超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
ただ、だからといって私のスタンスは変わらない。
「んー……」
「ど、どうかしたんです、か…?」
昨日の今日である、翌日の朝。こういう表現をすると、昨日なのか今日なのか翌日なのかややこしい…というのはさておき、朝食の最中に私はオリゼから声を掛けられる。じっ、と私を見つめている事からして、表情か態度に出ていたらしい。
「あぁうん、ちょっとね」
「ちょっと…?ちょ、ちょっと…って、いうのは……」
「えぇと…人間関係というか、気になる人がいる……みたいな?」
「へぇ……え、何それ恋!?相手は誰!?」
「ちょっ、違う違う!勘違いしないで!?」
ちょっと、じゃ納得してくれなかったオリゼへ更に返すと、今度はセイツが食い付いてくる。かなり前のめりに訊いてくる。確かに私も、ぼかすような言い方をしたけど…だからって、こんな食い付く必要ある…?
「というか、既にセイツ興奮してない…?今は私、そんな感情を揺らしてたりしてないよね?」
「いや、妹が恋してるのかもってなったら、普通テンション上がるでしょ」
「そ、そういうものなの…?」
「そういうものなの。で、誰なの?わたしは別に、恋愛対象についてどうこう言うつもりはないけど、相手によっては姉として待ったを掛けさせてもらうわ」
「だからそうじゃないって……」
これはちゃんと説明しないと誤解が進んでしまいそうだ、とエフーシャの事を、昨日あった事を掻い摘んで話す。考えてみれば、ギルドの支部長であればセイツは勿論、オリゼだって関係を築く必要がある筈なんだから、どちらにせよ話をするべきだった。
「ははぁ、そういう事ね。それなら確かに、気になるのも納得よ」
「…イリゼ。き、嫌い…というのは……」
「分かってる。それは悪い事じゃないし、私は女神として好きになってもらえるよう努力するまで…ただそれを含めて、私はもっとエフーシャの事を知りたいんだよね。知らなくちゃ、何も始まらないし」
私の言葉に、オリゼもセイツもこくりと頷く。私はまだ、エフーシャの事を殆ど知らない。知らないから、何をどうするかも、その判断についても、まだまだ出来ない。嫌いだって事についても…その理由を、背景を知らなくちゃ、好きになってもらえる道なんて開ける筈がない。
そんな私の考えに対し、二人は協力の姿勢を見せてくれた。だけどまだ、今の時点では、私一人…というか、私と
という訳で、また何かあれば話すと二人に伝え、私は朝食に戻った。しっかりと食べ、今日の仕事に向かった。エフーシャの事は気になるけど…それはそれ、これはこれ。私は神生オデッセフィアの守護女神、皆の女神なんだから、国の長としてやるべき事はしないと…ね。
*
机に向かっての仕事、人と会っての仕事、大勢の相手に向かっての仕事…女神の仕事も、その中身は色々とある。当たり前の事ではあるけど、何か一つの事をやり続ける…って仕事は、あまりないんじゃないかと思う。例えばクリエイターと呼ばれる類いの仕事も、メインの創作だけをしていれば良い訳じゃなくて、担当の人や取引相手とのやり取りは当然仕事の中で必要な訳だし。
そんな女神の仕事、務めの中で、特に重要なのは何か。それを定めるのは、中々に難しい…というより、重要な務めが沢山あるのも女神というもの。ただ、その上で敢えて挙げるならば、やっぱり──。
「ここか…確かに結構いるね……」
ぐるりと眼下を一望出来る崖の上で、私は目を凝らして呟く。私が今いるのは、神生オデッセフィアの生活圏外、環境調査を行っているエリアで…私が見ているのは、調査拠点にたむろするモンスターの群れ。
拠点といっても、そう大規模なものじゃない。撤収するとなれば、さっさと片付けられる程度のもので…だとしても、必要だから設置している。どうにもならないなら仕方ないけど、まだそういう段階でもない。
(今なら不意打ちの長距離である程度数を減らせる。…けど……)
