転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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迫る時と動く者(後編)

 

「先生、すみませんなんか忙しそうなのに」

「ああ、気にしないでよ。それで……久しぶりだね、シロコ。元気してた?」

「……ん」

 

百花繚乱を後にした先生はその足でゲーム開発部が宿泊している宿に訪れていた。この後さらにまだまだ移動したりする予定なのか、少し急いできたために息が荒くなっている。

 

「……ごめんなさい、今まで皆会おうとしてくれてたのに私……」

「ううん、気にしなくても大丈夫だよ。それで……どうかな?今は」

「……ん……多分……少しは……」

 

先生を宿の外で出迎えたのはモルフォとシロコ*テラーだった。シロコ*テラーはモルフォの手を握りしめながら、ばつが悪そうに先生から視線を逸らす。

 

「焦らないで、少しずつでいいからね。でも、今は……」

「ん。わかってる……今がそれどころじゃないってことは。花鳥風月部の事、だよね。A.R.O.N.A.……いや、プラナはいる?」

『はい。とはいえ……ナラム・シンの玉座でない空間では私の声は彼女には聞こえないでしょうが……しかし、何故シュロがこんなところに……?』

「そっか……プラナはいるけど、プラナの声は多分……」

「ん、わかった……やっぱりそううまくはいかないか」

 

唯一、シロコ*テラーが面識のある人物はプラナだけだ。彼女がいれば、シロコ*テラーも少しは安心できるのかもしれないが、こうして先生や他の媒体を介さないとコミュニケーションが取れないのは少し不便かもしれない。音声ソフトなどを入れたらプラナだけでなくアロナもシッテムの箱の外の人物とコミュニケーションを取れるようになるだろう。そうなればもう少し改善するかもしれないが、彼女達とて喋るなら自分の声と同じ声で喋りたいだろう。そういう点ではまだまだ先の事になるかもしれないが。

 

「それで、えーと……昨日の事と、それと花鳥風月部の子がいるってことだけど」

「ああ……シュロのことですか?ただ、そのえーと……なんて言えばいいのか……」

 

朝になってからシュロの事は伝えるしかないと思ってはいたのだが、大分変なことになっていたな……そう思いながら、とりあえず先生を部屋に上げる。そこには、

 

「何を言ってるんですか!?タテガミはいいでしょう!ですがドリルは外すべきです!角ですよ時代は!」

「いいえ、タテガミがついてるならドリルです!ライオンにドリルは恰好いいんです!」

「手前が作りたいのは強すぎて恐ろしい、怖いなんですが!?」

「じゃ、じゃあこういうラフは……?」

「いやこれ可愛い方向性じゃないですか!!なんでぷりてぃーできゅーとな方向に走るんですか!!」

「ライオンを人型に変形させましょう!突然姿が変われば皆怖がります!!」

「いや、それは……まあ、一理ありますが」

「では、メカライオン作戦決定です!」

「いやちょっと待ってくださいよ」

 

怪談作りに熱中しているモモイ、ミドリ、アリス、シュロの四人の姿があった。どうしてこうなっているのか先生が思わず首を傾げる中、モルフォと四人から離れていたユズが説明を始めていく。

 

「……というわけでして」

「な、成程……」

「なんか……すみません……」

「昨日の夜と、今日の朝の話で結構色々変な方向に向かっちゃいまして……とりあえず止めるかどうかは先生、判断をお願いできますか……?」

「あ、はは……」

 

今のシュロの熱意や方向性はモルフォ自身は悪いものではないと思っている。とはいえ、花鳥風月部自体は敵の組織だ。そこのメンバーであるシュロがやろうとしているのは怪談に怪談をぶつけるというもの。だが、これがどんな被害を生み出すのかなんて誰にもわかりはしない。だからこそ、丁度先生が百鬼夜行にいるのもあり、彼に判断を仰ごうとしたのだ。

 

「……そっか。わかったよ。でも、花鳥風月部、か……」

 

そう呟き、シュロの様子を見る。彼女の様子は、これまで聞いていた花鳥風月部の噂などとはすっかりかけ離れていた。完全に等身大の人間だ。こうして見れば、ゲーム開発部と同じ、作品作りに魂を込め、熱中する一人の少女にしか見えない。活動内容こそ物騒ではあるものの、やはりそこに所属する人間もまた、このキヴォトスの生徒なのだ。

 

「ちょっといいかな?」

「何ですかいきなり……手前は今、新たなじゃんるの開拓に忙し……!?しゃ、しゃしゃしゃシャーレの先生ぇ!?」

「だ、大丈夫!?」

 

