銃が撃てないので拳で抵抗するキヴォトス生活 作:×⚪︎舐め鯛
「助けを呼んできましたっ‼︎…あれ?」
雷帝に実験と称され拳を浴びせられていたマコトを助けて、私とヒナちゃんはマコトと少し仲良くなった。
そして、彼女をお茶に誘って、少し、そろそろセナを探してカフェに行こうかと言い合っていた頃、セナが血相を変えてここまで走ってきた。
そして、私達3人しかいない状態に呆気に取られる。
「あの方達はどちらに?」
「うん、撃退したよ。ね、ヒナちゃん?」
「ええ」
「それは……そうですか…」
え、なんかちょっと引かれたんだけど。ショックだな。
「まぁ、無事で良かったです。そちらの方はした…負傷者ですね。手当します」
「いや、そこまでしてもらわなくても」
「怪我人が気を遣わないでください」
「…ああ、すまない」
セナはマコトの元に近寄ると、カバンの中から医療道具を取り出して、速やかに応急手当てを始めた。
鮮やかな手つきだな。流石2年後はチナツとのほぼツーマンプレイでゲヘナの医療を担っているだけある。
私はセナの治療に感心を覚えた。私が怪我をした時は、是非彼女に見てもらいたい。
「話を聞く限り、もう問題は解決したってことでいいの?」
空間に染み渡るようなハスキーボイスが響いた。
セナの後ろについていた生徒だ。黒と白のツーカラーの髪に風紀と書かれたワッペンを身につけた少女だ。
「カヨコ……」
手当を受けていたマコトが彼女の名前を呼んだ。
鬼方カヨコ。ゲームでは便利屋68の課長を勤めており、高い湿度と脳みそが揺さぶられるような声が特徴のキャラクターだった。
また、同時に過去に色々な因縁がありそうな生徒としても有名だった。
だが、それにしても前世の考察の通り昔は風紀委員をしていたとは…考察班ってすごいんだな。
「マコト…。あなたがいるってことは、またあれ?」
「ああ、あれだ。それを彼女達に助けてもらった」
「この子達が本当に撃退したの?」
「ああ、私も信じられないよ」
カヨコは私とヒナちゃん、そしてマコトをそれぞれ見て、しばらく黙ってから、やがて肩の力を抜くように息を吐いた。
「あなた達、すごいね。……でも、気をつけておいて。あの人がやられっぱなしで終わるわけないから。…私の連絡先を教えておくから彼女にちょっかいかけられたらすぐに電話して」
そして、ほのかに微笑みながらスマホを取り出した。
私達はカヨコの言葉の通りに連絡先を交換した。
「じゃあ、もう大丈夫なら行くけど、いい?」
「はい、大丈夫です。カヨコ…先輩?」
「そ。じゃあ、またね。…あと、私も一年だから先輩はいらないから」
それだけを言い残して、カヨコは去っていった。
その様は、次の敵を求める幽鬼のようでもあったし、影のようでもあった。
ヒナちゃんのように純粋なフィジカルモンスターではないが、多分彼女も相当に強いだろうな。
次々に出てくる強き者共に私の胸は高まりっぱなしである。
「……手当が終わりました。所々打撲はありますが、特別酷い怪我はなくて安心しました」
「すまない。ありがとう」
一心に応急手当てをしていたセナの手が止まり、ムッと一文字に結ばれていた口が開き終わりを告げた。
マコトは頬に湿布が貼り付けられている以外、特に変わったところはなかったが、さっきよりも幾分か元気そうだ。
「よし、これでようやく全部終わったかな?…じゃあ、みんな無事だったことをお祝いして、カフェ、行こっか!」
「ええ」「はい」「分かった」
三者三様の答えが返ってきた。
「じゃあ、出発‼︎あ、セナ、彼女がマコトね。これも縁だから一緒にカフェ行くことにした。…で、マコト、彼女がセナ」
「はい。よろしくお願いします、マコト」
「ああ、よろしく。セナ。改めて手当、感謝する」
「いえ、した…負傷者がいたら手当をするのは当然なので」
「そうか。それでも、助かったよ」
3人でカフェに向かっていた時と同様に、4人で歩きながら話していれば、すぐにくだんのカフェに着いた。
席に着いて各々がスイーツとドリンクを頼んでしばらくすると注文した商品が出てきた。
