転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……」
ミカの視界には古聖堂から立ち上る煙が映っていた。トリニティの校舎内では慌ただしく生徒達が動いている。ティーパーティー各員を始めとし、様々な派閥の生徒達が情報を得ようとしたり、繋がらない連絡を取ろうとしたりしている。特に、ナギサの所属するフィリウス派の面々はナギサに何かがあったらと顔面蒼白になりながら駆け回っている。そんな中、ミカは復活したライブ映像を確認する。だが、そこには古聖堂の中は映っておらず、その周辺にある、生きているカメラから送られる炎と煙の映像しか見れなかった。
「……そう、わかった。何かあったらすぐに報告してね」
「わかりました!ナギサ様に繋がる手がかりがあったらすぐに報告します!!」
フィリウス派の生徒がミカにそう告げて足早にテラスから出ていく。セイアは行方知れず、ナギサも安否が不明となれば当然、ミカがその対応をすることになる。今回の一件も、おそらく考えられるのはアリウスによるもの、それぐらいの予測はミカには当然ついていた。が、
(巡航ミサイルが古聖堂まで飛んでいくのを見たって話……それが事実だとしたら、一体アリウスのどこにそんな技術が?だってアリウスは……言い方が悪いけど、水準なんてとても……トリニティどころかゲヘナすら余裕で下回っているレベルだったのに)
だからこそ疑問が残る。ミカの知るアリウスが、こんな超兵器を持っているわけがないのだ。第一回公会議の後に迫害され、地下に張り巡らされたカタコンベの奥地へと逃れた彼女達は、当然外の世界の技術の進歩の恩恵を受けられるわけがない。そしてミカ自身もアリウスを訪れたことがあるからこそ、その文化レベルは知っている。とてもではないが、巡航ミサイルなんて作れるわけがない。仮にこのキヴォトスでそれを可能とする技術力を保有している学園があるとすれば、ミレニアム以外に思いつかないレベルだ。そしてミレニアムがエデン条約の調印式を台無しにするためのアリウスに協力し秘密裡に巡航ミサイルを提供した、等という馬鹿なことをするとはとても思えない。
(ナギちゃんとの話を盗み聞きした程度だけど……ミレニアムの会長ちゃんがそんなことする人とは思えないし……だとすると、あのミサイルは本当にどこから……?)
「ミカ様!!」
「ッ!ナギちゃん達、見つかったの!?」
「……いえ、そういうわけではなく!」
ミサイルの出所はどこなのか。思案を続けているミカの下に、彼女の所属するパテル派の生徒と、他の生徒達が完全にタイミングを見計らったかのように数名現れる。ミカの質問に手短に答えると、自分達の本題を口にする。
「今回の一件、これはゲヘナの仕業です!」
「あいつら……調印式を台無しにして、そればかりかナギサ様やツルギ委員長を葬ろうとするとは!」
「報復です!このような先制攻撃を許してはいけません!正義実現委員会は確かに主力が古聖堂に居ますが……ゲヘナも正義実現委員会やシスターフッドをあの場に集めるために風紀委員会を犠牲にしています!で、あればゲヘナに残る戦力も多くない!今すぐに戦力をまとめ上げれば、残存戦力でも十分殲滅が可能です!」
「……」
パテル派の生徒達の主張。それは、このミサイルがゲヘナが撃ち込んだものであるというものであった。これはゲヘナからの攻撃であり、こちらも武力で対抗するもの、即ち戦争を仕掛けよというもの。そんなパテル派の面々を見て、思わずミカは溜息を吐いてしまう。
(ああ、そっか……私もこれぐらい気軽に言っていたんだ……この子達にとって戦争なんて、なんか凄い戦い程度で現実味なんて全くないんだろうね)
それは、かつての自分と同じだと。だからこそ、彼女達に自分が強く言うこともできない。そして、仮にそれを指摘したとしても、おそらく彼女たちは簡単には受け入れようとはしないだろう。丁寧に、段階を踏んでわからせないとわからないのだ。自分もそうだったように。故に、
「まあ落ち着いて。まずは情報を集めることが大事。焦って戦力を纏めて仕掛けようとして足を掬われたら目も当てられないよ」
「それは……」
