転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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不穏な影と過ぎていく夜

 

「……え、えーと……?その……そもそも花鳥風月部って実在してたんだ……」

「ええ……過去の存在だと思っていたけど……」

 

観念したように、三人は座り合う。そして、先程あったことを説明するナグサ。その話を聞いていたレンゲとキキョウは、花鳥風月部が今も実在していたことにも驚いていたが、それ以上に衝撃だったのは、

 

「でも、何でアヤメ先輩が花鳥風月部なんかに……!しかも、怪異って……確か、花鳥風月部が百鬼夜行を恐怖と混乱に陥れるために使ってたってやつだろ!?なんで百花繚乱の委員長だったアヤメ先輩がそんなものに……!」

 

かつて百花繚乱の委員長を務めていたはずのアヤメが裏切り、花鳥風月部に入っていたことだ。そして完全に敵となったアヤメに、レンゲもキキョウも険しい表情を浮かべていた。

 

「……ナグサ先輩は、何か知ってるの?アヤメ先輩が失踪した時、何があったのか……」

「……それは」

「答えて。アヤメ先輩を助けたい気持ちは私達も同じ。だからこそ、そのための手がかりが欲しい」

「……」

 

キキョウの真剣な目で見られ、ナグサは目を逸らしてしまいつつも、ぽつり、ぽつりと何があったのか語り始める。

 

「……アヤメに何があって去ったのか、まではわからない。でも……アヤメは、私に百蓮を渡して、クズノハ様に会うって言って、行方を眩ませた」

「……その後、ナグサ先輩が委員長代理をしたんだよな?けど……ナグサ先輩もいなくなって……」

「そのせいで、百花繚乱は活動停止になった」

「……ごめんなさい」

 

キキョウに背中を思いっきり刺され、ナグサもただ謝ることしかできない。アヤメが消え、ナグサも失踪してしまったことによって百花繚乱は長い期間活動できなくなってしまい、それによって百花繚乱の面々は多大な迷惑をかけられたのだ。事情については考慮はするが、それはそれだ。間違いなく愚痴を言っても彼女達は許される立場にあるだろう。

 

「そして戻ってきたかと思えば百蓮を返納して、解散令を出してまた消えた。それで今度はアヤメ先輩を助けたいって言いだして戻ってきて?かと思えば寝てた?どんだけ自分勝手なの?」

「うぐっ」

「ね、寝てたって部分はさすがに不可抗力みたいなところあるしそこは違うって!」

 

溜まり溜まっていたであろう鬱憤がまとめてナグサへと襲い掛かる。二本の尻尾がゆらゆら揺れ、怒気が滲み出ているキキョウのあまりの形相とぼこぼこにされたナグサは後ろへと後ずさっていくと、キキョウがどんどん距離を詰めていく。

 

「どうなの?ねえ、どうなの?」

「おい、キキョウ……」

「あなたが解散令を出してからユカリが何してたか知ってる?」

「え、し、しらない……」

「あなたを倒すために必死になってたわよ。他校の生徒に協力まで要請して」

「そ、そうなの……?」

「ああ、やってたな……」

 

どんどん距離を詰めていくキキョウに恐れるように後ずさり続けるナグサ。だが、その背中と壁がぶつかってしまい、もう身動きが取れなくなってしまう。

 

「そうまでして、自分が委員長の座を手に入れてまで百花繚乱を守ろうとしていたのよ?私が負けるぐらい強くなって……」

「え、嘘」

「嘘じゃない。私に勝って継承戦の立会人をしてもらうことを約束させられた」

「ま、マジかよ……ユカリのやつ、本当にキキョウに勝ちやがったのか……」

 

ナグサが解散令を出してからのユカリの行動とその経過を聞いて、ナグサとレンゲは驚きのあまり、言葉を失ってしまう。レンゲも、ユカリが他の生徒達と特訓に励んでいる様子は確かに見てはいたのだが、ここまで目立った成果が出るとは思わなかったのだろう。

 

「……だから。もういいでしょ」

 

そして、そう呟くとキキョウはナグサに向かって体を倒す。口では色々きつく言ってはいるが、ナグサの胸に顔を埋め、羽織を掴む彼女の姿に、ナグサも何も言えず、右腕だけは触れさせないように、かつキキョウには悟られないように頑張るぐらいしかできることはなかった。

 

