄金の第三勢力(ゴールドサァド)…ギルドの人間として話したい事があるから、近日中で時間を取る事が出来ないか、というもの。あくまで個人のメッセージとして送ってるからか、文体は砕けた感じだけど…何となく、結構重要な話なんだろうなと私は思った。

 であれば断る理由も後回しにする理由もないと、私は明日にでも時間を作ると返す。それから机の上を片付け、執務室から居住区画に戻ったところで、なら明日で、と再びメッセージが送られてきた。…一体どんな話なんだろう。気にはなる、けど……

 

「…まあ、一刻を争う事ではないだろうし、そうでなくても早めに伝えておきたいならメッセージの中で書くだろうし、何にせよ明日には分かる事だもんね。それよりも……」

 

 私を見上げる、くりくりとした二対の瞳。嬉しそうに側に来てくれた、ライヌちゃんとるーちゃん。既に私の意識は、こっちに移っていて…決して長くはない、でもリラックス出来るお昼の時間を過ごした私は、明日の事を頭の端に留めつつ、仕事の続きに戻るのだった。

 

 

 

 

 翌日。待ち合わせは午後という事で、今日の仕事は午前で切り上げ終わりにした。まあ、黄金の第三勢力(ゴールドサァド)として話があるって事なら、今日の話も仕事の範疇になりそうだけども。

 

「ん〜、やっぱりこう、直接お店に行ってこそ感じられるもの…ってあるよね」

 

 誰かに伝える訳でもなく、一人うんうんと頷く私。まだ待ち合わせには少し時間があって、だから私は待ち合わせ場所の近くのゲームショップへと訪れていた。

 今の時代、わざわざ店舗に足を運ばなくても買い物をする事は出来る。店内で得られる情報よりも、家で調べた情報の方が参考になる…って場合も少なくない。だけど私が言っているのはそういう実益の話じゃなくて、気持ちの話で…要は、買い物を楽しむにはやっぱりお店に行ってこそだよね、って事。

 

(……うん?)

 

 今すぐ買いたい作品がある訳じゃないから、ウィンドウショッピングをするようにゆっくりと棚を見ていく私。当たり前だけど、このお店には私以外にもお客さんがいて……でもその中に、ちょっと気になる人もいた。

 それは、白茶色の長髪をポニーテールで纏め上げ、灰色の鎧を身に付けた女性。ゲームショップで鎧…っていうのも中々に異彩を放っているけど、そこはまあいい。パーティーメンバーの中には、同じように普段から鎧を着て生活してる子もいるし、逆に「え、それ普段着なの…?流石にちょっと露出が多いというか、それでいいの…?」…と言いたくなる子もいたりするから、私的には許容範囲。それよりも引っ掛かったのは、その人の表情で…彼女は、凄く厳しい表情をしていた。どのゲームを買うか迷っているのかな?とも思ったけど…その表情は、迷いを抱いている感じとも違う。

 

「…うぅ、ん……」

 

 どうしようかな、と私は足を止める。もし彼女が友達なら、勿論声を掛ける。何かあったのかと訊く。でも彼女はそうじゃない訳で……けど何か、悩みがあるのかもしれない。困っているのかもしれない。そう思うと、見て見ぬフリも出来なくて…だけどここ、ゲームショップなんだよね…悩みや困り事をゲームショップで考えるかって話でもあるんだよね…うーん迷う、迷うけど……少なくとも、ここで私が頭を捻っていても分からないままだよね。だったら思い切って話し掛け……

 

「あっ」

 

……ようと思ったタイミングで、女性はくるりと横を向き、そのまま立ち去ってしまった。私の決断は一足遅く、彼女がどうして厳しい表情をしていたのかは分からず終いになってしまった。

 

(…あれ、というか…あの人の顔、見覚えがあるような……)

 

 見えていたのは横顔で、確信こそないけれど、私は彼女を見た事がある気がする。どこかでちらっと…とかじゃなく、しっかり見た事あるような気がして……でも彼女の事について、私はじっくり考える事が出来なかった。いつの間にか、待ち合わせ時間が迫っていた事で。

