転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
空は青を取り戻した。しかし、状況は何も変わってはいない。虚妄のサンクトゥムこそ消えたものの、キヴォトス全域で観測されている超高濃度エネルギー体はそのまま。場所こそ少し変わってはいるが、そんなものは些細なものでしかない。打開したはずなのに、何も変わっていない。消え、変わり果てた姿となったシロコと、彼女が口にした、ユメなる人物。そしてプレナパテスの傍に佇む、色こそ青いもののモルフォのヘイローを持つ謎の光。様々な疑問と不安が浮かぶ中、ミレニアムが解析した結果、導き出されたのは今後、二十四時間以内、いやおそらくはもっと早くに再び虚妄のサンクトゥムが蘇るという結論であった。そのため、再び来る戦いに備えて短い休息を各々が取りながら、今後の指針を固めようとしていた。
「……」
アビドス高等学校の会議室には虚妄のサンクトゥムの攻略を終えて戻ってきた対策委員会と便利屋68の姿があった。シャーレの方に残ったままのアヤネから一連の話を聞いたノノミは暫く黙り込んでいたが、やがて色々と考え込んでいたホシノが口を開く。
「うーん……おかしくない?」
「おかしい?」
「それって、モルフォのヘイローがプレナパテスの傍にあったこと?」
「いやまぁそれもおかしいんだけどさ……ユメ先輩ってシロコちゃんが知ってるわけないんだよね」
「まあ、先輩ってことは確かにもう卒業してるもんねー」
そのユメなる人物がホシノ二年、シロコ、ノノミ一年の時の三年生ならまだ面識があってもおかしくないが、ホシノがこう言うからには、シロコとノノミが入学すると同時に彼女は卒業しているのだろう。ムツキが納得したように頷いていると、
「……違うんです」
『違う?あの、どういうことですかノノミ先輩?っていうかノノミ先輩が知ってるならシロコ先輩が知ってるのは不思議なことでは……』
「……違うんです。その……ホシノ先輩……」
「……」
ノノミが聞きづらそうにホシノの顔を見る。ホシノはノノミの視線を受け、アヤネの疑問について首を横に振って否定する。それを見て、何かを察したカヨコが目を細める中、ホシノは普段と変わらない様子で言葉を続ける。
「あの人はね……梔子ユメ先輩はもう死んでるんだよ。砂漠で遭難してね」
「え!?……ご、ごめんなさい!」
「気にしないでよハルカちゃん。で、シロコちゃんって記憶喪失の状態でその後に見つけた子だからさ、知ってること自体がありえないんだよ」
「そ、そうだったんですか!?」
「……じゃあ、なんで彼女がそのユメさんを知っているのか、だね」
「未来から来た、ってわけじゃないのよね……」
ユメは既に死人であり、シロコがタイミング的に知ることは不可能なはずなのだ。まさかの事実に思わずハルカが謝罪を口にしてしまう。しかし、そのことよりも、それをどうやって知ったのか皆で首を傾げるも、全く答えは出てこない。
「うーん……で、でもこんなこと話しちゃっていいの?だって……人が死んだって滅茶苦茶デリケートだし……」
「ホシノ先輩……」
そんな中、申し訳なさそうにムツキがホシノに声をかける。まさかここまで重い話が出てくるとは思ってもいなかったのだ。しかし、当のホシノは心配そうに見つめるノノミを尻目に、
「ん?あー、まあ……当事者だし今も色々思うところはあるけどさ。でもまあ……いつまでもそうしちゃいけないかなとは思うし、結局どうにかしないといけないのは今と未来だしさ。まずはシロコちゃんを助けなきゃ。それにこの世界が滅ぶなんてこと、やっちゃいけないでしょ?」
「それはまぁ、そうだけど……でもさ、その、やっぱり辛いことは辛いって言ってもいいと思うのよ。そりゃあ言いづらいこととかあると思うし、言ったところで相手がどう受け取ってくれるかなんてわからないでしょうけど……言うってだけでも全然違うと思うし」
