転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……」
完全に崩れ廃墟と化した古聖堂。そこで作業を終えたアツコがサオリに近づいてくる。そして、手を動かして合図を取る。
「わかった。これでユスティナ聖徒会は、アリウス以外の全てを敵と認識し攻撃することができる……」
アツコの仕草に頷き、彼女が言いたいことを代弁するサオリ。その腹部や左腕はゲーム開発部、そしてC&Cとの戦闘で負ったダメージがまだ残っており、包帯が巻かれている。怪我をしているのは彼女だけではない。衣服はボロボロで、小さい傷が多く残っているミサキに、守りの要であったマスクを失ってしまったアツコ。唯一軽傷らしい軽傷も残らず回復したと言えるのはヒヨリぐらいのものであった。
「―――ウォォォォォン……」
「……う、うわぁ、あれが、例の……」
と、嘶きのような声が聞こえてくる。四人がその声に反応して顔を上げると、そこには司祭服を着た、額にヘイローのような輪っかを浮かべた異形の巨人がいた。しかし、不完全なのか、その姿はすぐに消えてしまい、嘶きだけがその場に響き続けていた。
「……」
「トリニティの地下に封印されていた太古の教義をもとに作られた失敗作、ではあるけれど戦術兵器ではある、か」
「そろそろ頃合いだ。トリニティに進軍する……そして、トリニティとゲヘナを、滅ぼ……」
「た、大変です!!」
「「「「!」」」」
やらなければいけない作業は終わった。これで、ユスティナ聖徒会も戦力になる。と、なればもう動かずにいる理由もない、作業の間に十分に休息も取れたと、いよいよ攻撃開始の命令を下そうとしたその時だった。薄い灰色の髪に、水色のヘイローを浮かべるガスマスクを付けた少女がサオリ達の下に慌てた様子で駆け寄ってくる。
「こ、攻撃です!トリニティとゲヘナが……シャーレと一緒に攻め込んできました!」
「ちっ……!」
少女の言葉を聞き、舌打ちをするサオリ。昨日の今日、しかもまだ早朝だ。まさかこうも早く体勢を立て直して攻めてくるとは。
「奴らのせいで狂ったか……」
「……色々予想外でしたね……ヘイローを破壊する爆弾にも耐えて、しかも救援まで……」
本来の予定ならこちらも闇に紛れてユスティナ達を、アリウスの生徒達を進軍させて一気にトリニティの校舎を落としにいけたはずだ。混乱も落ち着いていないトリニティを制圧することなど簡単なはず。しかし、その流れは彼女達、ゲーム開発部の手によって大きく狂わせられてしまった。先生は殺せず、ヒナも取り逃し、ユスティナ聖徒会に関する情報まで持っていかれてしまい、アリウススクワッドも負傷。先の戦いは、初動こそ成功したが大きな痛手を受けてしまったと言わざるを得ない。
そして、その弊害は巡り巡って、相手に先手を打たれるという事態を招いてしまった。
「ど、どうしますか……?」
「ユスティナ聖徒会に迎撃させろ。アリウスの生徒達は待ち伏せだ、ユスティナを囮に奴らにゲリラ戦を仕掛ける。すぐに伝えろ!」
「は、はい!!」
サオリの指示を受け、少女が急いで走り去る。そしてサオリは、目を細めながら、曇天の空を見上げるのだった。
★
「っ!」
「あれえ?こいつら攻撃しないんじゃなかったの?今日はできるようになっちゃってるねー」
「うーん、昨日はできなかったんだけど、もう直っちゃったみたい!」
古聖堂を目指す生徒達。その前に立ちはだかるユスティナ聖徒会が放つアサルトライフルを盾で受け止めながら、彼女たちが当たり前のように攻撃できていることにホシノは少し驚いていた。その後ろから、彼女を遮蔽物にするようにアスナがユスティナ聖徒会を撃ち抜きながら、首を傾げる。
「……それにしても、さっきからこのユスティナって奴しか出てこないけど……アリウスの生徒はどこなの?」
「こいつらは幾らでも出てくるんだ、自分達は後ろにすっこんでいるはず!とっとと食い破って奥に……」
「待って、イオリ―――」
「いや、おかしい」
「いっ!?」
ある程度進軍してきたが、未だに姿を見せないアリウス。ユスティナを利用して被害を可能な限り軽微に済ませようとしているのだと推測し、ユスティナがやられ、開けた道を突っ込もうとする。チナツが突出するのは危険だと警告しようとしたその瞬間、シロコに首を掴まれ止められる。