見ていて微笑ましい光景ではあるものの、さすがに声かけぐらいはさせてもらおうと、先生がシュロに声をかける。いきなり話しかけられたシュロはむっとした表情で振り向くと、そこに先生がいることに漸く気付いたのか、慌ててその場から後ずさる。勢いよく後ろにバックし、勢い余って壁に後頭部を打ち付けて痛みに悶え転がる彼女を先生が驚きながらも気遣う。シュロは後頭部を擦り、痛みに顔を顰めながらも、

 

「だ、大丈夫です……って、何で先生がここに!?ま、まさか手前を止めに―――」

「いいや、違うよ」

「え?」

「むしろ、応援に来た……のかな?」

「先生……」

 

モルフォ達の話を軽く聞いた時点で心配はしてはいなかったものの、実際に見たことで先生は確信していた。この子は大丈夫だと。

 

「えっと、シュロは燈籠祭をどうこうするっていうつもりはないんだよね?」

「……まあ、それよりもやらなければならないことが手前にはありますので。むしろ今回に限っては燈籠祭を利用して百物語を織ろうとするあの蛇女……アザミの奴に恥をかかせようとしていますし」

「そのアザミっていうのが今回燈籠祭を台無しにしようとしている花鳥風月部のメンバーなの?」

「え?あ……」

 

そんな先生との話の中で、つい今回の主犯の名前を出してしまったことに気付くシュロ。しかし少し考えてからこちらに疑問そうに視線を向けるゲーム開発部の顔ぶれと、さっさと話してしまえと目で語るシロコ*テラーの表情を見て、観念したように言葉を続けていく。

 

「ええ、そうですよ。はあ……まあ、ここまで言ってしまったらもう隠しようがありませんねぇ。土生アザミ。奴が今回、怪談を織ろうとしている張本人ですよ。アヤメちゃんも使って何かしようとしているようですが、まあ物語の内容までは手前は知りません……まあ、知る気もないですが」

 

ぷいっ、とへそを曲げるシュロ。それだけ、舞台を奪われた事にご立腹なのだろう。無論、そのアザミの横取りが無ければシュロがその役を担うことになっていたため、あくまで未遂に終わっただけで十分問題ではあったが、それを今指摘してさらにへそを曲げさせる結果になってしまうよりも、ゲーム開発部との交流で良い方向に変わってくれればそちらの方がいいと判断し、先生はシュロの本来やろうとしていたことについては敢えて触れないことにする。

 

「えっと、それで……準備とかは大丈夫なのかな……?もし大丈夫そうなら、私の方から百花繚乱の皆にも話しておくけど」

「えっ」

 

だから今自分がやるべきことは。それを考えた先生は、シュロのやろうとしていることをナグサ達に伝えようと考える。が、それを聞いたシュロの方が驚いたような表情を浮かべてしまう。

 

「いやいやいや、花鳥風月部と百花繚乱は敵同士!なんで手前の為にそこまで……」

「だってシュロも私の大切な生徒の一人だからね。その生徒がやろうとしていることを私は応援したいんだ。それにきっと、これはシュロの為になるって思ったからね」

「……先生は変わらないね。でも、大丈夫なの?あのナグサって子からしたら花鳥風月部って大切な人を奪った存在のはずだけど」

「うん……でも、キキョウとレンゲのおかげで少し立ち直ってきてるし、私の方でもフォローを入れるよ。だから、心配しないで。それに……ナグサ達も納得はしてくれるはずだよ。シュロがアザミの相手をしてくれれば、皆アヤメに集中できるからね」

「……」

 

先生の言葉に、思わず唸り黙り込んでしまうシュロ。別に自分がアザミをどうにかすること自体に文句はない。しかし、ここまで親切を働かされるとどうにも背中が痒くなってくる。が、今の自分に選べる手段はないし、そもそも今の自分が作り上げようとしている新たな物語だってほぼほぼ合作みたいなものだと納得させる。

 

「ま、まあいいでしょう。そこまで言うなら?先生にも手前の物語のお手伝いをさせてあげようじゃないですかぁ」

「あはは……楽しみにしているよ。ゲーム開発部の皆も、シロコも、シュロのこと頼めるかな?」

「ん、任せて」

「任せてください」

「バッチリ皆で仕上げるから安心してよ!」

「これがアリス達のクエストです!クエストはちゃんとクリアします!」

 

そしてシュロを皆に託すと、今度は再びその足で百花繚乱へ向かおうとする。だが、その様子を見かねたシロコ*テラーが立ち上がると、

 

