転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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梅花園とサッカー

「3、2、1、ゴーシュート!」

「おお……」

 

シャーレの部室。そこに置かれたポリバケツに乗せられた布を中央に凹みを入れてすり鉢状にし、ゴムバンドで布を固定する。そうして作られた簡素なスタジアムに、鋼鉄のコマが放り込まれる。ベーゴマと呼ばれる小さな鉄のシンプルなコマが綺麗に回転する様子を見て目を輝かせていたのは、長い銀髪にオレンジ色の目をした、トラっぽさのある耳を持つ少女、山海経から来たという春原ココナであった。

 

「上手だね、モルフォ」

「ベーゴマも慣れれば楽しいものですよ。でもよくこんなものありましたね」

「見たらやりたくなっちゃってね……買ったのはいいんだけど、中々うまく回せなくて……」

 

今じゃアロナの方が上手だよ……と内心呟きながら、先生が遠い目をする。先生も懐かしくなって買ったのはいいものの、肝心の先生本人は今もうまくベーゴマを回せないままであった。

 

「……でも、凄く楽しそうに遊ぶんですね。こういう人だから人気なんでしょうね」

「人気?」

「梅花園の園児達ですよ」

「……そういえば」

 

晄輪大祭でルミから梅花園の園児たちについて聞いたことがある。あのマグナムダイナマイトもどきが強烈に焼き付いたらしい、とは聞いたものの、その時だけの話と思っていたのだが。

 

「園児達も喜ぶだろうし、もし予定が空いてたら梅花園に行ってみない?」

「梅花園ですか……そうですね。その子達と一緒に遊ぶのも楽しいですし」

「あ、引き受けてくれるんですか?ありがとうございます!」

「と、すると何がいいかな……ココナは何かリクエストとかある?」

 

先生からの言葉に、モルフォも考え始める。ココナも前向きに受け止め、モルフォの質問に顎に手を当てて考え始める。

 

「どうせやるなら皆で遊べるものがいいですね……梅花園はやっぱり人数も多いので……」

「と、するとボードゲームは除外……カードゲームも駄目、電子ゲームも待つ子が多いから駄目……トランプを何セットか用意するとか?」

「トランプですか……」

「他は……まあ、色々考えてみ……あっ、そっか。スポーツとかは?ほら、晄輪大祭の影響もあったのなら、身体を動かせる方がいいんじゃない?」

「それはまあ……そうですが。何かいいのはありますかね?」

「……まあ、手っ取り早く多くの人数がやれるスポーツなら……」

「サッカーとかは?」

 

レイの顔が浮かび、野球を思い付きかけたところで先生がサッカーを口にする。それによって頭の中のレイが困惑と共に掻き消えてサッカーボールに変わっていく。

 

「あっ、それいいかもしれませんね!サッカーとか!」

「モルフォさんってサッカー好きなんですか?」

「え?まあスポーツ全般好きだよ。見るのも楽しいし、やるのも楽しいし」

「あはは……モルフォは遊ぶのが大好きだからね」

「子供みたいですね」

「別に遊ぶのに年齢なんて関係ないよ、ココナ」

「……なんか大人みたいなこと言いますね」

「あはは……」

 

ココナの言葉に思わず苦笑する先生。実際遊ぶためにベーゴマを思い付きで買ってきたのだからまさしくモルフォの言葉通りなのだろう。とはいえ、モルフォがスポーツを遊ぶ範疇で好きなのはやはり色々な漫画やアニメ、ゲームの存在があるからだろう。特にサッカーなどその筆頭だ。

 

(……今ならできるのでは?いやでも、ジャッジスルーとかが限界……いやあれは絶対やっちゃ駄目だけど……まあ、いいや。ああいうのはなんかそれっぽくやってれば楽しいし)

 

そんなことを考えながら、モルフォはココナと約束をする。その後、ミレニアムに戻った後にゲーム開発部全体で協議を行い、それから梅花園の教官でありココナの姉でもある春原シュンとも話をし、ゲーム開発部で梅花園へ遊びに行くことが決まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いっけー!私のシュートだー!」

「うわー!はやーい!」

「うー、止められないよー!」

 

数日後。モルフォ達ゲーム開発部は折角ならと軽い特訓をしたりして準備を終えていた。そして梅花園を訪れ、そこで長身の長い黒髪の少女、シュンや園児たちと自己紹介を終えたモルフォ達は園児に混ざってボールを追いかけていた。

 

「はぁ、はぁ……結構サッカーって体力使う……」

 