「……そんなの効率が悪い。確実に、ちゃんと相手を仕留めるなら後ろに鎮座なんかしない。むしろ打って出る。いないっていうのはそういうこと……私達を確実に仕留めるために罠を沢山用意してる」
「げほっ、げほっ、でもどこにも……」
「……!」
「ぐあっ!」
シロコに抗議の視線をイオリが向けようとしたその時。カリンがシロコの意図を理解し、ある場所を撃ち抜くと、そこから悲鳴が漏れる。
「あれ!?今の声って……」
「……アリウス」
『気を付けてください!アリウスの生徒は瓦礫や遮蔽物を利用して潜んでいるようです!ここからはおそらく、罠なども多くあるはずです!』
「……そのようですね」
アカネがワイヤーを撃ち抜くと、それに連動してトラップが作動し爆発が起こる。その様子を見て、面倒くさそうにネルが舌打ちをする。
「面倒だな」
「……単なる爆発ならいいが、その中にヘイローを破壊する爆弾がある可能性もある」
「それさえないのなら強引に突破もできるんだけど」
ネルの言葉に同意するようにツルギとヒナも頷きながら口を開く。しかし、トラップがどこにあるのかなんてぱっと見ではわかるわけもないし、トラップだけでなくアリウスの生徒だっているのだ。そして時間をかければかけるほど、ユスティナ聖徒会は現れ続ける。ジリ貧になるのはこちらだ。
「……先生。トラップのありそうな場所や、潜伏できそうな場所は私ならわかる。完全ではないが……」
「こういう時、ゲームなら……」
トラップに詳しいアズサのアドバイスを受けながら索敵を進めていく。そんな中、モモイ達は一旦後方に下がってモルフォに連絡を取り始めるのだった。
★
トリニティに残っていたモルフォは、ドローンから送られてきた映像を写真として切り抜いたり、上空から撮った写真を合わせたりしながら、即席の地図を作り上げていた。
「えーと……私が罠を仕掛けるなら……」
『ここら辺はどう?』
『待って。この法則性なら……』
『後、ここに仕掛ければここに待機していると相手を狙いやすいよね』
『私なら大体このポイントで無限湧きする敵を使って迎え撃とうとしますね』
ゲーム開発部の面々と連絡を取り合いながら、罠がありそうな所、アリウスの生徒が潜んでいそうなところを割り出してそれを先生達に伝えていく。最初こそ補習授業部以外のトリニティ、そしてゲヘナの面々は半信半疑ではあったものの、その指示通りにC&Cと対策委員会が次々敵と罠を見破って突破していくのを見て、その評価を変えていた。
「……驚きましたね。あなた達本当にゲーム開発部なんですか?」
「どこからどう見てもゲーム開発部ですよ?」
「全く信じられないんですが……」
とはいえ、こんなことをやっていればアコが疑惑の目を向けるのも仕方のないことかもしれない。あくまで自分達ならゲームでこういう感じにやる、というロールプレイも織り交ぜながらモルフォ達は予想をしているというのが本音であり、あくまで予想なので細かい修正などは現場にいる面々で行っている、という状態だ。だが、その攻略法は予想以上の戦果を挙げており、敵も焦ってきたのか、出てくるアリウスの生徒も多くなってきている。
「ふふ、信じられないものを信じることも大事じゃないでしょうか。例えば……本来揃うはずのない四つの学園が一つの場所に立っている、今こそ本来なら信じられないものだと思いますよ」
「……まあ、それはそうですが……」
ハナコの言葉に、言っていることはわかるけども……と複雑な表情を見せるアコ。その様子を見ていたモルフォも、アコに質問を投げかける。
「それよりアコさん、ここはどう思いますか?」
「え?まあ……そうですね……罠を仕掛けるとしたら……ここら辺に爆弾を置くんじゃないですか?できるだけ派手に爆発させて一気に人目を集めると効果的かと」
「成程……どう思いますか?ヒナさん」
『ワイヤーを見つけたわ。アコの言う通りね、気付いてくれてありがとう』
「!は、はい!!この調子で全部の罠もアリウスも曝け出してみせます!私達に任せてください!!」
「ふふ……本当にうまいですね、モルフォちゃん」
「あ、はは……こうやって息をするように他の人を巻き込んでいくところは見習うべきなのかな……?」
