転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……トリニティのあの女が?」
シャーレのオフィスでぽつりと呟くアコ。シャーレを訪れていた彼女は、暇な時間を利用して先生にあることを聞いていた。それは、モルフォの力についてだ。エデン条約の調印式の折にベアトリーチェに先生に並んで名指しで狙われたモルフォ。それだけでなく、アトラ・ハシースの箱舟での戦いで彼女がシロコ*テラーと同様特異な能力を見せていることも知っている。事件が終わった後、後始末に追われていたこと、そもそも彼女は他校の生徒ということであったことや、先生から連絡される、といったこともなかったためにそこまで優先度も高くはなく、次に先生に会った時にでも聞ければいいか、程度に彼女は考えていた。そしてその機会がシャーレの当番という形で遂に来たため、ウトナピシュティムのオペレーター組として参戦していた彼女には説明しておいた方がいいだろうと先生からこの世界のモルフォの能力について説明されていた。だが、その内容の中でアコが気になったのは、彼女の生み出すゲームをプレイしていた面々である。
「えっと、ハスミも確かにやってたけど……まあ、翌日結構大変なことになっていたらしいけど」
「知恵熱ですか?トリニティはゲームや遊びとは殆ど無縁の生徒も多いでしょうからねぇ……」
どこかニヤニヤした表情でそう語るアコ。ハスミとは互いにゲヘナ、トリニティと言うことも相まって、晄輪大祭では煽り合いの口喧嘩をしていたのも記憶に新しい。そのため、アコもハスミも互いに意地を張るような形で互いを嫌っている節があるのだが、ユウカを筆頭に周りから見てみると喧嘩する程仲がいいのではないか?とすら思える状況だったりする。現に、完全に嫌い合ってるような拒絶反応は見られないあたり、本人達は否定するだろうが喧嘩友達のような関係性なのかもしれない。
(あの時ハスミがやっていたゲームは確かフィットネスゲームだったような……?)
「ですがまぁ、ちょっと気にはなりますね。ヒナ委員長もやっていたのであれば、本当にそれが大丈夫なものかどうか私も確かめる義務がありますし」
そんな義務はないだろうとツッコミができる生徒がいたら即座に言われそうな台詞を口にするアコ。先生もこの言葉には苦笑することしかできない。
「こういうのはあれです。やたらグロテスクなものとか、こう……肌色が多いようなゲームとかをお出しされようものなら色々悪影響をもたらしてしまうでしょう?」
「少なくとも現状そういうものはないし、モルフォもそこはわかっていて調整しているけどね……」
先生とて、ゲームの中には当然、スプラッタなものもあればエロゲーだってあるのは知っている。しかしそういったものをモルフォは作ろうとしていないし、現状確認もしていない。エロゲについては先生が聞こうものなら総叩き間違いなしになるのもあって聞いてはいないが、流血が激しいゲームについては以前、やんわりとだが聞いた時には「まずそういうのは作ろうとはしていませんね。別に作らなくても選択肢はたくさんありますし」と言っていた。
「……じゃあ、こういうのはどうかな?昨日クリアしたゲームなんだけど……アコならこういうのは得意だと思うんだ」
「……Öoo?」
そう言いながら、ノートパソコンを見せる先生。そこには、Öooというゲームが入っていた。これは、一頭身の主人公が、突然鳥に丸呑みされてしまい、その鳥の中から脱出を目指す、探索パズルゲームである。
「……これが主人公なんですか?」
「そうだね」
水色の顔の周りに桃色の体を持つ謎の生き物を使って道なりに進んでいくと、大きな果実を発見。それを食べると、爆弾が主人公の後を追うように出現する。
「ば、爆弾……?」
この爆弾を設置すると、それに乗ったりすることもできる。そして爆弾の爆風を受けると主人公は爆発を受けた方角へと飛んでいくという法則があり、爆弾を左に置いて爆発させれば右に主人公が飛び、爆弾の上に主人公が乗って爆発すると大ジャンプする、といった感じになる。やることは爆弾を置いて爆発し、壁を壊したり主人公を飛ばすだけという簡単なゲームだ。
「……成程」
