転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「特別商品でーす!是非お買い求めくださーい!」
「……なにこれ?」
春葉原に買い物に来ていたモルフォ。目当てのものも買えて気分が良かったのだが道を歩いていると少女にチラシを押し付けられてしまう。モルフォにチラシを押し付けた少女はそそくさと去ってしまう。見慣れない服装だが、どこかの制服だろうか、それともそういう販売グループか会社の服装なのだろうか。
「……というかこれ……うわぁ」
そこは置いとくとして、押し付けられたチラシを読んでいく。そこにはでかでかと、幸せを呼ぶゲルマニウムアクセサリーなるものが書かれていた。
「草、こんなの引っかかる奴いないでしょ……」
ゲルマニウムを使った幸運祈願のアクセサリーなどまさに胡散臭さの極みである。そういえばコトリが以前、なんかの話の流れで胡散臭いインチキ商法をしていた部活動が過去にあったという話をしていた記憶があったが、それもすっかり忘れてしまった。
(まあ、どうでもいい話だしいいか……)
すっかり忘れていたあたり、本当にどうでもよかった話なのだろう。受け取ったチラシもさっさと捨ててしまおうとゴミ箱を探していると。
「……あれ」
辺りをきょろきょろと見渡すセリカの姿があった。彼女の手には一枚の紙が握られており、嫌な予感を感じたモルフォは声をかけることにする。
「セリカ?どうしたのこんなところで」
「え!?モルフォちゃん!?なんでこんなところに!?」
「なんでって春葉原は寧ろミレニアム生が生息してておかしくない場所だと思うけど」
「生息って……」
まさかここでモルフォに会うとは思わなかったのだろう。声をかけられて肩をビクッと震わせ跳びあがるセリカを見て、まるで猫のような反応だと思ってしまう。
「ちょ、ちょっと買い物をね……」
「それのこと?」
プライベートで会ったせいで気まずいのか、手に持っている紙を後ろに隠しながら誤魔化そうとする。しかし、一瞬見えた紙に描かれた内容を見て、嫌な予感は正しかったと確信してしまう。
「幸せを呼ぶゲルマニウムアクセサリーってやつ?」
「え?そうだけど……知ってるの?」
「嘘でしょ……?」
それでもそんなことはないだろうと僅かに期待するように聞くのだが、セリカの反応を見て思わず天を仰いでしまう。この子ってこんな純粋だったっけ?って困惑しながら、モルフォは捨てようとしていたチラシをセリカに見せる。
「あ、それ……モルフォちゃんももらってたの?これ、凄いでしょ!これがあるだけで運気爆上がり!しかもほら、これ見て!今ならアクセサリーにサバイバルで役立つ超スーパー水素水が付くのよ!これ一発で死人も息を吹き返すとか!」
「水素水なんてしょうもないもの買うぐらいなら経口補水液買いなさいよ」
どうしてインチキ商法はなくならないんだろう?という答えがこれなのだろう。しかし、いくら何でも知り合いがそんな悪徳商法に巻き込まれるのは忍びない。そう思ったモルフォはセリカに真実を伝えることにする。
「これインチキ商品だよ」
「え……で、でも運気と死者蘇生の水素水が……」
「これが真実ならこんなチラシなんか配って地道な商売やってるわけないんだよね、当たり前じゃない?」
「それは……確かに……?」
「これ一本でキヴォトス屈指の大企業になれるんだよなぁ……」
資金繰りについてはゲーム開発部の予算管理こそやっているものの、ユウカ程長けているわけではない。そのため経営についてはそこまで詳しくはないが、運気が本当に上がるオカルトアクセサリーはともかく、死人が蘇る水素水なんてキヴォトスの死生観が一気にひっくり返るとんでもない発明だ。間違ってもこんなしょっぱい商売で売っていいわけがない。なのにそれをやっているということは文字通りのインチキ商法である。
「こんなのただの詐欺だよセリカ」
「う……私、また引っかかって……」
(前科あるのか……)
頭を抱えて座り込んでしまうセリカを見て、苦笑しながら同じくしゃがみ込むモルフォ。
「私これのために春葉原まで来たの……?」
「えっと、この後暇?」
