転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……ああそうだ。モルフォ、明日から一旦店を閉めることにした」
「えっ、大丈夫なんですか」
数日後。いつものようにバイトに来て、一仕事終えたモルフォに店長はそう告げた。突然店を止めるとは何があったのだろうか。心配するように首を傾げるモルフォに店長は笑うと、理由を説明する。
「ああ、俺に何かあったってわけじゃないから安心しな。ただまあ……最近物騒だろ?」
「あー、そういう話はよく聞きますね」
キヴォトス全体の治安の急激な悪化。それはモルフォも感じていた。しかもそれは、日を追う程に悪化していき、まだミレニアムやゲヘナ、トリニティといった大型の学園は何とかなっているものの小さい学区などは既にパンクしており、クロノススクールも連日飯の種と言わんばかりに報道してあることないこと織り交ぜている様子だった。
「この店も襲われてぶっ壊される前に落ち着くまで閉めておこうと思ってな。急で悪いが理解してくれ」
「いえ、仕方ないですよ。連邦生徒会は何やってるんでしょうね……」
不良がいろんなところで暴れ始めているだの、違法武器が流通し始めただの、信憑性の有無は置いといて、色々な噂が流れているのはモルフォも耳にしていた。それぞれの学園の手に負えないなら連邦生徒会がきっちり対処をするべきなのだろうが、その連邦生徒会のアクションはいまだになし。政治に一切関心のなかったモルフォですら大丈夫なのか?と思ってしまう有様だった。
「……ん?あれは……」
空を見れば曇り空が広がっていた。朝の予報だと曇りと言っていたが、もしかしたら降るかもしれないな、等と考えながら脇を見ると、裏路地に繋がる小道の奥に見覚えのある姿を見つける。足を止めて奥を覗いてみると、赤髪の少女がスプレー缶を手にして裏路地の壁にグラフィティアートを作っていた。
「マキ、何してんの?」
「うわっと!?……なんだモルフォちゃんかー」
そこにいたのは、小塗マキ。ミレニアムが誇るヴェリタスというハッカー集団の一員であり、モルフォが集団としては警戒している組織の一人である。とはいえ、モルフォが危惧しているのはハッキングでまだ存在しないゲームの事を知られた上で万が一にもそれがフラゲとばかりにばら撒かれ、その製作者がモルフォだと誤解されるパターンであり、そういった点を除けば別にヴェリタスに対して嫌いとかそういう感情は一切ない。むしろ、モルフォはまだ会ったことはないが、噂だけでもそういうことをやりそうな輩がいて、しかもそれがかつてはセミナーに所属していたらしいという話の方が正直怖い。
「モルフォちゃんも何か描く?」
「ばれたらまたユウカ先輩に怒られるよ?」
「裏路地だからへーきへーき。こんなところまで見に来る人なんていないよ、それにセミナーだって忙しくなってるしね」
「あー、なんか犯罪増えてるってやつ?」
マキからスプレー缶を渡されるモルフォ。ここまで来たら共犯者にして一緒に黙ってもらおう、ということなのだろう。モルフォも少しだけ考えていたが、まあこんな裏路地なら確かに見られることもないだろうと納得すると、落書きをマキの隣で手を動かし始める。やってみたいかどうかというとやってみたい、という気持ちが勝ったようだ。
「そうそう……で、これさぁ……まだ表だと噂で収まってるらしいんだけど、連邦生徒会長が失踪ってマジらしいよ?」
「やばいじゃん」
「やばいと思うよ?サンクトゥムタワーって連邦生徒会長が制御権持ってたから失踪したせいで誰も扱えなくなってるって。だからもっと治安やばくなるし、そうなったら外にも出にくくなっちゃうからさ、今のうちにやっておこうかなって」
とはいえ、ヴェリタスは警戒しつつも、個人としては別に悪く思っているわけではない。特にマキの場合は同級生だし、こうやって芸術も嗜んでいる彼女ならハッキングして自分の秘密を知ることはあれど、それを迂闊にばらそう、とは考えないだろうな、とは思っている。それに彼女の作る芸術作品自体は興味を惹かれることも多い。
「……モルフォちゃん、それ」
(……あ、やべ)