そして園児たちも慣れ始めたところで、実際に試合形式をやってみると、ワチャワチャしながらも楽しそうにボールを追いかける園児たちの姿があった。それを見ながら、ユズが疲れ果てた様子でスポーツドリンクを飲む。

 

「た、確かに疲れるね……これでも結構、動きなれてると思ってたんだけど……」

「いやー、大変だ大変。ユズは大丈夫なの?凄い人数に囲まれてたけど」

「うん……これぐらいなら……それに、皆もいるし……」

「お疲れ様です。皆さん凄い人気でしたよ」

「主に人気だったのはモルフォちゃんだと思いますけど……まあ、派手な活躍してたのモルフォちゃんだったし……」

 

ベンチ代わりにもなっているスペースで小休憩をしているゲーム開発部の隣にシュンが座り込む。突然の来訪に園児たちと全力で遊んでくれたゲーム開発部を労いながらも感謝を述べていく。

 

「確か……こんな感じだったよね!」

「えー!?違う違う!こうだった!」

「違うよこうだよー!」

 

園児たちのサッカーには決まったポジションなんてない。キーパーは残念ながら誰も魅力を感じておらず、守るより攻めたいという子達ばかりだったのもあり、現在アリスとココナが代わりに入っている状況となっている。そして前に出た子供達がしきりに再現しようとしているのは、あるシュートだ。

 

「っていうかモルフォちゃんあれどうやってたの……?」

「なんかこう……いい感じに蹴れないかなとやったんだけど……できちゃった……」

 

そのシュートというのが、まずジャンプすると同時にボールを右足で上に上げた後に左足で横回転をかけながらもボールがブレないように地面に上から下へと落とす。そうすることでボールは自分よりも高く、横に回転しながら跳ぶこととなり、着地した自分は体を捻り、元に戻す動きを利用しながらジャンプして大きく回転し、右足で強力なシュートを宙に浮いたまま叩き込む、という―――

 

(色々誤魔化したけどモーションだけでもエターナルブリザードできるとは思わないじゃないですかヤダー)

 

エターナルブリザード。それはイナズマイレブンと呼ばれるゲーム・アニメに登場する強力なシュート技であり、冷気を纏ったボールを蹴るというものになっている。モルフォがやったのは形だけの真似事なので冷気も何もない、なんか横回転しているボールを空中で勢いよく蹴るというだけのものであり、モルフォにできるならこのキヴォトスでもおそらくはやろうと思えばそれなりにできる層は多いだろう、というものになっている。が、園児たちからすればこれでも十分に超次元だったらしく、すっかり心を鷲掴みにしていたらしい。

 

「ドライブシュートとかあそこら辺でいくべきだったかな……って、ん?」

「どうしました?」

「いや……一人凄く動きの良い子が」

「動きの良い子ですか―――ぶふぉ!?」

「「「シュンさん!?」」」

 

そんな中、一人だけやたら動きが良い子を見つける。黒いツインテールの園児が、他の子供達とは比べ物にならないぐらいに良い動きをしており、見事なカットでボールを奪っていくのだ。

 

「いいぞー、キキちゃん!」

「やっちゃえー!」

「よーし!私、モルフォさんみたいに頑張っちゃう!えーと、こうだ!!」

「……ど、どうしたんです?シュンさん、顔が……」

「いえ!?な、何でもありませんよ!?」

 

キキと呼ばれる、帽子を深くかぶったその園児は、ボールと共に空中に上がる。そのまま、巧みな動きでボールに強い横回転をかけたまま地面に叩きつけて再び空中に上げる。しかし、横回転が強すぎたせいでブレたのか、ボールは前の方に飛び出してしまう。

 

「ああ!?」

「失敗……!?」

「まだまだ」

 

しかし、キキはそのボールに追いつくようにすぐに体を捻ってジャンプすると、そのまま勢いよく右足をしならせるようにボールをゴールへと叩き込む。

 

「あえ!?」

 

その様子を見ていたアリスの口から素っ頓狂な声が漏れ、その横を強烈なシュートが通過していく。あまりのキキが見せたスーパープレーに、全員が言葉を失っていた。

 

「できたー!シュン教官、できたよー!」

「……は、はい!そ、そうですね……よくできましたね、キキちゃん!」

「……シュンさん、彼女何者なんですか。あれ園児ですか?」

「園児です!園児ですよ!?いやーキキちゃん来てくれたんですね!普段中々来ない子なので、今日は来てくれてよかったです!」

 