まだ否定はしない。どうせ、彼女達も自分と同様、ゲヘナに対する嫌悪感に理由などないのだ。だが、自分はゲヘナにもちゃんとした人がいることも知っている。いや、おそらくは大半がそうなのだろう。ゲヘナの気質として野蛮な人が一般的であったとしても、テロリストだのと評される筋金入りの人物など極一部なのだから。それ故、ゲヘナとゲヘナの人間は分けて考えなければならない。いずれはそこも踏まえるとして、彼女達にやらなければならないことを提示していく。
「色々気になることはあるのはわかる。でもまずは、助けられる人を助けないと。もしナギちゃんやツルギちゃん達に何かがあったらそれこそ取り返しがつかないんだからね。それに、古聖堂の外でも混乱が起こってるでしょ?そっちも対処しないと。まずは落ち着けさせることが最優先。それで、この攻撃がゲヘナのものだというのなら……その時は、完全に叩き潰すよ」
「はい!」
「確かにその通りです……!さすがミカ様!!」
「私達も焦りすぎていました……すぐに情報収集の方に入ります!後、怪我人を受け入れる準備も救護騎士団の方と連携して進めていきます!」
ミカの言葉に納得したように数人が走り出していく。あ、と思い出したように二、三人程呼び止めると、
「救護の方だけど、一応事情だけは聞いておきたいからゲヘナの人もちゃんと受け入れて手当してあげてね」
「ええ!?正気ですか!?」
「正気だけど……だって、巡航ミサイルの出所だけはきちっとしておきたいじゃん?いやマジで。一発撃たれるだけでこの有様だよ?どこから撃たれたのかいまだにわからないのはまずいって」
「確かに……」
それらしい理由も付け加えてゲヘナの生徒もちゃんと手当しておくようにと伝えておく。我ながら良く回る舌である、あの時に欲しかったと内心ぼやきながら、部下への説得を続けていく。
「後は単純にさ……これでゲヘナを手当てしませんでしたーってなって、万が一巡航ミサイルはゲヘナ関係ありませんとかなったら、ミレニアムとか百鬼夜行とかの目がやばいじゃん?政治的な配慮だよ配慮」
「な、成程……そこまでは頭が回りませんでした。では、そのように」
そして完全にミカの言葉に納得したパテル派が全員テラスから出ていく。その光景を見届けながら、大きな溜息を零しながら、テラスからも見える今も消えない爆煙を見上げるのだった。
「……どうか、誰も死にませんように」
★
銃弾が飛び交う。先生とヒナを逃し、トリニティとゲヘナ以外の学園からこの場に現れたゲーム開発部を始末するために戦闘を開始するアリウススクワッド。その戦いの中で、サオリは舌打ちをしながら、振るわれるハンマーを避けていた。
(こいつら……戦い慣れてる!)
ハンマーを避けながらアサルトライフルをモルフォへと向け、引き金を引く。それをシールドで受け止めながらサオリの視界を塞ぐように前進したかと思うと、
「ユズ!」
急に右に避けると同時に、ユズの放つグレネードがサオリへ迫る。寸前で後方へ飛んでそれを回避するも、
「リーダー!狙われてます!」
「ッ!!」
ヒヨリの声に反応するように転がって銃弾を回避。先ほどまでサオリが立っていた場所にミドリのライフル弾が突き刺さり、ヒヨリが即座に反応するようにミドリを狙い撃つ。だがその前に左足だけで地面を蹴って近くの瓦礫を遮蔽物にするように隠れ、銃弾から逃れる。
「……!」
「くそ……なんだこいつら……!」
ミサキとアツコはというと、モモイとケイによって分断されていた。二人の弾幕は、ミサキとアツコを仕留めるものというよりもあくまでサオリとヒヨリの二人の援護に向かわせないためのもの。明らかに向こうのペースで戦いが進んでいることに、ミサキは歯痒さを感じていた。
(……個々の力も確かに高い。まさか、他の学園にこれだけやる部隊が紛れていたとはな……トリニティやゲヘナがここまで連携を取っている学園がいる、という情報はないし、今回の一件に合わせてそういう人員を他から呼んでいるとくれば、あの議長から情報が回ってきてもおかしくない。となれば、おそらくはたまたま巻き込まれてしまっただけだと思うが……厄介だ。そして特に厄介なのは)
戦いを続ける中で、サオリのモルフォを見据える目はドンドン険しいものになっている。モルフォの指揮官としての能力。ユズやミドリの盾役を全うしながら、二組に分かれた戦況を常に視野を広げて把握し、的確な指示を飛ばす。敵ながら、素晴らしい能力だ。アリウススクワッドのリーダーであるからこそ、そう思わざるを得ない。が、それ故に、
(奴が弱点となる)
