転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……うぅ……お腹、減ったなぁ……」
市街地の雑踏。その最中で白い服に身を包んだ薄い黄緑色の髪の少女が顔を上げる。空は曇天であり、時間帯の割には薄暗い。
「うぅ……なんか寒くなってきた……どうしよう……」
彼女の名は立木マイア。アリウス分校の生徒であり、アリウス自治区の外に出てきた生徒の一人であった。
「……私……他の人達みたいにうまくいかないなぁ……」
アリウス分校から出ていった生徒達はそこそこいる。トリニティに入りたいといい、そちらに転校した生徒もいれば、アリウススクワッドのように外で金を稼いできている人もいる。ミカを筆頭に、シャーレの名で物資や資料を送り込んだこともあり、生活水準についてはかなり改善しており、何よりベアトリーチェの真意を暴いたシャーレの先生がこれからの生活について支援をしてくれている、という事実については素直に受け入れている生徒も多い。そうして、考える余裕も出てきたのだろう。虚妄のサンクトゥムを巡る攻防の被害を確かめるために先生がアリウススクワッドを護衛に伴ってアリウス自治区に訪れた時にも、色々な外の話などもしてもらっていた。とはいえ、先生も意図していなかったこととはいえ、アリウスの生徒達が一番関心を寄せていたのは外で行われていた虚妄のサンクトゥム攻略作戦、即ち戦闘に関する事柄ではあったが。
「……うまくいってる人たちは、どうやってるんだろう……」
また、晄輪大祭に出場したことも、意外と大きいと言えた。アリウス分校を始め、存在自体知らない人が多い学園はこのキヴォトスには多くあるが、総合優勝こそ逃したもののなんだかんだで鍛えられた身体能力を元に優秀な成績を出した人も多く、上位陣には食い込めている。そのため、一時期はダークホースとして話題になっており、シャーレ(実質的にはミカ)を通じてではあるが様々な他学園の情報も流れてきている。
『……ふーむ、程度が違うとはいえ苦しい学園というのは、案外どこにでもあるものですね。農業学園に漁業学園……狩猟学園……?そんなものまで……?しかし、報酬に食料や資材をもらえるのは確かに……』
『変に足元を見てくる大人よりは全然やりやすい相手だと思うし、今は何でもあって困るものではないからな。いいんじゃないか?』
そういった情報を見て、そう呟いたスバルやサオリの台詞は今でも記憶に残っている。外界に対し、正負様々な感情を持つ人は多くとも、美味しい食べ物に関しては全員が同じ方向を向くものだ。それだけ食欲は偉大ということでもある。
「……はああああ……」
溜息を吐きながらしゃがみ込む。晄輪大祭で外の華やかさを知り、虚妄のサンクトゥムの一件も終わり、落ち着いてきたところでマイアもこうして、憧れていた外に意を決して出てきた。しかし、まともに働く、仕事を得るといったこともできず、アルバイトの仕方もわからない、いけそうだと思っていたところは既に不良やスケバンなどが席を埋めているという有様。
「……私、これからどうしたら……」
「……どうしたの、君?」
「……え……?」
ふと聞こえてきた声にマイアが顔を上げる。そこには、紙袋を持つモルフォの姿があった。
「そんなしゃがみ込んで……その恰好、アリウスの子だよね?」
「あ、え、えっと……って、あ……!」
モルフォに声をかけられ、思わず肩を震わせる。モルフォ、彼女の姿はマイアも覚えている。かつてアリウス分校に先生と一緒に殴りこんできた生徒である。あの後、彼女の所属する組織がアリウススクワッドを追い込んだとすら聞いている。そんな相手が目の前にいることに気付いてしまい、ブルッと体を震わせてしまう。
「な、なんでもありません……だ、大丈夫で……あうぅ」
「……お腹減ったの?」
「……ひぃん」
即座に立ち上がり、おどおどと怯える小動物のような仕草でモルフォの前から消えようとするマイア。しかし、大きくお腹が鳴ってしまい、顔を真っ赤にしながらその場に固まってしまう。その様子を見ていたモルフォは、参ったなと内心呟きながら紙袋を見る。彼女がお腹を空かせてしまった大きな理由は自分が持っているこれだろう。たまたま帰り道で目についたから買ったドーナツを袋の中から取り出す。
「……あ」
「食べる?」
「え、で、でも……そんな、ただで……」