 不味い不味い、と私も歩き出す。折角寄ったんだし、って事で買うつもりだった缶のお菓子(ゲームショップも色んな商品を取り扱うようになったよね)のお会計を済ませて、早足で待ち合わせ場所のカフェへ向かう。

 

「ごめん、お待たせ!」

「やっほー、イリゼ。待ってたよー」

「こんにちは、イリゼさん。遅刻ではないので大丈夫ですよ」

 

 指定されたカフェの前。そこには勿論シーシャがいて…けれどいたのは、彼女だけじゃなかった。ビーシャに、ケーシャに、エスーシャ…黄金の第三勢力(ゴールドサァド)の四人が、勢揃いしていた。

 

「君も忙しいだろうに、唐突な話で時間を取らせちゃって悪いわね。お詫び…っていう訳じゃないけど、ここの支払いはアタシが持つから、好きに頼んで頂戴」

「え、いいの?やった!」

「シーシャさん、ご馳走になります」

「ここで一番高い料理は……」

「うん、どうして三人まで奢ってもらおうとしているのかしら?普通に三人は自分で払ってくれる?」

 

 笑みを浮かべながらも眉間に青筋を立てる…所謂怒りを帯びた笑い顔を見せるシーシャに対し、ビーシャ達三人は逃げるように店内へ。私も苦笑しつつ、三人の後を追い…私達五人は、席に着く。

 

「うーん…じゃあ、私はチョコパフェを注文しようかな。ありがとね、シーシャ」

「なんのなんの。というか、イリゼは遠慮しないのが良いわよね」

「理由があっての事なら、変に遠慮するより、素直に申し出を受けて感謝する方が、シーシャも気持ち良くいられるでしょ?」

「…変に遠慮しない方が、むしろ相手に気持ち良くなってもらえる…じゃあ私も今度、似たような事があったらノワールさんに……」

「…えぇと…ケーシャ…?それは独り言…で、いいんだよね……?」

 

 これは良い事を聞いた、とばかりにぶつぶつ呟くケーシャに、隣のビーシャが困惑しながら軽く突っ込む。するとケーシャは、「あ、はい、そうですよ?」と動じる事なく答えていて……ケーシャって、一見普通の女の子な感じだけど、結構独特なところあるよね……。

 

「…さてと。それじゃあ本題に入る?それとも料理が来るまで待つ?」

「それでは時間が勿体無いだろう。料理もすぐに来る訳じゃないんだ、なら最初から話していた方が無駄がない」

「私もその方がいいと思います。その、真面目な話でもありますし」

 

 ならそうしようか、と早速話す事に決定。皆もそれぞれメニューへ目を通し、注文だけは先に済ませて、店員さんを見送り…私は、四人の事を順に見る。

 

「じゃあ、聞かせて。シーシャが…ううん、黄金の第三勢力(ゴールドサァド)の四人が、私に話したいって事を」

 

 私からの言葉に、四人は首肯する。そして、ビーシャ達の視線がシーシャへと集まり…シーシャは口を開く。

 

「今日こうして時間を取ってもらったのは、神生オデッセフィアのギルドの事…もっと言えば、ギルドの支部長に関して話をしたかったからよ」

「ギルドの支部長……って事はつまり、四人も黄金の第三勢力(ゴールドサァド)っていうより、各国のギルド支部長として話に来た…って訳?」

「それは…うーん、そう言われると難しいわね……」

「…どういう事?」

「そもそも黄金の第三勢力(ゴールドサァド)とギルドの支部長である事は、殆どイコールだ。わざわざ使い分ける状況というのは、そうそうない…と言う方が分かり易いか」

「それに、今回私達はギルドの支部長っていうより、ギルド本部の取締役として来ているっていうか…。…その、未だに取締役って肩書きには慣れないんですけど……」

「あ、それ分かる。わたしも取締役って言われても、自分の事だって実感がないんだよねー」

「あー…うん。何となく、言いたい事は分かってきたかな…」

 

