超次元ゲイムネプテューヌ Origins Transition   作:シモツキ

9 / 56
第九話 フルスピードで突っ切って

 特に何かするでもなく、パラソルの下でビーチチェアに寝転んで、景色を眺めたりジュースを飲んだりしながら過ごす…これが中々悪くなかった。ただのんびりする…普段は考えもしない過ごし方を、この時私はディールさんやアイさんとしていた。

 有益かどうかで言えば、勿論有益じゃない。時間をもっと有効活用する過ごし方なんて、考えれば幾らでも…とまでは言わずとも、何かしらあったと思う。…でも、こういうのも…偶には悪くない。寛げる場所で誰かと……ゆっくりと過ごすのも。

…と、思っていたのが少し前までの事。その時点での私は、確かにそう思っていて……なのに何故か今、私はビーチフラッグをやっていた。

 

「ふふ、そういえば昔は追いかけっこもよくしたわね」

「うん、したね。今からやるのは、追いかけっことは全然違う気がするけど……」

「楽しみです、ピーシェ様。こうして貴女と、勝負出来るのが」

「そ、そう……」

 

 砂浜に伏せた状態で聞こえてくる声。やる気のある声が二つと、微妙そうな声が一つ。

 

「四人共、ふぁいとっ!」

「…あ、うん。ふぁいとー」

 

 更に聞こえてくるのは、片や愛月の気持ちが籠った、片やイヴさんの取り敢えず合わせてくれただけ感の強い声援。それを聞きながら、私は思う。一体何故、こうなったのか…と。

 

(いやまあ、何故っていったら、ノリと雰囲気に流されたからなんだけども……)

 

 事の発端は、ルナが施設の中からバケツを持っていったかと思えば、遠くでイリスと二人でしゃがみ込んだまま、暫くそこから動かなくなった事…というより、それへの驚き。まさか気持ち悪くなったのか、バケツは吐きそうだから持っていったのかと心配になった私達は二人へ駆け寄り…別にそういう事じゃなく、二人で砂の城作りをしていただけだと知った。動かなくなったように見えたのも、単に距離と体勢の関係から、作業をしている腕や積み重なる砂が見えなかっただけの事。それを知った私達は拍子抜けし、でもほっとして…途中からは、何の気なしに手伝う事にした。作業を進めている内に、他の人達も来て、最後にはかなり大掛かりな砂の城作りとなっていた。

 まあ、そこまではいい。ここまでは何の問題もない。直接の理由はここからで、砂の城完成後、何気ない会話の中で「砂浜ならではの事といえばビーチフラッグ」というやり取りが出てきた。それに強く反応したのが、集まる前は水上走り競走をしていたビッキィとエストさんで、二人は折角だからビーチフラッグでもうひと勝負、みたいな感じになり…でも競走から続いての一対一じゃ盛り上がりに欠けるって事で、私とディールさんまで引き込まれてしまった。

…やっぱり、ちゃんと断るべきだった。どうしてもビーチフラッグが嫌だ、こんな事やりたくない…って訳じゃないけど、私にはそう思う理由がある。

 

「…あ、そういえばエスちゃん、ビーチフラッグって前もやってたよね?あの時はビーチじゃないどころか、砂なんて何もないところだったけど」

「あー、おねーさん達とスピード対決をした時の事?あの時も、大分無茶苦茶だったわね…ま、面白かったけど」

 

 無茶苦茶だったと言いつつそこに面白かったと繋げる、あっけらかんと言うエストさんに、ディールさんは呆れ気味の表情を浮かべる。ただでも、本気で呆れてるというより、「エスちゃんってば、相変わらずなんだから…」と言いたげな、ちょっと柔らかい面持ちで…それに気付いた私とビッキィは顔を見合わせ、小さく笑う。…やっぱりほんと、二人って仲良いよね。

 

「さ、それより早速始めましょ。ルールは負け残り形式で、もしフラッグを同時に取るような事があったら、その時は仲良く同着扱い。魔法や忍術等を使っても良いけど、それで直接妨害するのは無し。これで間違いないわね?」

「で、最後まで残った人が…ですね?じゃあ愛月、スタートの合図をお願いしてもいい?」

「うん、任せてビッキィ!すぅ…はぁ……」

「いや別に、しっかり深呼吸しなくても……」

「はは…真面目ですよね、愛月って」

「…だね。何事にも一生懸命って言ってもいいのかも」

 

 腕を広げて閉じて…と、わざわざ体操の時みたいな深呼吸をする愛月と、それに緩く突っ込むイヴさんを見て、また私はビッキィと顔を見合わせて苦笑。

 と、ここまでは緩い雰囲気だったけど、愛月が私達の斜め前、砂浜に引かれた線に沿う形で立った瞬間、ふっと空気感が変わる。勝負に意欲的なビッキィやエストさんは勿論、ディールさんも決してどうでもいい、って感じではなくて…けどそれは、私も同じ事。

 

(やる以上は、本気でやりたいな。本気の人の前で適当な事はしたくないし…最下位になるのは、勘弁だし)

 

 意識を集中させる。その一方で、身体から無駄な力を抜く。変に意識し過ぎない、自然体で耳を澄まし…次の瞬間、愛月が声を上げる。

 

