転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
『さあ、二人三脚レースも佳境!現在トップを争っているのは、ハイランダー鉄道学園の橘姉妹とミレニアムサイエンススクールの才羽姉妹、そしてSRT学園のミヤコ選手とミユ選手だー!!……しかしこれ距離長すぎません?選手達バテてきてますが……』
実況と観客が盛り上がる中、息を切らしながら走る生徒達。その中でも呼吸一つ乱さずタイミングを合わせて走るのはミヤコとミユ。その前方を、モモイとミドリ、ヒカリとノゾミが走っていた。
「はぁ、はぁ……いやぁやるねぇ……」
「おー……さすがに疲れてきたー……」
「いや、やっぱり長い、長くない……?」
「た、確かに……なんでこんなに長いの……」
双子同士、息ぴったりで無駄のない歩みで足を進めていく四人。その後ろでミヤコが遠くに見えてきたゴールを見据えながらミユに声をかける。
「ミユ、まだいけますか?」
「う、うん……でも、ミドリさん達、速いね……」
「双子ですからね……まあ、血は繋がっていなくても私達はRABBIT小隊、連携ならば負けません」
「つ、辛くなってきた……」
「が、頑張ってアヤネちゃん……!もう少しだから……!」
「も、もうちょっとよヨシミ……!ラストスパート!」
「わ、わかってるわよぉ!」
第二集団にはアビドスのアヤネとセリカ、トリニティのカズサとヨシミ、百鬼夜行やゲヘナの選手などが連ねていく。
「頑張れー!モモイ、ミドリー!」
「ファイトですよー!!」
「わ、わわワイルドハント、ファイトー!」
「…………な、なぁ、これ本当にやらないといけないのか……?」
「うん、やっぱりこのお腹は似合うと思った」
応援席の方では旗を振るモルフォ達に混ざって、チアガールに扮したレナが半分ヤケクソ気味に声を張り上げていた。服を見たり着るのはともかく、応援するのは羞恥心が大きいらしい。しかし、そこには偶然ヒビキ達に見つかったことで捕まえられたサオリの姿もあり、彼女もチアガールの恰好をさせられていた。さすがにこの格好は恥ずかしいのか、顔を赤くしながらポンポンで口や頬を隠してしまう。
「……あなた、何してるんですか……ふふ」
「!?スバル!?」
「あっ、サッちゃん凄く似合ってるよ。可愛いね……」
「あ、ああアツコ!?と、撮らないでくれ、こんな姿……!」
さらに最悪なことに、その光景をマイアを迎えに行き、戻ってきたスバルやアツコに見つかってしまう。アツコはここぞとばかりにサオリの写真を撮り始めており、スバルは面白いものを見たと言わんばかりに思わずニヤニヤと笑みを浮かべてしまう。
「コスプレは撮られるものだよ」
「イヒヒ……そうだよ、レナちゃん。バッチリ撮っておこうね……」
「うげっ、せせせ、先輩!?」
しかも気付けばレナの先輩と思われる片目を隠し、ボサボサで銀色の髪を足まで伸ばした小柄な少女がスマホを片手にレナを撮影し始めていた。
「……いやー、こうなるとは思わなかったよ、ごめんねレナ。なんか変なことに巻き込んじゃって」
「うぅ……まあ、モルフォは悪くないわよ……悪いのはこのカノエ先輩だから!いい加減やめてよ!!」
「でも永久保存版だし」
はぁ、と溜息を吐きながらモルフォの肩に手を置くレナ。その隣でスバル、アツコを前にたじたじになっていたサオリの下にも変化が現れる。
「か、可愛い服……先輩にも、似合いそう……」
「……ま、マイア?何を言って……」
「ねえ、もう一着ある?」
「あるよ」
マイアの言葉を聞いて即座にアツコがヒビキに質問する。待っていたと言わんばかりにヒビキが服を取り出し、ウタハが試着室を見せると、スバルも血の気が引いたように後ずさり始める。
「い、いえ私はこういうのは……」
「わ、私……見てみたいです……先輩、きっと似合うと思いますし」
