超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
「えー…という訳で、エフーシャに私の信念を伝える為に、ゲームを作る事になりました」
予想外の形でエフーシャと対面し、想定外の流れとなった末、私は宣言した。エフーシャに向けて、その考えを変えてみせると。その為の方法として、エフーシャとの勝負として、リメイク作品を作ると。そして…それを今、同日の夜、教会のリビングにてセイツとオリゼに報告した。
「げ、ゲームを作る…です、か……」
「…なんというか…それはまた、大きく出たわね……」
顔を見合わせ、同じような困り顔を浮かべる二人。複製体である私は当然オリゼと瓜二つな訳だけど、姉妹だけあって私はセイツとも顔立ちがそこそこ似ていて…だからオリゼとセイツも、やっぱり似ている。その二人が同じ表情をしていると、より似ている感があって…何か、ほっこりとする。だからなんだって話だけども。
「うん、流石にちょっと勢いが過ぎたと思う…。…けど、後悔はしてないし、私は本気だよ」
「えぇ、そこは疑っていないわ。オリゼもでしょ?」
「は、はい。人に対して、宣言した事、は…何があっても、貫くべき…です…!」
「だよね。ありがと、二人共」
それぞれに受容を示してくれた二人へ、私は感謝を返す。もう既に私はやる気で、迷いなんてなかったけど…やっぱり、支持の姿勢を見せてくれると嬉しいし、ほっとする。
「…こほん。って事で、明日から…いや、今から早速動き出すつもりなんだけど……二人にも、手を貸してほしいの」
「勿論。…と、言いたいところだけど…それはいいの?」
「駄目って事はないと思う。元から私一人で作るって訳じゃないし…多分だけど、エフーシャはそれを理由に完成したものを認めない、なんてタイプじゃない思うから」
「へぇ…だったら問題ないわね。…神生オデッセフィアも良いものだ、って思ってもらえるかどうかの勝負でもあるんだもの。だったら当然協力するわ」
「わ、私も…です。嫌い、と思わせて…しまった、責任を取るのも…女神として、当たり前…の、事ですから…!」
セイツとオリゼ、二人の言葉に私は頷く。再び感謝の思いを示す。勝手に決めてしまった勝負ではあるけど、エフーシャの言葉は、神生オデッセフィアの在り方に対してのものでもあった。だから、二人の意思も、思いも組み込んだゲームにしたくて……もう夜ではあるけれど、私は動き出す。
「じゃあ、まずは一番最初にやるべき事だけど……」
「え、えと…メーカー、を…決める事…です、よね……?」
「まあ、本来はね。けど今回、そこは飛ばします。理由は……」
『理由は……?』
「…ほら、ここで架空のメーカーを並べても意味の分からないシーンになっちゃうし、実在するメーカーの名前出して、あそこはどうのこうの…っていうのは色々不味いでしょ…?」
『あ、あー……』
リビング内に訪れる、何とも言えない空気感。…うん、ここはこれ以上掘り下げない!それが一番なんだから!
「えぇと…そうなると、まず決めるのはリメイク元…何の作品のリメイクにするか、になるかしら?」
「うん、そういう事。一つに絞るか、幾つか候補を挙げるかは別にしても、そこだけは二人と話して決めておきたいの」
「わ、分かりました。…でも、これ…凄く、難しい…ですよね…?」
むむ、と腕を組むオリゼに、私もセイツも首肯する。メーカー選びだったら楽だった…って訳じゃないけど、神生オデッセフィアにある、現在も活動しているゲームメーカーと、これまでに発売されたゲームとじゃ数が違い過ぎる。世の中の大概のものは、少ないより多い方が良いものだけども、選択肢に関しては、一概に多い方が良いとも言えない。
「そうね…話題性や無難さを考えるなら、名作と呼ばれるゲームを挙げたいところだけど……」
「エフーシャは別に、リメイク商法そのものを否定してる訳じゃないんだよね。だから売れた、話題になったっていうのがどれだけエフーシャに響くか分からないし…後単純に、許可を得るハードルも高いからなぁ……」
ふむぅ、と今度は私が腕を組む。当たり前だけど、リメイクである以上はその作品の権利を持っているメーカーに許可を得なければ始まらない。許可を得る上での交渉は、すんなり進む事もあるけど、難航する場合もあって…有名なタイトル程、上手く進まない事が多い。加えて当然、順調に進もうが進みまいが、許可を得るならばその対価として費用が発生する訳で……その額も、作品の知名度や実績とは概ね比例する。
