転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「……んあ」
窓から陽の光が差し込んでくる。その陽の光を浴びて、シュロは目を覚ましていた。昨日、彼女を縛っていた縄は途中から解かれており、皆と色々やっていたような記憶が朧げだが思い出される。周囲を見れば、ゲーム開発部の面々が無防備な状態で転がって眠っていた。
(……手前、何でこんなことを……でも)
皆で夜食を食べたり、お菓子を食べたり。創作についてそれぞれの想いを語り合ったり。モモイとホラーのシナリオについて殴り合ったり。いつの間にか、時間が過ぎていたようだ。
「……楽しかった」
ぽつりとシュロの口から呟きが漏れる。花鳥風月部に所属している彼女は俗世とは基本的に関わらない生活を送っていた。関わることがあっても、それは最低限のもの。そこに友人との付き合いといったものは当然存在しない。それ故、シュロが深く関わっていた人物は同じ花鳥風月部の人物だけであった。だからこそ、初めてであった。花鳥風月部以外の生徒と、こんな一夜を過ごしたのは。
「……はあ、手前は何をしているのか……」
それが、凄く楽しかった。特に怪談についてお互いに語り合った時は、花鳥風月部で話を考えていた時よりも白熱した気がする。その中でも、心に突き刺さった言葉があった。
(人の心に強く残り、広く、長く語られるのは恐怖だけで終わらない怪談……)
それは誰が言ったか。モモイか、モルフォか。そう言われてみれば、確かに花鳥風月部の名を今も知る者は少ないと思う。それは、花鳥風月部が百鬼夜行を混乱に陥れたから。その恐怖に、百鬼夜行は蓋をする形で歴史を封印し、その名を失伝させてしまった。しかし、深夜の話の中で、彼女達があげた怪談などは、シュロも知っているようなものも多い。そういった怪談は何故広まり、多くの人が知る事になったのか。そして、何故時代を経ても風化しないのか。逆に、昔の花鳥風月部が語っていた百物語などは、語られなくなってしまったのか。その疑問に、その違いに、シュロは答えることができなかった。それに対して出てきた答えがこれである。
(……わからない。手前は、何を語りたかったのか。何を作りたかったのか……)
もう一度、寝転がりながら天井を見上げる。と、視線を横に向けると、モルフォの胸に頭を乗せて心地よさそうに眠るモモイの姿が目に入る。見ればモルフォを中心とした形でゲーム開発部が集まって眠っている様子が目に入る。
(……今なら)
ちらと視線を逸らすと、近くの机に自分の銃が無防備に立てかけられていた。今なら、これで誰かを人質に取って、自分の怪書を取り戻すことだってできる。そうすれば、まだ再起が―――
(……いや。手前が怪書を取り戻したところで、もう手前の百物語は……)
そこまで考えて、はぁと溜息を吐いて銃から視線を外す。既にこの物語は自分の手から離れているのだ。これ以上、脇役ですらない自分に何をしろというのか。
(……つまらない……)
内心、ぽつりと呟く。脳裏に思い浮かぶのは、アザミのあの顔だ。だが、ここで諦めるのはなんかむかついてくる。元々自分の物語だったというのに。多くの人々が恐れ、震え、慄く。そんな怪談を語りたかった。自分にしか作れない百物語という名作を。今日はまさにその一世一代の大舞台だったのに。
「……悔しい……世の中にはいろんな話があるのに……怪談だって、ホラーだって、沢山あるのに……」
実際に百物語を織って、それが受け入れられなかったのなら。否定され、倒されてしまったのなら、それは逆に受け入れようがある。悔しさや怒りを持つかもしれない。自分の百物語を台無しにした奴らに恨みつらみをぶつけようとするかもしれない。だが、それはそれでいい。ちゃんと織ったという結果があるのだから。だが、今の自分にはその結果を出す機会すらない。それすら、奪われてしまったのだ。最早、それはゲーム開発部のせいだ、等とは言えないだろう。今にして思えば、彼女達がいまいが、別の所で綻びが出ていただろうから。
「あの蛇女の百物語のせいで、手前の物語が語れないのは……!」
「―――なら、語ればいいんじゃないの?」
「!?」
だが、それに対する返答が飛んでくる。見れば、モルフォが起きていたようで体を起こす。すると、モモイが体から振り落とされ、「ぐえっ」という声と共に目を開く。