 だよねだよね、とビーシャとケーシャが頷き合う中、私は呟く。まあ要は、ケーシャの言った通りギルド本部の人間として来てるんだって事だと思う。その中でも、四人は話の主題である『神生オデッセフィアのギルド支部長』と国は違えど同じ立場であり、更に黄金の第三勢力(ゴールドサァド)として女神と接する機会も多いからこそ、他の取締役ではなく、ケーシャ達四人が話に来た…という認識で合っている筈。

 

「こほん。じゃあ、話を進めるとして…イリゼは、ギルドの神生オデッセフィア支部を現在取り仕切ってるのが、一体誰か知ってるわよね?」

「それは勿論。話をした事だって何度もあるし……確か、現状じゃ支部長『代理』だったよね?」

「そう。支部長不在は不味いって事で、最初は彼の名前が上がったんだけど…知っての通り、彼も結構高齢でね。知識も経験も豊富だし、アタシ含めて本部でも一目置かれてる人ではあるんだけども、やっぱり寄る年波には勝てないって事で、元々正式な支部長が決まるまでの、一時的な代理なら引き受ける…って話になっていたのよ」

 

 確かに老年のお爺さんだもんね、と私は会話をしながら彼の姿を思い出す。確かに黄金の第三勢力(ゴールドサァド)はその性質上、それなり以上の戦闘能力が求められるし、そうでなくても歳の影響というのは大きいもの。…まあ、それを女神が語るのも妙な話だけど。後、多分彼もイヴォワール君と同じように、全盛期に比べれば大分衰えたというだけで、いざ動くとなればまだまだ中々のレベルを有しているんだと思うけど。

 

「で、そういう訳で一旦は代理を務めていてもらっていたんだけど、いつまでも代理をしていてもらう訳にはいかない…というかそれじゃ代理の意味がないし、正式な支部長を決める話は何度も行われていてね。これがまた一筋縄じゃいかない苦労の連続だったんだけども…聞きたい?」

「え、いや、聞きたいかって言われると…別に……」

「あはは、冗談よ。ともかくギルド本部としては、後任…というより本来の支部長を決める話が進んでて、もう誰に務めてもらいたいかは大方決まってるのよ。勿論正式な決定はまだだし、神生オデッセフィア支部の職員や、利用者からの反応も無下には出来ないから、話がひっくり返る可能性もまだあるけど…一先ず、貴女にはこの件を知っていてもらいたかった訳」

「そういう事ね。それなら事情は分かった…と言いたいところだけど……本当に、それだけ?」

 

 教会…ひいては女神とギルドは、協力関係にある。ギルド側では対応出来ない、或いは下手に手出しをするのは不味いような案件は女神や軍が対処し、逆に女神からの要請を受けて、ギルドがクエストという形で人を、戦力を募るというのは、どの国でも行われている事で、この持ちつ持たれつの関係を、神生オデッセフィアでも維持出来ればと私は思っている。ギルドの本部…支部それぞれが個々に十分成り立ち得る力と体制を有するからこそ、そんな各国支部が『一つの組織』として纏まる事が出来るよう、支部間の関係を取り持ち調整する…謂わば本部という名とは対照的に『支える』事をその責務とする本部からこの話が来たって事は、ギルドとしても同じように考えている筈。

 ただ私は、単に知っておいてほしかっただけではないように思った。今の話だけだったら、メッセージや電話で済ませても良さそうなものだから。そして、私の質問を聞いたシーシャは、小さく笑う。へぇ、よく分かってるじゃない…そう言わんばかりに。

 

「実はこの件、イリゼにも支持してほしいっていうか、賛成の立場を取ってほしいのよ。守護女神も賛成してるってなれば、話も円滑に進むしね」

「あ、だから話に来たんだ」

「確かに女神様の賛成があれば、納得する人も多そうですもんね…勉強になります」

「相変わらず抜け目ないな、シーシャ」

「あのねぇ…。…こほん。実際それで上手く話が進めば、イリゼも支部長と良好なスタートを切れるし、悪くない話でしょう?」

「確かにね。けど…それ、ギルドとしては良いの?それはギルドの……本来の黄金の第三勢力(ゴールドサァド)の理念に反するんじゃない?」

 