(…費用、どうするかな…一番手っ取り早いのは、私が出しちゃう事だけど…女神の財力にものを言わせた、ってなるのは不味い気がするんだよね……)
ゲームが形にならなきゃ、発売にまで至らなきゃ勝負の土俵にすら上がれない。でも、仮に売れたところで、社会的に高評価を受けられたところで、エフーシャの心を掴めなければ、私にとってそれは敗北。勝負の内容が内容なだけに、明確な基準も、どういう方向で作品を作れば良いかも定かじゃないし…その上で、完成してしまえばやり直しは効かない。もしエフーシャのお気に召さない結果となった時に、もう一度チャレンジさせてもらえるかどうかも分からない。徹頭徹尾、手探りな訳で……うぅ、今更だけどほんとに私、今回は見切り発車過ぎる…。評価の基準はともかくとしても、ゲームを作る上でのルールはあの場で話しておくべきだった……。
「あ、あの…エフーシャさんの、好きなゲーム…とか、ジャンルとか…は、分からない…んですか…?」
「それは…正直、さっぱり分からない…」
「リメイクやリマスターに対して、具体的にこういうところが嫌いだ…って話はしてた?」
「あーいや、リメイクやリマスター自体を否定してる訳じゃないんだよ。ただ、そういう商法は原作を、過去を前提にしているし、それ故に未来を描く事が出来ないから、リメイクやリマスターばかりが目立つ神生オデッセフィアは…って事みたいだから。…でも、そういう意味だと、システム面とか演出とか、そういうところまで踏み込んだ話はしてないや…してないっていうか、もっと前の段階で否定してるっていうのが実際のところだと思うけど……」
「…つまり、参考になるような情報は殆どないのね?」
「……そうなるね…」
突き付けられる現実に、私は思わず目を逸らす。いやほんと、こんな状況で持ってきちゃったのが申し訳ない…申し訳ないけども……
「…私から言った以上、何であれ退く訳にはいかない。私のスタンスは、変わらないよ」
「その意気よ、イリゼ。…でも、そういう事ならエフーシャや勝負を意識して作るっていうより、とにかく良い作品を、最高のゲームを作って、それでエフーシャに挑戦する…って方が良いんじゃないかしら」
「セイツの言う通り、です…!は、発売、するなら、もっと多くの人の事を考えなくちゃ…いけ、ません…!」
二人からの言葉に、そうだよねと私は深く頷く。見切り発車のゲーム開発だけど、やる気はある。やる気だけじゃ仕方ないけども、原動力となる心の部分は確かにある。
だから私達は気を取り直し、リメイク元にする作品を考える。何が良いか、何にするか…まずは各々、思考に耽る。
「…こう、アレね。自分がやりたい、リメイクして欲しい作品は幾つか思い浮かぶけど……」
「そ、それで良いのか、って話…ですよね……」
「…あ、今思ったんだけど、複数のリメイク作品を作る…っていうのはいいのかしら?」
「だ、駄目だと、思います。どれか、一つが気に入ってくれれば…って考え、は…エフーシャ、さんに…不誠実、です」
「そうよねぇ…下手すると雑にリメイクを乱打してるって思われる可能性もあるし、それはエフーシャ以外からも思われかねないか……」
聞こえてくる、セイツとオリゼのやり取り。その間も、私は黙々と考えていて……二人のやり取りが途切れたところで、私は「ちょっといいかな?」と二人へ問う。
「あのさ、二人共。私…やっぱりこの作品は避けて通れない、って思うものが一つあるの」
「そ、それは…イリゼが、作りたい作品…って、事ですか…?」
「そう思ってもらって構わないよ」
私の言葉に、二人は興味深そうな表情を浮かべる。でも多分、名前を聞けば二人も納得してくれると思う。私が思い浮かべているのは、そういう作品。
「へぇ。イリゼにそう言わせる作品が何なのか、これは気になるわね」
「それは、イリゼ…の、や、やった事があるゲーム…です……?」
「ううん、そういう訳じゃないんだけど…ある意味で、どんなゲームよりもよく知ってるし、馴染み深い作品だと思うの」
『……?』
含みを持たせた私の言い方に、今度は首を傾げる二人。まだ二人はピンときていないようで…だけど別に、これはクイズじゃないんだから、勿体付ける必要もない。
という訳で、私はこほんと一つ咳払い。二人の事を順に見て、小さく息を吸い…そして、言う。