色とりどりのケーキにそれぞれが舌鼓を打ち、そして、私達は再び話し始めた。
「えぇと…マコト、嫌じゃなかったら雷帝のことについて教えて欲しいんだけど…力になりたいんだ」
「私からもお願いするわ」
「では私も」
私達3人に迫られて、マコトは少したじろぐ。
「え……あ、ああ。分かった…が、私が教えられることなんてあまりないぞ。……そうだな…雷帝は去年、突然万魔殿の議長になったんだ。それまでは完全に無名だった。でも、そこからは恐怖政治の始まりだ。
最初は色々な部活や名のある生徒から反発もあったのだが、雷帝はその尽くを彼女の発明品の力でねじ伏せた。…叛逆者が居なくなって暇になったんだろう。
去年の夏から彼女は私や他の生徒を被験体として発明のテストを受けさせられた。その時には誰も雷帝に逆らえなくなって、被験体達はいくら辛くても従うしかなかった」
そう語るマコトの手は小さく震え、灰色の目には恐怖とやりきれない怒りがないまぜになっていた。
「それは……辛かったね…」
マコトの言葉を聞いて、私は彼女を気遣う気持ちと、雷帝に怒りが沸々と湧いてきた。
そりゃ、マコトはヒナちゃんが絡むとヒールみたいな扱いされていたけど、それ以外はマトモで優しい子なのだ。
それを、そんなモルモットみたいに扱っているなんて……許せないよ。
私以外も、口には出していなくても相当に怒りを募らせているようだ。
隣に座っているヒナちゃんなんて、とんでもない怒気がメラメラと燃え盛る炎のように外に漏れ出ている。
近くのお客さん、慌てて食べて帰っちゃったよ。
すると、マコトはニヒルに、そして自嘲気味にフッと笑って続けた。
「だが、それももうすぐ終わる。……もう気づいているだろうが、私…そして、さっきの風紀委員、カヨコは留年して今年も1年だ。別に学力や出席日数が足りなかったわけではなく……謀叛を起こすためだ。2年や3年は雷帝に心酔や恐怖しきって、雷帝に抗おうとしている者はわずかだ。だから、私達は1年が彼女の支配から守るため、そして、雷帝に刃向かう猛き精神を持った生徒達を仲間にするためにわざと留年したんだ」
口角を持ち上げるだけだったマコトの笑みは、気づけば、猫の喉元を噛みちぎらんと虎視眈々とその機会を伺う鼠のそれになり、彼女の尖った八重歯がよく見えた。
「謀叛って……可能なの?」
「可能かどうかは分からない。実際、雷帝の強さは異次元だ。おそらく、勝率は限りなく低いだろう。……だが、無理だとしてもここで反乱しなかったら、ここゲヘナは正真正銘……雷帝の所有物になる」
「?……ですが、雷帝は今、3年生ですよね?なら、あと一年待てば平和にこの学校を救えるのでは?」
マコトの話にセナが首を傾げた。
そして、セナの疑問にマコトは力無く首を振った。
「そうもいかないんだ。…ゲヘナの政治の全てを握っているのが雷帝だ。そして、彼女は今、ゲヘナのOBの1人をゲヘナ経営顧問に任命するという法案を出そうとしている」
「経営顧問……?」
「ああ。曰く、その顧問にはゲヘナの全ての権限が無条件で譲渡さ
れる。そして、雷帝は卒業後はそれになるつもりだ。つまり…」
「ゲヘナは雷帝の意のまま……」
ヒナちゃんの言葉にマコトは頷いた。
「そういうことだ。だから、この法案が制定される前……5月の
「それって……あと1ヶ月もないじゃん⁉︎」
「ああ。………正直、戦力は全く持って揃っていない。…そこで……これを言うのは忍びないのだが…君達が良ければ、私達の仲間になってくれないか」
マコトは申し訳なさそうに頭を下げた。そして、どこか縋るように懇願した。
「私が言うのもなんだが、雷帝に逆らうなんて、正直蛮勇だ。もちろん、断ってくれても構わ……」
「ねぇ、マコト、何を言ってるの?」
「っ!そ、そうだよな。やっぱり無理だよな…」
彼女の顔には苦々しさと諦めが張り付いていた。きっと、これまでも何度も勧誘して、失敗に終わってきたのだろう。
「いやいや……だから、私達もうとっくに入るつもりだったのになんで今更勧誘なんてしてるのって話だよ」
「……え?」
