転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

186 / 209
最強一角ライオンGと猫鬼クロカゲJ

 

「……わ、わかったわ」

 

舞の会場の舞台裏では、シズコが連絡を受けて、険しい表情を浮かべる。その様子を見て、ユカリも遂に噂の花鳥風月部が攻めてきたのかと息を呑む。

 

「シズコさん、もしかして……」

「ええ、花鳥風月部……本当に仕掛けてきたわね……」

「街にいる人たちは大丈夫でしょうか……」

 

謎の影から始まった異変。それは、異形の怪物を次々と生み出していったのだという。百鬼夜行の中は大混乱に陥っているのだという。それに対する行動については既に聞いているが、実際にその機会が来ると、百鬼夜行の人々の様子がどうしても気になってしまう。

 

「ええ、大丈夫よ!そもそも、これは陰陽部も承知の上でやってるわけだし……先生だっている。だから、私達は私達でやれることをやっていきましょう!」

「……はい!」

 

会場の観客席からも、街中を包み込む不穏な雰囲気が伝わってきてしまったのか、観客達の不安の声が聞こえてくる。このままでは、花鳥風月部の目論見通りに事が進んでしまうだろう。

 

「……でも、さすがに時間が早いわね……」

「ど、どうしましょうか?」

「……こうなったら、時間を前倒しして始めるわ!こういうのは勢いが大事よ!」

「は、はい!」

 

この状況が続けば、完全に燈籠祭は台無しになってしまうだろう。それだけは避けなければならない。そう判断したシズコは、大胆なオリチャーを開始。ユカリが行う舞を前倒しで始めることにする。

 

「では、行ってきますわ!!」

「あ、気を付けてね!?」

 

とはいえ、これを花鳥風月部が気にしている可能性だってある。会場には先生とシズコから協力を要請している修行部の面々が万が一に備えて待機してくれてはいるが、まだ確実に安全と決まったわけではないのだから。だが、ユカリが舞台の上に上がると、ざわめいていた観客席が途端に静かになっていく。この日の為に用意された清楚な白い衣装。化粧を整え、普段よりもずっと美しさを露わとしたユカリの、流れるような優雅で、そして自信に溢れた動きは、不安に支配されていた観客達の心を一瞬にして鎮めていた。

 

「―――皆様、燈籠祭にお越しいただきありがとうございます」

 

舞台の上に立ったユカリは、そう優しく、静かに語ると一礼をする。その一挙一動に皆が見惚れる中、ユカリは優しく笑いかけると、

 

「今、百鬼夜行で奇妙な出来事が起こっている、そう耳にしている人もいるかもしれません。ですが、ご安心ください。これは―――催しですので」

「……催し……?」

 

今起こっていることは催しだとはっきりと言い切る。その言葉に、観客達は互いに顔を見合わせる。またざわめきが広がっていく。その様子を見ていたシズコは、さすがに無理があったか?と一瞬思ってしまう。が、

 

「ああ、そういう」

「いやはや、少しひやりとしましたが、ははは。こういうのも悪くない」

「こういう趣向もこれはこれでありですわね」

「まあ、冷静になってみればこの程度はよくあることですからねぇ」

 

観客達はすんなりと受け入れていた。これはおそらくだが、彼女達は花鳥風月部も怪異も、詳しいことを知らない。シズコはそれを知っているからこそ、この誤魔化し方にも無理があるかと思っていたが、何も知らない一般人からすれば、いつもと魅せ方が違うだけでよくある騒ぎの一つなのだと解釈したようだ。それならば気にすることもないだろうと、先程とは一転して穏やかな表情でユカリの次の行動を待ち始める。

 

「それでは―――」

 

そんな、会場の熱気を感じ、手応えを感じながらユカリは、皆のために、そしてこの百鬼夜行のために舞を踊り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?怪異の、動きが鈍くなっている……?」

 

異変に気付いたのは、それが形となってから少ししてからであった。高い屋根の建物の上から怪異が出現し、暴れる街並みを見下ろしていたアザミは、怪異達に襲われ、怯えた様子で逃げ惑う人々を見て悦に浸っていたのだが、やがてその手応えが少しずつだがなくなりかけていることに気付き、困惑し始める。

 

「一体、どういう……」

「……あれかな」

 

アザミの隣で、黙って見下ろしていたアヤメが、ある一点を指差す。そこには、怪異が入り込んでいない会場があった。

 

