転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「これで、少しは楽になるだろう」
「……まあ、礼は言っておきましょう」
アリウス自治区。巨大な荷物を倉庫に置き、サオリがスバルに振り向く。それを合図としたようにアリウスの生徒達が、スクワッドが外から持ち込んだ荷物へと群がっていく。
「見て見て、この缶詰!確か美味しいやつ!」
「これは……布団だ!凄いフカフカで温かそう!」
「こっちは……え、えっと……」
「建物の補修用の道具だよそれは」
アリウス生達がわからない道具についてはミサキが補足を入れていく。その様子を流し見し、倉庫の外に出てきたサオリとスバルは無言のまま立っていたが、やがてサオリが口を開く。
「……少し、人が戻ってきたか?」
「ええ。外に馴染めないとね」
アリウスの生徒達は何も知らない。外に出た生徒達だが、外の世界に馴染めずに戻ってきた生徒も多い。トリニティはアリウスに支援の方もしてくれており、それがきっかけで外に興味を持ち、トリニティに入ったりしている生徒も何名かいるのだが、全てがベアトリーチェの洗脳という事実が明らかとなったとはいえ、トリニティに対する好感度が地に落ちているままの生徒も当然多い。先生の許可を得て、ミカがシャーレの名を使って支援物資を送ったり、外の情報を流したり、流せる範囲のトリニティや他の学園の運営方法などの知識を送ったりしているのもあり、環境などは多少マシになってきた。だが、自分達はアリウスの人間であると誇示するようにこの場に残る生徒達も依然として多い。サオリ達も外に出て様々な事を知り学んできたが、それでもアリウスから離れるという選択肢はなかった。その結果がこの行動だった。
「暮らしはどうだ?」
「……以前よりはマシになりましたね。マダムに虐げられることも、お仕置きされることもなくなり……毎日の食事の質も量も増えた……生活環境も改善はしていますし」
「そうか」
「……まあ、マダムは消えてよかったと。それに関しては皆思っていますよ。今となってはね」
スバルから現状について聞かされ、サオリも少し安心する。スバルも外に出て出稼ぎをしているとはいえ、やはりアリウスに残った生徒達の事実上のまとめ役を担っているということもあり、長い時間は出てこれない。アリウスの中から外に出て、頑張って馴染もうとしては馴染めずに戻る生徒も多い現状を踏まえると、そういうのに縛られず基本的に外に出ていけるスクワッドは貴重な収入源なのだ。
「とはいえ……やはり色々不都合があるんじゃないか?」
「不都合や不満なんていくらでもありますよ」
そう溜息を吐きながら、スバルは頭の中にそれらをリストアップしていく。そしてその根本的な原因として考えられる要素は大体金に帰結するという結論は出たものの、それに関しては今どうこう言えることもないだろうと頭を振る。とはいえサオリの性格上、必ず質問するだろうと考え、どうしようもないであろう個人的な不満を口にしてこの場を流すことにする。
「何があるんだ?」
「……まあ、そのどれも改善途中といったところなので。強いて私の不満を言うのであれば……アリウスはトリニティから分かれた学園、と認識する依頼主が多いことですかね。無論、アリウスが表舞台に出たのがつい最近というのは理解しますが……だからといってまるでトリニティの暗部みたいな扱いを受けるのは屈辱的ですね」
「……そうか……アリウスは、統合に反対したトリニティとは別の学園だからな……残念ながら外から見た歴史としてはトリニティの方に目が向くのは仕方ないのかもしれないな。となるとやっぱり、これに出た方がいいのだろうか」
「?」
スバルの不満を聞いて、サオリは鞄の中から一つのファイルを取り出す。アリウスに戻る前、そのことを伝えようとシャーレに赴いたサオリ達に先生が手渡したものだ。それをスバルに手渡すと、スバルは訝しみながらそれを読み始める。
「……晄輪大祭?なんですかこれは?」