「……もう、帰ってきてよ。皆、あなたを待っていたんだから」

「……ごめんね。でも、私は……アヤメみたいになれないよ。アヤメみたいな委員長には……」

「私達が求めてるのはナグサ先輩であってアヤメ先輩じゃない」

「……アタシもさ。同じ気持ちだよ。ナグサ先輩とアヤメ先輩は別人じゃんか……アタシ達は誰も、ナグサ先輩をアヤメ先輩みたいに、なんて思ってないんだ。だからユカリは、最初からナグサ先輩みたいに、って思ってたし、今だってナグサ先輩を超えようとしていたんだ……きっと。はは……凄い青春してんじゃん、あいつ……ほんと、何やってんだろ、アタシ……」

 

二人の想いに、ナグサの表情が崩れていく。ずっと逃げ続けた自分の不甲斐なさと、仲間達をずっと放っておいてしまったという罪悪感にボロボロと涙が流れていく。そして、皆が何を望んでいるのかに気付くことができていなかった自分の視野の狭さに。

 

「う、うぅ……皆、ごめんね、ごめんね……」

「……もう、いいよ……もう、いいから……戻ってきてくれれば、それだけで……」

 

その言葉を最後に、ナグサは泣き続けながら、キキョウを抱きしめる。その様子を見ながら、レンゲも安堵したように、笑みを零すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃。百夜堂には、満面の笑みを浮かべ浮かれるユカリとゲーム開発部、そして合流してきたミチルを含めた忍術研究部の姿があった。

 

「それじゃあ……」

「かんぱーい!」

「皆さんありがとうございますわ!!身共はやり遂げました!!」

「ユカリ!まだです!まだユカリは走り始めたばかりです!この長い坂を!!」

「アリス……その坂は駄目な奴じゃ……」

 

楽しそうにジュースのコップを合わせるユカリ達。そして今日、何があったのかをイズナ達から聞かされたミチルは、時折驚いた反応を見せていたが、話を聞き終えると同時に、溜息を吐いて椅子の背もたれに寄りかかる。

 

「いや……なんか凄いことになってきたわね……まさか本当に勝っちゃうなんて……私も見に行けばよかったわ」

「そうですよ、部長も来れば凄く楽しかったのに……どこに行ってたんですか?」

 

てっきり修行や特訓を今日もやるものだと思っていたばかりに、こんな面白い展開が起こっているとは全くわからなかった。結果としてユカリの望むものが全て成立したという最高の上がりになったこともあり、これは自分もその場にいたかったという純粋な思いだけが湧き上がってくるのもある意味当然なのかもしれない。

 

「まあ……他の百花繚乱の人達ってどこ行ったのか探してたのよ。それで昨日レンゲには会えたんだけど、まああんまりいい話にはならなくて。しょうがないから、とりあえずナグサのやつをふんじばってこようと心当たりを探してみたんだけど……まあ、この様よ。何の成果もなかったってわけ」

「そうでしたか……申し訳ありません。身共のために手間をかけさせてしまって」

「ああ、気にしないでいいわよ?やりたいからやってるだけだし……」

 

ユカリに深々と頭を下げられ、慌ててそうする必要はないと告げる。そればかりか、自分の方は何の成果も得られなかったのだからと。しかし、ユカリからすれば行動を起こしてくれただけで充分ありがたかったのだ。

 

「……えーと……ちょっといいですか?」

「はい!どうしましたか?シズコ先輩」

 

と、そこに改まって、といった様子でシズコが近づいてくる。店内は現在空いているのもあり、彼女も手が空いていたようだ。それ故に、やっとといった様子でその話に切り込み始める。

 

「シズコさん?どうしたんですか?」

「明日、燈籠祭が始まるのは皆知ってると思うんですが……そこで舞を踊る役を勘解由小路ユカリさんに頼みたいと以前から思っていたのですが……」

「……あ、そ、そうだったんですか!?」

 

それは、燈籠祭で舞を踊る役目をユカリにやってほしいというもの。ユカリからすれば完全に寝耳に水といった様子だが、シズコ達お祭り運営委員会はずっと前から企画していたことだったらしい。しかし、百花繚乱に赴いてもユカリと接触することはできず、彼女にその話が届くことはなかったのだ。

 

「前日の夜に急に頼むことになってしまって申し訳ないんですが……このお祭りのために、皆のために引き受けてくれないでしょうか!」

「成程……燈籠祭の舞というと……もしや二十年前の?」

「あ、はい。だからこそ、勘解由小路家の人にやってもらいたいんです」

「どういうことですか?」

 

元々燈籠祭は二十年前に廃止された祭りだ。しかし、この祭りにはユカリの実家が関わっているらしい。疑問に思うゲーム開発部に、飲み物を運んできたウミカが答える。

 

