転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……ホシノ先輩。大丈夫ですか?」
「ん?大丈夫大丈夫ー、まあネルちゃんも出るらしいから簡単にはいかないだろうけど」
次の競技のアナウンスが聞こえてくる中、控室に移動していたホシノがのんびりと体を伸ばしていく。その光景を見ながら、ノノミは悲痛な面持ちを浮かべていた。
「ホシノ先輩、やっぱり気にしているんじゃないですか?」
「え?」
「だって……あれは」
「……あー、やっぱりわかっちゃうか……ごめんね」
「いえ……こちらこそ、気付けずにごめんなさい……」
ノノミが言いにくそうな様子でいると、ホシノも彼女が何を言おうとしているのかに気付き、頭を掻く。
「「
と、ここでホシノが困惑したまま固まってしまう。一方のノノミも唖然とした様子でホシノの顔を見ることしかできない。この噛み合わなさは一体。
「いや待って待って、なんでユメ先輩?」
「え?え?だ、だってホシノ先輩、ヒヨリちゃんにアビドスのジャージ着せて……あの髪の色とかって絶対そうじゃ……!」
「いや別人じゃん!?さすがにヒヨリちゃんに失礼だって!?ノノミちゃん大丈夫!?」
甘い物でもついでに買っていこうと思ったところで屋台に齧りついているヒヨリを見つけてつい魔が差して行っただけの一発ネタでなんでそんな発想に?とさらに困惑が強まり、ノノミの両腕を掴み、心配そうにノノミの顔を見上げる。だが、そんなホシノの顔を見たノノミは安心したようにその場に崩れ落ちてしまう。
「そ、そうだったんですか……あはは、よかったです……私の勘違いで、あは、は……」
「……えーとねー……なんかこう、どういえばいいか分からないんだけど……まあ、その、ね……とりあえずヒヨリちゃんはヒヨリちゃんだし、その……ユメ先輩とは全く似てないというか……さすがに全然違うし……」
「そ、そうですよね……別人ですよね……」
「で、その……気にしてるって言ってたけど……そりゃあ、今も気にはしてるよ。でもまあ……それよりも、ちゃんと受け入れなきゃね。だからさ、ノノミちゃんが気にしなくていいんだよ。安心した?」
「……はい。すみません、ホシノ先輩、急にこんなことを言って……」
「ううん、心配してくれてありがとうね」
どうやらとんでもない勘違いをさせてしまっていたことにどうしたものかと頬を掻きながら、安心したように笑うノノミを見つつ、ホシノは苦笑を漏らすのだった。
★
『しっぽ取りゲームも白熱!しかしこれは……ミレニアムのネル選手とアビドスのホシノ選手の独壇場だー!そして次なる魔の手は百鬼夜行のキキョウ選手に―――あーっと!っ二人が掴んだのは本物の尻尾だー!!滅茶苦茶痛そうです!これは策士策に溺れる!!』
中華系の料理を売っている、他と比べて広めのスペースを確保しているのか簡易テーブルなどが置かれている店。そこでモルフォ、ケイ、ミドリ、体操服に一旦着替え直したコトリの四人は食事をしていた。
「おー、ネル先輩めっちゃ速い」
「最初は仕掛けてくる人から取っていましたが、途中でホシノさんを追いまわしてたハイランダーの人をネル先輩に押し付けてから流れが変わりましたね……」
「声拾えてなかったけど絶対ホシノさん煽ってたもんネル先輩のこと。そっから二人とも尻尾を総取りし始めたし」
晄輪大祭ではお昼は競技に出ていない空いている時間を利用して各自で食べることになっている。ちなみにユズはこの次に行われる騎馬戦に、そしてモモイはコユキが未だに膝が回復してないせいで実行委員会に戻れず、急遽ユウカが代理を立てて呼び入れたのだ。モモイも最初は渋っていたものの、コユキにこのまま動いたら体が壊れると泣きつかれたので行かざるを得なくなっていた。
「しかし、玄武商会の料理は美味しいですね」
『あ、アリスも食べたいです……』
「山海経の料理は美味しいよねー、一回本場に行ってみたいよ」
「あー、わかる」
「ふふ、ありがとうね。ミレニアムの子達も是非来てみなよ。いいところだよ」
