超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

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第八話 休息の時

 島の様な次元の調査と、その中での資源の確保。食料は勿論、錬金に使えそうな…或いは錬金の為に必要なものを回収して、調査としても情報を集めて、施設に戻る。戻ってからは、ゆっくりと休んで英気を養う。時々それ以外の事をしながらも、基本はそれを繰り返す。こう表現すると、何とも味気ない、同じ事が続いているようにも思えるけど、そんな事はない。何をしているかだけに焦点を当てればそうでも、その具体的な内容はいつも違うんだから。

 そうして今日も、食事を終えれば調査が始まる。…そう、思っていたけど……。

 

「ねぇ皆、提案があるの。今日は調査に出るのをお休みして、皆で遊ばない?」

 

 提案がある。そう言って私達の注目を集めたイリゼが口にしたのは、意外な言葉。それに私は目を瞬かせ…すぐに返答が聞こえてくる。

 

「お、良いッスね。ウチは賛成ッスよ」

「まあ、良いんじゃないですか?遊ぶではなく、のんびりするのも選択肢には入れるべきだと思いますが」

「勿論良いに決まってるわ。わたしもこの辺りでそろそろ…って、似たような事考えてたしね」

 

 三者三様の…でも全員が肯定を示した反応。アイ、ピーシェ、セイツの声。ただ、当然すぐに全員賛成となる訳じゃなくて、待ったの声も当然あった。

 

「遊ぶ…もう、調査は十分という事?」

「いや、まだ完了には程遠いな。そもそも情報は集まってきているが、だとしても不明な点や、答えが微塵も見えてこない部分が多過ぎる」

「なら、遊んでる場合ではないのでは…?いや、ピーシェ様が良いって言うのであれば、それでも良いんですけども…」

「僕は…うーん、出来れば休みたいかな。僕は大丈夫だけど、フロストにはそろそろお休みさせてあげたいし」

 

 まず展開されるのは、調査を主軸に置いた視点。当たり前の事ではあるけど、調査が碌に進んでいないのなら、休んでなんかいられない。でもそれで言うと、情報は集まってきているけど、まだ先は長い…という現状は、休んでも大丈夫か否かにおいてはどちらとも言えない…ってところ。

 

「っていうか、そもそもどうしておねーさんはお休みにしようと思った訳?そういう発言って、ネプテューヌちゃんの領分じゃない?」

「あ、それ自分も思ったー。…つまり逆に、今回は自分がイリゼっぽい言動を……?」

「いやしなくていいから…っていうか、出来るの?」

「そんなの余裕だYO!ワガハイなら出来るに決まってるナリ!」

「私そんなキャラじゃないんだけど!?後半とか明らかに別人だし!」

「ぜーちゃんぜーちゃん、それ『人』じゃなくてロボットだよ?」

「そんなところ指摘しなくていいから!」

 

 いきなり脱線し、力一杯突っ込むイリゼ。それからイリゼははぁ…と大きく溜め息を吐き…それから一つ咳払い。

 

「…こほん。確かに影君の言った通り、調査はもう十分…って訳じゃないよ。だけどここまで皆、頑張ってきたでしょ?苦労したり、散々な目に遭ったりした事もあったでしょ?だから、そのリフレッシュをするのも必要だと思うの」

「ふふ、流石は国の長。似たような事を考えていたらしいセイツ君は勿論、ピーシェ君やアイ君も即座に同様の思考へ至った…というところかな?」

「そういう事ですか…それなら、わたしも賛成です。調査はともかく、食料については皆さんが沢山取ってきてくれるおかげで、かなり余裕ありますし」

 

 単に休みたい、遊びたいという訳ではなく、今後を見据えたリフレッシュの為。そう語るイリゼの言葉に、ズェピアやディールと同様、私も納得する。確かに毎回余裕がある内に調査を切り上げて戻るようにしているし、ちゃんと食事や睡眠も取っているから、身体の調子は皆問題ないと思うけど、身体と心は違う。身体が回復していても、心まで回復しているとは限らないし、逆もまた然り。…ただ……。

 

「苦労したり、散々な目に遭ったり…ね……」

「…イヴォンヌさん?何か気になる事でもあるの?」

「別にそういう訳じゃないわ。…ちょっと、前の事を思い出しただけよ」

「ああ…確かに同性とはいえ、水着がかなり際どい状態になっているのを見られたら恥ずかしいものね……」

「ちょっ、違っ…!散々な目って、それの事を言ってる訳じゃないわ…!」

 

 全然違う事、しかもあんまり思い出したくない事を言ってくるエリナに、頬が熱くなるのを感じながら慌てて返す。ルナとエリナ、二人は同情的な視線を向けてくれているけど、そんな見当違いな同情をされたらむしろ居た堪れなくて仕方がない。

 私が思い出した事。それは水着云々ではなくて、零次元での日々。あの頃の方が今より明らかに大変だったし、未来へ対する『不安』もあった。それを思えば、今の状況は大分楽だし、まだリフレッシュする程じゃない。

 とはいえ、それは私の話。自分が不要だからというだけで反対したりはしない。一理あるとは思う訳だし。

 

「じゃあ、今日は休みにする…って事で大丈夫かしら?ピーシェの言う通り、遊ぶなりのんびりするなりは各々の自由にする…って事で」

「えぇ、構いません。警戒は私がしておきますので、セイツ様達もゆっくりと羽を伸ばして下さい」

「うん?何を言ってるのワイト君、君も休まないと駄目だよ?」

「お気遣いありがとうございます。ですが私はまだリフレッシュが必要な程ではありませんので、お気持ちだけ……」

 