「お、起きて……!?」
「今のあなたの物語をさ」
「う、うーん……ど、どういう状況……?」
寝起きで寝ぼけたままのモモイを前に、シュロが気まずそうに視線を逸らす。モモイも目を擦り、徐々に意識を覚醒させながら、モルフォに目を向ける。
「うーん……自分のプロットを別の人に奪われてその人の自由に書き直されてる感じ?」
「……は!?」
勢いよく立ち上がり、声を張り上げてしまうモモイ。そのあまりの声量にミドリ達も目を開いて起きる中、モモイは激高したような表情を浮かべる。
「そんなの許しちゃ駄目だよ!プロットの盗用なんて!!そいつをぶちのめしちゃえ!!」
「そ、それができたら燻っていませんよぉ!!」
「ええい!そこで諦めて何がシナリオライターか!!見せなよ、あなたのホラーってやつを!!」
「……どうせ無理ですよーだ。どうせ手前の怪談よりもあいつの方がよっぽど皆恐怖に慄きますよーだ」
怒りを露わとするモモイの様子に少しだけ戸惑いながらも完全に不貞腐れてしまうシュロ。ここまで親身になって自分の事のように怒ってくれる彼女達の暖かさに心が揺れるのを感じながらも、もう打つ手はないんだと考えていると。
「そういう時は!お話にはお話をぶつけるんだよ!!」
「……はい?」
「相手が真っ向から喧嘩売ってくるなら、こっちも同じ土俵で戦う!向こうが名作を書いてきたつもりならこっちだって名作をぶつける!そして皆がこっちを支持すれば私達の勝ちだ!!」
「いや、何を以て勝ち負けを……いや?」
モモイの適切なんだか的外れなのか。少なくとも、シュロが言っている百物語に対しては間違いなく言ってはいけないことだろう。が、ここでシュロはある希望を見出す。
(百物語には百物語を……あの蛇女が手前の怪談を捨て、舞台を乗っ取ったのなら……手前の怪談でそれを奪い返せばいい……!!手前の、より完璧で、完成度の高い最強の百物語で!!)
それはモモイの言う通り、アザミの百物語に対し、自分の百物語をぶつけるということ。百物語と百物語が戦えば、勝ち残るのは強い方だ。そこで勝てば、自分の百物語が優れており、完璧であったと証明できる。だが、それにはまだ立ちはだかる壁がある。
(しかし、改めて百物語を織ろうにも……明確な強みが必要。あの蛇女はより恐怖を煮詰めたような作品を作り上げている……今から夜までに新しく書き上げたところで、杜撰なものになってしまう……同じジャンルではまず勝ち目は薄い。となれば……いや。手がかりは既にあるじゃないですか)
どうやってアザミを超え、彼女を叩き潰すか。そのヒントとしてシュロが思い出した言葉。それこそが「人の心に強く残り、広く、長く語られるのは恐怖だけで終わらない怪談」であった。完全にアザミの百物語を葬るために、より人々に強く印象に残り、葬りたい、ではなく語りたいと思わせる怪談。それが人々に知れ渡り、そこに自分の名を、そして、
(朽木修羅先生の名作として永劫、世に語られるその日を―――!!)
もう一つの自分の名を歴史に刻んでやる。そんな、大それた思いを胸に、シュロは窓を開ける。
「ちょっとシュロちゃん!?どこ行くの!?」
「手前は執筆作業に入ります!ふふ、手前の作品を皆に―――」
「ダメ」
「ぐえっ」
そこから飛び出そうとするも、いつの前に近づいていたのかシロコ*テラーに捕まってしまう。
「あなたをここから出すわけにはいかない。花鳥風月部でしょ」
「な、なんでそれを……」
「怪異を使ってるんだから当たり前。まあモルフォ達はもう気にしていないようだけど、皆から離すわけにはいかない。というかあなた丸腰で出ていくの?」
「う、うう……」
「何々?話を作るの?じゃあ私も……」
「百物語はほらぁ!!あんたとは毛色が違うんですが!?」
「わかってないなぁ……」
「は?」
シロコ*テラーに捕まってしまい、じたばたと腕や足を振り回すシュロ。そのまま室内に戻された彼女はいじけたように座り込んでしまうが、彼女にモモイが助言を与える。
「今回は話対話、ストーリーとシナリオの正面衝突だよ!だったら力強さをアピールしなくちゃ!めっちゃ強くて頼りになるけど怖い!そういう怪談こそ新たな時代を築くんだよ!!」
「頼りになるけど、怖い……!?」
モモイの言葉にまるで雷に打たれたかのような衝撃を受けるシュロ。パクパクと口を開閉しながら、モモイの言葉を何度も心の中で復唱していく。