ワイワイと四人で話をしていると、調理人の恰好をした少女が奥から出てくる。美味しく食べるケイ達の姿を見て、嬉しそうに笑う彼女の顔を見て、モルフォも彼女が誰か思い出す。
「朱城ルミさん……パンフレットにも載ってた人だ。確か玄武商会っていうところの会長さんで超一流の料理人だとか」
「あはは、そう言われると照れるね。君、モルフォって呼ばれてたよね?競技見てたよ~、いい飛びっぷりだった!」
「あ、はは……無我夢中ではあったんですけどね」
「凄く格好良かったですよ!」
「さっきまで教官達がいたんだけどね。子供達もすっかり盛り上がっていたよ」
「教官?」
「春原シュン教官が梅花園の園児たちを連れて昼食と観戦に来ていたんだよ。今はもう行っちゃったけどね。丁度入れ違いだよ」
ルミから話を聞きながら、楽しそうに笑う。まさかここまで盛り上がるとは思わず、なんか新鮮な気持ちだ。正直ゴールした時は勢いでマグナムダイナマイトもどきをやったところでエンジニア部しかわからんだろ……なんて思っていたものだが。
(にしたって結局二位でゴールするところまで真似なくてよかったんだけどなぁ)
と、画面を見ていると、しっぽ取りゲームは終わり、次の競技である騎馬戦が既に始まっており、それも佳境に差し掛かっていた。そこではトキ、マキと出ることのできないコユキに代わってエイミが入る形で騎馬が組まれており、その上に騎手としてユズが抜擢されていたのだが、その対戦相手はなんとチセ。忍術研究部が騎馬を務める中、お互いに追うのもやっとのレベルで手を動かし合い激しい攻防を進めていた。
『何という攻防でしょうかー!これがかの戦闘部隊、ゲーム開発部部長の実力だというのかー!?しかし恐るべきは百鬼夜行のアイドル、チセ選手の手さばき―――!』
「うわぁ凄いことになってるね……」
騎手の方では決着が付かないとトキらが判断したのか、勝負は騎馬と騎馬のぶつかり合いの方に移行する。上で二人が激しく争いながら、激しくぶつかり合う中、ここで忍術研究部がマキがウィークポイントだと気付いたのだろう、一番前に位置するツクヨの大きな身長を活かしてうまく回り込み、マキに激しいタックルを仕掛け、マキから騎馬が崩れてユズが落下してしまう。
「あちゃー……」
「マキちゃん、残念だったね……」
「それにしても、案外ミレニアムもポイント稼いでるね……下馬評だと中の上ぐらいだったのに」
「皆楽しそうです!」
「次は……エンジニア部が企画した競技だっけ。かくれんぼレースとか書かれても何するのかさっぱりなんだけど……なんか妙に可愛いネーミング」
「カリン先輩が出るんだっけ……いや本当に何するんだろ」
「まあ見てもらった方が早いですね!」
百鬼夜行が騎馬戦を制する様子を見つつ、次の競技の事を考えながらモルフォ達は店を後にする。百鬼夜行を始めとする屋台が立ち並ぶ中、その中には晄輪大祭を中継するモニターがあり、学園に所属していないスケバンなどの不良や、屋台を物色しにスタジアムの外に出ていた生徒達が齧りつくように見ていた。その中には、
「あれ、ハルナさん?」
「おや、あなた達は確か、ゲーム開発部の。ふふ、あなた達も美食を追い求めて?」
「ああ、さっき食べ終わったところで。玄武商会の会長さんがやっている店です」
「あそこですか、確かにあそこはとても満足のいく店でしたね」
美食研究部の面々もいた。その手には近くの屋台で買ったものが握られており、これらを摘まみながら観戦に興じているようだ。
「先ほどは凄く惜しかったですね。おかげで良いシチュエーションを楽しめました」
「もうちょっとでヒナ委員長に勝てそうだったね!」
「ゲヘナの人達なのにヒナさんが負けること期待するのは大丈夫なんですか……?」
「ふふ、美味しく食べれるなら別に構いませんよ」
「……それはそれで問題発言だと思うけどね」
美食研究会の各員の発言を受け、呆れたように言いつつも自分の意見そのものはハルナ達と同じようだ。スタジアムの方では、各部からレンズが姿を覗かせる巨大なロボットが立っており、その周囲を障害物などが囲むというよくわからない状況となっていた。だが、レンズから赤外線が照射されたことで、参加者達はどういう競技かを理解する。