必死そうな声でモルフォが口にした疑惑を否定するシュン。誤魔化すようなものいいだが、ここでキキがベンチの方に向かってくる。

 

「モルフォさん!もっといろんな技をキキや皆に見せてほしいな!」

「み、見せてって言われてもね……見た目だけがっていう感じの奴ばかりだよ?実用性はあまり」

「私もみたーい!」

「あたしもー!」

「モルフォさん、見せてー!」

「……モモイ、ミドリ、ユズ、いける?」

「まあ、ちょっとは休んだから……」

「同じく。今日持つかな……」

「や、やろうかモルフォ……」

 

キキや他の園児から期待を込めた目を向けられ、モルフォも苦笑いしながらそれを受ける。そしてユズと一緒にアリスの方のチームに入り、モモイとミドリもココナとキキがいるチームへと入っていく。既に人数は11人をオーバーしているが、今回はそういうものだと割り切るしかない。

 

「なんかいい感じの技……なら、ドライブシュートだ!」

 

ドライブシュート。こちらはキャプテン翼というサッカー漫画に登場する必殺シュートで、その様子は読んで字の如く、強烈な縦回転をかけてボールが落下するような挙動で飛んでいくシュートである。その急激に曲がるボールの様子に園児たちが立ち止まり、驚いたように見上げる中、ココナも反応が遅れてしまい、ボールがネットを突き刺さる。

 

「……ほほう?……すごーい!」

「やっぱりモルフォさんって凄いんだねー!」

「ミレニアムってこんな凄い人がいっぱいいるんだ!」

「……ほう?ゲーム開発部はスポーツも万能、と……」

「モモイさんとミドリさんも何かできるの?」

「えっ!?」

「ま、まあ……一応練習は……?」

「ほんとほんと!?見せて見せて!!」

「うう、どうする?スカイラブハリケーンとかっとびディフェンスだっけ?」

「いやあれすぐに危険だから没になったじゃん……」

「……まあ、とりあえず基本でいこう基本で!それらしく!」

 

二人で何かパフォーマンスしてみない?というモルフォの提案で提示された技がかなり危険なものだったことを思い出し、微妙な顔をするミドリ。モルフォもやらせる気は全くなかったためお流れとなり、軽い練習とかだけをやっていた。それこそパス回しやドリブル、トラップといった基本的なことばかりだ。

 

「おおー」

「ボールがちゃんと止まってる!」

「地味だけど、なんかかっこいー!」

「こうやって動いてると、これまで戦って体動かしてきた甲斐はあったって思うね……お姉ちゃん……」

「た、確かに……こんなことで自覚したくなかったけど!」

 

出されたパスをちゃんと止め、インサイドキックで確実に相手にボールを渡す。そういった、基本的なパス回し。ボールではなく目の前を見ながらドリブルする。そういった動きも、初心者の子供達からすれば素晴らしい動きだ。と、その時だった。

 

「あっ!?」

「ユズちゃん!?」

「いいですよ、ユズ!」

 

モモイがミドリに出したパスを、割り込んできたユズがカットする。そのままユズはモルフォにパスを出すのだが、地面を転がすパスを出すはずが勢い余って宙を浮くボールになってしまう。しかしモルフォはそれを胸でトラップすると、そのままドリブルで進んでいく。

 

「そのボール、もらうよー!」

「……キキ、悪いけど手加減はしないよ」

「臨むところ!」

 

これまでの動きからキキは只者ではない。そして彼女は、モルフォ達の次のパフォーマンスを期待している。それを受け、モルフォはどうするか少し考えて、ある方法に打って出る。

 

「これでも動きだけは遊び半分とはいえ練習してたんだ、久しぶりだけどなんとかなるさ!」

「!?」

 

キキの目の前でさらにドリブルの速度を上げて急加速、こちらへ向かってくるキキが足や体を寄せられないようにボールを外側に置くような形で自分の体を内側にいれ、身体を回転させながらステップを踏まえた流れるような動きでキキを抜いていく。

 

「今の動きは……」

「風はないけどそよかぜステップの動きはできた……!からの!」

 

そのままボールを前方へと蹴っていく。そのバウンドしていくボールへ向かって、ボールを追い越すかの勢いで走っていくと、そのまま鋭い跳び蹴りをボールにねじ込み、加速したボールをゴールへと叩き込んでいく。

 

「きゃ!?」

「ほう……」

 

その様子を見て、感心したような声がキキから漏れる。直後、ゴールを決めたモルフォに園児たちがどんどん集まっていく。

 

