転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
長かった昼が終わり、ようやく夜が訪れる中。
「……!」
モルフォはベッドの中で目を覚ます。まだ少し怠さは残っているが、概ね体は良くなったといっていいだろう。ゆっくりと体を起こすと、
「……ここは?」
清潔感のある部屋にいることに気付く。どこかの病室だろうか。だが、病院のそれとはちょっと違い、学校の保健室らしさもある。何故こんなところにと、これまでの事を思い出していく。
「……そうだ。あの戦いで怪我して……じゃあ、ここはトリニティ?」
「その通りです」
「!」
入口の方から聞こえてきた声にモルフォがばっと振り向く。直後、後頭部に痛みが走って顔を顰めるも、
「あまり体を動かさないでください。体の方はマシになりましたが、あなたは依然として怪我人なのですから」
モルフォに声をかけてきた少女に窘められる。その少女を見て一瞬身構えるも、少女がナースキャップを被っているのに気付いたことで警戒心を解いたモルフォはベッドに寝かせられながら、質問を投げかける。
「すみません……助けてくれてありがとうございます」
「気にしないでください。救護騎士団として当然のことを、救護をしたまでですから」
そう言いながら、水色の髪の少女は優しく言葉を投げかける。アリウスとの戦いでサオリにタックルをかまし、ネル達が乱入する隙を作った後は覚えていないが、C&Cが来たことであの状況を切り抜けられたのだろう。その後、やはりここはトリニティであり、彼女は自分に本格的な治療もとい救護をしてくれた人物のようだ。
「ちなみにお名前は……」
「そういえば自己紹介がまだでしたか。私は蒼森ミネ、救護騎士団の団長をしています」
「!蒼森ミネさんって……」
セイアから聞いた人物の名だ。確か、寝ている彼女の生存を隠すために一計を講じたはずである。そんな人物がセイアを置いてこの場に出てきたというのだろうか。と、口を途中まで開きかけたモルフォに、これ以上は喋らないようにとミネは指で示唆する。
「あなたが、彼女の事を知っているのは把握しています。彼女が目を覚ました時に、大まかにですが事情を聞きましたから。それについては、落ち着いてきたところであの方から皆に説明があるのでお気になさらず。夢見モルフォさん。尤も、今回あなたを特に助けてやってほしいという頼みをしたのも彼女でしたが」
そう告げながら、モルフォをこの部屋に連れ込んだ時の事を思い出す。C&Cを始めとする面々がトリニティに辿り着いたところで彼女達を出迎えたのがミネだったのだが、それを見た正義実現委員会のざわめきようは半端ではなく、中には幽霊呼ばわりされたのは今も割と気にしているところだ。そんなこんなで怪我人たちを纏めて収容もとい救護し終えたところまではよかったのだが。
「……それにしても、初めて見る症状で驚きました」
「……えっと?貧血とかそういうのじゃなくて?」
「それもありました。ですがそれ以上に特筆すべきなのは……あまり好ましい表現ではないのですが、生気が抜けているかのような状態になっていたことです」
十分な休息を取ることで回復傾向に向かっていますが、と寝かせたモルフォの脈拍を確認したり、現在のモルフォの体調を診断しながら語るミネに一体あの時の自分に何があったのかと困惑するモルフォ。だが、すぐにその理由がサオリ達が使ったヘイローを壊す爆弾にあるのではないかと気付く。
「ヘイローを破壊する爆弾……」
「おそらくはその影響でしょう……今は問題ないでしょうね。このままの経過が続くようであれば朝には歩き回っても大丈夫でしょう……とはいえ戦闘は許可できませんが」
「しようにもシールドも壊れちゃいましたし……」
「なら問題ないですね。良いことです」
あの盾は飾りでも何でもなく真面目に生命線だ。モルフォ自身、自分の体が銃弾や爆弾に耐えられるボディなのはわかっているが、今回に限ってはヘイローを壊す爆弾というこれまでの根底を覆す兵器が登場している。アリウスの攻撃、特に爆弾系は絶対に喰らってはいけない、という状況で盾のないタンク役が前線に出るなど弱点属性の攻撃をしてくる敵に無策に突っ込んでいくような蛮行だ。追い詰められて神風を敢行しなければならない状況ならともかく、今のモルフォにはそんな真似はできなかった。
