超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition 作:シモツキ
物事の切っ掛けは、劇的であったり、印象的であったりする事ばかりじゃない。むしろ普段の生活においては、些細な理由、何気ない出来事から、何かが始まったり、或いは終わったりする。そしてそれを、その切っ掛けを、多くはいちいち覚えていたりなんてしない。だって、本当に何気ない、ありふれた事ばかりなんだから。
だけど、何の特別性もない切っ掛けから始まった事でも、特別な何かになったり、続いたりする。…これは、そんな事を感じた、ある日の事。
「んっ、んー……」
ぐぐっ、とソファの上で伸びをする。それから一度身体の力を抜き、一拍置いて跳ねるようにして立ち上がる。
「セイツ、今日もお疲れ様」
「えぇ、お疲れ様」
隣に座っていたセイツに、声を掛ける。そのセイツから、お互いにね、と返してもらう。私達は今、ドラマを見ていた。そのドラマが終わった事で、私はTVのリモコンをセイツへと預け、その場を後に……しようとしたところで、セイツに呼び止められた。
「…と、言いたいところだけど…イリゼまだ、何かやるつもりでしょ」
「え?…それは、まぁ…今日の内に下拵え出来るものはしておいた方が、朝も昼もバタバタせずに済むし」
「…それ、その分今日寝るのが遅くなるんだから、結局いつ大変になるかの違いでしかなくない?」
「それも、まぁ…でもほら、睡眠時間は多少少なくても、割と何とかなるしね。お肌には良くないけど、身体の負担に関しては最悪シェアエナジーでフォロー出来るし」
女の子として美容には気を付けなきゃだけど、と肩を竦めつつ答える私。でもセイツは納得してくれてないみたいで、暫し私を半眼で見つめた後……嘆息。
「はぁ。仕方ない、ここはわたしの腕の見せどころかしらね」
「え?…もしかして、セイツが下拵えするの?」
「任せなさい。要は、ぱぱっと食事の支度が出来ればいいんでしょう?」
「う、うん」
それはそう、と頷きつつも、心に渦巻くのは一抹の不安。果たしてセイツはちゃんも出来るのか、そもそも私の考えてるような下拵えをしてくれるのか、どうにも私は気掛かりで…と思っていると、何やらセイツは携帯端末を取り出す。冷蔵庫を開くどころか、台所に行く事すらせず、どこかに連絡を取ろうとする。
「ちょ、ちょっと待った。まさかとは思うけど、出前で済ませちゃおうって事じゃないよね?」
「まさか。お昼はともかく、朝に出前じゃ間に合うかどうかで結局落ち着かない感じになっちゃうでしょ?」
「だ、だよね。ごめん、疑うような事を言っちゃって──」
「だから、教会の裏手に朝からやってるスーパーを作るわ」
「発想が某高校生経営者兼寮長のそれなんだけど!?」
予想の遥か斜め上…否、斜め下を行くセイツの返しに、私は思わずずっこける。テーブルに突っ込みそうだったところを、何とか身体を左回転で捻って回避したけど、代わりに右半身をカーペットへと打ち付ける。…ふ、普通に痛い……。
「うぅ…なんて事考えるのセイツ……」
「いや、冗談だからね?普通に考えて、非常時でもないのにこんな夜遅くに連絡取ろうとする訳ないでしょ?」
「ぐっ…滅茶苦茶な事言ってたセイツに、こんな返しをされるとは……」
「ふっ、残念だったわね。…まあでも真面目な話、フィナンシェみたいな侍女とかメイドとかをうちも雇った方が良い気がするのよね。…侍女とメイドって、実際にはそこそこ違う立場だけども」
まんまと騙された私はセイツを軽く睨むけれど、セイツは余裕綽々の表情。…ただ、まぁ…セイツが私を気に掛けてくれている事は分かった。…それならふざけないでほしかったし、結果私はずっこけて痛い思いしたんだから、結構不服ではあるけども。
「…まぁ、侍女とかメイドとかの話はまた改めてって事にして…大丈夫だよ、セイツ。料理にせよ他の事にせよ、もう慣れているしさ」
「…イリゼ自身がそう言うなら、わたしも強要はしないけど……」
納得まではしないけども、といった様子のセイツ。でも本当に、私は今の生活を苦には感じていない。だから恐らくこれは、平行線。話したところでお互いこれだ、ってラインが見つかるとも思えないし、セイツの気になる気持ちが再燃する前に台所へ退散……と思っていた私だけど、そこで何故か、セイツが私をじーっと見つめている事に気付いた。
「えぇと…セイツ?今度は何……?」
「…そういえば、イリゼのそれって……」
「…それ?」
何事?それってどれ?…と首を傾げてみるけども、セイツは私を見つめるばかりで一向に答えてくれない。だからさっぱり分からないし、後シンプルにちょっと恥ずかしい。
と、思っていたら、今度は数度頷き、よし、と小声で呟いていた。…変なセイツ。