 確認をセイツが取ろうとする流れの中、自分は大丈夫だと言うワイトを、イリゼがじーっと見る。普段あまりしないような、真顔でワイトの事を見据える。

 

「…えぇと、イリゼ様……?」

「…ワイト君。私はワイト君を含む、皆に休もうと言ったんだよ?一方でワイト君は、自分は休まなくてもいいって言ってる訳だよね?つまり君は、私の言葉を蹴るだけじゃなく、私を自分ばかりが休む女神に仕立て上げようとするのかな?」

「い、いや…そういう訳では……」

「なら、休んでくれるよね?」

「……イリゼって、こんな事言うタイプだっけ…?」

「うーん…きっと、ぜーちゃんは変わっちゃったんだよ…私達の知る、あの頃のぜーちゃんはもう私達の心の中にしかいないんだよ……」

「そ、そんな…そんなぁ……!」

「楽しそうだね、二人は……」

 

 もう頷かざるを得なくなったワイトは、わざとらしい会話をするルナと茜を複雑そうな表情で見やる。…危なかった…一歩間違えれば、私がワイトみたいになってたわね…。

 とまぁ、こんなやり取りも経て、今日の過ごし方が決定。ただ、見張り役は置かないにしても、この施設周辺からは離れない事と、単独行動をしない事は約束として決まって…食事も終了。

 

「さーて、休むって決まったんだから遊ぶわよー!」

「まずは走り込みから!行くよビッキィ!」

「はい先輩!…ってなんでネプ姉さんは部活みたいなノリを!?」

 

 軽快なノリ突っ込みが聞こえてくる中、私も外に出る。さてと、私はどうしようかしら…取り敢えず外に出ちゃったけど、中に戻って義手のメンテナンスをゆっくりじっくりやるというのも……

 

「ちょっと待った。気になってたんだけど…皆、ちゃんと日焼け止め塗ってる?」

 

 そう思っていたところで聞こえてきた、イリゼの声。…日焼け止め、って……。

 

「…あるの?」

「あるよ、っていうかあったよ?…というか、そう訊くって事は…イヴ、塗ってないね?」

「……まぁ…」

 

 しまった、墓穴を掘った。別に怒られるような事ではないと思うけど…さっきのイリゼの事を思うと、このまま「なら塗ってね」とだけ言われて終わるとも思えない。

 

「日焼け止め…って、必要なの?…あ…その、私も塗ってないです、ごめんなさい……」

「いや別に、謝るような事じゃないけど…必要かどうかで言えば、勿論必要だよ?」

「そ、そうなのかなぁ…ズェピアさんを見てると、必要ないような気がしてならないんだけど……」

「ははは、私は色々と特殊な…少なくとも一般的にイメージされる吸血鬼とは少し違っていてね。ただ、私はどうあれ、ルナ君や君達肌の綺麗なお嬢様方は、その肌を守る為に塗った方が良いと思うよ」

「うんうん、えるなむさんの言うとーりだよ。日焼けは後悔してからじゃ遅いからね」

 

 困惑気味のルナへ、茜とズェピアが言葉を返す。どうもイリゼと茜、それにセイツとエリナは塗っていたみたいで…多分、男性陣は誰も塗っていない。

 まあ、男性陣の事はともかく、日焼けは後悔してからじゃ…というのは分かる。日焼けはすぐに治る訳じゃないし、結構焼けた後にお風呂へ入ったりするとヒリヒリするし。ただでも…正直、そこまで神経質になる事でもないんじゃ、と思うのが実際のところ。

 

「日焼け、ですか…。まあ、わたしも日焼けしたくないとは思いますけど、それ位の事ならわざわざ日焼け止めなんか使わなくても、防護魔法の応用でなんとかなるので必要ないです」

「何そのベクトルを操れる超能力者みたいな方法…まあそれで何とかなるって事なら、別に日焼け止めに拘る必要はないけども……」

「…ディーちゃんって、そういうとこドライっていうか、ノリが悪いわよね。まあ、わざわざ使わなくても…って気持ちは分かるけど」

「…魔法って、そういう事も出来るんですか?」

「紫外線のスペクトル波長だけ屈折なりなんなりして逃がせばいいだけだからな。防護の性質調整さえ上手くやれれば、それ程難しい事じゃないさ」

「…どうしよう、難しくないっていう説明が難しくてよく分からない……」

「まあ、難しくないって結論さえ分かればだいじょーふだよ。ごめんね、えー君が説明する気のない説明しちゃって」

 

 がっくりと肩を落とす愛月、その肩を茜がぽふぽふとする。…思えば確かに、影って必要以上の事は喋らないところあったわね…求められたのは出来るかどうかの回答であって、説明ではないから…って事なのかしら。

 

「というか、こんなの各々の自由でいい事じゃないッスか?日焼けする事で誰かに迷惑が掛かる訳でもないッスし、後悔だってするかどうかは自分次第なところあるッスし」

「いや、わたし達女神はそうもいかないでしょ。皆が皆そうだとは言わないけど、やっぱり多くの人は女神の『今』を見て信仰してくれてる訳だし。そんなわたし達の見た目が変わっちゃったら、それは間違いなくシェアに影響が……」