頭に浮かんだ選択肢を、私は否定する。駄目だと思った理由は二つ。一つは精度の問題。圧縮シェアエナジーの解放を用いた武器の射出は、その性質上精密攻撃に向かないし、これで範囲攻撃をしようとなると、拠点にもかなりの被害が出てしまう。この精度の問題は、射出じゃなくて投擲を行う事である程度カバー出来るけど…そうなるともう一つの問題、制圧力の低さにぶつかる。当たり前だけど、普通の武器を投げるだけで複数のモンスターを撃破するのは困難だし、纏めて撃破出来る程の巨大な物を投げたら、結局拠点に被害が出るし、そもそも認識の外から攻撃を受ければ、モンスターの群れはパニックになる。それで暴れて拠点がボロボロに…っていうのも、出来れば避けたい。
だから、拠点への被害を極力抑えつつ退治するには、まず群れに私の存在を認識してもらい、その上で近接戦に入るのが無難。方針を決めた私は、早速崖下へ向けて飛び立とうとし…でもそこで、もう一つ思考。群れの規模とモンスターの種類を確認してから…私は、女神化を解く。
「…さて、それじゃあ行こうか…なッ!」
小さく息を吐き、私は軽く地面を蹴る。崖の上から飛ぶのではなく跳び…音と砂煙を上げながら、崖を滑るようにして降りる。
これは、断崖の様な崖ではなく、一応は斜面になっている崖だから出来る事。勿論安全とは程遠い、女神であっても気を抜けば即バランスを崩して転がり落ちてしまうような芸当だけども、私は転倒する事なく滑っていく。そうして拠点が近付く中で、モンスターの群れは音に、私の存在に気付いて唸りを上げる。
「ここは我等は管理する拠点だ、命が惜しくば直ちに退いてもらおうか!…と言っても、聞き入れてはくれないんだろう……ねッ!」
これが返答だとばかりに、一体のモンスターが跳んで私に飛び掛かってくる。それを見据えた私は、ギリギリのタイミングで踏み切り、同じように跳び上がり…一閃。両手持ちのバスタードソードですれ違いざまに両断し、拠点の端へと片膝立ちで着地する。
更に唸り、威嚇してくるモンスターの群れ。私が立ち上がり、睨みを効かせれば、唸りは短く、低くなり……次の瞬間、次々と襲い掛かってきた。
「ふッ、ほッ、よっと!」
体当たりを躱し、爪の攻撃をバスタードソードで凌ぎ、噛み付いてきた個体はその顎を膝で蹴り上げる。多勢に無勢の場合、下手に守勢に回れば物量ですり潰されるけど、だからって普通に仕掛けても横や後ろから攻撃されるだけ。だから必要なのは、攻撃にせよ防御にせよ、囲んで袋叩き…という状況を作らない事。常に動き回り、同時に相手の位置を把握して、一度に多数を相手取らなくてもいいようにする事。
「せぇいッ!」
強引に包囲しようという気配を感じた私は、派手に回転斬りをする事で纏めてに牽制。大振りの攻撃をした事で隙が生まれ、動きの止まったモンスターの後ろから別の個体が飛び越える形で現れたけど、それはむしろ好都合。回転斬りから強引に突き上げへと繋げ、モンスターを下から一気に貫く。そのままバスタードソードを振り下ろし、突き刺したモンスターを地面へ打ち付け跳ね飛ばす。
包囲されない立ち回りをしつつ、着実にダメージを与え、確実に相手の数を減らしていく。欲張らず、でも時に大胆さを交える事が、対多数戦の鉄則。もし私にマルチロックオンからのフルバーストをする能力とかがあるならまた別だけど…そうじゃないんだから、こういう立ち回りをするのが最善。
(思ったより、設備は破壊されてないな。食料は荒らされてるだろうけど、その程度で済んでるなら……)
群れの動きを把握すると共に、拠点の状態も確認する。当たり前ではあるけど、私の目的は群れを排除し、拠点を奪還する事。大規模でも重要な位置にある訳でもないから、壊滅状態なら放棄するのも一手だし、逆に被害が少なければ少ない程ありがたい。だからこそ、今の状態は好都合で、同時により慎重な立ち回りが求められる。割と無事だからこそ、この状態を崩さないまま掃討したい。
