わたしの手には負えません(仮) 作:渡辺もも
「アナイクス先生。頼みます。この通りです。噂で聞きましたが、アナイクス先生に相談して、上手くいった人もいるみたいじゃないですか」
アナイクスに向かって、地面に頭をこすりつけるような独特の姿勢で懇願して来る青年はアポディオス──アーディである。
アーディはヒアンシーと同じで、昏光の庭の人間。さらにアナイクスの助手だ。本人曰く、ヒアンシーの仕事量がただでさえ多いのだから、手伝ってやる人が必要だとのこと。
そんなものが建前であることは、神悟の樹庭の誰もが……一人を除いて誰もが知ることだ。
「アーディ。いつも言ってますがアナクサゴラス先生と呼んでください」
「ヒアンシーがそう呼ぶようになったら僕もそう言います。それよりもどうか、この通り。たった一言の助言でも頂ければ」
真っ黒な髪は長くのばしていて、どこか女性のような顔立ち。ひとを寄せ付けない冷たい美貌に加えて、分厚い眼鏡が一層その印象を強めている。
けれどもいざ話せばフレンドリー。誰からも愛される人間だ。
蓮食学派がアナイクスにそいつを寄越せと言う程の薬草学の知識に加えて、赤陶学派が彼が暇つぶしに奏でる竪琴を聞いては発狂するほどの才能。
あらゆる面で秀でた優秀な助手であると、アナイクスも認めている。
ただ一点、あることに関してだけは死ぬほどポンコツなことに目を瞑るのならば。
「ヒアンシーのことなら何度も話したと思いますが。アーディ。あなたが特に改めることもなければ、私から助言をする必要もありません」
「うぅ……そういうけど。そう言いますけどぉ!!」
わんわんと声を上げて泣き始めたアーディに、アナイクスはため息をついて見せて、それでも収まる様子を見せなかったのでとうとう舌打ちをした。
「……ヒアンシーは、あなたに対して十分なほどに好意を見せていると思いますが」
「……なんだかんだちゃんと話聞いてくれるところ、ほんと大好きです」
「…………はぁ」
アーディに、誇張抜きに百回はヒアンシーについての相談をされた。そろそろアナイクスも鬱陶しさを感じ……いや、それは前から感じていたので、いい加減に解決しようという気になってきた。
まずは冷静に。
「……アーディ。まずはどうしてヒアンシーがあなたに好意を持っていないと思うのか。説明してみてください」
言われてアーディは、少し考えた様子を見せてから。
「まず、ヒアンシーって誰にでも優しいじゃないですか? 僕に対して親切なのも、遊びに誘ってくれるのも、散歩に行きましょうと言うのも、ドライフラワー作りましょうと言うのも、お弁当作ってくれるのも、まあ、みんなにやってるのかなって」
「……あなたの言う『みんな』の範囲は分りませんが、皆の弁当を作るのは不可能だと思いますが」
「それに、基本的に、みんな大好きって感じじゃないですか。あの人。志は立派ですけれど、ちょっと……例えば若い患者さんとか相手でも、距離近いし」
アーディの発言を否定して、言わば背理法的に恋愛を成就させようと思ったのだが、確かにそう言われればヒアンシー自体にも問題があるように感じられてきた。
即座にアナイクスはもっと単純な方法に切り替える。
「冷静に考えてみてください。皆大好きという雰囲気を出していたとして、直接口に出しているのはアーディ、あなたに対してだけではありませんか?」
「…………? ……………! たしかに!」
ヒアンシーは、「誰々とお話しするのが大好き」だと言うことはあっても、「誰々のこと大好きです」とは言わない。はずだ。
言っておいてアナイクスも頭の中で首を傾げた。
言っていてもおかしくないなと。
とはいえ、今はアーディが納得する答えを出すことが優先である。そもそも、ヒアンシーがアーディに好意を持っていることは間違いないのだから、納得も何もない。
「いっそのことヒアンシーに私から話しておきましょうか。アーディにこのような相談を受けたと」
「やめてくださいよ。迷惑がられたり、もし気持ち悪がられたりしたら一生立ち直れないですよ。普通男女交際と言うのは、こう、それっぽい雰囲気があってからじゃないですか。言うでしょう? 告白は最終確認だって。ワンチャン狙うものじゃあないんですよ」