「いくよ?よーい…どんっ!」

『……──ッ!』

 

 合図の声が聞こえたのと、私達が伏せた状態から跳ね起きたのはほぼ同時。誰一人として、そこで遅れる事はなく…反転と共に、全員が砂浜を蹴る。

 やっぱり飛び出しが速いのはビッキィ。瞬発力、加速力のどちらも抜きん出ていて、たとえ女神でも人の姿でそれに対抗する事は……

 

「──逃がさないわよ?ビッキィ…!」

 

 いいや、違った。強風を感じたと思った直後に、エストさんがそれに追い付いた。

 多分それは、風の魔法。純粋に速いビッキィに対して、魔法でブーストを掛けたエストさんが真っ向から競る。私も一気に全速力まで加速して追い掛けるけど…追い付かない。先行しているといっても、客観的には人一人分か二人分程度の開きで、一気に離されるとか、大きく距離が開く訳じゃない。それでも決して距離の長くないビーチフラッグにおいて、この差は勝敗に直結する。

 

「負けるかぁああああぁぁぁぁッ!」

「それは、こっちの台詞……ッ!」

 

 声を上げると共に、更に二人は加速する。もう少し距離を離されて、完全に背中を追う形になっていたら、二人の巻き上げる砂で身体を叩かれそうだと思う位に、二人のダッシュは凄まじい。

 そうして数秒と経たずに私達は、特に先行するビッキィとエストさんが、砂浜に立てられたフラッグ…の代わりである木の枝に迫る。そしてビッキィとエストさんは手を伸ばし、同時に飛び込むべくもう一度砂浜を蹴って……

 

『へっ?──ふぎゃッ!?』

 

……こけた。すっ転んだ。二人同時に、つるーんと。思いっきり、顔面から。なんていうか、顔から砂浜に突き刺さりそうな勢いで二人は転んで…意外過ぎる状況に思わず私も一瞬減速してしまう中、滑るように…というか、本当に滑る形で、ディールさんが転倒した二人を抜く。そのまま身を屈めて、フラッグ代わりの木の枝を掴む。

 

「あっ、取った…。…えぇと…勝者、ディール」

「…その…ごめんね?エスちゃん、ビッキィさん…」

 

 審判の様に、手を挙げて勝者の名前を呼ぶイヴさん。ブレーキを掛けて止まったディールさんは、木の枝を手に申し訳なさそうな声を出す。そして同じく減速した私は…気付く。

 

「……あれ、これって…氷…?」

 

 たった今、ディールさんが駆け抜けた場所。そこの砂を固めるような形で、薄く張られていた氷。それは木の枝が刺さっていた場所にまで続いていて…私は理解する。ディールさんは、この上を滑ってきたんだと。この氷の道を、最後にビッキィとエストさんは踏んでしまったばかりに、滑って転んだんだと。

 

「氷って…ちょっ、ディーちゃん!?直接妨害するのは無しって言ったわよね!?」

「あ、いや…結果妨害する形になっちゃったのは本当に申し訳ないんだけど、わたしとしては、単に自分が加速する為のルートを作っただけっていうか……」

「た、確かに氷は一本の道になってる…審判!これは有りですか!?無しですか!?」

「……?」

「呼ばれてるよ?イヴさん」

「え、私!?別に私、審判をやってるつもりは……。…まぁ、でも…有りで良いんじゃないかしら?それで言ったら、エストが使ってたっぽい風魔法も三人からすれば横からの風で邪魔になり得る訳でしょ?」

「ぐっ…それを言われると弱いわね……」

 

 不服そうながらもエストさんが認め、ビッキィも仕方ないか、と諦めた事で、物言いは却下されて勝者が確定。私はディールさんへと軽く拍手を送り…背を向ける。ビーチフラッグのスタート地点へ向けて歩く。

 これは、ある意味一位ではなく最下位を決める勝負。だから、まだ勝負は終わっていないし…むしろ、まだまだこれから。

 

(普通に走るだけじゃ、ビッキィにもエストさんにも勝てない。それに今ので、二人が油断する可能性もほぼなくなった。だとしたら、私に出来るのは…私の勝ち筋は……)

 

 一歩一歩、砂浜を踏み締めながら戻る。ビッキィやエストさんよりも、私は時間を掛けて戻り…うつ伏せになる前の段階として、片膝を突く。

 

「随分ゆっくりね。もしかして、わたしやビッキィを焦らす作戦かしら?」

「まさか。それより審判さん、ちょっと砂浜掘ってもいいですか?当たり前といえば当たり前ですけど、表面にそのまま寝転ぶと熱いんですよね」

「いやだから、私は別に審判じゃないんだけど…。…まあ、いいんじゃない?でも、早めにね?二人は待ってるんだから」

「イヴさん、審判じゃないって言いつつ審判役をまあまあ真っ当しようとしてますよね…」

「…い、今のはちょっと気になっただけよ」

 

 許可を得た私は、砂浜を浅く掘る。掘るというか、表面を削る。今イヴさんの言った通り、私は待たせてる身であるから、両手でぱぱっと作業を進める。

 