「そうだねぇ……耳が痛いや」
どんな表情を浮かべたらいいかわからない。そんな様子になりながらも語ったアルに苦笑しながらぼやくホシノ。普段と変わらないその様子を見て、ノノミもようやく安堵したように溜息を吐く。
『……だとしたらカギになるのは、やっぱりモルフォちゃんでしょうか』
「えっと、モルフォは攫われていないんですよね……?」
『うん。モルフォちゃん達はケイちゃんを迎えに行くためにミレニアムに一旦帰ってるから無事だよ』
「じゃああれはモルフォちゃんとは別の存在って事?双子とかそういうわけでもないんでしょ?」
『モルフォちゃんに双子の姉妹はいないはずだけど……』
続けて話題はモルフォのことになる。どうにかして情報を集めようとあれこれ話し合うのだが、それでも明確な答えが出てこない。というのも、シロコがプレナパテスに連れ去られ、色彩によってあのような姿に変化してしまったということはわかるのだが、モルフォについては本人がこのキヴォトスにいるのだ。その姿こそ先生は見ていないとはいえもう一人のモルフォがいるという異常事態の説明がつかない。
『……あれ?そういえばこの世界にはって……』
「……それってつまり、並行世界って奴?」
「……じゃ、じゃあ……」
と、ここでアヤネがあのシロコの言っていた言葉を思い出す。この世界にはユメとモルフォがいない。その言葉をそのまま受け取るなら―――
『モルフォちゃんは別の世界だとアビドスの生徒で、そこだとそのユメさんが生きている……?』
「……!!」
「そんな……」
アヤネの声にホシノの目が僅かに開かれ、ノノミの表情が歪む。セリカやアル達も不安そうにホシノを見ていたが、暫く無言でいたホシノはやがて口を開く。
「……でも、モルフォちゃんはミレニアムの子で正解だったんじゃないかな」
「……え?」
「だってさ。モルフォちゃんがいなかったらケイちゃんはどうなってたかわからないでしょ?」
「あ……」
ケイ。彼女は本人も知らないところではあったとはいえ、モルフォの起こした行動の影響であの大立ち回りを起こすことになった。だが、もしモルフォが何もしていなかったらどうなっていただろうか。おそらく彼女は、アリスと共に世界を滅ぼすために動いていたことだろう。もしそうなれば、今のケイはいない。おそらくケイは敵のまま殺されていたかもしれないし、もしかしたらアリス諸共危険だと破壊されていた可能性だってあるのだから。
「モルフォちゃんがケイちゃんを助けたってことはアリスちゃんを助けたってことでしょ?ケイちゃんとアリスちゃんが死んじゃったら、皆悲しむ。でもさ、ユメ先輩の方は……知ってる人私だけだったし、ノノミちゃんも全部終わった後に来たからさ……なら、多分こっちの方がいいんじゃないかな……」
「そんなの……」
「……さ、この話はここで終わりに―――」
「いや、ちょっと待ちなさいよ!」
ここまで話を聞いていたアルが我慢できずに机を叩く。その様子にホシノが驚いたようにアルの顔を見る。
「その……こういう時ってさ、なんて言ったらわかんないけど……私もその、違うわよ?全然重さとかそういうのは違うけどさ、甘い夢ってやつは時たま見るのよ。もしあの時こうしてたらとか……もっとお金に余裕があって贅沢している日々とか……もしくはそもそも、私達が便利屋じゃない所で一緒にいる所とかもたまに……だけど、現実はお金に余裕がなくて、仕事にも苦労したりするし、仕事に出る度にトラブルに巻き込まれたりもして散々だったりするわけだし……それでも、やっぱり今を生きるしかないじゃない。どれだけ痛くても、辛くても悲しくても……とにかく意地を見せてやるのがアウトローなのよ!」
「アルちゃん……」
「……それほぼ受け売り……」
「い、いいじゃない!恰好いいんだから!?」