「イリゼ、わたしはイリゼの料理が好きだし、慣れてるから…っていうのも疑う気はないけど、別に手抜きをしてくれたっていいんだからね?オリゼだって、そこは同じように思う筈よ」
「ありがと。でも、本当に大丈夫だから。…今だって、偶に手抜きする事はあるし」
「わたしが料理する時は、基本いつでも手抜きよ?勿論真面目に作りはするけども」
「そ、そうなんだ……」
凄くも何ともない事を言われ、私は答えつつ頬を掻く。別に自慢してるとかじゃなく、これもセイツの気遣いだって事は分かってるけど…なんていうか、セイツも変わってるんだよね…私もどれだけ人の事を言えるか怪しいけども…。
なんて、そんな会話を最後に、この場でのやり取りは終わった。今度こそ私は明日の食事の下拵えへ入り…セイツの妙な反応については、結局分からず終いだった。
*
下拵え…というか、私の生活スタイルについてセイツと話した日の二日後、明後日に当たる日。私はセイツから、また神次元に行ってくる…という話を受けた。
セイツが神次元に行くのは、日常的な…と表現するのは変な気がするけども、よくある事。だから最初は、特に何も思うところはなかったんだけども……。
「なんかこれまでより、今回は行くスパンが短いよね。もしかして、向こうで何かあったの?」
「そういう訳じゃないわ。もののついでと、ちょっとした用事よ」
「ふぅん…じゃあ、出発はいつ?」
「明日よ」
「明日…!?ず、随分とまた性急だね……」
いつもだったら(お互い責任ある立場って事もあって)もっと早くから教えてくれるのに、今回は何故か前日報告。だからやっぱり何かあったんじゃないかと気になる私だけど、セイツはそうではないと改めて言う。
「心配しないで。ただちょっと、向こうでやりたい事が出来たから、それに合わせて後回しにしていた事も片付けてこようってだけの話よ。だから早ければ一泊二日で、遅くても数日で帰ってくるわ」
「だったらまぁ、良いけども…。…じゃあその間、私が代わった方がいい仕事とかはある?」
「優先したい事は昨日今日で済ませてあるから大丈夫よ。というか、こっちの仕事に余裕があるからこそ、この際行っちゃえ、って考えた訳だし」
話は唐突だったけども、きっちり女神の務めは果たしているのがセイツ。それでも出来る事なら、もう少し早く知りたかったところだけど…あんまり言い過ぎても、「もしかして、わたしと急に会えなくなるのが寂しいの?」とかからかわれそうだし、これ以上は言わない事にした。
「実際どうなの?ちょっとは寂しい?」
「ぬるーっと地の文読まないでよ…じゃあ、何かあったら連絡してね?こっちも、有事の時は迷わず連絡するから」
「えぇ。これまで通り、お互い変な遠慮はなしでいきましょ。もしもの事があれば、一泊二日を返上して、ゼロ泊二日で帰ってきてもいいんだから」
「休まず活動するつもり!?私にどうこう言ってた数日前のセイツはどこに!?」
「イリゼ。わたしはね、数日前の…ううん、一分前のわたしよりも進化するのよ」
「何の話!?それドリルの事だよねぇ!?」
「何のも何も、分かってるじゃない」
「そういう事を言ってるんじゃないんだけどなぁ…!」
油断するとすぐからかってくる、結局からかわれた私は数日前と同様にセイツを睨む。だけどやっぱりセイツには何の効果もなくて…あの時と同じく、今日もまた私は肩を落とす。
「ふふっ、そう気落ちしないで。お土産も買ってきてあげるから」
そんな私とは対照的に、何やらセイツはテンション高め。それはまるで、神次元に行くのが楽しみといった様子で…もしかして、向こうでやりたい事っていうのは何かしらの娯楽だったりするのか。そんな風に思う私だった。
とまあ、ある意味日常的なやり取りを経て翌日を迎え、セイツは神次元へと行った。セイツの神次元への行き来はもう何度もしている事だから、私もいつも通りの事として見送った。そして、これまたいつも通り、特別何か起こるような事もなく…出発してから三日後、二泊三日の期間でセイツは神次元から帰ってきた。
「ただいま、イリゼ、オリゼ。イストワールも、いつもありがと」
「いえいえ。もう慣れたものですからねd(^_^o)」
今日は神生オデッセフィアに来ているイストワールさんが、帰ってきたセイツにサムズアップ。私、オリゼ、イストワールさんと、セイツはぐるりと見回して…それからある物を私達に見せる。
「はい、じゃあこれが約束のお土産よ」
「……?なんか、やけに大きい箱だけど…これは何?」
「ミシンよ」
『ミシン!?』
まさか過ぎるお土産に、私達は全員ぎょっとする。ミシン!?お土産にミシン!?…と、びっくりして箱を凝視する。…うっわ…冗談じゃなくて、本当にミシンだ…お土産としてミシンを買ってくるとか、前代未聞でしかない……。