「……先生。私も行くよ」

「え、いいの?」

「どこに百花繚乱があるかは知らないけど、途中までなら連れてけるから」

「そ、そっか……正直、助かるよ。今日はまだまだ動きそうだからね……は、はは……」

 

朝から歩きっぱなしの先生の足腰のためにも共に移動することにするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ユカリさーん、準備はどうですかー?」

「はい!問題ありませんわ!」

 

時計の針が夕刻を指し始める中。祭りのメインイベント、燈籠祭の舞の会場では白い衣装に身を包み、化粧で身なりを整え、普段よりも美しく綺麗な姿へと変わったユカリとシズコの姿があった。

 

「……どうでしょうか?皆さんは会場に来ていますか?」

「うーん……今の所は見えませんねぇ……とはいえ、今日は先生も忙しそうにしてましたし……」

「そうでしたか……キキョウ先輩もナグサ先輩を探していて忙しそうにしているんでしょうか」

「あ……」

 

ユカリの耳には、丁度タイミングが悪くナグサが戻ってきたことや、ナグサがアヤメと出会ったこと、花鳥風月部が仕掛けつつあることなどの情報が残念ながら入ってない。そのことにシズコも気付いたのだろう。言うかどうか一瞬悩んだものの、この燈籠祭が花鳥風月部との決戦になること、そして今回のこの祭自体が花鳥風月部の狙いであり、同時にカウンターとなるのだからと、情報として共有することに決める。それに、今のユカリならおそらく大丈夫だと信じて。

 

「……」

「あの、どうかしましたか?」

「……すみませんユカリさん。本当はもっと早く言うべきことだったんですが、実は……」

 

シズコは先生から聞いた、花鳥風月部の話や、ナグサが戻ってきたこと。そしてアヤメが花鳥風月部の一員となっていることや、この燈籠祭で花鳥風月部が仕掛けようとしていること。それだけでなく、後の方になってまた先生から共有された新たな情報、ゲーム開発部が花鳥風月部の一人、シュロの離反におそらく成功しているということなどを。

 

「……???」

「え、あの?何か分からない所とか……」

「いや、分からないというか……その、花鳥風月部の中で仲間割れ?したことはわかるのですが……その、なんで花鳥風月部から離反した子がゲーム開発部に?しかも、一緒に百物語を作ってる……???あの、モルフォさん達は洗脳されたとかじゃないんですよね?」

「いや、されてないされてない」

 

これが宇宙猫って奴ね……とユカリの顔を見ながら内心呟くシズコ。だが、自分も彼女ほどじゃないにしても先生からこれらの話を聞いた時には首を傾げたし、怪談大戦をやることにしたよ!なんて持ち掛けられた時にはシズコも何を言っているのかわからなかったものだ。しかし、残念ながら事実だ。使えるものは全部使って盛大にやろう!と先生の一声で承認されたことでそれを実行することになっていた。とはいえ、許可しなければしないでシュロがどう爆発するか分かったものではなかったという背景もあったわけだが。

 

「な、ならいいのですが……なんていうか、凄い人たちですわ……」

「それは正直思うわね……巻き込まれただけなのに、いや巻き込まれたからどうにかしようとしているのかもしれないけど……」

「って、それよりもアヤメ先輩ですわ。身共は会ったことが多分ないはずですが……名前は聞いたことがあります。まさか彼女が……となると、身共も戻った方がいいんでしょうか……?」

「いえ……このままユカリさんには祭の方に入ってもらいたいの。祭を成功させて、皆を楽しくさせたり、盛り上げたりすることも大事らしいから……なんか、こういう目的で祭を盛り上げるのは違和感が凄いけど……」

 

ぼやきながらも、ここからが大事なのだと改めて表情を引き締めるシズコ。ユカリも、最初は家の役目を担うためと思っていたが、既に問題はそれどころではなくなっており、この祭がもっと重要な意味合いを持っていることに気付き、ごくりと生唾を呑み込みながらも頷く。よもや自分がそこまでの大役を任されることになるとは。だが、

 

「……やってみせますわ。だって身共は……えりーとですから!」

「ええ、お願いね!」

 

ぐっと握りこぶしを突き出すシズコ。その様子を見て、ユカリも笑って拳を合わせる。直後、祭の始まりを告げる、爆竹の音が鳴り響く。

 

「……始まりましたわね」

「ええ……いつまで続くのか……」

 

