銃が撃てないので拳で抵抗するキヴォトス生活   作:×⚪︎舐め鯛

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武道少女、雷帝に喧嘩売る

「空崎ヒナ……趣味は寝ること…さっきも言ったけど、みんなと仲良く出来たら嬉しい。…よろしく」

 

 ほ、ほ、ほ、ほわああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

 まさかヒナちゃんと同じ学園どころか、同じクラスになれるなんて⁉︎

 

 こんな幸せいいんだろうか?神様からバチが当たりやしないだろうか?

 あ、そもそも私をこの世界に連れて来たのが神様なんだった♪じゃあ大丈夫か。

 

 ちなみに、現在のキヴォトスは作中時間の2年前だがヒナちゃんの容姿はまったくと言っていいほどゲーム内のものと変わりない。

 

 強いていうなら彼女の纏う制服が風紀委員長の魔王っぽいものではなく普通のゲヘナのものであるだけで、時の流れを一切感じさせない。まるで差分だ。

 

 でも、そこが可愛い。

 

「じゃあ、次、(かんなぎ)さん」

 

 このクラスの担任だと言っていたロボット教官が私の名を呼んだ。

 今は、各々の自己紹介タイムだ。

 

「はい…巫セツナだ。特技は武道で……ていうか、武道しかできない。銃も撃てないから、ほら。私の持ち武器だけ刀だ!」

 

 教室内が少しざわめく。

 

 やらり、流石にキヴォトスで刀一本は変か。

 

 まぁ、でもそのざわめきも物珍しさから来たもので、特別嘲るような視線は注がれない。

 

 差別や嘲笑など気にするようなタマでもないが、ないに越したことはない。心配事が一つ消えた。

 

「ちなみに趣味はヒナちげふんげふん…ゲームだ。私もみんなと仲良く出来たら嬉しいと思っている。これからよろしく頼むよ」

 

 パラパラと拍手。

 

 危ない危ない。気が動転しすぎて登校初日からどこぞの横乳みたいなことを言おうとしていた。

 これじゃ変態まっしぐらだよ。

 

 その後も、自己紹介は続き、次第にクラス内に漂う緊張感は無くなり、和気藹々とした雰囲気になってきた。

 

 ………ほとんどがね。

 

 ほんの一部、さっきの雷帝の演説に感化されたのであろう生徒たちは、ヒナちゃんのことを少し警戒……というか敵視している。

 

 他の大多数も、面倒に巻き込まれないようにヒナちゃんには極力近寄らないだろうな。

 

 まぁ、そのうち、この忌避感が恐れに変わるんだろうね。

 

 全員の自己紹介が終わって、ロボット教師から色々と今後の説明された後、放課になった。

 

 

 

「そ、そ、空崎ヒ、ヒナさん!……え、え、えっと……お、お、おお」

「……おお?」

「おお、お茶にでもい、行きま……せんか……?」

 

 教室から出ようとしていたヒナちゃんを引き留めて、ものすごい挙動不審ぶりで彼女をお茶に誘う女生徒……私だ。

 

 別に明日も会えるというのに、クラスを去っていくヒナちゃんの姿を見て堪えきれなくなった私は、気づけば彼女に話しかけていた。

 

 そして、目の前の推しが眩しすぎて緊張が最高潮に達して今に至るのだ。

 まずいまずいまずい、こんなキョドッてたらヒナちゃんに変なやつだと思われる。

 

 でも、まずいと思うほど緊張が高まり、悪循環だ。

 しかも、全然返事は返って来ないし、これ確実に失敗したよね……。

 

「あ……えと…迷惑…ですよね……すいません……帰ります……」

「あ、いや、待って⁉︎」

 

「え……?」

「別に迷惑とかじゃないし…誘ってくれて嬉しかった……でも、ちょっと困惑しちゃって……」

「困惑?」

 

