転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
施設を脱出し、カンナ達に案内され公安局に向かった先生達。そこで補給と仮眠を兼ねた休憩、そしてシャーレ奪還作戦会議を行い、実際にシャーレが見える所まで辿り着いた頃には日が昇り始めていた。そして、シャーレに向かうのは、ゲーム開発部とRABBIT小隊、生活安全局だけではない。話を聞きつけ、カイザーの暴挙を許さんとする公安局の生徒達が戒厳令に背いて味方に加わったのだ。その結果、人数だけなら中隊に近い大人数で行われる作戦となっていた。
「……よし、それじゃあ最終確認をしよう」
シャーレの周辺は、カイザーの兵士によって警備を固められていた。シャーレを占拠しているのは、カイザーPMC、そしてそれらを総括するジェネラルと呼ばれるカイザーコーポレーションの中でも上の立場の存在であり、軍事部門においては事実上の最高責任者と言ってもいいだろう。そんな人物まで出てきているのだから、シャーレの中はカイザーの中でも指折りの部隊がいると見て考えていい。だからこそ、
「ヴァルキューレの皆には、シャーレ周辺のカイザーの兵士たちの相手をしてほしい。シャーレの内部にはゲーム開発部とRABBIT小隊で突入……RABBIT小隊は私と一緒にクラフトチェンバーの下に。おそらくジェネラルはクラフトチェンバーの守りを固めているはずだからね。ゲーム開発部はそれ以外の所……シャーレの上の階を探索してほしいんだ。リンが上の方に囚われてる可能性も十分あるからね」
ヴァルキューレには陽動を、RABBIT小隊はジェネラルとの決戦を、そしてゲーム開発部にはRABBIT小隊とジェネラルの決戦の邪魔をされないようにサポート、そしてリンの捜索を。それが、先生の打ち出した作戦であり、それを受けてモルフォ、ミヤコ、カンナの三人が頷く。カンナは怪我が治り切ってはいないが、それでも早めに手当をしたこととある程度の休息を取れたこともあり、前線で戦うことはできなくとも、ヴァルキューレの生徒達を総括するぐらいのことは可能なまでに回復していた。
「まあまあ姉御、あんま気を張りすぎても問題っすよ。怪我人なんですからとりあえず倒れないことを最優先にしてくださいね」
「……わかっている。さすがにこの状況で無茶はしない」
そんなカンナを案じるのは銀髪の少女、コノカ。アロハシャツの制服を着崩しており、その上から公安局の上着を着ているといった一見だらしなくも見える人物だが、公安局の副局長を務めているかなりのお偉いさんであり、今回の作戦ではカンナの補助をする役回りとなっていた。
「……先生を助けに来ただけなのにカイザーと決戦することになってる……」
「ぼやかないでよお姉ちゃん。まあ思いっきりカイザーを殴りに行くのはその通りだけど……」
「はい!先生を助けたことでシャーレを取り戻すと言うフラグが立っています!このクエストは失敗が許されません!」
『全く、カイザーがバカな事をしていなければ面倒な事には……』
「……でも、これが終わればやっと落ち着けるね……」
「まあ、一旦休めそうだね……謎のエネルギー反応の方も気になるし……今のところは何ともないっぽいけど」
ミレニアムからの連絡は今の所ない。となれば、まだ向こうでも問題は起こっていないのだろう。これ以上事態が変化するまでに終わりにしたいものだと思いながら、今か今かと仕掛けるタイミングを待っているヴァルキューレの生徒達を見る。
「……しかし気になるな。カイザーがここまでのことをした理由が」
「確かにそれは気になりますね。相応の理由がなければこんな暴挙をするとは思えませんし。無論、連邦生徒会が脆くなったから狙った、というのもあるとは思うのですが……」
「……ま、考えるだけ今は無駄じゃない?それより私達が相手をする連中っておそらくはカイザーSOF、PMCの決戦部隊になる可能性が高い」
「確かに……」
RABBIT小隊も今一度装備の確認を行いながら、話し合う。とはいえ、あくまで世間話のようにカイザーについて語ったとはいえ、結局のところはモエの言うことが全てだったようで、そこでこの話題は終了したようだ。
「局長、大丈夫ですか?」
「問題ない……指揮を執ることぐらいなら支障はないだろう」
「はあ、こりゃ凄いことになってきたね……ま、ここをどうにかしなきゃお先真っ暗なら、やるしかないよね」
カンナの怪我の具合も改めて確認しながら、キリノとフブキ、そして他のヴァルキューレ達も頷き合う。