「やめてくださいよ……そもそも、この体操服という奴だって最初着た時違和感凄かったのに……!」
「……だが、私より似合うだろ、お前の方が」
「なっ、サオリ!?」
「さっき、サッちゃんを笑った罰が当たったね」
「こんなかわいい服をスバル先輩が……?」
「見てみたい……」
「あ、あなた達まで……!?」
さらに、ぞろぞろと集まり始めたアリウスの後輩達からも期待され、遂にスバルは観念せざるを得なくなる。そんな中、モルフォが再び応援に戻ると、
『ゴール!!一位はハイランダー!ほぼ同着で二位、ミレニアム!三位にSRT、四位は……』
レースも終わりを告げ、続く競技の準備に入っていた。二人三脚が終わり、選手たちが退場すると、ユウカの音声が流れ始める。
『次の競技はトレーニング部監修のアスレチックレースとなっています。フィールドの調整を行うので、危険ですから誰も入らないでください。繰り返します……』
「……ん?どういうこと?」
「ああ、ある意味今回の目玉、ですよ」
「ヒマリ?」
その音声に先生が困惑していると、ヒマリがファンがついている体操服を着ているエイミと共に近づいてくる。セイアがヒマリにちらと視線を向けるが、すぐにスタジアムに起こる変化を確認するために視線を戻す。ヒマリは少し呆れながら、先生に答える。
「元はエリドゥで使われていた地形変更機能……それを、今回の晄輪大祭にあたって、アスレチックスタジアムに採用したんですよ」
「……え?それって……」
先生が答えると同時。フィールドが地響きと共に揺れ始め、地面が割れると共に複数の障害物が出現していく。あまりの現象に観客席が唖然となっていく中、エンジニア部とモルフォは感心したような声を漏らしていた。
「ふふ、やはり素晴らしいじゃないかこの技術は。私達のアイデアを全てこれが体現している……!」
「よく改造が許されましたね」
「許可なんて体育会室長が気前よくポンと出してくれたよ」
「ユウカ先輩、頭痛めてそうですね……」
『こ、こここれはなんということだー!?あ、ああアスレチックが、障害物が次々と地面から出てくる!?これが……これがミレニアムの最新技術!?なんか凄そうなのにたかが晄輪大祭なんかに使うとは技術の無駄遣いだー!!』
レナ達が唖然となってその光景に釘付けになる中、フィールドの変形が完了していく。これには先生も苦笑することしかできず、同じく苦笑いをするセイアと共にヒマリを見るとヒマリは肩を竦めながら呆れたように答える。
「無駄遣いしているようにみせるためにこんなことをやっているんですよ。ほんと、バカとハサミはなんとやらと言いますが……」
「は、はは……」
一方、百鬼夜行の生徒達が座っている観客席。その端の方には黒髪に猫の耳を生やし、二本の尻尾を持つ少女が溜息を吐きながら、入場する赤髪の龍の尻尾と黒い一本角を持つ少女を見ていた。
「……百鬼夜行の生徒として晄輪大祭に出ろ、ね……全く、百花繚乱の活動は停止してるのに体育祭には出ろって、陰陽部もいい加減というか……ま、気晴らしにはなる、か……」
「レンゲせんぱーい!ふぁいとですわー!!ほら、キキョウ先輩も!」
「わかってる……」
彼女をキキョウと呼んだ、濃い紫髪の少女の声援が響く。会場全体から出場選手に対する声援が届き、混ざり合っていく中、自分に向けられた声に気付いた生徒達がそれに対して手を振っていく。
「……って、なんでコユキが出てんの?え?大丈夫?」
「あれは楽しそうだからで出ていますね……トレーニング部監修だから希望者がまるでいなかったのに……」
「でもコユキ、楽しそうです!」
いつの間にかモルフォの下へ戻ってきていたゲーム開発部。モルフォはスタート地点にいるコユキを見て唖然とするも、すぐにクロノスから競技についての説明が入る。それが終わり、各ブロックにあるアスレチックのことが出場者に共有されたところで、