「あれは……そうか、燈籠祭の舞……!祭の行事を行うことで、恐怖を薄れさせて……ちっ、だけどそれなら問題はありませんね……所詮それは一過性のものでしかないんだから……」

「……」

 

それを見て、どうして怪異の動きが鈍ったのかを理解する。祭を始めることで、その楽しいという感情を利用し、恐怖を薄れさせたのだ。が、それも一時しのぎに過ぎない。この怪異達が消えることは、自分達が目的を達成し終えるまでは絶対にない。そうなれば、人々は嫌でも怪異がどういうものなのか理解することになる。そしてその時こそが、抵抗が終わる時であると。

 

「……さーて……へえ?百花繚乱はもう解散って聞いてましたが……さすがにこのような状況になれば動きはすると」

「……」

 

が、そこに抗う生徒達がいた。アザミが視線を動かせば、遠くでは忍術研究部が怪異を前に勇敢に立ち向かっている様子が見えた。だが、怪異の群れの前に徐々にだが押されている様子だ。こちらはいずれ力尽きるだろう。それよりも本命は百花繚乱だろう。そこではナグサを筆頭に怪異を撃破していく三人の姿があった。

 

「……あれが百蓮の力……ですか」

 

その様子を見て、アザミの目が細められる。アザミとて、怪異に抵抗する術は存在しないと断言するほど油断はしていない。ナグサが精神的に折れた状態で戻り、百花繚乱に解散令を出したことこそ知っているものの、百蓮は健在だったからだ。そして、このような状況ともなれば、万に一つでも立ち上がり、再び百蓮を手にするかもしれない。その悪い予感は当たっていたようだ。

 

「……成程。確かに言われる程のものはある、と」

 

ナグサが、百蓮から光を纏った弾丸を撃ち、怪異を祓っていく。その様子を遠目に見たアヤメが、睨むような視線を向ける。アザミはアヤメを見ると、

 

「では、百花繚乱の方はよろしくお願いしますね」

「……」

 

そう語り掛ける。それを聞いたアヤメは無言のまま頷くと、その場から消えていってしまう。これで、百花繚乱の方は問題ない。それに、仮に百花繚乱が機能していたとして、自分の生み出した怪異達の勢いは止めきれない。それをするにはたった三人では。それに協力者がいたところで、数人程度では焼け石に水でしかない。

 

「では……ここで終幕まで、見守らせていただくとしましょうか」

 

燈籠祭は花鳥風月部によって失敗し、大混乱と恐怖の中、人々はその名を刻む。その恐怖は、負の感情は怪異をより強力たらしめる。そして、花鳥風月部が語る物語を盛り上げるのだ。

 

「……ん?」

 

後は消化試合のようなものだと。抵抗も物語を彩る一つの要素でしかない。ならば全力で嘲笑ってやろうと思った、その時だった。視界の隅を何かが捉える。

 

「……あんな怪異、作りましたか?」

 

今回作り出した怪異の姿は当然覚えている。一瞬、アヤメが力を解放したのかとも思ったが、アヤメはそこに向かったわけではない。となれば、今自分が見ているのは何なのか。

 

「あれ……あれは、獅子?何故……?」

 

それは、ライオンであった。この百鬼夜行に当然のように存在しないそれは、一瞬怪異なのかと疑うも、自分はそんなものを生み出してなどいない。となれば、

 

「まさか、あいつ……?いや……それはないでしょう……」

 

考えられるのはシュロだ。が、曲がりなりにも怪談家である彼女があんな、どこか機械っぽい獅子なんて作るだろうか。あれではジャンルがホラーとはかけ離れている。もっと別の方で出てくるもののはずだ。

 

「それに……シュロが作ったにしては幾らなんでもデザインが良すぎますし」

 

後、根拠としては絶対シュロでは作り得ないであろうデザインである。無論、時間さえかければそれなりのものはお出しできるだろうということはアザミも理解しているのだが、今回の案件を乗っ取った以上、シュロが何か行動を起こすとしても時間が足りなさすぎる。誰だってそうだが、そんな突貫工事のようなタイムスケジュールでまともなものができることなどありえないのだ。だからこそ、あれはシュロが関わっているのかどうかすらアザミには疑問なのだが。

 

「……って、は!?」

 

突然そのライオンが怪異に襲い掛かり、その鋭い爪でアザミの怪異を蹴散らしていく。それを見て驚きのあまり、思わず二度見してしまう。だが、間違いなくあのライオンは怪異を蹴散らし、完全に倒している。