「あの時、アリウススクワッドと戦った時に何があったかを説明してもらえますか?ヘイローを破壊する爆弾というのがその名前から想定される威力をしているのかどうか、それはかなり重要ですから」
「あ、はい」
他の面々からアリウススクワッドと自分達が戦ったことはおそらくミネも把握しているはずだと判断し、自分が大怪我を負ったところの部分だけを話し始める。サオリがミドリを仕留めようとしてその爆弾を使用したこと。それをシールドで受け止めたのはよかったものの、限界を超えてシールドが破壊されてしまったこと。しかし、その時にシールドの中に入っていた自爆装置が作動し、その爆発で吹き飛んだことでヘイローを壊す爆弾の威力に直接晒されることはなかったこと。それらを説明し終えると、
「……何故盾に自爆装置を……?」
ミネは困惑したように呟いてしまった。だが、ミネ自身ライオットシールドを愛用している身だ、それ故に身を、仲間を、患者を守る盾に自爆装置を取り付けるなど理解を越えた行為かもしれない。とはいえ、その自爆装置のおかげでモルフォが生きていることを考えると無駄な機能ではなかったのが困りどころだ。
「団長!ちょっといいですか!」
「どうしました?セリナ」
そんな時だった。扉が開き、そこにナースキャップを被った桃色の髪の少女が現れる。彼女といくつか話をしていたミネは、話の内容を把握して頷くと、
「では、モルフォさん。私はこれで」
「あ、わかりました」
モルフォにそう告げてセリナと呼んだ少女と共に部屋を出ていく。そして一人取り残されたモルフォが溜息を吐きながら横においてある机を見ると、そこにはヘッドフォンやスマホ、銃といった私物が置いてあった。
「……ふぅ」
ヘッドフォンを手に取り、もう心配ないだろうとGPS機能をオフにしておく。その後、スマホを手に取り、目を覚ましたことを連絡しようとモモトークを開こうとした時だった。再び扉が開き、他のゲーム開発部の面々が姿を現す。
「あ、皆……」
「モルフォー!!」
「あ、アリス?」
モルフォの姿を見た瞬間、アリスが飛びついてくる。胸に顔を埋めてくるのを受け止めながら、モモイ達の顔を見ると、安堵した表情を三人は浮かべていた。
「ごめんなさい、アリスが寝ていたせいでモルフォを……」
「アリスは悪くないよ。」
『そうです、悪いのはあいつら……アリウスです!』
「よかった、モルフォちゃん目を覚ましてくれて……」
「もし、もし目を覚まさなかったらどうしようって思っちゃったから……」
特にアリス、ミドリとユズは特に安心が大きかったようだ。アリスは巡航ミサイルの衝撃で意識を失っており、ケイが戦っている間ずっと眠っていたことや、ミドリとユズも自分達が古聖堂に向かおうと言ったことで結果としてモルフォがこれほどまでの怪我を負うことになってしまったことに思うところがあるのだろう。
「モルフォは、怪我とかもう大丈夫なの?」
「一応ね。皆は?」
「うん、大丈夫大丈夫。そういえばさ、先生も大丈夫だって!今、ティーパーティーの人とかハナコさんと話してるって。それとさ、ネル先輩達が来てくれたおかげで古聖堂にいた人たちも助かったんだって!」
そんな、ミドリ達の暗い雰囲気を見かねたのだろう、モモイが明るく振る舞っていく。そんなモモイの明るい声にミドリ達も反応し、そしてモルフォの顔を見て明るさを取り戻していく。
「そっか……よかった。ごめんね、私がああ言ったから……」
「気にしないでよ、ミドリ。皆生きてるんだし、このまま休めば私も治るんだからさ。それに、先生を助けられたのはミドリとユズが行こうって言ってくれたからでしょ?」
「モルフォ……」
モルフォの言葉に二人とも心の底から安心したように頷く。と、ここでモルフォは別に気になってる部分を聞くことにする。
「そういえばネル先輩達は?」
「先生に会って、シャーレとして動くようになったんだけど……今、交通とか使えなくて戻れないから事態を解決するために先生に協力するって。アビドスの対策委員会も合流してきたって。あ、私達も今後はシャーレの指揮下で動くことになったよ」