「ああ、遠慮しないで食べていいよ。新製品って言われてたから買ったけど、実際に美味しいかわからなくて怖いから毒見をお願い」
「ど、毒見ですか……そ、それなら……」
そう言われ、おずおずとドーナツを受け取り、口に入れる。次の瞬間、マイアは目を見開き、
「あ、温かい……美味しい……!甘いしふわふわで……」
「そっか、よかったよかった」
実際は新製品でも何でもない普通のドーナツである。だが、そのことをマイアに伝える必要はないだろう。
「……それで、何があったの?」
「あの、えっと……」
そこから、モルフォのペースに完全に巻き込まれてしまったマイアは近くの公園へと連れていかれており、一緒にベンチに座っていた。モルフォから二個目のドーナツを受け取り、頬張りながらこれまでの経緯を説明する。モルフォとしても、アリウスの顛末は聞いていたのもあり、気にはしていたのだ。そんなところにあんなマイアの姿を見せられれば声もかけたくなるというものである。
「そっか……まあ、大変だったね」
「ありがとうございます……」
そしてマイアの苦労話を聞き終えたモルフォはもう一個ドーナツを渡しながら言う。渡されたドーナツを一心不乱に頬張るマイアを見ていると、モモイやケイにお菓子を突っ込んでいる時を思い出す。
「……よし、わかった。そういうことならちょっと協力してくれない?」
「協力ですか……?」
「うん、明日ね。マイアみたいな子はきっと丁度いいし、他のアリウスの子達も多分私達が求めてるテスターに丁度いいはずだからね」
「テスター?」
「そう、テスター。詳しいことは明日説明するから……今日は泊まるところないだろうし部屋に来なよ」
「え!?い、いいんですか、でも……」
「ああ、もう居候一人いるから平気平気」
とはいえ、ここでアリウスの生徒と出会えたのは寧ろ丁度いいと言えるだろう。ある意味彼女は今のゲーム開発部が求めていた人材である。しかし、マイアは戸惑っていた。まあ、それも仕方ないだろう。出会ったばかりの人間に泊まっていけと言われるのもそうだし、今回の場合は相手が相手である。あんなにバチバチにアリウスとやり合った相手の部屋に上がっていいのかという疑問は湧いてくる。だがモルフォは苦笑すると、
「でも、サオリ先輩は、アリウスはあなたに……」
「でもマイアがやったわけじゃないよね?大丈夫大丈夫、その居候相手、私を殺そうとしてた人だから」
「ええええええ!?」
今はそのことについては反省しているし、完全に燃え尽きてるしで無害だからねと付け加えるも、とんでもない相手と同居しているものだと思わず立ち上がってしまう。そんなマイアの肩に手を回して抱き寄せながら、
「まあまあ、大丈夫。もうその人は誰かを無暗に傷つけることなんてしないし、もしなんかあったら私が守ってあげるからさ」
「あ……」
そう笑いながら語り掛ける。そんなモルフォの笑顔を見て少し安心したのか、マイアも少し落ち着きながら、小さく首を縦に振るのだった。
★
「ただいま」
「ん、おかえり……?」
寮の部屋に入ると、そこにはシロコ*テラーの姿があった。今日はどうやらモルフォより早く戻ってきていたようだ。部屋で寛いでいたが、モルフォが帰ってきたことを知ってモルフォの下に駆け付けると、モルフォの傍にいるマイアの姿に気付く。
「……この子は?」
「ああ、この子はマイア。アリウスの生徒なんだけど……」
「アリウス……?どっかで聞いたことあるけど、どこだっけ……」
「?まあ、ちょっと色々あって一晩泊めることにしたんだ」
「ん、わかった。まあ、私も居候だし……モルフォってこういうことよくするの?」
「そんな、私が普段から人を拾うなんてことは……これで三か四……?」
「……多い……」
よくよく考えればアリスとケイもモルフォ達が見つけて連れてきたものである。そういう意味では確かに縁があると言えなくもない。しかし、それよりもあちらの世界ではアリウスとアビドスの間の出来事も変わっているようである。少し頬を膨らませつつもそれはそれとして興味が湧いてくる。が、そこを気にしてもしょうがないとすぐに切り替えて、とりあえず聞かないことにしてマイアを上げる。
「じゃあマイア、とりあえずお風呂は沸かせるから入っちゃって。服って普通に洗濯しても大丈夫だよね?」
「え、え!?お、お風呂なんて入っていいんですか!?それに洗濯機なんて……」