「……?」

「…って思ったけど…アイの場合、日焼けしてもシェアに大して影響がないどころか、むしろプラスに作用しそうな気がするわね……」

「うん…確かにアイって、日焼けしてても問題ない、なんなら日焼けしてても違和感ない感じのイメージあるもんね……」

 

 異を唱えたアイに背を向け、小声で話すイリゼとセイツ。二人の言っている事、抱いているイメージについては…分からない事もない。

 

「女神云々…って事なら、わたし達はアイさんの言う通り、使うかどうかは自己判断でいいのでは?第一わたしの場合、そんな肌の事なんて気にしてませんし」

「自分は女神だけど…まあ、皆とは色々違うしいいかな〜って思ったり…。…いや、肌はどうでもいい訳じゃないよ?そりゃ、綺麗な方がいいよ?でもほら、日焼け止めってべたべたするし……」

「分かります。でも、私としては塗ってほしいというか…勿論パープルハート様は日焼けしようと美しいに決まってますけど、今の綺麗な姿を失ってほしくないというか……」

「うっ…そう言われると、断り辛い……」

 

 自己責任で、というある意味一番基本的な意見が出てきた事で、少し変わる風向き。日焼けについてどう思うかはそれこそ個々人の勝手だし、これは完全に話の流れが一転するかもしれない…そう思っていたところで、不意に私は左の腕をつつかれた。

 

「……?イリス?」

「イヴ。日焼けって、何?」

 

 問いと共に、私の腕をつついたイリスは見上げてくる。ここまで日焼け止めを使うかどうかで話が進んでいた訳だけど…イリスはそれ以前のところから分かっていなかったらしい。そしてこの質問をよく一緒に行動しているディールやエストじゃなくて、私にしてきたのは…多分、単に私が一番近くにいたから。

 

「日焼けっていうのは、日に焼ける事…じゃ、説明として乱暴過ぎるわよね。…えー、っと…皮膚に強い紫外線を多く浴びる事で起きる、炎症の事よ。症状としては、肌が赤くなったり黒くなったりする事で、これは炎症…つまりは火傷をした結果の──」

「……!?」

 

 日焼けがどんなものかなんて改めて考える事もなかったから、私は頭を捻り、出来る範囲で細かく説明していく。単に肌の色が変わる、で済ませるんじゃなく、何故そうなるかの部分まで伝えようとして……けれどその最中、不意にイリスはびくりと反応する。表情は変わらないまま…それでもイリスからは、驚きが伝わってくる。

 

「…駄目。日焼け、駄目」

「え?」

「アイ、駄目。ビッキィも、ネプテューヌも、駄目。日焼け、痛い。火傷、痛い。イリス、皆が痛くなるの…嫌」

『…あ、あー……』

 

 くるりとアイ達の方へ振り向いたイリスは、駆け寄って一人一人の手を握る。両手を握り、見上げて日焼けするのは駄目だと言う。そして、その理由をイリスは言い……私達は、全員で苦笑。

 

「…そういえば、イリスちゃんって前に信次元に来た時も……」

「出来立てのたこ焼きの熱さにびっくりして、似たような反応してた事があったね…」

 

 顔を見合わせたイリゼと愛月の、懐かしむようなやり取り。その間にも、イリスは日焼けは駄目だと言いながら回る。防護魔法の話は理解出来なかったみたいで、ディールとエストにも日焼け止めを使うように言う。

 

「えっとねイリスちゃん、さっきも言った通り防護魔法の応用で何とかなるから別に……」

「でも、駄目。魔法は難しい。難しいは、失敗する事がある。イリス、ディールとエスト、凄く大事。だから、痛いは、絶対に駄目」

「うっ……」

「…これは、ディーちゃんの負けね。諦めなさい、こんな事言われちゃわたしだって断れないわ」

 

 言葉を詰まらせるディールの姿に、エストがやれやれと肩を竦める。エストの言う通り、こうも必死に駄目だと言われれば誰も突っ撥ねる事なんて出来ない。

 

「皆、日焼け止め、する?」

「ああ、塗るよイリスさん。ありがとう、我々の事を気に掛けてくれて」

「火傷、しない?」

「大丈夫よ。しっかり塗ればしないわ。だから、心配しないで」

「なら、良かった」

 

 ワイトとエリナ、二人からの返答を受けて、イリスは胸を撫で下ろす。けどその所作はわざとらしいというか、自然に出たものではない…そういう動きをしようとしてやったような不自然さがあって…また私達は、全員で苦笑いをするのだった。

 

「それじゃあ鶴の…ならぬ、イリスちゃんの一声で話が決まった訳だし、日焼け止めを塗るとしましょ。ふふふ、今なら誰の事も全身くまなく塗ってあげるわよ?」

「えー君えー君!日焼け止め塗ってあげるから私の事もお願いっ!早速あっちで……」

「おーっと、駄目ッスよ茜〜。それだとR-18のタグを付けなきゃいけなくなるッスからねー」

「ただ日焼け止めを塗るだけなのに!?さ、流石に私もそこまでの事をしようとはしてないよ!?」

「えっ、じゃあ何かしらはしようとしてたんですか…?…色々な意味で凄いなこの人…私には真似出来ない、というかしようとすら思えないけど……」

「…スルーされた…冷たくあしらわれるとかですらなく、わたしをないものとして扱われた……」

 

