転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……キンキンに冷えていますわ……!」
特訓も一段落ついた頃。モルフォ達は芝生に座り込んで休憩をしていた。皆の手には冷たく冷やされたペットボトルが握られており、その冷えた温度に心地よさを感じていた。
「つ、疲れた……」
「鍛錬とか特訓とか真面目にやったの初めてじゃない……?」
「C&Cとの戦いと反省会で色々詰め込んでの繰り返しみたいなところあったからね……」
汗をタオルで拭きながら、ユカリは清々しい表情を見せていた。その隣では疲れた様子でユズやモモイ、ミドリがスポドリを飲んでおり、ツクヨやモルフォ、アリスは普段通りといった感じ、イズナはより元気そうにはしゃいでいた。
「やっぱりインドア系部活動の私達はこういう体動かす系は向いてないんだよ~」
『口ではこう言っていても動こうと思えばまだまだ全然動けるくせに……』
特訓の成果は如実に表れていた。ユカリの動きはすっかり見違えており、昨日とは完全に別人である。
(やっぱり百花繚乱で基礎を鍛えていたのが大きいのかな……ただ、その状態で活動停止になっていたせいで戦う機会も全くなくなっていつの間にか錆びついてしまっていたと……もしそうなら強くなった、のもあるんだろうけどブランクを取り戻した、っていうのが近いのかな)
「ユカリのレベルがどんどん上がっています!レベリングは大成功ですよ!」
「そ、そうですか?れべりんぐというのはこういうものなのですね!」
「ちょっとあまりピンと来てないみたいだからその例えは止めようかアリス」
言いたいことはわかるが、残念ながらユカリに意味は通じていなかったようだ。
「えーと、その……熟練度がマックスにまで上がったんです!」
「なるほど、まっくすに!」
「……ま、ユカリが楽しそうならいいか」
「はい!身共は凄く楽しいですわ!!モルフォさんも楽しいですか?」
「ああ、そりゃもちろん」
「よかったですわ!」
にこやかに笑いながらモルフォの顔を見るユカリ。モルフォも笑顔を返していると、
「あ、いたいた。おーい、皆」
「先生だ!」
「来てくれたんだー……って、あれ?隣にいる人は?」
「キキョウ先輩!?どうしてここに!?」
百花繚乱へと向かっていた先生がやってくる。だが、その先生の隣にはキキョウの姿を見て、驚いたようにユカリが立ち上がる。
「キキョウ……?」
「……先生から話は聞いていたけど、本当に他の学園の生徒とこんなことやっていたのね……」
ユカリ達の様子を見て、キキョウも少し呆れたような声をあげる。モルフォ達はというと、キキョウをどこかで見たような記憶があってそれを手繰り寄せていたのだが、
「あっ、思い出しました!ネル先輩とホシノさんに尻尾引っ張られていた人です!!」
「嫌な事件を掘り起こさないでくれる?」
それが晄輪大祭のしっぽ取りゲームでネル達の被害を受けていた生徒だと判明した瞬間にキキョウから抗議の声があがる。
「……こほん、それで?ユカリ。あなたが変な事をやっているって言うから来てみたけど……本当にナグサ先輩に勝てるって思ってるの?」
「勿論ですわ!!」
そんなどうでもいい話をしに来たんじゃないと言わんばかりにキキョウはユカリを見る。断じて、過去の黒歴史と化したあの事件を掘り起こしてほしくないというわけではない。
「……どうだか。ただの言い訳じゃないの?家に帰りたくない、勘解由小路家の役目を果たす本来の自分に戻りたくないだけって駄々をこねているだけじゃ」
「……確かに、そう思っていた時もありましたわ」
「!」
キキョウの、確認するかのような視線と声音。それをぶつけられたユカリは一瞬、痛いところを突かれたかのように怯むも、すぐにキキョウに強い視線を返す。
「でも、身共は気付いたのです。身共にとって憧れであり、楽しい場所であった百花繚乱。そして身共が、勘解由小路ユカリとして務め、その役目を果たすべき家のお役目。そのどちらも、身共にとって大切なものであり、やりたいこととやるべきこと、そのどちらも両立してこそ、真のえりーと……いえ!今、ここに身共は新たに生まれ変わるのです!ぐれーとまっくすなえりーとに!!」
「……そう。意気込みだけは立派になったみたいね。そこは認めてあげる……だけどね」
「!」