「こんなものかな…いや、ここはもう少し掘って……」

「ピーシェ様、こういうの気にするんですね」

「っていうか、本当に熱いからなの?熱いって言いつつ、実は砂をわたし達の方にやって進路妨害しようとかじゃないでしょうね?」

「そんな、どこぞの波紋戦士みたいな事をピーシェ様がする訳が……」

「…………」

「…えっ、ピーシェ様……?」

 

 左右から感じる、まさか…という視線。その中で私は無言を貫き、砂を整える。準備を終わらせ、砂浜に寝転ぶ。

 

「皆、準備は大丈夫?大丈夫ならいくよ?」

 

 二回目にしてもう合図役が板に付いている愛月へ、私達は頷いてみせる。そして、愛月からのスタートの合図が上がり、私達は跳ね起きる。ビッキィとエストさんは、さっきと同じ動きを見せる。…そう、対戦相手である、この二人は。

 

「今度こそ、一気に…って……」

「なッ…バク宙……!?」

 

 砂浜を強く踏むように蹴り、跳んで、反転しつつ着地する。跳ね起きる動きと振り向く動き、普通なら二行程掛かる動作を一つの動きに纏める事で、ほんの僅かに私が先行する。

 

「やるわね、ピーシェ…けど、どうやってあんなに上手く跳んだのかしら。ちゃんとした体勢ならともかく、うつ伏せの状態から勢いで跳ぼうものなら、砂浜に足を取られそうなものだけど……」

「…えぇ、そうですね。だから、ピーシェさんはさっき砂浜を掘ってたんです。さっきの作業は、その為だったんですよ」

「へ?それって、どういう事?ピーシェは自分の伏せる場所を整えてたんじゃないの?」

「そうじゃないんです、愛月さん。わたしも、跳んでから気付きましたけど…ピーシェさん、ただ掘ってるように見せかけて、両手と両足、それぞれ砂浜を押す事になる部分だけは逆に、砂を集めて固めていたんです。…安定して、確実に跳ぶ為に」

 

 砂の上を駆ける中、三人の声が聞こえてくる。流石はディールさんというべきか、もうバレた。でも別にいい。見てる人にバレても問題はないから。ここで勝てば、いいだけだから。

 

「やりますね、ピーシェ様…!けど……」

「逃がさないわ…ッ!」

 

 引き離すとまではいわずとも、私は二人の前に出た。だからこそ感じる、迫ってくるプレッシャー。私はそれを背中で、肌で感じながら走る。焦りそうになる心をぐっと抑え込んで、木の枝を見据える。

 

(まだ、まだ…もう少し、後少し……)

 

 一つ目の策で得たリードが縮んでいく。このままだと、辿り着く前にギリギリでどちらかに、或いは両方に抜かれる。策一つじゃ、二人には勝てない。

 だからこそ、私はもう一つの策を用意していた。けどそれも、焦れば失敗に終わる。距離を詰められる中で、早く実行したい衝動を堪えながら、私は限界まで突っ走り……そして抜かれる寸前に、リードをする為じゃない、勝負を決める為の一手を打つ。

 

「──ここ、だぁぁッ!」

 

 砂浜を足で、足先で踏み切り、私は跳ぶ。立ち上がった瞬間と違って、砂浜に細工はしていない。そこで力一杯踏み切れば、当然姿勢も崩れる訳で…けれど転倒しそうになる身体へ全神経を集中する事によって私は姿勢を立て直し、力のロスを最小限に納めて正面へ飛び込む。

 着地の事は考えていない。ここは砂浜だから、余程変な体勢にでもならない限り怪我はしないだろうし…着地を気にしていたら、二人には勝てない。だから私は『後』の事なんて考えず、乾坤一擲飛び込み、手を伸ばし……

 

「……!取った…ピーシェが取った…!」

 

 身体を打ち、転がり、衝撃が走る中、突き上げた手。…そこに、フラッグ代わりの木の枝はあった。私の手の中に、確かにあった。

 

「凄いよピーシェ!今のジャンプ何!?ロケット頭突きみたいだったよ!?」

「ふぅ……ありがとう、愛月。実際やるのは久し振りだったけど…頭から突っ込むのは、得意なんだ」

「確かに凄かったわね…因みに、ロケット頭突きって?」

「首を引っ込めて突っ込む技だよ」

「えっ、待って。それっぽく見えたの……?」

 

 木の枝を突き上げた時、真っ先に反応してくれて、その後もすぐ凄いと言ってくれた愛月。純粋な気持ちを向けてくれるのは嫌じゃない…ううん、嬉しいし、フラッグの代わりである枝を掴めた高揚感もあった…けど、そこからの愛月の発言には、流石に困惑した。私、首引っ込めてはいないよ…?引っ込んでない、よね……?