「ホシノさん達も来たんだ」
「調印式の出来事は他の学園から見てもそれだけ衝撃的だったんでしょうね。ネル先輩も戦力を必要とするために会長に頼んで既にアビドスに連絡を取っていたとか。そこから通信が取れるようになった先生に連絡を入れて駆けつけてくれたようです」
「これからどうする気なんだろう……」
モモイと、顔を埋めていた状態から顔を上げたケイがモルフォが寝ている間に何があったのかを説明する。先生の方も戦力が集まり、正義実現委員会や風紀委員会も救助されている。となれば、明日か、明後日か。とにかく近いうちに何かしらの行動を起こすことになるのだろう。その時、自分達はどうなるのか考えながら、モルフォはケイの頭を撫でていると。
「モルフォちゃん!」
「モルフォ……よかった、目を覚ましたんだな」
今度はヒフミとアズサが入ってくる。ハナコとコハルの姿は見えないが、コハルは大打撃を受け、動ける人員も不足している正義実現委員会の方に戻らざるを得なくなっており、ハナコもまた、ある事情でこの場にいなくなっているようだ。そのため、ヒフミとアズサの二人がモルフォの下にやってきたようだ。アズサがアリウスの生徒、という情報もモモイ達に既に共有されているし、サオリ達との会話の中でそれも予想することは簡単ではあった。しかし、モモイ達からすればそれどころではなかった上に、アズサという人物を知っている以上、そこまで気にすることではなかった。
「はい。助けてくれてありがとうございました」
「助けたなんて……結局何もできませんでしたし、それどころかあのユスティナ聖徒会っていうのが出てくる理由にもなっちゃいましたし……」
「……ごめんなさい。私は……」
二人が、補習授業部が来てくれたおかげで時間が稼がれ助かったと礼を言うモルフォだったが、いまいちその実感が湧かないのか申し訳なさそうに肩を竦めるヒフミ。アズサはというと未だにその顔色は優れない。やはり、アリウスがここまでの暴挙をしたことが尾を引いているのだろう。だが、
「でも、アズサさんは関係ないよ!」
「そうだよ!むしろアズサさんは私達を助けてくれたし……アズサさんが悪いって思う必要もないと思う……」
「その通りです。あなたは自分の事を責めているようですが……あなたがいなければ、おそらくモルフォのヘイローはあのまま消滅していたでしょう……そして、一言言わせてください。あなたとサオリという人物の話の流れから、あなたが元はアリウスの生徒だと言うことは理解しています。ですが、今は違います。今のあなたに私達は助けられた。それだけは、言わせてください」
モモイ達の言葉を聞いて、少しだけ心が軽くなった感じがしてくる。特に、ケイの言葉は今のアズサにとってより安心できるものになっていた。彼女もまた、本来そこにいるべきものではない、という意味ではアズサと同じだったのかもしれない。だが、そんな彼女もミレニアムにいて、自分達の居場所を作っている。どこか、自分達に重なる彼女達の姿を見ていると、
「……そうか……ありがとう……」
嬉しそうに口を開いてしまうのだった。
★
「……えっと、ミカ。大丈夫?」
「……あ、先生?あはは……ごめんねーこんな情けない姿見せちゃって……ハナコちゃんもいらっしゃいー大変そうだね」
「ええ、とはいえこんな状況ですから」
ティーパーティーのテラスに赴いた先生とハナコ。シスターフッドを始め、トリニティ内の組織のトップが負傷したり意識を失ったりしてしまい、麻痺してしまう中、シスターフッドが白羽の矢を立てたのがハナコであった。なので、これ幸いにと、
『今回はこのような状況なので臨時で指揮などは取らせていただきますが……今回の一件が解決した後、浦和ハナコはトリニティ内における派閥や組織に属さない』
という条件を取り付けさせたうえでその手腕を奮っていた。そのおかげでミカも多少は落ち着けるようになり、楽になった……と思いきや。
「いやー……そりゃ他の学園とかからも色々きてるのは知ってたけどさ……ミレニアムってこんなアクティブな学園だったっけ?まあ、自学園の生徒が巻き込まれてるわけだから動くのは当然なんだろうけど……」