 好都合な話だと同感した上で、私は待ったを掛ける。今でこそ協力関係の女神とギルドだけど、本来ギルド…黄金の第三勢力(ゴールドサァド)はその名の通り、女神や国と一定の立場を取る存在。現実的には時の流れの中で変わっていったんだろうけど、だとしてもギルドは女神や国の下に付いている訳じゃないというスタンスは守るべきなんじゃないかというのが、私が待ったを掛けた理由で…私の待ったを受けたシーシャは、今度は軽く肩を竦める。

 

「えぇ、はっきり言って公的な賛成を受けるのは不味いわ。けど、私的にイリゼが賛成してるだけなら何の問題もないし、当然ここはアタシ達が個人的に集まってるだけ。そして、私的な賛成に説得力があったとしても、それは受け手がそう思っただけ…そうでしょ?」

「へぇー、そういうのって不味いんだ…。二人は知ってた?」

「わ、私も知りませんでした…うぅ、すみません……」

「興味ないね」

「……なんていうか…シーシャも大変だね…」

「はは…察してくれて嬉しいわ……」

 

 強かな雰囲気をシーシャが醸す中での、空気感ぶち壊しな三人の発言。しかもそれは、支部長的に結構アレな内容で…きっとシーシャは、普段から苦労してるんだろうね。

 

「ま、まあうん。事情は理解したし、そういう事なら私としても反対するつもりはないよ。…勿論、支部長候補を支持するかどうかは、その人次第だけど」

「分かっているわ。そこまでは強要出来ないし、ちゃんとイリゼ自身に見定めてもらいたいしね」

「…見定める、か」

「…どうかしたんですか、エスーシャさん」

「いや何、少し昔の事を思い出しただけだ。考えてみればわたしもベールのお眼鏡に適ったからこそ、協力関係を築けた訳だからな」

「あ…それは、私もです…!私が黄金の第三勢力(ゴールドサァド)をやっているのは、ノワールさんに勧められたからで、背中を押してくれたからで……」

 

 こくこくと、ケーシャがエスーシャの言葉に頷く。そこからケーシャは熱く、それはもう熱く如何にして自分がノワールから勧められたのか、それが自分にとってどれだけ光栄で、自分の歩む道を決定付けてくれるものだったのかを語り始める。まるで恋する少女の様なケーシャの語りに、初め私達はほっこりとして…けどその語りが、注文したメニューがテーブルに来るまでずーっと続いた事で、更にそれを理由に私達が止めるまでほんとに語りっ放しだった事で、最後にはほっこりどころかげんなりしていた。

 

「じゃ、じゃあ食べようか…」

「そうですねっ、頂きます♪」

 

 語りまくってご満悦なケーシャは、ショコラケーキを美味しそうに食べる。私達も小さく肩を竦め合い、頼んだものを食べ始める。ビーシャはプリンアラモード、エスーシャはチーズケーキ、シーシャはパンケーキ(デザートというよりはメイン出来そうなサイズ)を各々口にし、私もチョコパフェを堪能して…少ししたところで、「それにしても」とビーシャが口を開く。

 

「さっき、女神が公的に支部長の決定に関わるのは〜って話したよね?でもケーシャの言った通りなら、ノワールはすっごく関わってない?」

「そこはまあ、ノワールが上手くやったんじゃない?建前とか名目とか形式とかっていうものは、守るべきものであると同時に、上手く『使う』ものでもあるからね」

「うぇぇー…それ、わたしが苦手なタイプの話だ……」

「私も苦手です。…あ、いや、だからって悪いとか言う訳じゃなくて、上手く使える自信がないというか……」

「まあ、二人はそういう強かさを期待されてる訳じゃないだろうし、そのままでいいんじゃない?アタシも色々話はしたけど別に得意だとは思ってないし、アタシ達の中で上手く使えるのはエスーシャ位でしょ」

「わたしも別に、得意だと自負してる訳じゃない。ただ、守るべきものは守り、使えるものは最大限使う…誰でも普通にしている事を、わたしもしている、それだけの事だ」

「…っていう、建前な訳だね?」

「…さてな」

 

 私の言葉に、エスーシャは興味なさそうな顔をしてフォークをチーズケーキへと刺す。まあ、こういう反応をするだろうなとは思っていた。建前は、建前だと認めてしまったらその意味がない。だからこそ、はぐらかすのは当然の事。