「ミシンも一台はあった方がいいでしょ?なんとこれ、プルルート監修なのよ?」
「ぷ、プルルート、さんの…ですか……?」
「プルルート、裁縫には一家言あるみたいだからね。趣味や日常で使う上で、必要な機能が無駄なく揃ってる…って事で、中々評判も良いらしいわ」
そうなんだ…と私は感心する。でもどうしてミシンなのか。確かに一台位はあってもいいと思うけど、それをお土産にする発送はどこからきたのか。…その疑問は、今から少し後…皆でお昼ご飯を食べて、一服していたタイミングで明らかになった。
「さて、と。ねぇ皆、唐突だけど……シュシュ、作ってみない?」
本当に唐突な、セイツの提案。シュシュを作らない?という言葉に、私とイストワールさんは顔を見合わせ…数拍の間を経て、オリゼがかくんと首を傾ける。
「ち、知識の…精霊、さん…です……?」
「うん、間違ってるし混ざってるから…精霊じゃなくて妖精だし、妖精でもなくて普通のシュシュよ…妖精を作るっておかしいでしょ……」
「…まぁ、シュシュを作りたいっていうのは別にいいけど…セイツ、作り方知ってるの?」
「勿論よ。どこに気を付けて作ればいいかも把握済みだから安心して」
「…把握済み…もしかして、神次元でやりたかった事って……」
そういう事、とセイツはウインク。どうやらセイツ、シュシュ作り…というか、作る上での縫う技術をプルルートから学ぶ為に、神次元へ行っていたらしい。
となると、ミシンについてもこれの為に買ったんだろうと予想出来る。シュシュ作りの為に別次元に行って、そこでミシンまで買ってくる…こう表現すると何か壮大なシュシュ作りになりそうなものだけど、縫い方を習ってきたのは別件のついで、ミシンを向こうで買ったのも更にそのついでっていうのが実際のところ…だと、思う。多分。
「それで、どう?そこまで難しくないし、やってみましょ?」
「シュシュですか…そうですね。折角ですし、やりましょうか(・∀・)」
「私もいいよ。オリゼは?」
「え、えと…やって、みたい…です……!」
セイツからの問いに、全会一致で賛成を示す。でもそうなると、まずは材料の用意を…と思いきや、セイツはもう材料の調達も済ませていた。こっちは神次元で買ってきた…って訳じゃなくて、むしろ神次元へ行く前に予め買っておいたんだとか。
「…これ、肌触り凄く良いけど…結構高級な布だったり?」
「勿論。作るなら、使いたくなるようなものの方がいいでしょ?」
この返答からしても、セイツはかなりやる気というか、凄く熱意を持っている様子。でも別に、アクセサリー作りに目覚めた…って訳ではないだろうし、単にシュシュが欲しいってだけなら、わざわざ作ったりせず、買う方が遥かに楽だし確実。だから手作り…それも皆でやろうとするだけの理由が何かあるんだろうけど……
(…別に、そんな難しく考える事でもないよね)
幾ら何でも、このシュシュ作りに大きな裏がある…なんて事はない筈。そう私は思い直し…四人でシュシュ作りを開始する。
「じゃあ、まずはシュシュにする布を切るんだけど…折角だし、二種類の布を使ったリバーシブルシュシュにしようと思うの。シンプルなシュシュよりは少し難しくなっちゃうけど…いい?」
「難しいっていっても、極端に難しくなる訳じゃないでしょ?私だって、作るなら満足出来るものにしたいし、それでお願い」
「えぇ。それなら最初はサイズを測ってチャコペンで目印を付けるわよ。イリゼとオリゼは、私と同じサイズで作ればいいけど……」
説明しながら、セイツはチャコペンをくるりと一度ペン回し。それから視線をイストワールさんへと向け…イストワールさんは、こくりと頷く。
「わたしの場合は……ですよね。普通に作る場合のサイズを教えてもらえますか?そうしたら、自分に合うサイズがどの位なのか、ちょっと調べてみますので( ̄∇ ̄)」
「ん、了解。…因みに計算するんじゃなくて、調べるの?」
「はい。三分程掛かりますね(´ω`)」
「まあまあ掛かるわね…いやでも、イストワールに合うサイズなんて普通に調べて分かる事でもないだろうし、妥当な時間なのかしら……」
「あ、ごめんなさい…真面目に受け取ってくれたみたいですけど、今のは冗談です…( ̄▽ ̄;)」
うぅん、と真に受けて考えるセイツを見て、イストワールさんは頬を掻く。セイツは一瞬ぽかんとなり…それから恥ずかしくなったのか、ちょっぴり赤くなっていた。
「ふふっ、セイツったらかーわい♪」
「は、はい。可愛い、ですっ」
「ちょっ、か、からかわないでよねっ!」
更にかぁっと顔を赤くするセイツを見て、私達はくすくすと笑う。…別に、数日前のお返しをした訳じゃないよ?