「……あー、あの光に当たらなきゃいいんですかね?」
「……あれ?キリノじゃん。キリノも休憩?」
「あっ、夢見さん!お久しぶりです!ええ、本官は現在休憩中で……でも、有事の際にはバッチリ仕事をなさるので!」
集まる観客達の中にはキリノの姿があった。そんな中、競技が始まると、カリンやミユらが遮蔽物を利用してロボットの視線を遮りながらゴールへと向かっていく。と、ロボットの視線が切れたのに合わせて遮蔽物から生徒が一人飛び出した、その直後。ロボットはフェイントを仕掛けたかのようにそのレンズで生徒を捉える。赤外線を照射されたその生徒は驚いたように体が硬直していたが、直後、ロボットに仕掛けられていた空気砲で吹き飛ばされてしまう。
『あーっと!失格です!この空気砲、なんという威力でしょうか!』
「……何を作ったんだエンジニア部は……」
「い、痛そう……」
「……成程。フェイントもありだと話が変わってきますね」
スタジアムの方では慎重かつ大胆な動きで黒髪に黒い羽を持つ少女、静山マシロがロボットの隙を突くように走り抜けていく。その様子を見て、あることに気付いたカリンはロボットの視線が切れたタイミングで全力疾走。ロボットが周りを見ていたが、やがてそれがカリンを捉えた、まさにその直後。空気砲が発射されるもそれを回避しながらカリンは走り続ける。
「……いやそれありなんですの?」
こそこそ隠れながら行くのがこの競技の肝ではないかと困惑する紫髪の少女、勘解由小路ユカリ。ともかく、ロボットを気にしないでいけるのなら話は別だ。ユカリも一気にゴールを目指そうと抜け出した瞬間、
「きゃーっ!?」
空気砲に撃たれて場外へと吹き飛ばされてしまう。
「……やっぱりあの人やばいですね……一見気にしないで走ってるように見えますけど、ちゃんと空気の弾に当たらないように絶妙な所で止まったり隠れたりもしていますし……うぅ、かくれんぼとか書いてあったから参加しましたが、あれ当たったら絶対痛いですよね……」
次々と吹き飛ばされていく生徒達を見ながら、ヒヨリも歩みを進めていく。カリンの行動の意図を理解し、空気砲を避けながらゴールまで進んでいく生徒達の顔ぶれは、次第に隠れることに手慣れた各学園のスナイパーを筆頭とした面々になっていく。
「おっ、決着か……」
決着間近。うまくロボットをすり抜けてゴールにヒヨリが辿り着き、一位になったのを皮切りにクロノスの実況で次々とゴールした選手と所属校が発表されていく。競技が終わり、次の競技への準備が始まったことでモニターから生徒達が離れ始め、屋台に行ったり別の場所へ向かったりしていく。
「ふふ、それでは私達も次の美食を……」
「買ったらスタジアムの方に戻らない?」
「そうですね、それもまた良いでしょう」
ジュンコがハルナ達から離れてスタジアムに行く。そういえばもう少しで晄輪大祭のプログラムも終わりかとぼんやり考えながら、モルフォ達は顔を見合わせると、
「じゃあ私達も観客席の方へ戻ろうか」
「うん、そうしよっか。お姉ちゃんとユズちゃんも待ってるだろうし」
「じゃあね、キリノ」
「はい!本官はここら辺にいるので!」
キリノに別れを告げ、観客席の方へと戻っていくのだった。
★
「……え!?ネル先輩が出場辞退!?なんで!?」
実行委員会本部。そこには現在、ミレニアムの生徒しかおらず、やっと戻ってきたコユキをモモイが出迎えていた。しかし、そこに戻る途中にネルに会ったらしいコユキからユウカに伝えられた言葉に、ユウカは絶句してしまう。
「あれ?ネル先輩が最後の学園対抗リレーに出る予定だったの?」
「そ、そうよ。最後の競技ってことでここが一番点が高いから他の学園も体力自慢をここに入れてくるはず……だったらこっちもネル先輩に出てもらわなければ勝ち目はないんだけど……」
「あれ、じゃあネル先輩怪我しちゃったの?最後に出てたしっぽ取りゲームだと全然そんな素振りなかったけど」
「いやー、そんなことありませんでしたよ?もうピンピンしてるって感じで。ただ最後はユウカ先輩が出ろって」