『それでは、始めます!よーい、スタート!!』
スターターの音と共に選手たちが走り始める。一番最初のアスレチックである無数のロープを伝って次のアスレチックへ向かう中、一番最初に抜けたのはサキ、続いてイオリと腰まで黒髪を伸ばし、二枚の黒い羽を腰から伸ばした糸目の少女、仲正イチカ。さらに続けてミサキ、シロコと体力や身体能力に秀でている生徒達が抜けていく。そんな中、コユキは完全に出遅れてしまっており、ロープ地帯を抜ける頃には、
「わ、私……出る競技間違えましたかね……?」
と冷や汗を流しながら困惑してしまっていた。それでも次の競技へと向かおうとしたその時、コユキの前に広がったのは、
「……か、壁?」
巨大な壁。そこには複数の突起が見えており、完全にボルダリングが聳えていた。それを見て、そういえばそんな説明があったのを思い出し、なるようになれとそれに手をかける。その少し先では、長身の、深緑色の短髪に黄色い目の少女が悪戦苦闘しながら登っていた。その隣までよじ登ってきたコユキが彼女に話しかける。
「あなたも苦戦してるようですね……」
「アスレチックと聞いていましたが、思ったよりガチで……いやこれもうちょっと動ける人にやらせるべきだったのかもしれませんねぇ……」
「もう先にもたくさん行っちゃいましたし……はーこうなるならC&Cに出てもらうべきでしたよぉ」
「ほんと、寮監隊の体動かしてる人達が出るべきですよこれは……あ、私は若狭フユって言うんですが……ミレニアムとも言えば今後とも是非ご贔屓にしたいですねぇ」
「あー、セールスとかめんどくさいんでユウカ先輩かモルフォに言ってくださいよぉ。じゃあ先行っちゃいますね」
「えっ、あの!?」
フユを置いてけぼりにして次のアトラクションへ向かうコユキ。なんとかボルダリングをクリアした先に待っていたのは、
「……そ、そういえばここは二つに分かれてましたね……」
これまではスラブと呼ばれる、奥に向かって少し傾いている形だった。それはそれで限りなく90度に近いため、登るのも一苦労なのだが、ここからは垂壁と呼ばれる90度の壁とオーバーハングと呼ばれる手前に倒れている壁、最後にはルーフと呼ばれる天井のような壁まである。つまり、ここからは自分の体がぶら下がっているような感じになるということであり―――
「いやいや無理無理無理!?こんなのどうしろと!?……って、あ。そういえばもう一つは……」
こんなもの登れる人が早々いてたまるかとたまらずコユキが悲鳴を張り上げてしまう。が、すぐに説明を思い出し、その横にある誰でもいけるという道を見る。そこは、長めの坂が連続して上に上がっていく形になっており、その床はランニングマシンのように移動しており、そこを走る者を押し返そうとしているのがわかる。遠回りをするか身体能力にものを言わせてボルダリングを続行するか。更なる駆け引きが求められていた。
「……って、選ぶまでもありませんね!」
「ふう、やっと終わ……うわー……」
コユキが一目散に坂の方へ向かうと、遅れて駆け上がってきたフユらもそちらへ向かう。一方、イオリらはボルダリングの方を引き続き続けるようだ。
「け、結構きつくなってきたなこれ……」
「というかミレニアムはアホっすか……?なんでこんなバカみたいな競技……!」
「きっつ……」
プルプルと手足を震えさせながらオーバーハングへと差し掛かるイオリ、イチカ、ミサキの三人。その一番前をサキが慣れた様子で先行しており、二番手を進んでいたのはなんと、百鬼夜行の不破レンゲであった。
(後ろがうるさいな……こういうのは止まらず行かないと余計に体力を浪費するだけだぞ……!ああもうこっからぶら下がるのか……!私、最後まで持つか……!?いや、SRTの特訓とレッドウィンターの力仕事で鍛えた体を信じろ……!!)