「全くもう…目印は、あんまりしっかり書かなくても大丈夫よ?というかむしろ、しっかり書き過ぎるとチャコペンの跡が残っちゃうし」
「ふぇっ!?あ、あ、あの…じゃあ、これは……」
「あぁっ、大丈夫ですよイリゼ様…!チャコペンで書いたものは別に消せない訳じゃないですから、そんな泣きそうにならないで下さい…!(><)」
「…チャコペンって、チョコペンと似てるよね。丁度チョコペンも紙じゃないものに文字を書く為のものだし」
「あー、言われてみれば確かにね」
我先にと、お絵描きをするように嬉々としてチャコペンを走らせていたオリゼ。けれどセイツの言葉を聞いた直後、ぷるぷると震え出し…そのオリゼを、イストワールさんが宥めていた。何とかなりそうな雰囲気だったから、この時私は違う事を言っていた。
で、目印を付け終わった後は、裁ちバサミで布を切り取っていく。イストワールさんもよいしょ、とチャコペンを抱えて布に書き(とても可愛い)、それを私がカットした。
「じゃ、次は二枚の布を縫い合わせるわよ。一応途中で布を折るところがあって、そこは本来アイロンを使った方が綺麗にやれるみたいだけど……」
『だけど?』
「今回は使わず、力で普通に折るわ。何ならアイロンとか必要ないし」
何ともまあワイルドというか、パワフルな発想をするセイツ。でも別に、誰もそれに対して待ったを掛ける事はなかった。普通に考えたら、突っ込みどころのある発言なんだろうけど…私達女神からすれば、実際そうだからね…。
「セイツ、縫うのってミシン使うの?」
「勿論。その為にわざわざ買ってきたんだから」
(じゃあやっぱりお土産ではないんじゃ……)
頭に浮かんだ水を差すような指摘はぐっと飲み込み、セイツが買ったミシンの使い方を確認。最初はまずセイツが自分のを縫い、それを見せてもらってから、私やオリゼも同じようにミシンを使って布を縫う。
「わ、っとと…これ、力加減が難しいね。自分でも思った以上に、簡単にスピードが出ちゃうというか……」
「でしょ?慣れれば上手く出来るようになるってプルルートは言ってたし、実際慣れが肝心なのはわたしも感じてたけど……でも、ちょっと意外だわ。イリゼ、裁縫…というか、家事全般慣れてるものだと思ってたから」
「いや、私だってやる機会がないものは慣れてないよ…料理とか洗濯物とかと違って、裁縫はやろうと思う機会も特になかったし……」
私を何だと思っているのか、と呆れ気味に私は返すけれど、セイツは「だって、ねぇ?」とオリゼに同意を求めている。一方私はイストワールさんと顔を見合わせ、お互いに軽く肩を竦める(因みにオリゼは反応に困っていた)。
「セイツさん。それで言うなら、イリゼさんが普段している家事…特にお菓子作りも、別に最初から好きだったんじゃないんですよ。当たり前ですけども( ̄▽ ̄)」
「えっ…!?そ、そうなん…ですか……!?」
「そ、それはそうだよオリゼ…私、オリゼの複製体だよ?オリゼは別に、お菓子作りは好きな訳じゃないでしょ?」
「……!」
はっとした顔をするオリゼに、今度は私達三人で苦笑い。それから私はお菓子作りが好きになる切っ掛けの出来事や、過去には女神候補生の皆とケーキ作りをした事なんかをセイツとオリゼの二人に話す。
「懐かしいな…私自身、ここまで好きになるとは思ってなかったっていうか、あの頃の私に今の私の事を伝えたら、多分びっくりするんじゃないかな」
「あの頃のイリゼさんに…という事であれば、守護女神になっている事自体かなり驚くのでは?(´・∀・`)
「あ、それは本当にそうかも。あの頃は、どの国にも属しない女神が自分の在り方だって思ってましたし」
「…むぅ…なんか悔しいわね。イストワールばっかり知ってるなんて」
「え、えと…そう、かも…です……?」
「こらセイツ、オリゼを困らせないのー」
自分でも姉に対しての言い方じゃないなぁ…と思いつつ私が言うと、セイツははーい、とこれまた妹に対しての反応じゃない感じの雰囲気で答える。そんな感じで会話をしつつ私が縫って、続いてはオリゼが縫っていた。オリゼも最初はおっかなびっくりだったけど、割とすんなり慣れてミシンを操作していた。…で、最後はイストワールさんの番…なんだけど……
「布をセットして…うぅ、やっぱりわたしの背格好では無理がありますね…。でもこうやって布を押さえながら、操作の方は魔法で何とか……
