転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
その場にいた全員が、戦闘を中断して目の前の光景に目を奪われていた。消えていくユスティナ聖徒会。締結されたもう一つのエデン条約。それらが示す意味。
「……二つのエデン条約がユスティナ聖徒会の目的、その行動に致命的な矛盾を引き起こした……」
当然、ユスティナ聖徒会は混乱し、どちらが正しいか、それを判断する必要があった。そして、その指標として選ばれたのは、総意と言えるもの。新たなるエデン条約であった。
「……成功したのか?」
「多分」
動きを止めつつも、いつ動くかがわからず、警戒するようにアリウス生達を睨みつけながら、ネルが呟く。アスナがいち早く反応して返答したことで、作戦の成功を認識する。実際、時間が経っても消滅したユスティナ聖徒会が戻ってこないところを見るに、アスナの直感に頼らずともそれは目で見て理解できる。
「……でも、どうして……?」
「私達が先にエデン条約を締結させたんじゃないの……?」
だが、その様子を見て現実を理解しきれていないのかアリウスの生徒から疑問の声が飛び出す。ユスティナ聖徒会を相手が乗り越えてここまで来たのはまだいい。自分達のゲリラ戦術が破られるのも理解の範疇だ。それだけ、相手の方が自分達より抜きんでていただけの話として受け入れられるからだ。しかし、ユスティナ聖徒会が停止するそのメカニズムまではわからない人もいたようで、そのざわめきは静まり返った空間に広がりつつあった。
「確かに、アリウスの皆が成立させたものもエデン条約だよ。だけど、この場で締結されたものもまたエデン条約。ユスティナ聖徒会は選んだんだ。皆を守るエデン条約を」
「それって、私達を敵にするってことじゃ……」
「違うよ」
そんな生徒達の声が聞こえた先生が優しく語り掛ける。敵と思われた大人からかけられた優しい言葉に思わず呟きを漏らしたアリウス生が体をビクッと揺らすも、先生は彼女を怖がらせないように声音に気を付けるように言葉を続ける。
「もし、ゲヘナとトリニティが本当に戦争……全面戦争をしたらどうなるかな?」
「え?それって……」
「……そりゃあ、どっちかが消えるんでしょ」
「サオリはどう思う?」
「……何?」
突然、話を振られ呆然となっていたサオリは驚くも、その言葉によって少しだけ冷静さを取り戻す。この場合の戦争というのは、アリウスの横やりがない場合の戦争、という仮定なのだろう。自分達の知り得る限りのゲヘナとトリニティの戦力などを考えて、そしてサオリが下した答えは、
「……どちらも消滅する。そうとまではいかなくとも、再起不能にはなるだろう。立て直せるかどうかも、わからない」
「不正解だよ。いや、ある程度は合っているかな」
「……何?」
だが、サオリの答えでは不十分と言われてしまい、思わず眉を潜めてしまう。トリニティとゲヘナの二学園間の戦争で、両方が消える。先生の口ぶりではまるで、これだけでは済まないと言っているようなものだ。しかし、それが何なのかさっぱりわからなかった。
「……戦争は、二つの学園だけの話じゃなくなるんだよ。トリニティとゲヘナ程の大きな学園が全面戦争なんてしたら、ミレニアムもアビドスも、百鬼夜行も、それ以外にもいろんなところに影響が出るんだ。そうなったら、一刻も早く戦争を終わらせようと、トリニティとゲヘナにそれぞれ他の学園も協力し始めるかもしれない。最初は皆様子見をすると思う。言葉で止めようとするはずだ。でも、止まらない。そうなったら、いずれ耐えかねて、どこかが介入し始める。どこかがそれを始めれば、次から次へと便乗していく。それが続くとどうなると思う?」
「それは……」
「そう。トリニティとゲヘナの戦争じゃない。トリニティだった勢力と、ゲヘナだった勢力によって行われるキヴォトス全体を巻き込んだ大戦争……その果てに待つのはキヴォトスの滅亡」
実際には色々な事情も絡んでくるだろうし、必ずしもこうなるとは言えないけどね。と注釈を付け加えて話を締め括る先生。だが、二学園からキヴォトス全体に広がっていく戦火の炎に、思わずアリウスの生徒たちも黙ってしまう。否定をしようにも、この場に既に他の二学園も存在しているのだから、既にトリニティ、ゲヘナ、アリウスだけの話では済まないという先生の言葉には説得力が生まれてしまい、反論ができずにいた。
