転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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先生とヒエロニムス

 

先生達の前に現れた謎の人物。その人物はタキシードを着ており、二つのマネキンの顔を持っていた。その異形の存在に、サオリ達は何故彼がここにと驚いたような視線を向けているところから、どうやらアリウススクワッドはこの人物を知っているようだ。だがアズサは知らないような反応を見せている。

 

「……あいつは……?」

 

その異形の姿からホシノが黒服に似た雰囲気を感じ取ったのだろう、警戒したように盾と銃を強く握りしめる。先生や他の面々も、突然現れた人物に遅れて警戒を強めていく。だが、そんな中でネルが彼の言っていた言葉を思い出す。

 

「先生、あのよくわかんねえ奴が言っていたモルペウスってのはなんだ?」

「……わからない、けど……」

「……モルフォちゃんのことを言っている、のかな」

「……そうなの?」

 

モルペウスという言葉、それが何なのか。この状況に出てきて意味のない言葉を言うとは思わないため、それを理解しようとするもネル達では答えはやはり出てこない。だが、ホシノは険しい表情をしながら、それが誰なのかの予想を付ける。ミカがそうなのかと少し困惑した様子でホシノに聞き返すと、ホシノが口を開く前にマネキンの人物が口を開く。

 

「その通りだ。私は君に強い関心を抱いている」

『んん?』

 

ホシノの答えが正解だと告げるマネキンの男。それを聞いた瞬間にネルがモルフォの前に立ち、男を睨みつけるも、男はそれを気にすることはなくモルフォと先生を見る。

 

「あなたは誰?」

「ふむ……私の事はマエストロと呼んでいただこう。いや、先生にはこう言った方がより伝わるか……ゲマトリアのマエストロと」

「「!!」」

 

ゲマトリアのマエストロ。その名を聞き、先生とホシノの表情が変わる。ゲマトリアという組織に所属する黒服という男。彼はアビドスで様々な暗躍をしていたのだ。先生との交渉によって、彼はアビドスから手を退き、ホシノ達に関わることを止めた。その約束事がどれだけ効果を発揮するのか、それはわからない。契約を自身の根幹レベルで重要視すると感じたからこそ、素直に手を退いたが、あれはあくまで黒服との契約であって、ゲマトリア全体に対しての契約ではない。つまり、ゲマトリアにいる他のメンバーについては自由に振る舞えるということになる。もし、今回のエデン条約の調印式に関する一連の混乱にゲマトリアが関わっていたとしたら。

 

「先生、そなたの事も聞いている……とても興味深い存在だ。そして、今回のこの一件で、私の中の先生への関心はより強まったと言えるだろう。そしてモルペウス。君がこの場にいることを、芸術家としては非常に残念に思う」

『……それって私の事ですか?モルペウスってなんですか?』

「オルフェウスじゃなくて?」

「彼女は詩人ではない」

 

しかし、マエストロにとってはそれはどうでもいい、とまでは言わないが今や関心は他に移っているのだろう。だからこそ、先生はモルフォを守るように、何故ゲマトリアが彼女に目を付けたのかを聞き出そうとする。同時に、何故彼が残念と思っているのかが引っかかっていた。

 

「ここに現れてしまった。そして、彼女は決して小さくない影響を及ぼしてしまった。そして大きいのはかの奇跡を起こしてしまったことだ。よもやヘイローを破壊する爆弾から生き延びてみせるとは。その特異性、当然、マダムも気付くことだろう。それが、残念でならない。私も興味があった芸術性が歪められてしまうだろう」

「?マダムがなんでミレニアムの子に関心を向けるの?トリニティともゲヘナとも関係ないじゃん」

 

サオリ達の反応を見るに、マエストロがアリウスに協力していることは確かだろう。そんな彼がここまで残念がるのは何故なのか。だが、黒服を見ていた先生は、目の前の人物の様子を見て、ある可能性に思い至る。

 

「ゲマトリアは……それぞれ立ち位置が違う?」

「そうであると言える。今回、私はある目的のために関わらせてもらったが、マダムとアリウスの求める目的のそれとは別である。敢えて私の立ち位置を述べるとするなら先生、私自身は君と敵対するつもりはない。とだけ言わせてもらおう……だが」

 

そこでマエストロは一旦言葉を区切り、改めて先生達を見る。その雰囲気が変わったのを見て、ネル達も身構えるも、マエストロは先生だけを見据えながら口を開く。

 

「先生、そなたは素晴らしかった。知性と品格、礼儀と信念、そして培ってきた経験と知恵、そして繋がり……その総てを示し、この結果をもたらして見せた。やはり、そなたならば……きっと、私の崇高を理解してくれるに違いないと」

 

次の瞬間、古聖堂が突然揺れ始める。

 