ヒナに褒められたことで目に見えて嬉しそうな様子を見せるアコ。さすがにここまでの反応は予想してなかったのかモルフォもちょっと冷や汗を流していたが、これによってアコも罠や敵の隠れている場所を予想して伝えてくれるようになり、より作業効率が上がっていく。
「ふむ……この辺りは怪しいですね……どうでしょうか?」
『……成程、確かに罠がありますね。破壊します』
「!セリカちゃん、あそこら辺に隠れてない?」
『あ、いた!』
ハナコとアヤネの指示を受け、ハスミとセリカがアリウスの生徒を発見して気絶させる。
『うわ、ユスティナ聖徒会が出てきた!』
『任せてくださ~い!』
『無限湧きなんて二番煎じ、芸がない人たちですね!』
『……二番煎じ?』
『どうせゲームかなんかの話だろ!』
『うへへ、弾は通さないよ~』
そうしている間も出てくるユスティナ聖徒会はホシノやノノミ、ケイを始め、ヒナやネルも中心となって一気に蹴散らされていく。現場では先生の指揮の下、ユスティナの相手をするグループ、罠を攻略する補習授業部やネルを除くC&Cを中心とした面々、そして出てきたアリウスの生徒を仕留めていく、ホシノらを除く対策委員会や正義実現委員会、シスターフッドといったグループに分かれ、後方からのサポートもあって安定した攻略をすることができていた。
「……」
そんな、後方支援組を、特にモルフォの様子を見ていたミネだったが、ここでスマホを取り出すと、あるところに連絡を取り始めるのだった。
★
「……なんだと?突破されている!?どういうことだ!?」
前線から戻ってきたアリウス生からの報告を聞き、目を見開くサオリ。ユスティナ聖徒会による無限の兵力と、アリウス生によるゲリラ戦。決してどちらが劣るというわけでもないし、むしろ相乗効果としてはまさに鬼に金棒のはずだ。だというのに、相手はそれに対応してきているというのか。
「ど、どうしますか!?このままではここまで……!」
「……戦うしかない……」
自分達の絶対的な優位性であったはずの武器が効果を成さないという事実。だが、それでもサオリは諦めてはいなかった。いや、
「戦うしかないんだ。ここで退いたところで……どうなる」
「それは……」
「お前たちも知っているだろう。このまま奴らに負け、カタコンベに逃げ込みアリウスに戻ったところで、マダムは私達を許すと思うか?」
「……」
諦めたところでどうにもならないという、ある種の諦めの境地にも似た感情なのかもしれない。もう後戻りできない、既に自分達は背水の陣にいるぞと。今こそ、アリウスの悲願を達成しなければならない。トリニティとゲヘナを滅ぼさずに戻れば、マダムは自分達を許しはしないだろう。
「……私達は、この世界の真実を知らしめるはずだった……この世界には殺意と悲しみが満ちている、この世界であらゆる努力は無駄なのだと……なのに、これはなんだ?」
ぽつりと呟く。自分達の世界はそうだった。内戦に始まり、このキヴォトスで尤も死に近い環境であったアリウス。そこでは大火に殺意と悲しみに満ちていた。いくら努力しようと、その環境が変わることもない。故に努力することも無駄なはずだった。だが、目の前のこれはなんだというのか。無限の質量で無慈悲に相手を葬るはずのユスティナが蹴散らされている。死に近いはずの環境で培われた自分達の力は、その殺意と悲しみを込めた戦い方は全く通用しない。無駄だと知らしめるはずの戦いを、相手は乗り越えてきている。
「何が……何が起こっているというんだ……」
「……リーダー……」
「……やはり、あいつなのか?あいつが全てを狂わせたのか?」
サオリの脳裏に、ゲーム開発部の、モルフォの姿が浮かぶ。たった一人の小さな足掻き、小さな羽ばたきだったはずなのに、それが巡り巡り、多くの人を、要素を巻き込んで大きなうねりと、いや嵐になっている。
「何が……何が違うというんだ。アズサも、あいつも、トリニティもゲヘナも、それ以外の連中も……」
「……何も変わらないよ」
「「「「っ!?」」」」
サオリ達の肩が震える。声のした方を振り向いてみれば、そこには既に先生達がいた。
「サオリも、そしてアリウススクワッドの皆も、いや、アリウスの生徒達全員、外にいる生徒達と何も変わらないんだ。だからこそ、これ以上悲劇を広げないために、止めに来たよ」
「先生……!」
そして、後方にいた面々もホログラムで出てくる。そこでサオリは、モルフォの姿を再び目にすることになる。