「私が挙げたい作品は……勿論!このOriginsシリーズの原作一本目でもある、『超次次元ゲイム ネプテューヌ Re;Birth1』──」
『いやアウトぉおおおおおおおおっ!!』
「えぇぇッ!?」
胸を張り、宣言するように発した作品名。それを聞いた二人から返ってきたのは……全力の突っ込みだった。
「だ、だだ、駄目ですよイリゼっ!な、なんかこう…色々、駄目です!」
「色々駄目なの!?な、なんで!?」
「なんでも何も、色々ややこし過ぎるでしょうが!それを使って売るって、どういう状況を作るつもりよ!そんな斬新な劇中劇スタイル前代未聞よ!?それ買ったプレイヤー全員、卵が先か鶏が先かみたいな思考に陥るわよ!?」
「うっ…でもほら、きっとリメイクには需要が……」
「いやそもそもそれ自体がリメイクだからね!?しかもちょっとずつ要素を追加した移植版が既に複数回出てるんだからね!?それなのに、まさかのリメイクのリメイクって…多分エフーシャも評価に困るんじゃないかしら!?」
フルパワーでの突っ込みを二人から受けて、やむなく私は推すのを断念。…良い作品なんだよ?と言ったら、「それはその通りだけども!」…と更に突っ込まれてしまった。なんか私、ここまでがっつり突っ込まれたの久し振りな気がする……。
「もう…この流れでイリゼが冗談を言うだなんて、思いもしなかったわ……」
「は、はは……(冗談で言ってた訳じゃないんだけど…これは黙っていた方が良いよね…)」
もう何も言わないでおこう、と私は愛想笑いで誤魔化す。後、何気に私もセイツも大分メタ発言してた気がする…流れ的に、そうならざるを得ないんだけども。
「…あ…で、でも、イリゼの考え方…は、一つ参考…に、なるかも…です」
「へっ?ちょっ、オリゼまで無茶苦茶な事言うつもり?…止めてよ?『イリゼ』がどっちも正気を失ったような事言い出すとか、家族的に見たくないんだから……」
「あの、セイツ…?それはちょっと、言い方が酷くない…?」
「だ、大丈夫です、セイツ。私は、イリゼとは…違い、ます」
「オリゼ…?その言い方も酷いと思うんだけど……?」
姉ともう一人の自分にまあまあ酷い言い方をされて、私は肩を落とす。でもオリゼの言いたい事も気になるから、私はこれ以上気にしない事にした。
「わ、私が言いたいのは、リメイクのリメイク…も、選択肢として…有り、だなって…事、です」
「…そう?何度もリメイクを繰り返すのって、あまり良い印象のあるものじゃないとわたしは思うけど……」
「た、確かに、そういう意見も…理解、出来ます。だけど、世の中には、期待され…て、でも芳しい結果にならなかった、作品も…あると、思うん…です。だから……」
「リベンジとしての再リメイク、って訳ね。確かにその方向でなら再度のリメイクを望む声はあるだろうし、何が不味かったのか、ファンは何を求めていたのかが既に明らかになってる面もあるんだから、考えてみれば結構狙い目なのかもしれないわ」
こくこくと、オリゼはセイツに頷いて返す。ただ…私としては、手放しで賛成する事は出来なかった。普通に売る分には二人の言う通りだと思うけども、エフーシャの言う『過去頼り』って意味だと、むしろそれはエフーシャの主張を肯定してしまうような気もしたから。
(だけど、選択肢をリメイク作品のみに絞れば大分選ぶのは楽になるし……考えてみれば、この勝負でリメイクのリメイクを選ぶなんて、エフーシャの考え方に真っ向から挑むようなもの。自業自得ではあるけど、これはルールもはっきりとしていない勝負だし…だったら下手に策を弄するよりは、ど真ん中を攻めた方が良いかもしれない…よね)
腕を組み、私は少考。このは、エフーシャがリメイクゲームを…私や神生オデッセフィアの在り方を認めるかどうかの勝負。であれば私が見せるべきは、小細工なしの堂々とした姿。
「…うん、私もリメイクのリメイク、良いと思う」
「あ、イリゼもなの?…まあ、イリゼもっていうか、元々イリゼが挙げたのもリメイクのリメイクなんだけど……」
そういえばそうだね、と私はセイツの言葉に肩を竦める。提案したオリゼは勿論、セイツも悪くないんじゃないかって考えで…ならばこの方向性で行こうと、話が進む。
「じゃあ、どのリメイク作品にするかだけど……」
「…忘れられない旅にする?」
「それはそれで移植やリマスターの多い作品じゃない…あんまりふざけると、お姉ちゃん怒るわよ?」
「そ、それはごめん……」
「全くもう…。…そうじゃなくて、リメイク…って事なら、わたし一つ興味のある作品があるの」