「ええ…お茶に誘ってくれるのは嬉しいけれど、本当に私でいいの?……多分、私はみんなに疎まれているだろうから……」

 

「ヒナちゃんが良いんだよ‼︎」

 

 私は思わず大きな声を出してしまった。

 

「あ、えっと…ごめん!いきなり叫んで……でも、私は空崎さんだから誘ったんだ。……だから、空崎さんが誘いに乗ってくれると嬉しいな?」

 

 周りの評価なんてどうでもいい。

 

 私はただ目の前の、どうしようもないくらい優しい子の近くに居たい。それくらい、今の彼女は可憐に、そしてひどく危うく見えた。

 

「そういうことだったら……喜んで」

「っ!ったああぁぁぁ‼︎ありがとう、空崎さん!」

「そ、そんなに嬉しかったの……?あと、空崎さんじゃなくて…ヒナちゃんでいいわよ…私もセツナって言うから…」

「え、いいのかい⁉︎…じゃあ、ヒナちゃん、早速行こう!オススメのカフェが近くにあるんだ!」

 

「では、私もご一緒してよろしいでしょうか?」

 

 向き合う私とヒナちゃん。その間から唐突に透明感のある声が聞こえた。

 

 ヒナちゃんと同じ雪のように白い髪。キリリとした黄金の瞳に何を考えているかイマイチわからない無表情。

 

「あなたは…」

「セナさん…?」

 

 彼女もヒナちゃん達と同様にブルアカのプレイアブルキャラクターであった。

 

「いかにも。氷室セナです。気軽にセナとお呼びください。…以後、お見知り置きを」

「ああ…よろしく」「よろしく」

 

 能面のような平坦な表情のまま、彼女はお辞儀をした。

 

 そんなセナの姿は、私が知っている彼女ー2年後の姿ーとはいくらか異なっていて白の髪はセミロングであっあし、2年後と比べるとやや慎ましやかな体つきをしていた。

 

「……それでですが、よろしければお二人にご一緒したいのです。…どうでしょうか?」

「私は構わないよ」

 

 というか、ヒナちゃんと2人きりだったら、私まともに話せるか心配だし。

 

「…ヒナちゃんは?」

「私もいいけど……セナはいいの?私と居たら逸れ者になるかも……」

 

「構いません。あなた方と居ればした…面白いものを見れるかもしれないので。それに私にはヒナは悪人ではなく可愛らしい善人に見えます」

 

「だよね〜。ヒナちゃん、やっぱ可愛いよね〜!」

「かっ…可愛いなんて…⁉︎」

 

 頬を赤らめてモジモジとする純白の天使ことヒナちゃん。

 その様子を見て、私とセナは小さく微笑み合う。

 

「じゃあ、そろそろ行こっか!」

「え、ええ…」「はい」

 

 私たちは3人で教室を出た。

 

 

 カフェまで私たちは色々とお喋りしながら歩いた。

 明日からの授業のこと、クラスのこと、ゲヘナのこと。

 

 そして、今日のヒナちゃんの挨拶のこと。

 

「それにしても…今日のヒナちゃんのスピーチはすごかったね」

「はい、痺れました」

「もうっ…私、そんな、すごいこと言ってない…」

 

 ヒナちゃんは恥ずかしげに大きな黒翼をパタパタと動かした。

 

「そんなことないさ。あの雷帝に真っ向から反論している姿は誰よりもカッコよかったよ」

「え……?雷帝?」

「え?」

 

 ヒナちゃんは話の流れがまるで分からないと言わんばかりに首を傾げた。

 

「あれ?ほら、ヒナちゃん。ヒナちゃんの前に演説してた雷帝…万魔殿の議長とヒナちゃんの演説、完全に対立してたじゃないか?雷帝はゲヘナに平和や秩序はいらないとかほざいてて、ヒナちゃんはゲヘナには秩序が必要だって言ってたでしょ?……ねぇ、セナ?」