怪我をしたなら仕方ないという気持ちはあるが、そういうわけでもないようだ。となれば、何故ネルは自分が出る競技を辞退したというのか。その理由をコユキは聞いていたのだろう、頭を抱えるユウカを見ながら、その時の事を思い出す。
「ふふ、盛り上がっているようですね」
「あ、ノア先輩」
「ノア?どうしてここに……」
さらにそこにノアも現れる。ノアも、ユウカに話があってきたのだろう。部屋の中に入ると早速と言わんばかりに、
「ふふ、ユウカちゃんにはリレーに出てもらおうと思って」
「ノアも?折角、足の速い選手を揃えたのに……」
「確かに勝つことは大事ですが……折角ですしユウカちゃんも、もっと競技を楽しんでもいいと思いますよ」
ノアの話に少し、遠慮がちに顔を背けるユウカ。彼女だって、個人の意志としては競技に出て、学園の垣根を越えて皆で騒がしく、ワイワイと盛り上がりたかったのだろう。しかし、ミレニアムが勝つためには自分が競技に出ない方が得策だと。他の、こういう競技に出たいと希望する生徒達に関してはその限りではないがユウカ自身はやはり勝利を最優先にしたいという思いがどうしても今も残っていたのだろう。
「それに……既にミレニアムはもう勝っていると言えますからね」
「それは……まあ、ここまでやりたい放題しているんだから単純な勝ち負け以上のことにはなってると思うけど」
「モルフォちゃんも言ってたでしょう?楽しんだもの勝ちだって」
元々ミレニアムの生徒達のモチベーションの大半はこの機会を利用して好き勝手やることにあると言っていい。そういう意味ではここまでハチャメチャな競技の数々でそれを演出してきた以上、ほとんどの面々が満足しているといっていいだろう。
「楽しんだもの勝ち……」
「そうだよユウカ!これで最後ならバッチリ決めてきなよ!」
「にはは、案外どうにかなるかもしれませんよ?私も絶望しかなかったんですけど何とかなりましたし……」
「モモイ……コユキ……はあ、わかったわ」
確かに、そういう意味では既にミレニアムは晄輪大祭を大成功させているし、十分にその成果を挙げていると言えるだろう。それに、ネルを始め、皆から出場することを望まれているのなら、やはりその期待には応える必要がある。勝敗については期待しないでほしい、と遠回しに言いながらそれを承諾するも、三人はニコニコと笑うばかり。
「とはいえ、ツルギさんやヒナさんが出ると聞きますし、これじゃあ……」
最後の抵抗のようにそう言いながら、ユウカはそそくさと本部を出ていく。それから数分後、最後の競技である借りもの競争の準備が終わり、選手たちがコースに現れる。だが、そこにいたのはユウカだけではなく、なんとハスミの姿もあった。
「……あれ?トリニティは確かツルギさんが出るんじゃ……」
「そちらこそ……」
「「……」」
驚いたように互いの顔を見やるユウカとハスミ。だが、すぐにお互いに何故本来の参加者ではなく自分達が選手として出場しているのかその理由を察したのだろう、無言で顔を前方へと向ける。どこの学校も考えることは一緒ということか。
(ツルギに説得される形で出てしまいましたが……まあ、ミレニアムの方もかのダブルオーが出ないということで正直助かりました。ゲヘナもヒナ委員長が失踪したと言ってましたし、そういう意味では戦力の減少はどこも一緒と考えていい。それに、アンカーが彼女であれば勝ち目も高いでしょうし)
学園対抗リレーは書いて字の如く、選ばれた選手たち四人によって行われるリレーだ。そのため各学園も運動神経の良い選手たちを取り揃えていたのだが、ミレニアムとトリニティからは急遽、アンカーを務めるネルとツルギの代わりにユウカとハスミが各々説得を受けて駆り出されていた。その近くではジュンコがじっと現在走っているランナーを見つめており、現状、得点がミレニアム、ゲヘナ、トリニティで横並びになっていることを踏まえればこの一戦で総合優勝が決まるといっていい決戦に向けての気迫を感じられた。
(……せめてミカ様が見つかればよかったのですが、結局見つかりませんでしたし……まあ、いいでしょう。この面子なら……!今回の総合優勝……トリニティがいただきますよ……!)
