転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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百合園セイアとゲマトリア

 

地上で戦っていたアリウスの生徒達は、次第に戦術兵器ヒエロニムスが現れないことを悟り、敗北を悟って逃走を開始。それを追いかけようとはするものの、カタコンベの奥に逃げ込まれてはそれ以上追うこともできず。さらにアリウスの生徒達は逃走戦に関しては四学園のそれを上回るほどの力量を持っているらしく、大半をカタコンベへと逃がす事になる。とはいえ、アリウスは敗走する形でカタコンベの先にあるアリウス分校へと逃げ込んでしまった今、再び外で行動を起こせるだけの余力もないだろう。

 

『……成程、何があったのかは理解したわ。大変だったのね』

 

調印式の襲撃、そしてその翌日に行われたアリウスとの戦い、そしてユスティナ聖徒会とヒエロニムスとの戦い。それらが終わり、やっと迎えた夜。戦いだけが終わったトリニティは未だに混乱が完全に解決したとは言い難く、今もティーパーティーを中心としてその後処理に当たっている状態だ。交通網も未だに麻痺している上に、アリウスの生徒がカタコンベを用いずにトリニティの外へ脱出することを警戒して封鎖状態だ。それ故、ミレニアムは勿論、ゲヘナもアビドスもまだトリニティに滞在することになっていた。

 

「どうもマダムってやつは胡散臭えし、あくまで調印式をどうにかした以上、あたしらの仕事は終わったようなもんだろ。ヘリで空から帰れないのかよ?」

『そうね……陸は無理でも、空なら通れるはず』

 

事件の顛末をネル達から聞かされたリオは、安堵したように溜息を吐く。ゲーム開発部の面々や先生が無事であったこともだが、今回の悪影響がミレニアムに及ぼされることがないとわかったのは非常に大きい。この後は敗走したアリウスを追いかけ、マダムにその責任を取らせる。その後、今回の一件に手を貸したアリウスの生徒達も完全にお咎めなし、ということにはならないだろうが、ミカを筆頭としたティーパーティーと、未だに麻痺して機能しない万魔殿に代わりヒナを筆頭とした風紀委員会の意向、そして先生の進言もあってその罪は大幅に軽くなることになるとのことだ。

 

「……とはいえ、暫くは入院して検査になりそうですが」

 

が、今回捕縛することに成功した一部のアリウスの生徒達は怪我や消耗などもあり、彼女達をミネの指示で保護した救護騎士団によって検査を受けることが決まっていた。救護騎士団も軽くしか見れていないが、栄養不足を始めとした健康上の問題も幾つか確認されており、まずは健常に戻す方が先決である、という決断が下されていた。

 

「……しかし、知れば知るほど別世界の住人のような生徒達だったな……」

「そうですね……マダムという支配者をどうにかすることは必要でしょうし、改善はするでしょうが……根本的な解決にはまだほど遠いでしょうね。トリニティもまだまだ大変そうです」

 

カリンとアカネも、難しそうな顔を浮かべる。こうして関わってしまった以上は思うところは確かにあるが、ネルが言ったようにこれ以上関わるのもそれはまた別の話だ。

 

『ところで……ずっと聞こうと思っていたことがあるのだけれど。トキはどうしたの?』

「あ、トキちゃんならモルフォちゃんがいる病院じゃない?今日の戦いは病み上がりだったり完治しないで来てた人も多かったみたいだし、そう言う人たちをやっと見つけた病院にまとめて入れちゃったんだって。まあ明日にはすっかり大丈夫って言ってたよ?」

『ならいいのだけれど。ヘリは明日そちらに向かうように手配しておくわ』

「ああ、それでいい」

 

そんな中、いつ切り出そうか悩んでいたリオがここでネル達の下にトキがいないことを指摘する。しかし、どうやらトキはモルフォ達の所にいるらしい。

 