 

「まあでも、なんか良いわよね。アタシもビーシャも割とすんなり支部長になった…というか、色々あってなっちゃった訳だし」

「だよねぇ。わたしもねぷねぷがいたから黄金の第三勢力(ゴールドサァド)に、みたいな…えっと、メガホーン?があったら良かったのになー」

「うん、多分それはバックボーンだね。…それで、その支部長候補はいつ紹介してくれるの?その辺りはまだ未定?」

「あ、いえ。それについてはいつというか……」

「…うん、丁度良い時間だね。実は今日、その支部長候補も神生オデッセフィアのギルド支部に呼んでるんだ。だから…会いに行こうじゃないか」

「へ?」

 

 紙ナプキンで口元を拭き、シーシャは立ち上がる。こくり、と三人もその言葉に頷く。

 てっきり私は、今日は今の話で終わりだと思っていた。でも、四人は完全にその気…というか、初めから会いに行くつもりだったようで…結果、私はまだ流れが飲み込めない内に、ギルド支部へと連れてかれるのだった。

 

 

 

 

 あくまで私的なやり取り、という形だったから、私と四人とはカフェで話をした。でも彼女と話すならこっちの方がいい…って事で、私達はギルドのロビーへと来ていた。

 ギルドには今、時間帯もあってかそこそこ多い数の人が来ていて、受付職員が忙しなく対応をしている。これは、ギルドがばっちり機能している、ギルドを活用したいと思う人が多い、というプラスの意味で捉えるべきか、多くの人が困っててギルドに依頼が集まっている…というマイナスの意味で捉えるべきか。うーん…いや、多分両方かな……。

 

「じゃ、イリゼはここで待ってて。…って事で、いいんだよね?」

「それを私に言われても……えぇと、ここにその支部長候補も呼ぶの?」

「いいえ」

「え、違うの?…というか、何その簡素な反応……」

「…こほん。勿論支部長候補もこのギルドに来る。だが、初めから女神も交えて…というのは流石に良くないからな。だからわたし達は、少し離れた席で話をする」

「それをイリゼには聞いててほしいの。話が順調に進んだら、その時は呼ぶからさ」

「…それって要は、聞き耳を立てていて…って事だよね?ちょっと気が引けるんだけど……」

「まあまあ、いいじゃない。…でも、そういう事なら…少しじゃなくて出来るだけ離れた席で話すとしましょ。普通なら聞こえないような距離で聞こえたとなったら、それはもう仕方がないし」

 

 ぱちん、とシーシャは私に向けてウインクをする。それに私は、小さく肩を竦めて頷く。

 普通なら聞こえない、それで聞こえたら仕方ない…つまり、シーシャは聞こうとした、聞かせようとした訳ではない、という状況を作ってくれたって事。さっきは「得意だとは思っていない」なんて言っていたけど…シーシャもばっちり、建前を使っていた。──人の姿でも身体能力や五感は並の人間を大きく超える、女神という存在を意図的に想定していないような建前を。

 

「ところで、その支部長候補って、どんな人なの?」

「どんな人…えぇと、なんというか……」

「んー…この中だと、性格はエスーシャに近いかしらね」

「え……」

「待て、何だその反応は。皆もどうしてやれやれ…と言いたげな顔をしている…」

 

 思わず出てしまった反応に、エスーシャが突っ込んでくる。でも、これは仕方がないと思う。だって…ねぇ?

 

「ま、まあ真面目な方ではありますから、そこは大丈夫だと思います…!」

「そ、そっか。…まぁ、それじゃあ…話が上手く進む事を期待しながら、待っているとするよ」

 

 その人が支部長就任に乗ってくれるかどうかは、その人自身の気持ちと、四人の話次第。ただ、四人が推してる人であれば信用は出来るだろうし、上手くいってほしいところ。

 そうして四人はこの場から離れ、私から見て背中側に当たるロビーの端っこへ。そこでシーシャが電話を掛けて…数分後、その人物は現れた。

 