「……?きょ、興味…で、すか……?」
「えぇ。この作品、知ってる?」
携帯端末を取り出し、操作し、それから画面を見せてくれるセイツ。そこに映っていたのは、古いゲームの画像と情報で……それを見たオリゼは、目を丸くする。
「こ、これ、知ってます…!」
「だと思ったわ。…これは、オデッセフィアの時代に発売されたゲームのリメイク版なのよ」
「そっか、だから……」
今より遥か昔、技術も社会の豊かさもまだまだ発展途上だったオデッセフィアの時代にだって、今程豊富ではなくてもゲームはあった。そしてその時代の作品なら、オリゼが反応した…リメイク元を知っていたのも納得というもの。それにオリゼは単に存在を知っていただけじゃないようで、懐かしそうな表情で何度もこくこくと頷いていた。
「でもこれ、リメイク版もかなり古いよね。オリジナル版が古いどころか黎明期レベルなんだから、当たり前ではあるけど…セイツはこの作品、どう知ったの?」
「どうっていうか、調べたのよ。…信次元の最初の国を、オデッセフィアを、知りたくて」
「せ、セイツ……」
「…その、こういう話を面と向かってするのは、むずむずするわね…。こう、恥ずかしいっていうか、照れ臭いっていうか──」
「良い事、です…!人を、人の社会を知る上で、その歴史に目を向けるのは、重要な事…!そして歴史…は、社会の大きな出来事…や、その時々の偉人…を、知るだけ…では、不十分です…!だ、だから文化…特に、娯楽にも、目を…向けるのは、女神の心掛けとして立派…です…!」
「あ……う、うん。そう思ってもらえて、嬉しいわ…」
じーんとしたような表情のオリゼを見て、セイツはちょっぴり頬を赤くしながら頬を掻く。それは、見ているだけで心が温まるような、私達家族の一幕で……と思いきや、オリゼは女神としてのスタンスで好感を抱いていただけだった。その想定外の評価に、セイツは凄まじく複雑そうな面持ちだった。…うん、分かる…分かるよセイツ…。そういう言葉を掛けてほしかったんじゃないんだよね…でも、女神としてオリゼから評価されるのは、それはそれで嬉しいから、どんな思いでいればいいか分からないんだよね…。
「あー、っと…つまり、セイツはそのゲームをやってみたいって事?でも、リメイク版でもかなり古いから、中々手を出せなくて…って話?」
「…こ、こほん。まあ要はそういう事よ。単に古いだけならいいけど、これもう対応するハードがないし、移植版とかもないから、やろうにもやれないのよね」
やっぱりか、とセイツの言葉に頷く。それと共に、この作品をリメイクの題材にする意義も段々と見えてくる。
移植版にも言える事だけど、リメイクは古い作品…ハードを含め、過去になった作品を、『今』興味を持っているユーザーに…或いは移植やリメイクを機に興味を抱いた、というパターンを期待して、そういう人達に遊んでもらう為に作られる事が多い。勿論それだけが狙いじゃなくて、作品の寿命を伸ばしたり、新作やシリーズ作品への導線、入門編であったり、技術の進歩やその時代に合わせたシステム、ストーリーのアップデートであったりと、その目的は色々だけど……今のセイツは、正にリメイク作品が顧客としているユーザーという事。そして、商品には需要が必要不可欠なんだから……
「…よし。この作品の再リメイクが求められるものかどうか、市場調査してみよっか。エフーシャだって、作品が誰得リメイク状態だったら、評価以前の問題だ…って言うだろうし」
「そうね、その方が良いと思うわ。どれ位のニーズがあるのか、どの程度売れそうなのか…それを踏まえて企画を進めるのは、商売の基本だしね」
開発にはお金が掛かる以上、売れる作品、その見込みがある作品じゃなきゃいけない。ちゃんと売れる事も、エフーシャの言うゲーム開発の『未来』に関わってくるだろうから。そして、私とセイツが頷き合う中、オリゼが私へ向けて言う。
「イリゼ。焦っちゃ、駄目…ですよ。た、短気は損気…ゲームの事も、エフーシャさん…の、事も、じっくり腰を据えて…そういう気持ち、で、進めるべき…です」
普段通りの、今日ここまでと変わらない、おどおどした喋り方のオリゼ。でもその声音、響きには、深い経験が…強い説得力があった。…当たり前だよね。オリゼの積み上げてきたもの…経験値は、私やセイツよりずっと上なんだから。