o(`ω´ )o」
「ちょ…ちょっと待ってイストワール!やっぱりミシンはわたしがやるわ!」
「そ、そうですよイストワールさん!ここはセイツに任せて下さい!」
「…ちょっとやってみたかったんですけど……(¬_¬)」
不服そうなイストワールさんを、何とか説得する私とセイツ。申し訳ない気持ちはある、気持ちはあるけど…ミシンより小さいイストワールさんが、針の前に身を乗り出すようにして布を押さえている姿は、幾ら何でも怖過ぎた。これでミシンを操作しようものなら、見ているこっちのメンタルがやられるような気がした。
「さてと、皆縫えたわね?それじゃあ今度は…折り返してまた縫うわよ」
「また縫うんだね。…となると、一人ずつそこまでやってから交代の方が効率は良かったんじゃ?」
「効率的にはそうだけど、皆で一つずつ工程を進めたいじゃない。イリゼってば、情緒がないわねぇ」
「むぐぐ……」
やれやれ、と首を横に振るセイツに言い返したいところだったけど、別にこれは商品じゃないんだから効率を考える必要もないし…と、セイツの返しに一理あるなんて思ってしまったのが運の尽き。だから私は言い返すのを諦め、またセイツがお手本としてやるのを見てから、自分の布へと糸を通す。
「そう、いえば…セイツは、練習…したん、ですよね…?じゃ、じゃあ…そのシュシュも、どこかに…あるんです、か…?」
「練習用で作ったのは、神次元に置いてきたわ。ハッキリ言ってこの本番にはついていけないと思ったから……」
「いや、どういう事……?」
何故か腕を組んで言うセイツに、私は軽く突っ込みを入れる。まぁ実際には、プルルートやピーシェにあげた…ってところなんじゃないかと思う。
ともかく二度の縫いを経る事で、シュシュの布は完成する。この後にやるのは、中にゴムを通す作業で…このゴムがまた、かなり長持ちする高級品なんだとか。
「…ねぇセイツ、一応訊くんだけど…これって、ミシン代抜きにしても、普通にそこそこ良いやつ買うより材料費掛かってない…?」
「んー、まぁそうかもね。でも大丈夫よ、わたしお金には困ってないから」
「それはそうだろうね、私達女神だもんね…」
「あ、お金といえば…イリゼさん、セイツさん、最近イリゼ様は大丈夫ですか……?(ーー;)」
派生するような形でのイストワールさんからの質問に、私とセイツは顔を見合わせ、一応私達が把握してる範囲では…と返す。
イストワールさんが言っているのは、オリゼの衝動買いについて。といっても別に、よくある「欲しいものがあるとつい買っちゃう」…みたいな感じじゃなくて、オリゼは商売をやっている人や募金活動を頑張ってる人を見ると、そこで衝動的にお金を使ってしまう…という感じ。流石に国としての予算に手を出すような真似はしないけど、放っておくと誰彼構わずのレベルでお金を使ってしまうから、こちらとしてはヒヤヒヤしちゃって仕方がない。
「むぅぅ…わ、私は私のお金を、問題のない範囲で…使ってる、だけ…です」
「そうは言うけど、前に足りなくなったバターを代わりに買いに行ってくれただけの筈が、帰ってきた時には山の様な荷物になってた事あったよね?」
「あったわねぇ。しかも保存が効かない食べ物なんかも色々買ってきてたから、その日イリゼが作ってくれたケーキは明日に回して、買ってきたものを代わりに食べる…って事になったんだっけ?」
「うぅ…そ、それはぁ……」
言い返せないようでしょんぼりとする(何故かアホ毛もしんなりしている)オリゼの姿に、私達は肩を竦め合う。私は…というか私達は全員、オリゼの思いや在り方を否定するつもりはない。むしろ否定なんて出来る訳がない。だけど今のオリゼは、オデッセフィアの女神だった『原初の女神』とはまた別の道を歩んでいる訳で……まあでも、ちょっとずつ慣れていくしかないよね。
「皆、ゴムは入れられた?入ったなら、口を閉じるわよ」
「…………」
「…それじゃあ、閉じた口を針で縫って……」
「ぴぇぇっ!?い、イリゼぇ!イストワールぅぅっ!」
口を閉じる、と言われ、お口チャックのジェスチャーをした後唇を真一文字で閉ざしたオリゼ。これがオリゼのボケなのか、本当に言葉通りの意味に受け取ってしまったのかは謎だけども、それを見たセイツは何思ったのか(多分からかってやろうと思ったんだろうけど)、ミシンの物とは別で手直し用に用意しておいた針を持って、意味深にオリゼの方へ見せる。結果、びくぅ!と肩を震わせたオリゼは泣きそうな顔で速攻私の背後へ隠れてきて……流石にこれは、なんだろうこの家族…と思わざるを得ない私だった。
