転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
『―――♪』
オフィスで仕事をしている先生の耳に、タブレットから少女の歌声が聞こえてくる。機械音声故か、声のトーンが人間のそれと比べると少し怪しいようにも思えるが、これはこれで彼女らしい個性だ。そんな彼女の歌声とハモるように聞こえてくるのは、人のような機械音声が奏でる歌声。それはモルフォから渡されたCDからタブレットに取り込んだ音楽だった。
先日、シャーレにユウカと共に来てから、モルフォもシャーレの部員として所属することになった。無論、シャーレの部員になったといっても優先されるべきは自学園の仕事であり、その点で強制することはできないと先生は受け取っている。そのため、セミナーの仕事もあるユウカよりもモルフォが来る機会も増えており、そうした中で先生が仕事を効率よく進められるように音楽を流してみるのはどうか?という提案を採用したのだ。
「いい歌だね、アロナ」
『はい!いい歌ですね……藍の運命、という歌でしたか。こんな歌も作れるなんて、モルフォさんは凄いですね!……あ、いやモルフォさんが凄いというのは……』
「わかってるよ。これも、別の世界のゲームの歌、なんだろうね」
曲が終わったところで、先生がタブレットに声をかける。すると、タブレットからアロナと呼ばれた水色の髪の少女のホログラムが現れる。このタブレットの名はシッテムの箱。先生だけが使用できるデバイスであり、彼女はそのメインOSでもある。彼女もまた、先生と共にいたからこそモルフォの秘密を知っている人物……なのだが、アロナの存在は先生以外には認識されておらず、こうしてホログラムとして外に出ても姿を認知されないばかりか、こうして喋っていてもアロナの声だけは聞こえない、という状態だった。
「でも、ちょっと残念だね。折角のアロナの歌なのに、他の皆は聞くことができないなんて」
『そう言ってくれて嬉しいです、先生!でも私は平気ですよ!歌っているだけで凄く楽しいので!』
「そっか」
今、アロナが歌っていた歌はモルフォが前世の頃から好きな曲の一つだった。それ以外にも、先生に渡したCDにはいくつか種類があり、それらにも色々なゲームの音楽なども入っていた。こうして音楽をかけるだけでも仕事の効率が段違いであり、先生も満足していた。そして、アロナが歌い終わったタイミングで先生はオフィスにBGMを流し始める。明るく、だが比較的静かで落ち着くBGMが耳に届いてくる。
「さて、これでひと段落ついたかな……」
書類の束をある程度片付け、深呼吸を吐く。書類の暴力にひーこら言っていた当初と比べるとだいぶマシになった気がする。これもユウカやモルフォのおかげだろう。時計を確認すると、シャーレの当番が来てくれる時間が近づいていた。今のシャーレの当番はモルフォを含む五人。残りの四人は、先生が初めてキヴォトスを訪れ、占拠されたシャーレの部室の奪還及びサンクトゥムタワーの制御権の正常化をする際に護衛してくれたユウカを含む人物たちだった。だが、シャーレの部室に所属していても、立場的に自由に動きやすい人物とそうでない人物の差は大きい。現に今ではユウカよりもモルフォが手伝いに来る機会が多いのだ。そしてもう一人。シャーレの手伝いに比較的来てくれる人物もいる……のだが。
「……このままだと二人の負担も大きいな……ユウカやチナツ、ハスミは向こうの組織のこともあるから中々来れないだろうし……」
やはり、シャーレと他の学園、そして生徒との交友関係を増やし、シャーレの部員を増やす必要があるだろう。生徒達の力になるには、今のままでは実績も知名度も足りないのは先生も痛感していた。と、そんな時だった。
「先生、失礼します」
「あ、いらっしゃい、スズミ」
長い白髪の、灰色の制服を着た少女がシャーレへとやってくる。彼女の名は守月スズミ。トリニティに通う生徒であり、トリニティ自警団なる非公認の部活動に所属して治安維持などをしている。が、その活動は正式に認可されている治安維持組織の部活動とは異なっており、非公認であるが故のフットワークの軽さが持ち味となっている。そんな経緯もあって、今のシャーレが頼りやすい数少ない人物となっており、スズミの方もそれを快く受けてくれていた。