「体育祭、という奴らしい。様々な競技で順位を競い、その成果で一番の学園を決めるとか」
「……それがどういうものか全くわからないのですが。こんなものを渡されてどうしろと?」
「戻る途中で皆で考えたんだが……出てみないか?アリウスとトリニティがそれぞれ別の学園として出たのなら……お前の言う不満も少しは解消されると思うが」
「…………ほんと、随分変わりましたね、あなた」
「……かもしれないな。いや……変わらざるを得なかったというべきか」
「……まあ、アリウスを踏み躙っていたあの女に従順なままではいられなかったのは認めますが」
スバルは考え込む。おそらくサオリ達も外で金を稼ぐにあたって、同じようなことにぶち当たったのだろう。この晄輪大祭に出て、トリニティとアリウスは別々の学園であることをアピールするにはこの上ない機会と言えるだろう。
「しかし、よく出ることが認められましたね。今のアリウスはまだまだボロボロなのに」
「シャーレの方で、諸事情で出にくい学園が出れるようにサポートしてくれるらしい。アリウスもその一つになるそうだ。先生……いや、シャーレは私達を見捨てる気はないようだ」
「……まあ、いいでしょう。薄っぺらい言葉だけぶつけられるよりちゃんと行動に移してくれるのなら……多少は」
これに出るメリットは非常に大きい。そう判断し、スバルもそれを首を縦に振るのだった。
★
晄輪大祭。二年に一度行われる大型イベントであり、それもいよいよ当日に迫っていた。当日に至るまでに騒動が起こったりもしていたが、それらも大きな影響を及ぼすこともなく。
「うわー、でっかい……」
「確かにキヴォトスの生徒達ほぼ全員収容できますってのも納得のサイズ……」
こうして無事に開催することが可能となっていた。ゲーム開発部が巨大な競技場、アスレチックスタジアムを見上げている横を、荷物を運搬する生徒がフォークリフトに機材を乗せて走っていく。
「そういえばキヴォトス中の学園が集まるって言っていたけど……」
「参加校一覧どうなってたっけ。いやまぁ多すぎてまともに見れないけど……」
とりあえず知っている学校だけでもと頑張ってサイトを覗き込んでいく。ミレニアム、ゲヘナ、トリニティの三校は一番上にあったが、その下に五十音順に名前が並び始める。アビドスも参加しているようであるが、その中にアリウスの名があるのを見て驚く一幕もありつつ。
「アリス、ワクワクします!」
「うう、皆に見られてだなんて不安だなぁ……」
「まあ、なるようにしかならないよ、ユズちゃん」
「いやーでも大変だったね……ルールの大幅変更をする時は私達もチェックに駆り出されたりしてて……」
「……私達はゲーム開発部なのになんで晄輪大祭の競技のルールまでチェックさせられているんでしょうね?」
「これもゲームだからだよ、ケイ」
ワイワイと話しながら、開催式までの時間を待つゲーム開発部。時間が近づくにつれて他の学園の知り合い達もどんどん集まってくる。そして遂に開会式が始まり、それも終わりに差し掛かった頃。選手宣誓をするために壇上に現れたのは、トリニティの浦和ハナコ。そしてアビドスの奥空アヤネの二人であった。
「そういえばあの二人だっけ」
(……なんか嫌な予感がしてきたぞ)
「「選手一同を代表して、宣誓します。私達は晄輪大祭に参加する者として……」」
「正々堂々、スポーツの精神に則って……」
「「ありのままの欲望」に誓って……」
「……ん?」
脚所は順調だった選手宣誓。だが、その途中から、ハナコの口にする言葉が段々おかしな方向に向かっていってることに気付く。しかし隣にいるアヤネはこの大衆の前で選手宣誓という大役を担っているからか緊張してそれに気付いていないように見える。
「一つ一つの競技に全力で取り組むことを……」
「「身体の対話」に取り組むことを……」
「……?」
しかし、二回目はさすがに聞き逃さなかったようだ。思わずハナコに確認するようにマイクを切って何かを問いかけるも、ハナコはというとニコニコと笑うばかり。