 そうして紆余曲折の末、全員日焼け止めを塗る事になった。さっき思い付いた通り、ずっと中にいるのなら塗る必要もないと思うけど…今更そんな抵抗をする必要もないし、意地を張っても仕方ない。だから私も日焼け止めを受け入れて…私は、或いは私達全員が、こう思うのだった。ある意味私達の中で一番強いのは、イリスかもしれない…と。

 

 

 

 

 男女に分かれ、日焼け止めを塗る時間を経て、改めて私達は遊ぶ事になった。これからの為のリフレッシュって事だし、思いっきり遊ぶぞーっ!……って。

 

『あれ!?日焼け止めを塗るシーンは!?』

「あ、それは絶対長くなるって事で一旦飛ばされたみたいだね」

 

 私だけじゃなく、色んな人が思わず突っ込む。何故かそれに対する答えを、ネプテューヌが言う。…一旦、って事は…またどこかで改めてやるのかな…。

 

(…けど、どうしよう…思いっきり遊ぶっていっても、ここで普通に遊ぶんじゃ勿体無いし……)

 

 うーん、と私は腕を組んで考える。何かしなきゃいけない訳でもないから、のんびり寝るとかでも良いんだけど…それはもっと勿体無い気がする。だからどうしようと、私はよーく考えて……

 

「…取り敢えず、何か飲もっかな……」

 

 一度私は、ドリンクタイムを挟んでから決める事にした。因みに飲むのはスイカジュース。テンション上がって全部割っちゃったから、何とかして片っ端から加工しなくちゃいけなくなっちゃったんだよね…あはは……。

 

「ふぅ、美味しかった。……あれ?」

 

 大量にあるスイカジュースを一杯飲んで、私はまた外へ。飲んでる最中にも考えれば良かったのに、何も考えていなかった私は改めてどうしようと考え…かけたところで、砂浜にイリスが一人でぽつんと立っている事に気付く。

 

「…どうかしたの?」

「あ、ルナ」

「うん、ルナだよ。イリスは何してるの?」

「立っている」

「そ、それは見れば分かるけど……え、まさかそれだけ?」

「ううん。立ちながら、観察中」

 

 ふるふる、と首を横に振るイリスの返答に、私は「あぁ…」と声を漏らす。流石に砂浜でただ立ってるだけじゃなかった。もしそうだったら、それこそ反応に困ってたよ…。

 

「皆、色んな事してる。ディールとエストも、違うところで遊んでる。…イリス、どこに行くか迷う……」

「そっかぁ。でもそれなら、遠くで見てるだけじゃどんな話をしてるかとかは分からないよね?」

「…それは確かに」

「でしょ?だから、一緒に回ってみない?」

 

 私の提案に、イリスはこくんと頷く。それから「盲点だった。ルナ、賢い」と褒めてくれる。…実は私も何するか決まってないし、それならイリスに着いていく形で一緒に回れば途中でどこかに混ぜてもらえるかも?…と思って言っただけなのは…内緒。

 

「それじゃあ、どこから回ろっか。やっぱりまずは、ディールかエストのところ?」

「そうする。イリス、エストのしてる事、気になる」

 

 また頷いたイリスと一緒に、私は歩き出す。イリスは脇目も振らず、じーっとエストのいる方を見て歩いている。色んな事やものに興味を持つ一方で、やる事を決めると途端に一心不乱になる様子は、本当に子供って感じで…なんだか見ているとほっこりする。性格は違うけど、ロムやラムに抱くのと近い気持ちになる。

 そんな事を考えながら歩いていって、私達はエストのいる場所の近くまで来る。パラソルの下に敷かれたレジャーシートに座るエストのすぐ側にはイリゼもいて、更にそこからちょっと離れた場所には、何故か砂浜に埋められているセイツの姿もあって……

 

「いぇーい、セイツおねーさん見てるー?今からセイツおねーさんの大事な妹に、滅茶苦茶(しっかり日焼け止めを)しちゃいまーす!」

「うぅ…ごめんねセイツ…どうしても、断れなくて……」

「ああ、そんな…イリゼっ、イリゼぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 

 

 

「…ルナ。あれは、何をしているの?」

「……よくない遊び、かなぁ…」

 

……三人は、予想外の事をしていた。予想の遥か斜め下を行く、凄まじく変な遊びをしていた。

 

「よくない遊び?…悪い事?」

「うーん、悪い事ではないんだけど……見ちゃいけません」

「……?」

 

 きょとんとしているイリスの目を両手で覆って、くるりと方向転換。あれにイリスが興味を示さない内に、私はイリスを連れて離れる。…正直、ちょっと続きがどうなるか気になるけど…イリスに変な知識が付いちゃったらって思うと、とてもこんなところにはいられない。

 

「つ、次はディールのところ行こっか。えーっと、ディールは……」

「あそこで、寝てる」

「寝てる?…あ、ほんとだ」

 

 少し歩いたところでぐるりと見回す私。その私よりも先に、イリスはディールを発見して…というより、多分最初からどこにいるか知っていて、そちらを指差す。

 

(わっ、なんか正に『バカンス』って感じだなぁ……)

 

 寝てる、と言ったイリスだけど、砂浜にそのままごろんとしてる訳じゃない。ディールがいるのは施設のすぐ近く、大きなパラソルの下で、そこでビーチチェアにゆったりと背中を預けていた。

 更にその隣には、アイとピーシェの姿もあった。二人共ディールと同じように、ビーチチェアで寛いでいた。

 

「うん?二人共、何かあったの?」

「あった。エストとイリゼとセイツが、見ちゃいけない事してた」

『え……!?』

「あ、ちょっ…!誤解…ではないんだけど、いきなりそういう言い方しちゃ駄目だよイリス…!」

 

 私達に気付いて身体を起こしたピーシェの質問に、イリスはさっき私が言ったまんまの言葉で返す。うんまあほんとにその通りではあるんだけども、そうなんだけども…!

