超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
リメイク作品…リメイクのリメイクゲーム開発は、着々と進んでいる。こう表現すると、順風満帆に聞こえるし、そんな都合良くはいっていないんだけど…だとしても、大きな問題が発生する事はなく、一つずつ工程を進められている。
最初私は、それを報告で知るだけだった。纏められた情報を、見せてもらって、話してもらうだけだった。だけど今は、もう違う。もっと細かく、もっとはっきり、生の情報に私は触れている。だって、今の私は……開発チームの皆と同じ場所で、それに関わっているんだから。
「皆、お疲れ。差し入れ…って程じゃないけど、お菓子作ってきたから、適当に摘んでね」
開発チームの大部屋へ、声を掛けながら私は入る。その瞬間、皆が立って、私に挨拶を返してくれる。初めはそんな畏まらなくていい、と毎回言っていたんだけど…立場を思えば、むしろその辺りはきっちりした方が皆の気持ち的には楽なのかもしれない。そう思って、ここのところはもうその形で通している。
「本日もご足労頂き感謝します、オリジンハート様」
「これも私の望んだ事だからね。…それで、UIとかシステム周りの修正はどうなった?後、PVに関する事だけど……」
お菓子をテーブルに置いた私は、早速プロジェクトリーダーやディレクターに現状の確認と質問を行う。それは、単純に気になったものもあれば、前の時点で課題として指摘させてもらったものまで、色々とある。それに関する報告を聞いた後は、実際に見せてもらって、更に私の意見を言う。
開発が進む中で、私は女神である自分が色々言う方が良いか、言わない方が良いかで迷う事があった。だけど大きいネプテューヌからアドバイスをもらって、自分のスタイルを思い出して…こうして、チームの一員になる形を選んだ。勿論それはそれで皆に気を遣わせるし、プレッシャーを与えてしまう事にもなるけど…私だって、伊達に女神をやってきた訳じゃない。私なりのやり方で、皆も少しずつ距離を縮めて、今ではこうして躊躇う事なく自分の考えを伝えている。そして、当然…自分からチームの一員になった以上、意見を伝えるだけじゃない。
「女神様。現在少々進行が遅れておりまして、前回の時点で想定していた段階へ二割程到達していない状態です。この分の遅れを取り戻すスケジュール修正なのですが……」
「任せて、ちょっと考えてみる」
具体的に何がどの程度遅れているのかと、その部門のスタッフの情報を受け取り、私は修正プランを考える。その間に、ディレクターには別の仕事をしてもらう。
ここで私が主にしているのは、ディレクターやプロデューサーのサポート。私に直接的な開発技術はないけれど、スケジュール管理であったり外部とのやり取りだったり、広告やイベントの準備であったりであれば、力になる事が出来る。流石に私は正式な社員じゃないし、私に出来るのはあくまで案を出したり、話し合いに参加したりする程度だけども…それだけでも、ディレクターやプロデューサーの負担は減る。その分、別の事に時間を割いてもらえる。
(難しいな…まだ完成は先だからこそ、個々の負担を抑えながら遅れを取り戻さなきゃいけないし……)
スケジュール管理…特に遅れを取り戻すとなった場合、単に仕事量を増やせば良い…なんて単純な方法じゃ解決しない。当たり前だけど、スタッフ一人一人が今の時点で色々と仕事を担っていて、十分に働いてくれているんだから。代わりに何か別の仕事を削ったり、後回しにしたりが出来ればいいけど、そうもいかない事だって多いんだから。それに、ゲーム開発は長期に渡って行われる仕事。仮に遅れを取り戻せるようなスケジュールを組めたとしても、その変更が別のところで響く可能性はあるし、その影響がすぐに出てきてくれれば再修正も効くけど、後々になって出てきてしまうと、どうにもならない場合も出てくる。だから後の事も想定に入れて、完成までの一つの流れを意識して組まなければいけない。
でも…難しい仕事なんて、守護女神としてこれまで幾らでもしてきた。同系統の仕事でなければ難しさの上下なんて付けようがないけども…難しいというだけでへこたれる事なんて、私にはない。
「ふー、ぅ…こんなものかな。ディレクター、これを参考にしてもらってもいい?」
「ありがとうございます。…複数の案を出して下さるとは…いやはや、やはり女神様は違いますね」
「遅れもそれによって必要になった修正も、まだ深刻な段階じゃないからこそだよ。流石ディレクター、采配が光ってるね」
「はは…恐縮です」
肩を竦めて私が返せば、ディレクターも軽く肩を竦める。中々お堅いディレクターで、一緒にゲーム開発をするようになってからも私へのきっちりとした態度を崩してはくれないけど…そういう人は、教会の職員にもいる。だからこれも、人それぞれ。私がディレクターから信頼を、少しでも得られているのならそれで十分。
「さてと。じゃあ次は……」
ディレクターから首肯を受けて、私は席を移る。デスクトップ機器のある席へと座って、起動し……ある作業を始める。
「ふぅむ…ここの挙動は……問題なし。ここの動作も……仕様書通り」
仕様書の束を片手に、一つ一つ、上から順にチェックしていく。山の様にある確認事項へ、片っ端から手を付ける。
