旧世代型強化人間には大型連休なぞ不要とばかりの虐待が襲い掛かる。
薄暗い部屋の中。レトロチックなデザインの映像端末機に映るACの操作ガイダンスをじっと見つめる小さな影が一つ。
画面の光だけが明かりとなっていた小さな世界に、唐突に光が満ちる。
「621…起きたのなら電気を付けろ」
部屋の電光スイッチをオンにした男、ウォルターは深い溜め息を吐く。
それに対して振り返った小さな
「621。虐待の時間だ」
朝食後。621を野暮ったい椅子に座らせたウォルターは冷徹に言い放つ。
因みに本日の朝食は塩で味付けされた粥であった。
胃腸の修練をするのはお前にはまだ早い、というのが彼の言い分である。
椅子と似たようなデザインの机をズルズルと引き摺り、621の前に設置するとウォルターは口端を歪めて懐へ手を入れる。
621の視線が手の行く先に捕らわれているのを確認し、ゆっくりと焦らす様に懐から引き抜く。
引き抜いた物を机に並べると、彼は余裕とも取れる鼻息を吐いた。
「お前には勉強を受けて貰う。基礎からきっちりとな」
教材である教科書と犬の手でもマークしやすい
表紙には「だけんはじめて でもわかるあーまーどこあののりかた」の文字。
(俺が幼い頃はあいつ…当時は第二助手から面白可笑しく教わったが、その頃の教材取り寄せも教え方も俺にはできん。大抵の奴は勉学というものを敬遠するものだ…虐待になるのも無理はない)
彼はそう考えながら621の隣に座ると、教科書を一ページめくり折り目も付けて見やすい様に開く。
621の視線がウォルターから教科書の文章に移ったのを見て、彼はゆっくり一つ一つの単語を染み入らせるように内容を語り出した。
(…617も稀有な奴だったが、621もまた珍しい精神の持ち主だったようだな)
休憩を小まめに挟みつつ、ウォルターは621の様子を伺う。
621は黙々と彼の読み上げる内容に聞き入り、気になる所や抑えるべきポイントを
これが618ならば二回目の休憩時点で脱走を図っていたのを思い出しながら、ウォルターは区切りの良い所まで進めた。
「今日の虐待はここまで…ではない。もう一つ、受けて貰うぞ」
621がマークし終えたのを見計らい、ウォルターは終了に思わせて新たな試練を持ち出す。
顔を向けた621が僅かに首を傾げているのを、苦痛を感じていると察した彼は口元を歪めた。
しかし今日の仕上げには必須だと気を引き締め、
「今日受けた虐待内容の復習…テストを受けて貰う。赤点の場合、お前には明日も同じ虐待をしなければならない」
慈悲も救いもないとばかりにウォルターは冷たく言い渡す。
もしも点数が低ければ明日に改めて同じだけの虐待を施すという宣言。
大体の子供や、下手すれば大人でも
しかし621は少しだけ目を見開くだけで、目立った動きも見せずウォルターを見ている。
見つめられているのに気付いた彼は、不思議に思いながら解答を促す。
「どうした621。テスト解答に手を付けろ」
彼の言葉で我に返ったかのような反応をした621は、その肉球で画面を操作し問題文をスクロールし始める。
余りにも非道な虐待で、一時的に現実逃避してしまったのかもしれない。
ウォルターはそう考えるも、カンニングは許さないとばかりに挙動をじっと監視し続けた。
何度も解答に考え込みながら問題をすべて埋めた後、見直しも一通り行ってウォルターに視線を上げたのを見て終了を言い渡す。
採点を行う間も居心地悪そうにしているのを横目に、ウォルターは採点結果を表示させて621の前に置く。
「満点ではないが、及第点だろう。よくやった」
初日でこれであれば十分すぎる程に伸びしろがある、とウォルターは手ごたえを感じていた。
及第点といいつつ、声色は気持ち弾んでいる。無意識なのか彼の手が621の頭に伸びて撫で回す。
621は何も言わないが、じっとその手を受け入れていた。
「今日の虐待は終わりだ。…戻って食事にするぞ」
教材を片付け、杖を突きながらウォルターは部屋を後にする。
その後ろを付いていく621の尻尾が、風に揺れたと見間違う程度に揺れていた。
AC乗りとしてある程度使われていたであろう強化人間に、基礎から勉強を叩き込む悪辣さ。
居眠りも許さないとばかりに監視され、救いはないのだ。
今後続くかは未定。