「よし、皆……行こう!」
『先生、気を付けてください。今回……嫌な予感がしますので』
そして先生の指示と共に、生徒達は動き出すのだった。
★
「くそっ!なんでヴァルキューレが!!」
「こいつら、戒厳令で動けないんじゃなかったのか!」
「他の所にいる奴らはまだ来ないのか!?」
カイザーと公安局を中心としたヴァルキューレの戦闘は苛烈さを増していた。なんせ、カイザー側はヘリは勿論戦車まで持ち出しており、その規模も中隊に近い人数があるのだ。しかし、それはヴァルキューレも同様。装甲車を始めとするヴァルキューレの備品を贅沢に使い、RABBIT小隊とゲーム開発部がその補佐をする形で進軍を続けていく。
「皆、後続の戦車が来た!カンナ、十時と二時の方角からさらに増援も来ている!」
「いいか、増援が来る!守りを固めろ!戦車は狙わなくていい!」
「アリス、戦車を落として!」
「はい!―――光よ!」
「RABBIT1!小隊長らしきロボットを確認した!」
「RABBIT4、狙撃を!」
「は、はい……!」
先生の指示を下にそれぞれの指揮官が細かく指示を分配して効率よく対処していく。数でしかできないことに関してはカンナが後ろ、コノカが前に立つ形でヴァルキューレに指示を出していき、RABBIT小隊は小隊長を始めとする上官を優先して落としていく。ゲーム開発部は歩兵らを仕留めながら、出てきたヘリや戦車をアリスのスーパーノヴァの最大火力やユズのグレネードなどで落とすことを中心に行動しており、見る見るうちに兵力を失っていくカイザー達の顔に焦りの色が浮かんでいく。
「くそっ、こうなれば撤退するしかない!」
「建物の内部に撤退して再整備だ!」
このまま外で戦っても勝ち目はない。それならばシャーレ内部に籠った方が勝ち目がある。そう判断して残った兵士たちがどんどん撤退していく。
「……よし」
その様子を見ながら、ここまではうまくいったことに先生が少し安心したように頷く。広範囲で数を活かした戦闘が行えなくなるが、それは敵も同じ。ここからは公安局の生徒達に予定通り、後続部隊の相手を任せ、ゲーム開発部とRABBIT小隊でシャーレを奪還することになる。
「私達はここまでだね」
「後はお任せします!」
「ま、こっちは全力で死守するんで!」
キリノ、フブキ、コノカの声援を受け、ゲーム開発部とRABBIT小隊がシャーレ一階に突入。コンビニとなっていたエンジェル24を制圧し、そこにいるカイザーの兵士を気絶させて外へ放り出すと、即座に公安局の生徒達が手錠をかけて捕縛していく。
「1階のコンビニ、制圧しました!」
「……あ、あなた達は……」
「……え!?ソラちゃん!?逃げてなかったの……?」
すると、コンビニの奥から金髪の少女が顔を出す。その少女の名はソラ。エンジェル24の店員であり、シャーレの一階にあるということから、当番の生徒達の殆どは彼女とも面識があると言っていいだろう。ある意味で先生に次いで顔馴染の生徒が多い人物と言えるかもしれない。
「……ここはいつも物騒な事件ばっかりなので、隠れ方ばっかりうまくなって……しかも今回は逃げようとしたのに扉が開かなくて……」
彼女も逃げようとしたようだが、先生が拉致されて、シャーレが封鎖された時に閉じ込められてしまったようだ。その後、シャーレが開かれた時にはカイザーが制圧してたので出られず仕舞いのまま現在に至ってしまったようだ。
「それは災難でしたね……」
「ソラ、後は任せてよ。外に行けば公安局の人達がいるから、保護してもらえるからね」
「あ、ありがとうございます」
これにはミヤコも同情しかない。モルフォも同情しつつ、外にソラを逃がすと、ミヤコと顔を見合わせて頷き合う。
「では、私達はこれから、二手に分かれることになります。ここからはお互いの任務を並行して同時に進める必要があります。ゲーム開発部の皆さんはこのまま上の階に登っていき、PMC兵士たちの制圧。奴らも建物の地下を目的地としていることは読んでいるでしょう、撤退した兵士たちも上の階に潜んで挟み撃ちしてくる可能性は十分考えられます」
「それを仕留め、足止めして地下に向かわせない。そしてリンさんの救出、それが私達の役割だね」
「はい。私達はこのまま建物の地下に向かい、クラフトチェンバーをPMCから奪還します」
改めて、短くこの後の行動を確かめ合うのだが、ここでモエが懸念点を口にする。
『うーん、そうするしかないのはわかるんだけど、やっぱり人質の位置がわからないのはねぇ。安全の保障は難しいかな』