とはいえ、そう難しい話でもない。今の時点でも着実に数を減らせているし、相手の数が減れば減る程、戦況は良くなっていく。何より私は今、人の姿で戦っている。敢えて自分に制限を付ける事で、この戦闘を鍛錬の場にも仕立てている。要はまだまだ余裕がある、最悪女神化して戦えば良い訳で、焦る必要は何もない……そう、思っている時だった。
「──くぁっ!?」
背後に感じた、本能的な危機。咄嗟に、反射的に、私は振り向きバスタードソードを振り上げ……飛来した魔法攻撃を寸前で斬り裂く。
「増援…!?…いやでも、これは……」
攻撃そのものは、対処出来た。私にダメージはなく、今の魔法攻撃へ対処した隙を突かれて…という事にもなっていない。だけどだからといって、安堵出来る状況でもない。
想定外の攻撃に対し、最初私は、別の場所にいた…或いは隠れていた群れの仲間が現れたのかと思った。だけど、違う。今の魔法攻撃は…というより遠隔攻撃自体が、ここまではなかった。それがあるなら使ってこなかった理由が分からないし…群れのモンスターの動きもおかしい。今見えているのは、これまでとは違う警戒と……動揺。そしてその意味、今起こった事の真実が…明らかになる。
「……っ…そういう事か……」
再び飛んでくる魔法攻撃。それも今度は複数の遠隔攻撃が、森から飛んでくる。それ等は私だけでなく、モンスターの群れも同時に襲う。
それも凌いだ私が見たのは、森から出てくる何体ものモンスターの姿。それは鉱物が人に近い形を取ったモンスターの群れで…私がこれまで戦っていたのは、狼を思わせる体躯のモンスター。狼型の方は、鉱物モンスターに対して威嚇をしていて…これでもう、はっきりした。これは増援じゃなくて、別の群れだと。私がこの場を占領していた群れの戦力を削った事で、これ幸いと乱入してきた別勢力だと。
(不味いなこれは…遠隔攻撃持ちとの乱戦になったら、一気に被害が広がりかねない……)
勝てないんじゃないか…なんていう不安はない。まだ勝機はあるし、群れ同士が激突してくれれば、私は漁夫の利を狙う立ち回りをする事も出来る。でも、私にとってのベストは拠点の被害を極力抑えて戦闘を終わらせる事であり、その面においてはこの乱入によって難易度が跳ね上がってしまった。別々の群れである以上は、上手く引き付けてこの場から離す…って事も狙い辛い。
じゃあ、どうするか。仕方ないから被害は受け入れる…なんて選択肢はない。今私が取るべき選択は、女神化をして新たに現れた群れの方を速攻排除する事。とにかくまずは、遠隔攻撃待ちを潰してしまう事。女神化しても尚、少しばかり大変な戦いにはなるだろうけど、決してやれない事はない……
「……え?」
そう、思っていた時。私が一度後ろに跳び、女神化しようと思っていた時…鉱物モンスターの一体が、突然倒れる。うつ伏せの形で、ばたりと倒れ……その背後から剣を突き立てる形で、一人の女性が姿を現す。
「そこの刀剣使い、加勢する。まだやれるな?」
「……!貴女は……」
私は驚く。まずは当然、この場に人が現れた事に。背後から奇襲したとはいえ、タフな鉱物モンスターモンスターを一撃で仕留めるだけの実力を持った人物が、こんな絶好のタイミングで現れてくれた事に。
でも、直後に私は更に驚いた。現れた人物が、誰なのか気付いた事で。その人物が……エフーシャだった事で。
「……何か?」
「(あれ、私が女神だって気付いていない?…だとしたら……)…ううん、助太刀に感謝する…!」
明らかに私を誰なのか分かっていないエフーシャの様子に、私は困惑する。だけどよく考えたら、今の私は人の姿だし、エフーシャは別に私を含めた女神と親しい訳じゃない(多分)だろうから、分からなくてもそうおかしい事はない。そして今はその事よりも、モンスターの群れの撃破が先決。
まだ動揺と新手の存在で動きが鈍っている狼型モンスターを、横から叩く形で立て続けに複数撃破。それにより群れの方も再度私を強く警戒するけども、さっきまでのような動きはない。…当たり前だよね。さっきまでは私一人が敵だったのに、今はエフーシャに別の群れと、敵の数が一気に増加したんだから。