「……やはり、生きていたか」
「……サオリ」
「……アズサ、お前も来たのか……」
アズサから声がかけられる。トリニティが、ゲヘナが、ミレニアムが、アビドスが。全ての目がアリウスへと向けられる。
「もう、やめよう……これ以上戦ったって……」
「黙れ!まだユスティナは健在だ……!確かに今は、お前たちが押しているのかもしれない。だが―――!」
「うん、そうだね……でもね……本当に戦争を始めたら、もう戻れないよ。サオリ達はそれでいい、そう思っているのかもしれないけど……結局それで犠牲になるのは、何も知らない人たちなんだから」
「聖園ミカ……!どの口が……!」
「……あはは、そうなっちゃうよね。でも、これが今の私の素直な気持ちだよ」
その中から一歩出てきたミカに対して厳しい言葉を投げるサオリ。とはいえ、ミカとしてもそれは甘んじて受け入れるべき意見でしかない。実際に、過去にやったことは消えないのだから。だとしても、そこから前に進むことが大事なのだと。どこか、サオリ達を諭すように語り掛ける。ミカの経験からくる言葉では確かにあったのだが、それでも甘んじて受け入れたくない。そう、言いたげな感情が見て取れた。
「……アリウスと過去のトリニティに何があったのかは情報でしか知ることはできない。だけど……それは本当に手を取り合えないものかしら?」
「……お前たちが作ろうとしたエデン条約のことを言いたいのか。だがそれは、それを悪用しようという思惑ありきのものだ。結局のところ真実など……殺意と悲しみに塗れている」
「でも、心の底からそれを、平和を求めていた人もいるわ。私や桐藤ナギサをはじめとした人たちはそう。悪意も善意も、このエデン条約には両方あったと、そう言えるんじゃないかしら」
ヒナの言葉に食い掛るも、即座に黙らされてしまう。まるでメッキが一枚一枚剥がされていくかのように。信じられない現実を次々と前にして、己の中の認識が、常識が一瞬にして崩れていく気がする。だが認めたくはなかった。まるで子供が意地を張るように。サオリは頭を振りかぶりながら、声を上げる。追い詰められた自分達の心の拠り所をそれに求めるかのように。
「だが、エデン条約は私達が!!」
「……ここに宣言する」
エデン条約は私達に味方した。トリニティとゲヘナを滅ぼす条約。これが自分達の成果であり、この事件の結末なのだと。最早、頭ではわかりかけているのだ。アリウスで、マダムに教えられたそれらの事実が、外の真実ではないことに。だからこそ、彼女達を夢から覚ますために。救うために先生は宣言する。
本来この場で締結されるはずであったもう一つのエデン条約を。
「っ!やめろ!!奴らを止めろぉおおお!!」
何をしようとしているのか。それに気付き、サオリが声を張り上げる。その場にいたアリウス生達が慌てて先生の宣言を止めるべく攻撃をし始める。だが、
「おっとぉ?今は邪魔されちゃ困るねぇ」
「調印式ってのは随分派手なもんだなぁ!参加型の余興たぁ面白い出し物だぜ!」
「邪魔はさせない!」
即座にホシノ、ネル、ツルギを筆頭に生徒たちが前に出てそれを阻む。そしてその間にも、先生の前でヒナとミカが向かい合う。
「トリニティと」
「ゲヘナは」
「「エデン条約機構の成立をここに宣言する」」
そして同時に、エデン条約機構の成立が宣言される。その瞬間だった。煙が、雲が搔き消えていき、いつの間にか天に上った日差しが浮かぶ青空へと変貌する。
「こ、これは―――!?」
「まずい、エデン条約機構が二つ……!?」
「こ、これってまずいのでは……?」
「……」
アリウスがざわめく。それは、ユスティナ聖徒会の崩壊によって確かなものとなる。その理由を推察したアツコが、サオリの服の裾を引っ張りながら伝える。
「……エデン条約機構の正統性が、向こうに認められた……?アリウスだけが認め掲げたエデン条約よりも、四学園が認め、シャーレが第三者となって仲介する形で締結された条約の方が、効力がある、と……!?」
アツコの説明を聞き、サオリの目が見開かれる。事態を呑み込めていない生徒達は確かに多いだろう。だが、目に見えてわかることが二つ。アリウスは最大の武器であったユスティナ聖徒会を失ったこと。
そして、エデン条約は今、ここに新たに成立したということを。