銃が撃てないので拳で抵抗するキヴォトス生活   作:×⚪︎舐め鯛

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初の本格的な戦闘描写です。
分かりにくい部分が多分に含まれているかもしれませんが、ノリでお読みください。


武道少女、風紀委員に入る

 激動の入学式から1日後、私とヒナちゃんは、放課後にある教室に訪れていた。

 

 ピリピリと張り詰めた空気が漂う、そこにいるだけで自然と背筋が伸びてしまうような場所だ。

 

 その教室の名前は、風紀委員室。

 

 万魔殿と同じく、ゲヘナの治安維持組織の一角を担っているゲヘナ風紀委員の本部。混沌と自由がモットーのゲヘナでの唯一の良心である。

 

「で、君達が風紀委員に入りたいっていう……?」

「はい、一年の巫セツナです」

「空崎ヒナです」

 

 放課後、風紀委員の腕章をかけている人に風紀委員に入会したいという意を伝えたら、この教室の前に連れてこられた。そして、少し待っていると教室に入ってこいと言われ、風紀委員長の机の前に通された。

 悪魔と言うのに相応しい大きな角を持った、風紀委員長の胡乱げな視線が注がれる。

 

「わざわざ、こんなキツイ仕事を?入学からまだ1日だよね?」

 

 その口ぶりからは、こいつら正気か?みたいな感情が込められていた。

 胡乱気な黄金色の瞳には私達は随分な好き者として写っているようだった。

 

「はい、でもやりたいんです」

 

 私よりも先にヒナちゃんが迷いのない声音で目の前の委員長に言った。

 私はヒナちゃんから風紀委員長へと視線を移して、肯定を示すように深く頷いた。

 

「あ、そう。…君達みたいに風紀を志す子が沢山いれば、私達も楽になれるんだけどね…。分かった。じゃあ、これからよろし……」

 

 ジリリリリリリ!!

 委員長が朗らかに笑って、私達を歓迎しようとした瞬間、彼女のデスクに鎮座していた黒電話が大きな音をたてて鳴り出した。

 

 あれ、演出のためのハリボテじゃなかったんだ。

 

「……ちょっと失礼するね」

 

 彼女は私達に断りを入れてから黒電話の受話器を手に取った。

 

「はい、こちら風紀委員……っ⁉︎は、はい‼︎」

 

 委員長はビクッと身体を震わせると、蛇に睨まれた蛙のように怯えた様子で言葉を返した。

 恐怖の象徴のような存在である風紀委員長が恐れる電話の相手とは一体誰なのだろうか。

 

「えっ?風紀委員にですか⁉︎……い、嫌だなぁ。うちに貴女様にそんな失礼をしでかす2人なんて。…2人なんて…っ⁉︎」

 

 委員長は私達の方を二度三度見て絶句する。

 

「……どうします…?今なら全部無かった話にできます。というかうちで指導しときますよ。……え?よろしい?…ああ、はい。わかりました。…失礼します」

 

 委員長は電話越しだと言うのに最後にペコリとお辞儀をすると受話器を黒電話に戻した。

 そして、私達の方に視線を向けて、なんとも気まずそうな顔をした。

 

「……失礼したね。…えぇと…なんの話だったか……。あ、そうだ。これからよろしく。……じゃあ早速で悪いが君達は10番隊に所属してくれるかい?」

 

 委員長の言葉を聞いて、ざわ、ざわ、とこの部屋でデスクワークをしていた風紀委員達が小声で何かを言い合った。

 

「あの10番隊…?」

「うそ…あの子達何したの…」

「あれ…あっちのちっちゃい子、昨日入学者挨拶で…」

「あ〜…だから……」

 

 忌避、困惑、同情。

 

 彼女らの感情は渦のように私たちを中心に回っていた。

 

「じゃあ、10番隊の教室は旧校舎にあるから。そっちの方に向かって。…おい、連れて行ってやれ」

「は、はい!………こ、こっちだ」

 

 委員長の声に1人の風紀委員がビクッと反応し、付いてこいと私達を手招きした。

 

 私達が彼女の案内についていっている間、彼女は不自然なほどに無言であった。そして、なぜかチラチラと私達を見てくる。

 ちゃんとついてきているかを確認しているのなら分かるが、その瞳の色は何かを値踏みしようとしているようだった。

 

 広大なゲヘナの敷地をテクテクと歩いて行き、そして、レンガでできている一際古びた建物に着いた。

 どうやらここが旧校舎らしい。

 

「ここを入って、右に曲がってすぐの教室だ。後は10番隊の人間に聞け」

「あぁ…はい……」

 

 ここまで来たのだからどうせなら最後まで案内してくれればいいのに。

 

 しかし、どうしてか私達を連れてきてくれた彼女からは恐怖の色が見えた。この中に入りたくない理由でもあるのだろうか?