何か良いことを言っているのは間違いない。最後のアウトローの部分と、それが何かからの受け売りであることをムツキが指摘しなければ。
「と、とにかく!どっちが良いとか悪いとか、そういうのはないと思うのよ……それに、向こうだって本当に良い事ばかりとは思えないし……だって、あのシロコが本当に並行世界のシロコなら、思いっきりこのキヴォトスをプレナパテスってやつと一緒に滅ぼしに来てるじゃない。何があったかわからないけど、彼女がこんなことをするようになってしまったのに、少なくとも良い事だとは私は思えないわ」
『アルさん……』
「……ま、それに関しては同感だね。色々思うところはあるのはわかるけど……それに、そもそも別の世界だって決まったわけじゃない。じゃないと、この世界のシロコが失踪した理由がつかない」
「……ふぅ。それもそうだね……なんかすっきりしたよ。ありがと皆」
だが、アルと補足するように付け加えたカヨコの言葉にホシノの表情も元の柔らかいものに戻っていく。ノノミもどこかすっきりしたような様子になっていた。
「……私が考えてる一番最悪のパターンは、私達の知るシロコが変化した姿があれである可能性。その結果、別の世界の記憶が流れ込んでいる、という可能性だって考えられる……」
『となると、あのシロコ先輩を元に戻す手段がやっぱり必要ですが……今、先生の方で百鬼夜行に手を伸ばしてもらってその方法を模索してもらっているところのようです。ただ、その方法については現状難航していると……』
「つまり、あれがこの世界のシロコちゃんが変身した姿なら、それが見つかれば問題ないってことだね~ちなみに、そうじゃないパターンだと……やっぱりシロコちゃんはプレナパテスが捕まえているとみていいのかな?」
「それで間違いないと思います。もしキヴォトスのどこかにいるのなら、こんな状況でシロコちゃんが黙ってるとは思えませんし」
次なる議題は色彩とシロコについてとなる。シロコを元に戻す方法はわからないが、これに関しては問題は単純だとホシノが笑いながら言う。
「まあ、戻す方法は一旦置いといて……シロコちゃんが二人いるならどっちも、一人だけならあのシロコちゃんを連れ戻せばいいんだよね?それで直接聞けば、今わからないことも全部わかるんじゃない?」
「まあ、直接捕まえればいいのは確かですし、ホシノ先輩ならそれも得意ですが……」
「少なくとも原因は色彩なわけだし、まずはその色彩から、プレナパテスから引き剥がすのが最優先ってことだね。あのシロコちゃんがどうなっているのかはそれからでもいいんじゃない?」
ホシノの言葉に同意するようにカヨコも頷く。そのためにも、シロコがどこにいるのかを調べる必要がある。居場所さえわかれば、そこに直接乗り込むことができる。というよりも、このまま待ちの姿勢でいてはシロコは姿を現すことはまずないだろう。何せ、虚妄のサンクトゥムを復活させられるのなら、それを繰り返すだけで向こうは座して待つだけになるのだから。
『……聞こえるかしら。エネルギーの流れを調査した結果―――プレナパテスの本拠地と思われるポイントを割り出したわ』
「「!!」」
そこに朗報を届けるかのように、エリドゥにいるリオから連邦生徒会やシャーレを始め、各地の上層部に連絡が届く。ティーパーティーや陰陽部のトップも耳を傾ける中、リオが言葉を続けていく。
『各サンクトゥムに共通しているエネルギーの流れは一ヶ所に繋がっているわ。そのポイントは……キヴォトスの上空75,000メートルにあるわ。そこに、虚妄のサンクトゥムよりも高密度のエネルギーを持った構造体が空間的……名付けるなら多次元バリアと言うべきもので守られているわ』
「……と、遠い……」
『た、多次元バリア?』