 

(…けど、上手くいって良かった。…飛び込む先が木の枝じゃなかったら、もうちょっと遠くからでも飛び込めた…かな……)

 

 一戦目の後ゆっくり戻ったのも、距離を正確に把握して、どこで飛び込むべきか見極める為。そして、私が思い浮かべたのは…昔の事。

 

「…おめでとうございます、ピーシェ様」

「やるじゃない、ピーシェ。多分だけど、何か進路妨害を企んでそう…そうわたし達に思わせる事も、貴女の狙いだったんでしょ?」

「…流石エストさん。これは思ってくれればラッキー、位の狙いだったんですけどね」

 

 飛び込んだ私と違って普通に駆け抜けた、ビッキィとエストさんが戻ってくる。エストさんの言葉に、私は肩を竦めつつ頷く。

 今エストさんが言った通り、さっき私はわざと思わせぶりな反応をした(っていうか、何も反応をしなかった)事で、二人に疑念を抱くように仕向けた。ありもしない『妨害』を警戒させて、無心で走る事が出来ないようにした。しっかり仕込んだ訳ではなかったから、疑念を抱いてくれるかどうか怪しかったけど…この様子だと、エストさんは勿論ビッキィにも通用していたらしい。

 

「ちょっとズルい気もするけど…別にルール違反をした訳じゃないものね。負けを認めるわ」

「正直、こういう小細工も…打てる手を全部打つつもりでやらなくちゃ、二人は勝てない相手でした。本当にただ、能力だけで勝負してたらこうはならなかったと思います」

「いいえ、勝負っていうのは打てる手を全て選択肢に入れてやるものです。そしてその上でピーシェ様は勝ったんですから…正真正銘、勝者はピーシェ様ですよ」

 

 負けても晴れやかなビッキィの言葉に、エストさんも頷く。私は今の勝利を、正々堂々の勝ちとは言えないと思っていた。だけど、他でもない二人が、そうは思わないのなら…真っ向からやった上での勝利だと思ってくれるのなら…私は勝者として、この結果を誇りたいと思う。

 

「…ふふっ」

「……?ピーシェ様?」

「漸く出来たね、あの時出来なかった勝負が」

「あの時…って、あ…ひょっとして、仮想空間でのカードゲームの…?」

 

 勝負となってから…いや、勝負に誘われた時点でずっと思っていた事。それをビッキィに伝え、私は木の枝を砂浜へと刺し直す。

 あの時私は、勝つ事も、ビッキィと勝負する事も出来なかった。心残り…ではないにしろ、少しだけ残念だったそれを、あの時の続きを、今こうして出来たというだけでも、なんだかんだこの勝負は私にとって大きな価値のあるもので……

 

「…いや、流石にジャンルが違い過ぎるというか…勝負の形式的にも、むしろよくあれと結び付けられましたね……」

 

……と思っていたのに、ビッキィはドライだった。ちっとも同感してくれなかった。…は、恥ずかしくないし……!

 

「はぁ。速攻で一抜けするつもりだったのに、ディーちゃんどころかピーシェにも負けて、気付けば最下位争いとはね。舐めてた訳じゃないけど、こうなるなんて思いもしなかったわ」

「当然です、ピーシェ様なんですから。…と、言いたいところですけど……正直、同感です」

「…けどまあ、結果的にビッキィと一騎討ちの形になったのは悪くないかも。丁度、これに負けたら最下位っていう、ヒリヒリする状況でもあるし」

「ふっ、確かに。追い詰められた状況での一騎討ち…一応言っておきますけど、負ける気なんて欠片もありませんよ?」

 

 バチバチと、闘志の籠った視線をぶつけ合うビッキィとエストさん。その雰囲気は、まるで決勝戦。…実際には、エストさん自身が言ってるように最下位争いだけど。

 

「燃えてるわね、二人共。…どっちが勝つと思う?」

「どうでしょう…エスちゃんは凄いですけど、凄いのはビッキィさんも同じですし……」

「…あ、僕知ってる。こういう時、白い方が勝つって言えばいいんだよね?」

「ふふ、愛月は賢いね。……けどこの場合、勝つのはエストさん…?」

「さぁ…?わたしもエスちゃんも、グリモアシスターと名乗ってるので……」

 

 三度目にして最後の勝負の為に、ビッキィとエストさんが伏せる。合図役の為に愛月が二人の方に駆けていって、イヴさんがどんな些細な事でも見逃さないとばかりに視線を鋭くさせる。…イヴさん、なんかもう審判役が板に付いてきてるような……。

 

「二人共、準備はいい?大丈夫だね?」

「わたしはいつでも大丈夫。そっちは?」

「こっちも大丈夫よ」

「なら…位置に着いて、よーい……」

 

 もう私の勝負は終わって、後は見ているだけ。それでも緊張する。二人の放つ雰囲気が、緊張を掻き立てる。

 その中で、愛月はゆっくりと手を挙げる。静かに、溜めるように手を真上まで挙げて……合図と共に、振り下ろす。

 

「勝負ッ!」

 

 合図の上がった直後、エストさんの身体が風に包まれる。風の魔法で身体を跳ね上げ、腕を振って即座に反転。更に宙へ浮いたエストさんの足先が砂浜に触れた瞬間、エストさんから木の枝までの道のりが一直線に凍結し…風を纏いながら、エストさんは猛烈な速度で滑っていく。

 それはまるで、ディールさんが使った戦法と、私がさっきやった立ち上がる際の工夫を合わせたような(勿論私は魔法で跳ね起きた訳じゃないけど)動き。勝つ為に、手段なんて選ばない…そんな気迫すら、エストさんからは伝わってくる。