私が今しているのは、デバッグ作業。デバッグというと、かなり形になった状態のゲームでテスターが行う、ありとあらゆる壁に向かって前進してみる〜とか、本来なら出来ない動作を、出来ないとされている場所全てで試してみる〜とかを連想しがちだけど、今私が行っているのは、それよりも前の段階の作業。想定していない挙動が発生しないかどうかを確かめるデバッグではなく、仕様書を確認しながら、想定通りの挙動になっているかどうかを確かめるデバッグ。
「これは……あっ、腕が吹っ飛んだ!有線で飛び回りそうな感じになってる!?」
「えぇ!?うわほんとだ、あっちこっち飛び回ってる……」
「うん…しかもこっちだと、逆に何も動かなくなってるんだよね…。主人公動け、何故動かん……」
「あわわ、これ私がやったところです…!すみません、すぐにソースコードを見直します…!」
私の声に反応して、何人かのプログラマーが画面を見にくる。見て後頭部を掻いたり、がっくりと肩を落としたりする。
…とまあこのように、デバッグする中で不具合が見つかるのは日常茶飯事。厄介なのは、不具合を修正した事で別の不具合が発生する…ってパターンも少なくない事で、今回みたいにチェックでちゃんと見つかれば良いけど、発売するまで、消費者が買ってプレイするまで見つからないなんて事も普通に起こる。
「うぅ、ごめんなさい…私のせいでまた開発ペースが……」
「大丈夫。気にする事はない…なんて事はないけど、失敗をただの失敗で終わらせずに、これからの糧に出来れば、そう出来るように頑張れば、周りも無駄な失敗だったとは思わないから。だよね?」
「えぇ、仰る通りです。改善しようって気概を見せてくれれば、こっちもフォローしようって気持ちになりますから」
「そうそう。女神様がわざわざ励ましてくれたんだから、気張りなさいよ?」
「は、はい…!速攻で直します、速攻で…!」
「…頑張るのは良いけど、落ち着いてやってね?ほんと、やる気はひしひしと伝わってくるけど、なんかこう…ねぇ?」
ばっ、と自分の席に戻って見直しに入る新人スタッフ。その姿を見た私や他のメンバーは顔を見合わせ…苦笑する。
この開発チームの雰囲気は悪くない。多分納期直前になると、色々切羽詰まってくるんだろうけども…今の、普段の皆を知れたのも、こうしてチームに参加したからこそ。
(…良い作品にしたいな。チームの皆と…私達、全員で)
プログラミング技術なんて私にはないから、挙動のチェック作業は出来ても、修正は出来ない。それは皆に任せるしかないし、この場で私じゃなきゃ出来ない事なんて、殆どない。だけどそれは仕方のない事だし、分かっていた事。
だから大事なのは、その上でどうするか。自分はこのチームの中でどうしていくのか。自分にしか出来ない事、専門性のある事が出来るのならそれは強みになるけれども、自分がチームの一員になれるか、チームの力になれるかは、それで決まる訳じゃないんだから。
「こほん。それじゃあ皆、バンバン不具合を見つけていくから、皆も修正宜しくね!」
『はい!』
「…………」
『…………』
「…いや、駄目だね…そんな、不具合ってバンバン見つかっちゃいけないものだったね…ごめん……」
数拍の間を置き、普通に良くない事だったと気付いた私は自分で自分に突っ込みつつ謝罪。皆も乾いた笑いを漏らし…本音が漏れるように、何とも複雑そうな表現を浮かべる。…ま、まあ変な感じにはなっちゃったけど、私は今、皆と同じ場所で、同じゴールへ向けて力を合わせている。形は違えど、やり方は違えど…私がこれまで絆を築いてきた、仲間達と同じように。
*
開発は、折り返し地点を越した。基礎をしっかりと固め、今はその上に色々と積み重ねている。
ゲームを作るっていうのは、どういう事なのか。具体的な流れ、工程一つ一つの中でしている事、直接的な作業以外だと何をしているのか…それ等を知り、体験する事になるなんて、暫く前の私だったら想像もしていなかった。
私は私の判断、選択を、後悔していない。そして、少しずつだけど見え始めている。完成した、ゲームの姿が。この作品が、形になってくれた瞬間が。
(うん、大丈夫。きっと良い作品になる。このリメイクゲームは、売れてくれる)
じわり、と心の中で芽生えている自信。まだ盤石ではない。そもそもまだ完成した訳ではないんだから、ここから大きなハプニングが起きてしまう可能性もある。
だけど、絶対大丈夫、もう成功は確定してる…なんて状態で進められる事なんて、世の中そうそうあったりはしない。だとしても、私は自信を感じる事が出来ている。これも、チームの外から見ているだけじゃなく、チームに入って、共に進めているからこそ。だから私が今感じているのは、心地良さもある自信。
「…でも……」
ぽつり、と私の口から漏れた言葉。出てきたから、私はその呟きに…自分が零した声に気付く。
…そう。私は作っているリメイクゲームに自信を感じている。けれど一つ、小さな…だけど拭う事の出来ない不安も、少し前から抱えている。
(っと、いけないいけない。それはそれ、これはこれ。今は目の前の仕事に集中しないと)
頭を軽く振り、私は目の前の仕事…自分の執務へと戻る。当たり前だけど、私はゲーム開発に専念している訳じゃない。女神としての仕事、そのスケジュールを長期的に組み直して、セイツやオリゼにも分担をしてもらって、そうして作った時間でゲーム開発の方に精を出している。
つまりそれは、自分の中できちんと切り替えなくちゃいけないって事。でなければ、一方がもう一方に悪い影響を与える事になるし…私は中途半端な仕事なんてしたくない。