「暇だけど……うう、ほんと何のためにここに来たのか……」
「じゃあ、遊ぼうっか」
「え?」
頭を押さえ込んで落ち込むセリカだったが、モルフォの提案に顔を上げる。そしてモルフォはセリカの両肩に手を置いて、
「折角来たんだから春葉原を楽しもうよ」
そう声をかけるのだった。
★
「いけっ……いけっ……!あああ!?」
「うーん、見事な散財。これはギャンブルをやっちゃいけないタイプ」
セリカを伴ったモルフォはゲームセンターに彼女を連れてきていた。そこでモルフォお勧めのアーケードゲームなどをプレイした後、もっとお手軽にいろんなゲームを触れるようにとメダルゲームを一緒にやっていた。しかし、メダルゲームを始めて大体30分ぐらいした頃にはセリカは手持ちのメダルを全て使い切っていた。
「こ、こいつ全然当たらないじゃない!」
「そりゃデカいのは普通当たらないから。まあこれはメダルゲームだからたまに当たるけど」
メダル一枚から二枚や四枚ではなく十枚、運が良ければそれ以上と錬金術を可能にできるのもメダルゲーム。メダルゲーム自体にもある程度の操作を必要とするものや、一回ボタンを押して対戦する相手を選択すれば後は勝手に戦闘が行われ、勝利したらメダルが獲得できたりといった簡単なものまで多種多様である。そんなメダルゲームの仕様として、投入するメダルを増やせば増やすほど多くのメダルを獲得しやすくなるというものがある。単純に報酬の倍率が上がるものから、報酬メダルの枚数自体は変わらなくてもより上位の敵を倒しやすくなりメダル1枚だった時よりも稼ぎやすくなるといった仕様まで様々である。
「最初は当たったのに!最初は成功したのに!」
「ある意味あれが一番の不幸だったね」
うがー!と悔しさで頭を抱えるセリカを見ながら、モルフォは苦笑する。こうなったのは、メダルゲームを始めて早々にセリカがとりあえずで最高倍率の五枚のメダルを投入し、いきなり50枚のメダルを獲得したことにある。これにすっかり味を占めたセリカはドンドン高報酬を狙っていったのだが、いくら当たりやすくなるとはいってもそれはメダルを一枚だけ入れた時と比べたらの話で確率自体は依然として低いまま。そうなれば確率が収束し、すっからかんになるのは当然のことであった。
「こ、こんなところで終われないわ!こうなったらもう一回……」
「ストップ。メダルなんていくら当たったって景品と交換できるわけじゃないんだから」
「で、でもたかが100円……」
追加でメダルを購入しようと財布に手をかけるセリカを制止し、手を掴む。
「セリカ、その思考が金を溶かすんだ。それにここで仮に勝って滅茶苦茶メダルを手に入れてもどうするのさ。ここでしか使えないよ」
「う……それは……」
「負けたらもう負けたですっぱり諦める、金を追加して損を取り戻そうなんて有り金を溶かして全裸で街に放り出されるオッサンのやることだよ」
「何なのよその例え……」
いまいち例えはピンとこなかったが、自分はまた沼にハマりかけていたことは気付いたようだ。再び項垂れるセリカを見て、モルフォとしても思うところがあったのか、手持ちの残っているメダルを差し出す。
「え、これ……」
「そろそろ終わりにしたいし、残りはあげるよ」
「……いいの?」
「そっちの方が楽しそうだし」
「そ、そういうことなら……って、私は負けるから押し付けようとしてるだけでしょ」
「……バレたか……」
さすがにここまでくれば気付くのだろう。ジト目でこちらを見てくるセリカから視線を逸らしながら、モルフォは苦笑するのだった。
★
「ありがとう、モルフォちゃん。今日は付き合ってくれて」
「気にしないでよ。こっちも楽しかったからね」
そして一時間後。無事にセリカの大負けでモルフォの手持ちのメダルも使い果たしたところで、二人は軽く腹ごしらえにファミレスを訪れていた。そこで軽食を楽しみながら、すっかり気分がよくなったセリカと談笑を続けていた。勝ったり負けたりを繰り返していたセリカだったが、元手がモルフォのコインであり。使い果たす前提で渡されたのもあってそこまで負けのショックは大きくなかったようで、楽しく遊びきったという気持だけが残っていたようだ。