「すまない、待たせたな」

「いやいや、昨日の今日で時間を合わせてもらったのはこっちだからね。まずはそれについて感謝を伝えさせてもらうわ──エフーシャ」

 

 静かな、でも堂々とした声音。それに対するシーシャが発した、一つの単語。エフーシャ。それが、彼女の…支部長候補の名前らしい。

 さて、それじゃあエフーシャという女性(声からして男性ではない…筈)は、一体どんな容姿をしているのか。聞き耳を立てる事に加えて覗き見までする事に若干の引け目を感じつつも、もしかすると今後新たな黄金の第三勢力(ゴールドサァド)の一人として、友好的な関係を結んでいく事になるかもしれない相手を知りたい思いから、私はちらりと肩越しに向こうを見て……

 

(…って、あの人は……)

 

 私は驚く。目を見開く。一瞬、見間違いじゃないかとすら思ってしまう。だって、そこにいたのは、記憶に新しい人物だったんだから。白茶色の髪に、赤い瞳に、灰色の鎧……ついさっき、ゲームショップで見たあの女の子だったんだから。

 

「元より最近は、こちらで活動をしているからな。それに黄金の第三勢力(ゴールドサァド)全員からの呼び出しとなれば、断る訳にもいくまい」

「これは業務上の呼び出しじゃないから、別に断っても良かったんだけどね。…勿論、雑談する為に呼び出した訳でもないんだけど」

「だろうな。…で、要件はなんだ」

 

 片目を閉じたまま、エフーシャは言葉を交わす。その雰囲気や、無駄な話をしようとしないスタンスは、確かにエスーシャと似ていて…彼女の言葉に、エスーシャが答える。

 

「単刀直入に言う。…と、言いたいところだが……」

「はい。これはギルドからの正式な話ではないですけど、黄金の第三勢力(ゴールドサァド)としての意見ではある…って事を、先に分かっていてもらえたらな…って思います」

「…………」

 

 ちらり、と確認するように目をやったエスーシャの視線に頷いて、ケーシャが言う。その言葉を受けて、エフーシャはほんの少し目付きを鋭くさせる。

 と、そこで私は気が付いた。ゲームショップの時点で、エスーシャに何となく見覚えがあると思った理由が。それは特別な何かがあったとかじゃなく、シンプルにここで…この神生オデッセフィアのギルド支部で、何度か彼女の事を見かけていたから。四人と話す上で特に緊張とかはしていないようだし、こちらで活動している…とも言っていたし、エスーシャはギルドの常連…それも黄金の第三勢力(ゴールドサァド)全員が知ってるレベルの人間なんだと思う。

 

「じゃあ、改めて単刀直入に言うね。…エスーシャが」

「そんな前置きはしなくてもいい…。…エフーシャ。わたし達は、君を神生オデッセフィアの支部長に推薦したい」

 

 ちらりと再び、私は振り向く。支部長推薦の話を聞いて、エフーシャがどんな反応をするのかが気になって、極力自然体を装いながら振り向いた。そして私が見たエフーシャは…目を見開いていた。ここまでは淡白な様子ばかりだったエフーシャが、初めて大きな反応を見せた。

 

「えっと…すみません。いきなり支部長に、なんて言われても、困惑しちゃいますよね」

「でも大丈夫!支部長って、わたしとかケーシャとかでも出来る仕事だから!」

「そ、そうですっ。私やビーシャさんでも出来るのが支部長なので、心配は要りません!」

(なんでそんな二人は自虐を……)

 

 恐らくはエフーシャを気遣っての発言なんだろうけど、聞いている身としては何とも微妙な心境になる。多分ビーシャは自虐してるって自覚もないんだろうし、ケーシャもケーシャで平常運転の範疇なんだろうけど…だからこそ余計に、何とも言えない気分だった。

…ま、まあそれはともかく、二人の発言に対してエフーシャは数秒沈黙する。これが私と同じように微妙な心境になっていたのか、別の理由があったのかは分からないけど…その数秒の間を経て、エフーシャは口を開く。

 