サオリが、懐に目を向ける。本来はヒナやツルギを相手に使うことを前提として考えていた必殺兵器。しかし、このまま戦闘が続き、彼女たちの所属する学園が手を出してきてしまえば事態はややこしくなってしまう。それよりも、ユスティナ聖徒会の短所についての情報を持ち帰られてもいけないのだ。ツルギ達はユスティナ聖徒会の物量で仕留められることを考えれば、ここは情報の漏洩を危惧して確実に仕留めるのがいい。そう判断し、サオリが三人に視線を飛ばす。
「「「……!」」」
サオリの意図を理解したスクワッドの動きが変わっていく。スナイパーとして、ミドリと同じく遮蔽物を利用しながら狙撃を繰り返していたヒヨリが飛び出してきたのだ。それだけでなく、ミサキがロケットランチャーを撃ち、煙幕を張るとアツコと共に走り出す。
「敵が動いた!?」
「突破させてはいけません!モモイ!」
「わかってる!!」
煙で視界を塞ぎ、こちらに攻撃を躊躇させるつもりか。しかし、そんなことは無駄だと言わんばかりにモモイとケイが弾幕を張り続ける。直後、煙の中からミサキが何発も被弾をし、ボロボロになりながら飛び出すと、再装填したロケットランチャーを二人の間に向かって放つ。
「!?」
「散開!!」
サオリから撃ち込まれるアサルトライフルをガードしながら、モルフォの指示と共にモモイとケイが左右に跳ぶ。それによって爆発から逃れるも、ミサキと、ミサキがその身を挺して盾になる形になったことで無傷のまま飛び出したアツコがサオリ達の方へと走っていく。
「しまった!?」
「まさか、ダメージを受けながら強引に突破するなんて……!?」
「ユズ!ミドリ!気を付けて―――」
「気を付けても無駄ですよ」
「きゃあ!?」
「ミドリ!?」
モルフォがユズとミドリに注意するように呼び掛ける。しかし、ミドリの位置を割り出していたヒヨリがミドリを遮蔽物から追い立てるように弾を撃ちこんでいく。そして追い出されたミドリを狙い、サオリが更なる追撃を企てる。その間、アツコによってユズとモルフォはその場に留めさせられてしまう。
「ミドリから離れろ―――っ!?」
モモイがサオリを攻撃しようとするが、ミドリを追い立てた後はフリーになったヒヨリが逆にモモイを攻撃し、それを中断させてしまう。ケイもアツコを攻撃しても、再びミサキがそれを庇い、被弾しながらもロケットランチャーを発射。それによってケイは攻撃を中断させられてしまう。
「うあっ……!」
(やはりな。敵のスナイパーは右足を負傷している)
サオリから逃げようとするミドリだったが、そのために右足を使ったことでその痛みに呻いてしまい、姿勢を崩してしまう。ここまでの戦闘で、サオリ達からも右足が不調であることはバレており、それを狙ったのだ。そして、サオリは懐からある爆弾を取り出す。それを見て、目を僅かに細めたサオリの姿を見て、モルフォは明らかにそれがミドリを仕留めるために使おうとしていることに気付く。
「―――モモイ!ユズ!」
「「!!」」
ヒヨリに狙われ、ミドリの下に近づけずにいたモモイが、モルフォの意図を理解して方向転換。それによってヒヨリの狙いが一瞬ずれた瞬間にモモイがアツコを攻撃。それによって射撃が途切れたことでモルフォが走り出す。それと同時にユズがサオリを攻撃する。
「うおおおおお!」
「!」
サオリが爆弾らしきものを放り投げたこと。ユズの放ったグレネードがサオリに命中したこと。モルフォがミドリの前に立ったのは全て同時だった。そのまま、ひび割れたシールドを構え、爆弾を受け止める。直後、大爆発が発生し、その衝撃がシールドを通して腕に、全身に伝わってくる。嫌な予感がひしひしと伝わってくる中、この攻撃からミドリと自分の体を守らなければ。そう思った次の瞬間だった。
(反応したか。やはりやるな……だが。そんなボロボロの盾でこいつは耐えられない。これで一番厄介な敵は仕留めた)
嫌な音と共に、さらにシールド全体にヒビが広がっていく。そして、シールドが粉々に砕け散ると共に大爆発が起こり、それがモルフォを呑み込んで吹き飛ばしてしまう。
「モルフォちゃん!?」
吹き飛ばされたモルフォが、地面に勢いよく後頭部を打ち付ける。そのまま何回かバウンドし、仰向けに倒れたモルフォを追いかけるようにミドリが視線を動かす。モモイも、ユズも、ケイも、そして何かを確かめるようにアリウススクワッドもモルフォを見る中、後頭部から血が流れだし、それが水溜まりのように広がっていく。