 

「エスちゃんが、イリゼさん達と見ちゃいけない事……え、まさか血みどろレベルのバトルを…?」

「あ、そういう方向!?確かにそれもイリスが見たらショッキング極まりない光景だろうけど…!…そ、それより三人は何してるの?のんびりしてるだけ?」

「分かり易く話を逸らしたッスねぇ。まあ、そんなところッス。ふぁぁ……」

 

 同じく上半身を起こしたディールとは対照的に、アイだけは寝転がったままで、なんだかすぐにでも寝ちゃいそう。着てるのはパジャマじゃなくて水着だけど、今のアイは完全にだらだらモード。

 因みに話を逸らしたのは、何をしていたか追求されても回答に困るから。…っていうかほんと、三人は何してたんだろうね…。

 

「のんびりかぁ…勿体無い気もしたけど、こういうところで景色を眺めながら、ごろごろするのも悪くないかもなぁ……」

「ふふ、心の保養というやつだね。それも良いのではないかな?」

「あ、ズェピアさんありがとうございます」

 

 まだ空いてるビーチチェアもあるし…と思う中、聞こえてきたのはズェピアさんの声。トレイに綺麗な色の飲み物(多分ジュース)を載せたズェピアさんは、施設の中から現れて、それをディール達のビーチチェアの横にあるテーブルへと置いていく。

 

「…ズェピアさん、そんな事してたらズェピアさんもイリゼに何か言われちゃうんじゃないですか?」

「心配ないよ、ルナ君。見目麗しいお嬢さん達に快適な時間を提供する…これもまた、紳士としての嗜みだからね。イリゼ君がお菓子作りを楽しむのと似たようなものさ」

「自分で紳士って言いますか…実際これも気を利かせて持ってきてくれた訳ですし、紳士である事を否定はしませんけど……」

「確かにピーシェ君の言う通り、自分で言う事ではないね。…さて、君達も如何かな?」

 

 そう言って、ズェピアさんは追加の飲み物を出してくれる。どこからか分からないけど、すっ…と二つ、容器を出す。ど、どこに仕舞ってたの…?液体だよ、グラスだから密閉だってされてないんだよ…?……と思ったけど、私は言わなかった。まぁ、ズェピアさんだし…。…って、あれ?

 

「……ズェピアさん?」

「うん?何かな、ルナ君」

「あ、えっと…ごめんなさい、声を掛けておいてアレですけど、自分でもよく分からないっていうか…でも何か、違和感があるっていうか……」

「……ふむ、ではその感覚の理由を当ててみようか。差し詰めそれは、マントが関わっているのではないかな?」

「マント……あっ、そ、そうかもです!いや、多分ですけども!」

 

 言われて気付く。確かにそうかも!こういう時、いつもならマントの中からすっ…と出すのがズェピアさんなのに、今はマントを着てなくて、本当にどこから出したのか分からないから、それが違和感になってたのかも!…我ながら意味分からないけど!

 というやりとりを経て、折角飲み物も出してもらった訳だし私とイリスも空いているビーチチェアに腰掛ける。やっぱりジュースだった飲み物を一口飲んで…ごろんと寝転ぶ。

 

「…………」

 

 砂浜を、水面を眺めて、ぼーっとする。楽しい訳ではないけど、やっぱりこういう時間も悪くなくて、ディール達も何もしない時間を満喫していて……

 

「…イリス、やっぱり遊びたい」

「あはは、だよねぇ…また他のところ行ってみる?」

「うん。皆、ばいばい」

「おー、ばいばいッス〜」

 

 結局一度も身体を起こさなかった(でもジュースは減っていた。…いつの間に…?)アイに手を振られ、他の皆にも見送られながら、私達はその場を後にする。取り敢えず水辺の方に行こうとして…だけど施設の中から声が聞こえてくる事に気付いた私達は、顔を見合わせ入ってみる。

 

「凄いな…外観の時点で予想は出来ていたが、こうも作りが洗練されているとは。通りでああも違和感なく動く訳だ」

「これに至るまでには、かなり苦労したわ。けど、違和感のなさで言えばお互い様でしょう?」

 

 施設の中、食堂になっているエリアには、今話していたイヴォンヌさんと影さん、それに茜とエリナさんがいた。影さんはテーブルに置いてある機械を弄っていて、向かいに座るイヴォンヌさんの…右腕は、ない。

 

「…イヴの腕、取れてる」

「ええ、私の右腕は義手だもの。…義手って、分かる?」

「卵と生クリームを使う、パイみたいな食べ物の事なら知ってる」

「それはキッシュね。義手っていうのは、機械の手や腕の事よ。…私もその程度しか知らないから、詳しい事は義手使用者の二人に訊いてみて」

 

 イヴォンヌさんの隣にいるエリナさんが、イリスの言葉に返す。義手…そうだ、影さんも見た目じゃ分からないけど、義手なんだよね。じゃなきゃ仮想空間の中とはいえ、あの時腕を貸すなんて事出来なかっただろうし。

 