「……?」
「あ、あー……いやその、清潔感がない状態で部屋に上がってもらう方が私が困るからさ」
「は、はい!ご、ごごごごめんなさい!」
すぐにお風呂を入れて、それが湧くと同時にマイアをお風呂に入れる。着替えは自分のものを渡して使わせておけばいいだろう。しかし、こうして聞くと全く知らなかったこととはいえアリウスも大分苦労しているようである。まさかお風呂や洗濯機でここまで反応されるとは思ってもみなかった。
「……私、今日は野宿でもしていた方がいいの?」
「そんなことしなくていいから……まあ、過去に五人で部屋に集まってゲームやっていたこともあったし、これぐらい問題ないよ」
とはいえ、風呂場から、「お湯だ……!」とか「シャンプーがある……!」とかいう声が漏れてくるとこう、心臓がキュッとなる感じがする。シロコ*テラーも色々察したのだろう、複雑そうな表情を浮かべていく。
「……ご飯、豪華にしても……」
「……胃が慣れてるかわからないし普通にパスタにしようかな……優しめな感じだとなんかいいのあったかなぁ」
「パスタ……ん」
マイアの事も考えて簡単な食事を作ることにする。とはいえモルフォのレパートリーなんて基本的にパスタか炊き込みご飯といった、本当に簡単に作れる程度のものである。一時期は集中して取り組んだことはあるが、それもゲームに料理を出そうという案が出た時に凝ったレシピを探して挑戦したりするぐらいであった。
(あの時は大変だったなぁ。ミドリがゲームに出す料理を美味しくするのに手間暇をかけようとし始めて……)
それがメインコンテンツならいくらでも手間暇はかけてもかけすぎることはないのだが、さすがにサブも良いところの部分でやってもらっても困る。チーズの再現やらに拘るのを見てチーズの何がお前を突き動かすんだとケイと共に呆れたのもいい思い出である。パスタを茹でている時間を利用して、別の準備を進めている間に風呂からマイアが出てきたので、彼女にモルフォの私服を着てもらう。
「こ、これ、本当に食べていいんですか?」
「ああ……しっかり食え、おかわりもいいぞ!」
「は、はい……!」
そんなこんなでマイアに食事を楽しんでもらいながらモルフォとシロコ*テラーも食事をし、少しだけ騒がしい夕食が終わる。そして少し落ち着いてきたところで、モルフォはマイアにDSiを見せる。
「?これは……?」
「DSiだよ」
DSi。それは、DS、DSLiteの上位モデルにあたるゲーム機である。このゲーム機はDSLiteからいくつかの変更点が成されており、SDカードを入れることができるようになる、内蔵メモリを入れていることでDSiウェアと呼ばれるソフトウェアなどを購入することができるようになっている。他にも様々な変更点や新機能、デメリットとしてこれまでのDS系列のゲーム機ではできていたGBAソフトを差し込んでプレイしたり、DS用ソフトと連携を取らせるダブルスロットができなくなっているというものもある。今回、マイアに触れさせてみようとしているのは、このDSiウェアの一つ。
「折角だしさ、この鳥とマメをやってみてよ」
「鳥と……マメ?」
興味津々といった様子でモルフォとマイアの後ろに座り、覗き込んでくるシロコ*テラー。このゲームは、二画面あるDSiの内一画面を使うゲームなのだが、やることは単純。空から落ちてくるマメを斜め上に伸びる舌で食べるだけの2Dアクションゲーム。ただそれだけである。
「……あ……可愛い……」
赤と白の二色で彩られた鳥を左右に操作し、舌を伸ばす。このキャラはジャンプはできず、左右への移動だけで位置を調整していくことになる。このマメは、高い位置で食べればそれだけスコアが高くなる。一方、マメがブロックでできている床に当たってしまうと、そこに穴が空いてしまう。そのため、マメが地面につく前に食べなければならないのだ。
「……た、楽しい……!」
不慣れな感じでボタンや十字キーを動かすマイア。しかし、単純な操作方法のゲームということもあり、ゲーム初心者である彼女でも楽しめる内容になっていたようだ。マメを食べるとスコアが手に入り、食べた高さによってそのスコアも違ってくることに気付いてからは、直感的に上でできるだけ食べればいいんだなと理解し、マメを食べ進めていく。そんな中、光るマメが空から降ってくる。
「このマメ……光ってる?」