「…一つ、訊きたい。どうして私を推薦する」

「あぁ、やっぱりそれは気になる?…第一の理由は、単純に貴女が強いからよ。支部長ににまず必要なのは、純粋な実力。黄金の第三勢力(ゴールドサァド)の一角となる以上、生半可な脅威には屈しない、それを真正面から跳ね返せるだけの力は『象徴』って意味でも必要不可欠だからね。勿論支部の長になる以上、強ささえあればいいって訳じゃないけど…実務能力は周りが支えながら身に付けていってくれればいいし、実際アタシ達もそうしてもらってるわ」

「第二に必要なのは、別で本職を持っていない、或いはそれを辞める事だな。実務は周りが…とはいえ、流石に副業感覚でやれる務めではない」

「…それだけなら、私以外でも候補に上がりそうだな」

「えぇ、だから他にも色々理由があるわ。黄金の第三勢力(ゴールドサァド)は代替わりの時期がどの国も出来るだけ近い方がいい…って方針だから、アタシ達と同じように若い人材の方が良いし、場合によっては女神と敵対…とまでは言わずとも、はっきりと異を唱えられる、女神との距離を自己意思で決められる確固とした『自分』を持っている事も求められるし…後は単純に、アタシ達が個人としてエフーシャを信用してるってのもあるわね。まだまだ長くなっても良いなら、細かい理由も話すけど…どう?」

 

 聞いておく?と尋ねるシーシャに対し、エフーシャは首を横に振った。…因みに後々知った事だけど、黄金の第三勢力(ゴールドサァド)に求められる『女神に異を唱えられる』っていうのは、権力や立場に臆したり忖度したりする事なく自分の意思を貫けるか…が重要なのであって、別に仲良くしてたり深く尊敬していたりする事自体は問題じゃないんだとか。

 ともかく、理由を聞いたエフーシャは、再び沈黙した。あまり何度も振り向くとバレそうだから、今私は向こうを見ていない。見ていないから、表情も分からない。ただ、エフーシャはさっきよりも長く、じっくりと沈黙していて……その末に、言う。

 

「…理由は分かった。お前達全員からの推薦は、光栄だとも思う」

「……つまり?」

「──だが、断る」

 

 問うたエスーシャへの、エフーシャの答え。断るという、明確な否定。それは迷いの感じられない、本当に完全な否定で…四人は一瞬、息を呑んだ。

 

「そ、それって……微妙に誤用な気がする…!」

「えぇ…突っ込むところそこですか…?…あの、エフーシャさん。やっぱり黄金の第三勢力(ゴールドサァド)…支部長の役目は、重荷に感じますか…?」

「そういう訳ではない。勿論軽々しくなっていい立場ではないと思っているが、私が断る理由は別にある」

「その、理由っていうのは?」

 

 理由を訊かせてもらっても?…というニュアンスで、シーシャが投げ掛ける。そしてその言葉を受けたエフーシャは……言う。

 

「理由は一つ。私はこの国が……この国のゲームが、嫌いだからだ」

 

 飾る事も、言葉を選ぶ事もなく、言い切ったエフーシャ。嫌いだから。それはこれ以上ないと思う程の、単純で、明確で、だからこそ反論なんてしようのない……そう思わされてしまうような、理由だった。

 

 

 

 

 あれからエフーシャは、席を後にし立ち去っていった。話が済んだから、というのは勿論あるだろうし、このまま自分がいても気不味いだけだろう、という考えもあったのかもしれない。とにかくエフーシャはギルドを出ていって……ビーシャ達四人は、私のいる席に戻ってくる。

 

「いやぁ…ごめん。完全に拒否されちゃったわ」

 

 バツが悪そうな顔で、シーシャは頬を掻く。ビーシャやケーシャも申し訳なさそうで…一見平然としているエスーシャも、私が目を合わせようとすると、微かに視線を逸らしていた。

 

「うん…まあ、仕方ないよ。好き嫌いは人それぞれだし、エフーシャにはエフーシャの考えがあるだろうし。…でも……」

 

 流石にやっぱり、ああもはっきり言われたらショックかな…と、私は心の中で呟く。勿論、神生オデッセフィアやうちの国のゲームが、万人に愛されるとは思っていない。それを理想にはしているけど、嫌いだって思う人や、快く思わない人がいるのは当然だし、それについてとやかく言うつもりはない。何が好きで、何が嫌いかなんて…本当に、一人一人の自由だから。それでも、否定されるっていうのは悲しい、辛い部分があって……四人は私の心境を察してくれたのか、飲み物を持ってきてくれた。…一人一杯、計四杯を。

