銃が撃てないので拳で抵抗するキヴォトス生活   作:×⚪︎舐め鯛

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武道少女、ゲヘナに入学する

 結論から言おう。

 

 ここキヴォトスは銃が使えなくても割と生きていける。

 

 そもそも、この世界は超がつくほどの銃社会である以外は非常に平和な場所だ。抗争やら強盗なんかは多発しているが戦争なんかは基本起こらない。

 福祉も発達していて、小さな怪我や病気なんかはすぐに治る。

 

 それに、前の世界で生きていたものとは違う、神によって作り替えられた私の身体。どうやら、私の身体は、完全にキヴォトス人のそれになってしまったようで、銃弾を数発浴びてもケガにもならない。しかも、頑強な肉体に私の天性の反射神経と運動神経が加算されるのだ。

 

 今の私は、飛んでくる銃弾を避けることはもちろん、得物さえあれば、真っ二つに切断できる。

 

 私は、ここキヴォトスでただ、生きていけるだけではない。私は、この世界でも戦えるのだ。

 

 しかも、前の世界での退屈な戦いではない。

 キヴォトスには数多くの強者達がひしめき合っているはずだ。

 きっと彼女らとは血湧き肉躍るような戦いが出来るはずだ。

 

 嗚呼、今から楽しみで仕方ない。

 

「おっと、いけないいけない……こんな、ニヤけてたら入学早々引かれてしまう」

 

 しかし、私とて別に戦いだけが生きる楽しみではない。

 というか、ここキヴォトスに来てしまった以上、闘争など二の次三の次だ。

 

「あぁ……ついに生ヒナちゃん♡♡友達になれるかな?いや、絶対になってやる……‼︎」

 

 そう、キヴォトスには幾人もの可愛らしい推し……もとい生徒がいる。

 

 画面越しでも可愛さで発狂していたのだ。まさか彼女達の学友になって面と向かって話すことができるなんて……。

 

 神様ありがとう。今まで心の中でボロクソ言ってごめん。私、心を入れ替えます。

 

 私は校門の前で、胸の中で神に感謝した。

 

 ここに転生しておおよそ半年、私はついに高校生になる。

 

 私は眼前にそびえ立つ大きなドイツ調の校舎を眺める。

 

 ゲヘナ学園。キヴォトス三大学園の中の一校であり、自由と混沌を是とする治安が終わっている無法地帯であり、私が今日から通う学び舎だ。

 

 そんな危ない学校通うなよ、と思うかもしれないが、私にとってはゲヘナが最善なのだ。

 なんていったってブルアカで私の最推しである空崎ヒナがここゲヘナに居るのだから。

 しかも、時間軸的にどうやら私とヒナちゃんはタメらしい。もうこんなの友達になれって言ってるようなもんだよね?

 

 今までにない高揚感が私の体を包み込む。

 これから始まるであろう青春の物語に私は胸を弾ませて、校舎へと入っていった。

 

 

 

「入学者の方ですね。この度はご入学おめでとうございます。…お名前を伺っていいですか?」

「えっと……(かんなぎ)セツナです」

 

 私は受付の先生に答える。シャーレの先生ではなく、おそらくゲヘナに常駐している普通の先生だ。

 見た目が完全にロボットだし、そもそもシャーレの先生がキヴォトスを訪れるのは2年後だからね。

 

 ロボット先生は私の名前を聞くと、手元の書類を漁り始めた。

 

「セツナさん…セツナさん……あ、見つけた。えっと…登録武器は……太刀って……え?…か、刀?」

「あぁ、はい。私、銃が下手くそで……それなら、もうコレにしようかなって…」

 

 私は背中に背負っていた細長い袋から一振りの太刀を取り出す。

 

 キヴォトスで高等学園の生徒になる場合、生徒は必ず最低一つの武器を登録しなくてはならない。

 

 私も、せっかくこの世界に来たのだから、最初は銃にしようと思ったのだが……。

 

「下手って……?」

「一度、ガンショップでピストルを試し撃ちしたら隣で試し撃ちしていた子に当たりました」

 

 的を狙ったのにどうしてすぐ横に飛んでいくのか……もう二度とあんな冷や汗かくマネをしたくない。

 

「それは……うん、太刀でいいと思うよ……うんと…まだ、印は無いみたいだね。じゃあ、それにゲヘナの校章かゲヘナの部活のマークを刻んでおいてね」

 

「は〜い。…体育館に行けばいいんですよね?」

「うん、廊下を真っ直ぐ進んでたら右にあるから。じゃあ、高校生活、楽しんでね」

「はい、ありがとうございました〜」

 

 私は武器を仕舞って、入学式会場の体育館に向かった。

 

 ……ていうか普通は入学者入場とかあるから教室に行くんじゃないか?