 だけどそれは、ビッキィも同じ事。魔法を遺憾なく発揮するエストさんだけど…ビッキィも、負けていない。

 

『と…飛んだぁ!?』

 

 驚愕の声を上げる、愛月とイヴさん。その言葉の通り…ビッキィは、飛んでいた。恐らくは土遁で自分の周りの砂を固めて、その上で吹っ飛ばす事で、『跳ぶ』ではなく『飛んで』いた。

 飛ばした砂の塊を足場に、宙でビッキィは身体を起こす。凍結させた砂浜をエストさんが高速で滑走し、砂の足場と共に猛烈な勢いでビッキィが宙から木の枝へ突っ込む。魔法と忍術が、競争という形で激突する。

 

「凄い…。凄いけど…どっちも全く走ってない……」

「それは、まぁ…。というか、走らず滑ってたのはディールさんも同じでは……?」

 

 参加者の内四分の三が女神で、残りの一人もスペックが桁違いな忍者である事を思えば、普通のビーチフラッグ対決にならないのは初めから分かっていた事。…けどまあ、それにしたってぶっ飛び過ぎてる…って思う気持ちも分かる。

 でもそれはきっと、二人の勝ちへの熱意があるからこそ。全身全霊で勝とうとしているからこそだと私は思うし、否定するつもりなんてない。だから、私は見つめる。見届けようと思う。この勝負の結末を。

 あっという間に近付く、二人と木の枝。エストさんは踏み切り、ビッキィも足場を蹴る。二人は木の枝へと手を伸ばす。そして飛び込んだ瞬間…大量の砂が、二人を飲み込むようにして舞う。

 

「……!勝負の、結果は……」

 

 砂煙で二人の姿が見えなくなる中、イヴさんが声を漏らす。中から大きな音はしない。ただ静かに、舞い上がった砂は落ち、砂煙は晴れていって……

 

「…ええ、っと……」

「一応、フラッグ…じゃなくて、木の枝は掴んだんだけど……」

 

 完全に砂煙が晴れると共に聞こえてきた、ビッキィとエストさんの声。それと共に見えた二人は、それぞれ右腕と左腕を上げて、並んで立っていた。──その手に、仲良く木の枝を掴んだ状態で。

 

「これは…イヴさん、じゃなくて審判!引き分けですか!?それとももう一戦ですか!?」

「この場合は……ルールに従い、同着と判断するわ!」

『……もうノリノリですね、イヴさん…』

 

 駆け寄った愛月スターターの呼び掛けを受けて、イヴォンヌ審判員が判断を下す。二人の面持ちは、完全に公平な精神で勝負を進めんとするもので……けど数秒後、愛月は変わらずノリノリだったのに対し、イヴさんは冷静になったのかちょっと恥ずかしそうにしていた。

 

「同着…ね。ちょっと消化不良だけど、そもそも確認したのも私だし…まあ、今回はこれで終わりにしましょ」

「ですね。さっきまでも水面を走って、流石にちょっと疲れましたし」

「結構走ってたのに、これでちょっとって……。…あれ、でも同着の場合って、順位も同じになる…んですよね?って、事は……」

『……あ』

 

 ふと気付いた私の言葉で、二人はぴたりと固まる。これはビーチフラッグ対決で、それはたった今終わった。ディールさん一位、私二位、ビッキィとエストさんが同着三位という形で決着した。

 だけど実は、これには続きがある。この勝負には、最後まで残った人がある体験をする…という、所謂罰ゲームが設定されている。そしてその場合、最後に該当するのはビッキィとエストさんの二人な訳で……

 

「それじゃあ、特製アイススライダーを試すのは、ビッキィとエストの二人で決定だね!」

『…うわぁ……』

 

 負の感情なんて微塵もない、純粋さを感じる声で愛月は言う。その一方、罰ゲームを前にした二人は…肩を落とし、軽く頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

 前から忍者キャラで被ってる気がしてたビッキィとの勝負は、必然のものだった。…なーんて言うつもりはないけど、どこかで一度勝負してみたいと思ってたし、丁度良い機会だった。その結果についても…まあ、受け入れる。勝負っていっても半分遊びみたいなものだし、遊びで過剰に勝敗に拘るのも子供っぽいし。

 だから水上走りで決着が付かなかったり、ビーチフラッグで成績が振るわなかった事はいい。ほんと、そこはいいんだけど…今は気が重い。正直ちょっとげんなりしてる。だって……。

 

「さ、エスちゃんどうぞどうぞ」

「ディーちゃん、自分がやらないからって調子良いわね…」

 

 水辺に立ち、わたしに勧めてくるディーちゃん。これからの事を思い、むぅ…とした気持ちになるわたし。そしてわたし達が見つめる先、水上にあるのは……氷で出来た、巨大なウォータースライダーならぬ、特製アイススライダー。

 

(我ながら、悪ノリし過ぎた……)

 

 遊園地の絶叫系マシンを思わせる、やたら大掛かりな作り。わたしとディーちゃんで作った、勢いの産物。はっきり言って、これには乗りたくない。だって…ノリと勢いで、かなりピーキーな仕様にしちゃったから。

