転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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箱舟(アトラ・ハシース)

「……い、たた……」

 

突入する、まさにその寸前で多次元解釈システムの計算に成功し、多次元バリアの突破に成功したウトナピシュティムの本船。アトラ・ハシースの箱舟側で再び多次元バリアを調整される前にバリアの通過に成功し、そのまま全速力でアトラ・ハシースの箱舟の外壁へと激突する。その衝撃によってシートベルトが締め付けられる痛みを感じ、ゲーム開発部やオペレーター陣が呻く中、痛みに顔を顰めながらアユムが何が起こったのかを説明する。

 

「ウトナピシュティムの本船……アトラ・ハシースの箱舟、外壁に激突したのを確認……!内部への侵入に成功しました…………今、私達は箱舟の外壁に、頭を半分埋めているような状態です……」

「いたい……つ、つかれたぁ……リン先輩、大丈夫?」

「私は問題ありません……皆さんはご無事でしょうか。状況の報告をお願いします」

『まず、多次元解釈システムについては異常がないわ。こちらはアトラ・ハシースの多次元解釈システムに紐づけることに成功したから、多次元バリアの値を調整することで別次元に逃げ込まれる、という方法は向こうは使えないはずよ』

「それはどこまで信用できますか」

『……エリドゥに搭載されている現代のそれよりも遥かに高性能なセキュリティを組みこんであるわ。普通にやればコユキ以外では手を焼くでしょうね』

「……そういうことなら問題はなさそうですね……」

 

多次元解釈システムについて報告したリオに、ユウカやヒマリといった面々も納得したように頷く。この発言をミレニアムでノアと共に聞いていたコユキが一番困惑しているが、そこは今は気にすることではない。リンも顔を顰めながらも体を起こし、それ以外の現状の報告について促していくと、ハナコ達が体を起こしながらシステムについて確認していく。

 

「……衝突の影響で中枢システムがダメージを受けてしまったようです」

「エンジンは完全にシャットダウンしていますね……再起動シーケンスも受け付けません」

「メインコントロールシステムも動作不能ですね……」

「各エリアの通信もダメ。それに、演算システムもボロボロ」

 

ハナコに続けてアヤネ、アコ、カヨコもウトナピシュティムの本船の深刻な損傷具合を報告していく。これでわかったことは、本船は修理を行わない限りただのオブジェでしかないということだ。

 

「対策委員会、ゲーム開発部、美食研究会は大丈夫?」

「こっちは問題ありません」

『うん、私達も大丈夫だよ~』

『ええ、こちらも全員無事ですわ』

 

オペレーター陣が船の様子を確かめている間、先生は他の面々の無事について確かめていた。モルフォ達もシートベルトを外してすぐに動けるように準備を進めていると、何かがこちらへ向かって進軍してくるような音が聞こえてくる。

 

「え、何この音―――」

『アトラ・ハシースの箱舟内に徘徊している防衛戦力!来るよ!』

「っ、想定はしていましたが、これほどまでに早く……!多次元バリアを突破したことに対して即座に対応してきましたか!!」

「ちょっと、これ全方向から来ていない!?」

 

ウタハがその音からロボットのようなものが大群で接近していることに気付き、警告する。それを聞いたモルフォ達は顔を見合わせると、

 

「迎撃します!」

「アリス達がこの船を守ります!」

『おじさん達も行くよ~』

『私達も向かいましょうか。この美食への探求心を止めさせないために』

 

すぐに銃を構えて船の外へと出ていく。さらに同じタイミングで対策委員会と美食研究会も船の外に出ると、そこには無名の守護者達が接近する光景が確認された。

 

「まずい、攻撃が―――」

「それはちょっと通せないねぇ!これがないとおじさん達もシロコちゃんも帰れないからさ!」

「通すもんか!」

 

無名の守護者の中でも突出した六本脚の個体が尻尾の先からビーム攻撃を放つ。それをモルフォが跳んでシールドで受け止める。

 