「それにしてもトキちゃんすっかり懐いちゃってるねー、部長より懐いてるんじゃない?」

「あ?まあそりゃ同級生の方が接しやすいだろ……」

「えー、でも私もトキちゃん可愛がりたーい」

「お前なぁ……戻ってからいくらでもやりゃいいだろ……」

「ふふ、それもいいですね」

「……アカネも?」

 

むーと頬を膨らませながら楽しそうに言うアスナに思わず呆れてしまうネル。この流れに何故かアカネが便乗し、カリンも思わずツッコんでいたが、ふとアスナが窓の外を見て、何かを感じたかのようにその目を細めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……成程、そんなことがあったんですね……」

 

病室のベッドで目を覚ましたナギサ。すぐにミカが駆けつけたのだが、疲労を隠せない色がその顔には浮かんでいる。昨日からあったことを聞き、それを全て受け入れるのに数分を要したナギサは、脱力したように項垂れ、頭部に走った痛みに思わず手を当てる。頭部には包帯が巻かれており、未だナギサの怪我は完全に治癒しきっていないことを示していた。

 

「アリウスと、そのマダムという人物についてはわかりました。私も復帰次第、アリウスの生徒達への対応と、マダムへの対処を検討しましょう。それで、被害状況については?あ、建物とかはある程度予想はつきますし、今すぐの対処は難しいと思うので人員の方を……」

「えーと……これだこれ」

 

そしてすぐに、被害状況についてミカに問いかける。それを聞いてミカはこの病院の医者やミネらがまとめてくれた資料を取り出してナギサに手渡す。じっとそれらを読み込んでいたナギサは、再び大きな溜息を吐く。

 

「……とんでもない状況ですね……正義実現委員会やシスターフッドが完全に麻痺しているとは。そしてゲヘナの風紀委員会も……ツルギさんやヒナさんらも入院しているだなんて」

「体より精神的な疲労が原因というか、トップを強引に休ませて下の奴らも安心して療養できるように、みたいな?……といってもなんだかんだでツルギちゃんやヒナちゃんはピンピンしてたけどね?」

 

無論、大きな怪我が完治しきっていない人などもいるにはいる。しかし、それ以上に生徒達を苦しめていたのは戦いから解放されたことで襲い掛かってきた精神的な疲労だった。無理もないだろう、これまで経験した中でも特に大きく、苦しく、そして激しい戦いであり、そこにミレニアム、アビドスも加入しての総力戦となったのだから。ユスティナ聖徒会の脅威がまだ残っている状態では気にはならなかったものの、積もり積もった疲労に倒れた生徒達は多く、多くの生徒達が入院しているこの病院のベッドの上で大体が深い眠りに陥っている状態だ。

 

「ふう……後は交通網ですか。こちらも問題がないことをできるだけ明らかにして元に戻さないといけませんね……」

「……今ぐらいは治るまで寝たら?」

 

ぶつぶつと呟くナギサに、思わずミカが呆れていると。ミカのスマホに着信が入る。そこに表示されていた番号を見て、ミカの目が見開かれる。何故ならその番号は、

 

「……セイア、ちゃん?」

「え……!?」

 

もう二度と、使われる事がないはずのセイアの番号だったからだ。ミカが震える手でスマホの着信ボタンを押し込む。

 

「……セイアちゃん……?」

『ああ、私だよ。電話越しだが……随分と話すのも久しぶりだね、ミカ』

「セイアちゃん……!」

「セイアさん!?生きていたというのは……本当だったんですね……!」

『ナギサもいたのか。無事、目を覚ましたようで何よりだよ』

 

そして、セイアの声が聞こえてくる。それだけでミカの声が嬉しさと罪悪感で震え始め、ナギサも驚きに感極まったような声を漏らす。実際にその表情までは確認できないものの、その声音から二人の表情が見えたセイアは、通話越しに優しく笑みを浮かべながら二人を落ち着けるように語り始める。

 

『二人とも落ち着いてくれ。もう私は大丈夫さ……さすがに体はずっと寝たきりだったせいか怠いがね』

「うう……ごめんね、ごめんねセイアちゃん……」

『ミカ……』

 