「……くっそぉ……結構鍛錬は積んでるのに……!これ……絶対、普段使わない筋肉使わされてる……!うわっ!?」
次の瞬間、レンゲはホールドから手を滑らせてしまい、バランスを崩してしまう。それによって体勢が崩れたことで、その被害はすぐ近くにいたイオリに及んでしまう。
「バッ!?何やってんの!?」
「うわっ!?こっちくんなっす!!」
「私に言うな!?おい百鬼夜行の、えっと……」
「アタシはレンゲだ!?いやこれわざとじゃないって!!」
しかも、イオリが逃げるように手を離して揺れたことでさらにイチカまで影響を受けてしまう。三人とも慌てて揺れを直し、体勢を戻そうとする。一方、たまったものではないのはその下にいるミサキだ。
「ちょっ!?」
登りかけた体をその場に留めるという無茶すぎる力のかけかた。しかもその場に制止されたせいで、止まるだけでも余計に負荷がかかるのだ。
「くそっ、こんな奴らの下にいたら命がいくつあっても足りない……!」
余計に体力は消耗するがここで落下する方が嫌だ。左の方へと移動しながら上を見上げると、シロコが着実に高さを積み上げている様子が見えた。彼女の下なら大丈夫だと思ったその時。
「あっ」
「うわっ!?」
なんとシロコがホールドを掴み損ね、落下してしまう。慌てて素早く下のホールドを掴み直すが、それによって全体重と力が手にかかり、またしても手放しかけるも何とか持ちこたえる。ただし、
「……さっさとどいてくれない!?」
「ん、すぐ上に行く」
「こ、こいつ……!」
その足はガッツリミサキの肩にかかっており、シロコが持ちこたえた理由がそこにあった。
「……よく耐えたな、ミサキ」
「かなり危なかったとは思いますが……」
応援席からもその様子を見て、安堵の様子を見せるチア姿のサオリ。その横では呆れながらも同じようにホッとする、チア姿に着替えさせられたスバルの姿があった。
「頑張ってるなぁコユキ。体力が最後まで持てばいいけど」
モルフォが呟く中、一番最初に上まで上りきったのは、坂を走っていたコユキであった。しかし、既に体力の限界のようで膝をプルプル震わせながら進んでいく。
「よし、クリアした……くそ、後半はどこに手をかけるかで苦戦したな……」
少し遅れてサキが遂にボルダリングをクリア。そのままコユキ達よりも十分速い速度でゴールまで走っていく。そして、
『ゴール!一位、SRT!二位、ミレニアム!三位、ワイルドハント―――』
次々と選手がゴールし始める。競技が終わったところで、最後の意地でルーフを攻略してのけたシロコ達は完全に床に寝転がって伸びていた。
「くっそー……鍛錬不足かよ……」
「ん……これはトレーニングするべき……こんなところで倒れるなんて情けない」
「い、良いこと言うじゃん……えっと、シロコとか呼ばれてたっけ……?」
「ん……そうだよ、レンゲとか言われてた人……皆でトレーニングすればいい感じに仕上がる、多分スミレならそう言う」
「へ、へぇ……興味あんな……」
「……いや、これやっぱきついっすね……」
「はぁ、はぁ……!なんで私これに希望したんだろ……」
「……予想してなかったの?トレーニング部って書いてあったのに」
「わかるわけないじゃん……!ああ、下見ないで済んで本当によかった……」
疲労困憊のまま寝転がって動けなくなる面々。彼女達は救護騎士団に救護されるまでずっとその場に放置されることになるのだった。
★
救護騎士団や救急医学部が慌ただしく動き回るテント。そこに置かれた仮設ベッドには競技で負傷した人達が寝かせられており、怪我の手当てやアイシングが行われていた。
「アイシングいきますよー」
「……んんんんん!?」
セリナに氷嚢を膝や腕に当てられ、シロコの悲鳴が上がる。悲鳴が上がってるのはシロコだけではない。他にも様々な生徒達が悲鳴を上げていた。
「……野戦病院か何か?」
「お見舞いの方ですか?今手が足りなくて……よろしければ見舞いに来た相手だけでもいいのでアイシング手伝ってもらっていいですか?」
「あ、いいですよ」
「お、モルフォさん……見舞いに来てくれぇえええええ!?」
「膝大丈夫そうー?」