「ごめんね、いつも来てもらって」
「いえ、構いませんよ。それに、先生も大変でしょうし……って、この音楽は……?」
「ああ、ミレニアムから来てくれた子が用意してくれたんだ」
「ユウカさんが……」
「あ、違うんだ。ユウカの後輩の子だよ」
オフィスに入ってきたスズミは、聞き慣れない音楽が流れていることに気付く。ミレニアムの生徒と聞いて、先の戦いで共闘したユウカの姿が浮かんだスズミの誤解を解く。それを聞いてスズミも成程と頷くと、曲の感想を言う。
「いい曲ですね」
「うん、この感じはゲームの街のBGMっぽいよね」
どういう曲名かはモルフォに聞かなければわからないが、後日彼女が来たら聞いてみようかな。そんなことを考えながら、ほのぼのとした、明るい街に流れそうなBGMをバックに先生とスズミが仕事を進めていると。
「すみません、遅れちゃいました!電車で暴れてる人たちがいたせいで色々大変な事になっちゃって……?」
「……あ、あれ?モルフォ?」
「え?あの、先生……?」
オフィスの扉を開けてモルフォが中に入ってくる。ぶら下げてる待機状態のシールドの一部や、ショットガンハンマーの鎚の部分が煤に汚れているところを見るに、移動中に騒動に巻き込まれていたようだ。と、モルフォの視線が部屋で既に作業を始めているスズミに向けられる。
「……あれ?今日って二人なんですか?」
「え?」
「……え?先生?これって……?」
「ん?」
スズミとモルフォが同時に疑問の視線を先生に向ける。二人の視線を受けた先生は、何かを思い出すように考えていたが、次第に、何故二人がここにいるのかという理由に気付き、頭を抱える。
「あ……ご、ごめん。どうやら間違って当番の日を重ねちゃったみたいで……」
「ええ……」
「……せ、先生……」
どうやら、先生が二人にそれぞれ間違えて一緒の日に来てほしいと頼んでしまったようだ。その結果、スズミとモルフォが同じ日に来るという状況を作り出してしまった。
「……先生、予定って管理してないので……?」
「以後、気をつけます……」
「まあ、仕方ありませんよ。シャーレの仕事って凄く忙しいみたいですし……」
「それは……そうなんですが……」
自分のミスに落ち込む先生を慰める二人。女子高生に慰められる大人という図にちょっとだけ悲しいものを覚えるが、自分のミスが全ての原因なのでそれを受けとめる。
「ところで、そちらの方は?私は夢見モルフォって言います。ミレニアムの一年です」
「あ……すみません、自己紹介がまだでしたね。私は守月スズミ、トリニティ総合学園の二年生です。よろしくお願いします、モルフォさん」
「はい、よろしくお願いします、スズミさん」
そして少し落ち着いたところで、モルフォとスズミは互いに自己紹介をする。ここで復活した先生はスズミとモルフォを見ると、
「うーん……今日はどうしようか……」
そう呟く。自分のミスでブッキングしてしまった手前、片方にこっちのミスだから帰っていいよ、とは正直言えない。しかし、折角来たんだから二人で手伝ってくれないか、というのも、生徒達に手伝ってもらうために来てもらったとはいえ虫が良すぎる気がする。
「まあ、折角来たんですし、手伝っちゃいましょうか」
「え、いいの?」
「そのつもりで来ましたし。それに、人数が増えれば早く終わるでしょうし、仕事が早く終わる分には何も悪いこともないでしょう?」
そう考えていると、モルフォの方から助け船が出された。モルフォの意思を確認した先生は、少し考えると、これでスズミの負担も減るならとそれを承諾することにする。
「それはそうなんだけど……わかった。じゃあ手伝ってもらっていいかな?お詫び……と言ってもあれだけど、お昼ぐらいは私が奢るよ」
「いえ、そこまでしていただかなくても……」
「気にしなくていいよ。私のミスだからね」
「そういうことなら……そういえば、結構気に入ってくれたんですか?」
最初の頃よりも慣れた様子で書類の一部を取り、仕事を始めるモルフォ。その言葉を聞いた先生は、モルフォが言っていることが提供してくれた音楽のことだと気付いて頷く。