セイアの言葉を聞き、ボロボロと謝罪の言葉が溢れ出す。自分の迂闊な考えのせいでセイアを殺しかけたこと。色々な要因が重なり、奇跡的にセイアは死なずに済んだのだが、その結果、ミカは長い間ずっと強い後悔を抱えて生きていくことになってしまったのだ。当時の自分の精神状態なども確かにあるし、もう目を覚ましたくない、夢の中にいたい、なんて思っていた時期も確かにあったのだが、それを考慮してもミカの苦しみを助長しているのはやはり自分の行動にも要因があるのだろう。

 

『……謝らなければならないのは私もだろう。もし、もっと私が今に向き合い、未来に立ち向かう覚悟をしていたのなら……いや、今更こんなことを言ったところで過去は変えられるものではないな……それよりも……今の私達に必要なのは、話し合うことだと思っている。言わなかったことや言えなかったこと……そして、本当は言いたかった事も、全部……』

「……うん、うん……」

『今は難しいかもしれないが……その時が来たら、ちゃんと話そう……ミカ、ナギサ。私達がこれから、どうするべきなのか……』

「……ええ、そうですね」

 

だからこそ、セイアは話をしようと持ち掛ける。今の自分達に必要なのは、話し合うことだと。その言葉を聞き、ミカは瞳に涙を浮かべながらしきりに頷き、ナギサも嬉しそうに呟く。

 

「……ミカ様、入っても大丈夫でしょうか?」

「!あ、ちょ、ちょっと待ってね」

『……今日はここまでのようだね。また、話をしよう……それに、どうも目覚めたばかりなのか私も体がまだまだ本調子ではないのでね』

「うん……またね」

『ああ……私も、できる限りの事はやってみるさ。このまま黙っているつもりはもうないからね』

「?それってどういう……あっ」

 

だが、会話はここまでだった。病室の扉をノックする生徒の声が聞こえ、慌ててミカは涙を拭う。セイアの口から不穏な言葉が聞こえたものの、体が本調子ではない、という言葉から考えるに、大したことはできないのだろう。純粋な興味から聞いたものの、通話が切られたことで聞けず仕舞いのまま、病室に招き入れたティーパーティーの生徒から話を聞き始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

マゼンタ色の薄暗い壁が広がっていた。その隅にいたのは、なんとセイア。ティーパーティーのテラスとは違うこの場所で、周囲を確認してみると、そこには四人の男女がいた。セイアは知らないが、黒服、マエストロ、ゴルコンダとデカルコマニー。そして、赤い肌に白いドレスを着た、無数の目が存在する白い頭部を持つ、地面まで続く長い黒髪を持つ女性の四人は、そこで会合をしていた。

 

「此度の一件。要請によって、私は自分の力を貴下に貸したのは覚えているな?戒律を守護せし者達を複製し、そちらの計画に付き合わせた」

「ええ、とても感謝していますよマエストロ。おかげさまで、私は領地でさらに大きな力を得ることができました」

「私は貴下がそれを利用することを許可した覚えはない。そも、私の作品をそのように使うことは許可していないはずだ」

「……だから、今回の集まりを急遽予定したと。こちらはロイヤルブラッドを確保するために尻尾を撒いて逃げてきた者達に次なる動きをさせなければならないというのに……それに、あの現象はあなたの所有物ではないはずですよ、マエストロ」

 

マエストロの事を知る女性。マエストロが貸し与えたという発言が事実ならば、彼女がその、マダムなのだろう。だがこれでは、まるでマダムもゲマトリアのメンバーであるかのように思える。

 

「不躾だな。私は所有権を主張しているわけではない。それは……」

「不躾?よくもまぁ……私にそんな口を」

「……お二人とも落ち着いてください」

「そういうこったぁ!」

 

いがみ合う二人をゴルコンダとデカルコマニーが仲裁する。お互いの立場、世界の織り方、それらは個々によって異なると。だが、それはわかっているとした上でマエストロはどうしても隠せない不満を零す。

 