「あ、それは食べた方がいいかな」
モルフォに言われ、何回か位置が悪く食べ逃すものの、三度目の正直でどうにか食べる。すると、画面に映っていた全てのマメが消えていく。
「マメが消えた……」
「これが見えたら必ず取った方がいいってこと?」
「そうだね。後半は地面の修復のためにもとる必要があるかな」
この光るマメには、画面に映る全てのマメを消す、以外にも大事な役割がある。それは。マメが落下し、破壊された地面を修復するという役目だ。後半、マメの数が増え、さらに落下スピードも速くなってくるため、マメを食べるだけではどうやっても追いつかなくなるのだ。そのため、後半は光るマメを手に入れなければ即死といってもいい。
「うわわ……」
スコアが上がってくると、夕暮れだった背景も夜へと変わっていく。そんな中、どんどん地面が空いていき、光るマメ以外にも白いマメを食べてどうにか延命しようとする。光るマメを食べれば破壊された地面も一気に大量に修復されるのだが、それ以外の修復方法として白いマメを食べるという方法もある。この白いマメを食べることで、地面のブロックが一個だけ復活する。光るマメを食べるのがマストだが、白いマメで延命するというのも大事な要素となってきている。
「……ああ!」
「おお、一万超え……え?初めてで?」
そんなマメの猛攻にマイアも耐えきれず、スコアが一万を超えたあたりであえなく撃沈してしまう。失敗してしまい、落ち込んでしまうマイアだったが、初挑戦で一万を超えるのはこのゲームだと普通に凄い。それを知っているだけにモルフォはかなり驚いている。
(ビギナーズラック?それとも……アリウスは案外ゲームが得意な生徒が多かったりする?)
「あ、えっと……ごめんなさい。失敗しちゃいました……」
「ん、しょうがない。後半は結構大変そうだったし」
「そうそう、むしろ初挑戦でここまでいけるんだから凄いよマイア。まさかこんなにゲームが上手だなんて思ってもいなかったし。私がやった時って五千点もいかなかったんじゃないかな」
「そ、そうですか?えへへ……」
モルフォに褒められて嬉しそうな様子を見せるマイア。初めてのゲームだったが、手応えはかなりあったようだ。だが、これぐらいシンプルなゲームが丁度いいのだろう。やることは単純明快、だからこそ中毒性がありハマりやすい。そして、鳥とマメには、さらにもう一つのモードもある。
「じゃあ次は、鳥とマメ2をやってみようか」
「2?」
鳥とマメ2。そちらは鳥とマメで高得点を取ると解放されるモードであり、そちらでは舌を伸ばすのではなく、鳥が斜め上にタネを撃ち、それでマメを撃ち落とすことで得点を得るモードとなっている。射程距離が事実上無限となっているタネを高速で飛ばす都合上、先ほどの様に高い所でマメを落としても一個あたりの点数は低くなっており、一回のタネで複数のマメを撃ち落とすことで高得点を得るという形になっている。
「あ……これ、さっきのも楽しかったけど、こっちの方が面白い……!」
そして、撃ち落としてスコアを稼ぐ、というやり方がどうやらマイアには性に合っていたようだ。それだけでなく、舌を伸ばすのよりはマメを処理しやすく、さらに舌と違って立ち止まる硬直時間も少ないことから、純粋な難易度を比較してもこちらの方が実は簡単だったりするのだ。そのため、スコアは先程とは比べ物にならない程上がっていき、夜の背景に星や空中都市が浮かぶところまでくる。そしてスコアが二万を超えると画面がセピア色に変わっていくのだ。
「む、むむむ……!」
何回かうっかりミスで失敗したりしても、すっかり熱中してしまったマイアは何度もリトライしながらスコアを伸ばしていく。三万を超えると黒をメインとした白黒の画面へと変わっていき、四万ともなれば影絵となっている背景の都市が虹色に輝き始める。そして五万を超えると謎の光のようなものが地表から天に何発も打ち上がっていくという演出も加わり、単純ながらも背景に変化を加えてゲーマーを飽きさせない工夫と演出を施していくのだ。
「……」
一心不乱にゲームに熱中するマイアの姿を見て、微笑ましいのかシロコ*テラーも思わず口元に笑みが零れる。そんな彼女の様子を見ながら、明日、彼女にはゲーム開発部で考えているワンコインで買えるような中毒性のあるミニゲームとして開発されたゲームのテスターになってもらうことをユズ達に伝えるのだった。