「二十年前、舞を踊ってくださったのが当時の勘解由小路家の人なんです。えっと、名前は……えーと……誰でしたっけ?」

「……そういえば、そこの記録は我が家でも完全に抹消されてしまっていましたね……当時、何かがあったのは間違いないのでしょうが……」

「二十年前を境に廃止されてしまった祭りですからね……当時の記録は残ってないんですけど、何か事件のようなものがあったのかもしれませんし。まあ、そういうわけで……復活させるなら絶対に大成功させたいんです!そこで、当時の伝統を踏まえて、今回はユカリさんに踊っていただければと思うんですが……」

「わかりましたわ!そのお役目、身共が果たしますわ!」

 

二十年前の事情は、一番詳しく知れるはずの立場にいるユカリであってもわからないようになっていた。だからこそ、そのお祭りを復活させたりというシズコ達の想いが伝わったのだろう。ユカリは頼もしさを感じさせる大きな声でその頼みを承諾する。

 

「おお!」

「ありがとう!……でも、踊りの練習とか一日で……」

「舞については履修済みですから、その心配はありませんわ!」

 

ユカリの返答にほっと胸を撫で下ろすシズコ。ウミカとフィーネも問題が解決したことに喜んだ表情を互いに向け合う。

 

「それにしてもユカリちゃん、動き方が綺麗だったし、やっぱりダンスとかやってたんだね」

「実家も凄い名家だし……」

「じゃあ、継承戦の事はとりあえず明日はなしかな?」

「そうなりますわ。おそらく色々やることもあるでしょうし……でも、それが終わったらまた特訓の方はやりますわ!ナグサ先輩に勝つためには大事な事ですから」

 

そして、次の日の行動も決まり、翌日に備えて店を出ようとしたその時だった。

 

「あ、いらっしゃー……え?あなたは……」

「……よかった。モルフォ、無事だったみたいだね」

「……シロコ先輩?」

 

百夜堂の扉を開けてシロコ*テラーが入ってきたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあニヤ。来たよ」

「夜分遅くに申し訳ありませんね~、ちょーっと、小耳に挟んだんですが、内容が内容で」

「ううん、気にしないで。それで、どうしたの?」

 

先生は陰陽部に訪れていた。そこにはニヤだけでなく、足首まで長い金髪を伸ばした少女、桑上カホやチセなどの姿もあった。

 

「まず、結論から言いましょうかね。先生、花鳥風月部は今も実在します。そして彼女達は、今回の燈籠祭を利用して何かをやろうとしている可能性が高い」

「え、それって……」

「御陵ナグサ。百花繚乱現委員長からの情報提供です」

 

ニヤから告げられた衝撃の事実に先生は驚く。そして、ナグサと言えばキキョウやユカリからも聞いた人物の名だ。失踪していたらしいが、そんな彼女が戻ってこざるを得ない程の事態ということか。

 

「ナグサ……戻ってきたの?」

「はい。百花繚乱の参謀……桐生キキョウさんからの報告では。もしかしたら先生もご存じかもしれませんが」

「うん、今日会ったよ。それで、百花繚乱に何があったのかも聞いてる」

「そうですか……では百花繚乱については割愛させてもらいます」

「わかったよ。それで……燈籠祭はどうするの?」

「そうですねぇ……そこが困ったところでして」

 

百花繚乱の問題は現在進行形で続いてはいる。しかし、それと花鳥風月部の問題は別であるということだろう。ニヤの発言からそれを理解した先生は、明日行われる予定の燈籠祭について聞くことにする。花鳥風月部の狙いがそれだというのなら、それをどうするつもりなのか。

 

「花鳥風月部は怪異を使うんです」

「怪異……それって確か」

『アトラ・ハシースの箱舟でゲーム開発部や対策委員会が交戦した存在ですね……』

『怪異は花鳥風月部が持つ、怪書によって生み出される存在です。怪談や付喪神といった存在を呼び出す他、怪書によってはそれぞれ異なる能力を発揮することもあるようです』

 

怪異といえば、アトラ・ハシースで交戦した経験がある。あの時も、結局交戦した生徒達は怪異を倒すことはできず、無力化だけして突破するという方法で対処していた。しかしそれは、裏を返せばプレナパテスは怪異がどういうものか知っていて奴らを手に収めたということになる。

 

「怪異……成程。まさかあの事件で怪異さえも使われていたとは……」

 

プラナから聞いた話をニヤ達にも伝える。それを聞いたニヤ達はまさか怪異がアトラ・ハシースにいたことまでは把握していなかったのか驚きを露わとする。

 