「申し訳ないけど、私は極力この拠点の被害を抑えたいの!それを意識しながらの戦闘は出来そう?」
「被害を抑えて、か…面倒だが、やれるだけはやってみよう」
分かった、と示すように、エフーシャは撃破したのとは別の鉱物モンスターへと接近。遠隔攻撃を受ける前に肉薄し、比較的脆い関節部を狙って鋭い剣撃を打ち込む。続けて蹴飛ばし、倒れたモンスターへ剣を突き立て、反撃を許さないまま二体目も倒す。
(…上手いな。堅実だし、しっかり相手や周りを見てる)
向こうの動きの鈍りを突き、これまでよりも激しく動き回りながら、積極的にモンスターへ攻撃をしていく私。そうして立ち回ると共に、エフーシャの動きを見る。見て、すぐに安心感を抱く。
防御力に長ける相手に手数で対抗しようとするのは悪手。それをエフーシャは理解しているようで、一撃一撃を着実に与えている。同時にモンスターとの距離を空けず、常に何れかの個体と距離を縮める事で、他の個体に遠隔攻撃を躊躇わせている。更に接近を掛ける時も、拠点の設備を背にしないよう、外れた遠隔攻撃が設備に当たってしまわないような立ち回りで動いている。
彼女の動きに、余計な派手さはない。シンプルに巧みで、冷静沈着なエフーシャの立ち回りは、正に実質剛健。
「…っと、無駄だッ!」
味方がやられる中、私の背後に回り込もうとしている個体の存在に気付いた私は、身体を捻り、左腕の脇を通すようにして背後へバスタードソードを投げ放つ。その投擲で背後の個体は仕留め、続けざまのバックステップで別の個体の飛び掛かりを躱す。着地した個体の鼻先へと左の掌底をぶつけ、怯んだところで上から右の肘鉄を打ち付け…撃破からすぐさま反転ダッシュ。全力疾走でバスタードソードを回収し、回収した直後に刃を地面へと突き立て、それを軸にする事で速度を殆ど落とさず回転。追い掛けてきたモンスターと一瞬で正体し、カウンターのラリアットで首を刈る。
私もエフーシャも、群れを相手に優位に立ち回っている。圧倒…とまでは言わずとも、多勢に無勢を真正面から捻じ伏せている。このままいけば、優位なまま殲滅出来そうで…けれど流石に、そこまで楽にはいかなかった。狼型の群れのみならず、鉱物モンスターの群れも真っ先に倒さなきゃいけない相手が何なのか理解したようで…どちらの群れの敵意も、私とエフーシャに集中する。
「…数は大分減ってるけど…こうなると少し厄介かな」
「ああ。ここからは力戦になるぞ…!」
一度エフーシャと距離を詰め、軽く言葉を交わす。当然向こうに共闘の意思は感じられず、あくまで私とエフーシャが優先撃破対象になっただけの事。ただ、連携が出来ないのは私とエフーシャも同じ。まあ、エフーシャは手練れのようだし、私も伊達に戦闘経験を積んでいる訳じゃないから、即興の連携も多少は出来るだろうけど……どちらにせよ、アドバンテージを取れる程の連携能力は望めない。
脅威を前に、向こうだってもう必死。状況や流れが味方をしてくれる段階ももう終わっている。故に、ここから先を左右するのは…純粋な実力。
「来るか…?…いや……」
「うん、機先を制する……!」
向こうとこっちとで、同じなようでいて違う点。向こうにとって隣にいるのは、結局のところ敵でしかないけど…私の隣にいるのは、同じ目的を持った味方。だから動きを警戒してそれぞれの群れが躊躇いを見せている内に、私は踏み込む。
そして、ここで先手を打った理由は二つ。一つは躊躇っている向こうの隙を突く為で、もう一つはこっちの動きをぶつける為。先手を取り、戦闘の主導権を握る為。十分な連携は出来ないと分かっているからこそ、それ以外の部分で一つでも優位を取ろうと私は考えていた。でも……
「討ち漏らしと処理しきれない分はこちらで引き受ける。そのまま突っ込め…!」
「……!助かる!」
追従するような足音と背後からの声に私は答え、勢いそのままに飛び膝蹴り。蹴り倒したモンスターを踏み台に鉱物モンスターの群れの内側へと飛び込み、着地から立ち上がる速度を乗せた刺突で別の一体を刺し穿つ。続けて突き倒したモンスターの後ろ側へ滑るように移動し、次のモンスターを相手取る。一体に多くの時間は掛けず、倒せようが倒せまいが、さっさと次の個体へと仕掛ける。