一先ず、今決められる事は決まった。まだ考えられる事はあるけど、これ以上は取らぬ狸の皮算用になってしまう。何せまだ、この再リメイクが売れそうかどうかも、これをどのメーカーに依頼するかも決まってはいないのだから。オリゼの言う通り、じっくりと腰を据えて事に当たるようにしたい。
「じゃあ、二人共。これは私が主導していくゲーム開発だけど……」
「勿論、いつでもサポートするわ」
「わ、私もです…!」
頼もしい二人の言葉を受けて、一番最初の会議…って程でもない、相談は終わる。そうして私の…私達のリメイクは、始まった。
*
ゲームメーカーの選定と企画の持ち込み、市場調査、それを踏まえた具体的な計画…私はこれを、迅速に、可能な限り同時並行で進めていった。…オリゼの言っていた、じっくり…っていうのに、早速反している?いやいや、じっくり腰を据えてというのは、焦る事なく、時間を掛けるべきところにはちゃんと時間を掛ける…安易に成果や進展を求めるべきじゃないって事。時間は有限だし、開発は長期化すればする程お金が掛かるし、市場だって流動的なんだから、スピード感を持って進めるべき部分もある。
「ふむふむ…そうか、そんな感じか……」
今私がいるのは、今回開発をしてくれる事になったメーカーの会議室。ここで私は、女神の姿で今現在の進捗状況…何がどの程度進んでいて、どういう状態になっているのかを、社長やプロジェクトリーダーから聞いていた。
「は、はい。現在モデリング及びグラフィックで少々苦労はしていますが、大きな遅れとはなっておりませんので、ご心配には及びません」
「女神様からの直々のお話なのですから、必ずや納期に間に合わせると約束します」
「あぁいや、そう重く捉える必要はない…というのも酷な話かもしれないが、現場には私を意識する事なく作るよう伝えてほしい。経営者や管理職たる君達には言うまでもない事だろうが、誰に向けて売るものなのかこそ、真に意識するべき事なのだから」
軽く手を振り、私は言葉を返す。ここは神生オデッセフィアを代表する…とか、誰もが知る…みたいな最大手メーカーじゃないし、女神からの企画なんて当然初めて受けるようだから、報告の際に緊張するのは当然の事。成功させて私との良好な関係を築きたいって思いも、それ以上に失敗なんか出来る訳ないって思考も、あって当然だと思う。でもやっぱり、私より社員を、想定しているユーザーの事を考えてほしい。
「えぇ、勿論でございます。…して、女神様。何か改善するべき点、或いはご要望等はございますでしょうか?」
「ふむ…一つ確認したいが、私が追加の指摘や提案を行った場合、現場は対応出来るのだろうか。現場の負担は当然だが、私の要望が無理難題であった場合、それを受諾した君達にも不満の矛先が向いてしまう筈だ。人の上に立つ者は、時に恨まれてしまうものだが…だとしても、私の依頼を快諾してくれた君達が悪く思われる事は、出来る限りあってほしくない」
「ああ、そのような事はお気になさらず。私が恨まれる事で話が済むなら、安いものですから」
「…そう言ってもらえると、助かるよ。ならば、今日の報告をもう一度自分の中で振り返り、近日中に返答をさせてもらおう。だが、少なくとも…今の時点では、君達は私の期待に応えてくれているよ」
自分が恨まれて済むのなら、という社長の言葉が本心からのものなのか、建前なのかは分からない。ただ、どちらであっても実際に社長が恨まれる形にはなってほしくないから、この場では保留にし、私はメーカーの建物を後にする。
私の言葉に、嘘はない。開発の進捗状況は、快調…とまでは言わずとも、まあまあ良い調子であると私の目には映った。このペースが崩れなければ、納期に遅れるという事はないだろうし…だけど世の中の多くの事と同じように、ゲームの開発だって予想外の事態はいつでも起こり得るんだから、定期的な確認は必須。
(…改善、要望…か。正直、あるにはあるし、エフーシャの事抜きにしても妥協してばかりの作品にはしたくないけど……)
考え事をしつつ、飛んで神生オデッセフィアの教会へ戻る。敷地内へ着地し、女神化を解きつつ教会の中へ……
「よいしょっ、と。あ、やっほーイリゼ」
「わっ…!…あ、なんだネプテューヌか……」
「ノンノン、ネプテューヌじゃなくて大きいネプテューヌだよ?」
「うんまあそれはそうだけど…それって自分から言う事かな……」