「うん、いい曲だね」
「……この音楽ってモルフォさんが選んだんですか?」
「そうですね、作業をするなら音楽を流してみたらどうかって先生に以前提案したんですよ。今は私がゲームの音楽とかを流していますけど、先生の好みの音楽があったらそちらを流してもいいですよ」
「そのうち考えておくよ」
スズミも、今流れているこの音楽を提供したのがモルフォだと認識したようだ。モルフォ自身は作業するならもうちょい激しめの戦闘BGMとかもいいなぁと思うタイプだが、シャーレのオフィスに流すとなればもうちょっと静かで万人受けするものがいいと思い、いくつかのCDを用意したのだ。
「良い曲ですね、モルフォさん。音楽に興味が?」
「ありがとうございます。そこまでガチってわけではないですけど……でもいろんな曲は聞いたりしますね」
「ふむ……では、オスティン・ビーバーとかは?」
「オスティン・ビーバー……?い、いえわからないですね……」
一瞬、似た人物の名前が脳裏に浮かび、あれ私聞き間違えたかな?と疑問を浮かべながらもなんとか返答する。しかしどうやらこの世界ではちゃんとオスティン・ビーバーなるアーティストが存在しているようだ。しかし、スズミがその名を挙げると言うことはやはり好きなアーティストなのだろう。
「後で調べてみますね」
「いい歌ですので、おすすめしますよ。ちなみにモルフォさんはどんな歌が?」
「歌というと……そう、ですね……RoRo、ですかね」
「ろろ?聞いたことないですね……どんな人なんですか?」
「あー、キヴォトスの外のアーティストなんだよ。ね、モルフォ」
「そうなんです」
続けてモルフォの好きなアーティストと呼ばれ、色々好きなアーティストを思い浮かべていく。前世ではもっぱらアニソンとゲームの曲ばっかりで今にして思うとアイドルの曲とかあんま履修してないなと思ったが、その中でもやはり歌として気に入っているのはとあるゲームに出てくるRoRoというキャラが歌う歌だろう。厳密には彼女だけでなく他の歌姫の歌も好きなのだが、この世界でモルフォが人前でプレイしてはいけないと禁じているゲームの歌なのもあって、こちらの名前が口から出てきていた。
(……名作だしユズにやらせたら凄い爽快感あるプレイしてくれそうだけどね。さすがにこれはやらせちゃいけない)
「キヴォトスの外の歌ですか、興味がありますね」
「じゃあ聞いてみる?」
「あるんですか?」
「うん、CDはもらったからね」
そう言うと、先生は早速音楽を流し始める。シッテムの箱の中でアロナがワクワクした様子をしているのを微笑ましく見ながら、流された音楽は、どこか悲し気な雰囲気を感じさせる、だが美しい機械音声が聞こえてくる歌だった。
「……いい歌ですね。なんていう歌なんでしょうか?」
「これは確か、瑠璃色刹那ですね」
暫く、曲に聞き入りながら、書類仕事を進めていたが、間奏の間に、そうスズミが漏らす。キヴォトスの外の音楽を聞けてご満悦なようだ。その様子を楽しそうに見ながらも、先生の咄嗟の機転にモルフォは感心していた。モルフォの能力の対象は、確かにキヴォトスの外と解釈することもできるだろう。その発言を、実際にキヴォトスの外から来た先生が言えば、その信憑性はより高まる。
別の世界、というと突拍子もないと思われる可能性もあるが、キヴォトスの外のものだと先生が証明してもらえば、モルフォがオリジナルを生み出したものではない、という事実を証明しつつ、モルフォの特異性を誤魔化せる隠れ蓑にもなる。今後はこの方便も状況に応じて使ってみようかなと考えていると、曲が終わり、次の歌が始まる。
(これは虚空の円環か……これもいい曲だよね……)
そしてRoRoの歌声がオフィスの中を流れてくる中、三人は書類仕事を進めていくのだった。
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「……今日から出張するから当番はシャーレに来なくても大丈夫?ふーん……了解です、っと」
その翌日。突然、先生から送られてきたそのメッセージに対し、モルフォは短く返信するのだった。