転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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若狭フユとドット&ボックス

 

「私、こういう者です」

 

D.U.地区に存在するカフェ。そこで、モルフォは一人の少女から名刺を手渡されていた。そこには、若狭フユの名とワイルドハントの校章が印刷されていた。

 

「ありがとうございます。特殊交易部……」

 

聞きなれない部活動に、モルフォは首を傾げる。こうなったのも数日前のこと。特殊交易部、ワイルドハントに存在するというその部活動のメンバーであるフユから取引をしたいという連絡を受けたのだ。

 

「でも、その特殊交易部がどうしてゲーム開発部に?」

 

モルフォと同席しているのはミドリ。そしてマキであった。当初、特殊交易部と聞いて、何故わざわざ特殊と付くのかがわからず、ミレニアムの中では比較的ワイルドハントに詳しい方であるマキにそのことを聞いたところ、マキからワイルドハントは少々閉鎖的な環境であるという情報を仕入れたのだ。そして、グレーにならない範囲でマキに調べてもらった結果、特殊交易部はかなり危ない橋を渡っていることが明らかとなり、その情報を仕入れてくれた張本人ということもありこの交渉の席に出席してもらっていた。

 

「まあまあ、そう固くならなくても大丈夫ですよ。こちらとしては危険なことにそちらを巻き込むつもりは一切ありませんから」

「ほ、本当かなぁ……」

「……特殊交易部って、ワイルドハントに持ち込んじゃいけないものをあらゆる手段で持ち込んで中の生徒に売りつける非公認部活動って聞いたよ?」

「というか申請すら出せないグレーゾーンど真ん中じゃんそれ」

「ヴェリタスみたいな?」

「ヴェリタスは建前はアンチセミナーだからね。立場としては認めちゃ駄目なだけだからあーやってるだけでほぼほぼ公認のプロレスというか……」

 

セミナーに認知されている上で必要な組織としてそのままにしておいて、あまつさえ普通に連携も取っているヴェリタスと、校則違反にも等しい行為をやる組織である特殊交易部では色々と話が違うのだろう。だからこそ気になるのは。

 

「それ、私達に迷惑がかかる話じゃないよね?」

「いえいえ。そんなことはありませんよ。下手をした場合に被る責任は全て私達に来ますからね……まあ、そんなことにはなりませんが」

 

この取引でこちらが迷惑を被るかどうかである。そのせいで、ミレニアムとワイルドハントの間で学園間問題になろうものなら目も当てられない。まあ、危険物を取引するならともかく、ゲーム開発部との取引ならばそこまで大変なものを扱うわけではないのでそこまでは考えすぎだとは思うが、一応念のためにだ。

 

「……どう思う?」

「うーん、まぁ私達に迷惑がかからないのなら?というか、何が欲しいのかもわかんないし……」

 

ミドリが一緒に同行しているのは、単純にワイルドハントに対して興味を持っていたから、というのが大きい。ゲームではビジュアル面を担当している彼女からすれば、系統が違うところも多少あるとはいえ、芸術や美術に秀でているワイルドハントは興味が惹かれる学園なのだろう。とはいえ、転校するかどうかと言われればおそらくは首を横に振るだろうが。

 

「おっと、そういえばそちらの話がまだでしたね。まあ、先程も少し触れましたが、用意してもらいたいものは決して危険なものではありませんので。実はワイルドハントは環境が環境なのもあって、学園外に興味を持つ人も多くてですね……まあ、なので生徒達は定期的に外に出て学んだり遊んだりするわけですが、そこで外から中に持ち込もうとすると、その大体は検閲に引っかかってしまうというわけですね」

「検閲って、そんなに厳しいの?」

「まあ、他の学園の風紀を考えれば、なんでそれダメなの?ってものまで引っかかると考えてもらえれば」

 

かなり厳しく取り締まっているようだ。そういう窮屈な環境を整えることで芸術家たちにとってはより真剣に打ち込める環境になっており、それを好む人もいるのだろう。とはいえ、モルフォやミドリ、マキとしては残念ながらワイルドハントに行ってもその環境に適応できないことは残念ながら予想できる。が、そういう人もいるからこそ、こういう特殊交易部という部活も生まれてしまうのだろう。

 

「ちょっと前まではごたごたに便乗して色々入れられたんですけどね……それがバレてしまったようで一層締め付けが強くなってしまいまして」

 