 

「じゃ、じゃあ…私は任務があるから……」

 

 彼女はそれだけを言い残して足早に去って行った。

 残された私とヒナちゃんは互いに顔を見合わせて……いや、美人すぎん?

 

「…私の顔に何かついてるの、セツナ?」

「っ!い、いや、なんでもない‼︎」

「そう?…じゃあ、行きましょ?」

 

 私達は旧校舎に足を踏み入れた。

 

 外面もかなり古びていたが、内面はさらに古い。空間が全体的に埃っぽく、蜘蛛の古巣が壁面にこびりついている。床が抜けたり窓が割れたりしている場所もある。

 

 本当にこんなところに風紀委員の教室があるのだろうか?

 

 ヒナちゃんも同じようなことを思っているようで、その顔には少しの戸惑いが浮かんでいた。

 

 しかし、そのまま入り口付近で突っ立ってるわけにもいかないので、私達はあの子が言っていた教室まで行き、ガラガラと件の教室の扉を開けた。

 

「失礼します。…って、あ」

「ごめん、今ちょっと忙し……あ」

「セツナ、どうしたの?いきなり止まって…あ」

 

 教室には1人の生徒が居た。

 

 そして、私は彼女の姿を見て足を止めた。彼女も私の姿を見て動きを止めた。先に教室に入ろうとして立ち止まっている私を不思議思ったヒナちゃんは身を乗り出して部屋の中を見て、彼女も声をあげて停止した。

 

 私達の目の前にいたのは、白と黒のツーカラーの髪に、長時間聴いていると耳が溶けそうな美声。

 その少女の名は鬼方カヨコ。昨日、あの細い路地で出会った風紀委員であった。

 

「あなた達…何か私に用?雷帝絡み?」

 

 先に言葉を発したのはカヨコだった。

 私達に声をかけながらも忙しそうに拳銃に弾を込めていた。

 

「いえ、用ってわけじゃなくて…」

「じゃあ、なんでこんなとこに…?」

「私達も風紀委員に入ったんです」

「え…?」

 

 ヒナちゃんのハッキリとした声音に、カヨコは双眸を大きく開いた。

 

「それでこの隊に配属されまして…えっと、カヨコさんもこの隊だったんですか?」

 

 カヨコは私達の話を聞いていくうちに段々と眉間に皺が寄って行き、そして、やがてそれを解きほぐすように顔に手を当てて天を仰いだ。

 

「えっと……私達、何かしました?」

「……いえ、あなた達は別に悪くないの。…絶望的に運が悪かっただけ……」

「え…それってどういうー」

 

 @¥@(&)@¥@“”-&&:&)-!!!!

 

 私が問おうとした瞬間、突然カヨコのポケットからとんでもなく大きな音が鳴り響いた。

 それがかろうじて旋律のようなものを成していたため、私はカヨコが好きなヘビメタの曲だと分かった。

 

「……ごめん」

 

 どうやら着メロだったようで、カヨコは一言謝ってポケットからスマホを出して耳に押し付けた。

 

「こちら風紀委員10番隊。ねぇ、なんでこの子達をここに入れたの?この隊がどんな場所か知って…………そうだけど…でも……………ちゃんと使えって………あ、ちょっと…!」

 

 一方的に電話を切られたカヨコは怒りのこもった眼差しで携帯を見つめて、そして、大きな溜息を零した。

 

「はぁぁ……あなた達、風紀委員、特にこの隊はとんでもなくキツい仕事なの。抜けるなら今のうちよ?」

「絶対にやります」「横に同じく。やらせてください」

 

 ヒナちゃんはカヨコの問いに間髪入れず、私はヒナちゃんに続いて答えた。

 私達の答えを聞いて、カヨコは私達を穴が開くほどじっと見つめた。

 

「…………そう。…じゃあ、早速仕事だから、準備して。武器は持ってるんでしょ?弾丸をあそこから山程取り出して。あと、このワッペンをつけて。…40秒で支度して」

 

『はい‼︎』

 

 カヨコは諦観の籠った微笑で私達に指示しながら、2枚の布を投げ渡した。赤と黒色の輪っか状の布に白色で風紀と大きく描かれている。

 

 風紀委員会のワッペン。それは、私達が仲間として認められたことを何よりもよく表していた。

 

 こうして私達の初仕事が始まった。

 

   ◆

 

「まずは北ゲヘナで暴れてるスケバンの鎮圧から」

 