そう言うと、キキョウは銃を抜く。それを見たユカリも、表情を引き締め、銃を強く握りしめる。一方、モモイやミドリは、ユカリが実はかなりの名家の出身らしいと判明し、そんな凄い人と居たのかと驚いていた。
「こ、これって……」
「決闘イベントです!!」
「キキョウ、本当にやるの?」
「ええ。ユカリがどれほどの意気込みを見せたところで、私は勝ち目のない戦いに彼女を送り込むつもりはない。もしあなたがナグサ先輩に挑むというのなら―――その前に私に勝ってみなさい。そうでなければ、私は継承戦の立ち合いをやる気はないよ」
先生にも話していた通り、キキョウはユカリに自分に勝てと言ってのける。ユカリの近くでモルフォ達が息を呑んで彼女がどんな選択を取るのか見守っていると、
「わかりましたわ。今の身共の力……キキョウ先輩に示しますわ!」
ユカリははっきりと、キキョウの目を見て答える。その答えに、どこか嬉しそうに頷いたキキョウは、
「じゃあ、始めましょうか。尤も、本来継承戦に必要な百花繚乱所属の立会人は今回用意できないため、お互いの合意の下、特例としてなしにする。今回、立会人はシャーレの先生のみとする」
「わかりましたわ」
「先生、お願いできるかしら」
「うん、わかったよ」
先生が見守る。それによって、継承戦を行うために必要な要素がクリアされていく。
「であればもう一つ条件を」
「?」
「今回の継承戦、身共が勝ってもキキョウ先輩にはこのまま百花繚乱の参謀を続けてほしいのです」
「……ああ、なるほど。確かに、あなたが勝った場合、私は役無しになるからね。一応二年生だから立会人として不足しているわけじゃないけど……今の状況を考えれば立会人に立場は欲しい。少しは考えるようになったみたいだね……いいよ、それでいこう」
ユカリの提示した条件を受け入れるキキョウ。その様子を他の面々が見守る中、二人は継承戦に必要な前口上を述べていく。そして、
「いざ―――」
「「勝負!!」」
合図と共にユカリが素早く走り出す。狙いを付けさせないように自分の周囲を走るユカリの姿を、キキョウはじっと注意深く見つめていく。銃口は常にユカリを捉えたまま、タイミングを逃さないように意識を研ぎ澄ませていく。
「……!」
まずは一発。先に動いたのはキキョウであった。しかし、その攻撃を華麗な足捌きで避けたユカリは、お返しとばかりに銃をキキョウへ向ける。
「!」
反撃を予想し、回避行動への準備に入るキキョウ。しかし、
「……撃ってこな……!?」
なんとユカリは弾を撃たずに接近してくる。そのせいで虚を突かれたキキョウは慌てて横に跳んで距離を取りながらユカリに向けて連続で銃撃する。だが、ユカリも冷静にそれを避けていく。
「よ、よし……!」
「っ……やってくれたわね……!!」
弾を先に撃ちすぎたせいで弾切れを起こしたキキョウがリロードを行おうとする。それを見計らったかのようにユカリが弾を撃ち込む。
「ちっ」
舌打ちをしながらたまらずキキョウが距離を取った次の瞬間。瞬時にその行き先を予想して叩き込まれた銃弾が、キキョウの左肩に突き刺さる。
「ぐっ!?」
「や、やった!!」
「当たった……!」
「凄いです!ユカリ殿!!」
痛みに顔を顰めながらもキキョウはその場で立ち止まることはせず、移動を絶やさない。そうしなければユカリに残りの弾丸を叩き込まれてしまうからだ。しかし、まるでキキョウの行き先がわかっているかのように弾を一発、二発と撃ち込んでいく。そして、
「がっ!?」
「!!」
最後の一発がキキョウの胸に突き刺さり、彼女の体が吹き飛ぶ。そのまま地面に投げ出されたキキョウは強い痛みに顔を顰めながらも体を起こしていく。
「ま、まだ立つの……!?」
「これはタフな相手です……!」
「キキョウ先輩……!」
(……侮りすぎていた。いえ、そんなのただの言い訳ね……全く、私はいつからこんなに弱くなったのかしら)
はぁ、と溜息を吐きながら立ち上がる。そのキキョウの様子をじっと見つめながらもユカリは冷静にリロードを終えており、いつでも次の攻撃に転じれるようにしていた。
(体の動かし方、狙いの付け方、そして相手の動きの読み方……いつの間にここまで……しかも、百花繚乱参謀の私が先を読まれるなんて)
今までのキキョウが知るユカリとは全く違う。この少しの攻防で圧倒的な成長を遂げたのだと思い知らされていた。