「だから、エデン条約はキヴォトスに存在する全ての生徒を守るための条約として機能する必要があるんだ。ユスティナ聖徒会も、きっとそれを理解してくれたんじゃないかな。今のこの条約であれば、君達アリウスの子達も守ってくれるって」
「わ、私達を守る……?」
「ふざけるな……こんなもので争いが無くなると本気で思っているのか!?」
「これだけじゃ無くならないかもしれない、でも、ゲヘナとトリニティが戦争をすることは絶対になくなる。キヴォトスが戦火に巻き込まれることもなくなる。起こるかもしれない争いは確実に消える。確実にその一歩へと踏み出せていると思うよ」
「……!」
先生の言葉に遂に黙ってしまうサオリ。他のアリウス生達も同様に言葉を失ってしまっていた。自分達のやろうとしていることが、既にキヴォトス全体に及ぶ大惨事になっていると、そこまで想像が至らなかったのだろう。
「……こうなるかもしれないって、マダムは知っていたんでしょうか……」
「「「……」」」
ぽつりと、ヒヨリの口から疑問が呟かれる。ここまで色々な準備をしてきたマダムなら、先生の言う可能性が存在しているかどうかを知っていてもおかしくないはずだ。
「……まさか……マダムは……」
「……」
ヒヨリの呟きに、サオリの口が震える、その様子を意味深そうにアツコが無言で見つめていたが、そのサオリの呟きのせいで、他のアリウス生にも動揺が次々と広がっていく。そして、
「もう、ユスティナ聖徒会もいないし、私達だけじゃ勝てないし……勝ってももっとやばくなるんじゃ、もう、終わりなんだ……」
遂にアリウス生の一人が呟いてしまう。その呟きが伝播するかのように、次々と武器を持つ手が下に下がっていく。敵意も消えていく様子を、先生達が見届けようとしたその時だった。
「……これで諦めるつもりですか」
「!?」
甲高い、だがガスマスクでくぐもった声で、一人の少女が声を上げた。サオリが唖然となり、その少女の名を呼ぼうとした瞬間、それを遮るかのようにその少女がさらに声を重ねる。
「これで終わりだと……ここまでやって、終わりだと、本当に思うんですか?サオリ!私達の戦いは……この怒りと恨みは、まだ消えていない!」
「だが……!」
「ではここで奴らに……トリニティに捕まってもよいと!?そうなれば、私達の戦いは本当の意味で終わるんですよ!」
「!!」
少女がガスマスクを脱ぎ捨て、その下にある紫色の瞳でサオリを射抜く。黒い、だが先端が紫のグラデーションになっているショートヘアの少女がサオリに掴みかかる。
「ここまできて……やっと、トリニティに積もり積もった恨みを、憎しみを晴らす!そのために私達はここまで来たはず!エデン条約?そんなもので全てが解決はしない!マダムに選ばれたアリウススクワッドなら少しは使命を果たしたらどうなんですか!」
「……スバル……ッ!」
スバルと呼んだ少女の厳しい言葉に、サオリの表情が引き締まっていく。それだけではない、他の生徒達も同様だ。戦いを諦めていたような雰囲気が変わっていく。それを察知したのか、正義実現委員会と風紀委員会もそれぞれ武器を構え直す。
「ちっ……大人しくしていろよ……」
「……ここで逃がすわけにはいきません」
イオリとハスミも毒づきながらも銃を構え直す。そして、サオリはスバルと呼んだ少女を改めて見る。
「……すまないな。先生の言葉に惑わされすぎたようだ。そうだ……それが正しいと、証明できる手立ては……ないはずだ……」
「本当はこんなこと言いたくもないんですがね。とはいえマダムの手前、特別ですよ」
「……ここは任せる。私達は……戦術兵器を起動させる」
「!……成程、あれはエデン条約とは関係がないから動くと……いいでしょう。どうやら私達が勝つには、あれしかないようですし」
「……戦術兵器……!?」
戦術兵器。サオリがそれを口にした瞬間にその場にいたスバル以外のアリウス生達にマスク越しの目の色が変わる。まだ、自分達には希望が残されている。それを悟ったかのように、再び銃を撃ち始める。
「行ってください!」
「戦術兵器を……奴らに裁きを下してください!」
「アリウススクワッド!」
「行くぞ皆!」
「ま、まずい!!」
そしてアリウススクワッドも走り始める。それを追いかけようとするも、決死のアリウス生達の攻撃によってその場に縫い留められてしまう。絶えず爆薬を投げ込まれれば、それの中に普通の爆弾ではなくヘイローを壊す爆弾があるかもしれないという懸念から足止めを喰らってしまう。その間に、サオリ達は古聖堂の地下へと入って行ってしまう。
