転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……ねえ、モルフォ。少し確認したいことがあるんだけど」
「どうしました?ユウカ先輩?」
ある日のこと。たまたまお昼が一緒だったので同席していたモルフォにユウカが話を切り出してくる。
「モルフォってプラモデルとかフィギュアとか集めてるでしょ?」
「まあそうですね」
「あれって何十万もかけるのが普通なのかしら?」
「……それは人によるとしか……コレクター気質な人もいますし」
ユウカが切り出したのは趣味の話のようだ。しかし、ユウカがプラモやフィギュアに興味があったとは少々意外だ。それとも、これから始めるのだろうか。
「ぶっちゃけ初心者がいきなり何十万も、ってのはおすすめはできないですね……それが好きで絶対に欲しくて後悔しないなら買ってもいいと思いますが」
「……あー、私じゃないのよ」
モルフォの返答を聞いたユウカは、彼女が誤解をしていることに気付いてそれを訂正する。
「シャーレの先生、聞いたことない?」
「えーと、ネットニュース程度なら。どうかしたんですか?」
「先生がサンクトゥムタワーの制御権を取り戻したっていう件があったでしょ?あの時消費した弾薬の請求書が全く処理されてなくてね……それで確認しに行ったらその……何十万もする、変身ロボットのおもちゃとか買ってて……そんな感じで懐にあるお金は趣味につぎ込んでたわね……食費も切り詰めて、前行った時とかお昼はコッペパン一個だけだったわ。家計簿も付けてないみたいだし」
「私もそこまではやりませんね……割引狙って食べ物を買いに行くのは時々やりますけど……というか家計簿ってちゃんとつけるんですね……」
どうやら、ユウカが言っている人物はシャーレの先生のようだ。存在だけしか知らないが、随分と良い趣味をしているようでモルフォとしては好印象。とはいえ、ユウカの口ぶりからすると金を切り詰めて趣味を追い求めているようだが。
「モルフォも色々作ってるみたいだけど、やっぱりそういうものなの?」
「私の場合はちょっと特殊ではありますからね……プラモって言っても3Dプリンターとか使いますし、金属を使う場合はコトリに手伝ってもらったりもしますし。まあ……その先生って人よりは安く済ませているとは思います」
「そう……」
超合金とかのフィギュアを集めて飾って楽しみたい、というよりはこの世界に来てからは前世のあれこれを作って楽しみたい、という方向性にシフトしているため、そこらへんの感覚はその先生とは異なっているところもあるのだろう。とはいえ、趣味に大量の金をつぎ込む人間は見ていて心配になるのも事実だ。
「……まあ、どういうつぎ込み方をしてるかはちょっと心配ですね。お金を自由に使えるようになって際限なくつぎ込んで破産するみたいな人もたまにいますし」
「そうね。そうなってからじゃ遅いし、そういうのを嗜んでるモルフォの目からも見てもらえないかしら?」
少し考え込むモルフォ。先生という人物について興味はあるが、同時に大丈夫なのかという思いもある。しかし、ユウカが信頼は少なくともおいているであろう人物であることを考えれば別に問題ないのではないかと結論付けると、
「いいですよ」
そう言い、頷くのだった。
★
「ここがシャーレの部室よ」
翌日。ユウカに連れられてシャーレの部室までやってきたモルフォは、目の前の巨大なビルを見上げていた。これが部室と言われても正直しっくりこない。ミレニアムの部活動が使っている部室とはスケールが違う。
「部室……部室?」
「……まあ、名目上部室ってなってるけど実際は連邦生徒会所属の機関だからね……とりあえず入りましょう」
「おじゃましまーす」
ビルの大きさに戸惑いつつも、ユウカに連れられ部室の中へと入っていく。そしてオフィスまで来たモルフォの目の前に広がっていたのは、
「……なにこれ?」
書類の山だった。隣のユウカを見ると、やっぱりか……と言った様子で顔に手を当てている。机の上に大量に積まれた書類に軽く引きながらモルフォが視線を椅子の方に向けると、一人の若い男性が突っ伏して寝ている様子が確認できた。
「誰か寝てるけど……もしかしてあの人が?」
「ええ、先生よ……先生?大丈夫ですか?」
「……うっ……」
ユウカが先生の肩を揺らす。その刺激によって先生の目がゆっくりと開かれ、顔を上げるとユウカの顔が視界に入ってくる。
「ユウカ……?」
「こんなところで寝ていたんですか?」
「中々仕事に慣れなくてね……あれ?」
と、先生の視線がユウカの後ろに立っていたモルフォに向けられる。初めて会う生徒のようだが、その制服を見てユウカと同じ学園の子だと気付いたようだ。先生の視線に気付いたモルフォが、蝶のようなマーカーを円で取り囲んだようなオレンジ色のヘイローを揺らしながら軽く手を振る。