「うわっと!?」

「モルフォちゃん!」

「大丈夫!やっぱり空中だと支えがないから後ろに行くな……!」

 

その衝撃でモルフォの身体が後ろに吹き飛ぶも、うまく着地する。その間にホシノが素早く攻撃を仕掛けた個体に近づいて至近距離でショットガンを放ち、頭部を粉砕する。その間に他の面々も展開し、モルフォも再度ゲーム開発部の前に出たところで、無名の守護者達は勢ぞろいし、その後ろからはユスティナ聖徒会も出現してくる。

 

「……ユスティナ聖徒会もいるの!?」

「とにかく弾をばら撒いて奴らの足を止めて、モモイ!」

「うわわ、どんだけいるのよ!」

「ジュンコさん、落ち着いて対処していきましょう。大丈夫ですよ、こちらもこれだけの人数がいますから」

「よーし、頑張るぞー!」

 

ユウカ、アヤネ、アコがそれぞれサポートを行いながら、戦闘を進めていく三部隊。ウトナピシュティムの本船にとって致命的な攻撃だったのは最初だけで、それ以降は順調に数を減らし続けている。今の所、戦闘は問題ないと判断した先生はリン達を見渡す。

 

「皆、手を動かしながらでいいから聞いてほしいんだ。これからの動きについてだけど……!?」

『わかった。それじゃあ説明を……』

「っ、待って!!」

 

ウトナピシュティムの本船への理解を深めるために使った時間は決して少なくない。今の自分達の戦場はこの遥か天上の要塞ではあるが、地上では虚妄のサンクトゥム復活へのカウントダウンは着実に進んでいるのだ。時間の余裕は自分達にはない。今のうちにこの後の行動について確認し直し、防衛戦が終わったらすぐに動かなくては。その意図を汲んでチヒロが口を開いたその時だった。ブリッジに爆発が起こり、先生が声を上げる。幸いにして爆発は誰にも命中しなかったが、一体どこから発生した爆発だったのか。その答え合わせをするかのように、虚空に開かれたワームホールからシロコが出現する。

 

「い、いつの間に中へ……!?」

「シロコ……!?」

「そっか……うん。結局、ここまで来たんだ。警告したのにどうして……?」

「シロコ先輩……!」

「……ここには、命の終わりしかないのに―――」

「シロコさん!」

「シロコちゃん!!」

 

先生達を一瞥し、呟くシロコ。だがその背中から、モルフォとホシノの声が聞こえ、シロコが後ろを振り向く。外では襲撃も徐々に収まりつつあり、シロコが船内に現れたことを聞いて、ブリッジ内での戦闘で内部が損傷する可能性を考慮して盾持ちのホシノとモルフォが最優先で向かったのだ。

 

「……」

 

そして、その声を聞いてシロコの目が揺れる。だが後ろを振り向いた時、その目が向けられていたのはホシノではなく、モルフォであった。

 

「……モルフォ……やっぱり、いたんだね……だけど、ミレニアムの制服なんか着て」

「シロコさん?何を言って……」

「モルフォ!気を付けなさい!!」

 

意味の分からない言葉にモルフォも、隣のホシノも困惑していると、嫌な予感を感じたヒマリの険しい声が響く。しかし、その前にシロコは小さなワームホールを作り出すと、そこからショットガンを取り出す。

 

「―――は?」

 

それを見て、ホシノの表情が固まる。無理もない、そのショットガンの方は間違いなく、自分が使っているものと同じ形状だったから。唯一異なる点があるとすれば、ホシノが銃身が白いカラーリングのものを使用しているのに対してそれは真っ黒に染まっているということだろうか。そのショットガンを放つと、明らかにホシノが持っているそれよりも威力のある弾丸が一発ずつ、モルフォとホシノへ向かって放たれる。二人ともそれを盾で受け止めるのだが、

 

「っ!?」

 