「今は何をしてるの?…もしかして、壊れたとかそういう……」

「ううん。これは定期的にやってるメンテナンスよ。ただ、今回は義手が装着していた一つしかなかったから……」

「どうしよう、って悩んでたゆりちゃんに私達が声を掛けたんだ〜。…そーいえば、りなちゃんはどうして見てるんだっけ?」

「私はいきなりイヴが腕を外して影に渡していたから、ぎょっとして見ていただけというか…気付いたら、なんか一緒にいたというか……」

「あー、分かる。いつの間にか同じ集団に入ってた、って事あるよね」

「そうそう、そんな感じ」

「……そんな事、あるか…?」

「まー、えー君は浮世離れしてるからねぇ」

 

 うんうん、と私はエリナさんと頷き合う。イヴォンヌさんと同じで、エリナさんもクールな雰囲気の、格好良いところもある人なんだけど、やっぱり格好良くても私と同じ女の子っていうか、こうやって普通に話が合う事もあるんだよね。…っていうか私、段々コミュ力が上がってるのかもしれない…だってほら、どっちもクール系美少女なんだよ?前の私だったら、「格好良いなぁ、でも美人さんでもあるなぁ…」って思いながら眺めるばっかりで、こんな普通になんて話せなかったよ絶対。

…と、自分の成長を感じていた私は、イリスがキッシュの話以降何も喋っていない事に気付く。そして横を見てみると…イリスは、義手と影さんの作業をじーっと見ていた。

 

「イリス、機械に興味があるの?」

「ある。魔法は凄いけど、機械も凄いと思う。ワイトの…ロボット?…も、こんな感じ?」

「まぁ、ざっくり言えばそうだろうな。本当にざっくり言えばであって、実際には色々違うと思うが」

「なら、ワイトのロボットも気になる…。…イヴ、影、義手は便利?」

「便利よ。影のもそうだと思うけど、生身の腕と違って色々仕込めるし、生身じゃないからこそ無茶な使い方も出来る訳だし。ただ、そういう『装備』としての視点じゃなくて、単純に腕としての話でいうなら、便利っていうよりも……」

「ないと不便、だな。人も、人の社会も、基本的には両腕がある事を前提にしている。そうでなくとも、ある時までは普通に、当たり前の事としてあったものがなくなれば、不便に決まってるってものさ」

 

 便利であると同時に、ないと不便。そう語る二人の顔は、どっちも同じような表情をしていた。義手になった…腕を失う事になった過去を思い出しているのか、やっぱり当たり前の腕で在りたかったって思ってるのか、それとも私が頓珍漢な事を考えてるだけで、実際は全然違う事をか思い浮かべているのか…それは私には、分からない。

 そして回答を得たイリスは、こくんと頷いた後、暫く自分の腕をぺたぺたと触っていた。手をグーパーさせたり、手首を握ったり、二の腕を引っ張ったり(…え、まさか取ろうとしてる…?)して…それからワイトさんの機体を見たいと言って、またばいばいと口にした後外に出る。

 

「ワイトさんの機体は…っと、あった。やっぱり大きいから目立つね」

「ルナ、早く行こう」

 

 言うが早いか、イリスは駆けていく。私も後を追って走る。向かう途中で、「あれ、機体があそこにあるからってワイトさんもいるとは限らないよね?もしいなかったら、勝手に触っちゃ不味いよね?」…と思ったけど、っていうか仮に触っても操縦なんて出来ないけど、結果それは杞憂に終わる。

 片膝を突いて、軽く身を屈めるような姿勢をしている機体。そのコックピットに、ワイトさんはいた。でもワイトさんだけじゃなくて、ネプテューヌと愛月君もいた。

 

「わぁぁ、凄い…!このレバーを握って操縦するんですよね…!?」

「ああ、そうだよ。勿論全ての動きをレバーだけで行う訳ではないけどね」

「ですよね、一杯ボタンとか、足元にはペダルとかもありますもんね!…ふふ、グレイブにこの事話したら、羨ましがるだろうなぁ…」

「あはは、やっぱり男の子だけあって楽しそうだねぇ。ところでこれ、OSの頭文字がGで始まってMで終わったり、発進する時に『STANDBY』とか『READY』とかって表示されたりする?」

「いえ、されません…冗談なのでしょうけど、どれも全く違う機体です……」

 

 下からは見えないけど、どうやら二人はコックピットの中を見学させてもらってる様子。そこでイリスが声を上げると、まずネプテューヌが顔を出して、それから三人は降りてくる。

 

「やっほー、ルナちゃん、イリスちゃん。もしかして二人も、中を見せてほしくなったの?」

「違う。でも、ロボットを見せてほしい」

「構わないよ。但し、何か触りたい時は私に言ってくれるかな?」

「じゃあ、腕が見たい。触っても大丈夫?」

「腕?それはまた、珍しいね…」

「イリス、イヴォンヌさんの義手を見てこっちも気になったみたいなんです。…っていうか…中って見てもいいんですか?そういうのって、軍事機密?…とかなんじゃ…?」

「起動している訳ではないし、見るだけなら問題ないよ。もし写真や動画を撮ろうとしたら…最悪力尽くでも止めないといけなくなるけども」

 

 穏やかな口調…でも、瞳の奥に一瞬鋭さを見せるワイトさん。勿論そんなつもりなんてないけど、それでもびくっとなってしまう。だけどそれを感じたのは私と愛月だけみたいで、ネプテューヌはだよね〜と肩を竦めて……イリスに至っては、もう腕を見に行っていた。