「しまった、地下に……!先生!」
「わかった、アズサ!」
『先生!その近くに別の地下へ続く通路があるはずです!』
「先生、私達が奴らを抑えます!先生は地下へ!」
『ヒナ委員長、行ってください!この場はイオリ達でどうにかします!』
「わかったわ、先生、行きましょう」
「サオリ……先生、私も行くよ」
「ヒナ、ミカ……わかった」
古聖堂へ向かったアリウススクワッドを追いかけるため、先生は補習授業部だけでなく、ヒナとミカを連れて追いかけようとする。
「この先なんかやばい!リーダーとホシノちゃんも向かった方がいい!」
「「!!」」
『先生、ネル先輩達も一緒に連れてってください!古聖堂の地下への入り口はゲーム開発部で守ります!』
「私達も残るよー!こっちは人数必要そうだし!」
「ここではアリスより私の方が適任そうですね」
「ん、そういうことならホシノ先輩も先生と一緒に行って」
「うへ、わかったよ」
「……アリウススクワッドは私の手で取っ捕まえたいところですが、リーダーに役目は譲ります」
「ったく、生意気な奴だな!ま、ここはありがたく譲られてやんよ。いいな、先生!」
「うん、二人も一緒に行こう!」
さらにアスナの進言もあり、ネルとホシノも連れ、合計八人で古聖堂へと突入していく。その様子が煙幕の隙間から見えたスバルは舌打ちをしながらも、
「……まあ、いいでしょう。あの戦術兵器が目覚めれば……」
期待を込めるかのように呟きながら、攻撃を続けるのだった。
★
「古聖堂の地下ってこうなってたんですね……」
「私も入るのは初めてかも……」
「サオリはどこに……」
古聖堂の地下へ入った八人はその内部を走っていた。しかし、アリウススクワッドとは入ってきた入り口が違う上に、サオリ達は戦術兵器なるものを使うためその場に行こうとしている。
「ミカ、心当たりは?」
「う、うーん……待てよ?そういえば古聖堂の地下には太古の教義っていうのがあった気がするけど……もしかしたら、それかも……!?」
そして先生達も、ミカの案内を元に奥へと進んでいく。その間も、アリウスが先制攻撃してきた時に備えて全員が警戒していたが、やがて開けた場所に出ると、そこにはアリウススクワッドがいた。
「っ、アズサ……」
「……サオリ」
「ここに、戦術兵器が……?」
「どこだ……!?」
アリウススクワッドへの警戒を補習授業部と先生を守るように盾を構えて立つホシノに任せ、戦術兵器を探すヒナとネル。しかし、どこを見渡してもそれらしき影が見えない。アズサたちが見れば、サオリ達もどこか呆然となって立ち尽くしているようにも見える。
「……サオリ」
「せ、戦術兵器はどこよ!」
「う……」
コハルの言葉にヒヨリが気まずそうに視線を逸らしてしまう。その仕草が意味することは、彼女たちが用意していたはずの戦術兵器はここにはないということだ。
「……戦術兵器はない、ということですか」
「へえ……じゃあ、打つ手はないってことかな?」
「……サオリ、もう諦めて」
最後の逆転の一手を失ってしまったアリウススクワッドに、アズサが語り掛ける。アズサの言葉を受け、ヒヨリだけでなく、ミサキも、そしてアツコもサオリを見る。
「……もう、手札が無いね……私達の負けだ」
「そうだよ、サオリ。これ以上はもう、やめ……」
「ふざけるなよ、聖園ミカ……!」
「……うわーお、やっぱり私は黙っておいた方がいいね……」
「ミカちゃんやっぱり嫌われてるんだ……」
だが、ミカの言葉を遮るかのようにサオリが声を張り上げる。ミカの言葉はサオリの精神を逆撫でしているのかもしれない。いや、そうならざるを得ない面もあるのだろう。とはいえ、その事情を知らないホシノ達からすれば、その理由がアリウスと手を切ったからではなく、ティーパーティーだからという風にしか見えないのだが。そして、この場に来て絶望と虚無と共に落ち着いてしまったサオリにとってはミカへの怒り以上に、アズサに対してどうしても聞かずにはいられなかったことがあった。
「何故だ……何故……どうしてなんだ、アズサ」
「……」
「私達は一緒に苦しんだはずだ……絶望したはずだ……この灰色の世界に。全てが虚しい。この世界は、そのはずだ……なのに、お前だけが意味を見出せたんだ?」