「……貴下が行うものは芸術ではない。そこに芸術などなく、ただ兵器を生み出すだけの行為だ」

「ええ、そうですが問題が?言っておきますが……私は黒服が提供した技術力も、ゴルコンダが解釈したテクストもそのように使っています。私はあなた達の語る芸術に興味はありません。ゲマトリアの一員になる時から主張してきた話だと思いますが?」

「クックックッ……その通り。それはそれで良いと私は思っていますよ。わざわざ仲間同士で争う必要もないかと……それに。彼女はキヴォトスに自分だけの領地を確保していますからね。私達の計画に最も必要な存在ですよ」

 

その不満を涼しい顔で流すマダム。黒服も、マダムの機嫌を取るかのように彼女を肯定し、ゴルコンダも彼女の功績であるアリウスを自分の支配下に置いたことを功績として褒め称える。

 

「!!」

 

その事実を知り、セイアが息を呑む。セイアも、目の前の人物が件のマダムだと確信したのだろう。

 

「黒服のアビドスは残念でしたが……失礼、皮肉を言っているつもりではありません」

「ククッ、お気になさらず。惜しかったですが……あの先生の存在は私の計算に入っていなかったので。それに……いえ、これ以上マエストロの気を損ねるのもよろしくないのでこの話はここまでにしておきますか」

「シャーレ。私達の敵対者……」

「いいえ、あの者と対敵するのはよくないでしょう。むしろ、仲間として引き入れる方が良いかと」

「私としても大変気に入っている。終ぞ、あの奇跡を目の当たりにすることはできなかったが、先生ならばいずれそれを見せてくれることだろう。もしかしたら私達の理解者にもなり得るかもしれない」

「私はまだ判断を保留していますが、もしベアトリーチェのように私達の一員になってくれるならば……」

 

マダムことベアトリーチェからすれば先生は目の上のタンコブのようだが、黒服とマエストロは正反対のスタンス。ゴルコンダ、そしてデカルコマニーはどちらにも与さないという立場を取るが、ベアトリーチェはそれらを一蹴する。

 

「愚かで怠惰な思考ですね。先生は必ず排除しなければなりません」

「「「……」」」

 

ベアトリーチェの発言に、不満を感じたかのように黒服達の纏う雰囲気に緊張が走る。それを無視し、ベアトリーチェは話を続けていく。

 

「聖園ミカがアリウス自治区を訪れてから、私は彼女から様々なインスピレーションを受け取りました。エデン条約を利用して太古の威厳を確保するというアイデアも、予知夢の大天使を真っ先に処分するべきだという判断も、彼女のおかげで実現できたのですよ。預言者という厄介な存在はさっさと処分するべきですからね、珍しい技術を提供してくれたゴルコンダには感謝しますよ」

「私はテクストを提供しただけ。それを形にしたのはマダムですよ。とはいえ……中々奇妙な現象が起こりましたが。そのせいでマダムの足を引っ張ってしまったのでは?」

(ヘイローを壊す爆弾……!)

 

ゴルコンダとベアトリーチェの合作によって生まれた兵器。それこそがヘイローを壊す爆弾なのだろう。だが、それよりもゴルコンダが遠回しにモルフォの事に触れ始めたことにセイアの頬を冷や汗が流れ始める。

 

「いえ、そのおかげで私も興味深い存在を認識……いえ、そのことについてはまた後程。そして黒服、生贄の体に植えていた防御システムを提供してくださりありがとうございます。闖入者の手に生贄が落ちることがなかったのは幸運でした」

「……クックックッ。無名の司祭たちの技術が役に立ってよかったです」

「さて、話を戻しますが。聖園ミカが最後にくれたインスピレーションが……まさにシャーレの先生についてでした。それにより私は存在を認識することができ、考察を行えたのです」

(……ミカ)

「私がアリウス自治区をターゲットにしたのは、純粋にそこが秘匿された場所だから」

 