「……きついですね……うう、こうなるなら普通に玉入れやるべきでしたね……」
「トレーニング部って書いてあったのに……」
見舞いに来たモルフォに救急医学部から受け取った氷嚢を押し当てられ、悲鳴を上げながら中継画面を見るコユキ。そこでは大玉転がしが終わり、次の競技である玉入れが行われていた。
「そういえば普通の競技もあるんだね」
「ユウカ先輩が普通の競技はちゃんと入れないと絶対他の学園からの反発が凄いからーって言ってましたね。ところで似合ってますよその恰好」
「あーそう?そういや脱ぐの忘れてたけど……まあ見舞いだからいいか。もうちょっとしたら戻るだろうし」
画面の中でモエを筆頭に玉の代わりに手榴弾を投げ込み大爆発が起こり大騒ぎになる様子を見ながら呟くモルフォ。そこに、たまたま近くで別の生徒を相手に作業をしていたセナが声をかけてくる。
「……おや、あなたは」
「……あ、確か……セナさんでしたっけ」
「ええ。伝えるのが遅くなってしまいましたが、調印式の時はありがとうございました」
「ああ、気にしないでください。私達が決めたことですし」
モルフォの返事を聞いたセナは納得したように頷くと、次の生徒の下へと移動していく。入れ替わるようにテントの中にノノミやヒナ、ツルギ、キキョウなどがなだれ込むように入ってくる。
「シロコちゃん、大丈夫ですか?」
「ん、結構きつい……ノノミ、次の競技は?」
「私はまだ結構先ですよ~」
「イチカ、だいぶ苦しそうだな」
「いやー面目ない……っす、あはは……いややっぱ辛いっす。乳酸が凄いことに……」
「ヒナ委員長……」
「イオリ、とりあえずゆっくり休んで。肉離れとかはしてないようね」
「つ、次の競技までには……」
「……レンゲ」
「こ、こんくらい平気だって……それに、晄輪大祭なんてアタシ、滅茶苦茶青春してんのに、こんなところで終われるわけないって!……っつぅ……!!」
「バカね、それで最後まで持たなかったら元も子もないでしょ」
完全に死屍累々である。まさか他の部の監修した競技が出る度に増えるのだろうかと恐ろしい想像がモルフォの脳裏に過り、私達が作った奴大丈夫だよね?と不安すら感じてしまう。そんな中、
「シロコちゃーん、お見舞いにきたよー」
「ホシノ先輩、飲み物ってどこま……で……」
ホシノがアビドスのジャージを着た誰かを連れて入ってくる。浅葱色の髪の少女を引き連れて。
「……な、なな……何やって……!?」
「?ノノミ?どうしたのそんな震えて」
「いやー、シロコちゃん苦しそうだったし、休ませるためには代理を立てるべきかなって。でもさ、私達五人しかいないのにシロコちゃんの分を他の人がってやるのは結構消耗激しいでしょ?だからさー……買っちゃった☆」
「買った!?ホシノ先輩何言ってるんですか!?」
「?買ったって何言ってるのホシ―――!?」
「……お前は」
不穏な言葉が聞こえてたまらずヒナやツルギが振り向き、そこにいる少女を見る。それは見間違えるわけがない。紛れもなくヒヨリの姿であった。
「……いや何やってんのヒヨリ!?」
「うわぁん!やっぱりバレました!!うう、ベビーカステラを奢ってくれるって言ったのにバレたら意味がありません!!」
「そんなもので買収されないでくれる!?」
「……ヒナ委員長、なんか凄い顔してるけど大丈夫?」
「…………大丈夫よ。ホシノ、あなた本当にわかってるの?」
「あれ、ヒナちゃんも来てたんだ……いやまぁ風紀委員会の子が出てたからそりゃ来るかぁ。わかってるって……ああ、アリウスの子を連れてきたこと?」
「……いや、そうじゃなくて……」
「めっちゃ欲しそうな顔でベビーカステラの屋台見てたから?まあ、シロコちゃん達をびっくりさせられたらいいかなって思いついただけなんだけど。はいこれあげるねー」
「いいんですか!?ありがとうございます!!」
「…………もういいわ。じゃあイオリ、私そろそろ行くから」
遂には呆れてしまったのかトボトボとテントを出ていくヒナ。それから少しして、
『それでは次の競技は新素材開発部考案レースとなります。危険ですので生徒達は―――』
「あっやっべ、次の競技私じゃん」
「脱ぐ時間あります?」
「下はない!もうこれで出る!」
