ハンドラー・ウォルター悪人説   作:灰ネズミ

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別で書いていた小説が一段落したので執筆。
寝る間も惜しんで勉強をしていた旧世代強化人間へ言いがかりに等しい虐待が襲い掛かる。



お前に寝物語を与えてやる

暗闇に包まれた一室。アンティークレベルの外見をした映像端末機に映る、ACによる戦闘技術の指南を食い入るように眺める小さな影が一つ。

モニタから放たれる光だけが唯一の灯だった閉所に、突然頭上から光が発生する。

 

「621…まだ起きていたのか」

 

部屋の電光スイッチをオンにした男、ウォルターは大きく溜め息を吐く。

それに対して顔を上げた小さな()。621はまた、気まずそうに頭部の獣耳を伏せた。

 

 

 

「621。消灯時間を無視するなら虐待をするまでだ」

 

寝付けない等という言い訳をする621だったが、ウォルターは無慈悲に言い渡す。

場所は621の寝室のまま、彼は一度席を外した後に先程の言葉を伝えた。

部屋の隅では暖かくも寒くもない程度の温度に室温を監視、および管理する空気調和機が静かに唸る。

長年保管されて621には居心地が良いだろう冷気と埃が沈む空間ではなく、綺麗に掃除が行き届いた室内は生活するだけで精神を削っていく(すっきりした気持ちになる)

更には部屋に備え付けられた、ウォルター曰く寝る時も虐げられる苦しみを味わわせるという話の寝具。

肉球触りの滑らかな布と、横たえた身体をしっかりと支える板バネが仕込まれている。

地面や床、襤褸(ボロ)布やイネ科植物の茎(ワラ)に慣れた身では、寝苦しい事この上ないだろうとは彼の談である。

最も強化人間(犬)である621にとっては、すぐに慣れてしまったようだが。

 

「睡眠はコストパフォーマンスを維持するのに必要だ。取るべき時に即座に寝れるようにならねばならない。分かるか」

 

ウォルターは鋭い目を吊り上げ、言葉では尋ねているものの言い含めるよう断じる。

それに対して621は頷いて見せるが、行動が伴っていない現状に彼は溜息を吐きながら621の傍に座る。

 

「今日の虐待はこれだ」

 

いう事を聞かない罰とばかりに取り出されたのは、一冊の本だった。

621が首を傾げると、ウォルターは自身の膝にそれを置いて表紙をめくる。

その表紙にはおぞましい程に幻想的で…親しみやすい絵柄と簡易的に表現された文字群が描かれていた。

 

「ネットワークに転がっていたこの無料の、聞き飽きただろう童話を、寝るまで読み上げてやる。屈辱でお前の精神が(さいな)もうが止めん。それが嫌なら早く寝付く事だ」

 

教訓も得られ、大人向けである寓話ではなく態々幼児向けの童話を数点選んでいた。

物語の内容もありきたりな平凡なもので、すでに聞き飽きた可能性が高い。

似たような展開な上に、幼子扱いするかのような本の種類は屈辱だろうと彼は考えていた。

しかもガタイが良くて寝付けるような良い声でもない(とウォルター自身は思っている)老いた男の朗読は、拷問にしかならないと彼は思っている。

拒否しても許しはしない…と考えていたウォルターの考えに反して、621はベッドの上で姿勢を整え拝聴の体勢になっていた。

 

「…今更俺の言う事を聞いてももう遅い。大人しく虐待を受け入れる事だ」

 

ウォルターは片眉を顰めながらそう言うと、冒頭からゆっくりと静かに読み上げ始める。

幼児向けをチョイスした事もあり、もどかしく思う程全てが簡易的(ひらがな相当)に表記された文字群に倣って煽る様に(柔らかい声色で)朗読する。

日常のシーンでは平凡すぎる程の抑揚のなさで、緊張するようなシーンでは圧を感じさせるように力を籠め。

時にはおどろおどろしく、時には(心持ち)明るめに声色を変えながらウォルターは語り続ける。

幼少期に何度も聞いただろう読み上げ方は、うんざりする気持ちしか湧かないだろうと彼は考えながら童話を朗読し続けた。

 

「―――そして彼らはいつまでも幸せに暮らしましたとさ…む。ようやく寝たか」

 

一冊目を読み終えた時、ウォルターが気付くと621は魂が抜けたように疲れ果て(穏やかな表情で)眠りについていた。

少なくともウォルターの目にはそう見えており、この手は使えると彼は心の中でメモを取る。

ずり落ちた毛布を621にかけ直すと、彼は音を立てないよう静かに読み上げていた本を閉じた。

一冊目を堪え切れた時に備えて準備していた、足元に置いた別な数冊の童話も拾い上げて立ち上がる。

気配を悟らせまいと音を立てないようゆっくりと杖を突きながら、ウォルターは電気を消して寝室を後にする。

 

「…今日の虐待は終わりだ、621」

 

音を立てずに寝室の扉を閉めると、「俺の寝物語に耐えれぬ精神ならプランを見直す(メンタルケアを優先する)必要があるか」と呟きながらウォルターは自身の部屋へと戻って行った。

 




戦いで成熟された精神を持つAC乗りに対して、貴様は幼子と変わらないと言わんばかりのジャンルをチョイス。
更にバカにするように臨場感を含ませつつ、柔らかな声色で朗読するのは老いた男という誰得(とウォルターは考えている)な読み手。
夜更かしするような悪い奴(良い子)には安息などないのだ。



(以降も、本作の雰囲気?に合わせてなるべく落ち着いた表現にしてますが、実際は小躍りする程嬉しいです)
閲覧にしおり、感想やお気に入りを頂き、ありがとうございます。
ここすきに、評価も頂いており感謝致します。




筆者が投稿している別な作品にて採用させて頂いていますように、こちらでも御名前記載をさせて頂きます。
(こちら側においてのみでも、問題ありましたら一声おかけ頂けますと幸いです)

旋風士様、GD0474様、清狼光牙様。
御好評頂いており、ありがとうございます。
これからもウォルターの悪人っぷりを書いて行こうと思います。


Bonobone様、変ジーン様、両生類様、野菜クズで取った出汁様、NISHIZUMI MOHO様、
自爆一号様、Meat Toilet様、kabayan様、antai様、
青すぎる座布団様、POPU様、シャツ様、えるるん様、タンポポ太郎様、
ⅡBC様、AKR12様、旋風士様、清狼光牙様、何処にでも居る佐藤様、
teika-様。
お気に入り登録して頂けまして、ありがとうございます。

何かと天才は紙一重という奴ですね…!
興味深い生態をしていらっしゃるのでしょうか、もしかして…?
旨味と栄養が水溶液に溶けだして余すことなく飲み干せますね!
脱出レバーはいつでも引けるようにしなきゃ。
T型なのか、Y型なのか…少し気になります。
遍在するその視点は自分も大切にせねばといつも思っていたりします。
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