ホシノの身体が大きく後ずさる。盾にははっきりと弾痕が残るレベルで弾がめり込み、一方のモルフォはというと咄嗟にシールドを地面に突き立てるようにし、その上で少しだけ突き出ているショットガンハンマーの銃口部分を地面に突き刺し支えにする形でどうにか受け止める。それでもホシノと同じぐらい後退させられており、シールドにも痛々しい弾痕が残ってしまっていた。

 

「ホシノ!?モルフォ!?」

 

先生の声が響く中、一瞬の間に弾を撃ち尽くしたショットガンをワームホールの中に投げるようにしまうと、そのまま二人の上を跳び、モルフォの背後に着地。ホシノが一瞬遅れてショットガンを構えながら振り向こうとしたその時にはモルフォの右腕を掴むと、

 

「!」

『モルフォ!すぐにその場から離れなさい!!』

「待って!シロコちゃん―――!!」

 

置き土産とばかりに手榴弾をその場に置き、その爆発で一瞬動きを止めてしまったホシノをその場に留めてる間に、シロコはモルフォを掴んだままワームホールの中へと入ってしまう。

 

「シロコちゃん!!」

「モルフォ!!」

「シロコ先輩!!」

 

そして、他の対策委員会とゲーム開発部のメンバーがブリッジに来た時には既にワームホールが消えてしまい、シロコばかりかモルフォまで攫われてしまうという更なる状況の悪化を招いてしまう。

 

「先生、モルフォちゃんは……!!」

「モルフォは、モルフォは無事なんですよね!?」

「うん、大丈夫。連れ去ったってことはモルフォは無事なはずだから。シロコだけじゃない、モルフォも助けるために、今やらなきゃいけないことをやろう。ホシノ、大丈夫?」

「……うん。おじさんは大丈夫だよ。だけど……あのシロコちゃんがどういう存在なのか結局この場じゃわからなかったね……」

 

爆発の中から無傷で出てきたホシノが首を傾げながら先程のシロコについての感想を言う。色々仮説はあるが、シロコは二人いるのかどうか、それともこの世界のシロコが変化したかどうかはまだわからない。

 

「っと、そうだった……エンジニア部、聞こえる?船の状況だけどどうにかならないかしら?」

 

だが、状況が悪化したからこそ我を忘れてはいけないと先生は自分を、そして生徒達を落ち着かせるように確認を取っていく。それを聞いて、真っ先に確認しないといけないことをやっと思い出したユウカがウタハに質問を投げかける。

 

『ああ、それなら既に見ている。衝突のせいで問題が色々生じているが……根本的な復旧は無理でも再起動ぐらいならなんとかやってみせるさ。とはいえこちらは遠隔でしかないからね、そちらからアプローチしてもらう必要があるがね』

「なら私がやる。指示を出して」

『助かるよ。正直可能性として考慮していなかったわけじゃないが、この後の事を考えると少なくともウトナピシュティムの本船からアトラ・ハシースへのアクセスはできるようにしないといけないからね』

 

ウタハの言葉を聞き、一旦思考を打ち切ってカヨコがその協力を申し出る。そんな中、シロコのワームホールを見ていたリオがアトラ・ハシースの箱舟との関連性に気付く。

 

『モルフォを連れ去ったあの空間移動……おそらく、アトラ・ハシースの箱舟の演算能力を利用したものでしょうね。ここまで細かく、そして自由に使えるとなればその練度も高い……』

「……ありえない話ではありません。このアトラ・ハシースの箱舟は多次元バリアを作っているところからもわかる通り、次元計算については優秀ですから。それだけに―――」

「そう。このアトラ・ハシースの演算装置を無力化、ひいては私達が奪い取る必要があるというわけです」

 

ここからの戦いは演算装置とその制御権を奪い取る占領戦だ。少しでもこちらのアドバンテージを稼ぐために、迅速にアトラ・ハシースの箱舟を占領する必要がある。そのためには、この箱舟が持つ多次元解釈演算装置のコアである次元エンジンを破壊することで箱舟を構成する四エリアを一つずつ占領、制御権を手に入れる必要がある。その繰り返しで最終的に管制システムを奪い取り、自爆シーケンスを起動させて箱舟を破壊するのだ。