ちらりと視線を送れば、最初に蹴り倒したモンスターは、エフーシャが追い討ちで仕留めてくれていた。他の個体に対してもそうで、私がダメージを与えたモンスターをきっちりと倒してくれている。エフーシャは私の考えを、しっかりと理解し動いている。
(私に合わせてくれるんだ…凄いな、エフーシャは)
さっき私は、今の私達じゃ十分な連携は出来ないと思っていた。でもそれは少し間違いで、今の私達は確かな連携が出来ている。私は大胆な動きとヒットアンドアウェイでとにかく注意を引きつつ群れ全体の戦力を削り、エフーシャは言葉通り私が仕留められていない個体、手負いになったモンスターを着実に仕留めて群れとしての数を削っていく。私が派手に動きまくる事でエフーシャも動き易くなり、エフーシャが処理してくれると分かっているからこそ私も流れ重視で立ち回れる。
これも一つの、連携の形。得手不得手や戦闘スタイルをよく知る仲間同士の連携には当然及ばないにしても、エフーシャが的確に私へと合わせてくれる事で、初共闘としては中々の連携が、『役割分担』という連携が出来上がっている。そして、その判断をすぐに下した…更には私が注意を引き付けているとはいえ、依然として対多数戦の状況でありながら滑らかに、モンスターの隙間を縫うようにして立ち回れているエフーシャは、やっぱり…頼もしい。
「──天舞壱式・桜ッ!」
「…やるな」
機を見てわざと攻勢を緩める。疲れたように、集中力が切れたように見せかけ、包囲を誘発。そうして狙い通り、もう群れ関係なく突っ込んできた多数のモンスターを、全方位への斬撃で一掃する。
この一掃が、戦局を決定付ける。絶好のチャンスに、何体も同時に仕掛けたのに、逆に一掃された…そんな光景を見てしまえば、人だろうとモンスターだろうと怖気付くのは仕方のない事。当然その瞬間を逃す理由もなく、私は追撃で更に数体を撃破する。エフーシャもこの時は役割分担を脇に置いて、私同様複数体を斬り伏せる。そこから私は睨みを効かせ……残存するモンスターの内一体が、尻尾を巻いて逃げ出した。それを皮切りに、半数以上が戦いを放棄し逃走していく。
「…こうなれば、後は消化試合も同然だが……」
視線を私に向けてくるエフーシャ。その瞳からは、最後まで付き合うという意思が伝わってくる。だから私はそれに頷き、逃げる選択をしなかった残りのモンスターを倒す。逃げなかったのは、群れの中でも力のある個体達…という訳でもなく、もう連携不要で一方的に倒していく。
そして私の、最後の一振り。袈裟懸けで狼型モンスターを絶命させ、構えを解く。私の視界の端では、エフーシャが左の拳を最後の鉱物モンスターの頭部へと打ち付けていて…その手甲から突き出た杭状のパーツがモンスターの頭部を貫くと、モンスターは動かなくなった。
「……残る敵の姿はなし。戦闘終了、だな」
拳を降ろし、構えを解き、エフーシャは呟く。私は無言で周囲を見回し、気配を探り…それから頷く。
「…お疲れ様。加勢してくれて助かったよ」
「礼には及ばない。…そもそも、お前程の実力があれば、この場を凌ぐ事は出来ただろう」
「だとしても、だよ。仮に私が逃げ仰せても、その場合群れ同士の戦いで、恐らくこの拠点はボロボロになっていた。それは私にとって…神生オデッセフィアにとっての、大きくはなくとも損失になる」
首を横に振り、私が返した言葉に、エフーシャはぴくりと肩を揺らす。ここで神生オデッセフィアの名前が出た事が…個人がクエストを受けてこの場にいたのなら、普通は出てこないであろう視点で私が答えた事が、エフーシャは引っ掛かったのだと思う。
じっ、と私を見つめるエフーシャの瞳。それに答えるように、更に私は言う。
「だから、私は助かった。──ありがとう、エフーシャ」
「……!何故、私の名前を……」
「それは、貴女の事を聞いていたからだよ。
その言葉と共に、私は女神化。人としての姿ではなく、女神としての本来の……オリジンハートの姿をエフーシャへと見せる。