「で、そのさ……今日の事は……」
「わかってるよ、誰にも言わないからさ」
「うう、助かるわ……」
そして落ち着いてきたところで、インチキ商法に引っかかりかけたことを思い出す。このことはアビドスの皆に言わないでほしいと切実な頼みをしてくるセリカだったが、やはりこれがばれたらと思うと恥ずかしいのだろう。特に今回は実際に引っかかって金を浪費する前に立ち止まれたので、モルフォが黙っていれば済む話だ。セリカも次こそは引っかからないようにと反省しているようだしとモルフォもそれを受け入れることにする。
「……あ、そうだ。折角だしもう一戦やっていかない?」
「ん?」
ふと、荷物を漁ってたモルフォはあるものを入れていたことに気付いて取り出しながら、それによるゲームをセリカに持ちかける。
「これは?」
「ギシンアンキの塔だよ」
ギシンアンキの塔。それは六本の塔の中から二本をお互いに取り合い、取り合ったその柱の点数の合計を比べ合うゲームである。塔は黒い四角柱をしており、点数は0、1、2、2、3、4に分かれており、点数の数だけ白い点が四面に分かれて記されている。この塔を斜めに配置することで、お互いに二面ずつしか見ることができなくなり、見えない裏面の数を予想しながら、どの塔を取るかなどを決めていくのだ。
「な、何か難しそうね……」
「まあ、こうして聞いてみると複雑そうだけど、意外と簡単だよ」
一通りのルール説明をした後、お互いに五個の六角形のブロックのようなものと、人の形をしたブロックを分配していく。そして先攻と後攻を決めた後、お互いに一本ずつ塔を選び、それが何ポイントか確認できる。ポイントを確認した後、それを見た証として人のような形をしたブロックを置いていき、塔を確保していくのだ。まずは一戦目でチュートリアルも兼ねてということでモルフォが先行を取り、一本確認して元に戻す。その後、セリカが一本確認することになるのだが、
「これって、相手が見たのは見れないの?」
「そう、見ちゃ駄目だよ」
「ふーん、じゃあこれでいいわ」
この柱の数字を確認する際には相手が見た柱を確認できない、というルールがある。これにより、お互い別々の柱の数字を一本だけ知っている状態でゲームを開始することになるのだ。
「確認したわよ」
「じゃあ、始めようか。まずは……ここだね」
「……それ、モルフォが見た奴でしょ?ってことは。まさか3点?」
「もしかしたら2点かもね」
「あー、2点の柱を全部回収したら点差に関係なく勝てるんだっけ……」
モルフォから聞いた得点に関するルールを思い出す。このゲームは取得した二本の柱の合計点数が高い方が勝利というシンプルなルールなのだが、一つだけ例外が存在する。それが2点の柱を二本、つまり全て回収する、というもので、これに成功したプレイヤーは相手が合計点で上回っていても勝利することができるのだ。
(しかし3点、って……いや私はこれが何点か知ってるからいいんだけどさ)
とはいえ、セリカの発言は思った以上に相手に情報を手渡してしまっていた。今回に関してはモルフォも数字を知っているからこそ、こういう行動に出た。真っ先にそこにブロックを置いたことで、セリカがこれの点数が3点なのではないかと疑っている。それが本当に3点かどうかはゲームが終わるまではわからないのだが、自分の確認した塔を元に戦略を組み立てることでこういった立ち回りも可能になる。これが、このゲームの駆け引きなのだ。
「……ここは3点を手に入れた方が絶対いいわ!ここで3点を取れば、モルフォはどうやっても5点を上回れないからかなり勝ちやすくなる……!」
どう動くかを決めたセリカは、モルフォが置いたブロックの上に自分のブロックを置く。このゲームでは、相手が置いたブロックの上に自分のブロックを置くことで所有権を奪い取ることができる。ただし、塔には最大二個までしかブロックが置けないため、一回所有権の横取りが発生するとその時点で奪い取った相手の塔になることが確定する。
「……うーん、となると……こことかかな」
そう言いながら、モルフォは自分から見て、二つの白い点が見える塔を選ぶ。そこはセリカも確認していない柱だが、セリカから見れば白い点が見えない柱だ。つまり、