 

しかし、これには時間制限がある。今、二つの船の多次元解釈システムの連結によって箱舟だけを別の次元に避難させる、といった行動を封じ、先生達はこの船の中での活動ができるようになっている。しかしそれも今だけだ、コユキ以外ではまともに攻略できないセキュリティといえど、この船の事を考えれば時間を考えればいずれ、というものでしかない。即ち、それがタイムリミットであると。無論、それと並行して敵の襲撃にも備えなければならない。シロコのいない対策委員会、モルフォのいないゲーム開発部、そして美食研究会を見ながら、先生は指示を出していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先生は数人の生徒を引き連れて次元エンジンへと向かっていく。道中に現れる敵達を撃退しながら進軍していくその姿をプレナパテスと共に見ていたシロコが、プレナパテスが持つ銃弾を受けたのかひび割れているタブレットに目を向ける。

 

「……彼女の姿を見せて」

 

シロコがそう声をかけると、その目の前に別室の光景が現れる。そこには、

 

『も、モルフォ!?なんでモルフォがここに……』

『え、し、シロコさん!?……シロコさんが二人ってことは―――!?ああもう、通信ができなくなってる……!』

 

次元エンジンのある一室に閉じ込められたモルフォとシロコの姿があった。そのシロコは、モルフォ達が普段から見ているアビドスの制服とマフラーを身に着けており、髪もここにいるドレス姿のシロコより短い姿をしていた。だからこそ、モルフォはこの空間に放り込まれる直前に、自分を放り込もうとするシロコと、ここに閉じ込められていたシロコの二人を同時に存在しているのを確認したのだ。

 

『モルフォ、今何が起こって……』

『それは……』

 

モルフォがシロコに事情を説明していく。同じ空間にこの二人を放り込むことは少し考えたが、どうせ他に良さそうな候補もないのだと割り切りながら、ドレスのシロコは視線を光に向ける。

 

「……怒ってる?……そっか、よかった。一応、これであなたも外で動けるようになるけど……」

 

申し訳なさそうに目を伏せながら呟くドレスのシロコ。と、その視線がアトラ・ハシースの箱舟内を進軍する先生へと向けられる。

 

「……先生が次元エンジンを一つ破壊したね」

 

そこでは、先生が対策委員会を引き連れて次元エンジンを早速一つ破壊し、次の区画へ向かう姿があった、それを見てワームホールを開こうとしたその時。彼女の前に光が移動し、訴えかける。声を発しているようには見えないが、シロコにはその言葉がわかった。

 

「……わかった。今は好きにさせよう。そのための布石は既に打ってあるからね」

 

その言葉、いや提案を呑み、プレナパテスと共に静観することを決める。順調に第二、第三の次元エンジンが破壊されていき、アトラ・ハシースの演算装置が次々とウトナピシュティムの本船側に渡っていく。おそらく、向こう側のオペレーターたちは順調にいっていることに胸を撫で下ろしているだろう。いや、もしかしたらうまくいきすぎていることを怪しむ者もいるかもしれない。だが、怪しんだところでどうにもできない。そう結論を下しながら、最後の次元エンジンを破壊するため、その部屋に入るために破壊する必要がある制御室へと飛び込んだ対策委員会と、最後の次元エンジンの下へ先生の代わりに向かったゲーム開発部の戦闘。そして、シロコとモルフォのいるセクションへ向かう先生を見つめるのだった。

 