「……ふう。認めるしかないわね。言うだけのことはあるってことは」
「!でしたら……」
「でもまだ、戦いは終わっていない。わかっているはずよ、私に勝てないようじゃナグサ先輩に勝つなんて夢もまた夢だと」
「勿論ですわ!」
キキョウはユカリの射線に入らないように細かく移動しながらリロードを始める。ユカリも狙いを即座につけるのだが、撃っても命中しないと判断したのか、狙うだけだ。しかし、隙を見せればいつでも撃つというその姿勢に、キキョウもこの戦闘を通じて胸の奥から湧き上がるものを感じてきたのか、ついつい笑みを零してしまう。
「……」
そしてリロードを終えると、即座にユカリに弾を撃つ。それらを避けていくのだが、次第に弾がユカリへと掠り始める。
「……!」
「これは……」
「うん、詰められてる……」
冷や汗を流し、顔を歪めるユカリ。その様子を見て、ユズ達も彼女が一転してキキョウに追い詰められていることに気付く。
「このままじゃ……」
(ユカリ、あなたは既に詰んでいる。もうじき―――)
「どう、すれば……うぐっ!」
遂に、ユカリの右肘に弾丸が突き刺さる。その痛みに顔を顰めながら、反射的に反撃に転じ、弾丸を撃つ。しかし、狙ったつもりのはずなのに弾丸がキキョウから外れてしまう。
「しまっ」
(……ユカリ、今の一撃で腕が)
その様子を冷静に見ていた先生は、キキョウが撃ち込んだ弾丸がユカリの腕を痺れさせてしまったのだと気付く。ほんの数秒に満たない時間であったが、ユカリは腕の痺れを相手に悟らせないように、そして腕の痺れが回復するための時間稼ぎに弾丸を次々と放ってしまう。しかし、痺れた腕のせいでまともに照準が合わず、全てキキョウを逸れてしまい、残る弾丸は一発になってしまう。
「―――王手よ」
(まずい!)
そして、キキョウの完璧なタイミングで放たれた、最後の銃弾が、ユカリへ向かう。ユカリが攻撃を避けられないことを悟るも、もう遅い。その銃弾が無慈悲にユカリに触れようとしたその一瞬。ユカリの視界にこちらをハラハラしたような表情で見るモルフォの姿が目に入る。
「―――」
瞬間、脳裏に思い出されたのはモルフォが使った技術。本来、戦闘でそれを使うのは難しい。モルフォがそれを自らのものにしたのは、シロコ*テラーという強敵を前にしたからというのもあるが、そもそも一発しか弾を受け流せない性質上、掃射されるだけで簡単に機能しなくなる。そのため、普段遣いも本来はままならないのだがしかし、相手がユカリの知るキキョウならば。キキョウが追い込み、トドメを刺すつもりで放たれた一撃であれば、その軌道はわかる。
「!?」
後は簡単だ。お手本となる振付を覚え、真似をするかのように、銃身を弾に対して滑らせればいい。
「……は……!?」
目の前で起こった妙技に、キキョウの目が見開かれる。確実に命中したであろう一撃。それに対し、ユカリが寸でのところで銃身を間に差し込んだ。成程大したものだ。だが、この一撃は銃を弾き飛ばすだろう。この状況で銃を弾かれれば、ユカリの敗北は確実だ。そのはずであった。しかし、現実はそうはならなかった。
「やああああ!!」
「っ!!」
銃身を使った弾丸の流し方。参謀らしく、徹底的に詰められたからこそわかるコースに置かれたキキョウの弾丸であったからこそ成し遂げた奇跡。それを自らのものにしたユカリは、これで勝負を決めると言わんばかりにキキョウへと迫る。一瞬反応が遅れてしまったキキョウも、即座に我に返り、銃を両手で持ち防御の姿勢を取る。
(落ち着け……ユカリが狙ってるのは零距離射撃!それで私を確実に仕留めるつもり!だったら―――)
ユカリの狙いに気付いたキキョウの渾身の一手。迫真の表情で迫るユカリはそのまま地を蹴って跳ぶ。
(上―――!?え!?)
そのまま、ユカリはなんと、銃身を撃つのではなく振り上げる。それを見て、キキョウも咄嗟に縦に振り降ろされるであろう銃身に対し、横で銃身を差し出して防御しようとする。確かに銃を鈍器として使用し攻撃するケースはある。しかし、それは基本的に稀だ。下手にそんなことをして銃身が歪めば、弾丸が出なくなるのだから。だが、ユカリはそのセオリーを逆手にとって物理で仕留めに来たと、そう判断したキキョウは隠し切れない笑みを浮かべる。
(ほんと、小賢しい真似まで覚えて……!?)