「気付かないこちらが悪いですね。それに生徒の安否がかかってるというのに返事が一向に返ってこないとなれば、多少強引に動かれても仕方ないかと」
それによって余裕が出てきたことで届きまくっていた外部からのメールや電話への対応に追われることになってしまった。大体は他の生徒に投げることもできたが、中にはリオが送ったものに始まり、ミカが個別に対応せざるを得ないものも色々あり、その結果として、結局ミカはいまだに休まることができずにいた。
「ミカ、聞いてもいいかな?アリウスのことなんだけど……」
「うん……最初に言っておくと、巡航ミサイルのことなんて全く知らない。それだけじゃない、ユスティナ聖徒会が蘇った理由も全く分からない」
「……マダム」
ここに、他の人の目がないことを確認し、誰にも話を聞かれていないことを確認した上で、先生がミカにアリウスの事を切り出す。しかし、ミカから返ってきた言葉は、ある意味先生が予想していて、そして事実であることを確かめて安心したことであった。が、それによってある人物が黒幕、或いはそれに近い存在であることが浮かび上がっていた。
「ミカは聞いたことは?」
「確か……アリウスの生徒会長がそう呼ばれていたはず。会ったことはなかったけど……アリウスの内戦を終わらせた凄い人物だってことは知ってる。トリニティとアリウスを和解させたいっていう話に賛成してくれて、協力をしてくれていた……んだけどね」
「そこを付け込まれたというわけですか」
マダム。今回ミカと話す前にもアズサからどういう人物かを聞いていたが、内戦続きであったアリウスをまとめ上げ、一応の平和を取り戻させたという意味では確かに凄い人物なのだろう。その点だけは先生から見ても素直に賞賛すべき偉業といえる……それが、おそらくは今回のための布石なのだろうという推測さえなければ。
「……多分だけど、そのマダムという人物からしたら、大事だったのはおそらく今日なんだと思う」
「先生が遭遇したアリウススクワッドの言葉が正しければ、調印式を利用して自分達に都合のいいように条約を締結した、ということになるのでしょう。ゲームで例えるなら……そういう特殊な条件が必要だった。エデン条約の締結日に用意していたミサイルをトリニティ内部から放ち、古聖堂を襲撃……シスターフッドの方で調べてもらった結果、そう判明しました。それによって締結するはずだったトリニティとゲヘナが行動不能に陥ったことで、そのまま残ったエデン条約をアリウスが引継ぎ、自分達の思うように締結した……」
「……私を支援してたのって、そういうことかぁ……はあ。本当にどうでもよかったんだね、和解なんて」
マダムからすれば、トリニティがエデン条約の調印式さえ行えば後はどうでもよかったのだろう。ミカが来たことで、彼女をホストに据えれば、トリニティの動きをマダムが事実上掌握したも同然となる。そして、曲がりなりにもアリウスと和解することを信じて動いていたミカの心をセイアを暗殺することによって追い詰め、自分に都合のいいように操ることなど、簡単なことだったのだろう。そしてそれすらも、調印式のことを考えれば成功すれば好ましい、失敗してもデメリットはない、という程度のものしかないのだ。
「でも、ナギちゃんの件からあっさり手を引いたのも、私やアズサちゃんも全く触れなくなったのも納得したかも」
故に。ミカが奮闘していたこと自体ただの余興でしかない。アリウスの舵を取っていたマダムにとって、トリニティとの和解など最初からどうでもよく、トリニティとゲヘナを滅ぼせればなんでもいいのだ。
「……でも、これからどうしたらいいんだろう……古聖堂とその周辺は今、ユスティナ聖徒会が占拠してるし……」
「おそらく、アリウスもそこに陣取っていると考えていいでしょう。ミレニアムの生徒と交戦した際にはユスティナ聖徒会が動かない、という欠点も露わになっていますし、おそらくは鎮圧対象をトリニティ、ゲヘナではなくアリウス以外の全てに設定変更するように定義し直そうとしているんでしょう」