 

「悪いのはエスちゃんだよ?わたしは止めようって言ったのに、絶対面白くなるからって次々変な術式組み込むんだもん」

「そう言いつつも、最後まで付き合ったディーちゃんにも製作者としての一定の責任はあると思うんだけど…。確かに付き合わせたのはわたしだけど、わたしはディーちゃんに命令出来る立場じゃないし」

「でもエスちゃん、わたしが付き合わなかったら不満そうにするよね?」

「え、だってディーちゃんが付き合ってくれなかったら不満だもの」

「…………」

 

 ここ、普通に認める場面じゃないよね?…って感じのじとーっとした視線を向けられる。まあ今のは冗談半分な訳だけど…ディーちゃん、わたしにお灸を据える良いチャンスだとか思ってない…?

 

「はぁ…これ絶対、ヤバい感じになる事確定じゃないですか……」

「…変わり身の術とか使ったら良いんじゃない?」

「変わり身の術は、漫画とかで出てくる程便利な技じゃないんですよ。第一、ルールに同意した癖にいざ自分が罰ゲームを受けるってなったら、変わり身で凌ごうとするなんて、不誠実ですし」

「そういう事なら、素直にやるしかないね。まあでも、ビッキィなら大丈夫。ビッキィなら……」

「わたしなら?」

「途中でスライダーが爆発しても、多分生き残れるから」

「想定がぶっ飛び過ぎてる上に、仮に生き残れても嫌ですよそんな展開!」

 

 同じく罰ゲーム…正確には試乗してみる事になったビッキィもまた、気が重そうな様子。…流石に爆発系の魔法は仕込んでないから大丈夫よ、大丈夫。……術式の組み合わせが悪くて、魔法が暴走した結果魔力の爆発が…的な事は、あるかもしれないけど…。

 

「…これ、本当に大丈夫かしら。二人の技量を疑うつもりはないけど、ディールもエストも魔法の面では一流だとしても、建築の面では素人な筈だし」

「グレイブがいたら、俺が改造してやるぜーって言って、逆に滅茶苦茶にしそうだなぁ…」

「滅茶苦茶にしそうっていうのは、壊しそう…って話?それとも更にとんでもないものにしそうって話?」

「うーん…両方?」

「…前も思ったけど、一番無茶苦茶なのは彼自身じゃないかしら……」

「もー、そうなんですよ!この前なんてグレイブが……!」

 

 そしてイヴと愛月は、アイススライダーを見上げている。建築の面…言われてみると、そっちの面も確かに不安になってくるわね…。けど、あんまりいつまでもうだうだしてるのも嫌だし……はぁ。

 

「…ほらビッキィ、行くわよ」

「行きますか…。…ピーシェ様、わたしが散ったら骨は拾って下さい」

「いや、さっきのは冗談であって、幾ら何でもそこまでの事は……」

「…一応、治癒魔法の準備はしておきますね」

『あるの…!?』

 

 覚悟を決めてアイススライダーへ向かう中、三人の仰天の声が聞こえてくる。もうそういう事は気にしないようにしながら、わたしは水上のスライダーの下まで来て、梯子を登る。

 

「冷たっ…今更ですけど、何故何もかも氷で造ったんです…?」

「そりゃ、わたし達が一番得意なのは氷の魔法だし。後はまあ…ディーちゃんが『全部氷なら、どこにいても涼しいよね』とか言ってたから、純氷製なのはディーちゃんの影響が大きいわね」

 

 まあまあ高いアイススライダーの頂上まで到達し、出発地点の前に立つ。…思えばほんと、この次元に来てからちょっとディーちゃんはおかしくなってるのよね…。可哀想なディーちゃん、完全に暑さで頭がやられちゃって……

 

「ちょっとー?心の声聞こえてるんだけど?」

「この距離で聞こえるなんて、地獄耳ねディーちゃん」

「いや、地の文読んだだけだし…」

「なら聞こえた、って表現は間違ってるじゃない…心の声に距離も何も、って突っ込み待ちだったのに、メタ発言を重ねてこないでよ…」

 

 この流れでこんなメタ発言をしちゃう辺り、やっぱりディーちゃんの調子はおかしい。…と、思ったけど…信次元と絡むと、ディーちゃんもわたしも大体そんな感じになるか…。ま、信次元汚染ってやつよ。それこそメタ的に言うなら、もっと適切な理由があるけど。

 

「さてと。ギミックを全部説明すると長くなるから、スタート地点にある最初の仕様だけ伝えておくわね」

「あ、はい。…スタート地点からギミックって、一体何があるんです?」

「見ての通り、滑り始めた直後に垂直落下よ」

「ウォータースライダータイプのアトラクションでフリーフォール!?」

 

 なんで!?何を考えてるの!?…とばかりのビッキィの突っ込み。ご尤も過ぎて返す言葉がない。因みにこうなった理由としては、下から順に作っていった結果、後半になった上部分は慣れから悪ノリが加速したから…だったりする。

 

「後、このスライダーは乗り物に乗って滑る事も、自分の身一つで滑る事も出来るけど、どうする?乗り物の場合は二人乗りだから一緒に行く事になるし、その乗り物も氷で作ってあるけど」