「仕方ありません、ここはもう割り切るしか……」
『それはこっちに任せて』
「!モモカ!無事だったんだね!」
ここでリンの居場所がわかれば……と思わずにはいられないが、無理なものは無理だ。多少の怪我はもう割り切って動くしかないと判断し、ミヤコが動こうとしたところで突然通信に割り込み、ホログラムでモモカが現れる。
「モモカ?」
『あ、ゲーム開発部も来てたんだ。まあそれはいいんだけどさ』
「えっと、誰……?」
『わ、私達は連邦生徒会です』
「アユムも大丈夫だったんだね」
『私達は今、サンクトゥムタワーの地下通信センターにいるんだ。監視の目を避けてくるのは本当に大変だったよ』
モモカの隣に、金髪に黒い羽を伸ばす少女が現れる。二人の無事を受けて安堵する先生だったが、二人がいる場所を聞いて驚く。危険を承知でサンクトゥムタワーの地下に向かった二人の目的は一つ。リンの居場所を突き止めることだ。
『どうにか通信ログを復旧して、リン先輩の位置を突き止めたよ。シャーレ居住区の北部、今は使われてない三番目の部屋、そこに先輩はいる』
『先生、どうにかリン先輩を……』
「うん、任せて」
シャーレ居住区。RABBIT小隊が根城にしており、ゲーム開発部も利用しているスペースだ。そこならゲーム開発部にとっては別荘のようなもの。探索に支障はない。
「目的地がわかったなら、遠慮する必要はないね。私達はシャーレの居住区に向かうよ」
「はい!リンさんの救出クエストの情報を更新しました!」
「よーし、派手にやっちゃうよ!」
「いやそれは目立……いやこの場合は目立っちゃっていいのか」
「それでいいと思う。私達にヘイトが向けられれば本隊も動きやすくなるし」
「お願いします。こちらも可能な限り素早く地下を制圧しますので」
「ああ、お前たちは好きに動いてくれ」
「が、頑張ろうね……」
『で、先生は私達の方に来てくれるってことでいいんだよね?』
最後にモエが先生に確認を取る。先生はその言葉に頷き、自分は地下に同行することを示すと、ここで三手に分かれて次の行動へと移るのだった。
★
「……!?」
リンが閉じ込められていた部屋。その扉が、爆発と共に吹き飛ぶ。突然の出来事に咄嗟に銃を構えて扉を見ると、モルフォがシールドを構えて突入。その後ろからモモイ、ケイ、ミドリ、そしてグレネードを再装填しながらユズが入ってくる。ミレニアムの制服を着た生徒達を見て、リンも驚きながらも銃を降ろす。
「リンさん、大丈夫ですか?」
「あなた達は、あの時の……ミレニアムの生徒が何故ここに」
「リンさんを助けに。後はサンクトゥムタワーを取り戻すために来ました」
他の面々が警戒をしている中、これまでの事をリンに伝える。するとリンは黙り込んでしまっていたが、
「……カイザーを手引きしたのは、まさか彼女が……?いえ、情報がない以上判断するのは……それよりもまずは先生の下に行きましょう」
ユズが先生にリンを助けたことを報告すると、先生の方からもRABBIT小隊がクラフトチェンバーを確保したことが伝えられる。そのままRABBIT小隊はロビーの方に向かっており、そこに陣取っているカイザーの指揮官、ジェネラルを追い詰めているとのことだ。
「わかりました。でもその前に、まだ建物の中に他のカイザーがいないか調べてみた方がいいかもしれません」
「シャーレの設備が復旧している今なら、監視カメラの映像などを視て残っていないか確認できるでしょう」
リンを伴い、場所を少し移動してシャーレにアクセスできるところに向かう。そこでケイが各地の監視カメラの映像を確認していく。
「……わかりました。ありがとうございます、モモカ」
その作業の間にもリンは自由に動けるようになったことでモモカと通信を取り、行政制御権に介入することができ、これまで機能を停止したシステムが復活したという報告を受けていた。
「……大丈夫です。カイザーの指揮官も鎮圧されたようですし、建物の中にもカイザーはもういません。私達も先生の下に向かいましょう」
ケイが調べ終えたのを受けて、モルフォ達は先生の所へ向かうことにする。それと同じタイミングで、先生は、いやアロナは大慌てで仕事をこなしていた。といってもその内容とは、先生が拉致され、通信網がダウンしている間にシャーレに向かって送られていた無数のメールやメッセージの処理だ。が、問題はそれだけに留まらない。ここでモルフォの下にミレニアムからの通信が届く。
『ゲーム開発部の皆さん、聞こえますか!?』
「ヒマリ先輩?あ、こちらは無事に―――」