言っていることは、まあ正しいのだろう。言っていること以外のすべてが間違っているのだと言ってやりたいのだが。
「あ。約束ですよ。アナイ──アナクサゴラス先生。ヒアンシーには言わないでくださいね」
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「アナイクス先生。資料はここに置いておきますね」
「アナクサゴラスと呼んでください」
数時間後。持ってきてもらった資料を手に取るアナイクスに、ヒアンシーはじっと視線を向けたままだった。
「あの……アナイクス先生。相談しても良いですか……? アーたんのことなんですけど」
「……以前も話しましたが、私から話すことは特にありません。既にアーディは十分な好意をあなたに向けていると思いますが」
アナイクスは、努めて穏やかな口調で、当たり前のことを語るように話した。これで少しでもアナイクスが本心で話していると思ってくれると助かる。
細かな気配りと言うよりかは、最早他にやりようがないのだ。
「ですけど……アーたんは、皆に対して優しいですし。割とみんな大好きっていう感じですよね」
「一応聞いておきますが。二人して示し合わせて、私を揶揄っているのですか?」
「? えっと?」
「…………出来ればそうであってほしかったのですが……いいでしょう。以前アーディがあなたに曲を贈ったと聞きましたが」
「はい! 竪琴の演奏を聞かせてくれて! でも、アーたんはわたし以外にも……アナイクス先生にも贈ってますよね」
「……あぁ」
そういえば以前、真夜中に突然部屋を訪ねて来た。部屋に上げはしなかったのだが、部屋の前でアナイクス先生大好きの歌と言う名状しがたい不穏な旋律を奏でて消えていった。
「アーたんは仲良くなった人全員に、大好きの歌を贈ってますから」
言いたいことは山ほどあるが、山ほど言い尽くした後でもある。
何とか解決する方法を、そろそろ見つけなくてはならない。
「いっそのことアーディに私から話しておきましょうか。ヒアンシーにこのような相談を受けたと」
「だ、駄目ですよ! そんなの、迷惑がられたり、もし気持ち悪いと思われたりしたら……」
「気持ち悪がられることは無いと思いますが」
「そうかもしれません……でも……怖いんです」
ヒアンシーにしては珍しい反応に、アナイクスも少しだけ考えてから。
「もう一度遊びに誘ってみては? その時に少しでも特別視していることを露わにするべきでしょう。あなたは少々、分け隔てなく接し過ぎですから」
アーディよりもヒアンシーの方が行動力がある。少なくとも人間関係に関しては。
ならば、ヒアンシーを動かして解決しよう。
「そうですね。じゃあ、早速明日──!」
ようやく終わりが見え始めた。
アナイクスはどこか上機嫌に飛び出していったヒアンシーを見送りながら、僅かに寂しさを感じていることに、自分のことながら驚く。なんだかんだ、彼らの相談を楽しく思っていたらしい。
それよりもやらなければならないことがあるというのに。
「しかし……今日は寝ますか」
大地獣の寝巻に着替えて、睡眠をとる。こうして、地味ではあるが、神悟の樹庭の誰もが鬱陶しがっていた一つの恋愛劇に幕を────────
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「アナイクス先生!! 頼みます。この通りです。噂で聞きましたが、アナイクス先生に相談して、上手くいった人もいるみたいじゃないですか!? ヒアンシーに少しでも好きになって貰いたいんです」
「私の手には負えません」
ヒアンシーさんはもちろんのこと、アナイクス先生の実装もまだで、個人的にはまだキャラクター理解が甘いと言わざるを得ません。
二人をガチャで引けたら修正します。
ヒアンシー実装したら続き書きます。
続いた場合オリ主の一人称で書きます。
2025年5月25日 追記。
ヒアンシーさん実装されましたが、あの強い女性が好きになった人に臆病になるのが想像できなかったので没の可能性高いです。