そして今日は、来客もある。予定通りなら、そろそろ訪ねてくる筈で…噂をすれば影が差すではないけれど、その来客が訪れた。
「失礼するよ。今日は時間を取らせて悪いな、イリゼ」
「いらっしゃい、ウィード君。…って、あれ?ウィード君だけ?」
ノックをし、入ってきたのはウィード君。今日ウィード君が来たのは、特務監査官としての相談をしたいって話を受けていたからで…だけど当然、現特務監査官はウィード君一人じゃない。うずめとくろめも特務監査官で…だけど姿を見せたのは一人だけ。
「ああ。相談なら、俺一人でも出来る事だし、二人は別の仕事に行ってもらったよ」
「そうなんだ…えぇと、二人の方は大丈夫なの…?その……」
「また喧嘩するんじゃないか、ってのは俺も同感だよ。けど、いつまでも俺が間に入らなきゃ…ってのも、良くないだろ?それに俺自身も、一人での経験も積んでいかなきゃなって思うし、だから今日は分担する事にしたんだ」
「成る程ね。…こう、女神の二人じゃなくて、ウィード君の方がそういう事を考えているのは、何とも言えないところがあるけど……」
「はは…それに関しちゃ、俺も思ってる」
肩を竦めて軽く笑うウィード君に、私も肩を竦めて返す。ウィード君は特別しっかり者ってタイプではないけど…二人に対しては、こういう面が出てくるのかもしれない。
「でも、そっか。分担か。私が特務監査官だった時は、考えもしなかったな…。…考えもしなかったっていうか、そもそも出来なかった訳だけど」
「あー…考えてみれば、今は俺達が三人でやってる事を、イリゼは一人でやってたんだよな…その、脱帽っす」
「あはは、偶には女神として崇めてくれてもいいんだよ?」
私が軽く胸を張ってみせれば、ウィード君は冗談めかしながら私を拝む。それから私達は肩を竦め…本来の話へ。
「こほん。それで、相談っていうのは?」
「ああ。勿論仕事が仕事だから、あんまり詳しい事は言えないんだが……」
気を取り直し、ウィード君から話を聞く。どうも相談の内容は、具体的な仕事のやり方…というよりは心構えの部分なようで、前々からウィード君は、特務監査官として気後れしてしまう場面があったんだとか。
ただそれも、仕方のない事ではある。特務監査官はその性質上、かなりの立場がある存在…それこそ女神を相手に立ち回る事も多い仕事だけど、私やうずめ、くろめと違って、ウィード君は(特殊な存在とはいえ)人間なんだから。もっと沢山経験を積めば、その経験や実績がウィード君の自信になって、気後れする気持ちも薄れてくれるのかもしれないけど…だからそうなるまで頑張って、じゃあんまりってもの。
だから私は、私なりにアドバイスを送った。特務監査官の立場や仕事は、女神を背景にしている…女神を監査対象にしていると同時に、女神にその務めを保証された存在でもあるんだから、いっそ強気で立ち回っても良いんだと伝えた。…まあ勿論、それだけを伝えた訳じゃなくて、もっと細かい事を言ったり、個別の話をしたりもした訳だけど。
「特務監査官は、私達女神の信用と信頼があって、ウィード君達に任命している。そしてその信用や信頼は、ウィード君達自身で築いて掴んだもの。それは、忘れないでほしいし…自負してくれていい事だと、私は思うな」
「信用と信頼、か…。…実を言うと、今も昔も女神からそういう気持ちを向けられるのは、凄く嬉しいけど、ちょっと畏れ多いっていうか、ある意味重かったりもするんだが……」
「…だが?」
「…いつまでもそんな考えでいたら、うずめやくろめの隣に立つのに相応しい男にはなれないもんな。俺も、そういう思いをしっかり受け止められるようになっていかねぇと」
「頑張れ、ウィード君。私、応援してるから」
ぐっ、と私が両手を胸の前で握って言えば、ウィード君は答えながら深く頷く。…確かにウィード君の言う通り、元である私含め、他の特務監査官は皆女神である中、一人人間でありながらその任務を担っているウィード君にとっては、重荷かもしれない。だけど今の返答を…ウィード君の意思を聞いて、安心した。これなら…誰かに与えられたものじゃない、自分だけの『頑張る理由』があるのなら、きっと大丈夫だって。
「でもまあ、アレだね。私が前特務監査官なんだから仕方ないけど、主要な監査対象の一人に相談事を持ち掛けてくるっていうのは中々……」
「それはまあ、うん…。けどそれを言ったら、色々思惑があるとはいえ、『信用と信頼』でくろめも特務監査官に任命するのも中々にアレなんじゃないか?」
「…お互い、馴れ合いにはならないようにしようか」
「…だな」
その線引きはしておかないとね、と私達は確認する。まあでも、これもきっと大丈夫。今の特務監査官は、ウィード君一人じゃないんだから。その辺りを、くろめが見誤る事はないだろうし…責任感の強いうずめなら、それこそやるべき事、やるべきじゃない事はしっかり分けてくれるだろうから。
「…あ、ところで全然違う話してもいいか?」
「と、いうと?」
「イリゼって今、ゲーム作ってるんだろ?しかも、リメイクのリメイクなんだって?」
ああ、その話か…と私は首肯する。もうゲームの存在は宣伝もしているし、リメイクのリメイクである事も明かしている。私が開発に関わっている…というのは宣伝する上で隠しているし、このまま一般には明かさないままでいるつもりだけど。