 あの後、すぐに準備を終わらせた私達は暴動が起こっているという場所まで向かっていた。

 

 一応できる限り急行しているつもりだが、乗っているものがかなり古いスクーターであるため中々スピードがでない。

 

 さらに、スクーターは2台しかなく、ヒナちゃんはカヨコの後ろで二人乗りしている。

 

 ………そりゃあ、私は免許は持ってたけどペーパードライバーだし、カヨコの方が慣れてるからヒナちゃんがカヨコと相乗りするのは仕方ないことなんだけど……ちょっと妬けるよね。

 

「…そういえば、まだ自己紹介してなかったね。私は鬼方カヨコ。一応この隊の隊長。……ダブってあなた達と同じ一年だから敬語とかいらないから」

 

 風を切る音と共にカヨコの揺れる低音が耳朶を打った。

 

「一年の巫セツナ!これからよろしく」

「同じく一年の空崎ヒナ。よろしく」

 

 軽く挨拶を交わせばようやく少し仲間になったという実感が湧いてきた。

 

 スクーターを走らせているうちにしっかりと舗装されている道路が段々とガタガタとした悪路に変化してきた。

 

 当然、おんぼろスクーターではかなり揺れる。

 

 ……だから不可抗力なんだろうけど……。

 

「きゃっ」

「…大丈夫?ちゃんと掴まってて」

「え、ええ…」

 

 カヨコの細いお腹に手を回してより身体を密着させるヒナちゃん。

 

 ……羨ましいぜ、チクショウ。

「…そろそろ、見えてきたよ。覚悟を決めといて」

 

 カヨコの言う通り目の前では高々と粉塵が巻き上がり、爆発音や発砲音が鳴り続けていた。

 

「覚悟はもう決まってるよ。ねぇ、ヒナちゃん?」

「ええ。もちろん」

 

 高校に入学して初めてのちゃんとした戦闘。

 

 昨日は雷帝にお預けを食らったし、さっきから嫉妬でフラストレーションが地味に溜まっているし……。

 

 ちゃんと私を満足させてくれるんだよね?

 

   ◆

 

 現場は混沌を極めていた。

 

 聞くに耐えない罵声と破裂音、そして僅かな悲鳴が両耳をつんざいて、心が削られているような気がした。

 

 どうやらスケバンのグループ同士が抗争をしているようだ。

 両陣営怒り心頭といった様子で、視界に入ったものは敵とみなして所かまわず攻撃しているようだ。

 

 一般人も争いに巻き込まれて、瓦礫に埋もれたり銃弾を避けるためにうずくまったりしていて、その様は正しく地獄絵図であった。

 

 そして、その凄惨たる景色は、キヴォトスに降り立って1年しか経っておらず、前世でも紛争地域などテレビでしか眺めたことがなかった私に、いいしれない嫌悪感と絶望感を与えるのに十分だった。

 

「疾ッ


‼︎」

 

 この戦いを終結させる。

 

 私はそれだけを胸に抱いて、疾駆した。

 

 背中にからっていた太刀の柄を右手でしかと握り、抜き放って上段に構えた。そして、目の前のスケバンに突貫していく。

 

「あ?なんっカハッ⁈」

 

 一番近い位置にいたスケバンが私の気配に気づきこちらを向いたが、もう遅かった。

 

 中国武術『縮地』

 

 体幹の移動で瞬きの間に距離を詰める。そして、そのままの勢いで上段に構えた太刀を振り下ろし、スケバンを袈裟懸けにした。無論、峰打ちであるが、彼女の意識を刈り取るには十分過ぎた。

 

 しかし、私は1人を地に沈めた程度では止まらない。

 

「風紀委員だぁぁぁぁ!!!」

 

 どこかの誰かが叫んだ。その瞬間、スケバン達の敵意が一斉に私に向けられた。

 

 肌がピリピリとする。

 それでも構わなかった。

 

 私は半ば強引な踏み込みで規則違反者の群れに近づいていった。

 数瞬後、銃弾の雨が横薙ぎに降り注いだ。

 

 両手に、全身に、力を込める。

 私は時には太刀で銃弾を切り落としながら、時には紙一重で避けながら、時には敢えて喰らいながら進撃を続けた。

 

 そして、私は彼女達の中心で足を止めた。

 銃撃も止まった。

 

 彼女らにも人の心はあるようで、同士討ちは避けたいようだ。

 私はそのボーナスタイムのような時間で6人をのした。

 

 掌底などの格闘技を交えた剣撃。

 