第三走者がアンカーに近づいてくる。その中には、
「ユウカー!これおねがーい!」
「はい!!」
ミレニアムの第三走者はアスナ。ネルは辞退してしまったが、アスナは楽しそうだからとそのままエントリーし続けてくれていた……というより、ネルが抜けたことで本来出場する予定だったアカネ、カリンもそのまま他に出たい人がいるならその人に、と辞退してしまったのだ。幸い、アカネとカリンもそれぞれ代役を見つけてくれたため競技の方に支障は出なかったのだ。しかし流石、アスナも速い。バトンを受け取ったユウカは必死に走り始める。
「うぅ、走ったらお腹が空いて元気が……ばたんきゅ~……」
「!後はお任せください!」
遅れて、バトンをハスミに託したトリニティの第三走者ナツが倒れ込む。しかし、必死の追い上げで全力疾走するハスミは徐々にユウカへと迫っていく。その後ろをイズナなどが猛追していく中、ユウカは必至の形相で走り抜けていく。
「「フレー!フレー!ユ・ウ・カー!」」
「頑張れユウカ先輩ー!」
「さすがに皆速いねぇ……イヒヒ。レナも出ればよかったのに」
「他に出たい人がいるんだからさすがに出るわけにはいかないでしょ……」
応援席からもエンジニア部とモルフォの応援の声が届く。それを後ろから聞きながら、レナ達は第二グループに落ち着いてしまったワイルドハントの走者を見る。ふと、レナがモルフォ達を見ると、そこには先ほどまでいたアリウスの生徒達の姿はない。何故なら、スバルもサオリも最後のリレーの出場者としてエントリーしていたことを利用して逃げるように体操服に着替えていってしまったからだ。なお、そのアリウスは第一走者として走り出したサオリがスタートダッシュを決めたものの、第二走者のミサキが盛大に足をつってしまい、一気に減速。そこから第三走者が頑張って追い上げ、アンカーのスバルが頑張って第二グループから抜け出そうとしているのがわかる。
「ああああああああ!!」
そして、遂にユウカはゴールへと辿り着く。体力も何もかも、全てを投げ捨てて走り出したユウカ。もう周りを見る余裕すらなかったが、とにかく走り抜いたという達成感があった。
「や、やった……!やったわ……!!」
「お疲れ様です、素晴らしい走りでした。それで順位ですが……五位です」
「……え?」
だが。ゴールしたユウカに近づいてきたスタッフが告げた言葉に、思わずユウカは振り返って唖然となってしまう。彼女の後ろでは、同じように呼吸を荒げながら肩を上下させるハスミに対し、ノアが六位になったことを告げていた。
「ご、五位……?」
呆然となりながら口を開くユウカ。しかし、周りを見てみると、明らかに自分より先にゴールしたであろう人たちが。
「……だから私が出ない方がって思ってたのよ……まあ、楽しかったからいいけど……」
だが、不思議と気分は悪くなかった。こうして最後まで走り抜けたという感覚は悪いものではない。それよりも、純粋に気になるのはトップは誰かということだ。ゲヘナの選手が自分の上にいたら逆転される、最後の走者であるジュンコが何位にあるのかがユウカにとって強い関心だった。
『さて、今回のリレー、ゲヘナ学園のアンカーであったジュンコ選手の怒涛の追い上げが光りましたね!バトンを受け取った直後に転倒するというトラブルこそありましたが、すぐに立て直してからのごぼう抜きは圧巻でした!晄輪大祭のトリを飾る学園対抗リレーで、ドラマが誕生した瞬間です!』