残念そうに肩を竦めるフユ。どうやら、色彩の一件から起こった各自治区への襲撃は、ワイルドハントでも小さくない被害をもたらしていたようだ。その被害から立ち直るために様々な資材などを入れる必要があり、その混乱に乗じて特殊交易部もその手を広げることができていた時期もあったようだった。

 

「さて、本筋に戻らせていただくと、ワイルドハントに新しい風を吹かせようと思いまして」

「はあ」

「ああいう環境ですからね。外で新しい娯楽が出ればそれを望む人も多いんですよ。そこで今回は今後の開拓も兼ねて、エキスパートであるゲーム開発部と交流を深めつつ、何かお勧めを教えていただければと……」

「成程……しかし、持ち込みが駄目なら、ソシャゲとかはどうです?スマホまで取り上げられてるってわけじゃないでしょう?」

「まあ、スマホは当然使えますが……あんまりあれなアプリとかは見つけ次第って感じですね……それに、今はまだそういう事態に陥っていませんが、酷くなってWi-Fi自体が止められるってなったら、ちょっと私達も困りますし……」

「ひえっ」

 

フユの言葉を聞き、マキが悪寒が走ったのか体を震わせる。Wi-Fiの飛んでいない生活など考えられない、それはマキだけでなくモルフォもミドリも同様だろう。となれば、別の方法を考える必要がある。

 

「ゲーム機は駄目ですよね?」

「もう禁止されてますね。ばれないように持ち込んでる人はいるようですが」

「アナログゲームは?」

「それも……」

 

ミドリの言葉に対して予想していたように首を横に振る。この分だと、一通りのものは既に禁止されているとみて間違いないようだ。となると、そういったハードに依存しないものを勧めるべきか。そう考えながらフユを見るモルフォ。情報を纏めているであろう手帳を見ながら話を進めている彼女を見て、ふとモルフォはある遊びを思い出す。

 

「あ、そうだ。ドット&ボックスはどうです?」

 

ドット&ボックス。それは、紙とペンさえあればできるという簡単なアナログゲームだ。ボードゲームやカードゲームのように特別な道具や専用のシートなどを必要とせず、どこにでもあるような文房具で遊べるゲーム。紙と筆記用具を禁止されることはまずないので、これを禁止されることはないといっていいだろう。

 

「「「ドット&ボックス?」」」

 

ドット&ボックスは、縦に5、横に7の点が記されており、その中を描く4×6の24マスを紙に書いて行うゲームだ。二色のペンを使い、それぞれのプレイヤーは交互に一本ずつ線を書いていく。そして、四辺に線を書いてボックスを作ると、その間が塗り潰される。この時、塗り潰される色は、そのボックスを完成させたプレイヤーのものとなる。つまり、相手プレイヤーが三本の線を書いたところに、最後の一本だけ自分が書いてボックスを完成させれば、それが自分のボックス、得点となる。さらに、ボックスが完成した時、その時の手番はさらに追加でもう一本線を引くことが可能となる。ちなみに、ボックスは四本の線のみで作る四角でしか塗り潰されず八本で一回り大きなボックスを作っても、それは塗り潰されないのだ。この、ボックスの取り合いを経て、全ての線が埋まった時に最終的に多くのボックスを獲得しているプレイヤーが勝利となる。

 

「あー、これか」

 

うんうんと頷きながら、スマホで検索していたマキが納得したような表情を浮かべる。このドット&ボックスは、前世ではそこそこ歴史のあるゲームだ。その起源は19世紀のフランスに遡ると言われているぐらいである。それだけでなく、ルールそのものはあまりにも単純明快なのだ。その内誰かが思いついてもおかしくないものだろう。当然、キヴォトスにだって存在する。

 

「あれ、でも調べたら5×5になってるけど」

「ボードの大きさに決まりはないから自由にやっても大丈夫だよ」

 

4×6のボードを使うのは、単純にモルフォが世界のアソビ大全というゲームに出てくるドット&ボックスで使われているボードがそれだから、というだけの話である。そこの調整は個人の自由に任せればいいだろう。

 

「ふむ……成程成程、これならば確かに……しかし、言われてみればこんなに単純なのによくもまぁ、ワイルドハントで今まで誰も思いつきませんでしたね……いえ、もしかしたら誰かやってる人もいるかもですが」

「案外、言われないと気付かないことって多いもんですよ。とりあえずどんな感じか一度、やってみますか?」

「そうですね。まずは一度触れてみないとわかりませんからねこういうのは」

「ミドリ、やってみる?」

「あ、じゃあ折角だし……」

 