「…こほん。さっき言った通り口を閉じる訳だけど、ここでやるのはコの字縫いって方法で…ここはミシンを使わずにやるわ」
「ミシンを使わず…という事は、今度はわたしもやれるんですね?( ´ ▽ ` )ノ」
手縫いであれば、とイストワールさんは嬉しそうな顔に。まあ確かに縫う段階に入ってからは私達が代わりにやる場面が続いていたし、布を使った手作りアイテムなのに自分は縫う事を一切しないまま完成、というのも味気ないんだろうな…と思う。…ただまあ、チャコペン同様針だってイストワールさんにとっては大きな道具で……
「最後は糸を内側で止めて……ふぅ。縫うのも中々楽しいですね。プルルートさんがお裁縫好きなのも、少し分かります(´∀`=)」
「それはわたしも思ったわ。…にしてもアレね。イストワールが針を持ってると、レイピア装備してる感じあるわね」
「針をレイピアに…ネプテューヌ的に言うなら、いーすん法師…みたいな?」
「いーすん、法師…ふ、ふふっ……」
私の発言に、オリゼだけがウケて笑う。イストワールさんとセイツは、「そこまで…?」って反応でこっちを見てる。…これはあれかな…同じイリゼだから分かる、通じるものがあるのかな…。
(…でも……)
そこでふと、私は思う。私はオリゼの…原初の女神の複製体で、もう一人の『
「……ふふっ」
「え、イリゼ?」
「うん、だけどそれも今の私にとっては……」
「い、イリゼさーん?いつもの悪癖が、また新しいパターンで出ちゃってますよー?(^◇^;)」
「うぇっ!?あ……」
言われてはっとする私だけど、時既に遅し。しかも今言われた通り、最初に声を掛けられた時点で我に返っていれば大して恥をかかずに済んだのに、むしろそこから思考をダダ漏れにさせるという新パターンを披露しちゃったものだから、今我に返っても後の祭り。それでも今この場にいるのが家族だけだから、ダメージは少なく済んでいる…と思いたいところだけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。…うぅ……。
「ほんと、難儀な悪癖ね…。…で、何を考えてたの?」
「それは……別に、大した事じゃないよ」
「…大した事じゃないのに、思わず言っちゃったと?」
「うぐっ…ほ、掘り下げないで……」
言い返しようのない指摘に、私の心は追加ダメージ。マジの凹みだと分かってくれたのか、セイツはそれ以上言わなかったけども…まさか、ここに来て新パターン登場なんて本当に思いもしなかった。
(…ほんと、大した事じゃないんだよ)
そう。私が思ったのは、些細な事。悪癖を披露してしまった事なんかより、ずっと小さな事。だって…私とオリゼは、同じであり違うのかもって事に対して、そうなのかもと素直に受け止めたってだけだから。昔だったらもっとショックを受けたり自分の在り方に迷いを抱いていただろうけど、今はそうでもない…それが今の私だって、気付いただけなんだから。
「はふぅ…セイツ、セイツっ。も、もしかしてこれで……!」
「えぇ、これでシュシュ本体は完成よ」
「……っ!…って…ほ、本体…?」
ぱぁっ、と表情を輝かせるオリゼ。でもすぐに、「本体」という言葉に首を傾げる。私やイストワールさんも、どういう事?とセイツを見やる。
「このままでもシュシュとしてはもう完成しているわ。だけど折角だし、ここにリボンを加えたリボンシュシュを作ってみない?」
「リボンシュシュ…それって、ここからでも出来るの?」
「出来るわ。リボンシュシュって、シュシュにリボンを結んだものを言うんだもの」
そう言って、セイツはリボン用の型(手作り)を取り出す。やっぱり今回のセイツは準備が良い。本当に、シュシュ作りを楽しみにしていたんだって事が伝わってくる。
だったらと、私達はリボン作りに移行。本体と同じようにまずは布を切り、型に合わせて加工し、またミシンで塗っていく。作業自体は本体と似たようなものだし、本体での経験もあるから、全員すんなりと進んでいく。イストワールさんに関してだけは、シュシュ本体以上に小さいリボンを作る関係から、今度は全面手縫いになったけども、特にイストワールさんはそれを苦にする様子もなく…リボンの方も、形になった。