ベアトリーチェがアリウスを抑えたのは大した理由があるわけではない。彼女にとってトリニティやゲヘナに向けられた因縁も、怒りも、憎悪もどうでもいい。憎悪はアリウスの生徒達を統制する手段、エデン条約はユスティナ聖徒会の複製を可能にするための催しでしかない。当然、アリウススクワッドを含めた生徒達全員が使い捨ての道具でしかないのだ。

 

「先生がトリニティを訪れ、そのことを聖園ミカが伝えなければ私もそこまで警戒を強めはしなかったでしょう。ですが、かの者は聖園ミカを解放させた。目的は無事、達成しましたが、それを確実にするための手を、聖園ミカの離反と共に無きものへと変えた。アレが介入すると、私が持っている全ての意味が変わってしまうのですよ。あの者は危険です。そのため……私の計画を果たすためには、真っ先に先生を消さなければならないことに気が付いたのです」

「……」

 

先生がトリニティに与えた影響はあまりに大きい。先生自身がエデン条約に賛成の立場を取り続けていたからこそ、ベアトリーチェも無事にユスティナ聖徒会を確保できたが、もし先生が反対派であれば、その影響力でエデン条約を成立させないこともできた。それ故に、ベアトリーチェは警戒をしているのだ。

 

「私の決定が気に入らないようですが、どうせ私達は各々の目的を追求するだけの存在。あなた方に私を妨害する権利はないでしょう」

「……ええ、その権利はありませんとも。しかし、あなたの計画が何なのか、私達に具体的に教えてくれたことはありませんでしたね?マダム、あなたはアリウス自治区で何をしているのですか?」

「祭壇を用意しています。あなたがアビドスで本来やろうとしていたことと本質的には変わりませんよ。契約をするつもりはありませんが」

「ふむ、契約の代わりに儀式を……それを実行する上で先生が必ず邪魔になると」

「そうです。その手も、この後戻ってすぐに打つつもりですが……もし確保できれば、儀式の役に立つであろう存在もついでに得ようかと」

「……」

 

儀式について触れたベアトリーチェ。そして彼女は、話を後にしていたそれに遂に触れ始める。それは、

 

「マエストロ、少なくともあなたは彼女について知っていたようですね?いかなる要因かはわかりませんが、ヘイローを壊す爆弾を受けながらも生き延び、彼女という因子が大きく盤面を狂わせた」

「……モルペウスのことか」

 

ベアトリーチェに指摘され、渋々といった様子でモルフォの存在を口にするマエストロ。その名を聞いたベアトリーチェは納得したように頷く。

 

「夢を形とする存在……その力を得れば、更なる力を得れるでしょう。使いようによっては、私が崇高に至るため、だけでなく守護者達を越える力を産む便利な道具にもなり得るでしょうからね。彼女がこの地を離れる前に捕まえる予定ですよ」

(いけない……!モルフォと、先生が危険に……うっ!?)

 

先生だけではない、モルフォまでもがベアトリーチェの魔の手にかかろうとしているという事実を知り、セイアはすぐに行動を動かさなければと目を見開く。と、そこでセイアは気付いてしまう。ベアトリーチェが、こちらをずっと睨みつけているということに。

 

「どうやら、ネズミが潜り込んでいるようですね」

「!!」

「少々話しすぎたようです。私はこれで帰るとします」

 

そう伝え、消えていくベアトリーチェ。だが、既にセイアの姿は彼女に睨みつけられた直後にかき消されるようにその場から消えてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……大変なことになってるな……まあ、ヘイローを壊す爆弾なんて喰らいかけたのが悪いんだけどさ)

 

包帯が取れた頭を擦りながら、病室のベッドでモルフォは天井を見上げていた。体の方はすっかり治っているが、やはりちゃんとした機械などで検査した結果も念のために取っておきたい、というミネらの意向もあって半分検査入院の形でモルフォはこの病室にいた。それだけ、今もモルフォの経験はレアケースなのだろう。

 

(……皆は寝てるだろうし、ネル先輩達もいないし……逃げたサオリ達はどうなったのか……そもそも今どうなってるのか……)

 