「な、何がおこってるの!?」

「地震ですか!?」

「皆、散らばってると危険だ!サオリ達もこっちに!」

「え……」

 

まさかマエストロはこの地下を崩落させるつもりだというのか。そうなってはまずいと、生徒達を集めようとする。その声は、サオリ達にも向けられ、それを聞いたサオリが一瞬戸惑う中、アツコだけが部屋の中央に目を向ける。

 

「……これは……まさか、あの教義は完成していた……?不完全な戦術兵器じゃなかったの……」

「おいおい、使えないんじゃなかったのかよ?」

「……これは、使うしかないかな」

 

その気配は、先生にも伝わっていた。そしてそれが、尋常ならざるものだということも。だからこそ、先生はそれを取り出すことにする。一枚の何の変哲もないカード、通称「大人のカード」と呼ばれる代物を。先生が所有する、超常なる力を秘めたカードを。

 

「!そうか、それが例のカードか……!人生を、時間を代価として得られる力……」

「……」

「どの根源も限界も、私達ですら把握できない不可解なもの……!嗚呼、ゴルコンダならあれをどう呼称しただろうか……何か高次元的な表現を教えてくれたであろう」

 

それを見たマエストロが見た目にはわからないが、目の色を変えたかのように興奮の声を上げる。大人のカードには、それだけの力が秘められているようだ。しかし、その言葉に生徒達もまた、表情を険しくする。

 

「見せてくれたまえ先生……そなたが払ってきた代価を……そうして手に入れたものの輝きを……!私の作品に、全力で応えてくれたまえ!」

 

マエストロの宣言と共に、巨大な人影が現れる。赤い司祭服を着たような異形の存在だが、そこには顔がない。右手には巨大な金色の杖のようなものが握られており、額には金色の光輪のようなヘイローが浮かび上がる。

 

「これが……戦術兵器……!?」

「ヒエロニムス……太古の教義によって受肉した存在……」

「不完全な姿でお見せしてしまったことは汗顔の至りだが……私なりのそなたへの敬意と受け取ってほしい。近く、必ず完成させてみせよう……では、先生。もしそなたがこの場を切り抜けたとしたら、再び会えることを心待ちにしていよう。そしてモルペウスよ、マダムには気を付けるといい……そなたの才を彼女に穢されるのは私としても受け入れがたいのでな。君がうまく切り抜けてくれることを私個人としては祈っておこう」

 

ヒエロニムス。アツコがぽつりと呟いたそれが顕現したのを見届け、マエストロはその場からどこかへと去ってしまう。どこへ向かったかは追うこともできないためわからないが、彼はどこかからこの場で先生が大人のカードを使ってヒエロニムスを打倒する様子を見ようとしているに違いない。そして先生も、マエストロが予想した通り、大人のカードを掲げようとした、その時だった。

 

『……先生』

「モルフォ?」

『あのマエストロって人?が言ってることは本当なんですか?人生を、時間を代価にするというのは』

「……うん、それが具体的にどういうことになるかは使ったことがないから、まだ私にもわからないけど……マエストロの言っていること自体は嘘じゃないよ。多分……」

『……それは、ミカさん達がいるこの状況でも、それを使わないと勝てない、ということでしょうか?』

 

モルフォとハナコが待ったをかけたのは。二人の言いたいことを他の生徒達も理解したのだろう、ヒエロニムスを睨みつけるように、ネル達が銃をヒエロニムスに向けると、ヒエロニムスが杖を掲げると共に数体のユスティナ聖徒会が現れ始める。

 

「ユスティナ聖徒会が……!?」

「あのヒエロニムスは、ユスティナ聖徒会を復活させられるってこと……?」

「先生。その大人のカードというのがどんな力を持ってるかはわからないけれど……それを先生に使わせない方がいいのよね?」

「成程な。アスナが言ってたやばいってこういうことか。なら、あたしとホシノも連れてけってことは……」

「私達ならどうにかできる、ってことだね」

 

だが、ネルやホシノといった面々の顔は絶望に染まってはいない。それどころか、先生が持つ最終手段がある、という保証があるという心強さすら感じられる。だからこそ、それを使わせずに勝つことが大事なことなのだが。

 

「……ユスティナ聖徒会は私達が食い止める」

「や、やってやるわよ!これで最後なんだから!」

「いきましょう、アズサちゃん!コハルちゃん!」

 

そのためにも、補習授業部が露払いを買って出る。復活させられたユスティナ聖徒会だが、その動きは皆が知るものよりも鈍い。おそらく、不完全なヒエロニムスによって召喚されたこと、エデン条約が書き換えられたことが影響しているのだろう。ヒフミ達の手でも十分対応可能だ。そして、ヒフミ達がユスティナ聖徒会を止めることができているということは、