「……?あの、モルフォ?なんでアリスの耳を……?」
「うふふっ、先程申し上げたでしょう?他人の視線など気にせず、自分の気持ちに素直になれば良い、と。晄輪大祭は、様々な学園の生徒が武器を置き、お互いの素肌をぶつけ合って親交を深める友愛の場……それはつまり……■■と同じでしょう?」
「……え?一体何を……ってちょ、ちょっと!?マイクが!マイクがオンになってますよ!?」
が、ハナコはマイクを入れっぱなしにしており、不穏な事を口にしていく。咄嗟にモルフォがアリスの耳を塞いだ直後、ハナコはとんでもない爆弾発言を投下。その言葉にざわつき始める会場内。たまらずアヤネがマイクがなくても聞こえる程の声を張り上げて止めようとするのだが。
「お気になさらず。ここにいるのはキュウリやニンジンなのですから。前々から思っていたのです。お互いの素肌をぶつけ合うだなんて……晄輪大祭はなんと淫らなお祭りなんだろうって……ですが、私はとても良い機会だと思っています。所属やちょっとした先入観で、お互いの気持ちは容易く理解できなくなってしまいますが……身体は正直なものですから。キヴォトスの全生徒が集まって仲良く■■■■をする姿は、まさに泰平なるキヴォトスを目指しく様であり……!」
「おい誰か奴を止めろ!!」
「トリニティはなんであいつを壇上に上げた!?」
「モルフォー、ハナコさんは何を言っているんですかー?」
『どうせ碌な事は言ってないので気にしなくていいんじゃないですかね……』
たまらずスタッフ達も声を張り上げる。ざわついていく生徒達、だがハナコは止まらない。止まらず問題発言を投下し続ける。
「うふふっ……■■!■■!みんな■■し続けましょう!!激しく!もっと激しく!!」
「やめないか!?」
「やめろー!!こんなの選手宣誓じゃなーい!!私達の晄輪大祭は……!皆を……笑顔に……!!」
「何なのだ、これは!どうすればよいのだ!?」
遂には我慢の限界に達したのかスタッフ達が壇上に乗り込んでハナコを力づくで制圧しマイクをオフにし、引きずり降ろされていく。そして一人残された顔真っ赤のアヤネが震えながら手を挙げ直し。
「わ……私、達は……正々堂々戦うことを誓います……!!」
「……わー!アヤネちゃん凄いよー!!」
「ん!アヤネ、よかった!!」
「アヤネちゃん、皆に勇気をありがとうございますね~」
「お、お疲れ様……アヤネちゃん……」
今だにざわつく会場内で震える声でどうにか取り繕うように選手宣誓を終わらせる。それと同時に力が抜けたようにふらつき倒れそうになるアヤネにホシノ達がエールを送る、それを受け、どうにか倒れずに済んだアヤネに、彼女を労わるように会場中から同情も含めた拍手が送られる。そして這う這うの体でどうにか壇上から降りたアヤネを見送る。
「……何を話していたんですか?」
「あ、アリスちゃんは聞かなくてよかったよ……」
観客席から波乱の開会式を見届け、苦笑する先生。その隣に見慣れた生徒が座り込む。
「あはは……」
「やあ先生。今年は随分騒がしくなってるようだね」
「セイア。体は大丈夫なの?」
それはなんとセイアであった。先生の隣に座り込んだセイアは体操服ではなく制服を着ており、その様子を見る限り競技には出場しないようだ。
「こうして観戦に来る分には問題ないよ」
「そっか」
「しかし、実行委員をやっているハスミとマリーは大丈夫かな?」
「ハスミとマリーがトリニティから選ばれたの?」
「ああ。本来はミレニアムからはセミナーのメンバーが選出されているように、トリニティからもティーパーティーから実行委員を出すのが筋なんだが……先生も知っての通り、ティーパーティーは忙しくてナギサが出ることはできなくてね……私も未だ療養中の身だからやらせられないとミネからドクターストップをかけられてしまったんだ」
「じゃあミカは?」
「そのミカがハスミを説き伏せてしまったのさ。自分が選手に専念した方がトリニティが勝てる可能性が高いから代わりに実行委員会をやってくれってね。で、ハスミがホイホイとそれを承諾してしまったわけだ。マリーは自主的に志願したようだが……」