 

「はい、私もそう感じました」

 

「えぇ…私の前にそんな話してた人がいたの……ごめんなさい、私、今日早起きして自分の番までウトウトしていたからあんまり聞いていないの……」

「ああ…なるほど……寝るのが趣味だもんね……」

 

 雷帝にあんだけ威圧されてる状況で居眠りって……。

 

 私でさえ肌がずっとピリピリするくらいには緊張してたのに……ヒナちゃんの底が知れないな。

 

「どうりで私が話してる時あんなにみんな怒ってたのね…」

 

 理由分かってなかったんだ……。

 

「…でも、発言を撤回するつもりはないわ。私は本当にみんなに仲良くしてほしいと思ってるから……。それにみんなが規範も守らずに暴れたら結局みんな幸せになれない…」

 

「ええ、私もそう思います」

「まったく同意見だよ!雷帝だかなんだか知らないけどヒナちゃんが100%正しいんだから無視しときゃあ良いんだよ!」

「そう…そうよね…ええ、そうするわ」

 

 ヒナちゃんの強張っていた顔が少し緩んだ。

 

 可愛い。

 

「…ところで、件のカフェはどこら辺にあるのですか?」

 

「ああ、もう少しで着くよ。次の角を曲がってすぐ……っ⁉︎」

 

「?…どうかされました?」

 

 突然、身体中の筋肉を硬直させ軽快の色を見せた私に、セナは心配の声を投げかける。

 

「…ヒナちゃん、どうする?」

 

 きっとヒナちゃんは気づいている。

 

 私たちのの歩く大通りから右に分かれる小さな路地。

 そこから漏れ出て、わずかに耳朶を打つ殴打の音と、雷鳴が迸ったかのような猛威に。

 

「困っている人がいるのなら、絶対に助ける」

「そう言ってくれるって思ってたよ……セナ、ちょっと寄り道することになるけどいい?」

「…はい……ですが、くれぐれも危ないことはしないで下さい」

 

 セナの言葉に私とヒナちゃんはコクリと頷いて、私たちは右へ進路を変更し狭い路地に歩を進めた。

 

 

 

「なぁ!48番!いい加減、レポートを頼むよ⁉︎いつまで経っても実験が終わらない……じゃないか‼︎」

 

「…ぐっっ‼︎…ふぅ…ふぅ……」

 

 私たちは迷路のような路地を、音を頼りに進むと、そこには数人のゲヘナ生徒がたむろしていた。

 

 仰々しいくらいにきちんと着られた制服を見るに全員不良というわけではないらしい。

 というか、私の前世の記憶が正しければ全員、万魔殿のマントを羽織っていた。

 

 彼女らは紛れもなくここゲヘナの治安組織であるはずだが、こんな暗い路地で行うのは善行ではなく反吐が出るくらいの悪行のようだ。

 

 長い銀の髪と切れ長の目が特徴の長身の生徒を数人の生徒が羽交締めにしている。

 そして、銀の髪の生徒を金色の稲妻が無理矢理人の形をしたみたいな生徒がやけにメカニカルなグローブをつけた腕で殴っていた。

 

 有り体に言うと、マコトが雷帝にボコボコにされていた。

 

 今、殴られていたのは鳩尾だが、顔も数回殴られたようで、頰が腫れ、唇は切れていた。

 

 麗しい女子の顔を傷つけるなんて万死に値する。今すぐに飛び出したいが戦力差が芳しくない。

 相手はそこそこの手練れであるはずの万魔殿の議員が数人、そして、完全に力量が未知数である雷帝。

 

 もし勢いよく飛びかかって負けでもしたら3人まとめて私刑だ。私はともかくヒナちゃんやセナを傷つけるわけにはいかない。

 

「…取り敢えず、風紀委員を呼ぼう。来てくれるかは分かんないけど……あれ、ヒナちゃん?」

 

「……あなた達、何をしているの?」

 