ミカが呟く。アリウスの生徒達は現在、古聖堂跡地に陣取っており、攻撃の準備をしていると予想されていた。とはいえ、古聖堂周辺はユスティナ聖徒会が徘徊しており、近づくことも容易ではない。アリウスが制圧する前にナギサ達が全員脱出できたのは不幸中の幸いといえるだろう。と、ハナコの言葉に先生が反応する。
「……待って?定義し直す?もしそれが可能だとしたら……」
「そういうことです。そこが、攻略法ですよ」
「……そういえば、ユスティナ聖徒会をどこで生み出したんだろう。古聖堂は地上部分は吹っ飛ばしてるんだから、それができるとしたら……」
「地下、ですね。そこはシスターフッドの方が詳しいでしょうし、後で調べさせましょう」
そして、一つの光明を見出す。もし、先生が思いついた方法が可能だとするなら、ユスティナ聖徒会に対するカウンターとなる。成功すれば、ユスティナ聖徒会をアリウスは失うことになるのだ。そうすれば、戦局は一気に優位になる。
「よし、じゃあこっちでもまた色々調べてみるよ。先生の方も今日は色々あって疲れただろうし、休んだら?」
「そうですね。先生も落ち着かないとは思いますが、今回の一件を解決するには古聖堂を取り戻す必要があります。そうなったら先生の指揮も必要になるので、少しでも休んでください」
「……うん、わかった。それじゃあ二人の言葉に甘えさせてもらうよ。だけど、二人も休める時に休んでね」
そのためにも、先生には体力を回復してもらうことにする。二人の言葉に先生も反対する理由はなく、二人にも折を見て休むタイミングを見つけてほしいと伝え、テラスから出ていき、仮眠室の方へ向かう。そしてベッドに倒れると、実は見た目以上に無理して動いていたのか、すぐに眠りに入ってしまうのだった。
★
「―――やあ、先生。待っていたよ」
「君は……」
「百合園セイア。今日は、君がここに来る、そんな予感がしていた……いや、来ると信じていたよ」
目を覚ました先生がいたのは、ティーパーティーのテラスだった。だがそこに座っているのはミカではない。金髪に狐の耳と尻尾を持つ小さな少女、百合園セイアだった。
「君が……」
「……最初に謝罪させてほしい。済まなかった。私がもっと、言葉を伝えていれば、この悲劇は避けられたかもしれない……もっと、別の方法でアリウスを支配する真の黒幕を引きずりだせたかもしれなかったというのに」
そう伝え、溜息を漏らす。その様子を見て、先生はセイアに優しく語り掛ける。
「悪いのは、マダムという人物だ。やった行為は消えないし、アリウスの生徒達もそれを背負うことになってしまうと思う。でも……まずはマダムが責任を取ってからだ。これはまだ予想でしかないけど……彼女は大人、だと考えてる。だからこそ、彼女は大人として責任を取らなきゃいけない」
「……そうか。彼女が、信頼を置くのもわかる気がするよ。そして私も……直接話をしてそれを理解できた気がする……やはり、言葉を伝えずにいるのは駄目だな……」
彼女。それはきっと、モルフォの事なのだろう。詳細は先生も聞けず仕舞いだったが、やはりこの二人が夢の中で繋がっていたことは間違いない。そして、セイアの後悔はきっと、多くの人が傷ついたこと、本来エデン条約と関係ないミレニアムの生徒達を巻き込んでしまったことに対するものなのだろう。マダムの影を捉えるために必要だと頭では割り切っていたが、それでも許容できず零れてしまった弱音、なのだろう。と、
「……?」
机の上に、どこからともなく、オレンジ色の羽をした蝶が飛来してくる。それは、セイアの顔を見ていたが、やがて後ろを振り向いて先生の顔を見ると、驚いたように後ろに跳ぶ。
「オレンジ色の……蝶?まさか」
「ふむ?どうやら、他者が夢の中にいると……いや、これは眠りについた彼女が私を探しに来たのかもしれないね。夢の中は自由さ。姿かたちさえも、本人が望むならね」
どうやら、これがモルフォのようだ。しかし、まさかモルフォが蝶の姿でここに現れるとは思わず、先生は驚いてしまう。セイアはというと、一度この羽を生やしたモルフォを見ているためそこまで抵抗感はないようだ。そっと、モルフォの頭部を優しく撫でてから自分の手の甲に乗せると、
「さあ、先生。絶望の未来を変える一手を打とうじゃないか」
そう言い、笑みを浮かべるのだった。