……入ろうとしたタイミングで、後ろから大きいネプテューヌ…人間のネプテューヌに呼び掛けられた。そのネプテューヌの背後には、閉じていく次元の扉があって…どうやらネプテューヌ、丁度度から戻ってきたところらしい。…いや、大きいネプテューヌは信次元出身じゃないし、戻って…という表現が適切かどうかは微妙だけども。
「はー、今回も疲れたぜ…なんでこう、お前は危険な方、危険な方へと進もうとするかねぇ……」
「だってほら、そっちの方が面白いでしょ?わたしだって、クロちゃんが飽きないように色々頑張ってるんだよ?」
「俺はそういう命の危機を感じるタイプの刺激を求めてるんじゃねぇっての!俺が求めてるのは……」
「クロちゃんが求めるのは?」
「……うっせぇ、俺は疲れたから寝る」
「んもー、照れちゃって〜。わたしとのドタバタで愉快な毎日が好きなんだって、正直に言えば…いったぁ!?」
その大きいネプテューヌの隣でふよふよと浮いているクロワールは、ネプテューヌの訊き返しを受けて顔を背ける。そんなクロワールに対し、ネプテューヌはにまにまとしながら煽りを掛け…結果、本で突進されていた。本の背の部分を頭に直撃させられていた。
「だ、大丈夫…?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ……あ、そうだこれ買ってきた物なんだけど、どう?」
「あぁ、ありがとう……って、ブラン饅頭?え、ルウィー?別次元じゃなく?」
「ううん、別次元だよ?」
「え、え?いやでも、これ間違いなくブラン饅頭──」
「うん、だから別次元のルウィー」
「いや分かり辛っ!な、なんで信次元のルウィーにもある物を…いや、駄目じゃないんだけども……」
貰っておいて文句を言うのは間違ってる、と思いつつも、突っ込みを入れてしまう私。でも大きいネプテューヌもわざとややこしい言い方をしてたみたいで、私の突っ込みにも笑っていた。
とまぁ、そんなやり取りを経て、私はネプテューヌを中に招く。私はまだ仕事の途中なんだけど…今日の残りの予定は、どれもずらす事の出来ないものではなかったからセーフ。
「ごめんね、これ昨日作ったやつの残り物なんだけど」
「いいっていいって。っていうか、昨日の夕飯感覚でスイーツが出てくるんだから、イリゼってば凄いよね〜」
そう言って、大きいネプテューヌはスイートポテトを口に運ぶ。そのネプテューヌが座るベットの隣では、クロワールが寝ていて…こうして無防備な姿を晒してる辺りに、ネプテューヌへの信頼を感じられる。
「でも、珍しいね。ネプテューヌがこういう形でうちに来るなんて。大概はプラネテューヌへ戻ってきてるんでしょ?」
「いやぁ、今回は気になる事があってさ。行く前に聞いたんだけど、イリゼって今、ゲーム作りやってるの?」
「あ、知ってたんだ。ゲーム作りって言っても、実際の作業は依頼したメーカーに任せてるんだけどね」
そういう事か、と私は大きいネプテューヌの返しで納得。何の事はない、単に旅先でもゲームの事が気になっていたから、別次元から直接神生オデッセフィアに来た…ただ、それだけの事なんだと思う。
「いやいや、実際に作るだけが開発じゃないよ。適材適所、っていうでしょ?」
「いや、私の場合は適材適所だから、っていうのとも少し違うけど…まあ、そうだね。…もしかして、私達が作ってるゲームに期待してくれてる感じ?」
「もっちろん!でもそれ抜きにしても、これは関わらなくちゃ!って思ったんだよね」
「…それは、どうして?」
「どうしてって…だってほら、これ完全にアレでしょ?だったら『主人公』のわたしがノータッチは…ねぇ?」
分かるでしょ?と肩を竦めるネプテューヌに、私は頬を掻く。…うん、まぁ…別に隠すつもりはないし、実際そういう事なんだけど…なんかこう、反応に困る……。
「でさ、今ってどれ位進んでるの?まだまだこれからって感じ?それとも大分形になってるの?」
「ある程度進んではいるけど、まだまだこれから…かな。でも、皆頑張ってくれてるし、きっと良い作品になる…と、思う。…多分」
どんな事も基礎は大事で、そこに時間を掛けるのは当然の事。建築と同じで、土台となる部分は後からじゃ変えられないからこそ、まだまだこれからではあるけど、焦りはない。…と、大きいネプテューヌに答えた私は考えていたんだけど…そんな私の事を、ネプテューヌはじーっと見つめていた。そして、私が困惑から瞬きをする中…ネプテューヌは、言う。
「…イリゼ、もしかして何か不安があったり、悩んでたりする?」
「へ…?…そう、見える……?」