気になることは多くある。それについて考えるだけでも時間は潰せるが、やはりそれらに対して明確な答えが欲しくなるものだ。だが、連絡したところでそれを答えてくれる人はいないだろう。先生に今連絡するのは憚られるし、リオだってモルフォと同じく知りたい立場のはずだ。そこまで考えて、

 

(あ、そっか。セイアさんに聞けばいいんだ)

 

そもそもセイアがティーパーティーなんだから彼女に聞けばいいのだと気付く。時折忘れてしまうが、彼女はそもそもトリニティのトップなのだ。言えないことはあるだろうが、それでも知れる範囲でもいいから聞ければ自分の中のもやもやも晴れることだろう。

 

「……よし」

 

そうと決まればと、モルフォは眠りに入ろうとする。セイアも目を覚ますようになっているが、だからといってお互いに夢を見れば出会えないわけではないはずだ。そう考えて夢の世界へ向かおうとすると、徐々に意識がぼやけてくる。そして、意識が途切れ、夢の中へと飛び込んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(……は?)

 

モルフォの視界は全く別の場所を捉えていた。どこかの建物の中のようだが、寂れたような、だが神聖そうな雰囲気を見せるそこでモルフォは蝶となっていた。視界を動かすと、そこには冷や汗を流すセイアの姿があり、彼女に近づいていく。だが、それにセイアは気付かない様子で呟きを漏らしていた。

 

「アリウス自治区は……既にゲマトリアに支配されていた……!?アリウスの生徒達への教育も、自治区の位置を見つけられなかったのも、正体不明の技術も、ヘイローを壊す爆弾も、そうか……そうだったのか……!すべて、ゲマトリアと関係が……!?モルフォ!?いつの間に……」

 

呟きを漏らしていたセイアの目の前に現れたモルフォ。蝶を見て、未だ夢に囚われていることに気付いたセイア。ゲマトリアの会合から抜け出した彼女だったが、本調子ではない体はすぐにダウンしてしまい、すぐに夢の世界に囚われてしまったのだ。そしてここにモルフォがいるということは、この夢は現在進行形で進んでいるということ。

 

「こ、ここは……まさかアリウスの……」

「ええ、ここはバシリカです」

「!!」

 

直後、セイアは背後から聞こえてきた声と共にその首を掴まれ、持ち上げられてしまう。苦しそうな顔でその主を見ると、そこにはベアトリーチェの姿があった。

 

「が、あ……!?」

「驚きました。ネズミがまさかこの至聖所まで追いかけてくるとは……夢の中だと思って油断していましたか?予言の大天使、いえ……百合園セイア」

 

ミシミシと、セイアの首を絞めながら、淡々と呟くベアトリーチェ。

 

「まさ、か……ここが祭壇……なのか……マダム……いや、ベアトリーチェ……!」

「ええ、他のゲマトリアも訪れたことのない秘境です。光栄に思いなさい」

「儀式……一体、何をしようとしているんだ……!」

「ふふ、ここにいればあなたも目にするかもしれませんね。このまま目覚めさせずここに幽閉しておきましょう」

「……モルフォ!君は逃げろ―――がっ!?」

 

このままではまずい。それを瞬時に悟り、セイアが精一杯の声を張り上げる。それに反応するようにモルフォが飛ぶ。ベアトリーチェがモルフォを捉えようと腕を伸ばすも、それを躱す。と、その時だった。

 

『モルフォ!?大丈夫ですか!?』

『うなされています……!とにかくモルフォを起こした方が……!』

『モルフォ!モルフォ!』

(!!アリス、トキ―――)

 

モルフォだけにアリスとトキの声が聞こえたかと思うと、モルフォの体がバシリカから消滅してしまう。それを見て、セイアが安堵した直後、ベアトリーチェは鬱憤を晴らすかのようにセイアの首を強く締め上げる。

 

「が、あ……!」

「……現実に戻してしまいましたか。彼女が情報を共有する前に確保しなければ。子供達にすぐに……いえ、折角丁度いい餌が手に入ったのですから、これを使わない理由はないでしょう」

 

そして、ベアトリーチェは不敵に笑うのだった。

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