「……終わりの刻は……近いよ、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

アトラ・ハシースの次元エンジン破壊による各エリアの制圧。それによって獲得した演算装置は、ウトナピシュティムの本船の修理にも活用されていた。それだけでなく、エリアを支配することでユスティナ聖徒会及び、無名の守護者達の動きと発生を止めることもでき、モルフォを欠いたことを加味しても戦闘慣れしていたゲーム開発部ですら食い止めるのが精いっぱいだった敵の量も段々落ち着いていたこと、最後の次元エンジン、その破壊の為に制圧する必要のある制御室に向かう戦力を二つ用意する必要があったことで一緒に防衛線を築いてくれていた美食研究会にその場を任せ、モモイ達は次元エンジンの破壊に向かう。そこで次元エンジンを守る無名の守護者達を相手にすることとなる。

 

「お前たち!アリスの体に触れるな!!」

 

ケイの怒号と共にレールガトリングが放たれ、無名の守護者達を纏めて吹き飛ばしていく。

 

「今はモルフォが守ってくれないんだからね!絶対怪我しちゃダメだよ!」

「お姉ちゃんだって気を付けてよ!」

「皆、モルフォにもう一度会うために頑張ろう……!」

 

モルフォがいない穴は確かに大きい。しかし、今やそれで士気が下がるゲーム開発部ではない。いや、過去の調印式での経験があったからこそ、こういう状況で闘志を絶やしてはいけないと痛感させられたのだ。

 

「私達は最後まで諦めません……!光よ!!」

 

アリスに切り替わり、レールガンによる火力のある一撃が六本脚の無名の守護者の半身を消し飛ばす。強力な個体であってもレールガンの火力、そしてミドリの正確なスナイプであれば一撃で仕留められる。ユズのグレネードで破損を入れればモモイが弾を叩き込んで破壊することも可能だ。攻略方法は幾らでもある。後はそれを状況に応じて選択していく。普段、モルフォがいたらどんな指示を出すか。先生がこの場に居たらどう指示するのだろうか。長い戦いの中で培われた思考が、自然とその動きを再現していく。

 

『最後の次元エンジン、敵の掃討を確認!』

「次元エンジン、これで終わりにします!光に―――なれ!!」

 

無名の守護者達を全て破壊し、遂にアリスの一撃で最後の次元エンジンが破壊される。すぐにモモイが通信を手に取る。

 

「皆ー!最後の次元エンジン、破壊したよ!」

『お!やったね~、こっちも問題はないよ~』

 

一方、制御室を制圧済みのホシノ達も無事なようであった。既に用済みとなった制御室を飛び出して先生に合流しようとしており、ゲーム開発部もそちらに合流することになるだろう。

 

『しかし、あの部屋は一体……?』

 

制御室は敵との戦闘もあってボロボロだ。その隅に転がっていたのは、黒く焼け焦げ、ボロボロになった、兵器か何かの残骸と思われる筒のようなもの。そして赤黒い液体が付着したまま倒れたような椅子。そして、ホシノ達が戦闘するよりも前に起こったであろう凄惨な爆発の跡であった。ホシノが何かの手掛かりになるかと燃えカスになっていた黒いスーツのような切れ端を拾い上げるも、よくわからないと即座に判断して捨てる。

 

『もしかしたら、このアトラ・ハシースの箱舟も作り出した存在がいたのかもしれませんね。おそらくあれはその製作者の抵抗の痕かと。さすがにプレナパテスがこれを作った、とは私も考えにくかったですし……取り合いになった可能性はあるのではないでしょうか……』

『……だとしたら。二人のシロコが確認されていたことと、このアトラ・ハシースの箱舟が持つ多次元解釈システムの能力を加味したらこれを作り出したのはおそらく……』

『……この状況でその考察は不要だと思いますが?とはいえ……あのシロコの正体を踏まえればおそらく合っている可能性が高そうですが……』

 

三つ目の次元エンジンを掌握した辺りで、ヒマリ達はモルフォとシロコが同じセクションに閉じ込められていることを突き止めていた。それにより、あのシロコは別の世界のシロコであり、この世界のシロコも別でいるという確証が得られたのだ。そして、最後の次元エンジンが破壊され、遂にモルフォとシロコがいる部屋に先生は飛び込む。