 不良だらけすぎて体育館直行じゃないとスケジュールが遅れるかららしいけど……改めてこの学校ヤバイな。

 

 私が会場の椅子に座って暫くすると、式が始まった。

 入学式自体は普通のものと変わらず、つつがなく行われた。

 

 そして、残るは万魔殿議長、つまり生徒会長の挨拶と、入学者代表挨拶だけだ。

 

「万魔殿議長、挨拶」

 

 刹那、全体の空気が凍り付いた。

 

 否、凍り付いたというより、稲妻が走ったようであった。

 緊張が、恐怖が一瞬で伝播した。

 

「すごい圧だな……」

 

 私は感嘆し声を漏らす。

 

「入学者の皆、ここゲヘナへの入学、おめでとう。君達に会えて嬉しいよ」

 

 いつの間にかステージ上に立っていた雷のように金色に輝く長髪の少女は、微笑みながら、その清涼感のあるキリリとした声を響かせた。

 

 見た目だけなら、凛々しく美しい先輩だ。

 だけど、この場にいる全員の本能がこの少女は危険だと告げていた。

 

「紹介の通り、私は万魔殿の議長をしている丹花……君達に分かりやすく言うと()()だ」

 

 雷帝。ブルアーカイブ本編では2年前、つまり今年まで在籍していたゲヘナの生徒だ。その圧倒的な才能で数々の危険な発明品を開発して、ゲヘナを荒らしに荒らして、キヴォトス全体までも水面下で掌握しようとしていたとんでもない奴だ。

 

 そんな人間が今、目の前に立っている。その事実に私は全身の筋肉がキュッと収縮するのを感じた。

 

 周りも、雷帝の名を聞いて強張っていた顔をさらに堅くした。

 

 ……ん?ていうか丹花って苗字、どこかで聞いたことあるな。どこだっけ?

 

「そう怖がらないでくれ。重ねて言うが、私は君達の入学を楽しみにしていたんだ。……まぁ、君達の一部は私に不貞を働こうとわざと留年した者共も中にはいるがな?」

 

 新入生の内、2人がビクッと大きく震えて動揺していた。

 灰色の髪に立派な角を持った長身の女子と、白と黒のツーカラーの髪にこれまた立派な角を携えた女子だ。

 

 ていうか、この人達って……。

 

「あぁ、マコトとカヨコが留年したのって、やっぱ雷帝絡みだったんだ」

 

 ゲームでは明かされてはいなかったが、昔から考察されていたことが事実だと知って、私は感嘆の声を漏らす。

 

「…どうやら、私が話している間に私語を挟む元気な小娘もいるようだ」

「ッ⁉︎」

 

 えぇ、今の聴かれてたの?めちゃくちゃ小声だったし、私と雷帝の間はかなり離れているというのに……。

 

 地獄耳め。

 

 ていうか、小娘って2歳しか違わないじゃん。

 

「いや、別に責めているわけではない。むしろ、嬉しく思っているさ。今年はどうやら粒揃いらしい。……さて、そろそろ本題に入ろう。私がゲヘナで君達に求めることは、ただ一つだ。

 ……それは、野心だ。少女らよ、野心を抱け。この3年間、己の望みを叶えるためだけに使え。周りのことなど一切歯牙にかけるな。平和や秩序などこのゲヘナで必要ない。このゲヘナには闘争と混沌しかいらない‼︎」

 

 雷帝は力強く声を響かせて、そして、一呼吸おくと、嘲るように笑った。

 

「だが、もし君達の望みがゲヘナのトップに君臨することや、私の失脚だった場合は諦めた方が賢明だ。……無駄なことに貴重な学園生活を費やすなど愚の骨頂だからな!ハハハ‼︎」

 

 自信家だなぁ……。

 

「まぁ、もし、もしもだ。無駄だと分かっていながら私に楯突く蛮勇な者がいたとするなら、喜んで受けてたとう。その時は蹂躙というものを骨の髄まで教えてやる!……さぁ、これで私の話は終わりだ。最後に、重ねてだが、入学おめでとう、私の学園にな‼︎」

 

 終始、とんでもない圧を放っていた雷帝はその言葉を最後に、壇上から降りた。

 

 周囲の空気は、困惑、怒り、そして少しの敬愛、崇拝。

 

 まったく、今の演説に彼女を支持する要素があるのか分からないが、一部生徒には相当刺さったらしい。

 

「入学者代表、挨拶」

 

 次のプログラムに移って、ようやく体育館内に密集していた緊張感が溶けた。

 

 コツコツという音と共に純白の少女が壇上に上がった。

 

 あらゆる光を反射する、汚れを知らぬ真っ白の長い髪と、あまりに華奢な体。

 つぶらな瞳にそれに反して悪魔的で禍々しい大きな羽と角。

 

 ヒ、ヒ、ヒ、ヒナちゃんだあああぁぁぁぁぁ!!!

 え、可愛すぎる!それに思ってたよりちっちゃい!

 あ、今、ペコリってお辞儀したよ⁉︎ヤバイヤバイヤバイ、可愛すぎるよ‼︎ちっちゃいし!