「ねぇ、ヒナちゃん、セナ?」
「ええ。あの人のことは許せないし、そもそも学園は1人のものじゃなくてみんなのものよ」
「はい。私は戦闘はできませんが、手当なら得意です。なので、少しは力になれるかと…」
「本当に!本当にいいのか⁉︎あの雷帝だぞ⁉︎」
「うん。マコトの話を聞いて雷帝がどれだけ恐ろしいか少し分かった。けど、それ以上にやっぱり許せないよ。……それに、私達がいれば勝率だいぶ上がるよ〜?」
「……私は、まだ君達を侮っていたようだ。…本当にありがとう、ヒナ、セナ、そして、セツナ」
出会ってから今の今まで、常にどこか翳りを帯びた顔をしていたマコトが、ようやく笑った。どこか無理に吊り上げていた目尻が下がり、張り詰めていた緊張が溶けたようだ。
私達も自然と顔を綻ばせていた。
そこから先は、皆が闘いや争いなんて知らない、普通の少女のような、他愛もない世間話をして、スイーツを楽しんだ。
前世では、私は自身の才能に翻弄されてマトモな青春なんて送れなかった。
だから、その時間が、私の初めての青春で、彼女達が初めての友達だ。
この青春が、奪われないように。そして、私の友達が傷つくことがないように。
私は、例えどんなモノが相手になろうと、戦い、そして勝ってやる。
そう、胸に誓ったのだった。
◆
「入学初日だってのに今日はいろんなことがあったね〜」
「ええ、そうね。…目まぐるしかったわ」
カフェでのお茶を終えて、私達は時間も時間ということで解散した。
そして、家の方向が同じだったため私とヒナちゃんは一緒に帰っているのだが……大丈夫だよね?私、ちゃんとお話できてるよね?早口になったりしてないよね?
私は内心、心臓バックバクで、彼女に話しかける。
この1日で大分慣れたものの、依然として緊張するのだ。
「でも、今日は楽しかったわ。全部、私をお茶に誘ってくれたセツナのおかげよ。…ありがとう」
ヒナちゃんは、今日に満足した様子で、ニコリと可愛らしく笑った。
夕暮れに映るその笑顔は、これが私とヒナちゃんのメモリアルロビーかと思うほどに綺麗だった。
「私はヒナちゃんのお友達になりたい思っただけだよ。あの2人もそう思ってる」
「そう?…なら、嬉しいわ。……嬉しいから、この時間がずっと続いて欲しい。そして、ゲヘナのみんなにもこんな時間を過ごして欲しいわ」
ヒナちゃんは一呼吸おいて再度口を開いた。
「だから、私はみんなの青春を護りたい。大変かもしれないけど…頑張りたいの」
ヒナちゃん、君って子はどこまで優しいんだ…?
私も、ヒナちゃん達と過ごす時間が永遠に続いて欲しかった。だから、私は3人を何があっても護る、そう思ったのだ。
でも、ヒナちゃんはそれだけじゃなくてゲヘナの生徒、全員のことを思っている。
それが、その小さな背中にどれだけの重さとして彼女に乗るかを分かっていながら。
「そう。…じゃあ、ヒナちゃん、私と一緒に風紀委員に入らない?」
「風紀委員…?」
「うん。みんなの青春を護るため。このゲヘナに秩序をもたらすため。一緒に頑張ってみない?」
「っ!ええ、入るわ‼︎」
ヒナちゃんは瞳をキラキラと輝かせ、羽をパタパタとはためかせながら肯定の意を示した。
と、尊い!!!!
そして、私は無事死亡した。
◆
「未来が変わったな……」
明るくて、暗い。寒くて、暑い。狭くて、広い。
その空間に独りぼっちのソレは呼吸と共にそんな言葉を吐き出した。
ソレは笑っていた。そして、憤っていた。
人の身だというのに面白い奴だな。
たかが人間風情が何を出来るというのだ。
「来訪者か。まぁ、どれだけやれるか楽しませてもらおう」
ソレはどこにもいない。だが、どこにでもいる。そして、見ている。少女らの青春、そして、破壊の物語を。
2ヶ月ほど失踪してしまい誠に申し訳ございませんでした!!!
少し、リアルの方で忙しくて小説の投稿が遅れてしまいました。
暫くこの忙しなさが続くので再び投稿できるのがいつになるのか分かりませんが、私の稚拙な文章を読んでくださる皆様に精一杯の誠意を見せたいので末長く見守っていただけると恐悦至極でございます。