主人公のアクションはたったこれだけだが、作中には様々なギミックが存在する。鍵として存在する黄色い羽の昆虫。それが対応している鍵扉である黄色いカエル。それだけでなく壊しても時間経過で復活する壁や、爆発することで発見できる隠し通路、普段は役立つが、虫を近づけると勝手に食われてしまうため、昆虫を持っているときは気を付けなければならないチェックポイントに、他のワープポイントにワープしてくれる謎の口などもある。こういったギミックが、探索を進めていくにつれて増えていくのだ。
「は、早いねアコ……」
「当たり前です。私を何だと思っているんですか?」
最初の方はチュートリアルも兼ねているため、操作やギミックも直感的にわかりやすい。自然に進めていけば必ず失敗し、それ自体がギミックや攻略法の説明になるのだ。そしてこのゲームでは、エリアが背景の色などで分けられる。そのため、エリアによって新しいギミックが追加されていくことになる。次のエリアでは復活するブロックを用いた謎解きとなっており、復活するブロックに予め爆弾を仕掛けてタイミングよく起爆することで先に進むといった芸当が求められる。
(頭が柔らかいなぁ)
風紀委員会の行政官を務め、戦闘時には皆のバックアップを務めているだけあって、やはり頭が回るのだろう。先生がやった時には時折頭が固いのか中々正解に辿り着かないこともあり、それを見ていたアロナやプラナに教えてもらう、といった場面もそれなりにあったものだ。
「……ふむ?」
続くエリアでは背景が青緑色になっており、爆弾や主人公が重りとなることで通路を開けるギミックが出てくる。これまでのギミックに加え、このスイッチ式のギミック。そして、通常地面の上に出現する爆弾が地面の下に実るような形で出現する特殊な床を利用したギミックも登場する。
「……これは」
が、ここでアコの手が止まる。アコが手を止めてしまった理由は爆弾で天井を壊さないといけないのだが、それができない所にあった。
「……」
(あー、悩むよねここ……)
やること自体は単純で、爆弾を上に爆発させるだけなのだが、それができないのは爆弾に関する仕様が関わっている。そもそも主人公はジャンプができず、高度を稼ごうとすると下に爆弾を出現させてその上に乗る、という形になる。だがその逆、自分の上に爆弾を出すことはできず、そして爆弾もエフェクトこそ周囲八マスに出るものの、実際に判定が出るのは上下左右の四マスだけなのだ。つまり、そのまま爆弾を壊したい天井の下に置いたところで、爆風が天井まで届かないという問題が発生する。
「……つまりこの子の上に爆弾を?となると―――ああ、そういうことですか」
しかし、少し悩んだもののすぐに解決法を見つける。この部屋にはボタンで開く通路が上の方にあるのだが、先に爆弾をそこに置いておき、スイッチを押して下へ落とすことで主人公の上に爆弾を乗せることができる。それによって高度を稼ぎ、無事に天井を破壊して昆虫を手に入れ、カエルを処理することも可能になる。
「おお」
「いやおおじゃありませんよ。ま、これぐらいは簡単ですよ」
直感的に成功をポンポンと導き出せるのもあり、ふふんと得意げに探索を進めていくアコ。そして次のエリアに差し掛かったところで、遂に二つ目の爆弾を入手する。
「爆弾がもう一つ、ですか……」
これまで、爆弾一つでも様々な応用を強いられてきたゲームだ。その爆弾が二つになれば、その自由度はさらに跳ね上がることになる。実際、爆弾で爆弾と主人公を飛ばし、その先で爆弾を起動して横から横に、横から上に、上から上に、といった形で爆弾二つを使うだけで長距離移動が可能になるのは勿論、それぞれ別の場所に仕掛けて爆発させるなどの使い方もこれから強いられていくことになる。
「……って、これは……ああ、なるほど。だからこういうタイトルなんですか」
「え?何が?」
「爆弾を二つ持ったこの子の様子がタイトルと同じなんですよ」
と、ここでアコはタイトルの意味に気付くことになる。このゲームÖooは、主人公と主人公についてくる二つの爆弾を意味しているのだと。発音に関しては見た目通りに呼べばいいのかと今でも疑問な所はあるが、とりあえずそこは置いておく。爆弾は主人公と同じピンクと紫色の二つが置かれる。このうち、次に起爆される爆弾はピンクとなり、ピンクの爆弾が一つ爆破されてから、紫の爆弾がピンク色に代わり、次にそちらが起爆されるようになっている。
