蟇郡の車に乗ること数分。
私達の目にすごく珍しい人影が入ってきた。
背中にはおそらく竹刀を入れているであろう袋を下げ、額には緑色の鉢巻。
最初の極星服のデザインを元にした制服っぽい後姿。
そう、猿投山だ。
「む?おーい、猿投山ァ!」
「ん……その声…蟇郡か!?」
声をかけられ、振り向いた猿投山。その表情は明るく、なにやら上機嫌なようで。
「どうしたお前ら、仲良くドライブか?」
「いーや、蟇郡がマコを迎えに学校まで来たんだよ。そういうアンタも北関東に帰ったんじゃなかったのか?」
「今日は大会があったんだよ。見よ、この賞状を!」
誇らしげに広げた賞状には、剣道大会個人戦第二位と書かれていた。
……二位?
「おい、ちょっと待てよ。そしたら一位は誰なんだ!?」
「名前は忘れたが……なんでも南のほうで師範をやっている人だそうだ。俺の動きを完全に見切られてものの数秒で面を取られて負けちまった」
「お前の天眼通と心眼通を持ってしても勝てんとはな……世界は広いということか」
じゃあ何であの戦いのときに出てこなかったんだよ……って言いたいけど、あれは仕方ねぇよな……生命戦維に縛られたらプロでも無理か……
「そうだ。猿投山、ついでにお前も北関東に送ってやろう」
「お、流石生徒会元会長、心が広い!」
「蟇郡先輩はいつでも心は広いよ!わたしたちが道端で困ってたときもヒッチハイクで釣れてくれたもん!」
「マコ、あの時の話はしないでくれ。正直蟇郡をあのときほど気持ち悪いと思ったことは無い」
「俺が気持ち悪いだと!?」
「何の話だ?」
猿投山はまったく知らない様子だから、あの時蟇郡が発した言葉一言一句漏らさず全てを伝えてやった。そしてあの時にそういう自覚が無いことも。
案の定、猿投山もドン引きしてたけどな……。
あ、今度姉さんに会ったときに言ってみようかな。
「そういえば、塔首頂上決戦以来、お前と1対1で戦ってないな。纏」
「あ?そうだっけ…?私が姉さんの家には住まないで満艦飾家で過ごすって言ったときに闘わなかったっか?」
「あれは蟇郡も一緒だった!俺との1対1ではない!」
「あー、そういやそうだな。流石に私でも剣道でアンタに勝てるとは思ってないよ。喧嘩だけにしてくれ」
「くっ、それじゃあもう一度再戦は厳しいな……」
なんて会話をしている前で、蟇郡とマコはお互いのことを楽しそうに話し合ってる。
マコの笑顔は癒されるけど、なんか気分が下がっていくって言うか…元気がなくなるって言うか……
「どうした、纏。体調でも悪いのか?」
「あ、いやいや、なんでもねぇって!それよりさ……」
「なんだ、急に声を小さくして……」
「……マコと蟇郡、あれデキてるよな」
「………あまり同意はしたくないが、その通りだな」
「だよなぁ……」
べ、別に寂しくなんかねーよ!?
マコだって女の子だ、誰を好きになろうとか、私が口出ししちゃいけねーし!
ていうかマコが幸せなら私はそれで良いし!別に……寂しくなんか……
「……」
「そういえば猿投山。犬牟田と蛇崩とは連絡を取っているのか?」
「ああ、向こうも向こうで何とかやってるらしい。犬牟田は大学に入ったばかりなのにもう就職先が決まってるしな」
「はぁ!?」
「蛇崩の企業にスカウトされてんだってよ。まぁアイツのコンピューターの腕は確かだからな、一流からスカウトされてもおかしくは無いだろう」
……あれ、嫌な予感がする。
「なぁ、猿投山。蛇崩と犬牟田って仲良かったか?」
「あいつら卒暁式が終わった後、かなり仲が良くなったらしい。たまに蛇崩の悪口を聞かされるしな」
……え、あいつらが!? マジで!?四天王ほぼ全員幸せじゃねーか!
「北関東なんてヤンキーだらけなもんだから、男臭くてしょうがねえ。かといってこっちに来ればこの有様だ。お前も丸くなったなぁ、蟇郡」
「う、うるさいぞ猿投山!……っと、どうやら着いたようだ」
「やったー!ありがとうございます、蟇郡先輩!」
「わざわざ悪かったな、これからもこうやって送り迎えされる気がするけど」
もうマコと話している時の蟇郡の顔を見せてやりてぇよ、なんだアイツの笑顔。
基本的にしかめ面しかしなかった癖によ…。
「あら、二人ともお帰り!それとこんばんわ!」
「満艦飾の母親…!こんばんは……」
「お久しぶりです」
「これから晩御飯なんだけど、二人も一緒にどう?わけのわからない物を磨り潰したコロッケあるわよ!」
「お、あれ結構美味くて好きだぜ!俺は頂いてくかな。蟇郡、お前は?」
「……せっかくだから上がっていこう。丁度、腹も鳴ったしな」
今日の晩御飯はいつもより賑やかになりそうだなぁ……
人数多いほうが食事は楽しいけどな。
「……(纏の様子が変だ…)」