『いえ、それだけではありません!キヴォトス全域に―――』
ヒマリの切羽詰まったような声。一体何が起こったのか。モルフォが聞き返そうとしたその時だった。
「「「「「『……!?』」」」」」
空が紅く染まった。それを見て固まるゲーム開発部。通信越しのヒマリもこの現実離れした光景に絶句しているようで、同じくリンも固まっていたようだが、
「っ、先生!」
すぐに走り出し、先生の下へと向かってしまう。だが、モルフォは思い出していた。セイアがかつて告げた予言の内容、キヴォトスの終焉に繋がる紅い空の事を。
「ようやく理解に至った」
同じタイミングで、取り返したオフィスで紅い空を見て固まっていた先生の下に声が聞こえてくる。その声に振り向くと、そこにはデカルコマニーがいた。だが、彼が持っている絵画は、ゴルコンダのそれではない。絶望に叫ぶような人の顔を描いた絵画を頭部に掲げたデカルコマニーは、新たな人格で先生に語り掛けていた。
「先生、あなたの力はこれ以上作用しない」
「あなたは……ゴルコンダ?」
「ゴルコンダはもういない。私はフランシスだ。デカルコマニーと共に、新たにお前を見守る者。したがって、最後の通告を傾聴せよ」
新たな人格、フランシス。そう名乗ったゲマトリアの存在は、先生にさらに語り掛ける。先生も、フランシスがこの状況について彼なりに知見を持っていることを理解し、その言葉を脳に叩きこむかのように耳を傾け続ける。
「この物語は、一つのジャンルを掲げていたが故に、先生が主人公でいることができた。物語であったから、あなたは無敵だった。これは、そういう物語だった。しかし、今となっては……この物語は覆された」
「……」
「脈絡、構成、ジャンル、意図、解釈、その全てが破壊され―――その意味は絡み合い、混ざり、攪拌され―――統制できない程に褪せてしまった」
言っていることは理解できない。しかし、もうこれまでのようにはいかない。フランシスが言おうとしているのはそういう意味もあるということだけは先生にも理解できた。
「先生よ―――これまでの物語は全て忘れるが良い。これからお前の身に起こることは、最早そのような物語ですらないのだから」
「……」
「主人公も、悪役も、事件も、葛藤も無く―――全てが分解され、縺れあい、脈絡も、構成も、必然性も無くなってしまった……作為的に作られた世界。そうして、果ては意味を失い、力が暴れ回るだけの理解不能で不条理な世界へと―――嗚呼、そうだ。元より、この世界はそのように存在していた。我々はそれを忘れていただけ」
まるで、この世界はこれで終わるのだと。そう告げるかのようなフランシスの言葉に、先生の表情は険しくなっていく。だがフランシスはそんな先生の変化を知ってか知らずか、己の言葉を紡いでいく。
「これが、もう物語でなくなったとするならば、お前はもう何者でもない。学園と青春の物語は、幕を下ろした。覆され、解体されてしまったジャンルで、お前の価値は揺らぎ、地に落ち、無に等しいものとなる!……そして、始めるのだ。物語ではない……」
「―――違う」
「!」
だが、先生がここでフランシスの言葉を遮る。これ以上のフランシスの言葉は不要だ。ここからは、自分の意志を、言葉を示す番だと言わんばかりに、先生は言い返す。
「敵対し、裏切り、覆ってしまった……沈みゆく物語だとしても。物語と呼ぶのに相応しくない、歪な創作だとしても……そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない」
「……」
「ジャンルの解体なんて好きにすればいい。宇宙戦艦や巨大ロボット、はたまた妖精が登場したって構わないんだよ。どんな未来であろうと、私達は乗り越えていくのだから」
それに対する先生の回答はシンプル。絶望しない。どんな運命が待ち受けていても、自分達は乗り越えてみせるという、たったそれだけのこと。これがどんなシナリオだろうがジャンルだろうが関係ない。それを聞いたフランシスは、暫く無言だったが、
「であれば、それを見守るとしよう。絶望を……破局を迎え……そうして、結末へと走り出すエンディングを!」
そう、先生が足掻く様を見届けてやろうと言わんばかりに声を張り上げ、消えてしまう。フランシスが消えていく様子を見届けた先生は、アロナに指示を出すのだった。
「……アロナ。皆に連絡をお願い」
そう伝えながら、空を見る。そこには、サンクトゥムタワーに突き刺さるかのように空から落ちてきた、真紅の塔が見えるのだった。
「ここからは―――シャーレの番だよ」