 先程まで確かに私の隣に居たヒナちゃんは、いつの間にか万魔殿の生徒達の前に立ち、鋭く尖った眼光を向けていた。

 その言葉にも確かな怒気が籠っている。

 

 …………そういう、真っ直ぐなところもほんと好きだよ、ヒナちゃん。

 

「セナはここから抜け出して、その後に風紀委員に連絡して。…念の為、万魔殿の生徒とかじゃなくて不良が暴れてるとか言っといてね……。私はヒナちゃん連れて戻ってくるから…」

「ですが………はい、わかりました……」

 

 セナが行くのを確認して私は、身を隠していた曲がり角から姿を出して、ヒナちゃんの隣に立った。

 

「おや、羽虫が3匹ほど近づいてきたと思ったら、1匹は優等生ちゃんともう1匹はよく口の回る小娘だったか。…もう1匹は逃げたな。賢明な判断だ」

 

 雷帝は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

 しかし、彼女の視線はこちらを捉えることはなく、依然としてマコトに向いたままである。

 

「…何をしているのかを聞いてる。答えて」

 

 ヒナちゃんはもう一度目の前の彼女達に問うた。

 語気にはさらに怒りが籠る。

 

「何って…見れば分かるだろう?実験だよ」

「実験…?」

 

「私は発明が趣味でね。色々作っているんだよ。…だから、こうやってよく任意で実験に協力してもらっているんだよ」

「どう見ても任意には見えないのだが?」

 

 私が口を挟んでも、まるでこれが日常と言わんばかりにケラケラと笑む雷帝に私もそろそろ本格的に腹が立ってきた。

 

「それは君たちに関係ないことだ。…そんなことより見てくれ、私の発明を!キヴォトスの民の弱点である身体の内部への攻撃が可能なグローブだ。今は出力を抑えているが最大出力ならヘイローを壊すことも可能だ‼︎……ちょっと待っていろ。今、最高火力を見せてやる」

 

 好いた男のことを話すように嬉々として右手についていたグローブの事を語った彼女は、次にグローブのメーターのようなものを弄った。

 

 そして、マコトに狙いを定めて大きく振りかぶった。

 

 マコトの灰色の双眸が恐怖に染まる。

 

 私は地を蹴った。

 

 刹那の間にマコトとの距離を詰め、そのまま彼女を勢いよく押し倒した。

 疾駆した私の突撃は彼女を羽交締めにしていた生徒達もまとめて吹き飛ばす。

 

「やめなさいっ!」

 

 私の背後にはヒナちゃんが居た。

 

 彼女も今の一瞬で雷帝とマコトの間に入ったらしい。

 

 見なくても分かる。ヒナちゃんは今、激怒している。

 怒りの矛先は私に向いていないのに、私は心臓が凍りそうなほどの恐ろしいさを感じてしまう。

 

「こらこら、実験を邪魔しないでくれるか?……それとも、まさか君たちが実験に協力してくれるのか……なっ⁉︎」

 

 雷帝は再びグローブのついた右手を振りかぶり、ヒナちゃんに向かって俊速の拳を突き出す。

 

「ヒナちゃん‼︎」

 

 私はもう一度地を蹴る。

 

 しかし、僅かに動くのが遅かった。

 だめだ!これじゃ間に合わない⁉︎

 

「触るな」

 

 一瞬だった。

 

 私の一瞬の内に抱いた焦燥や絶望や後悔は、次の一瞬には解けて無くなっていった。

 

 ヒナちゃんに突き出された雷帝の拳は彼女に直撃する前に、彼女の両手に横から掴まれた。

 そして、ヒナちゃんは体格差など存在しないと言わんばかりに雷帝を見事な一本背負いで地面に叩きつけた。

 

 投げられた雷帝を中心にコンクリートの路地にヒビが入る。

 