「君は……」
「後輩のモルフォです。ちょっと先生の趣味について思うところがあったのでこの子を連れてきました」
「夢見モルフォです。ユウカ先輩から話は聞きました。ただその……これ全部仕事ですか?」
「あ、はは……早く慣れないとまずいってわかってるんだけどね……」
本題に入りたいところだが、この書類の山に関してはさすがに見過ごすわけにはいかない。先生は遠い目をしながら申し訳なさそうに答えていると、書類の山の一部を手に取ったユウカが、近くの机に移動させ始める。
「シャーレは全ての学校から生徒を所属させられるけど、まだシャーレは発足した直後で人員が足りないのよ。いずれ知名度が上がれば人員も増えてくるだろうから先生の苦労も減ると思うけど……」
「ああ……では手伝いましょうか?折角ここまで来たことですし。それより先生、寝なくて大丈夫ですか?」
「ごめんね……助かるよ。それと睡眠は大丈夫……仮眠もできたし」
モルフォも先生から書類を受け取り、ユウカにわからないところを教えてもらいながら進めていく。先生の前に積まれていた書類を三人で片づけていく。手慣れているユウカや数を強制的にこなしてきた先生には及ばぬものの、モルフォも二人を見習って書類を片付け始める。そして、
「お、終わった……」
「は、早いね……さすがユウカ……モルフォも、ありがとう。本当に助かったよ……」
「二人ともお疲れ様です。モルフォも急に手伝わせちゃってごめんね?」
「気にしないでください……でも疲れた……」
午後には書類も片付き、元の机の姿がシャーレのオフィスに戻っていた。とはいえモルフォは完全に疲れ果てており、どこか死んだような目でお昼のコンビニ弁当を口に運んでいた。
「……そういえば……私達なんでここに来たんでしたっけ」
「……あ、そうそう。先生が趣味に金を使いすぎてる話よ。先生、この前の領収書ですが……」
「あ、あれは……」
仕事をしに来たのか先生のお金事情を確認しに来たのかわからなくなってきたが、ユウカが思い出したことでやっと本題に入れるようになった。食べ終えたコンビニ弁当を袋に戻して縛りながら、モルフォはユウカと先生を見る。
「まあ、別に趣味については常識の範囲内であればとやかく言うつもりはありませんよ。ただ……さすがに私生活に影響が出るレベルなのはちょっと。明らかにちょっと奮発してとかそういうレベルの領収書じゃありませんでしたよね」
「面目ない……」
「限定品とか狙ってたみたいですし、お金がかかっちゃうのはわかるんですけどねぇ。金遣いが荒すぎて一瞬で破産しちゃうんじゃないかってユウカ先輩心配してたみたいで」
「うっ……」
「後はスマホゲーへの課金もですね……」
その後も、時折モルフォがフォローを入れつつも先生へのユウカの注意は続き、それもやっと落ち着いてきたころ。
「……と、いうわけで、ちゃんと節度のある生活を送ってください、先生!」
「き、気をつけます……!」
正座して項垂れた先生はやっとユウカから解放される。そのタイミングを見計らって、先生に近づいたモルフォは、
「まあでも、趣味は良いことだと思いますよ。かっこいいじゃないですかロボット」
「だよね!」
「それと値段は別の話ですよ」
「はい」
「まあ、その……ですね。ユウカ先輩から話を聞いて……こういうのをちょっと持ってきました」
その言葉を聞いたモルフォは鞄の中にしまっていたケースを開く。その中から出てきたのは、一機の機体。
「こ、これは……!?」
「……マジンガーZ。スーパーロボットです」
「!!」
そこにいたのは、黒と白の二色のボディ。両腕と両脚は藍色で、胸には赤い放熱板が取り付けられている。鋭い目つきとフェイスガード。そして頭部に小さな飛行型のメカが操縦席のように取り付けられたそのロボットこそ、マジンガーZ。モルフォの前世では言わずと知れたスーパーロボットである。
「な、なんて美しいデザインなんだ……!シンプルな造形、だからこそごちゃごちゃしすぎず、スマートな印象を受ける……!!それでいて、カラーリングがとにかく格好いい……!まさに言葉通りのスーパーロボットだ……!!」
興奮した様子でマジンガーZを食い入るように見る先生。その大興奮っぷりは近くで見ていたユウカも軽く引き気味だった。モルフォもここまでになるとは……と少し困惑していた。なまじ、ネルの場合はここまでのリアクションではなかっただけにその困惑ぶりは大きかった。
「これ、どこで売ってたの?このマジンガーZって、キヴォトスにはないよね!?私の知らないロボットがあったなんて……!」
「……」
「はっ、まさかこれ、モルフォが自分で作ったり……!?」
「……ちょっと違いますね」
「え?そうなの?」