祭が始まると同時に、百鬼夜行の中はどんどん人込みも混雑していく。この祭に来た人達は純粋に祭を楽しむために来たのだろう。屋台を巡って祭でこその食べ物を楽しんだり、メインイベントである舞を楽しみに訪れたり。多くの人々が祭の楽しさに酔い痴れていく中、裏で起ころうとしている出来事を知る人達は警戒をどんどん強めていく。

 

「……今の所は、まだ何もない、か」

 

いつ仕掛けてくるかわからない。だからといって、騒ぎが起こってから対応を、というわけにはいかない。もしかしたら既に花鳥風月部は仕掛けを祭会場に施しているのかもしれないのだから。

 

「……しかし怪異ってのはどういう感じなんだ?それすらもわからないとどういうのが仕掛けられてるかもわかんないんだけどな……それより、ナグサ先輩。右腕……本当に大丈夫なのか?」

「……正直、右腕は使えないまま。戦うにしても、左だけ……両腕が使えてもアヤメには勝てなかったのに、私一人じゃ……絶対に勝てない……」

 

会場を調べるように歩く百花繚乱の三人。レンゲが心配したようにナグサの右腕を見ると、ナグサは不安そうな表情を浮かべながら、左手に握られた、年季が入り使い込まれたであろう、無数の小さな傷跡などが付いた一丁の銃に目を向ける。これこそが百蓮。今日の戦いのためにナグサが再び手に取ることを決意した武器である。

 

「……ナグサ先輩のサポートは私達もする。先生も、戦いには来てくれると言っている。だから、私達は私達にできることをやろう」

「……うん。お願い……私一人じゃ、絶対にアヤメを取り戻すことはできないけど……皆がいてくれるなら……」

 

逃げ続けた自分に、それでも寄り添ってくれた後輩達。そして、ユカリもまたここにはいないが、自分にできることを頑張っている。だからこそ、今度は逃げるわけにはいかないと、なけなしの勇気を振り絞ろうとして、ふと考える。

 

(……今から逃げても、もう皆が無理矢理引っ張ってくるから無理か)

 

もう逃がしてもらえないだろう。今もなお、そんなことを考えてしまう自分に思わず笑みが零れてしまう。だが、同時に百花繚乱が戻ってきた、そんな感じがしていた。

 

「……?ねえ、これなーにー?」

「?」

 

ふと、三人の耳に一人の少女の声が聞こえてくる。それをきっかけに、

 

「なんだこりゃ?」

「おいおい、誰かソースでも零したのか?」

「うわ!踏んじゃった!……って、あれ?特にべたついたりとかはしてない?」

 

辺り一面から異変に気付いたような声が口々と上がってくる。三人が警戒心を跳ね上げながら景色の方を見ていると。

 

「何あれ……!?」

「影……みたいなもんが絡みついてる!?」

 

建物や屋台、地面などに黒い影のようなものが絡みついている。おどろおどろしい雰囲気を見せるそれは、まるで始まりを告げているかのようで―――

 

「まさか、怪異!?」

「ナグサ先輩、百蓮を!!」

「っ!」

 

咄嗟にキキョウが声をあげる。ナグサも素早く左手で百蓮を構えると、地面に生えている影へと照準を向ける。

 

(……私が、怪異を相手にこれを使うのは初めて。話通りなら、確かに通用する。でも、私が使ってそれができるかはわからない)

 

百蓮は、百花繚乱の委員長しか使う資格がない。こうして怪異と対峙することで、その意味を肌で実感させられる。単純に弾を撃つだけなら誰だってできるだろう。だが、怪異を祓えるのは、資格を持つ者だけなのだ。そして、その資格が果たして自分にあるのかどうか。いや、

 

(……私が、委員長の代理じゃない、本当の百花繚乱の委員長にならなきゃ……アヤメは助けられない。助けられないんだ……)

 

隣で何が起こってもいいように愛銃を握る、緊張した面持ちのレンゲとキキョウの横顔を見る。二人は横目でナグサを見て頷くと、ナグサも意を決したように百蓮を握る。

 

「……倒して、祓ってみせる……もう一度、もう一度アヤメを取り戻すために……私は……!」

 

そして、引き金が引かれる。直後、百蓮の銃口から、まるで怪異を認識したかのように放たれた光の弾丸が怪異の影へと突き刺さると同時に、光が影を照らしていく。すると、

 

「……影が、消えた」

「怪異を……祓えた……?」

 

そこには、影が消え、元の地面が広がっている様子があった。それを見て、暫く唖然としていたナグサだったが、やがて確信を得たように、その表情に笑みを浮かべるのだった。

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