「見えるっていうか…きっと、思う、多分なんて言葉が並んでたら、流石に気になるって」
その指摘を受けて、初めて私は自分の表現に気付く。確かにそれはそう。こんな言葉が並んでいたら、あれ…?って思うのも不思議じゃない。
「…別に、悩んでるとかそこまでの事じゃないけど……」
「…けど、何か考え事はしてるんだね。もしわたしで良ければ、聞くよ?」
「……そうだね。ありがとう、ネプテューヌ」
少考の後、私は頷く。これは私の問題だし、大きいネプテューヌには関係のない事…とも一瞬思ったけど、自分の問題だったら、相手が無関係だったら、話しちゃいけないなんて事はない。それにネプテューヌは私の事を気遣って、力になってくれようとしているんだから、むしろ断る理由がないと、私は思う。
「…実はね、今日メーカーから進捗状況の報告を受けたの。で、何か要望があるか、って話になったんだけど…多分、私が言えば、どんな内容であれそれを反映させようとすると思うの。たとえそれが、大きな負担を強いられる事であったとしても」
「それは…うーん、そうかもねぇ。やっぱり女神様の言葉って、重いものだし」
「うん。それにゲーム作りに関しては当然私よりメーカーの人達の方が詳しいだろうし、私は今回リメイク元にしている作品の大ファンって訳でもないから、ユーザーが真に求めているものを熟知してる…なんて事も言えない。だから正直、明らかに不味いって思う事以外は、口出ししない方が良いのかもって気持ちもあるんだけど……」
今自分で言った通り、大きいネプテューヌも同感した通り、私の…女神の言葉には、重みがある。大きな負担どころか、間違った内容だったとしても、メーカーは反映してしまう…或いは心理的に反映せざるを得ない可能性は否めない。私が懸念しているのはそこ。物言わぬ株主…ではないけど(そもそも私は株主でもないんだけど)、私は基本的に任せるというスタンスの方がって気持ちは、最初からある。…でも……
「だけど私は、この作品を良いものにしたい。メーカーの皆にとっては勿論だけど、私にとっても妥協して取り敢えず形にする…なんて作品にはしたくない。それに、私なりに気になったところも、現状ある。…けれど私には、私の気になった事、私の理想とするものが、作品を良くするのに繋がるかどうかが分からないし、さっき言った通り、私の言葉はどうしても『提案』じゃなくて上からの『指示』って形になっちゃうと思うから……」
「だから、どうしようか迷ってる…って事だね。そっかぁ…やっぱり女神様も大変だね」
「そうでもないよ。少なくとも、これについては私が始めた事なんだから」
小さく肩を竦め、私は首を軽く横に振る。大きいネプテューヌは、うぅーんと腕を組みつつ数秒唸り…それからまた、口を開く。
「そういう事って、これまでにもなかったの?女神様って、国の色んな事に関わってる…んだよね?」
「それは勿論。というか実際、ゲームの企画書を見て、それについて評価や指摘をする…って事は、これまでもしてきたし。でもそれは、本格的に動き出す前…それこそ『企画』の段階の話だし、ゲーム業界であれ他の業界であれ、私が直接話すのって、基本的にはその業界の大手役員とか重鎮…要は、私の言葉を絶対視しない、そういう判断をする事が出来る人達なんだよ。…だけど、今回は違う。大手と言える程の大企業ではないし、教会や軍みたいに直接的な上下関係という訳でもないし、個人の相談やアドバイスみたいなものとは根本的に違ってくる。自分で始めた事とはいえ…凄く特殊なケースなんだよ、今回は」
「あー…。…どうしよう、自分から訊いておいてアレだけど、話が複雑な感じになってきて頭の回転が追い付くか不安になってきた……」
「えぇ…?…まぁ、取り敢えず今回みたいなケースは基本ない…って思ってくれればそれでいい…かな」
流石に自分でも情けなさそうな顔をする大きいネプテューヌに、私は頬を掻きつつ答える。ただでも、複雑かどうかはともかくとして、中々困る話をしちゃったかな…なんて思った。だってこれは、答えの見えない…というより、曖昧な部分が多くて「これだ」って答えを出せそうにない話なんだから。
…でも、ネプテューヌは私の話を聞き終えた後、再び考え出した。ゆっくり、じっくり、時間を掛けて…分からない、っていうある種安易な答えで済ませようとせず、真剣に考えてくれて……その末に、小さく息を吐く。