『……多次元解釈とかも絡む話になるのでかなり複雑になるのですが……そんなことを長々と話すのもあれなのでこの場では簡潔に言いましょう。物質的な干渉に対し、無いものとして通過させるバリアです』
『つまり、幻のように見えているという解釈でいいのかい?』
『そうですね、引き起こす現象としてはそれで間違いありません。ですが問題なのは、あのバリアの中には確かに、プレナパテスらが存在する構造体、即ち本拠地があるということです』
ヒマリがかみ砕いて行った説明を聞き、セイアらも理解をし始める。しかし、理解したところで問題が解決するわけではない。
『……よくミレニアムはそのような事まで気付きましたね』
『元々こういう知見は深めていたし危機として対峙する可能性を考慮していた。ただそれだけの話よ。正直活かす機会なんてきてほしくなかったけれど』
「……まあ、そこは置いといて、そんな高い所、どうやっていくのさ」
『巡航ミサイルなら届くわ』
『……巡航ミサイル、ですか。ミレニアムにはそんなものがあるのですか?』
『……今回の件を受けて急造したものよ。とはいえ、巡航ミサイルを使う機会はなさそうだけれど……』
『……』
調印式の際にミレニアムが怪しまれないように巡航ミサイルは全て解体している。そのため急造したのは本当だ。ナギサは色々と気になる様子ではあるが、後で実物を見せてしまえばどの時期に作られたかはすぐにわかることである。
『必要なものは一つ。あそこに向かうために必要な乗り物。あの高度ともなればそれこそ既存の航空技術では難しいでしょうね。それもただ行けるだけでは駄目。あの多次元バリアと同じ状態になれる機能が必要よ』
『同じ状態?』
『状態の共存……いえ。もっと簡潔に述べましょう。要するにあのバリアはA以外のものを全て通過させないという特性を持っています。それ故に、こちらもAという属性を得ることでバリアを通過し内部に侵入することが可能となる……というわけです』
「……な、成程……?」
いまいちわかるような、わからないような。そんな感じで通信相手に聞こえないように小声で呟くアル。その様子を見ながらカヨコがつい溜息を零してしまうが、これでも確かにわかりやすいだろう。もし本格的な説明を入れていたらどれだけの生徒が理解できるかわかったものではない。
「……一応聞くけど人力でどうにかなる?」
『無理ね。量子コンピュータレベルの性能が必要よ。それも可能なら移動手段に付随しているのが好ましいわ。エリドゥで解析を行っても、それを反映させるにはラグが出てしまうわ』
『……って、あれ?』
と、ここでモモカ達が気付く。自分達の傍にいたはずの先生がいなくなっていることに。しかし、その先生はシャーレの屋上にいた。そこには、黒服の姿も。
「先生、どうやらメッセージを確認してくれたようですね」
「黒服。状況は―――」
「ええ、知っていますよ。プレナパテスの下へ向かうために船が必要だと。そうですね、先生。あなたは私にどのような代償を支払ってくれますか?」
「……」
先生からすれば藁にも縋る思いなのだろう。だからこそ、黒服の誘いを素直に受けてこの場に現れている。必要ならばゲマトリアと協力することすら厭わないその姿勢、いかなる代償をも先生の身で払えるならば払うという姿。それを行動で示していることに気付きながら、黒服は質問する。それに対する先生の返答は無言。それを肯定と受け取った黒服は笑いながら口を開く。
「クックックッ、では……ゲマトリアへ加入することを要求しましょうか……なんて、冗談です。既にゲマトリアは解散しましたからね。今回は特別に教えて差し上げますよ」
「……?」
「……実は我々の秘儀をプレナパテスの道具にされてしまいましてね。ベアトリーチェで少し学んだつもりでしたが、成果物をこうもぞんざいに扱われるというのは堪えるもので。マエストロが憤るのも当然です」