「ひょっとして、進捗が気になるとか?それなら、具体的な事は明かせないけど…まぁ、順調ではあるよ」
「それなら良かった。俺は原作も、そのリメイク版も全然知らないけど、今出てる情報とかPV見ると中々面白そうだし、期待してるぜ?」
今はお互い仕事中…というのは一旦置いておいて、私はウィード君とゲームに関して言葉を交わす。…にしても、原作もリメイクも全然知らないけど、か…リメイクは基本原作ファンや、ファンじゃないけど興味がある…って人を購買層として想定してるものだし、リメイクのリメイクとなれば更にその傾向は強くなると考えてたけど……まさかこんな近くに、リメイクとか関係なく純粋に一作品として楽しみにしてくれる人がいるとは、ね。
「…………」
「……イリゼ?」
「…あのさ、ウィード君。ウィード君って、リメイク作品やったりする?」
「それは…原作を知ってるかどうかに限らず、か?」
「ん、そういう事。というか、それに限らずじゃないとさっきのやり取り聞いてなかったの?ってなるしね」
「だったら…まあ、やるな。リメイクだから特別…って事はないけど、興味があったら買うし、やってみたいって思う」
少しだけ考えて、私はウィード君に問う。ウィード君は、一度は怪訝な顔をしながらも、私の問いに答えてくれる。
「じゃあさ、ウィード君がリメイク作品に求めるもの…って何?」
「リメイク作品に求めるもの?…んー…そうだなぁ……」
前置きを経ての、本題。この問いに、今度はウィード君が腕を組んで少し考え込む。格好唐突な問いだったから、私も何も言わずに待ち…考えた末に、ウィード君は口を開いた。
「…リメイクっつったら、まずは原作の良かったところ、面白かったところを継承してくれてる事だな。これは続編とか派生作品にも言える事だけど、魅力だって思った部分がなくなってたり、システム面なら別物になってたりすると、他が良くても残念に思うし」
「そっか、やっぱりそうだよね。…でもさ、システム面はがらっと変わってても、原作ファンから好評を受けてるリメイク作品もあったりしない?」
「あー、まぁそういう作品もあるな。けどそれも、シリーズが続く中で洗練されていったシステムを、洗練される前の作品のリメイクに使ってたり、そもそも同じシリーズの作品だけどゲームジャンルとしては違う派生作品って宣伝されてる場合が殆どで、単発作品のリメイクだとか、正当後継作を謳ってたりする場合はやっぱり違うと思うんだよ。…個人的には、だけどさ」
ふむふむ、と頷きながら私は聞く。魅力的な部分がきちんと受け継がれている事…それは私も大事だって思うし、多分多くの人がこれには賛同すると思う。
「んで、次に求めるのは、作品としての進化…かな。システムであれ、グラフィックであれ、やり込み要素であれ、やっぱり進化してる部分があると『おっ、これは…!』ってなるしさ。っていうより、リメイクなら進化してる要素がなくちゃどこかどうリメイクなんだ?ってなるだろ?」
「確かに、進化してる要素なしならリメイクじゃなくて移植版じゃない?ってなるもんね。…因みにその進化が、魅力だと思ってた部分を変えてしまうものだったらどうする?」
「そうだなぁ…そういうのって、作り手側が『何が人気を得たか』をちゃんと理解してるからどうかによると思うんだよな。それを分かってる作り手なら、変えた上でもファンを納得させてくれる…気がする。…多分」
若干自信なさ気に締めるウィード君。だけどそれも、理解出来る。顧客の求めるものだけじゃなく、何に満足しているかを調べるのも市場リサーチであり、何を、どう好きになってもらえたかをきちんと分かっているのなら、新たな好きを生み出したり、何か別の形で存続させたりする事も出来る筈なんだから。…ただ、でも…そういう『商売』の視点だけじゃなく、純粋に作り手としての『愛』もあってほしいとは思うけど、ね。
「後は…うーむ……」
「あ、そんな捻り出そうとしてくれなくても大丈夫だよ?ちょっと参考として、訊いてみたかっただけだから」
首を傾けて考えるウィード君へ、ストップを掛ける。いきなり質問をされて、答えがぽんぽん出てくるなんて事はないだろうし、リメイクに何を望むか…っていうのはある種感性的なものなんだから、熟考すればこれだって答えを導き出せる…みたいな事もあまりないと思う。第一、私もウィード君も仕事中。きっちりかっちりとまでは言わずとも、メリハリはあった方がいい。
(やっぱり、下手に奇策を打ったりとかせず、『リメイク』である事に重点を置くべき…なのかな。であれば、やっぱり判断は間違っては──)
ここまでのやり取りで、新たな発見があった訳ではなかった。でも、自分の認識に対する確認は出来た。
やっぱり、大事なのは生の声。メーカーの皆はプロだけど、作り手だからこそ市場の、ユーザーの目線とはズレてしまう事がある。それは努力不足でも何でもない、立場の違いという当然の理由からくるものなんだから、こうして確認を出来た事は、有意義な結果と受け取る事が出来る……そう、思っていた時だった。
「…ああ、そうだ。これはリメイクに求めるものってか、俺がやった事あるリメイクの中で嬉しかった事だけど、原作版じゃサブキャラだった登場人物が、リメイクでこう…こほん、メインキャラに昇格して、色々ストーリーとか絡みとかが追加されたってのがあるな」
ぽん、と手を叩き、ウィード君は言う。それから昔を…恐らくは『今のウィード君』になる前の事を懐かしむように、腕を組んでうんうんと頷く。