モルフォも慌ててテントを飛び出していくのだった。
★
『さあ、お次は新素材開発部考案レース!新素材の数々で作られたコースが待っているとのことですが……いやなんか坂のアップダウンがエグくないです?』
「……次はモルフォの出る競技ね……ただ、これは……」
「ふっ……まあ、運が悪かったと思っていただきましょう」
「あなたに同意するのは癪ですが……まあ、右に同じと言っておきましょう。尤も、勝つのはミカ様ですが」
「いいえ!勝つのは委員長です!!」
「……頑張ってね、モルフォ……」
実行委員会の方では、ヒナとミカが出場する競技とあってアコとハスミの対立はとんでもないものになっていた。さすがにこの二人の前ではさすがにモルフォも分が悪いとユウカ自身感じているのだろう、せめて三位は……と言いたげな様子で視線を戻していく。
『―――というわけで、今回の競技ではそれぞれ普段自分が使用している武器と新素材開発部が用意した材料から作り上げたソリをそれぞれ背負ってもらい、コースを二周してもらいます!』
「おお!なんか楽しそうです!」
「そういえばモルフォちゃんその恰好で出るの……?」
「脱ぐ暇なかったし……別に駄目とは言われてないからへーきへーき、チアで出るよりかは全然恥ずかしくないって」
「そのモルフォも様になってるけど、私はチアの恰好をしたモルフォも見てみたかったな」
「さて、サキに続いてこの特殊レースは落としたくないところですね……」
「私達も負けないよ?」
「モルフォさん、ここにいる全員敵同士ですよ一応……」
一方スタート地点ではイズナ、セリカ、アツコ、ミヤコとモルフォが談笑していた。他どんな生徒がいるのかとモルフォが視線を動かしていると、三角帽子をかぶった白髪のワイルドハントの生徒が目をキラキラさせながら障害物などを見ていた。
「にゅふふ……新素材……これは魔法の媒体としても適していそうですね……」
「……魔法か……確かにそういうのとしても使えるものがあったりするのかな」
「ミレニアム……にゅふふ……」
そんな生徒達の様子を、ちょっと離れた所で見ながらミカが笑う。
「いいなぁ、トリニティも応援衣装用意してくればよかったなぁ」
「……もうすぐ始まるわよ」
『それでは皆さん!位置について……よーい、スタート!!』
それをヒナが窘めた直後の実況を聞き、選手たちが全員スタート地点に立つ。そしてスターターの音と共に、ヒナとミカが飛び出し、その後ろを他の生徒達が続く形となっていく。そして最初の障害物として、複数のポールが出現する。
「最初の障害物……なるほどね」
ミカとヒナがポールの根元を撃って破壊し、へし折ってノンストップで走っていく。すると、下からじわじわと柱が再生するように元に戻っていく。
「一体何の素材を使ったらああなるの……?」
「アリウスに持ち帰ったら面白そうだね……」
第二グループとなったモルフォ達もポールを破壊しながら後を追いかけていく。コースはそこそこ長いのだ、ペース配分にも気を付けながら傾斜の大きな坂を駆けあがっていく。
『さあ、ポール地帯を乗り越えると次は傾斜のとんでもない上り坂だー!ここで、先頭グループのトリニティとゲヘナ、第二グループのミレニアム、アリウス、アビドス、百鬼夜行、それ以外の第三グループに分かれていく!』
「ちょっと、何よこの坂……!」
「でもまだまだです!イズナはもっとやれますよ!」
「……そしてここを越えると砂っぽい下り坂……成程、説明の通りだね」
体力の消耗を強いられながらも上り坂を突破していくと、強風を放つ扇風機が坂に向けて間隔を空けながら風を送り込む下り坂が目に入る。その下り坂は砂のような面になっており、これもまた新素材開発部が作り上げた物体なのだろう。そこでソリに乗ると、
「おおおお!?これは確かによく滑ります……!」
「ちょ、ちょっと速さが乗りすぎじゃない……!?」
「……うーん、確かに速いけどこれは……うん!」
「!」
予想以上に速度が出ておっかなびっくりといった様子でイズナ達が滑り出す。そんな中、先頭グループを走っていたミカは突然ソリを脇に放り捨ててしまうと、そのまま走り始める。