「よく気付いたね」
「当然です」
爆弾による主人公の動き方も変わっていく。爆弾と爆弾の間に主人公を挟んで飛ばすことで、一回左に飛び、そこから下に落下した後に右へ飛ぶことで触れると即死になるトゲを回避する、といった凝った使い方をすることもある。こんな感じで爆弾と爆弾と主人公の組み合わせの自由さに振り回されながらも楽しんでいると、続いて背景が緑色の新エリアへと辿り着く。ここではトゲと同じ即死ポイントである毒沼が出現する。おそらく鳥の体内ということを踏まえれば胃液といった方が適切なのかもしれないが。そして、この沼に関してはトゲとは異なり、爆弾が水面に落ちても爆発せず、そのままに浮いた状態で置かれるという特性がある。トゲは爆弾が触れた瞬間に爆発してしまうため、こういった特性を使用する必要もあるのだろう。
「ここからはタイミングを計る必要も出てくるということですか……」
さらに爆弾をずらしておいて一マス横に主人公を出し、天井を避けてボムジャンプをするなど、アクション要素を要求される所も段々増えていく。それでも、基本的には増えた爆弾を組み合わせることのチュートリアルという面も強く、発想力を飛躍させる必要があること以外はそこまで苦戦せずに次のエリアへ。背景も茶色になり、奥地に入ったことを匂わせる内容となっている。
(……それにしてもなぜ鳥の体内がこんなダンジョンみたいに……?いやまぁゲームにそんなことを言ってもあれですが……)
このエリアは隠しブロックを用いた面であり、エリア切り替えで復活するブロックと二つの爆弾を繰り返していかに進めていくかというステージになっていく。エリア切り替えも駆使して進めていくと、続けてワープ扉のある新エリアに入る。どこか館のようなエリアで、上の方にあるワープに入ったところで、ワープに入った際の慣性が保存されるという仕様に気付かされる。
「……こんな仕様になっていたなんて」
(そうなんだよね、ここで気付くんだよね……最初から出てくるけど、この仕様に気付かさせるのもうまいよね……)
アコの後ろでうんうんと頷きながらこのゲームの上手さに感心する先生。ワープ扉には元々こういう特性があるのだが、これまではわざわざそれを使う状況がなかった。しかし今回は、爆弾で自分を吹き飛ばし、その速度を保存して他のワープ先で利用して進めていくというやり方を求められている。そのきっかけとして、普段より高い所にあるワープ扉に下から爆風を受けて吹き飛ばして入るという手順を求められるため、その一連の流れでワープ扉の仕組みにプレイヤーは気付くことができるというわけだ。
「成程、これは面白い……」
そして次のエリア。そこは、一件氷っぽいエリアになっている水色の背景のエリアであり、背景には鳥の餌となって消えていったのか、同族たち芋虫達の骨が埋まっているエリアとなっている。ここでは、緑色のエリアでやったような、爆弾がすり抜けて落下する床の仕様をもう一度求められるものとなっている。ただし、緑のエリアの時よりもその難易度は一回り上がっており、前回がチュートリアルなら今回は本格的な謎解きとなっていく。
「……この昆虫って、爆弾でも飛ばせるんですね……これに気付いていればこれまでも……いや、どうでしょうね……」
ここで気付かされるギミックとしては、昆虫を爆弾で吹き飛ばすことで壁を抜けさせるというものがあげられるだろう。爆弾をすり抜けて下に落とし、その爆弾で昆虫を上に飛ばしてキャッチする。横に壁越しに吹き飛ばして受け取るといった動作も求められる。さらには二回昆虫を横に飛ばして隣のエリアから回収するといった動作まで求められる。
「……ふ」
そういった謎解きまで要求されると、さすがにアコも手が止まることが増えてくる。だが、そういった謎解きをクリアすると、自然と口元に笑みが浮かんでいく。こういうパズル系のゲームはクリアした瞬間が一番気持ちがいいのだ。アコも順調にその楽しさに取り付かれ始めていた。そして最終エリアと思わしき場所。最下層まで来たところでアコの手が止まる。
「アコ?どうしたの?」
「……いえ」