「…それは……」
「うん?」
「…そっか…そうだよね。それもあるよね。ただ新しくする、今風にするだけがリメイクじゃない…当たり前だけど、そこに価値を見出す人だっているよね……」
「お、おう。…えぇと……」
「けど、それだけじゃ弱い…弱いっていうか、そういう事なら既に組み込んである…だとしたら、もっと踏み込んだ…でもその上で、あくまでリメイクとしての面を尊重して……」
「イリゼー?イリゼさーん?何か盛り上がってるっぽいけど、思考がダダ漏れになってますよー?」
ふっ、と私の頭の中に浮かんだもの。それは目から鱗…という程のものではないけど、私が考えてはいなかった方向性。
浮かんだ次の瞬間から、思考が加速する。どんどん案が、可能性が湧いてくる。まだそれは、何の精査もされていない、雑なもの。その場の思い付きでしかないもの。…だけど、浮かんだだけでも意味はある。浮かばなければ、始まりもしない。
「…ありがとう、ウィード君。凄く、参考になったよ」
「そ、そうか?なら、いいんだが……」
「だから、発売を…私達のリメイクを、楽しみにしてて」
我に返った私は、ウィード君に感謝を伝える。同時に頭の中で、今浮かんだものを取り纏める。
これが上手くいくかどうかは分からない。だからまずは、提案する。提案して、皆で考える。借りられる力は借りる。それが、私の出来る事であり……チームとしての、やり方だから。
「…ところでウィード君。ウィード君の言うリメイク作品だけど……もしかして、恋愛シミュレーションゲームだったり?」
「うぐっ…わ、悪いか…!?」
「いや、別に全然悪くないけど…やっぱりウィード君も男の子なんだねぇ」
「か、からかうなっての……!」
*
ゲームを作るのには、長い時間が掛かる。長い時間を、手間を、作業を経て、漸く一つ完成する。そこには多くの人が関わっていて…売り出す以上、責任も生じる。
全て、特別ではない当たり前の事。だけどその、当たり前な事の果てにしか、完成はない。その道のりを、頑張って歩み進めた先にこそ……完成という、ゴールがある。
「……もしかして、これって…」
「えぇ。皆、お疲れ様。マスターアップ、完了だ」
頷き、プロジェクトリーダーが言う。その瞬間、一瞬静寂が訪れ……そこから緊張の糸が解けたような、安堵の吐息が各所から上がった。
「よ、漸く終わったぁ……」
「間に合わないかと思った……」
「結局いつも、最後はばたばたするのよね…」
疲れが窺える…というより、誰も彼もへろへろになっているチームメンバー。本当に、完成した喜びや達成感よりも、完成に漕ぎ着ける事が出来てほっとしているとばかりの反応で……私はこほん、と咳払い。
「皆、本当にお疲れ様。私の企画したゲーム制作に応じてくれて、ありがとう。それから……無理のある事を言って、ごめんなさい」
『それは……』
皆に向けて、頭を下げる。私の言葉に、何人かがわたわたとし、顔を見合わせ……そうして、肩を竦める。
「…大丈夫ですよ、女神様。確かにスケジュール的には、厳しいものがありましたが…そもそも出来ない、無理のある内容じゃありませんでしたから」
「そうですよ。それに今回はオリジンハート様からの依頼って事で社長も張り切ってましたし、やれる事は全部詰め込んだ作品にしないと…って我々も思ってはいたんです」
「それに、女神様もデバッグ滅茶苦茶頑張って下さったじゃないですか。正直こっちがびっくりするレベルというか…ほんと、よく体力持ちますよね。しかも女神のお務めもあって、私達より休めてない筈なのに、お肌も綺麗なままで…あぁ、羨ましい……!」
うんうん、と頷く女性陣に、私は思わず苦笑を漏らす。そうしてまた…もう一度、皆に感謝を伝える。
誰も、過度に反応する事はなかった。大変な事であったと認めて、私の謝罪も受け入れた上で、良いんだと言ってくれた。…それが、私は嬉しかった。だってそれは、この反応は…私をチームの一員だと思ってくれているからこそのものだと思うから。
「あのね、皆。まだ発売していない以上、この作品がどれだけ人気になるか、どれ程の売り上げになるかは分からない。だけど…私は確信してるよ。これは…私達の作った、『マグナ・エボレボックス』は──良い作品だって」
これは、私の宣言。私が良い作品だと、心から信じているんだって事での表明。そして同時に、このゲームは証でもある。私が皆と共に頑張った…このチームの一員であった事を示す、形ある思い出。
(だから、後は……)
私の心には、既に充実感がある。これで満足してしまえそうな程に、ここまで皆と頑張ってきた事は、私にとって尊いもの。だけど…だからこそ、私の挑戦はまだ終わりじゃない。最後の…最大の勝負が、私にはある。
*
「──久し振りだね、エフーシャ」
ゲームの発売から一週間後。私は
「ああ。まずは、発売おめでとうと言っておこうか」
「ありがとう。丁度さっき、初週売り上げの情報が出てたけど…中々悪くない出だしだよ?」
ギルドにある応接室を借りて、私はエフーシャと話す。なんと作品は今週の売り上げ堂々の一位!…とはならなかったものの、上位に名を連ねる事が出来た。宣伝にも力は入れてたとはいえ、原作は勿論リメイク版すらかなり古い作品…謂わば原作パワーをあまり受けられない作品だった事を思えば、本当に出だしとしては健闘と言える。
「…でも、売り上げでエフーシャは納得しない。そうだよね?」