「私も協力するよ!なんかシュロって悪い事向いてなさそうだし、それにシナリオライター仲間に悪い奴なんていないからね!ただし盗作する奴はぶん殴るよ!」
「……なんかものすごく変な事になってきましたね……そもそも花鳥風月部って昨日、私達もですがシロコさんを襲った一味じゃ……」
「ま、まあ……なんか向こうでも内ゲバ起こしてるみたいだし……?」
「百物語に百物語ぶつけて勝ってくれる分にはいいんじゃないかな……ジャンルが反映されるなら何となくだけど悪い話にはならなさそうだし……よし、ミドリ……良いデザインを」
「え、私!?なんかこう、参考になる奴ないの?」
「じゃあ……ジャシン帝みたいな方向性とか……」
「ふ、ふふ……覚悟してくださいよ蛇女ぁ……!追い込まれた鼠が何をするか、思い知らせてやりますよぉ……時間もない手前は形振り構いませんからねぇ……!!」
そして、シュロはにやりと笑い、怪書……は手元にないので、近くにあった裏が白いチラシとボールペンを掴む。そして、溢れる思いを書き連ねるように手を動かし始める。その様子を見ながら、シロコ*テラーは柔らかい笑みを浮かべるのだった。
(……面白いな、敵だったのに……学校も、所属も問わず、モルフォの周りには皆が集まる。敵も味方も関係なく……そして何より、モルフォは前を向いている。だから、私も……きっと、それがあの子のためにもなる……はずだから……)
★
「そ、そういうことになっていたなんて……」
「どう思う?」
「……ふぅ……そうですね……」
朝の百夜堂。まだ店も開く前の時間に、店内で先生とシズコが互いに向かい合い、昨日先生がニヤ達と話したことを共有していた。先生から一通りの話を聞いたシズコは頭を抱えてしまう。
「先に言ってしまいますと、私個人としては祭を予定通り開催したいと思っています。この燈籠祭を楽しみにしている人達がいるとか、折角再開するこの祭を中止にしたらもう二度とこんな機会はないだろうとかはあるんですが、それ以上に……もう止められません。祭り当日に中止と言われても……陰陽部がやるといったら強引にでもやるとは思うんですが……だとしても、確実にその煽りは出てくるでしょう」
「そっか……でも、シズコがどうしたいかはまだ聞けていないよね。どう思ってる?」
祭をやらなければならない理由などはいくつか思い浮かぶが、先生としては肝心な言葉を聞きたいと思っていた。シズコは少しだけ悩んだ素振りを見せていたが、すぐに意を決したような表情になると彼女自身の意見を述べ始める。
「当然、やりたいです。祭は……皆を笑顔にして、楽しくさせるものです。花鳥風月部が本当にいたとして、奴らの手で台無しにされて、人々を不幸にするようなことはしたくありません」
「……そっか。それを聞けてよかったよ」
シズコならこう言ってくれるだろうなと、そう思っていた先生は安心した様子を見せる。そして、シズコに陰陽部を去る時にニヤからもらった書類を渡す。
「これは……」
「もし、シズコが祭をしたいって思ってたら渡してくれって。今回のお祭りは、とにかく楽しいものにしてほしいってさ。もし、花鳥風月部が何かしてきたら……それすらも催しにするようにしてくれって」
「催しにって……あ、なるほど……でも、これって効果が……?」
そこには、花鳥風月部の怪書と、それによって生み出される怪異に対する対抗策として、恐怖とは正反対の楽しさなどを人々に共有することなどが書かれていた。
「……ふぅ、私がこう答えるのも予想済みってわけね……ま、いいわ。そういうつもりなら……やってやろうじゃないの!」
それを読み終えたシズコは、面白いじゃないと言わんばかりにぐっと拳を握る。どうやら、シズコを煽るような内容も書かれていたようだ。ニヤからすればそこまで計算尽くだろう。と、そんな先生のモモトークにキキョウから大事な話があるから百花繚乱に来てほしいというメッセージを受け取る。
「……これは」
「呼ばれてるならそっちに行った方がいいんじゃないですか?燈籠祭の方は私達に任せてください!勿論ユカリさんのことも!」
「ありがとう。それじゃあ行ってくるよ」
既にわかってはいたが、やはり今日は忙しくなるなと思いながら、先生は百夜堂を後にするのだった。
★