 普通の人間がこの勢いで地面にぶつかったら確実にタダでは済まされない。

 しかし、雷帝は紛れもないキヴォトス人で、そして、それ以前に、かの雷帝がこの程度で終わるはずがなかった。

 

 雷帝は轟く雷鳴のような速さで上体を起こし、左手で胸ポケットに隠していたハンドガンを取り出し……銃口をヒナちゃんではなく私に向ける。

 

 私も、目の前の痴れ者に太刀の切先を向けた。

 

 私が一度、息を吸って、吐いてから、ようやく私やヒナちゃんを囲む万魔殿の生徒達は焦りながら各々のアサルトライフルの銃口を私に向ける。

 

 あぁ、そんなもんなんだ……。このゲヘナの治安組織の一角だからそれなりに警戒していたのだけれど…。

 

 私の胸の中で安堵と失望がないまぜになる。

 

「…ただの一年だと思っていたが……なかなか君は珍妙な武器を持っているんだね?」

「あなたこそ…雷帝なんて大層な名の割に普通のピストル使ってるんですね?」

 

 雷帝は、目の前数センチ先に人を弑するための刃があるというのにニタニタと余裕そうな笑みを浮かべていた。

 私も同じように、可笑しそうに笑う。ここで少しでも彼女を恐れてみろ。一瞬で彼女に呑まれてしまう。

 

「私がただのハンドガンを持っていると思っているのかい?」

「どんな銃でも私を倒したいなら1マガジン撃ち切らないと無理ですよ。…そして、私はその間に10回は貴女を刻める」

 

 ビルとビルの間から細く差し込む光に刃が鈍く輝く。

 よく研がれたその太刀のように私の精神は極大の集中力を以て研ぎ澄まされていく。

 

 2人の体が(いわお)のように静止したまま、永遠にも思える時間が過ぎ去り、そして、限界まで張り詰めた空気が弾けた。

 

 動いたのは、雷帝だった。

 

「ククッ、ハハ、ハハハハハハハハハ!!」

 

 雷帝は突然、風船が割れたように大きく口を開けて笑い始めた。

 

「っ⁉︎何がおかしい?」

「いや、すまない!だが、今年はあまりに豊作だと思ってね!……うん、君の勇気に免じて今回は私の負けということにしておこう。………お前ら!撤退だ‼︎」

 

 雷帝は目の前に突き出される太刀を避けながら直立した。

 

 そして、雷帝の掛け声に、私達を囲んでいた他の議員達は気持ちの悪いほどに無言のまま雷帝の後ろに綺麗に並んだ。

 

「48番は君達にあげよう。勝者にはそれなりの見返りがあるべきだからね。……では、また会おう」

 

 雷帝はバサリと背中のマントを翻しながら去っていった。

 

 彼女が完全に姿を見せなくなって、ようやく私は肩に乗っていた重りが降りた気がした。

 

 もう二度と会いたくないよ、と短くため息を吐きながら私はヒナちゃんやマコトの方を向いた。

 

「2人とも、大丈夫…って、少なくとも1人は大丈夫じゃないか…」

「いや、私は大丈夫だ。普段はもっと酷いからな……」

「私もなんともないわ。セツナこそ本当になんともないの?」

 

「あぁ、私は見ての通り無傷だよ。いや〜、みんな無事で良かった。ほら、ヒナちゃん、ハイタッチ!」

「え?…ええ、こう、かしら?」

 

 私が両手をヒナちゃんの前に出すと、彼女はおずおずと自身の両手を私のに合わせた。

 

 音はならない。

 でも、彼女と喜びを共有できたことが嬉しかった。

 

「……仲良くしているところ悪いんだが…君達は何者なんだ?……助けてもらった手前言い出しづらいが…雷帝に楯突くのがどういう意味か分かっているのか?」

 

 今の一瞬まで紛れもない死地に立っていたのにこんな能天気にしている私達が不思議で仕方ない、と言わんばかりの顔でマコトが横から話しかけてきた。

 