「当然だ。売り上げは作品を評価する上での指標の一つにはなるが、売り上げが全てではないからな」
「うん。だから……エフーシャ自身で、確かめてみて」
私は頷き、パッケージを差し出す。これは私から挑んだ勝負。だから私から渡すのは、当然の事。エフーシャに拒否されてしまったら、勝負は成立しないけど…多分、エフーシャはここで断るような人間じゃない。そして私がテーブルに置き、手で滑らせる形で差し出したパッケージをエフーシャは見やり……
「いや、もう買ったが?」
「えっ?」
「もう、発売日に購入済みだ」
「…そうなの……?」
ぽかんとしてしまった私に、当たり前だとばかりにエフーシャは頷いた。もう既に買っているから、渡してくれなくて結構という事だった。…なんでも、勝負を受けた以上、買わないのは筋が通らない…という事なんだとか。
「え、えぇっと…うんまぁ、それじゃあ時間のある時にプレイを──」
「もうエンディングまで進めたが?」
「えっ?」
「流石にやり込み要素や寄り道的なクエストは出来ていない部分も多いが、一先ずはもうプレイ済みだ」
「…………」
再び当たり前だとばかりに言い切るエフーシャ。それはありがたい。自分で発売日に買ってくれてたし、今日までにエンディングまで進めてくれてた事はシンプルに嬉しいんだけども……
(よ、予想以上に誠実ぅ……)
誠実であるのは良い事。好感だって当然抱く。ただ、私としてはもっと淡白というか、向こうからここまで歩み寄って(?)くれるような性格ではないと思っていたから…ぶっちゃけ、物凄く予想外だった。
「…どうした、女神イリゼ」
「い、いや、何でもない…。…じゃあ…聞かせてもらってもいい?エフーシャが、どう思ったのか、何を感じたのかを」
気を取り直し、私は問う。エフーシャが作品を良いと思ってくれたか、そうじゃないのか。どちらであったにせよ、どうしてそう思ったのか。私や神生オデッセフィアに対しての思いに、変化はあったのか。
私の問いに、エフーシャは黙って頷いた。それから数秒、私を見つめ……静かに、口を開く。
「…まず、ゲームとしては面白かった。衝撃的な展開や、革命的なシステムがあった訳ではないが、良い意味で王道、良い意味で堅実…俗な言い方をするならば、こういうのでいいんだよ、こういうので…と言いたくなるような内容だった」
「それは良かった。…でも、展開…ストーリーに関しては、純粋に原作の良さだね。例えとか言い回しとかは現代に合わせて修正してるけど、基本はそのままだし」
「原作の良さを損なわず継承するのも、リメイクにおける重要な点だろう。そしてそのリメイクという観点においても、原作やリメイク版への尊重が感じられた。私は原作もリメイク版も調べた上での情報しか知らないが…もしそれ等をプレイした事のある者がいれば、好印象を抱いていた事だろうな」
単体の作品として、リメイクのリメイクとして…それぞれの評価を、エフーシャは語る。その内容は、肯定寄りで…より具体的な話を私が訊けば、エフーシャは全て答えてくれた。その回答で、エフーシャが本当にやってくれたんだって事が伝わってきた。
だけど…同時に私は、こうも思っていた。多分まだ、エフーシャは自分の中にある一番言いたい事を口にしていないと。そして私の思った通り……一拍の間を置いたエフーシャは、言う。
「…だが、それだけだ。良いか悪いかで言えば、良い作品だ。リメイク…いや、リメイクのリメイクとしても、悪くない出来なのだろう。されど、この作品…マグナ・エボレボックスは、世に多数ある良作の一つに過ぎない。これで私の考えが変わると思っていたのなら…大間違いだ」
「…そ、っか……」
「…それに、お前は一つ、根本的に勘違いしている。仮にこの作品が、これまでやった事のないような…それこそ私の中の価値観が変わる程の作品だったとしても、それはその作品が凄いのであり、この国の在り方が変わる訳ではない。そして、私は言った筈だ。私は別に、リメイクやリマスター自体が嫌いな訳ではないと」
そう。私は感じていた。私達のマグナ・エボレボックスは、良い作品ではあっても、革新的なものではないと。一ゲームとしては間違いなく面白くても、エフーシャの心を動かせるかどうかは正直不安だと。…実際、エフーシャの返答はその通りだった。そこから続くそもそもの話も、理解の出来る事だった。
「……つまり、それがエフーシャの結論?」
もし、それがエフーシャの答えならば、私は受け入れるしかない。そういう勝負なんだから。
でも、エフーシャは首を横に振る。じっと私を見つめて、今度はエフーシャが私に問う。
「一つ、訊きたい。各章クリア時にギャラリーに追加されるイベントパート…いや、ノベルゲームパートとでも言うべきものはなんだ。あれは、原作にもリメイクにもない…内容としてもシステムとしても、全く新しいものだったようだが」
エフーシャからの問い。それを聞いた時、私は「あぁ、良かった」と思った。だって、寄り道要素はあまりやっていないというエフーシャだから、もしかしたらこれも見ていない可能性があると思ったから。
だけど、そうじゃなかった。それもプレイしてくれていた。だから私は…小さく微笑む。
「…あれはね、各キャラの掘り下げだよ。それも、ただの掘り下げじゃない。やったなら分かると思うけど、本編中とは立場も状況も違う、謂わばIFの掘り下げ。…エフーシャも、ゲームに…ううん、創作に触れる中で、思った事はない?もしこのキャラが、もっと早く主人公に出会っていたら…とか、この二人って気が合いそうだけど、作中では殆ど絡みがなくて残念…とか」