要するに、プレナパテスに対する仕返しをしたい、という思惑もあるのだろう。黒服としてもこのキヴォトスが滅んでほしくない。しかしこれは分が悪い賭けであることも理解しているからこそ、今回に限っては無償でこれを提供しようとしているのだろう。
「その前に、一つだけ警告させてもらいましょう。先生の肉体は、これを使用した瞬間に取り返しのつかない被害を被るでしょう。二度と、以前の状態に戻ることもできません。死に至る可能性すらあり得る……それでもよろしいのですか?」
「構わないよ」
即答であった。生徒の為ならば、その身がどれだけ傷つこうが構わない。たとえその結果が変えようのない結果だったとしても。生徒達の前ではなく、同じ大人である黒服だからこそ見せるその姿を見て、黒服もどこか観念したように、同時に納得した様子を見せる。
「わかりました、教えましょう。ですがその前に確認しましょうか。先生、あなたは天上の要塞についてどれだけ把握していますか?」
黒服の言葉に首を横に振る先生。予想していた言葉に頷くと説明を始める。
「かの要塞の名はアトラ・ハシースの箱舟」
「アトラ・ハシースの箱舟?」
「名も無き神々の王女が顕現させる遺産ですよ。詳しい話は本人達に聞いたほうがよろしいでしょう」
先生は聞いたことがなかったがそのようなものがあったとは。ケイは目的上使う理由が皆無だったのもあって先生がその存在を把握していないのはある意味当然かもしれない。
「さて話を戻しますが。まさか、あれを色彩が確保するとは……色彩の嚮導者は、キヴォトスに顕現した神秘であれば、なんであれ自分のものとするようですね。アトラ・ハシースの箱舟も同じ理由から確保したのでしょう。サンクトゥムを通して出現した様々な秘儀のように……さて。箱舟が名もなき神の遺産ならば、現時点であれを相手できる技術は存在しません。ミレニアムには最先端の防衛都市があるようですが、あれでは部分的には対抗できても、根本的な解決には一切ならないでしょう」
それ故に、と一旦言葉を区切る。ここから先がもう戻れない。聞けばもう止まれないという雰囲気を嫌でも感じ取るも、元より止まるつもりはない。
「そこで、箱舟に匹敵する、古代文明の遺産を使うのです。それが眠っている場所―――それはアビドス」
「アビドスに……?」
「私がカイザーコーポレーションを介して、アビドス砂漠で探していたものです。キヴォトスの地中にある超古代兵器……現存する技術では解析できない太古の恐怖。カイザーのトップ、プレジデントからすれば魅力的だったのでしょうね。このキヴォトスを支配することができるであろう超古代兵器であるとね。そして彼らはその発掘に成功し―――全ての自治区を敵に回しても負けることはないと連邦生徒会を襲撃したというわけです」
「……つまり、あの襲撃は……」
発掘に成功した古代兵器を扱えるようにするためにカイザーが仕組んだことだったようだ。だからこそ、サンクトゥムタワーの確保を狙ったのだ。その結果がこれである、サンクトゥムタワーが破壊され、先生達が虚妄のサンクトゥムの破壊に躍起になっていた頃、カイザーは静かでいたが、それもどうしようもならないと手を引いただけのようだ。何せサンクトゥムタワーがなければ超古代兵器は使えないのだ。
「さて、ここで一つ疑問が生まれるわけです。超古代兵器を扱うにはサンクトゥムタワーが必要なら、それを使わずにどうやって扱うのか?そう……サンクトゥムタワーに匹敵するオーパーツ、シッテムの箱ですよ」
「シッテムの箱?」
シッテムの箱に目を向ける先生。しかし、これならカイザーが自分を拉致し、シッテムの箱を奪い取ったことの理由にも説明がつく。サンクトゥムタワーの掌握と並行し、サブプランとしてシッテムの箱を狙ったのだろうと。しかし、そうまでしてカイザーが手に入れたかった、今の自分達にとって必要なものは一体なんだというのか。それに対し、