 よく言えば、ありとあらゆる武術の達人になれる私にしか使えない神の如き御業。悪く言えば糞餓鬼の喧嘩。

 

 スケバン達からすればまるで嵐が発生したようだろう。さっきまでゲヘナでは日常茶飯事のような争いに興じていたというのに、いつの間にか7人が地面を舐めているのだから。

 

「て、テメェ⁉︎」

 

 スケバンの1人が少し震えた声で怒鳴った。

 

 きっと今声を上げた者だけじゃない。私を囲む彼女らは全員、私という未知のものに恐れているはずだ。

 

 この空間を覆う恐怖がありありと感じられる。

 そして、恐怖に支配された彼女らが次にとる行動は簡単だ。

 やらなければやられるのだから、闘うしかない。

 

 スケバン達はまるで示し合わせていたかのように一斉に私に向けて発砲した。仲間が被弾することも厭わない。全員が半狂乱になっていた。

 

 予想通りの行動をした彼女らに、私はほんの少し呆れながらキヴォトス人の(ことわり)を外れた脚力で高く、高く跳んだ。

 

 急いで銃撃が上に向くが、もう遅い。

 

 私は既に彼女らの集団の中に着地し、それと同時に剣を振るった。

 

 横薙ぎの一閃。2人が太刀の峰に腹を引っ掛けられてそのまま吹っ飛んだ。吹っ飛んだ先に居た2人も巻き込んで、4人はもみくちゃになって倒れた。

 

 私は、太刀を握っていなかった左手で背中にぶら下げていた鞘を握った。

 

 朴の木(ほおのき)製で、漆を塗っている地味ながらも洗練されたもの。そして、百鬼夜行の職人に特殊な加工をしてもらっているため、銃弾を弾けるくらい硬い。

 

 私は全方位から迫る無数の弾丸を左手に収まる鞘で弾き落としていく。そして、余裕すら感じさせる緩慢とした足取りで別のスケバンに歩を進める。

 

「な、なんなんだよお前は⁉︎」

「ふざけんなぁ!後ろに目でも付いてんのか⁈」

「はは、ほんと何なんだろうねこれ。私こそ教えて欲しいものだよ」

 

 気配を探って四方の状態を理解する。

 

 そんな超感覚とも言えるような能力が私には生まれつき備わっていた。

 この力のせいでどれだけ気味悪がられたことか。

 

 現に今も、私は彼女達に恐れられている。

 

 まぁ、いい。こんなこと慣れっこだ。今はそれよりも『風紀』を執行しなければ。

 

 私は縮地を駆使して四方を駆け抜け、スケバン達を各個撃破していった。

 彼女らは勇猛果敢なことに最後の最後まで銃を撃ち続けたが、ついぞ私に傷をつけ、地に跪かせることはなかった。

 

 そして、最後の1人、否、最後の1人だと思っていた子の意識を刈り取った直後、空気を裂くような勇ましい声が私の鼓膜を震わせた。

 

 今まで隠れていたのか、私が見落としていたのか、10メートルほど離れた場所に、本当の最後の1人が絶叫しながらライフルを構えていた。

 

 あの無駄にゴテゴテとした大砲のようなフォルム。おそらくアンチマテリアルライフルだろう。

 

 この距離じゃ間に合わないな。

 

 だからと言って、ここで避けるのはあまりに彼女に失礼である。欠片に残った私の武人としての魂が、逃げを拒否した。

 

 だから、私は左手に握っていた鞘に太刀を素早く納刀して、腰に構えた。 

 

 その瞬間、ライフルが轟音を響かせ、火を噴いた。

 

 50口径の殺意が10メートルなんて存在しないと言わんばかりの超速で私に迫る。

 

 そして、私はそれすらも超える速度で刀を振るった。

 

 弾丸はまるで刃に吸い込まれるような軌道を描き、そして、両断され、それぞれが別の軌道で進んでいった。いずれにしろもう銃弾が飛ぶ方向に私は居ない。

 

 遅れて、ギンッという金属同士がぶつかり合う耳障りな音が辺りを包んだ。

 斬撃が音を置き去りにしていた。

 

 私はライフル弾を居合いで真っ二つにした後、音もなく対物ライフルを抱えていた少女の元に忍び寄った。

 

「………かひゅっ」

 

 そして、彼女がまだ事実を認識できていない内に、鳩尾を軽く拳で打ち抜いて意識を奪った。

 

 驚くほど静かになった戦場。周りに立っているものは居ない。

 

 高校に入って初めての戦闘。

 

 一対多の状況下。相手は本気のキヴォトス人。

 

 しかし、終わってみれば、なんてことはない。圧倒的なまでの私の勝利であった。

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