「それを実現する為の、IF展開か。確かにそれは、私も思った事はある…が、同時にそれはIFとはいえ、元の作品から大きく離れる行為だ。それに対しては、どう考えている?」
「そうだね、私も実際やっていいのかどうかは微妙だった。IFだとしても、正式に許可を得てやっている…謂わば公認の作品な以上、イメージが崩れた…ってなる事もあり得るからね。ただまあ身も蓋もない事を言えば、原作は勿論リメイク版すらも古い作品だから、ファンが今どれだけいるかって話だし……それに何より、IFストーリーの内容を確認した、原作メーカーの代表がなんて言ったと思う?」
敢えて勿体付けるような私の言い方に対し、エフーシャは無言を返す。私の言葉を、ただ待っている。それは…それこそが、私のイメージしていたエフーシャらしい反応であり…肩を竦めながら、私は言った。
「──ありがとうございます、新しい未来と可能性を描いてくれて。そう、言ってくれたよ」
「……っ…」
「聞くところによると、当時…あ、勿論その頃からずっと代表さんが生きてる訳じゃないよ?…は弱小メーカーだった事もあって、描きたいもの全てを描く事が出来なかったんだって。リメイク版も、原作尊重を大事にするメンバーで制作してたから、大胆な追加要素は入れられなかったんだって。だから、きっと原作の開発メンバーは、ずっと先の未来で、色々形は違うけれど、新たなものを生み出してくれた事を喜んでるだろうって。…正直、嬉しかった。それは私も予想していなかった事だから」
これが、これこそが、私の選択の結果。ウィード君の話から思い付いて、無理を承知で追加をチームの皆にお願いして、だけどやっぱり無理のある事だったから、会話パートだけで進行するノベルゲーム形式になった。妥協ではあるけども、私がどうしても入れたかったものを、何とかして入れられるようにしてくれた皆には、本当に感謝の気持ちしかない。
それに、その内容を詰めていく上で、私はオリゼの力も借りた。オリゼは当時を知る、原作ゲームも知る存在だからこそ、オリゼの見たいもの、オリゼの想像したものは、これ以上なく参考になった。
ここに、完成に至るまで、本当に色んな人の力を借りた。協力してもらった。私一人じゃ何が出来るのかすら怪しいようなゲーム制作が……皆の力で、完成して、今も確かに売れている。
「…新たな未来、か……」
「うん。…エフーシャ。エフーシャはリメイクやリマスターを、未来を見ていない、未来を描けない、どこまでいっても結局は原作ありきの存在だって言ったよね。…私はそれを、完全な間違いではないと思う。少なくとも、原作ありきである事は、真実だって思ってる」
「…………」
「だけど…きっと、未来の描き方は一つじゃないんだよ。色んな未来の形があって、描き方があって…そこに未来が生まれているか、未来を感じられるかどうかは、それを作った人や、それに触れた人次第なんだよ。それに、ゲームも商品…商売である以上、描きたくても描けない事がある。誰か別の人が見つめ直す事で、思いもしなかった未来が見える事もある。例えそれが、原作ありきの未来だとしても…そこから新しい道を開拓して、更にその道から別の未来が生まれて…って続くのは、また違った形で素敵だとは思わない?…勿論、そう上手くいく事ばかりじゃないだろうけど…私は可能性を感じている。その可能性を、応援したいと思っているんだよ」
私は語った。伝えた。今、私の中にある思いを。気持ちを。…それは、元からあったものじゃない。実際にゲーム開発に携わって……ううん、エフーシャに一つの真実を突き付けられた事で、そこから色々考えたり、やってみたりした結果、私が得たもの。感じたもの。
そして、私は女神。国の長であり、影響力がある。だから強制ではなく、少しずつ浸透させる形で、理解してもらえるような方法で、私の思いを、神生オデッセフィアにある色んなゲームメーカーに伝えていければ、伝えたものを応援していけば…神生オデッセフィアの在り方は、前に進める。そう、思う。
「……流石は女神だな。今の私に、それを否定出来るような言葉はない。お前は見事に状況をひっくり返した訳だ」
「そんな事ないよ。確かにマグナ・エボレボックスは私が女神だからこそ上手く進められた部分もあるけど…一番の力は、協力してくれた、相談に乗ってくれた、一緒に頑張ってくれた、皆の存在だから。女神だって、皆がいるから強くなれるんだから。……だからね、エフーシャ。貴女にも、力を貸してほしいの。私の、私達の…神生オデッセフィアの力になってほしいの。…ううん、違うな。私は、貴女と…助け合える、仲間になりたい。友達になりたい」
最初から最後まで、私は伝えたい事全てを伝えた。単に実力や
見つめる私に対して、エフーシャは沈黙する。長い長い、沈黙が続いて……エフーシャは静かに、息を吐く。
「…マグナ・エボレボックスが良い作品である事は認める。イリゼが素直に敬意を抱けるような女神だと…確かに今、そう感じている事も認めよう。…だが、国となれば話は別だ。遠い未来では、お前の理想とする在り方になっているのかもしれない。されどそれは、すぐに訪れる未来ではない。未来はよくやっているかもしれない…たったそれだけの理由で、今意欲を失ったしまうかもしれないクリエイターを見過ごす事を、私は断じて是とはしない」