 

「「先生!?」」

「シロコ!モルフォ!大丈夫!?」

 

先生は部屋の中に敵がいないことを確認し、すぐにシロコとモルフォに駆け寄ると二人の具合を確かめる。二人にも怪我がないこと、そして二人も先生が無事であることを確認しお互いに安堵していると、回復した通信からアヤネとユウカの声が聞こえてくる。

 

『シロコ先輩!聞こえますか!?』

「ん、聞こえる。ごめん心配かけた」

「すみません、ドジ踏みました!」

『大丈夫よ!それよりすぐに船に戻ってきて!ウトナピシュティムの本船も修理が終わったの!後はこの箱舟を自爆させて地上に帰るだけよ!』

 

ユウカの声を聞き、三人は改めて顔を見合わせる。今も裏ではヴェリタスが自爆シーケンスの準備を進めているのだろう。これが決まれば確実に勝利する必殺の一手だ。だが、

 

『―――!?ウトナピシュティムの本船の中枢システムの大半が、ハッキングされている!?』

 

異変は起こった。それも悪い方向に。なんとプレナパテス達は、こちらがアトラ・ハシースの箱舟の占領を進めている裏でウトナピシュティムの本船の中枢システムをハッキング。掌握してしまったのだ。そして、

 

『え!?なんで自爆シーケンスが―――』

 

ウトナピシュティムの本船が突如として爆発を引き起こす。幸い爆発の規模こそ大きくないものの、本船の所有権が相手に渡ってしまったことだけは確かだと証明されてしまう。ドレスの、もう一人のシロコがこの内部に入ってきた際にその布石を打っていたのだろう。

 

『……やられましたね。こちらも罠を幾重にも用意していたつもりでしたが、それは相手も同じだったようです。しかも、アトラ・ハシースの箱舟の多次元解釈を、この船が助けた形に……これでは、また虚妄のサンクトゥムが……!』

 

ヒマリのその悪い予感が当たるように、再び空が緋色に染まっていく。予想よりも大幅に速いその変化に、おそらく地上でも緊張が走っている事だろう。しかし、それを気にする余裕は今はない。

 

『……今、ウトナピシュティムの本船の制御権はほぼ相手に渡っている状態……』

『ハッキング位置を追跡しました。アトラ・ハシースの箱舟、第四エリアの中央部です』

『中央部……でもこの名前は何?』

『多次元解釈エンジン管制室、ナラム・シンの玉座……ここからハッキングを……!どうにかして止めないと!』

 

ヴェリタスがどうにかハッキングの大元を突き止める。しかし、そこへ向かうには、対策委員会もゲーム開発部も遠すぎる。船の前にいる美食研究会なんて今の状況を加味すれば最早論外に近い。だが。

 

「……皆、まだ諦めるには速いよ」

『先生!?今、どこに……』

「ん、その場所にモルフォと先生と一緒に向かってる」

 

先んじてそこへ向かう三人の姿があった。モルフォ、シロコ、そして先生。たった三人、だが一番早くそこへ駆けつけられるのもこの三人であった。

 

「大丈夫。諦めなきゃきっと何とかなるよ。だから……最後まで頑張ろう」

「それに……こうしなきゃどうしようもならなさそうですし!管制室が見えてきました!」

『……健闘を祈ります。すぐに対策委員会を増援に向かわせます』

『ゲーム開発部は一旦船に戻ってちょうだい』

『わかりました』

『えっ、でもモルフォが―――』

『その前にやることがあります。私達を信じてください』

 

ホシノ達もすぐに駆け付けようとするし、アリス達も船の方へ戻り、別の方法で加勢するはずだ。そのためにも、今自分達ができることを。そう改めて気合を入れ、三人は管制室へと入る。そこに広がっていたのは、先生が一度見た、白い光の床に黒い地平線が広がるあの空間だった。どうやらここが管制室だったらしい。そしてそこには、プレナパテスが立っていたのだった。

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