「……命中したね」
ミサキが呟くと同時。モルフォの頭部に浮かんでいたヘイローが消滅する。それを見たミドリの顔から、血の気が引いていく。まさか、いや、そんなわけがない。そう言わんばかりに、声を張り上げる。
「モルフォちゃん!?目を覚まして!目を……」
「無駄だ。彼女のヘイローは破壊した」
「!?何を言って……」
「ヘイローを破壊する爆弾。その威力はトリニティのティーパーティー、百合園セイアを殺したことで証明されている。トリニティは彼女はあくまで入院していると表向きは言い張っているようだが」
淡々と、震える手を握りしめながら告げるサオリ。既に彼女たちの前ではゲーム開発部はモルフォの脱落によって戦意を喪失しており、戦闘が終了を告げていた。最初に崩れ落ちるように膝を付いたのはミドリ、続いてユズであった。
「そんな……私が、先生を助けに行こうって、そう言ったから……」
「嘘だ……モルフォが、死んじゃうなんて……」
爆発程度でキヴォトスの人間が死ぬわけがない。頭ではそう思っても、サオリの言うヘイローを壊す爆弾という存在がそれを証明していた。現にモルフォは、爆発に呑まれ、ヘイローを消滅させられたのだ。今も出血は続いており、再びヘイローが現れて起き上がる気配もない。モモイがいろんな感情が入り混じった表情を浮かべ、ケイが手を震わせる中、
「―――サオリ!!」
「!……ここでお前が出てくるのか」
「まさか、姿を現すとはね……そのまま逃げ出してもよかったのに」
そこに息を切らしながら現れたのは、なんとアズサであった。巡航ミサイルを見て、居ても立っても居られず、ここまで走ってきたのだろう。アズサは、汗を顔に浮かべ、呼吸を荒げながら、アリウススクワッドを、サオリを睨みつける。
「えへへ、お久しぶりですね……」
「……」
「……どうして、どうして……!」
「最初からそういうことだったというだけだ。どこにもお前の居場所はない……私達みたいな人殺しを受け入れてくれる場所なんて、この世には無いんだよ」
だが、サオリはそう言いながらモルフォへ視線を移す。その視線に気付いたアズサは、後頭部から流れた血の池に沈むモルフォの姿に気付いてしまう。そして、絶望したように項垂れる他のゲーム開発部の姿も。
「モルフォ!?ま、まさかサオリ……お前……使ったのか!?」
「ああ。その威力はお前も知っているだろう?」
その短い会話だけで、アズサは悟ってしまう。あろうことかサオリ達はヘイローを壊す爆弾をモルフォに使用したのだと。サオリの左腕が爆発でも直撃したのか焼けていることや、ミサキが小さくない負傷をしているのも、モルフォを確実に仕留めたことの代償なのだと。
「サオリ……!」
「……何故足掻く?全ては無駄だと言うのに」
怒りに銃を握る手が震える。そのまま、衝動に突き動かされるように銃を構えたアズサを見て、冷たい声でサオリが言い放つ。
「足掻けば死者が蘇るか?」
「だとしても……!」
「……まだ甘い夢に酔っているようだな……仕方ない。手伝ってやろう」
溜息を吐きながら、サオリもまた、銃を構え直す。念のために、本当にゲーム開発部が戦う気力を無くしているのを見てから、もう一度アズサを見据える。今、優先するべきなのは戦闘を行える上に、自分達の戦い方を知っているアズサだ。残り四人のゲーム開発部を仕留める時間は後でゆっくり取れる。
「何度でも、その夢から目を覚まさせてやる……来い」
そして、二人は同時に引き金に手をかけるのだった。
★
浮遊感の中に、モルフォはいた。だがその体は、ゆっくりと天へと昇っていく。それを可能とするかのように背中には、綺麗な光で作られた蝶の羽が生えており、彼女の体を浮かせ、空へと羽ばたかせていた。
「……」
虚ろな目のまま、上を見つめる。段々と気分が心地よくなっていき、心も、意識も、体も、全てが溶けていきそうな感覚に陥りそうになる。このまま、全てを手放せば楽になれる。しがらみも、何もかも捨ててしまえば―――
「―――どこへ行く気だ!?モルフォ!!」
瞬間。足首を何かが掴んだような感触に、モルフォの目に光が戻る。そして足首を見ると、そこには、
「……セイアさん?」
引き留めるように、モルフォの足首を必死に掴むセイアの姿があったのだった。