気付けば、スプラトゥーンのイカのグラフィティを描いていた。自分の分は描き終えたマキが驚いたようにそれを見ていることに気付き、慌ててモルフォは白のスプレーに持ち替えてイカを塗り潰そうとして―――
「いやいやいや!?何やってんの!?めっちゃ出来がいいじゃん!凄い創作性を感じるのに……」
「でもこれ考えたの私じゃないから」
マキに慌ててそれを止められる。どうやらもう隠蔽はできないようだ。モルフォは観念したようにスマホに保存していたスプラトゥーンの画像を見せる。
「まあ、マキなら言ってもいいかな……これ、作ったの私じゃないんだよね。これも二次創作だし」
「……そっか。何となく、そうなのかなとは思ってた」
「?」
「この前さ、メイド部で知らないゲームやってたでしょ?なんでゲーム開発部にいないのにあんなゲーム持ってるのかなーって気になっててさ」
「あー」
どうやら、C&Cの下にスマブラを持っていった時の話を言っているようだ。その後、彼女の方でも調べていたのだろう。しかし全くそんな話は引っかからなかったため、では彼女の手作りかとも考えたのだろう。しかし、それなら仲のいいゲーム開発部に入らない理由がないはずだ。そこから、もしやこれは彼女の作品ではないのでは、という予測を立てたのだろう。そしてどうやら、それは正解だったようだ。
「あれはさ……別の世界でいろんな人が頑張って作ったゲーム、なんだよね。なんかさ、そういうのを作れる……力?能力?っていうのかな……まあ、なんかよくわかんないのがあってさ……」
「あー?そういう……?部長の方が食いつきよさそうだね。でもまあ、安心してよ。モルフォちゃんのことはヴェリタスには言わないからさ」
「むしろここまで来たらばらしてもらって理解してもらった方がいいような……まあそこはマキに任せよっかな……ん?」
ふと、手に水滴が落ちてきたことに気付く。モルフォとマキが空を見上げると、ぽつりぽつりと雨が降り出し、瞬く間にその勢いが強くなってきてしまう。
「うわっ、降ってきた!?」
「えーと、こっからだと一応家が近いからとりあえずそこに!」
「オッケー!」
折り畳み傘入れるの忘れてきたなぁとぼやきながら、折りたたんだままのシールドを上に掲げて傘替わりにしつつ、モルフォはマキと共に全力疾走するのだった。
★
「いやぁ、さっぱりしたーありがとね、シャワーまで借りちゃって」
「気にしないでいいよ」
「……モルフォちゃんはいいの?」
十数分後。モルフォの部屋に避難してきたマキはシャワーを貸してもらい、途中で寄ったエンジェル24というコンビニで下着を購入し、モルフォの私服を貸してもらっていた。そしてマキの制服と下着はモルフォの服と一緒に洗濯中であった。
「ああもう拭いて着替えたし別に……」
「いやいや駄目でしょ!?」
先にシャワーを浴びさせてくれたことには感謝しているが、そのせいでモルフォが風邪を引くのは駄目だと、慌ててモルフォを浴室へと押し込む。髪は拭いたし別にいいんだけどな、と呟きながらも渋々シャワーを浴び始めたモルフォを見て、マキは呆れたように溜息を吐く。
「モルフォちゃんってあんまオシャレに興味ないよねぇ……ん?」
貸してもらった女っ気のない無地のシャツとズボンを見て苦笑していたマキだったが、その視線が、モルフォの部屋の中へと向けられる。先ほどはとりあえずシャワーという気持ちが先行していたために気にならなかったが、こうして改めて部屋の中を見ると、壮観だった。
「……凄い……」
壁に貼られているポスターには、カードのようなものを持つボディスーツを着た少年と、そのXの形をした頭部と翼を広げるサイバネティックなドラゴンが描かれていた。当然、どちらも遊戯王VRAINSというアニメに出てくる登場人物とその登場人物が使うモンスターだということをマキは知らないが、それでもそのデザインの節々から感じ取れる、ノウハウが積み重なって洗練されたデザインだということは一目で理解できた。まさしくそれは、子供が一年二年かけたところで描けるものではない、もっと上の、その道のプロが生み出したものなのだろう。だからこそ、マキも彼女が情報を扱うヴェリタスを避けようとしていたことをより理解する。
「……そうだよね。これは、作った人が凄いのであって、褒められるべきはその人だよね……」
「あーさっぱりした」