「……それに明確な答えはきっと出せない。出せたとしても、それは私の答えであってサオリの答えではないから。それでも、私なりの答えを出すなら……例え虚しくても、私はそこからまた、足掻いてきた。足掻き続けた先に……きっと、何かがある。それを私は、たくさん見ることができたから」
「……」
足掻き続ける。アズサのその答えに、サオリは言葉を失ってしまう。ある程度、わかっていたことだ。だが、実際にそう答えられると、どうしようもない現実を突きつけられているような、そんな気分になってしまう。ホログラムで出てきたハナコを含め、他の補習授業部の三人を見て、既にアズサは遠くへ行ってしまったのだと、嫌でも痛感させられてしまう。
「その通りです。確かに……この世界にはいろんなことがあります。辛いことや悲しいこともきっと……でも、それを乗り越えることはきっと、できるはずです。だから……こんな形にはなってしまいましたが、いつか、アズサちゃんのようにアリウスの皆さんとトリニティが本当の意味で仲良く過ごせたらいいなって……思っています」
「……まあ、こんなことをしたら今すぐに、っていうのは難しいかもしれないけど……でも、元は同じトリニティだったなら喧嘩するのはやっぱり、間違ってると思うのよ……」
『今のトリニティと昔のトリニティは違います。こう言っても、素直に受け取れはしないと思いますが……それに、トリニティが気に入らないならいっそ、自分達からこいつらを捨ててやったと思って外で生きてもいいと思いますよ。好きの反対は嫌いではなく無関心、という言葉もありますし』
そして、補習授業部の言葉もまた、アリウスを頭ごなしに否定するわけではないということも、サオリにとっては複雑な言葉であった。それどころか、ハナコが言うように本人は寧ろトリニティはそこまで好きじゃないとすら思える言動のせいで、ハナコ本人がどこまで意図しているのかはわからないが謎の親近感すら感じてしまう始末だ。
「うーん、まあ、さ……絶望してても、だらだらとでもいいから生き続けてたら……良いことはあるよ、ちょっとはね」
「……誰だか知らないが、絶望したこともない奴が……」
そんなサオリの様子を見て、見て居られなくなったのだろう、ホシノが呟く。いきなりトリニティでもアリウスでもない部外者が口を出すなと一蹴しようとするサオリだったが、
「したよ。目一杯の奴をね」
「ホシノ、あなた……」
「結局さ、絶望なんて何がきっかけで気にならないで済むかどうかなんてわからないと思うよ?まあ、もう一つだけ言えることがあるとするならさ……」
その時、サオリはホシノの目を見て気付く。彼女の目は、アリウスでもよく見たことのあるもの。絶望に浸ったことのある目、その面影を感じられるということに。だが、それは面影だけ。今の彼女の目は光に溢れている。はっきりと現実を見据え、アズサと同じく足掻き、未来に進もうとする目だ。
「お前は、一体……」
「おっと、これ以上はシークレットだよ。女の子の過去はそう簡単に踏み込むもんじゃないんだよ~」
「だったら自分でチラ見せしてくんなよ」
思わず呆れた様子でツッコむネルだが、彼女もホシノが過去に何かしらあったということはこれまで一緒に過ごす中で理解している。本人がそこまで深刻そうな様子を見せてはいなかったため、気にはしていなかったが。
「……私が言ったらまた怒るかもしれないけどさ。絶望してたのは私も一緒。絶望して、もう行きつくところまで突っ走るしかないって、そう思い込んでた。でも、まだやり直せるって、外から気付かせてくれた人がいたから、私は皆と一緒にやり直すことに決めた。まだ色々やることはあるけどね……だから、サオリ達も、もう止まろう?」
「……サッちゃん。もう、終わりにしよう。とっくにわかってるはず、私達が負けてること」
「!?姫、喋ったらマダムが……!」
そして、ミカの言葉に同意するように口を開いたのは、なんとアツコであった。しかし、その言葉を聞いてサオリが驚いたように口を開く。あの時、モルフォの反撃を唯一アツコだけが気付いた、不可抗力によるものとは違う、彼女自身の意志による言葉だ。だが、マダムによってアツコという少女が喋る行為すら禁止されていたという事実に、先生は表情を少し険しくする。
「大丈夫だよ。もう、全部終わりだから……それに、どちらにせよマダムは私を生かしておくつもりなんてないよ。だから、良いの」