 

「オラオラオラァ!!」

 

ヒエロニムスはネル、ホシノ、ヒナ、ミカの四人をユスティナ聖徒会で妨害することができないということ。四人から次々と弾丸を叩き込まれ、ヒエロニムスの体にも少しずつだがヒビが入っていく。ヒエロニムスは倒されたユスティナ聖徒会を補充するように召喚し直しながらも、その場から動くことはない。どうやら、ヒエロニムスは動くことができないようだ。と、

 

「っ!皆、足元に気を付けて!!」

 

先生の合図と共に四人がその場から跳ぶ。直後、四人の足元に魔法陣のようなものが出現し、そこから光が立ち上る。

 

「うわお、こりゃ厄介そうな攻撃だね」

「ちっ、面倒そうな攻撃しやがって!」

「注意しなきゃいけないのは足元、か……ユスティナ聖徒会が残ってたら前も見ないといけないからまずかったかもね」

「でも、先生のおかげで種は割れたわ」

「四人とも散開して四方から攻撃を!」

 

先生の指示に従い、ヒナ達は四方に分かれ、ヒエロニムスを攻撃する。ヒエロニムスは体の向きを変えることぐらいはできるのかゆっくりと体の向きを変え、生徒を捉えて攻撃しようとするのだが、

 

「悪いけど、もう引っかからないよ」

 

ミカがその場から軽く跳ぶと魔法陣を避けてしまう。攻撃を回避しながらも、ミカはヒエロニムスが杖を握る右腕を集中して攻撃し続ける。ホシノも杖を狙い撃ちするように攻撃を重ねていき、ヒエロニムスの背中側が見える位置に散ったネルとヒナは頭部や下半身を狙って攻撃を重ねていく。

 

「アズサ!右の奴が攻撃しようとしてる!」

「わかった!」

「コハル!手榴弾を!」

「ええ!」

「ヒフミ、左を!」

「はい!」

『ヒエロニムスの動きも徐々に鈍くなってきています!この調子なら……先生!』

 

補習授業部は先生の指揮の下、ユスティナ聖徒会を殲滅していく。その様子を映像越しに見ながら、モルフォはマエストロが生み出したヒエロニムスの特性について考えていた。

 

『おそらくですが、ヒエロニムスなる奴の挙動を見るに設計思想にはエデン条約に関わらずユスティナ聖徒会を作り出すという意図があったんだと思います。だから、ヒエロニムス自体は自分を攻撃する、接近する相手を迎撃の範囲で攻撃するに留めて、ユスティナ聖徒会自体が減ったらそれを即座に補充する、というプログラムに従って動いていると予想できます。現状のヒエロニムスそのものは象徴、単体による生産機関であって、本来相手を殲滅するのはユスティナ聖徒会の役割になるんだと思います』

 

どこか、機械的にすら見える、いや実際、システム的に動いているとしか思えないヒエロニムス。が、そうであればミレニアムの生徒にとっては尤も理解しやすい手合いである。もしこの場にいるのが満身創痍の生徒だけであったのなら、先生も最後の手段を切る必要があったのかもしれない。しかし、万全のネル達がいて、今のヒエロニムス最大の武器であると言えるユスティナ聖徒会の先兵も無力化されているとなれば、本体はただの硬いだけで碌な攻撃ができないだけのボスでしかない。

 

『それだけを聞くと、今回の事件はユスティナ聖徒会やこのヒエロニムスを生み出すために引き起こされた、とも取れますが……』

『そ、そのためにマダムなる人物はミサイルなんて撃ち込んだというんですか!?』

『……だとしたら、とんでもないことになりますね。今回の戦いを制するために現地で足りない戦力を補充するためにユスティナ聖徒会を確保する、というのが目的ではなく、ユスティナ聖徒会を無限に生産可能にすることそのものが目的であると言えます。先程、彼女……アツコさんを生かすつもりがないという発言を考慮すると……』

『マダムはここで全てのアリウスの生徒が死んでも構わないと思ってる。むしろ戦力だけなら指示を飛ばせばそれに従って動いてくれる無限の兵力ユスティナ聖徒会だけで十分だから……無論、人の自由意思が必要な所はあると思うけれど』

 

モルフォの仮説を聞いた上でアヤネがそう判断する。もしそれが本当だとするなら、アコやハナコの言う通りとんでもない行動をマダムは取っていることになる。それらを総括し、はっきりと生徒達の死についてモルフォが触れると、サオリ達の表情が険しくなっていく。

 