「…それから、謝罪をさせてほしい。騙すつもりはなかったとはいえ、君に対して我が正体を偽る形になってしまった事を」
目を見開くエフーシャへ、私は伝える。今回私が人の姿で戦っていた理由と、あの時のギルドでのやり取りを、自分も聞いていたのだという事を。
「……そういう事か。であれば、正体を偽っていた事についての文句はない。元から、私が勝手に加勢しただけの事だ」
「そう言ってもらえると、助かるよ」
「それから、あのやり取りを聞いていた事も、怒りはしない。他人に聞かれたくないのなら、そもそもあの場で話すべきではないからな」
私の話を聞き終えたエフーシャは、落ち着いた様子で言葉を紡ぐ。もうさっきまでの動揺はないようで…ギルドでのやり取りや、さっきの戦闘でも感じたけど、彼女からは冷静沈着さを深く感じる。
ただ、まだエフーシャの言葉は終わりではなかった。私の事を見据えたまま、小さくエフーシャは息を吐き……その言葉を、言った。
「だが…あのやり取りを聞いていたのなら、分かっているな?──私に、この国のギルド支部長を務めるつもりはない」
真っ直ぐと、エフーシャは再びその意思を表明する。あの時は、
「……その理由は、私の国が…神生オデッセフィアのゲームが嫌いだから、だったか」
「そうだ」
「…ならば、嫌いだと思う理由を教えてほしい。勿論、貴女が話したくないのでなければ」
視線を外す事のないエフーシャを見つめ返し、静かに問う。期せずして私の前に現れた、エフーシャの事を…彼女の考えや思いを知るチャンス。それを逃す理由はない。
そんな私の視線を受けても尚、エフーシャは真正面から私を見ている。それからエフーシャは、再び一つ息を吐いて、答えてくれた。
「オリジンハート…いや、イリゼと言うべきか。…神生オデッセフィアは、国として既存作品のリメイクやリマスターを主要としている…そうだな?」
「そうだよ。…もしかしてまさか、無断で原作を利用していると思っているの?そういう事なら、権利関係はきちんと……」
「違う。私はその在り方そのものが気に食わない」
当然管理元から許可を取得した上で作っている。少なくとも私が把握している範囲では、各企業にそれを徹底している。それは私も気を付けている事の一つで…けれどそういう事ではないと、エフーシャは首を横に振る。
「…貴女は、リメイクやリマスターが嫌いなの?」
「それも違う。別段私は、そういった商法自体が嫌いな訳ではない。過去の名作が最新の技術で再度作られる事により、古さを理由に敬遠していた人間が買う切っ掛けになる事や、当時は不可能だった演出やシステムを組み込んでいる場合もある等、リメイクやリマスターならではの強みがある事も理解しているつもりだ」
「なら、どうして……」
「単純な話だ。──リメイクもリマスターも、原作の存在が前提になっている。原作を核に、作り直しをするのがこういった商法だ。故にそこに、未来はない。あるのは原作としての未来だ。原作がシリーズ物であれば、リメイクやリマスターが続く場合もあるが…それもやはり、『原作の』リメイク、リマスターが続いているに過ぎない」
エフーシャが語った言葉には、芯の様なものを感じる。ただ、感覚として嫌いなんじゃなく、エフーシャなりの考えがあって、だから嫌いなんだって事が伝わってくる。
だけど今の時点じゃ、まだ一番の理由が…リメイクやリマスターが嫌いじゃないと言いながらも、その短所を挙げている事、何より神生オデッセフィアとしての在り方が嫌いだという理由が見えてこない。そしてエフーシャもそれは分かっていたようで……自らの考え、私が聞きたいもの…その核心へと、エフーシャは踏み込んだ。