点を紙に書いていき、ボードを作ると、ミドリとフユが向かい合う。とはいえ、どういうゲームなのかもいまいちわからず、とりあえず相手にボックスを作らせないように立ち回る、ということぐらいしか二人にはできない。

 

「……これ、今ってどっちの方が有利なの?」

「さあ……」

 

それを見ていたマキの声にミドリも首を傾げる。お互いに、まだボックスは一つも取れていない。それ故、線が二本までしか書き込まれていないマスばかりになるのだが、その場所もバラバラなせいでどちらが有利なのかどうか、マキは勿論、ミドリとフユにもわからないのだ。

 

(……多分、この感じだと……最初にスタートを切ったのがフユさんだから……)

 

モルフォは落ち着いてボードを見ていく。それぞれ、中途半端に二本入れたマスを放置する形で他のマスを塗り潰しに行く形になっているが、その中には一ヶ所だけ三ヶ所空いているポイントがある。それは、そこを残り二本まで埋めると、他のマスが残り一本になってしまい、相手にマスの大量獲得を許してしまうという中々に厳しい場所になっていた。

 

「……うっ」

 

と、ここでフユも自分がどう足掻いてもミドリにボックスを献上しないといけないことに気付いたようだ。フユが動きを止めたことで、ミドリの方も相手が何を気にかけているのかに気付いたようだ。

 

「あー……成程」

「えっと……あ、そうか。こうすれば」

「えーと、こうなるから私は連続でボックスを取れるわけだけど……うん?これって」

 

フユが仕方なく、残り一本になるように線を描く。これ幸いにとボックスを完成させ、連続で奪っていくミドリだったが、数個取ったところでその先にある、三本の線の内の一本を埋めて残り二本となったマスを見て、あることに気付いてしまう。

 

「まさか、ここまで……?」

「あー、そうなるね」

「とりあえず六マスまで取ったのはいいけど……これ、私がどこかに入れたらそこからどんどん相手に取られるだけじゃ……」

「これ、回収が始まると一気に進む奴?」

「まあ、一回始まるとそうなるね」

 

そう、ミドリがどう足掻いても、フユにボックスを差し出すことになるということだ。一気にゲームが終わりに向かって進んでいる様子に気付いたマキがモルフォに聞くと、モルフォも最後はこうなるのだと頷く。しかし、この最後の実ってきたボックスを収穫するフェーズに入ったからといって油断はしてはいけない。この状況で気を付けなければならない点はいくつかあるのだ。

 

「えーと……よし、私が選ぶのはこっちだ!」

「では、もらっていきましょうかね……って、んん?こ、これは」

 

ボードの上に残っているマスは、大きく分けて二つに分かれており、見事に線で分断されていた。そこでミドリが差し出したのは、その内のマスが少ない方のマス。それを差し出されたフユはそこのボックスを全て埋めるのだが、次にもう一つのグループに手を出そうとしたところで、ここにはどこにも残り一本になっているマスがないことに気付く。つまり、

 

「……次は私が手に入れる番ですね」

「え?あ、いやちょ……ああ、こ、こうなるのか……!!」

 

フユが頭を抱えている目の前で、ミドリが残りのボックスを全て確保してしまう。そして全てのボックスがそれぞれのものとなり、数としてはミドリが14、フユが10個のボックスを手に入れることになり、ミドリの勝利が確定する。

 

「勝った!!」

「やったじゃん、ミド!」

「まあ、ドット&ボックスはこんな感じです。どんな感じでした?」

 

ミドリの勝利と、二人の健闘を称えながら、モルフォはフユにどうだったか聞いてみる。フユは少し考え込んでいたが、実際にゲームに熱中していたことを思い出すと、確かにこれは悪いゲームではないと考えていた。

 

「そうですね……ルールは単純で、線を引き合って塗り潰すだけなのに凄く奥深いゲームでした。いやはや、こんなゲームもあったとは……全然思いつきませんでした。他にもあったりするんですかね?」

「調べればいくらでもあると思いますよ。こういう簡単なゲームなら他にも色々あると思いますし。こういうのなら道具を禁止するとそもそも普段の勉強とかにも支障が出るので禁止のしようがないでしょう」

「成程。そういう方向性は確かに色々と好都合です」

 

それに何より、ペンと紙だけでできる、というのがいい。これなら検閲も寮監隊も手を出せない。こういう方向性でいろんなゲームを見つけ出してもいいし、何なら、検閲されようのない小道具を使ったゲームを開拓したっていいのだ。やはり彼女達と会ってよかったと、フユは考え始めていた。