自分の知識にないロボット、そしてキヴォトスでも見たことのないロボットだと気付いたのだろう。まさかモルフォの手作りなのかと考えた先生だったが、それを否定したモルフォに、先生だけでなくユウカも驚いてしまう。
「C&Cの部室に増えてたあのプラモデルとかってモルフォが考えて作ったものじゃなかったの?」
「あー……やっぱりそうなっちゃいますかー……まあ、ユウカ先輩もそう考えてたってことはやっぱりタイミングがよかったというか」
「?どういうこと?」
「まあその……これ、別の世界に存在しているロボットなんですよ」
マジンガーZのロケットパンチを撫でながら、モルフォは自分の力について話し始める。それを聞いたユウカは一瞬理解しきれなかったようで少し困惑した様子を見せるが、真剣な表情のモルフォを見て、すぐに表情を引き締める。先生も、無言のままモルフォの次の言葉を待つ。
「これはヒマリ先輩の話ですけど、私は夢に形を与えられる、らしいです。夢で別の世界のホビーやプラモデル、フィギュアを見て、それに形を与える方法がわかる……要するに作り方がわかる。神ゲーを複製して世にばら撒けば一瞬で大金持ちですね」
「……本当にそんなことやってるの?」
目を細めながらそう告げたモルフォにユウカが目を見開く。だが、すぐにモルフォは笑顔を浮かべる。
「やるわけないじゃないですか、そんな盗作みたいなこと。これは考えた人が凄くて、その人たちが賞賛されるべきなんです。私がやってるのはれっきとしたコピーですし、それを私が考えたものと誤解されて私を賞賛されるというのは間違ってます。そこだけは譲れません」
「……そう、ならよかったわ。それを聞けて安心した」
モルフォの意思を確認し、安堵したような表情を浮かべるユウカ。盗作で稼ごう、なんて考えは言語道断だったからそこをきっちりと分けているモルフォの判断を確認できて安心できたのだろう。
「ていうかすんなり信じるんですね、ユウカ先輩。ネル先輩はアスナ先輩がいなきゃ半信半疑なところありましたし」
「まあそういう、普通じゃ考えられない能力みたいなのは覚えがあるからね……それより、そのことをここで言っちゃってよかったの?」
「ん?あー……まあ、ユウカ先輩は気付きかけてたみたいだし、先生にも誤解してほしくないですからね。それにまぁ……大人なら大丈夫じゃないです?」
「……その信頼感はどこから来るの?」
先生に対する謎の信頼に思わず呆れてしまうユウカ。先生に限ってそんなことはないとわかってはいるが、こうしてポンポンと大人を信頼するスタイルはその内痛い目見ないかな……ともちょっと不安になってしまう。
「そっか……モルフォ、教えてくれてありがとう。言いづらかったでしょ?」
「まあ、言いづらかったのはそうなんですけど……でも、隠すつもりもなかったので。やっぱり楽しいことや面白いことって皆でやりたいじゃないですか」
ここまで黙っていた先生が口を開いてモルフォに笑いかけると、モルフォも照れくさそうに笑い返す。
「そうだね。だけど、そのためにずっと頑張ってきたことは凄いと私は思うよ」
「あはは……人に撫でられるのは凄い久しぶりなのでなんか恥ずかしいですね」
「困ったことがあったら言ってね。力になるから」
そう言い、モルフォの頭を撫でる先生。最後に頭を撫でられたのなんていつだったかな、などとモルフォは考えながらも少しの間その行為に身を任せていたが、次第に恥ずかしくなったのか先生の手から逃れると、マジンガーZの方を見る。
「まあ、これはお近づきの印ということで差し上げますよ」
「え!?いいの!?」
「構いませんよ、結構色々ありまして、たまに部屋の中に置ききれなくなったりするので……先生も少し生活を自制してくれるなら差し上げようかなと」
「そういうことなら是非!」
即答する先生。とはいえ、これで少しは金遣いも改善するのとプラモやフィギュアの譲渡先が増えたのはお互いにとって、そしてユウカにとっても良いことなのだろう。
「そういえば……モルフォ、そのことを知ってる人って他にいたりするの?」
「えーと、ユウカ先輩と先生以外だと、ユズとエイミとヒマリ先輩、後はネル先輩たち四人とマキと……これぐらいですかね」
後はセイアもだが、さすがにミレニアムの人間ではない先生の前で話すべき内容ではないだろう。この事はヒマリからも遠回しに釘を刺されていたため、ちゃんと黙っておくことにする。
「まあ、折を見て少しずつ広めていきますよ。それより先生、このマジンガーZにはいろんな武装がありましてぇ」
「!!本当かい!?どんな武器があるのかな?」
「まずはロケットパンチ、そして光子力ビームに酸の嵐、ルストハリケーン、そしてブレストファイヤーと―――」
この話はここまででいいだろうと、先生にマジンガーZの説明を始めていくモルフォ。その説明を先生は男の子のように目を輝かせながら聞き入るのだった。