「ゲームには…いや、ゲームに限らず多くの創作において、オリジナルを作る事と未来を作る事とは同義だ。オリジナルを作り、未来を開拓する事で、個人であれ組織であれ、創作活動を続ける事が出来る。だが、神生オデッセフィアはどうだ。リメイクやリマスターに…過去に頼るばかりで、私には未来を見ているようには思えない。それが個人なら、趣味の範囲でやっているのなら、何も問題はないが…企業に、組織になれば、話は違う。未来を描けない、新たなものを作り出せない開発体制では、クリエイターはその熱を、矜持を知らず知らずの内に失っていく事だろう。そしてその果てにあるのは、組織もそこに属する個人も未来を断たれる結末だけだ。…私がそれが、許容出来ない。それを是とするこの国の在り方が、女神が……心から、嫌いだ」
はっきりと、ここでもエフーシャは嫌いだという。その言葉が…理由が、私の心に深く刺さる。
「……っ…貴女の、言いたい事は分かった。リメイクやリマスターの本質が、原作…過去に目を向けているものだという事も、否定はしない。けれど、神生オデッセフィアにはオリジナル作品も……」
「そのオリジナル作品の質は、評価はどうだ。新規IPと既に知名度や原作ファンの付いている作品とでは単純比較は出来ないとしても、オリジナル作品も面白いと、各企業がリメイクやリマスターに劣らずそちらにも力を込めていると、自信を持って言えるのか?」
「…それは……」
「それに、神生オデッセフィアの同人業界は他国に負けず劣らずと言ったところのようだが、同人ゲームではリメイクやリマスター偏重の傾向があるようには思えない。勿論これは、個人や同人で他社から権利を得るのはハードルが高い、というのが最たる理由ではあるのだろうが…女神の支持する方針ではクリエイターとしての熱意を保てないと感じる者が多いからこそ、その熱を大切にする人間が同人に流れている…その可能性も、否定出来ないだろう」
オリジナルの評価と、同人ゲームの動向。エフーシャが挙げたその二つに対して、私ははっきりとした答えを返す事が出来なかった。
勿論、元から返し辛い主張ではあった。エフーシャ自身が言った通り、新規IPとリメイク、リマスターを単純比較は出来ないし、比較における絶対的な基準の一つである『売り上げ』は、どれだけ広告に力を入れたか、どのメーカーから出たものなのか…みたいな部分も関わってくるから、商売としての優劣を語る事は出来ても、作品としての優劣を語るには十分な基準であるとは言えない。更にもう一つの主張の方も、エフーシャは主観で語っている。確たるデータを元にしている訳じゃない以上、本来なら主張として弱い筈なのに、最後に「可能性は否定出来ない」と締め括る事で、それを肯定すればエフーシャの主張を認める事になるし、かといって否定するのは暴論が過ぎるという、どちらを選んでもこっちが苦しくなる形でエフーシャは主張を展開していた。
だけど、そういう事じゃない。エフーシャもそれについてははっきりした事を言えないでしょうとか、貴女の感想ですよねとか、言い返す事は出来るけど…私は女神として、主張の展開方法へ反論するのではなく、内容自体に違うと、そうじゃないと、そう言い返せなきゃいけなかった。そう、言い返したかった。…でも、出来なかった。そうかもしれないと…今の私は、はっきりそれを否定出来ないと、心の中で思ってしまったから。
「…これが、私の理由だ。今語った言葉を、
隠すつもりはない、とエフーシャは私に示してくる。こちらから訊いたとはいえ、本人…しかも女神の前で嫌いだと言い切り、更にそれを他の人に伝えてもいいと言ってのけるエフーシャの度胸は本当に大したもので……私の中で、エフーシャの人物像が固まってくる。エフーシャは、自分を偽る事のない人間なんだと、私は理解していく。
そんな私へ、黙っている私へ負い目を感じた様子も、侮る気配もなく、ただエフーシャは最後まで見つめていた。それから彼女は、話は以上だとばかりに剣を肩に担ぎ、私に背を向け歩き出し……
「……待って、エフーシャ」
そのエフーシャを、私は呼び止める。この場から、私から離れていこうとしたエフーシャへ、今度は私の方から一歩近付く。
「…まだ、何かあるとでも?」
「うん、まだあるよ。まだ、話は終わっていない」