セイアの説明に先生も苦笑しながら納得する。なお、その実行委員会ではというと。
「あれはどういうことですか!?トリニティの選手代表が公の場で晄輪大祭の権威を貶める発言をするとは!だから彼女には常識がないと前々から思っていたというのに!」
「……」
何故かゲヘナ側から実行委員として選ばれていたアコにハスミが詰められていた。ハスミは青筋を顔に浮かべているものの、こればっかりはアコの言っている事が一理しかないと判断しているのか無言で耐える様子を見せており、マリーがあわあわと震えながらその光景を見ていた。
「全く、責任をとって、トリニティは今回の実行委員から手を引いてはいかがです?足りない人員の補充は私達風紀委員会にお任せください」
「……ほう?行政官は晄輪大祭を台無しにするおつもりで?」
「既にどこかの学園のおかげで台無しになってるのでは?」
既に一触即発といった雰囲気。そもそも、何故万魔殿ではなく風紀委員会のアコが来ているのかというと、万魔殿が面倒臭いから風紀委員会に投げた、という背景があったりする。マリーが仲介をしようとするも、既にピリピリした雰囲気が流れる。マリーもどうしたものかと気を揉みながら視線を隅に向けると、呑気に第一種目の徒競走を見学するコユキの姿があった。
「あ、あのコユキさん……ハスミさんやユウカさん達が……このままじゃ……」
「別にいいんじゃないですー?本気出して口悪くなってるだけでしょうし、競技が始まったら勝手に収まりますよー」
「大体なんですかこの競技のラインナップは!?○○部企画!ばっかりじゃないですか!ミレニアム有利にもほどがあるでしょう!」
「ちゃんと公平なルールになるように監修は行っている上に連邦生徒会の認可はもらってます!文句は連邦生徒会にどうぞ!」
「バカじゃないですか!?自分達が発起人だったくせにエデン条約を勝手にやれって宣った連邦生徒会がまともな判断を下せるわけがないじゃないですか!!」
「……大丈夫でしょうか……?」
「……うーん、やばくなったらモルフォさん達を呼びますか……」
お互いに激しく言葉をぶつけ合う二人から視線を外し、コユキはマリーと共に第一競技の徒競走に視線を向けるのだった。
★
『さあ、次の競技は綱引きとなります!綱引きは二チームに分かれます!その組み合わせはくじ引きで決定されるので出場選手はくじを引いていってください!』
短距離走を始め、メジャーな競技も消化されていく中、次は綱引きが行われることになる。
「「フレー!フレー!アーリースー!!」」
「はい!アリスは皆のためにも必ず勝利を掴み取ってみせます!」
観客席からは応援団の衣装に扮したエンジニア部がこの競技に出場するアリスに向けて声援を飛ばす。なお、そこにはチア衣装に身を包んだコトリとヒビキ、学ランを着て団長のような姿をしたウタハがおり、他にも学ランと長ズボンをバッチリ決めていた人物としてモルフォもいた。なお、モルフォのは以前の衣装の流用だったため、ウタハは白に対してモルフォは黒いスラックスという図になっている。
「それにしてもモルフォはやっぱりそっちの衣装が似合いますね」
「うん、以前使った男装用のコスプレ衣装を残しておいてよかった。おかげで改造して応援服に調整し直すことができた」
「いやー、まさかまたこれに袖を通すことになるとは……」
「ノノミ先輩ー!ファイトー!!」
「メグ!君ならいけるはずだぞ!!」
観客席からは今回出場する選手に対して他の学園の生徒達からの声も飛ぶ。そんな中、会場に大きなロープが用意され、それぞれくじを引いた生徒達がチーム分けされていく。
「アリスちゃん、よろしくお願いしますね」
「あー、確か君ゲーム開発部の!」
「はい!ノノミさん、メグさん、よろしくお願いします!」
アリスが同じチームになったノノミやメグと喜んでいると、ふとアリスの目に自分より背の低いずんだ色の髪の少女がくじを手にこちらのチームに近づいてくる様子が目に入る。