「せ、セイツ。これで、今度こそ……」
「ふふっ。こうして後は、リボンを結べば…手作りリボンシュシュ、完成よ♪」
しゅるり、とシュシュにリボンを結び、セイツが両手で持って持ち上げる。同じように、私達も結び付けて…遂に、完成。
「わぁぁ…!り、リボンが兎さんの耳みたい、で…可愛い、です……!」
「確かに、ウサミミみたいかも…これで髪結んだら、ほんとにウサミミっぽく見えるかも?」
「でしょでしょ?…そうだ、イリゼ。ちょっと相談なんだけど……」
「……?」
セイツに呼ばれた私は、続けてセイツから耳打ちを受ける。それはちょっと、意外な提案で…でもそれを、私は良いなって思った。そう思ったから、セイツと共に一度リビングを出て、あるものを取ってくる。そしてそれを、オリゼとイストワールさんに見せる。
「それは…アクセサリーに出来るようにした、シェアクリスタルですよね?(・・?)」
「そうよ。これにもリボンを通して、一緒に付けるのはどう?」
「え、えっと…それは、どうして……」
「深い意味はないけれど、これをより特別な…私達だからこそのものにしたい。そうだよね?セイツ」
分かっているじゃない、とセイツは笑みを浮かべて頷く。このシェアクリスタルは、前に別次元や別世界の皆へプレゼントしたのと同じ、かなり小型のもの。だから貴重じゃない…なんて事はないけれど、シュシュという元から身に付けるものに組み合わせるなら、いざって時の備えにもなる。
そう説明すると、オリゼは納得してくれた。イストワールさんは、最初から否定的じゃなかった。思えばイストワールさんは、基本私やセイツの事を支えてくれて、見守ってくれて、でも駄目な事は駄目だと言ってくれる、本当に良いお姉ちゃん。本人は、姉なのに凄く小さい事を気にしている節もあるっぽいけど…小さくて可愛いんだから、それは全然良いと思う。
「ふふ。それじゃあ早速、皆で……って、セイツ?まだ作るの?」
「そうよ。だって、わたし達だけじゃ寂しいでしょ?」
何故か再び座り、新たにシュシュを作り始めたセイツ。初め私は、その言葉の意味が分からなかったけど…セイツが後二つ作ろうとしている事に気付いて、誰の為のものなのか理解する。
だから私は、オリゼやイストワールさんと共に、今度は四人で分担して残り二つを手早く作る。リボンの方も作って、シェアクリスタルも付けて……そして私は、呼ぶ。
「ライヌちゃーん、るーちゃーん、おいで〜」
「ぬらぬらー?」
「ちるちるー?」
廊下に出て、声を上げれば、数拍の間を経て可愛らしい鳴き声が返ってくる。ぴょこぴょこ、ふわふわと、別室で遊んでいたライヌちゃんとるーちゃんが私の下にやってくる。
「ふふ。ライヌちゃん、るーちゃん、ちょっとだけじっとしててくれる?」
それぞれを胸の前で抱えて、私はリビングのソファに座る。そこでオリゼとセイツが作ったリボンシュシュを持ってきて、ライヌちゃんの片耳と、るーちゃんの片脚に、それぞれそっと付けてあげる。
やはりというべきか、最初はライヌちゃんもるーちゃんもきょとんとしていた。だけどお互いのを見て素敵だと思ったのか、ご機嫌な様子で鳴き合って…それを見た私達は、揃ってほっこり。
「それじゃあ、今度こそ私達も……」
私の言葉に、三人はこくりと首肯。それから示し合わせた訳でもないけど、全員でタイミングを合わせるように手首へとリボンシュシュを通し…じゃーんと、四人で見せ合う。
「ふふんっ♪良いでしょ良いでしょ?良いリボンシュシュに、良いリボンシュシュ作りになったわよね♪」
「ご機嫌ですね、セイツさん(о´∀`о)」
「セイツ、と、とっても…楽し、そう…です」
勿論私も嬉しいし、オリゼやイストワールさんも頬が緩んでいる。私達も同じものを付けていると気付いたのか、ライヌちゃんるーちゃんは目を輝かせている。だけど一番喜んでいるのは、嬉しそうなのは、間違いなくセイツで…そんなセイツへ、私は訊く。
「ねぇ、セイツ。どうしてまた、急にこんな事をしようって思ったの?ただの思い付き…じゃないよね?」
「え?…それは……」
何か理由が?と私が問うと、セイツはぴたっと動きを止める。次にセイツは頬を掻き、少し恥ずかしそうな表情を見せる。そうしてその反応に私やオリゼ、イストワールさんが小首を傾げる中、セイツはちょっとの間もじもじして……そして、言う。