そういえばこの先は鳥の体内で言うと肛門になるのでは……?と一瞬嫌な予感が感じてしまうアコ。しかし、最後のエリアと思われる場所で鳥の心臓と思わしきハートを爆発すると、鳥の口が開かれ、脱出ルートが出現したことで、ちゃんと下ではなく上から出れるのだと安堵しながら、本当のラストエリアである入り口付近へと向かう。エリアを逆走する形でスタート地点であった口へと向かっていく。そこではBGMも明るく盛り上がるものとなっており、同胞たちの幽霊が口へ向かって飛んでいくような背景へと変わっていく。怨霊たちが成仏されるかのように解き放たれていくのに合わせる形でどんどん入口へと向かっていく。
「ここは……こうですね」
ここからはこれまで使ったギミックの総仕上げといった形だ。エリア切り替えで復活するブロック、二段階の爆風で動く。爆弾を自分の上に落として運ぶ。爆弾をあらかじめ置いておくなど、やればやるほどに「これ過去にやったとこだ!」が出てくる。学んだことが出てきたことで問題が解ける感じがしてこれも中々に楽しいものだ。そして遂にアコは、口へと戻っていく。ハートが爆発されたことで、鳥は口を開きっぱにしており、そこから主人公は脱出することで遂にエンディングが始まる。
「……ふぅ、もう終わりですか」
「どうだった?」
「まあ、そうですね……中々面白いゲームだったのではないですか?ゲーム性も素直だと思いますし、謎解きも難しいというわけでもありませんし」
プレイヤーに求められるアクション自体は爆弾を置いて、動いて、爆破する。たったそれだけだ。そこにステージのギミックや謎解きの多様さでバリエーションを生み出し、なおかつ攻略法に関しても説明こそされなくても状況説明だけでプレイヤーに理解してもらいやすくなっているため、やっていて理不尽感を感じない。これならば確かに、ヒナが楽しむのも納得というものだ。
「そっか、アコも気に入ってくれてよかったよ。きっとモルフォも喜ぶだろうし、感想を言ってあげたら?」
「感想ですか?……別に今言うことでもないでしょう。まあ……今度彼女が来た時にでも伝えてあげてください」
「わかった。今度モルフォが来たら伝えておくよ」
「……ところで、その……」
「ん?」
少し、聞きづらそうにするアコ。こうして聞くのはちょっと恥ずかしそうな、そんな雰囲気を見せつつも、やがて言うことを決めたのか、口を開く。
「他にもこういうゲームはあったりするんですか?」
「うん、あるよ。パズル系だと……どういうのがあったかな」
「あ、いえ別に彼女のものじゃなくても構いませんが」
「わかった。それこそゲーム開発部に聞いてみるよ」
「いえ、そこまでしなくても……」
今回のÖooをやったことで、アコも他のパズルゲームをやってみたいと考えるようになったようだ。それならばとゲーム開発部にお勧めを紹介してもらおうと考えたのだが、アコはそこまでしてもらわなくてもと慌てて口を開く。だが、先生はその心配はないと笑う。
「ゲーム開発部にとってはゲームを布教するのも仕事みたいなものだからね。むしろ彼女達の顔を立てるって意味も込めて世話になってもいいんじゃないかな?」
「……まあ、それはありますか。少しは彼女達のイメージも明るくしてあげていいかもしれません」
ゲーム開発部は本来はゲームを作り、楽しむだけの部活だ。それがおかしくなってきたのはモルフォとアリスが加入してからであるとアコは考えていた。というか、最初にアビドスで共闘することになった時はそこまで詳しく把握できていなかったが、あの時は先生の指示があったからこそ戦力として足を引っ張らずに済んでいた印象が強く、実際そこまで目立った戦果は出していなかったのだ。それが調印式で超兵器を所有するアリウススクワッドに事実上引き分け、その後の古聖堂奪還作戦においてはアリウスの戦略を攻略するという点においてはまさに中核とも言うべき活躍を見せた。そして挙句の果てにはセイア・アツコ奪還作戦に先生救出、シャーレ奪還作戦、スランピアでの戦闘にアトラ・ハシース攻略戦と、これまでの経歴を踏まえられると、これで武力組織じゃないのは無理があるのでは?と残念ながらアコも思わずにはいられなかった。
(……だからこそ、本当に最初がただの趣味サークルだったのがノイズなんですがね……)
そんな彼女達の事を考えると、こうして楽しいゲームをやらせてもらったのだから、少しは貢献してあげた方がいいかもしれない。彼女達がちゃんとゲーム作りに携わっているのだと、自分だけは記憶してあげようと、アコは決意するのだった。