 

「…これは、どういう事か一応訊いてもいい?」

「えっと…お茶、ですね……」

「それは見れば分かるよ…。…いやね、シーシャが立って、カップ式の自販機の方へ行ったのを皮切りに、皆がその後を追った時点で嫌な予感はしてたよ?特に最後の一人なんて、飲み物取りに行かなきゃ色々気不味い状況だったとは思うよ?けどだからって、各々注いでこなくてもいいじゃない…しかも全部同じ内容って……」

「ま、まあでも、チャイ九杯よりはマシでしょ?」

「それが比較対象になってる時点でおかしいと思おうよ!?…全くもう……」

 

 せめて違う内容だったら…と思いながら、私はお茶に口を付ける。取り敢えず一杯目をぐっと飲み干して、二杯目も一口飲んで…言葉を続ける。

 

「…それで、四人としてはこれからどうするつもり?別の候補を当たる?それとも……」

「いや、イリゼが嫌でなければ、アタシは作戦を練った上でもう一度声を掛けてみるつもりよ。アタシだって、二つ返事で支部長になった訳じゃないし。ただ……」

「ただ?」

「アタシ、明日は一緒にブランちゃんをからか…もとい、ブランちゃんと遊ぼうって、ロムちゃんとラムちゃんに誘われてるから、今日はもう帰らなくちゃいけないのよね」

「え、あ…えぇー…?そうなの……?」

「あ、実はわたしも明日はねぷねぷとゲームする約束してるから、わたしも今日は無理かな」

「えと、すみません。私もシアンさんが試作したっていうライフルを見に行かないかって、ユニさんからお誘いを受けてて……」

 

 女神と約束が…と言って、次々に立ち上がる三人。私同様、皆も仕事中にここに来てる訳じゃないみたいだから、帰っちゃいけない理由はない訳だけど…立て続けに三人が帰ってしまった事で、あっという間に残るは私とエスーシャだけに。

 

「…………」

「…えぇ、と…どうする…?もし良ければ、私としてはエフーシャについての話を訊きたい──」

 

 言い切る直前、着信音を鳴らすエスーシャの携帯端末。小さく私が頷けば、エスーシャは電話に出て…微かにだけど、電話口からはベールの声が聞こえてくる。

 

「…レイド戦?あぁ、あのオンラインゲームのか。確かにわたしもやってはいるが、今回のイベントに興味はな……いや、それは……だから……」

 

 何やら期間限定イベントの話をしているらしい、電話のやり取り。初めは断ろうとしていたエスーシャだけど、かなりの勢いでベールに捲し立てられているのか、段々と劣勢になっていく。そして……

 

「……今夜のイベントレイドに欠員が出たらしく、その代役をする事になった…」

「そ、そうなんだ……」

 

 いつも以上にテンション低めとなった状態で、エスーシャもギルドから去っていく。そうして遂に、この席にいるのは私一人になり……直接ではないとはいえ、嫌いだと言われ、更に一人取り残されるという、また新たな繋がりが生まれるかもしれないという期待から一転して、色々居た堪れない状況と心境に陥る私だった。




今回のパロディ解説

・「〜〜メガホーン〜〜」
ポケモンシリーズに登場する技の一つの事。虫タイプの強力な技ですが…これ、角で突くとどう違うんでしょうね。勢いとか角の硬さとかが違うのでしょうか。

・「──だが、断る」
ジョジョシリーズに登場するキャラの一人、岸辺露伴の名台詞の一つのパロディ。その後の反応でも触れていますが、この台詞って、単なる否定…って訳じゃないんですよね。

・「〜〜チャイ九杯〜〜」
どうぶつの森シリーズに登場するキャラの一人、チャイがとびだせ どうぶつの森の漫画にて発した台詞の一つのパロディ。これがパロネタだと分かった人(元ネタ分かった人)はかなり少ないかと思います。
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