『彼女も同じチームのようですね』
「あなたも青チームですか?」
「うん、そうだよ!薄葉リツって言うんだ!」
「アリスは天童アリスです!ゲーム開発部をやっています!」
「へー!あのゲーム開発部の!」
リツと名乗った少女の体操服を見るとワイルドハントの校章が見える。どうやら彼女はゲーム開発部について知っているようだ。アリスとリツが仲良く話をしている横では、ノノミの姿に気付いたヒナタが駆け寄ってくる。
「あの……アビドスの方ですよね?先日の一件では……」
「あ、トリニティのシスターフッドの人ですよね?今回は一緒のチームですね」
「はい、よろしくお願いしますね」
「こちらこそ~」
「……半分が勝てる競技だ、ここは確実に勝って点を取る……!」
「み、皆気合が凄い……うう、私大丈夫かな……」
反対側ではサキがやる気を漲らせていた。SRTもまた、アリウスと同じように先生に融通を利かせてもらう形で出場したのだが、その人数はたったの四人。SRTもだが、人数が少ない学園はその人数で競技をローテーションして回す必要がある。後半体力が尽きてくることを考えれば前半で点を取れるだけ取っておきたいというのが本音だ。
「か、勝てば名前が知れ渡るっていうけど……大丈夫かな……」
「……お前も宣伝したいクチか?あまり気張るな。緊張して力が入らないとやりにくくなるぞ」
「あ、ありがとうございます、えっと……」
「サキ。SRTの空井サキだ」
「あ、はい……立木マイア……アリウスです……サキさん」
そんなサキの姿が目に入り、他の皆もだが気合十分といった様子であり、その様子に思わず怖気づいてしまうマイアにサキも気付いて声をかける。緊張でガチガチになっている彼女の緊張をほぐすように声をかけている横ではレッドウィンターの工務部の生徒やら百鬼夜行の生徒やらもおり、こうして出場する全ての学園の出場選手たちのチーム分けが終わる。
「なんだ、綱引きは初めてなのか?……そういう学園もあったんだな……まあ、合図が出たら綱をこっちに引くだけの簡単なもんだ。人数は互角だし、そうそう負けることもないだろう」
「は、はい!……でも、皆でこんなことするのは初めてで……もしかしてあの時、トリニティやゲヘナの人達もこんな気持ちだったのかな……」
『それでは皆さん!位置についてください!』
クロノスのリポーター、シノンの声が響いてくる。その声に従い、全員が縄の傍に立つ。参加者全員が始まる時を今か今かと待ち構えていると、
『よーい……!』
アナウンスと共にピストルから弾丸が放たれる。それを合図としたように選手たちが次々と縄を掴んでいく。
「よし!」
「いけいけー!アリスー!」
「ノノミちゃーん!」
「ヒナタ!ファイトです!」
「リッちゃーん!」
「……なんか、色々予想と違いますね……てっきり戦闘をし合うのかと思っていたのですが」
「あ、ああ……これは私も予想していなかった」
それぞれの選手、チームを応援してヒートアップしていく観客達。その中で、スバルやサオリは完全にそのノリについていけていなかった。
「……果たしてマイアを出場させてよかったのでしょうか」
「……わからん。そもそもどれがどういうものかも私達には何もわからない……」
「本当になんで受けたんですか。いえ、これは私も人の事は言えませんが……」
「……宣伝になるし、先生はいい経験になると言っていたから……」
「バカですかあなたは……って、ああ!?」
頭を抱えてスバルが呆れていると、その目の前でマイアを始めとしたメンバーたちが勢いよく縄を引っ張られてまとめて倒れ込む光景が広がっていた。
「アリス達の勝利です!」
「やったー!」
「やりましたね」
「ええ、私達の勝利です☆」
「イエーイ!部長!見てるー?」
『け、決着ー!最初は拮抗しているように見えましたが、それでも徐々に縄は引き寄せられていき、最後には呆気なく持っていかれてしまいました!しかしこれは、明らかに選手の層が偏っていますが果たしてくじ引きはちゃんと公平だったのでしょうか!三大校が同じチームに集まるというのも作為的な何かを感じ』