「それで、その怪異の特徴などは?別の世界の花鳥風月部の動きが分かれば……」

『……確かに、この世界と別時間軸の世界で似たような出来事が一部起こったことはあります。しかし……私達の世界では百花繚乱の委員長七稜アヤメの姿は確認されていません。主犯となる人物や目的が変わっている可能性もあるのでこの場では断言はできません』

「……残念だけど、別の世界の百鬼夜行だと状況が違いすぎて」

「そうですか……」

「まあ、世界は別なわけですし。それを言い出したらプレナパテスのいた世界も別のプレナパテスが襲ってきた、というのも考えにくいでしょうし」

 

ならば花鳥風月部についても何か知っているのかもしれない。そう思われたがプラナから告げられた事実は、わかってはいるがあまり参考にはならない、ということだった。ニヤからしても、そこまで重要視はしていないだけで二つの世界の流れが違うのだから参考にはならないのだろうと解釈したようだ。

 

「とはいえ、現在に伝えられた情報などから、怪異、それを生み出す怪書の特性は推測できます。おそらくは人々の恐れといった負の感情。それが怪異を生み出し、強くする……まあ、端的に言ってしまえば火のない所に煙は立たぬということですね。妖怪や怪談、そういった怖い話や存在……通常であれば噂や創作程度で終わるものを、花鳥風月部はそれを実際に起こすことで生み出そうとしているわけです」

「なんでそんなことを……」

「生憎私はそういうクリエイター肌の人間ではないので何とも言えませんが……まあ、怪談を織るのが目的じゃないですかね?燈籠祭自体に思い入れがあるとは思えませんし、単純に人が多く集まり、盛り上がる機会だったから狙ったのかと。なので……ここで取れる選択肢は二つ。一つは燈籠祭を中止にしてしまうこと」

 

そしてニヤが提示した明日の行動。まず一つは燈籠祭を中止にするということだ。これに関してはある意味当たり前の選択肢だろう。燈籠祭を狙い、怪異テロをすることがほぼ明らかとなってしまった今、多くの人々が自治区の内外から訪れる燈籠祭を開催するのはリスクを伴う。自治区内に住んでいる人だけが被害を受けるならまだいい、外から来た人たちが不慮の事故などに巻き込まれるのも、ある程度ならままあることだ。それはまた大変な思いをしましたね、程度で済む話だ。だが、それを引き起こすのが花鳥風月部となると話は大きく変わってしまう。

 

「多少の騒ぎならむしろ歓迎……ですが、さすがにこれはねぇ。ただ……」

「ただ?」

「花鳥風月部のテロを警戒して祭を中止します。なんて言ったら……花鳥風月部の名前を出さなくても皆邪推するでしょう?そして一度噂となれば尾ひれがつき始める……そうなればそれこそ花鳥風月部にとってはやりやすい事この得ない」

 

ニヤの言いたいことを理解する。祭を中止すれば、燈籠祭を狙った花鳥風月部の行動はもしかしたら止まるかもしれない。そうなれば確かに被害者は減るだろう。だが、花鳥風月部がそんなのお構いなしに暴れる可能性は当然あるし、そうでなかったとしても、何故中止になったのか?という噂が広がるだけでも花鳥風月部にとっては利点がある。

 

「そしてもう一つの選択肢。燈籠祭を予定通り開催すること。ただ、こちらは先生も予想している通り、花鳥風月部は間違いなく襲撃してくるでしょう。ただ、こちらにしかない利点もあります。まあ……これもまた、私のただの想像に過ぎませんが」

「聞かせてもらっていいかな?」

「怪書から生み出される怪異が人々の恐れから生まれるなら、逆に祭の陽気さ、楽しさがそれを打ち消すという可能性があるのではないかと。それに祭自体が、ものによっては厄災を封じたり、鎮めたりするための一種の儀式という側面もありますからね」

 

そしてもう一つは祭を予定通り開催するということ。根拠は弱く、確信があるわけではないが、こちらも全てが悪いわけではないとニヤは告げる。

 

「先生はどう思います~?」

「……難しいね。祭を開催してもしなくても、どちらにしても問題がある……そういえばシズコ達はこの事を知っているの?」

「いえ、まだ報告していませんね。まずは先生に話を通してからの方がいいと思ったので」

「そっか……わかったよ、私の方からシズコに伝えるね」

「はいはい、お願いしますねぇ」

 

そして、祭を続けるかどうかの選択肢を、先生とお祭り運営委員会に実質託される形で、この場の話し合いは終わることになるのだった。

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