 

「これで少しはワイルドハントが過ごしやすくなったら行ってみるのも悪くないかもねー」

「え!?マキちゃん転校しちゃうの!?」

「しないしない!まあ、グラフィティの参考程度にはって感じ?」

「……おっと、そういえば。こちらが貰ってばっかりで対価を支払っていませんでしたね。さて、どういうのがよろしいでしょうか」

 

わいわいと話すミドリとマキを見ていたフユだったが、ここでふと取引に必要な対価のことを思い出す、このゲームの存在を教えてもらったというのに何も与えないのはさすがに釣り合いが取れない。そう思っていたが、モルフォは笑って首を横に振る。

 

「いえ、そんなの気にしなくていいですよ。そもそもドット&ボックスだって考えたの私じゃないんですよ?これで金なりを貰う方が先人達に失礼ですよ」

「そうですか……いえ、確かにそうかもしれませんね、申し訳ありません」

 

芸術の学園、ワイルドハントに入っているだけあって、モルフォの言いたいことも理解できるのだろう。フユの方も失礼なことを言ってしまったと若干悔いるようにモルフォに謝罪の言葉を口にする。

 

「ですがそうですね……なら、私ともう一戦、どうですか?」

「ふふ、いいでしょう。一回やって大体の感じは掴んできました。次は負けませんよ」

(ダブルクロス戦略をやるには……そうそう、最後の二つのボックスをスルーして終わらせるんだ)

「……ん!?んん!?」

 

そしてモルフォとのゲームに再び興じたフユだったが、ここでモルフォはダブルクロスと呼ばれるテクニックを使用する。ボックスを連続して取る時に最後の二つのボックスだけを取らないで相手に渡すことで、相手はその二つのボックスを取った上で残る集団のボックスに切れ込みを入れざるを得なくなるため、結果的に最初にダブルクロス戦略を仕掛けたプレイヤーの方が多くのボックスを獲得できるようになる、という寸法だ。その戦術の前に、フユは敢えなく二連敗を喫してしまう。

 

「こ、こんなことが……しかも、さっきより負け方が酷い……!」

 

フユも、ダブルクロス戦略でボックスを差し出されたことはさすがに理解したのだろう、その献上されたボックス以外は何も手に入れられていないという惨状に頭を抱えてしまう。

 

「ふ、ふふ……さすがゲーム開発部、ですね……やはりここは、部長を呼ぶしか……」

「部長?」

「ええ、特殊交易部の部長は文学を専攻していまして、特にこういう知略を用いたゲームはプレイの経験こそないですが、得意な方ですよ……ふふ、さすがに普段から筆を執っている人物は違いますね」

「筆……ってことは、シナリオでも作ってるんですか?」

「ええ、本人は小説家を志望していますからね」

「お姉ちゃんの参考になるかな……あ、私のお姉ちゃん、シナリオライターやってるんです。モルフォちゃんが結構推敲入れないと話が飛んだり滅茶苦茶になることが多いけど……」

 

さすがにこの連敗は堪えたのか、勝負に勝つために部長を呼ぼうとするフユ。その部長がどういう人物なのかはわからないが、モモイのような文字書きなら、普通はやはり頭が良いのだろう。尤も、モモイとて決して地頭が悪いわけではないのだが。

 

「ちなみに……その方は恋愛関係のシナリオを書いていたり?」

「まあ、没プロットでは何本か……」

「ありがとうございます。ふふ……その情報があればあまり動きたがらない彼女も快く動いてくれそうですね」

 

ミドリの言葉を聞いたフユは、あることを確認するかのようにミドリに質問する。そして望み通りの情報を引き出せたことに何かを企むような笑みを浮かべる。

 

「また、今後ともお付き合いをよろしくお願いしますよ、ゲーム開発部の皆さん」

「ええ、一緒にゲームを楽しんでくれる人はこちらも歓迎ですよ」

 

当初は警戒する気持ちも少しはあったものの、こうして一緒にゲームをする中で彼女の人柄というものもよくわかった。こうして、危険な事でもなければ今後とも付き合いをしてもいい相手だろうと、そう考えながら、モルフォはフユと握手をするのだった。

 

この後、ワイルドハントで特別な道具などを使わないアナログゲームが流行するようになり、そのことに寮監隊が頭を悩ますことになるのだが、それはまた別の話。

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