 

「…………」

「…イリスちゃん?手首のところに顔をくっ付けて、何してるの…?」

「中を覗いている。…でも、よく見えない…分解してもいい?」

「うん、駄目だからねイリスさん。…まさかこんな事を言われるとは……」

「…凄いね、一瞬イリスがネプギアに見えたよ……」

「うん、自分も…っていうかどうやって分解する気なんだろう……」

 

 相変わらず突飛な事をするイリスに、私達は揃って苦笑い。駄目だと言われたイリスは、それからも暫く装甲の隙間から中を覗いていて…満足したのか、戻ってきた。

 

「よく分からなかった。でも、一つ分かった事がある」

『…と、いうと?』

「機械はとても複雑。だから、イリスにはまだ理解出来ないという事が分かった」

「それは……はは、大きな学びだね。世の中には、『無知の知』という言葉がある。知らない事、分からない事を理解した、正直に理解する事の出来たイリスさんは、きっと成長出来るだろう」

 

 無知の知。多分それは、学びの第一歩。そしてイリスは、複雑で分からないと言いつつも、興味を失っていないように見える。だからワイトさんの言う通り、きっと成長出来ると思う。…私も、見習わなきゃなぁ…。

 

「イリス、もうちょっと見せてもらう?」

「ううん、今はいい。今度は、遊びたい気分」

「だよね、今はお休みの時間なんだから、学びもいいけど遊ばなくっちゃ勿体無いよね。愛月君はどうする?」

「僕はもうちょっと見せてほしいな。だってこんな機械、もうないかもしれないし!」

 

 まだ分からないという形で一旦結論は着いたからなのか、イリスは当初の目的に戻る。という訳で、また私はイリスと歩いていく。ここまでは陸上をうろうろしていたからか、イリスの足は水辺へと向かっていく。

 

「イリスって、普段からこうやって色んなものを見たり調べたりしてるの?」

「してる。分からない事は、ブランやミナに訊く。皆、イリスが訊くと教えてくれるから、嬉しい」

「ふふっ、そっか。…って、うん?なんだろう、この音は……」

 

 きっとイリスのいる次元でも、イリスは私達へ対するみたいに色々な事を周りの人に訊いて、一つ一つ学んでいるんだろうなぁと思うと、ほんわかとした気持ちになる。

 と、そこで聞こえてきたのは、水が跳ねるような音。波の音や泳ぐ音とも違うそれが何なのか気になった私は耳を澄ませる。そして聞こえてくる方向に目をやると…そこではビッキィとエストが、競走するように走っていた。二人で、水の上を走っていた。

 

「わっ、な、何あれ…!っていうかエスト、こっちに来てたんだ……」

「ビッキィだけじゃなく、エストも水の上を走る事が出来た…?」

 

 一応ビッキィが水上走りを出来る事は聞いていたけど、それでもあり得ないような光景を見て、私はぽかんとなってしまう。そうしてイリスと見ていると、二人は気付いてこっちの方へやってくる。

 

「二人共、何かあった?競争を観戦してただけ?」

「後者、かなぁ。でも、びっくりしちゃった。まさかエストも水の上を走れるだなんて。…いや、ビッキィも凄いんだけども」

「イリス、知っている。ビッキィは忍者だから水の上を走れる。…つまり、エストも忍者?女神と忍者の兼任?」

「ふふん、そーよ?わたしは美少女忍者女神のエストちゃんなんだから!」

 

 砂浜まで戻って質問してくるビッキィに私が返すと、今度はイリスが質問する。それにエストが胸を張って答える。するとイリスは拍手をし……エストは、頬を掻きつつ肩を竦めた。

 

「…ま、実際には忍術じゃなくて、魔法で走ってただけなんだけども」

「魔法で?えっと、水の上を走れる魔法があるの?」

「そうじゃなくて、足が触れる瞬間に足元の水を魔法で薄い板状に凍らせて、更にその下から上向きの水流を発生させる事で、足が沈まないようにしてるって訳。つまり、こういう事よ」

 

 そう言って、エストは水の上に立つ。その足元をじーっと見れば、確かに薄い氷が張っている。すぐ側に手を突っ込むと、水流も感じる。

 

「分かったでしょ?で、しっかり立つ場合は氷も水流もそれなりに発生させる必要があるけど、走るだけなら一瞬足場として機能すればいいだけだから、踏んだ次の瞬間には割れて溶けちゃうような氷と、もっと弱くてすぐ消える水流でも問題ないの。こんな感じにね」

「あ、そっか。だから走ってると氷を足場にしてるようには見えないんだ。…凄いなぁ……」

「いやほんと、凄いよね。わたしにはそんな瞬時且つ連続で術を発生させ続けるなんて細かい芸当、とてもとても……」

「冗談抜きに身体能力だけで水上を走ってるビッキィがよく言うわよ…忍術使った方が楽じゃないの?」

「いや、全然。走るのに集中する方がずっと楽ですし」

 

 あっけらかんと言い切るビッキィに、私もエストは顔を見合わせる。それから今度は、二人で肩を竦め合う。…ここにいるのって、女神じゃなくても色々桁違いな人が多いけど…ビッキィも大概だよね……。

 