「……どういうこと?」
「……大丈夫、トリニティともゲヘナとも、そっちの人達とも関係ないことだから。だから……逃げよう、皆で」
「……逃げる……?上で、まだ皆が戦っているのに……私達だけが、逃げるなんて……」
「サオリも、理解してるはずだよ。いつからか持っていたこれは、私達の憎しみじゃないって。これを私達は習って……ずっと、私達のものだと思い込んでいた。アズサはそれに気付いていたから、外に出て、色々な事を学び、様々な経験を得て……マダムとは違う、本当の良い大人に出会えて、自分の居場所を見つけた」
憎しみを習ったアリウスの教育環境。それを聞き、思わず言葉を失ってしまうヒフミ達。教えられた憎しみ、それは彼女たち本人の意思で感じて、考えて抱いたものですらないというもの。過去から蓄積されたそれにずっと振り回されてきた被害者を生み出す構造だったのだ。
「だから、逃げよう。今の私達に必要なのは……ここから、アリウスの外に出ること。そこに何があるかはわからないけど……いつの間に植え付けられた、私達のものじゃないはずの憎しみから」
「……逃げる。だけど……」
「大丈夫だよ。君達も、守られてるから。だから、自由を得ていいんだ」
ぽつりと、サオリが呟くと、先生がそれに自信満々に返答する。サオリの言葉が一瞬詰まるも、その視線は、すぐにミカやヒナへと向けられる。だが、ミカは先生を一目見ると、先生も合図するように頷く。
「いやー、アリウスの生徒が古聖堂に潜り込んだって聞いてきたけど……誰もいないじゃんね!」
「……はぁ、わかったわ。とんだ無駄骨だったわね」
「……で?モルフォ、お前はこれでいいのか?」
先生や、当事者であるミカやヒナがこういう判断に出た以上、ネルとしてもこれ以上追及するつもりはなかった。が、それはそれ、これはこれだとモルフォに確認を取る。モルフォの姿がハナコの隣に現れる。
『まあ、いいんじゃないですか?本当に死んじゃったなら冥界から引きずり込もうとするぐらいには恨んだかもしれませんけど生きてますし。復讐だなんだやって皆が悲しんだり嫌な気持ちになるのもあれですしもういいですよ』
「……お前はそれでいいのか……?私はお前のヘイローを……」
『さっきも言ったけど生きてるわけだから別に気にしてないんだけどね。大体、過去が消えないからどうなんだって話よ……そんなの、うるせー私はこうしたいんじゃ!って言っておけば十分!うじうじされてもこっちが嫌!はい終わり!!』
「あ、ああ……」
「うへ、バッサリだ」
『過去はどこまでいっても過去なんで。後悔しようが悲しもうが今が変わるわけじゃないですからね。だったら今いる人達と輝かしい未来ってやつを掴んでみせる方がよっぽど建設的じゃないですか』
「うへへ、それもそうだねぇ」
サオリの態度をバッサリと切り捨てる。大体過去が今に碌に役に立っていないのはモルフォ自身その筆頭では?と思ってる節もあるので本当にどうでもいいのである。知識の全部が無駄ではないのだが。
「わーったよ……ったく、さすがに疲れたぜ。さっさと帰ってゲームでもすっか……後始末はもうリオ達に投げりゃいいだろ」
「お、いいねぇ、モルフォちゃんのお勧めとかまた紹介してもらおうかなぁ?」
「……皆」
アリウススクワッドの意思を確認し、そして先生が合図を出したことで、ミカが笑って、ヒナが棒読みで返す。ネルもモルフォのある程度予想していた言葉を聞いて呆れたように呟き、ホシノがこれで一段落だと少し楽しそうに言う。それらの様子を見て、アズサも笑顔を浮かべる。
「……ありがとう」
「よかったですね、アズサちゃん」
「……ま、悪いのはアリウスの人じゃなくてマダムってやつなんでしょ?」
『ふふ、そうですね。それに、アリウスの人もモルフォちゃんと一緒に遊んだら変わると思いますよ?』
『そこで私に話を振るんですか?まあ、用意してくれと言われたら用意はしますが……』
これで、戦術兵器は機能しない。アリウススクワッドはアリウスから、マダムから解放され、アツコもそのマダムに殺されることもない。ホログラムで出てきたモルフォとハナコも含め、少し雰囲気が明るくなってきた、その時だった。
「……成程彼女がモルペウスか。直接ではないが、よもやここで会えるとは……だが少し悲しいものだ」
どこからともなく声が聞こえ、一人の人物が現れたのは。