「氷の乗り物って…。……けど序盤から垂直落下があるって事は、その後も生身じゃ危ないギミックが揃ってるんじゃ…?」

「まあ、正直乗り物については、『あれ、これ生身で滑ったら無傷じゃ済まないんじゃ…?』って思って、後から追加した経緯があるのよね」

「じゃあ乗り物一択じゃないですか!嫌ですよ、スライダーから出てきたらボロボロの傷だらけになってるとか!」

「…ビッキィって、まあまあ良い突っ込みしてくれるわね。これから一緒に滑るの、ちょっと楽しみになってきたかも」

「全然嬉しくない理由での好印象どうも…」

 

 身体能力は人間離れしてるのに、割とこういうところは常識人って感じのビッキィ。それにわたしはちょっぴり笑い、用意していた乗り物を出発地点の所まで押してくる。それから先端を水の流れている部分へ当てて…準備、完了。

 

「…うん?これ、誰かに押してもらわないと流れ始めないのでは?」

「だから私達で押して、勢い付いたところで一気に乗るのよ」

「まさかのボブスレー方式…まぁ、ここからの事を思えばそれ位はいいか……」

「二人共、終わったら感想聞かせてね。面白かったらやらせてね!」

「あぁうん、もし面白かったら伝え……え、愛月?なんでここに?」

「実はフロストが興味津々で…ここって結構広いし、もしかしてフロストに乗って滑る事も出来るかな?」

「らぷぷ〜♪」

 

 気付けば登ってきていた愛月がアイススライダーの出発地点をしげしげと眺めて、ひんやりした感覚が気持ち良いのかフロストは鳴く。…確か愛月、完成直後は「あわわ…こんなに大きいスライダーって大丈夫なの…?」って不安そうにしてたのに、今はむしろ興味津々ね…最初は怯えててもすぐ興味が勝つ辺り、やっぱり子供って事かしら。…む、人の事言える?って思った人いたわね?見た目が幼いのは認めるけど、外見で判断するのは良くないわよ?

 

「…じゃあ、やります?」

「そーね。それじゃ、いーち、にーの……さんっ!」

 

 乗り物の側で顔を見合わせ、わたしの合図で押し始める。二人でぐぐっと水の流れに乗せ…速攻で中に乗り込む。そして乗り物はアイススライダーを流れ始め…•数秒後、真下へと自由落下。

 

「痛っ…しまった、クッション用意するの忘れてたわ……」

「序盤からもうアトラクションとして欠陥が……というかこれ、止まってません?水の流れだけでまた動きます?」

「あー、それなら大丈夫よ。だって、加速用の魔法術式を仕込んであるし」

「へ?加速?それってどういう──」

 

 直後、水や風の他、幾つかの魔法を組み合わせた術式が発動して、一気に押し出される氷の乗り物。わたしは軽い調子で言ったけど…今分かった。乗ってみて分かった。これ、動き出す…なんてレベルじゃない……!

 

「ちょっ、これッ…殺人的な加速……ッ!」

「ちゃんと掴まっててよねビッキィ…!じゃないと振り落とされる、わよ…ッ!」

「振り落とされるって、一体……うぉわっ!?」

 

 猛烈な勢いで暫く斜め上に走った後、乗り物はレールに沿ってぐるんと一回転。加速の術式を用意周到に作ったのは、ここを確実に回れるようにする為。その甲斐あって何の不安も、何なら殆ど減速もなくわたし達は一回転エリアを抜けられたけども、同時にこの時点で一つ、予想外の事があった。…ちょっと、速過ぎる。想定よりも、スピードが出過ぎている。

 

「この次は蛇行エリア…!ぐわんぐわんなると思うけど、吐かないでよね…ッ!」

「んなぁ!?これ蛇行どころかちょいちょい真横になってたりもするじゃないですか!今更ですけどベルトとか安全バーとかないんです!?」

「見たら分かるでしょ!?ないわよッ!」

「だと思いましたよぉぉぉぉッ!乗り物まで欠陥満載とかほんとどうなってるんですかこれぇぇええええッ!」

 

 視界が滅茶苦茶になりそうな程の超絶機動。曲がりに曲がってるけど、ちょいちょい再加速用の術式を仕込んであるから、全然スピードは落ちない。っていうか、仕込み過ぎたせいかなんなら上がってる。くッ…もうこれ、女神の姿で高機動戦やってる時レベルよ多分…!我ながら、ほんとにこれは盛り過ぎた…!