「さてと、それじゃあもう一本勝負しない?ここのところ錬金ばっかりだったから、思いきり身体を動かしたい気分なのよね」

「ふっ、勿論。こっちも身体が温まってきたところですし…見せてあげますよ、わたしの本気を」

「……?ビッキィ、寒かった?なら、服を着た方がいい」

「い、いや今のはそういう意味じゃなくて……ってだから違いますから!ラッシュガードを恵んでくれようとしなくてもいいですから!」

 

 勘違いとそれに乗ったエストに突っ込んだ後、ビッキィはエストとまた砂浜を離れていく。折角だし、この勝負は見ていこうかな…と思っていたところで、なんだか視線を感じて…気付けば私は、イリスに見上げられていた。

 

「…な、何かな?」

「ルナは、やらないの?」

「へ?わ、私?」

「ルナも、魔法が使える。魔法が使えるなら、エストと同じ事が出来る…違う?もし出来るのなら、見てみたい」

「そんな、私が水上走りなんて出来る訳ないじゃん、ムリムリ!」

「※ムリじゃなかった!?」

「いやほんとにムリだよ!?ちょっ、エスト止めて!イリスが期待しちゃうからぁ!」

 

 水上からのボケに今度は私が突っ込みを返す。それから私は改めて出来ない事を伝え、二人で競走を観戦した。結果は…まぁうん、凄かった。凄く凄かった。だって二人共、水の上だって事を忘れるレベルで速かったんだよ?ビッキィにしろエストにしろ、ゆっくりだと逆に沈んじゃうから速く走らざるを得ないんだろうけど…だとしても、本当に凄かった。

 ただ…凄いからこそ、逆に私達には見ている事しか出来ない。そして二人が目一杯動いている姿を見て、イリスもただ見るじゃなく自分も何かやりたいと思ったのか、感想を告げてまた歩いていく。何かもう、イリスと行動を共にする事が自分の中で前提になっている私も、イリスと一緒に移動する。

 

(…何か、こうして一緒に回るだけでも楽しいなぁ……)

「……あ。ルナ、どうしよう。もう行ってないところ、ない」

「あー、そういえばそうだね。うーん、もう一回誰かのところに遊びに行く?それとも…ここで、砂のお城作りでもする?」

「砂の、お城?」

 

 何気なく振り返った私の目に入ったのは、長く続く私達の足跡。ここまではっきりくっきり残るのも、ここが砂浜だからで…砂に着目した私は、お城作りなんてどうかなと提案。訊き返してきたイリスに、どういう事か説明すると、イリスはこくんと一つ頷く。

 

「それは、面白そう。イリス、やりたい」

「じゃあ、作ってみよっか。イリスはどんなお城がいい?」

「お城、お城…それなら、シ……」

(シ?あ、シンデレラ城かな?ふふっ、童話のお城を真っ先に思い付くなんて、イリスらしい──)

「ルヴァー・グローリー」

「無敵もしくは完璧城!?」

 

 まさかの回答、高難度過ぎる要望にぎょっとする私。これが他の誰かなら、ボケだってすぐに分かるけど、イリスの場合は本気で言っている可能性もあるから恐ろしい。これをいつもの無表情で言うものだから、全く以って判断が付かない。

 ただまあそれはそれとして、やるならただ砂を積み上げるだけじゃなく、出来る範囲で見栄えの良い砂のお城を作りたいところ。だから私達は施設からバケツを持ってきたり、砂を固める為の水を用意したりして、二人で砂浜のお城制作に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

「……出来た。格好良い」

「うん、出来たね…途中から皆も来て協力してくれたとはいえ、まさか本当に完成するとは思わなかったよ……」




今回のパロディ解説

・「〜〜ワガハイなら〜〜決まってるナリ!」
キテレツ大百科に登場するキャラの一人、コロ助の喋り方のパロディ。実際のところ、口調だけならイリゼの真似するのは容易でしょうね。どっちも基本、中性的な口調ですし。

・「〜〜ベクトルを操れる超能力者〜〜」
とあるシリーズの主人公の一人、一方通行(アクセラレータ)の事。紫外線を反射してる関係で、日焼けどころか髪や瞳の色にも影響が出てる、っていうのが彼の設定なんですよね。

・「〜〜わたしをないものとして扱われた……」
ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONに登場するキャラの一人、V.Ⅱスネイルの台詞の一つのパロディ。これは倒さずにスルーした場合、後に聞く事になる台詞ですね。

・「〜〜OSの頭文字〜〜終わったり〜〜」
ガンダムSEEDシリーズに登場する、所謂ガンダムタイプと呼ばれるMSのOSの事。勿論知っている方もいると思いますが、SEEDシリーズにおける『ガンダム』は一種の渾名であり正式名称ではありません。

・「〜〜発進する時に〜〜『READY』とか〜〜」
マクロスシリーズにおける、VF発進時の表示の事。本当に単なる小ネタレベルの事ですが、これとか上のSEEDシリーズにおけるシグナルとかが好きな私です。

・「〜〜私が水上走り〜〜無理無理!」、「※無理じゃなかった!?」
わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!…の事。因みにルナの登場する月光の迷い人には、レナというキャラがいるんですよね。彼女がコラボで出ていれば、よりそれっぽいパロになったと思います。

・「〜〜シ〜〜」、「ルヴァー・グローリー」、「無敵もしくは完璧城!?」
デュエル・マスターズにおける城の一つ(二つ)、無敵城 シルヴァー・グローリー及び完璧城(パーフェクトキャッスル) シルヴァー・グローリーの事。最後に完成した城については…ご想像にお任せします。
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