「それを使って動かす超古代兵器っていうのは何なの?」
「船ですよ。アトラ・ハシースの箱舟と同様に、キヴォトスの起源が込められた名。兵器の最終形態―――ウトナピシュティムの本船。俗な言い方をするならば……宇宙戦艦です」
黒服はそう言うと、クックックッと笑うのだった。
★
「すっごーい!これがウトナピシュティムの本船かー!」
「よしすぐに破壊しましょう」
「やめよう、ケイ!今は安全なんでしょ!?」
「まあ、今は力を行使していませんし、現存している千年の守護者達の命令系統はエリドゥの方に投げてますから問題はありませんけど……」
砂漠に存在するカイザーPMCの基地。そこはすっかり無人となっていた。連邦生徒会制圧のためにアビドスに展開していたカイザーの兵士たちは移動しており、さらにキヴォトスに起こった異変を前にわざわざ基地の方に人員を割く必要があったために出払っており、ゲーム開発部がヴェリタス、ヒマリやリン、アヤネ達と共に来た時には僅かに戻ってきていた人員やこの地区に残っていたサンクトゥムから生み出された無名の守護者も蹴散らされており、先に来ていたホシノ達に制圧されている状態となっていた。
「や、皆よく来たね~」
「カイザーの土地を無断で借りている状態ですがとりあえずようこそ~」
「……まさかこんなタイミングでカイザーがアビドスの土地を手に入れていた理由を知るなんて思わなかったわ……」
ホシノ達に案内されてウトナピシュティムの本船の下へと向かう一行。この中にゲーム開発部がいる理由は、上空に浮かぶアトラ・ハシースの箱舟について一番詳しいのがケイだからである。同時にウトナピシュティムは自分達に対するカウンターとしての側面もある危険な兵器だと警告されたため、ウトナピシュティムの力が行使されている状況でこれまでのように名も無き神々の王女の力は行使できないと念押しもされている。そうでなければウトナピシュティムはアリスとケイの正体に気付かないまま運用することができるだろうと。
『……これが、ウトナピシュティムの本船。まさかカイザーが古代兵器を手中に収めていたなんて』
「全く、タイミングが良かったのか悪いのか……」
モルフォ達に同行していた、リオの視界の確保も兼ねた白いドローン型のAMASが、基地の奥に存在する巨大な宇宙戦艦の姿を捉える。当初はリオもこちらにくる予定ではあったが、残念ながらエリドゥの管理を行う必要があるため残留することとなった。そのため、ウトナピシュティムの本船に乗り込むメンバーは現在、先生、対策委員会、ゲーム開発部、エンジニア部、連邦生徒会のリン、モモカ、アユムの三人。そしてアコ、カヨコ、ハナコ、ユウカとなっている。今はゲーム開発部が先行してきている形になっているが、エンジニア部もすぐに道具などを揃えて合流する手筈となっている。
「しかし、まさか宇宙戦艦が本当にあるとは……」
「とにかく内部解析を始めましょう。時間が惜しいです」
「……この感じだと当初の予定通り、私達は地上で管制機関を担当した方がよさそうだね……」
「そうですね。とにもかくにもアルゴリズムやシステムを解明しないと話になりません」
ヒマリの言葉を受け、早速動き始める一行。対策委員会が船の外で警備に当たっている間、宇宙戦艦に興奮し内部を探検し始めるアリスやモモイをモルフォ達が追いかけ、戦艦の内部を探索し始めながらその構造を調べ始める。そしてシステム面の解析をミレニアムが中心となって行われていき、エンジニア部が可能な限りウトナピシュティムの構造を理解し、操作方法を調べていき、極秘情報として漏らさないことを条件としてリンやアコ達にもアリスとケイの素性が共有される。それと並行して作戦計画書も作られていく。様々な準備が整っていく中、最後の夜が更け、運命の夜明けを迎えるのだった。