私の言葉に、エフーシャはゆっくりと振り向く。嫌いだと言いながらも、私が問えば答えてくれるし、今も私に応じてくれている…だから私は、エフーシャに感じる。彼女の真面目さを。真っ直ぐさを。
「エフーシャ。私は貴女の言う事を否定出来ない。そもそも貴女の言った事を、私は大して考えた事もなかった。そして、その上で……私はエフーシャに、そう悪感情を抱いていない。むしろ正直、好感すら抱いている」
「…寛大だな」
「別に許すとか、そういう事じゃないよ。だって貴女の主張には、確かにと思えるものがあったし……何よりエフーシャは、クリエイターの心を思っているからこそ、ゲーム開発の未来が明るいものであってほしいと願うからこそ、私の、神生オデッセフィアの在り方を否定しているんでしょう?」
そう。エフーシャの主張は、どれもクリエイター個人や開発チーム、組織を案じているものだった。未来は肯定出来るものであってほしい…エフーシャの言葉からは、そんな思いが感じ取れた。ならば、私はエフーシャを嫌いになる訳がない。嫌う理由なんて、どこにもない。
「だからこそ、私は今日、こうして貴女と話して、心が決まったよ。…私はエフーシャに、神生オデッセフィアのギルド支部長、
「…考えが破綻しているな。そう思うのは勝手だ、好きにすればいい。だがそもそも私にそのつもりなどない事は、お前も知っている筈だ。そしてそんな言葉を掛けられたところで、私の考えは……」
「──変わらないなら、変えてみせる。私や神生オデッセフィアへの認識も……リメイクやリマスターに、未来を描く力がないって考え方も」
「……何?」
笑みと共に、私は言ってのける。私の言葉に、エフーシャはぴくりと眉を動かす。
「これから私は、私が主導と監修を担う形で、リメイク作品を作り上げる。その作品の質で、内容で、評価で以って、私は私の信念を示す。…勿論、エフーシャに高評価を受ける為だけの作品を作るつもりはないよ?それに、私の名前を、存在を武器にするつもりもない。あくまで普通の、リメイク作品として発売して……その上で、エフーシャの心に響かせてみせる」
「…本気で言っているのか?」
「本気だよ。私は、初めからずっと」
ゲーム開発を舐めてなんかいない。そんな意思も込めて、私は返す。私の言葉に、エフーシャは沈黙する。十数秒か、或いはそれ以上の沈黙が、私とエフーシャの間で流れて……その末に、再びエフーシャは私に背を向ける。そして、私がエフーシャから視線を外さず見つめる中…彼女は、言った。
「……良いだろう。ならばその本気、その信念…確かめさせてもらう」
そう言って、今度こそエフーシャは立ち去っていった。その姿が森の中に消えてなくなるまで、私は見つめ続けていた。
まさか、こんな事になるなんて、朝の時点では思ってもみなかった。大きな前進ではあるけど…全く想定していなかった事。ある意味では、ゲーム開発なんて勢い任せに決めてしまった事。だけど、半端な気持ちで言った訳じゃない。私は本気であり、エフーシャに伝えたのは心からの思い。だからこそこれは、私とエフーシャの、共闘という戦闘を経た上での、一つの交渉……勝負なんだ。
今回のパロディ解説
・〜〜マルチロックオンからのフルバースト〜〜
ガンダムSEEDシリーズにおける、一部の機体で行える行為の事。フリーダム系列機がその代表例ですが、ミーティアとドッキングしたジャスティス系列機もやれる(やるシーンがある)んですよね。
・「〜〜ここからは力戦になるぞ…!」
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONに登場するキャラの一人、ミドル・フラットウェルの台詞の一つのパロディ。エフーシャの元ネタ的に、このシリーズ(のメーカー作品)のパロネタは入れたくなります。
・(私に合わせて〜〜エフーシャは)
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズの主人公、三日月・オーガスの台詞の一つのパロディ。でも最初は相手が誰か知らない…というポジションは、むしろ元ネタとは逆ですね。