 流石、キヴォトス人と言うべきか、殴打され腫れていた頬はもう赤みが引いていた。とんでもない回復力だ。

 

「あ、やっぱりマズいんだ。ちなみに雷帝って強いんですか?」

「強いとかのレベルじゃない。前、反雷帝の先輩が10人がかりで雷帝を襲ったが一瞬で返り討ちにあったらしい」

 

 マコトは恐ろしげにそう話す。

 

 対して、私はその話を聞かされて恐ろしいどころか、前世では一向に見えなかった強者とまた出会えて嬉しいと思っているのだが。

 

「強くても恐ろしくても関係ない。そこに、困っている人がいるなら助けるのが人として当たり前だから」

 

 隣のヒナちゃんは、なんの迷いもなく、ただひたすらに真っ直ぐな声でそう言い放った。

 

 ……やっぱり、ヒナちゃんは強い。

 

 流石、私の最推しだよ。

 

「…まぁ、そういうことなので…。それに私もヒナちゃんも強いですよ〜。もしかしたら、雷帝なんて目じゃないかも」

 

 私はヒナちゃんに乗っかるように、少しおちゃらけて、笑った。

 

「……すまない、私はどうやら君達を侮っていたようだ。兎に角、ありがとう。助かったよ。…………って、そこの君はなんでそんなに驚いているんだ?まさか、どこか悪いのか?大丈夫か?」

 

「あっ…いや、なんでもないです」

 

 マコトが、本編ではヒナちゃんのことを目の敵にしていた、あのマコトが、ヒナちゃんと私に頭を下げてお礼を言った。

 

 無論、この時点では、2人は初対面なのだから、当たり前なのだが、実際にそんな光景を目の当たりにしたら、気づけば私の口はあんぐりと開きっぱなしになっていた。

 

「そ、そういえば!私達これからカフェに行くんです!良かったらご一緒にどうですか?」

 

 私のせいでなんとも言えなくなったこの空気を打ち破るように、私は声を張り上げた。

 

「いや、それは…流石に申し訳ないし、私達まだ互いの名前も知らないじゃないか…」

「あ、そういえばそうですね!私は巫セツナ、そして彼女が空崎ヒナちゃん。あと、今助けを呼びに行ってる氷室セナって子もいます!あなたは?」

 

「……羽沼マコトだ。あと同じ一年だから敬語じゃなくていい」

「うん!よし、これでお互いの名前分かったね。もう、一緒に行けるね。…それに、別に申し訳がる必要ないよ。ね、ヒナちゃん?」

「ええ。むしろ、来てくれると嬉しいわ」

 

「…そうか。じゃあ、ご一緒願おう」

 

 マコトとヒナちゃんが一緒にお茶なんて、本編では考えられない光景だ。

 

 だが、今はそれが目の前にあって、お互いがお互いに嫌悪感どころか好感すら抱いている。

 

 おそらく、私がヒナちゃんをお茶に誘ったから未来が変わった。

 こんなにも簡単に未来とは変わるものなのだ。

 

 ……もしかしたら、可能なのかもしれない。犬猿の仲だったヒナちゃんとマコトが手を取り合い、本編よりも少し平和になった優しいゲヘナ、私が望む理想の学園を創ることが。

 

 幾つもの創作物がそうであったように、運命や未来は収束するのかもしれない。結局、どこかで2人は仲違いしてしまうのかもしれない。

 

 でも、それは私の理想、ひいては彼女らの仲を諦める理由にはならない。

 

 ……やるだけやってみようか。

 

 理想のゲヘナを夢見て、私は胸の内でそう思ったのだった。

 




ちなみに、セツナは普段は普通に快活そうに話しますが、戦闘時など、緊張したり警戒したりする場面では、少しエセ紳士のような口調になります。
マインドセットが出来る女の子って、かっこいいよね?
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