「すごーい!!」

「ねえねえ、他にもあるのー?」

「えーと、他……他か……困ったな、さすがにもうネタが……とりあえずリフティングで許して」

「うわー!ボールが落ちない!」

 

ネタがない、とは言いながらも園児たちを前にリフティングをしたりして良い感じにやっていく。園児たちにボールを渡したり、他の皆とパスを回したりといった感じで楽しんでいる中、ふと気付けばキキの姿がいなくなっていることに気付く。見れば、シュンの隣に移動しており、座って休憩をしている様子があった。

 

(……あの子)

 

園児たちの興味はゲーム開発部に向けられており、キキが抜けたことについては誰も気にしない様子であった。

 

「あっ、あれならどう?」

「あー、あれ?そういえばあれなら……同時に蹴るのさえできればワンチャン?」

「よーし、やるよミドリ!」

「わ、わかった!」

 

そんな中、ボールを受け取ったモモイとミドリが同時にお互いに向かって走り出す。そしてタックルが交差したかと思うと二人とも半回転し、同時にボールを蹴り出す。

 

「―――できた!!」

「「「わーっ!!」」」

 

二人で同時に放つ連携シュート。エフェクトがないとやっぱり地味だなぁ、なんてモルフォが考えている中、一瞬ベンチの方に座るキキが一瞬零した、園児が見せるようなそれとは違う、リオを始めとする立場ある者が時折見せるそれの表情。それを見て、何となく彼女の正体にモルフォは気付く。

 

「アリスもやります!今思い付いたこれでボールを止めてみせます!スーパーノヴァ!!」

『いやアリス!?園児に向かって撃っちゃ駄目ですよ!?』

「いやそれキーパー技じゃ―――」

 

そんな他の部員の様子を見て、アリスも触発されたのか、ゴール脇に置いていたスーパーノヴァを手に取る。そして放たれたレールガンの一撃が、ボールを消し飛ばしてしまう。

 

「……いや合ってる……合ってるけど、間違ってるんだよなぁ……」

 

その光景を見て、違う意味で盛り上がる園児たちを見ながら、モルフォは苦笑いを零すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ふふ、ミレニアムサイエンススクール、か」

 

少しだけ気怠そうに寝室に寝転がりながら、黒髪の小さな身長の少女が楽しそうに笑う。彼女の名は竜華キサキ。キキという名で園児たちに混ざり、モルフォ達とのサッカーに混ざっていた人物であり、山海経高級中学校の生徒会、玄龍門の門主……即ち生徒会長なのだ。そんな人物が園児に混ざってサッカーをするという衝撃的な事実に気づいたのは残念ながら、あの場ではシュンだけであった。いや、厳密には近いところまでたどり着いていると考えられる人物がいた。

 

(あの者……夢見モルフォといったか。妾が門主であることまでは気付いておらなんだが、普通の者ではないことには気付いておったな。梅花園の園児たちが外の学園の生徒と遊ぶと聞いて抜け出してみたが……あれがサッカーか。まさか、あのような楽しみ方もあったとは)

 

キサキとて、サッカーの存在自体は当然知っている。しかし、ゲーム開発部が見せたプレーは違った。パスワークやドリブルなど、キサキから見ても確かに上手なのだろう。子供達へ教えたり、ともに楽しんでみせたり、まさに心の底から一緒に、皆で遊ぼうという純粋な意思を感じ取れた。だからこそだろう。途中でグラウンドから出て見学に回ってみても安心して楽しめた。

 

(よもやサッカーにあのような動きがあったとはな……)

 

最初は、ボールを蹴るにあたってのモーションも、シュートまでの流れも、そして実際にシュートを叩き込んだ流れが綺麗だと思った。だが、実際に見様見真似でやってみたところ、普通にシュートするよりも確かに威力が出ていることに気付いた。

 

(……ふふ、面白いものじゃ。そういえば、シャーレに当番として行った時……)

 

ゲーム開発部の顔を見たのは今日が初めてだった。しかし、以前シャーレの当番として行った時に、その時一緒の当番をやっていた生徒からゲーム開発部の話を聞いたことを。その時はシャーレの仕事もあったし、先生との話の方に意識が向いていてすっかり頭の片隅に追いやっていたことを思い出す。

 

「……今度、先生に聞いてみてもいいのかもしれぬな」

 

新たな楽しみを見つけたと言わんばかりに、楽しそうにそう呟くのだった。

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