「……だとしたら、私達がやってきたことってなんだったの?」

「た、確かに色々教えられはしましたけど……でも、私達が全員死んでまで、トリニティとゲヘナを滅ぼせ、だなんて……そこまでは教えられてはいませんよ……」

「……教えなかったんだろうね。そもそも、マダムはアリウスの外から来た人間なんだからアリウスの憎しみなんて最初からどうでもよくて当たり前なんだよ」

「……ああ、そうだったのか……」

「サオリ達はこっちに!そこにいると巻き込まれる!!」

 

四人の話を聞いて、アリウススクワッドもどこか冷めたような、達観したような表情を浮かべていた。今まで知らなかった、いや知るという発想すら抱かなかったマダムの本性を遂に知ったのだろう。植え付けられた憎しみから解放されつつあることも相まって、本人たちが思った以上にはっきりとその事実を受け入れつつあった。

 

「ウォオオオ―――!」

 

ここで、ヒエロニムスが突然咆哮を張り上げる。ボロボロと体を崩れさせつつあり、倒れるのも時間の問題だろう。だが、限界を迎えつつあるヒエロニムスが暴走を始めたかのように、大量のユスティナ聖徒会を生み出してしまう。

 

「なっ!?」

「ま、まだこんなに……」

「まずい……!」

「うわ、これまずいね……うおっと!?」

「ちい!?」

「わわわ!?」

「こいつ、無差別に……!」

 

さらに、ヒエロニムスは周囲に手あたり次第に魔法陣を生み出し始める。狙って攻撃されてないせいで逆に回避に注意せざるを得なくなり、これまでとは異なり補充のためにユスティナ聖徒会を生み出すのではなく、際限なく生み出し始めるようになってしまったため、ミカ達はここから一秒でも早くヒエロニムスを倒すことを目指さないといけなくなってしまった。

 

「ごめん先生、こっちちょっと手助け無理っぽい!」

「わかった……!」

「!アズサちゃん!!」

「―――!?」

 

そして、一瞬の隙をついて数体のユスティナ聖徒会が、アズサに銃口を向ける。それを避けることもできず、弾丸が放たれようとしたその時。サオリ達が撃ち込んだ弾丸が、ユスティナ聖徒会を吹き飛ばしたのは。

 

「……これで許されるとは思っていない。だが……これ以上マダムのために戦うのはもうやめだ」

「これでもうアリウスに帰れなくなっちゃったね。まあここまできて戻る選択肢はないんだけど……」

「ああ、戻るべき学園も行くべき場所もなくてただただ逃げるだけのちっぽけな女の子になっちゃいましたね……でもなんででしょう、虚しくてしょうがないはずなのに……この感情は」

「こいつらを壊すのは私達も協力するよ」

「サオリ……ミサキ……ヒヨリ……アツコ……皆」

「ありがとう、皆。さあ、終わらせよう!この戦いを!」

 

補習授業部だけでは手が足りなかった戦いも、アリウススクワッドも加入したことでまた戦局は五分に戻される。そして、

 

「これで……終わりだよ!!」

 

ヒエロニムスを無差別攻撃の隙を突いてミカが撃ち込んだ弾丸が、遂にヒエロニムスの体を砕く。一ヶ所が砕かれると、そこから全身にヒビが広がっていき、遂にヒエロニムスが崩壊していってしまう。遂に本体を仕留めた後に、四人が残ったユスティナ聖徒会と戦う補習授業部を見ると、ヒエロニムスの崩壊によってユスティナ聖徒会も動きが完全に止まり始めており、七人の手によって完全に消滅させられていた。

 

「……味方になると、凄い強くて頼れる人達ね……」

「はい……あんな簡単にユスティナ聖徒会を倒せるようになるなんて」

「サオリ」

「……」

「ありがとう。助けてくれて」

 

戦いが終わり、アズサはサオリに手を差し出す。それを見たサオリは手を伸ばそうとして、それを引っ込める。

 

「……今の私にこの手を取る資格はない」

「そうか……だが、いつかその日が来ると信じたい」

「……お前がそう言うなら……いつかは来るのかもしれないな……私が、その手を握れると、そう思える日が……」

 

申し訳なさそうに返すサオリの言葉が途中で途切れる。古聖堂へ続く階段を駆け下りる音が聞こえてきたのだ。

 

「!追手が……」

「早く逃げないと。そしたら誤魔化しきれないよ?」

「……わかっている……聖園ミカ」

「?」

 

地上でも戦いが終わり、生徒達が先生らの援護に向かっているのだろう。ミカの言葉を受け、サオリ達は近くにある地下通路へと駆け出す。だが、そこへ入る直前にミカの方へ振り向くと、

 

「……すまなかった」

 

それだけ告げて、地下通路へと飛び込んでいく。そしてアリウススクワッドの姿が完全に消えたところで、地上から四学園の生徒達がなだれ込んでくるのだった。

 

 

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