続けて百花繚乱の本部にやってきた先生の前には、三人の生徒達がいた。キキョウとレンゲ、だがそれだけではない。先生が初めて見る顔としてナグサの姿があった。
「先生、紹介するわ。彼女が御陵ナグサ……百花繚乱の現委員長よ」
本人の自認としては代理のままだけどね、と付け加えながら、ナグサの事を紹介するキキョウ。その隣でナグサが縮こまり、レンゲが困った様子で彼女を見る。
「初めましてだね、ナグサ。私はシャーレの先生だよ。やっと君と会えたね」
「……うん。話は……色々聞いてる。迷惑……かけちゃったみたいで」
「ほんとにね」
「うぐ……」
「どうどう……そ、そういやユカリは?」
ジト目で相変わらずナグサを刺していくキキョウを宥めるレンゲ。その様子に苦笑しながら話題を切り替えるようにユカリの事を聞く。
「うん、シズコから聞いたんだけど、ユカリは今日の燈籠祭で舞を踊ることになってて、それでいないんだ」
「成程……そういえばそんなものもあったわね。この数日で色々ありすぎてすっかり忘れてたわ……」
「それで、ナグサ。花鳥風月部の事……」
「全部事実だよ。そして……これが……アヤメを救うために必要なもの……百蓮」
「百蓮?」
その名は聞いたことがある。プレナパテスと対峙した時、もう一人のモルフォが言っていた言葉。モルフォには百蓮を使っている世界があったと。
「これのこと。代々、伝えられてきた銃で、百花繚乱の委員長にのみ扱える銃。これを使うことで怪異を祓うことができる……んだけど」
「?どうかしたの?」
「……私にはこれを使えない」
「……それは、委員長代理だから?」
「……違うの」
委員長にしか使えないということは、おそらくモルフォが百花繚乱の委員長をやっていた世界もあったということなのだろう。尤も、ナグサが左手だけで器用に袋から取り出して見せた百蓮がライフルだったのを見るに、おそらくこの世界のモルフォが使ってもあまり効果的には使えなさそうだが。
「代理っていうのはアヤメ先輩に負い目を感じているナグサ先輩が勝手に言ってるだけ。実際今の百花繚乱の委員長はナグサ先輩で合ってる。それよりも問題は……」
「私は右腕が使えない」
「!!」
「これが……アヤメを助けられなかった代償……私が、アヤメに縋り続けた罰……」
ぎゅっと、左手を強く握りしめながら、法被から包帯でぐるぐる巻きになった右腕を見せる。震える彼女の左手にレンゲが自分の手を重ねて抑えようとする中、先生はナグサが右腕を使えないでいるという現状に表情を歪ませる。
「その腕は……大丈夫なの?」
「……うん、使えないこと以外は問題はないよ。だけど……これじゃアヤメには……百蓮の力を使えたとしても、きっと、勝てない……」
「……そんなに強いの?」
「……うん。先生は砂狼シロコって生徒、知ってる?」
「!!」
ナグサが言っているシロコは、おそらくシロコ*テラーのことなのだろう。そして、ナグサが陰陽部に話した内容に補足して付け加える。シロコ*テラーとアヤメが戦闘を行っていたことを。その戦闘は、今の右腕が使えない自分では、いや、仮に万全であったとしても追いつけないぐらいにハイレベルであったことを。
「……」
『先生、ゲーム開発部の皆さんともう一人のシロコさんから、花鳥風月部の事について伝えたいことがあると……』
と、そこにアロナからタイミングよく連絡が届く。次はゲーム開発部だなと考えながらも、まずはと再び意識をナグサ達の話に向け直す。
「……アヤメを取り戻すには……今のアヤメに勝つしかない……だけど、私だけじゃ駄目……でも、百蓮があっても、勝てるビジョンが思いつかないの」
「だから、先生。私達を指揮してほしい。シャーレの先生の指揮は凄いものだと聞いているから」
「勿論手伝うよ。やっぱりそのアヤメって子が現れるのは今夜ってことでいいのかな?」
「うん、間違いないと思う……」
「……今のユカリなら、だけど……祭の方は中止にならないんでしょ?」
「うん、ニヤとシズコは予定通りやる予定だって」
「なら、必要だと判断されたんでしょうね……ナグサ先輩、私達だけでやるしかない……いや、やらなきゃいけないのよ」
「そうだよ、皆でアヤメ先輩を花鳥風月部から取り戻そう」
キキョウとレンゲから言われ、ナグサはぎゅっと左手を強く握りしめ、少し頼りなさそうに頷く。その様子を見て、三人を安心させるように笑いかけながらも先生は、夜までにできることを思い返すのだった。