「…その…イリゼのリボンが、羨ましいなって思ったの。それ…イストワールからの贈り物でしょ?」
「あ……」
そう言われて、私は思い出す。先日セイツは私の顔をじーっと見つめていたけど、あれは正確には私の顔じゃなくて、前髪に結んでいるリボンを見ていたんだって事に気付く。
「…そっか…うん、分かるな。その気持ち」
呟きながら、私は回顧する。私がこのリボンを貰った時の事を。あの時の嬉しさを。今だって、これは私の大切な宝物で…多分セイツは、あの時初めて羨ましいと思ったんじゃなくて、前々からそういう思いを抱いていたんだろうって気がする。
「でも…それはそれとして、やっぱりセイツって可愛いところがあるよね。シュシュを選んだのもそうだけど、手作りにしたり、シェアクリスタルも組み込もうとしたり…んー、可愛いだけじゃなくて、ロマンチストでもある感じ?」
「そ、そういう事は思っても言わないで頂戴!オリゼとイストワールも温かい目でわたしを見ないで!?」
再び顔を赤くするセイツに、私もまた温かい目…というか視線を送る。…ちょっとからかう形にはなったけど…本当に、セイツの気持ちは分かる。立場が逆なら、私もきっと似たような事をしていただろうと、心から思う。
「…ありがとう、セイツ。大切に、するからね」
「わ、私も、ですっ」
「家族で作った、思い出の品ですもんね( ´ ▽ ` )」
「皆……」
指先でシュシュを撫で、私は感謝を伝える。オリゼとイストワールさんもそれに続く。セイツは本当に、さっき以上に幸せそうな表情を浮かべて…それから、笑う。
このシュシュそのものに、特別な価値はない。シェアクリスタルは貴重だけど、それは追加したものだし、このシュシュ自体はリボン含め、良い布やゴムを使っているというだけの事。出来栄えだって、市販品でもっと良いものだって沢山ある。…だけど、重要なのはそこじゃない。これはセイツが作り方を学んで、私達が手作りをした、私達だけのリボンシュシュで…私達の、形ある絆。他の人達にとっては、ただのハンドメイド品でも…私達にとっては、唯一無二。だから、大切にするし…忘れはしない。これを作った皆との時間も、それが形を変える思い出も……今抱いている、この温かな気持ちも。
今回のパロディ解説
・「〜〜某高校生経営者兼寮長〜〜」
一畳間まんきつ暮らし!に登場するキャラの一人、天宮梨絵の事。セイツは経営者どころか一国の長などで、やろうと思えば本当に出来るでしょうね。勿論やってませんけど。
・「〜〜一分前のわたしよりも進化する〜〜」
天元突破グレンラガンの主人公、シモンの名台詞の一つのパロディ。これに似た台詞をNARUTOのロック・リーも言っていますね。彼の場合は進化するではなく、上を目指す…という内容ですが。
・「ち、知識の…精霊〜〜」
デュエル・マスターズのカードの一つ、知識の精霊 ロード・リエスの事。流石にTCGでは時代遅れでしょうが、天門の歴史に深く関わるクリーチャーですよね。デュエプレではまだ我が天門に組み込んでます。
・「〜〜精霊じゃなくて妖精〜〜」
名探偵プリキュアに登場するキャラの一人、シュシュタンの事。勿論今回作ったシュシュにも妖精が…なんて事はありません。イリゼは記憶喪失(と思われていた)時期がありましたけども。
・「〜〜神次元に置いて〜〜ついていけない〜〜」
DRAGON BALLに登場するキャラの一人、天津飯の代名詞的な台詞の一つのパロディ。パロディである以上の意味はないので当たり前の事ではありますが、本当に意味不明な発言ですね。
・「〜〜いーすん法師〜〜」
一寸法師のパロディ。でも本当に、信次元のイストワールはちっちゃいーすんの方なので、一寸法師みたいな大きさだと思うんですよね。後、我ながら「いーすん法師」は上手いなと思いました。
毎回唐突な報告となってしまっていますが、OTの物語はこれで一先ず終了としたいと思います。今作もコラボが長めとなってしまいましたが、ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
そしてこれも毎回の事ですが、この後は設定系を投稿し、それが完了したところでの終了となります。ですので、もう少しだけ本作にお付き合い下さい。