 

「ここでもう一度一回転!…あ、じゃなかった。上にもう一個用意してあるから二回転ループ!」

「それを一瞬で駆け抜けるとかおっそろしいですねッ!これ普通の人が乗ってたらとっくに振り落とされてるでしょうねッ!」

「……貴女は耐えられそう…?」

「耐えますよッ!だって吹っ飛びたくないですもんッ!」

 

 キレッキレの突っ込みが聞こえる中、二回転ループも超えたわたし達が次に通るのは、これまでのしっかりしたコースじゃない、細い二本の氷だけで作られたレール。流石にぞっとした。肝が冷えて、わたしもビッキィもここは完全な無言になった。でも何とか落っこちたりレールが砕けたりする事はなくそのエリアも抜けて…段々終点が近付いてくる。その間にもまた蛇行したり急上昇したりはしてるけども、ゴールまではもう少し。

 

「あ、あの…段々冷えで色んなところの感覚が無くなってきたんですけど…手とか、最後まで掴んでられるか不安なんですけどぉ…!?」

「だったらあれを見てみなさい…!わたし達を応援するディーちゃん達の姿を、鼓舞してくれるその声を……!」

「愕然とした顔にしか見えませんけどねッ!わたしには『何が何でもしがみ付いてッ!』っていう、悲痛な叫びに聞こえますけどねッ!」

「まあそうでしょうけどねッ!あーもうッ!流石にやり過ぎたぁああああああッ!」

 

 最早後悔しかないけど、途中で止める方法なんてないんだから耐えるしかない。それにここまで来たんだから、最後まで耐え切りたい。

 そんな思いを抱えながらの急上昇。頂点に辿り着いてからは、一転しての急降下。水面に対してほぼ直角に走っていき、水面ギリギリでコースは平行に変わる。そうしてもう一度、最後に掛かる再加速。

 

「な、なんで今…ッ!…っていうかよく見たら、この先のコース無くなってません…!?」

「スライダーの最後って、水にドボンでしょ…?だから……」

「いやまあそうですけどもッ!これじゃカタパルトから射出されるようなもの……おわぁああああぁぁッ!」

 

 コースがなくなり、水上を飛ぶ乗り物。ビッキィの叫びが聞こえる中、乗り物は着水……するかと思いきや、勢いが付き過ぎていて、水面を跳ねる。水切りのように、何度も着水と跳ねてを繰り返す。

 

「わっ、これも予想外…!けど…ちょっとずつ、速度は落ちていってるわね…!」

「ほんと最初から最後まで、このアイススライダー滅茶苦茶過ぎる…!」

 

 ばしゃばしゃと跳ぶ。振動が伝わってくる。でももう終わって、後は止まるのを待つだけな訳で…流石にここまでくれば安心する。安心すると共に、ある思いを抱く。

 

「…ねぇビッキィ」

「…なんです?」

「色々やり過ぎた感のある特製アイススライダーだけど…ちょっとだけ、面白かったでしょ?」

「……ほんと、ちょーっとだけ…ですけどね」

「あははっ、同感出来る辺りビッキィもやっぱり中々にぶっ飛んでるわね。まあでも流石にこれじゃ危な過ぎるし、全体的に造り直す必要が──」

 

 正直物凄く失敗寄りのアイススライダーだけど、それでもやっぱり、ちょっとだけでも面白かったと言ってもらえるのなら嬉しい。こういうスリルは嫌いじゃないし、ディーちゃんやおねーさんと一緒に乗って、反応を楽しむって事も出来る。…流石にイリス辺りは危ないが勝って乗せられないけども、それならそれで、もっとまともなスライダーを作ってもいいかもしれない。そんな気持ちを抱きながら、わたしは造り直しの計画を……

 

 

 

 

──立てようとした、時だった。ぴしり、という嫌ーな音が聞こえてきたのは。

 

「えっ?」

「い、今の…凄く危険な感じの音じゃ……」

 

 ぞっとした様子のビッキィの声が聞こえた直後、どこからか一気に広がる亀裂。前から後ろまで、一直線に亀裂は伸びていく。ヤバい、と思ったわたしだけど、思った時にはもう遅く……

 

『うわぁああああああぁぁぁぁッ!!』

 

……最後の最後でここまでの負荷に耐えかねたのか、真っ二つに、木っ端微塵になった乗り物。投げ出されるわたしとビッキィ。多少減速していたとはいえ、まだまだ勢いのある状態で放り出される形になったわたし達は、思いっきり水面に叩き付けられ……特製アイススライダーは、正式オープンをする事なく営業停止からの解体処分になるのだった。アイスだけに、凍結ってね。あははっ!……はぁ…。




今回のパロディ解説

・「〜〜どこぞの波紋戦士〜〜」
ジョジョの奇妙な冒険 戦闘流潮の主人公、ジョセフ・ジョースターの事。ワムウとの戦車戦における、瓦礫を取り除くと見せかけてワムウ側へ放っていたシーンの事です。

・「……!取った…ピーシェが取った…!」
アルプスの少女ハイジの主人公、ハイジの代名詞的な台詞の一つのパロディ。汎用性が高いような、そうでもないような…という、微妙なラインの台詞ですよね。

・「〜〜白い方が勝つ〜〜」、「ふふ、愛月は賢いね〜〜」
ガンダムシリーズに登場するキャラの一人(二人)、シャア・アズナブル(キャスバル・ズム・ダイクン)とララァ・スンのやり取りの一つのパロディ。でも元ネタは、正しくは白い『モビルスーツが』なんですよね。

・「〜〜殺人的な加速〜〜」
新機動戦記ガンダムWに登場するキャラの一人、ゼクス・マーキスの代名詞的な台詞の一つのパロディ。丁度乗り物に乗っているし、上手い事入れられるなぁと思いながら書きました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。