 

 まさかの最推しの登場に、私は心の中で狂喜乱舞する。

 

「先輩方、私たちの入学をお祝いしてくださりありがとうございます。私もゲヘナへ入学できたことを嬉しく思います」

 

 透き通った声が体育館に響く。

 声が透き通りすぎだよ、ブルーアーカイブかよ⁉︎

 

「私は、ここゲヘナでたくさんの人と仲良くしたい。そして、みんなにも仲良くして欲しい。……でも、みんなが好き勝手に暴れたら、絆を深めることなんて出来ない。…だから、この学園には秩序がいる」

 

 ヒナちゃんがぐう聖すぎて泣きそう。

 さっきの威張り散らかしてた雷帝とは大違いだよ。

 

 ……でも、大丈夫なんだろうか。

 

 仮にもこの学校のトップと正反対の演説をしてしまって…。

 そして、私の嫌な予感はどうやら的中したらしい。

 

「おいこら一年!先輩にナマ言ってんじゃねぇぞ⁉︎」

「ゲヘナに秩序なんて必要ねぇんだよ⁉︎私らは自由だぁ‼︎」

「チビがしゃしゃり出んなぁ‼︎」

 

 四方八方から罵詈雑言の嵐。中にはヒナちゃんに向かってゴミを投げつけている生徒までいる。

 

 そりゃ、入学早々、この学園で1番恐れられている雷帝に楯突くようなスピーチをしたら、どっちが正しいかなんて関係なくこうなるよね。

 

 ……まぁ、それはそうとして、なんなの、こいつら?ヒナちゃんが頑張ってお話ししてるんだよ?どうして、そんなことができるの?

 ああ、もう、ヒナちゃんに野次飛ばしてる奴ら全員切っていいかな?いいよね。死ぬわけじゃあるまいし。

 

 私は、手元に置いていた太刀の柄を握る。

 

「……静かに」

 

 刃を3センチくらい出して、深呼吸で精神を整えたら不届者どもに切りかかろうとした。

 

 だけど、私は動けなかった。

 

 というか、この場にいる全員が微動だに出来なかった。

 ヒナちゃんが放った、心の臓を凍てつかせるような、雷帝と同等、否、それ以上の覇気に皆が気圧されたからだ。

 

「兎も角、私はこの学園が思いやりに満ちた場所になるよう、精一杯はたらくので先輩方、同級生の皆さん……よろしくお願いします」

 

 最後に、またペコリとお辞儀してヒナちゃんは壇上から降りた。

 

 パチパチパチパチバチバチバチバチ!!!

 

「うぉっ、こいつ拍手うるさっ」

「ていうか泣いてね?怖っ」

 

 感極まった私は無我夢中でヒナちゃんに向けて拍手をした。

 周りになんと言われようが関係ない。

 

 一目惚れであったし、ブルーアーカイブに出会ったきっかけでもあった。ゲームをプレイしてさらに惚れ込んだ。あっちの世界では2次元だったし、そもそも私も女だったけど、正しく初恋の女の子とも言えるヒナちゃん。

 

 そんな彼女が目の前に存在するという事実が私にとって涙腺崩壊級の大事なのだ。

 

 それに、彼女が一瞬放った心臓を手で掴まれていると錯覚するほどに鋭い覇気。

 

 前の世界でも同じように相手を威圧する選手はいたけど、私が一瞬、完全に動けなくなるほどの覇気を飛ばしてきたのはヒナちゃんが初めてだ。

 

 ヒナちゃんは強い。きっと、私が今まで出会ってきたどんな強者よりも。

 

 前世で私は、まともに勝負できる人を探していた。

 

 まともな勝負どころじゃない。彼女と戦えばもしかしたら負けるかもしれない。

 

 私が喉から手が出るほどに渇望していたものたちがすぐ近くにあるなんて。

 

 嗚呼、神様ありがとう。

 

 私は、心の中で、この世界に連れてきてくれた名も知らぬ神に、もう一度、深く、深く礼をした。

 

 




本作の主人公のちょっとした設定をまとめておきます

名前 巫セツナ

名字は「かんなぎ」と読みます。前世の頃からの名前であちらの世界では雪凪という漢字でした

好きなもの
ヒナちゃん(狂的なまでに愛している)、戦い、拮抗した勝負の上での勝利、ゲーム

嫌いなもの 
勝負にならない戦い、敗北

得意なもの
武道全般(2週間もあれば基本武道は全てマスターできる)

苦手なもの
飛び道具(銃だろうがボールだろうが全てあらぬ方向に飛んでいく)

ブルーアーカイブは銃がテーマの一つであるゲームなのに、どうしてセツナがプレイしているのか疑問に思うかもしれませんが、ブルアカは厳密にはプレイヤーは先生になって指揮をとっているだけであるため、セツナでもプレイできます。そのことをセツナはとても喜んでいました。

こんなヒロインを愛してくれると嬉しいです
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