「…エフーシャ……。…うん…それも、間違ってないと思う。エフーシャは…凄く、クリエイターをリスペクトしてて、皆に幸せになってほしいと思っているんだね」
「……私を買い被り過ぎだ」
伝えたい事は、全てを伝えた。だけどエフーシャから、望む答えは得られなかった。…であればもう、仕方ない。悲しいけれど…エフーシャにも信念があって、それは立派な…思いやりのあるものだから。それに…エフーシャが支部長になってくれなかったとしても、繋がりを築く事は出来る。ならば、それで良い。それで十分。
座っていた椅子から立ち上がり、部屋を出ていこうとするエフーシャ。そのエフーシャを、私は呼び止める。…後一つ、訊きたい事があったから。
「待って、エフーシャ。最後に一つ、訊いてもいい?」
「…なんだ」
「エフーシャが神生オデッセフィアを嫌いなら…どうして、神生オデッセフィアで活動をしているの?」
それは純粋な疑問。ただの興味。そして私からの問いを受けたエフーシャは、前の時の様に振り返る事なく……言った。
「…私は神生オデッセフィアの在り方が嫌いだ。だが……この国の雰囲気は、少しだけ故郷に似ているから…な」
その言葉を最後に、エフーシャは部屋を出ていった。それを聞いて…私は思うのだった。エフーシャは、嫌いだと言うけれど……きっと本当は、心底嫌っている訳じゃないんだろうって。或いは、もしかすると…良くなってほしいと思うからこその、言葉だったのかもしれないって。
であれば、やっぱり…私は神生オデッセフィアの在り方を、前に進めたい。エフーシャに…もっと多くの人に、好きになってもらえるように。
*
あれから、少しの時が経った。……ゲーム開発含めて、かなり時間経ってるよね?どれ位時間経過したの?というかこの話は、OTのどのタイミングで起きてるの?…みたいな質問はしないでね…!…•こほんっ。
とにかく少しの時が経ち、けれどギルドの支部長に関する新たな話は何も来なかった。今どうなっているのか、私には全然分からないまま日々が過ぎ……そんなある日、連絡が来た。今度はエフーシャから、私と話がしたいって。
「今日はどうしたの、エフーシャ。…もしかして…やっぱり支部長になってくれるとか?」
「いいや、違う。私の考えは、あくまで変わらない」
執務室で私はお茶を出し、対面する形でソファに座りつつエフーシャへ問う。冗談ではなく、本当にちょっと期待していたんだけど…残念ながら、そういう事ではない様子。
「そ、そっか…。なら、どうして……?」
「…私の考えは、変わらないままだ。だが…嫌いと言っているだけでは、それこそ何も変わらない。何もしないのは、現状に対する消極的な肯定と同義だ。だが…今の私に、何かを変える力がないのも事実。だから……」
なんというか…妙に長い、エフーシャの前置き。言っている事は理解出来るけど、ズバズバ言うタイプのエフーシャらしからぬ雰囲気に、私は少し困惑し……そんな中、意を決したように表情を引き締めたエフーシャは言った。
「私は、神生オデッセフィアのギルド支部長になる事はしない。しないが……引退を考えているという、現支部長代理の代わり…謂わば、神生オデッセフィアのギルド支部長『代理』を、引き受ける事にした。今日来たのは…一応それを、イリゼにも伝えておく為だ」
「それ、って……」
予想外の言葉、その決断に、私は数秒ぽかんとなる。ただ、エフーシャの方はあくまで真面目、本当に本気なようで…そんなエフーシャに対して、半ば無意識的に、私も言う。
「…エフーシャって…実は割と、色んな意味で面倒な性格だったりする?」
「……う、五月蝿い…」
これまで何度かやり取りをしてきた訳だけど、この時初めて恥ずかしそうな顔をし、私から視線を逸らすエフーシャ。その反応に、私は思わずくすりと笑ってしまい…だけどそれから、気を取り直す。改めて、エフーシャを見つめる。
「…だけど、エフーシャの決意は伝わってきたよ。だから…これから宜しく、エフーシャ」
「……ああ。こちらこそ宜しく頼む、イリゼ」
立ち上がり、私達は握手を交わす。紆余曲折があった。色々と予想外の事ばかりだった。それでも今、確かに私はエフーシャと手を繋ぐ事が出来て……代理という形ではあるけども、こうして神生オデッセフィアに新たなギルド支部長が、新たな
今回のパロディ解説
・「〜〜腕が吹っ飛んだ!有線で飛び回りそう〜〜」
ガンダムシリーズ(宇宙世紀)に登場するMSの一つ、ジオングの事。でもガンダムシリーズだと、ドーベン・ウルフやシルヴァ・バレドも該当しますね。後、原作シリーズで実際こういうバグを見た覚えが……。
・「〜〜主人公動け、何故動かん……」
機動戦士Zガンダムに登場するキャラの一人、パプテマス・シロッコの代名詞的な台詞の一つのパロディ。元ネタと違い、こちらはシンプルにプログラム上の問題ですね。
・「〜〜私達のリメイク〜〜」
ぼくたちのリメイクのパロディ。タイムリープ要素こそありませんが、ゲーム制作であったり文字通り『リメイク』であったりと、物語の内容的に組み込みたいなぁと思って入れたパロディです。
・「〜〜こういうのでいいんだよ、こういうので〜〜」
孤独のグルメの主人公、井之頭五郎の名台詞の一つのパロディ。この台詞、発言内容そのものは漠然としつつも称賛する類いの内容なので、中々汎用性が高いですよね。