(0から2点のどれかってことね……)
モルフォから見れば高得点を狙って選択したのだろうが、セリカから見れば大した点数ではない。3点を取ったセリカからすれば、これが2点だったら点差が1点になってしまう。その状態でモルフォが4点を取ると、セリカが取れる最大点数は5点になってしまう。そのため、先に4点を取りにいきたいのだ。
「じゃあここね」
そう呟きながらセリカは白い点が二つ見えるところにブロックを置く。これでセリカは塔を二本確保したため、モルフォがセリカの塔をブロックで上書きしない限りは追加でブロックを置くことはできなくなる。対するモルフォは、セリカが置いた塔を見る。こちらから見える二面は、残念ながら白い点が存在しない。そのため、こちらから見ればあれは低い点数だと理解すると、ここはこういう感じで狙っていこうかと、モルフォから見て白い点が二つ見える塔を選択する。
「これで、もうブロックは置けないのよね?」
「うん、二本ずつ選んだからね。それじゃあ、お互いに手に入れた塔の点数を確認していこうか」
「ええ、そうね。じゃあまずは……こっちのわからない方から……って、2点じゃないこれ」
「じゃあ私も……あー、これも2点か」
ブロックを置くフェーズが終わり、点数を確認していく。モルフォは適当なものを、セリカはモルフォが数字を知らない塔を選んで一本ずつ点数を確認していく。その点数が両方2点だったため、決着は次の塔が何点かにかかっていることになる。
「じゃあ、点数を見て行こうか」
「ま、私の点数は3点だから結構良い感じになったけどね」
「……へえ」
「な、何よ……ちょっと不安になるじゃない……」
セリカの言葉に、モルフォは不敵な笑みを浮かべる。その笑みに、自分が手に入れた塔は本当に3点だったのか?という不安がセリカの胸の中に浮かび上がる。その答え合わせをするようにモルフォが柱を倒し、底に書かれている数字をセリカに見せると、そこには1という数字が刻まれていた。
「……は!?なんで1なの!?」
「なんでって1だからとしか」
「……ま、まさかモルフォ……私をこれにひっかけるために!?」
そこでセリカはやっと、自分が騙されていたことに気付く。わざと低得点の塔にブロックを置いたことで、セリカが高得点だと誤解して食いついてくるように誘導したのだ。そのことに気付き、セリカがわなわなと震えているその目の前で、モルフォが残っているもう1本の塔を確認すると、そこには4の数字が。
「こっちは4点。私の合計点数は6で、セリカは3になったね。つまり、今回の勝負は私の勝ち」
「ああああぁぁぁ……」
結果として、倍の点数差をつけられて敗北してしまったセリカが机に頭を当てて項垂れ、悔しさの声を上げる。
「い、いけると思ったのに……!」
「こういうゲームだからね。でも、どうだった?面白かった?」
「そりゃあ、面白かったけど……予想と違った点が出てきたときは驚いたし……だけど、悔しいわよ……」
「まあ負けたからね、そこはしょうがない」
二面からしか塔の数字を判断するしかないため、残る二面次第で塔の点数は幾らでも変わってくる。そこに、相手が見たか自分が見たかでその数字をどう利用できるかという戦略性も変わってくる。読みと運が絡んでくるシンプルながらも戦略性のあるゲームは程よく頭も使うし、予想外の行動もあって楽しめたようだ。
「ちなみにこのゲーム、先に三回勝った方が勝ちだからまだまだチャンスはあるけどね」
「あ、そうなの?」
そして、このギシンアンキの塔は先に三勝した方がゲームに勝利するという内容になっている。そのため、最初に絶望的な運負けをしたりしたとしてもまだまだ挽回のチャンスがあるのだ。
「ふふん、それなら次こそは負けないわよ。今回でどういう感じかは大体わかったんだから!」
「ちなみに負けた方が次は先行になるからね」
「わかったわ」
まだ勝ち目はあると聞いて再び意気込みながら、セリカが点が見えないように塔の上部を指で挟みながら斜めに置いていく。その様子を見ながら、次はどんなゲームになるのかモルフォは楽しそうにゲームが始まるのを待つのだった。