「うわ!?もう出たの!?五分ぐらいじゃん!?」
「シャワーなんて数分で十分でしょ」
「いやいや!?」
驚くマキを尻目に、モルフォは部屋の中を見ていくと、あるソフトが目に入る。今日はこれでいいかとそれを手に取ると、
「どうせ雨が止むまで時間かかるし、これとかやってみない?」
「……ん?ラクガキ王国……?何それ?」
それは、ラクガキ王国というゲームだった。やはりこれも異世界のゲームなのだろうと納得しながら頷くと、モルフォはそれをゲーム機にセットして起動していく。そしてコントローラーをマキに渡すと、マキはゲームを始めていく。色のない世界に神が色を与えて世界を作り上げたが、その世界で人とラクガキと呼ばれる存在が現代に至るまでどのような歴史を辿っていったかの説明がプロローグと共に流れてくる。
「そ、壮大だね……」
「プロローグだからね」
その後、チュートリアルに従って画面に赤い丸を描く。すると、ただの丸だったそれが突然形を得て動き出す。
「え!?丸が動いてる……?」
「こういうゲームだからねー」
クロッカーと呼ばれる、ラクガキに実体を与える存在となってバトルをしながらストーリーを進めるのがラクガキ王国というゲームだ。しかし、最大の特色はなんといっても、自分の手でらくがきを描く、つまり、自分の手で戦う存在を作り出せるということだ。
「何このゲーム……めっちゃ面白い!」
ストーリーも単純なもので、主要キャラと出会い、帝国が主催しているラクガキ大会での優勝を目指すというもの。それ故、このゲームの神髄はやはりラクガキにある。気の向くままにいろんな色を使い、ラクガキを生み出していく。最初はデザイン面での制約があるものの、次第に自由度が増えていき、それによって描けるラクガキが増えていくところが特に楽しく感じる。
「折角描いたデザインの通りに動くなら……そうだなぁ……あ、そうだ。モルフォちゃんならどんなの作る?」
「え?って言ってもあんまり凝ったもの作ろうとすると時間かかっちゃうし……うーん、そうだな……あ」
いよいよプロローグが終わり、自由に動けるようになってある程度経ち、ラクガキに入ったマキはふと、モルフォにデザインについて聞いてみる。別に本人の好きに描くので正解なのだろうが、ゲームでもあるからそこのアドバイスもついでに、ということなのだろう。それを聞いていたモルフォはマキの顔を見ていたが、何かを思い付いたような表情を見せる。それを見てマキはモルフォにコントローラーを渡すと、モルフォは現状できるだけの自由度で描けるものを作っていく。
「……ん?これって……もしかしてあたし?」
「うん」
「なんか生首みたいになってない!?なのに腕生えてる!?気持ち悪い!」
「頭とか足は使えないし……進めれば高解像度のマキが……」
「なんか怖いよ!」
そして生み出されるラクガキマキと言う名のクリーチャー。それを見たマキも対抗するようにと、モルフォの生首を作り始める。そして生み出された二人の生首を見て、
「「ぶふっ!?」」
二人とも盛大に噴き出していた。そしてこれに味を占めたのか、
「じゃーん、ユウカ!」
「先輩を描いちゃっていいの?」
「あはは、大丈夫大丈夫!」
「じゃあモモイも作っちゃう?」
「おっ、いいねぇ」
ストーリーそっちのけでどんどん量産されていくミレニアム生の生首たち。そんな感じで二人でラクガキをこねくり回していたが、飲み物がなくなっていることに気付いてモルフォが席を立つと、とっくに雨は止んでいて、夕日が差し込んできていることに気付いた。
「うわ、もうこんな時間かぁ……」
「あ、本当だ……」
モルフォの言葉で、何時間も遊んでいたことにようやく気付くマキ。さすがにこれ以上ここにいるわけにはいかないと、立ち上がると、既に乾燥まで終わっている洗濯物をモルフォから受け取り、自分の制服に着替え直す。
「もっとやりたかったけどさすがにこれ以上はまずいよね」
「まあ、続きは都合がついたらまた今度って感じかな?さすがに次やる時はストーリーの方も進めた方がよさそうだけど」
「あはは、そうだね……」
苦笑し合うマキとモルフォ。また今度、都合がついたら再びラクガキ王国を進めることを約束しつつ、マキはモルフォから良いデザインの数枚のポスターを受け取るのだった。