アリス達が嬉しそうにハイタッチを決める中、変な邪推をし始めたクロノスの実況がブツン!!という音と共に強制中断させられる。これまでも変な事を口走っては強制的に音声を切られているので、最早見慣れた光景だ。
「……まあ、どうにかするしかないだろう」
「……はあ、頭が痛くなりそうです」
ひっくり返ってしまい、目を回すマイアが無事そうなのを確認し、二人はそう呟くのだった。
★
「そういえば、この衣装ケースって他に何いれてるの?」
「ん?色々。折角ならモルフォみたいにやってくれそうな人を集めてみてもいいかなって。サイズも色々用意してるよ」
「よく用意できたね……」
「時間に余裕があったからね。次はコトリが出るからチアガールが一人消えちゃうね……」
更衣室へ消えているコトリのことを思い出しながら、この日の為に持ってきた衣装箱を開けてサイズの大きなチア衣装を取り出す。
「……?」
視線を感じてモルフォが振り向くと、そこには黄色のメッシュが入った茶髪の少女がチア衣装をじっと見ている様子が目に入る。モルフォが見ている事に気付いて慌てて視線を逸らすも、既にモルフォは彼女に気付いており、観客席に誰も座っていないことを確認してから二段飛ばしで降りて少女の前に降り立つ。
「きゃっ!?」
「ああ、驚かせてごめんね。なんか服に興味ありそうな感じで見てたからつい、さ」
「あ、いや、そういうわけじゃ……」
「見てみる?そのためにヒビキが持ってきたものだし」
「……いいの?」
「勿論。むしろそうしてくれた方がヒビキも喜ぶだろうしね」
少女にそう言いながら笑いかけると、少女の方も少し興味があるようで席から立ち上がり、モルフォの服をちらちら見ながら一緒にヒビキ達の下に戻る。
「その子は?」
「衣装に興味があるんだって」
「ワイルドハントの……ああ、なるほどね」
ワイルドハント芸術学院。文字通り、芸術を収める生徒達が通う学園である。そこの生徒から興味を持たれたという事実は、ヒビキも大きな関心を寄せたようだ。
「そういえばあなた、名前は?私は夢見モルフォ。こっちは猫塚ヒビキ」
「衣斐レナよ。専攻はファッションデザイン」
「やっぱり……それで、どう見える?」
「……そうね」
レナと名乗った少女がじっとヒビキの持つ衣装を見ていく。それからヒビキやモルフォが着ている衣装にも目を向けていく。そして、その出来栄えに感嘆の声を漏らす。
「……凄い出来ね……こんなクオリティの高い衣装が見れるなんて……」
「ちなみに応援衣装以外にもいろんな衣装を持ってきたよ」
「え、ほ、本当!?」
その発言にさらに食いつくレナ。今日どこで使う予定だったのかさっぱりわからない衣装もあるがそこは気にしないことにするが、それらを見てテンションを上げていくレナ。その様子を見ながら、ウタハがぽつりと呟く。
「君も着てみないかい?」
「……え?で、でもこの衣装は……」
「コスプレ衣装とは着られるためにあるんだ。むしろ、ファッションについて学んでいるからこそ、その使い心地とかを確かめてみるべきなんじゃないかな?」
「……そ、それは一理あるけど、でも着替える場所なんて」
「それならこの、試着室作る君があるよ」
そう言いながら、ウタハが指を鳴らすと試着室のような立方体の物体が出現する。それを見せられたことで、レナも逃げられない状況に追い込まれてしまう。しかし、それ以上に、着てみたい。どんな感じか見てみたいという思いに駆られていた。
(……でも、できれば大きいサイズのも着てくれる人がいたら……ん?)
そんなことを考えながらヒビキが観客室からスタジアムの中央へと目を向けたその時だった。観客席からこちらに向かって歩いてくるサオリの姿が目に入るのだった。
基本的に組み合わせや絡み優先で出場メンバーとかは選んでいるので、原作については基本的に放り投げています