だが。待ち望んでいた一撃は、全く来ることはなかった。いや、そればかりか、ユカリの姿が消えてしまったのだ。
「消え―――いや!?」
銃身を横にして目の前に差し出す。その行動が、キキョウの視界、その下半分をも遮っていた。そのせいで、彼女は最初は気付くことができなかった。姿勢を地面スレスレ、限界まで低くした状態でこちらへ向かって距離を詰めてくるユカリの姿を。
「嘘……!?」
「これが、身共の魂の一撃!!」
そして、キキョウのみぞおちにライフルの先端が突き刺さる。キキョウの体がくの字に曲げられる中、ユカリの最後の一撃がキキョウを吹き飛ばしていく。吹き飛ばされたキキョウが地面を転がっていくと、地面に広げられた右手から、彼女の愛銃が零れ落ちると共に、勢いよく咳き込み始める。
「……げほっ、げほっ!!」
「……そこまでだよ、キキョウ。これ以上は」
「……げほっ、げほ……わかってるわ……自分の体のことぐらい……げほっ」
キキョウにはまだ意識はあるが、これ以上は駄目だと先生がストップをかける。キキョウも、これ以上はもう自分が戦えないことを理解していたのだろう、呼吸が落ち着いてくると大きく溜息を吐いて、空を見上げる。
「……キキョウ先輩」
「……何も言わなくてもいいわ。わかってる、私が負けたって事ぐらい……あなたの勝ちよ、ユカリ……約束通り、調停式の立会人は私がやるわ。まあ……そもそもの問題としてナグサ先輩を見つけないと始まらないんだけど……」
「それについては焼き鳥屋を巡って探し出してみせますわ!」
「……ま、それしかないでしょうね」
午後に先生と会い、それからここまで来たのもあって、既に陽は落ちかけていた。そのため、綺麗な青空は見れなかったが、このオレンジ色の空も悪くない。そう思い、彼女はゆっくりと目を閉じるのだった。
★
「……ねえ、もういい加減にしてくれない?」
「……ん」
陽も落ち、夜になった頃。人気のないところまで歩いてきたナグサは、その後ろをついて歩いていたシロコ*テラーに不機嫌そうな表情を向けていた。
「昨日からずっとずっと付き纏って……さすがに嫌なんだけど」
「別にあなたに付き纏ってるわけじゃない。その右腕が不安だから見守ってる」
「心配される筋合いなんてないんだけど」
「別にナグサは心配していないよ」
その理由は勿論、昨日からずっと付き纏っていたシロコ*テラーだ。自分の右腕がまともな状態じゃないこと自体はナグサも理解している。そして、それが原因で起こるかもしれない不測の事態を彼女は危険視しているということも。だが、それを踏まえてもさすがにこれは我慢がならなかった。
「ふざけないでよ。私の気持ちも考えてよ」
「……」
「こんなに付き纏われて、うんざりしてる私の気持ちも考えてくれない?」
シロコ*テラーに顔を近づけて、睨みつける。ナグサの睨みつけるその表情を受けて、シロコ*テラーは涼しい顔でそれを流す。それが余計に不満だったのだろう、ナグサの言葉が止まらない。
「私は別にあなたのことなんて好きでもなんでもない。そんな相手に付き纏われたっていい迷惑」
「ん、だろうね」
「もう付き纏わないで。一人にして。あなたがいるだけで私の気は休まらないの」
「大丈夫、燈籠祭が終わったら私も帰るから」
「そういうことじゃ……!」
左腕でシロコ*テラーに掴みかかろうとした、その時だった。シロコ*テラーがある一点を睨みつける。直後、
「―――へえ。あんたの口からその言葉が出るなんて思わなかった」
「……え?」
一人の少女の声が聞こえてくる。その声を聞いたナグサの体が完全に固まってしまう。
「よく、言えたもんだね」
続けて、告げられたその少女の言葉に、ナグサの体がビクッ、と震える。そしてゆっくりと振り向いたその先には、ナグサと同じ白い制服に百花繚乱の羽織を羽織ったプラチナブロンドの髪の少女が立っていた。
「あ、あ、あ……」
「あなた、誰」
「―――へえ、面白いね、あんた」
その少女を視界に捉えたナグサの目に涙が浮かぶ。声も震え始める中、少女とシロコ*テラーは互いに相手を見る。警戒するシロコ*テラーに対し、少女は不敵な笑みを浮かべる。そんな相対する瞬間を崩したのは、
「アヤメぇええええ!!!」
大号泣するナグサの、歓喜と悲痛さを織り交ぜた叫びだった。