『おおっと!?どうしたことだ!?トリニティの聖園ミカ選手が自らの脚で走り出した!?』
「……確かにこっちの方が速いわね」
『ヒナ選手も走り出した!?これは競技としていいのかー!?……とと、二人は下り坂を突破して、トランポリン地帯に突入だ!そのまま軽々と跳んでいき、颯爽と二周目!』
「ニンニン!イズナ流忍法、二段大ジャンプの術―――!!」
「イズナ……?」
その後ろから、下り坂の途中からジャンプしたイズナが直接トランポリンに乗り、大ジャンプを決めてみせる。その後ろから坂を下りきってソリから降りたモルフォ達が凝視しながら、二周目に入り始める。
「……今の感じ。あの扇風機を考えれば……もしかしたら……よし」
「モルフォちゃん?そんなに飛ばしたらバテちゃうんじゃ……」
「……下り坂で体力を回復するつもりかな?」
ヒナとミカが先行する中、イズナのリードにも追いつき、第二グループから突出する形で上り坂を攻略したモルフォは、動きを止めている扇風機をバックで立ち止まる。
『ど、どうしたんだ!?ミレニアムのモルフォ選手、突然立ち止まってしまった!これは疲労か!?その前を他の選手たちが次々と通過、第二グループの最後尾になってしまった!』
「も、モルフォ!?どうしちゃったの!?」
「……まさか怪我でしょうか?」
「……いえ、あれは碌な事考えてませんよきっと……」
ユウカやハスミが心配そうにモルフォを見る中、アコは違う意味で不安そうな視線を向けていた。とはいえ、彼女もヒナの勝ちは疑っていないからこその視線だったが。
「……モルフォは風を待っている?」
「でしょうね。ふふ、何を見せてくれるか楽しみです。彼女は皆を飽きさせない点に関しては他の追随を許しませんから」
「同感だね。さあ、ここからどう動くのかな?」
先生、ヒマリ、セイアも期待するような視線をモルフォに向ける中、遂に風が起こる。それと同時にモルフォはソリに飛び乗ると、限界まで体勢を低くする。さらに自分のシールドを展開させると、それを前方に向ける。後方からは風を受け、前方からはシールドを伝って風が裂かれていく。瞬く間にモルフォは速度を上げていく。
「そうか、シールドを使って空気抵抗を極限まで減らしているんだ……!」
「それでここまでの速度を……」
「アツコ達も追い抜くとは……」
「エリ先輩……第三グループだから駄目そうね……」
エンジニア部達もモルフォの行動がどういう結果を生むのかわくわくした様子で見ていく。次々と生徒達を抜かしていくと、ここでチャンスと言わんばかりにその場で大ジャンプ。ソリをその場で捨て、そのままトランポリンへと空中から向かっていく。
「この感じなら……かっ飛べ!!マグナーーーいや」
そこでシールドを腕に通し、ショットガンハンマーを振り上げると、勢いよくトランポリンへと叩きつける。モルフォの身体が沈み、腕が押し上げられる力で震えていく。それに耐えながら限界まで沈み込んでいくモルフォ。そして、
「ミレニアムダイナマイトォ!!」
『な、ななななんだぁ!?モルフォ選手が空を飛んだああああ!?そのまま、トップに迫る―――!!』
勢いよく、空へと打ち上げられるモルフォ。そのままイズナを抜き去り、姿勢を崩して墜落するイズナに対し飛び去っていくモルフォは、落下をし始める。そのタイミングでシールドに足を通し、斜めに落下していく。
「抜けえええええ!!」
「なっ!?」
「えぇ!?」
その勢いは、なんとヒナとミカにまで届き、落下してくるモルフォを避けようと、ヒナが一瞬横にステップ、そしてミカが姿勢を崩してしまい減速。その間に着地したモルフォは二回ほどシールドでバウンドしながら、それをソリ代わりにし、トップスピードのままゴールへ突き進む。しかし、その脇を速度を維持していたヒナが抜き去り―――
『ご、ご、ゴール!!一位はゲヘナ!そして二位、まさかの追い上げでミレニアム!!三位にトリニティ、四位はアリウス―――』
ヒナに一位を奪われるものの、モルフォが二位を取るというまさかの結果となり、観客達の大興奮の声が響き渡る。そして実行委員会の控室ではハスミが崩れ落ち、ユウカが狂喜乱舞するという光景を生み出して新素材開発部考案レースは終わるのだった。