が、そのジュンコはなんと一位。それを受け、観戦していた美食研究会の面々も笑顔を浮かべており、その手にはチケットのようなものが握られており、これで万能食券が手に入ると喜び合っていた。その様子を見ながらアコがどや顔を見せており、彼女達はアコの手によって急遽スカウトされたようだ。
「……これならせめてアンカーを他の人に回してもよかったわね……まあ、それで結果が変わるわけじゃないけど……」
「……こうなってしまいましたか」
ユウカの元に、呼吸を落ち着かせながらハスミが近づいてくる。彼女に気付いたユウカも呼吸を落ち着かせ、汗を拭きながら声をかける。
「ハスミ副委員長もお疲れ様です」
「……ええ、そちらもお疲れ様です」
ユウカの言葉に応えるように手を振りながら、がっくりと脱力したようにハスミは肩を落とすのだった。
★
最後のリレーが終わり、その結果、ゲヘナ学園の総合優勝が決まった晄輪大祭。陽が落ち始め、夜空の下で後夜祭のキャンプファイヤーも始まろうとしている中、上の学ランだけを脱いで半袖の体操服姿になっていた。
「もぐもぐ……モルフォさんは踊らないんですか?」
「んー、踊るのもいいけどさ……キャンプファイヤー見てるのもまぁ、いいかなって。他の人が来たらまあその時は」
「へー」
座り込んでキャンプファイヤーと、その周囲で学園の垣根を越えてフォークダンスを踊る生徒達を見つめるモルフォ。このフォークダンスもこの後夜祭の特徴だ。ちなみにコユキは「これ以上膝を酷使すると明日絶対筋肉痛になりそうで嫌です」とギブアップ宣言をしており、他の体を酷使して踊れない生徒達に交じるように座ってベビーカステラを摘まんでいた。
「まあでも、それでもいいんじゃないですか?そういえば聞いたんですけど、後夜祭で好きな人とフォークダンスを踊ると恋が叶うとか」
「そう……」
「まあ私達には縁のない話ですねぇ。先生と踊りたい人で熾烈な争いが起こりそうですが」
「まあ同性と踊る分には何も関係ないからねぇ」
「モルフォー!一緒に踊りましょう!」
と、そこにアリスが駆け寄ってくる。その後ろにはモモイ達もおり、皆でモルフォを探しにきていたようだ。
「アリス、フォークダンスを踊るのは初めてです!」
「こういうことやるんだね晄輪大祭って」
「うう、踊れるかな私……」
「どうせほとんどの人がやったことないんだから大丈夫だって!」
「ま、私もやったことないけどね」
アリス達と合流して立ち上がったモルフォ。と、そこに体操服に着替えたエンジニア部がヴェリタスを連れて駆け寄ってくる。
「モルフォ、ここにいたんですね。ズボンはそのままですか?」
「あー、なんか脱ぐタイミング逃した……」
「普段から長ズボンだからね……逆にこっちの方が違和感がないや」
「そういえば、モルフォは知っていますか?フォークダンスの噂」
「噂?ああコユキから聞きました」
コトリにズボンを指摘され、コタマからフォークダンスの事について聞かれたモルフォが苦笑しながら答える。まあ、やっぱり皆興味はあるものなのだろう。
「なんでも好きな相手と一緒に踊ると恋が実るとか。中々面白いジンクスだと思いません?」
「女同士なのでそんなものはないですね」
「まあそれはそうだけどね。先生とか狙い目じゃない?」
「男性なんでそれはあるかもしれませんが……まあ、狙ってる人たちに任せますよ」
恋愛成就のジンクスなんてものもあったなと頭の片隅にしまっていた記憶を思い出しながらハレに答えを返す。すると、この話を聞いていたアリスが何かを思い付いたように両手を叩いて皆の注目を集める。