「…正直、イリゼの参考になるかどうかは分からないけど……わたしだったら、やっぱり自分の考えている事、思っている事は、ちゃんと言うかな」
「…そっか。ネプテューヌらしいね」
「でしょー?…だって、言わなかったら…それで完成したものが満足出来るものじゃなかったら、まだやれる事があったのに…って気持ちになるでしょ?言って、それが結果的に間違ってて、満足出来るものにならなかったんだとしたら、その場合も残念だけど…その時出来る事をして、それで駄目だったのと、その時出来る事をしなくて駄目だったのじゃ、同じ駄目でも全然違うと思うから」
気持ちの問題、受け止め方の問題だと、大きいネプテューヌは言う。どうなるか分からないからこそ、結果ではなく過程の納得に目を向ける。やっぱりそれは、ネプテューヌらしい考え方で…更にネプテューヌの言葉は続く。
「それにさ、女神の言葉の重みって、今はまだ『女神』と『依頼されたゲームメーカー』の関係でしかないから感じちゃうと思うんだよね。だって、わたし…はそもそも別次元の人間だからちょっと違ってくるけど、友達として意見を言い合える人って、イリゼにもいるでしょ?」
「あ……」
言われて初めて、その事に気付く。そうだ。その通りだ。コンパも、アイエフも、パーティーの皆も…友達として、仲間として、私と対等に接してくれてる人達は、沢山いる。そして、皆とそういう関係を築けているのは、苦楽を共にしてきたから。同じ目的の為に力を合わせて、戦いだけじゃなく一緒に遊んだりもして、仲を深めていったから。皆だけじゃなくて……私自身も、皆との間に壁を作ろうとしなかったから。
「だからイリゼもどんどん言って、どんどん関わって、イリゼも開発チームの一員になっちゃえば良いんだよ。遠慮なんて、しないで…さ」
「……そう、だね…。あぁ、そっか…考えてみれば、答えは最初から出てたんだ…」
「ねぷ?最初から?」
「ほら、最初にネプテューヌがゲーム作りしてるの?って訊いた時、私は実際に作ってるのはメーカーだって返したでしょ?あれはほんと、その通りなんだけど…思えば私、無意識の内に自分とメーカーとの間に線を引いちゃってたんだなぁ、って」
「あー、そういう…。いやぁ、最初の時点で答えを引き出してたなんて、さっすがわたし!凄いよ‼︎ネプルさん!」
「ネプルさんって…それだとプルルートとフュージョン又はポタラ合体した感が……」
私が大きいネプテューヌの発言に苦笑をすれば、ネプテューヌはいやぁと照れつつ後頭部を掻く。褒めてない…と言いたいところだけど、ネプテューヌはほぼ間違いなく突っ込みを期待して言ったんだろうし、そういう意味で満足はしてる…んだと思う。
「…ありがとう、ネプテューヌ。私、もっとメーカーの皆と関わってみるよ。女神としてじゃなく、依頼者としてじゃなく…チームの一員として」
「うんうん、頑張ってよイリゼ!わたしもゲームが完成するの、楽しみにしてるからさ!」
本当に楽しみだとばかりの表情を見せてくれる大きいネプテューヌへ、私は深く頷いてみせる。
積極的に関わる事が、正解かどうかは分からない。上手くいかない可能性も十分にある。だけどこれは、私のやり方。私の積み重ねてきた強さの一つ。だからこそ、私はこのやり方を信じる。私のやり方で、エフーシャの心に響かせる為に。売れる作品を作る為に。メーカーの皆と…全員で、満足出来る結果を掴む為に。
今回のパロディ解説
・「…忘れられない旅にする?」
英雄伝説 空の軌跡FC及びそのリメイク版のキャッチコピーのパロディ。作中でも触れてますが、このシリーズも移植やリメイクが多い作品ですよね。丁度空の軌跡 THE 2ndの発売日も近付いてますし。
・「〜〜『主人公』のわたしが〜〜」
原作シリーズの一つ、超次元ゲイム ネプテューヌ GameMaker R:Evolutionの事。因みに本作に登場している大きいネプテューヌが、社長業をした事があるかどうかは…秘密です。
・「〜〜凄いよ‼︎ネプルさん!」
セクシーコマンドー外伝 すごいよ‼︎マサルさんのパロディ。ネプテューヌならセクシーコマンドーの技を一つ位は習得してそうな気もしますね。あまりやってほしくない技も多いですけども。
・「〜〜フュージョン又はポタラ合体〜〜」
DRAGON BALLシリーズにおける、合体技術の一つ(二つ)の事。でもネプテューヌシリーズで合体というと、やっぱりメガミラクルの方を連想しますね。そちらでもDBのパロネタがあったと思いますが。