「アリス、わかりました!フォークダンスは私達の友情だということを!大好きな皆と一緒に踊ることで、ずっと一緒に過ごせるということですね!」
「成程、では一緒に踊りましょうか」
「ん?トキ?」
「い、いつの間に後ろに……」
いつの間にやらモルフォの後ろに立っていたトキが肩に両手を置きながら顔を覗き込む。コユキが今やっと気付いたと言わんばかりに驚いていると、モルフォが苦笑しながらトキの顔を見る。
「あはは、いいよ皆で踊ろうっか。トキ、他の皆は?」
「そのうち来るのではないでしょうか?アスナ先輩やアカネ先輩は踊るのを楽しみにしていましたし」
「オッケー、よしコユキもいこうか」
「えっ、私もですか。でもここで動くと筋肉痛がですね……」
「コユキ、一言」
「ん?」
そんな中、モルフォに誘われたコユキがやんわり断ろうとするのだが、そこに待ったをかけたのはヒビキであった。ヒビキは、どこか諦めたような声音でコユキに声をかけ続けていく。
「もう手遅れ。あなたは明日には筋肉痛になってる」
「なんでそんなこと言うんですか!?」
「言っておきますが私とヒビキも過去にそのクチで筋肉痛になってますからね。動けるうちに動いたほうが得ですよ」
思わず立ち上がりながら声を張り上げるコユキ。しかし、二人の言葉は間違っていないと思ったのだろう、溜息を吐きながらもコユキが立ち上がる。と、
「ふふ、皆さんこちらにいたんですね」
「あ、ハナコさん。ヒフミさんやアズサさんも」
「コハルちゃん、お疲れ様」
「そっちもね」
「あー、モルフォちゃん達ここにいたのね」
「セリカ達もお疲れ様」
「うへへ、折角だし皆で踊ろうって思ってねー、モルフォちゃんあれ凄かったよぉ」
「うお、結構人数集まってきてんな……」
「これだけ沢山の人数で踊ったらきっと楽しいよねー」
そこに補習授業部や対策委員会の面々も集まってくる。さらに遅れてきたC&Cの面々と大人数になってくる。改めてモルフォが他の場所を見ていくと、それぞれ思い思いのやり方で過ごしている人達の姿が見えた。
この場にいないミレニアムやゲヘナ、トリニティ、他にもワイルドハントやらといった面々が踊り、放課後スイーツ部や美食研究会が屋台で売っていたスイーツを口に運んでいたり、橘姉妹が踊り、百鬼夜行の面々がフォークダンスを踊るチセに釘付けになっていたり。また別の場所では頻りにペンを動かしているレッドウィンターの体操服に身を包んだ眼鏡の少女とその横でのんびりをその様子を眺める黄緑色の髪の少女がいたり。ちょっと離れたところではアリウスの生徒達が屋台で売っている食事を一心不乱にかき込んでいたり、中には他の学園の生徒達と交じって踊り方を教えてもらっていたり、RABBIT小隊やキリノ達ヴァルキューレの生徒がこの後夜祭の警備や見回りをしていたり。先生の姿は見えないが、先生を探す生徒も一部には存在しているのを見るに、先生はもしかしたらここにいない方が正解かもしれない。
「……ま、いっか。こんな感じも凄くキヴォトスらしいし」
「なんか言ったー?」
「ううん、何でも!それじゃあ皆、踊ろうっか!」
とにもかくにも、色々あった晄輪大祭もこれで終わりと考えると、少々名残惜しいものもある。だが、モルフォ達一年生にはまだ再来年もあるのだ。その時もこれくらい騒がしいものになったらいいなと、そう内心呟くのだった。
なお二年後、主催となった学園がどうやって二年前の競技やらを越えればいいのか苦悩することになるのだがそれは未来の話。