 

「あれは、間違いない……同じ怪異……!あんのガキ……!!」

 

怪異とて実体がある以上、衝撃などを与えれば当然吹き飛ぶ。だが、倒すとなれば話は大きく変わってくるのだ。そして、その方法として考えられるのは百蓮以外では同じ怪異をぶつけるという方法。シュロはそれを用いて、アザミの百物語を台無しにしようとしているのだ。

 

「でも、どうやってあれを……!?」

 

だからこそわからない。シュロはどうやってあの怪異を生み出したのか。当然シュロだって怪書を持ってはいるが、どこからあんなものを捻り出したのか。だが、怪書は一人で使うものだと、そう思っているアザミには辿り着けないだろう。このどこか機械的な獅子を生み出したのは、シュロ一人だけではないということを。

 

「―――これが、手前……達が作り出した、最高にして最強!究極の力!!その名も……最強一角ライオンG!!」

「ふふ……これは強い、強いよ!!最強って入ってるんだから弱いわけがない!!」

「当然ですとも!それに角がついてるんですからもっと強い!後はG!この文字が強い!」

「全部が強いんだからそりゃそうだよ!!」

 

そんなライオン、最強一角ライオンGを呼び出したシュロはモモイと共に大盛り上がりでこの大迫力の戦闘を見ていた。

 

(あれでもこれ、怖いかな……強すぎて怖いとは中々いけてないけど……ま、いいか……こっちの方が百物語よりかは盛り上がるだろうし……というか今更だけど大分首ツッコんで……まあ巻き込まれたからしょうがないか……それに私達は立場上ミレニアムじゃなくてシャーレの部員としているし)

「頑張れー!負けるなー!最強一角ライオンG―――!」

「な、何か凄い事になってるね……でも、恰好いいかも」

「そこは皆でガッツリ足し算と引き算やってきたからね……そうなってもらわないと困る」

「渾身の一枚だったね……ジャンルを選ぶとはいえデザイン提供の立場だから私達が採用できないのが惜しいほどに……」

 

最強一角ライオンGが怪異を倒していく姿を見て、歓声を上げるゲーム開発部とシュロ。その獅子奮迅の活躍を見て、最初は怪異にビビってたりしていた人たちもやがて、冷静になり始める。

 

「なあ……もしかしてこれも祭なんじゃないか?」

「え、まじで?」

「いやだって見ろよ。あれ凄いぜ!なんかやばそうな怪物たちがあんな簡単に!」

「あのデザイン……いいですねぇ」

「ええ、我々が子供の頃を思い出しますよ。ああいうバリバリのデザインに憧れたものです」

「少年心を思い出しますね」

 

学生たちが冷静さを取り戻し、これも祭の催しなのではないかと勘違いし始め、大人たちは心の奥底に沈んでいた少年心を取り戻し始めていた。ライオンのような姿をした、ぱっと見メカっぽいそれが、本物のライオンのように、まるで生き物の如く動き、自分達を守るように戦っている。

 

「おお……」

 

襲い掛かろうと飛びかかってきた怪異を最強一角ライオンGが切り裂く。それによって助けられた獣人は尻もちをついたままライオンを見上げてしまう。そんな、子供の目線で見上げるような状況に、昔憧れたシチュエーションを思い出し、目がキラキラと輝き始める。

 

「ふはははースゴイですよーカッコいいですよー!!」

「あっ、怪異がどんどん来るよ!?」

 

その実力を見て、アザミもあれを放置するのはまずいと察知したのだろう。散らばっていた怪異をどんどんライオンGの下へと向かわせていく。一体一体はゲーム開発部と共に作り上げ、最高の完成度と実力を誇るライオンGには及ばなかったようだが、それでも数を集めればさすがにそうは言っていられない。徐々に全身に張り付かれ、身体に傷がどんどん刻まれていってしまう。

 

「ぬっ、ぐっ……て、手前達の最強一角ライオンGが……!?あ、あの蛇女……!そんなに手前が嫌いですか!!」

(いやまぁ全力で足引っ張ってる無能な働き者の仲間ムーブしてるわけだし……それは怒ると思う)

 

憤慨するシュロを見ながらも、こんなことをやっている以上主犯のアザミにどうこう思うところなんて当然ないわけだが、それはそれとして、彼女からすれば成し遂げなければならない本懐を前にして、本来目的自体は同じのはずのその仲間が全力で自分の足を引っ張って状況を悪化させているのだからたまったものではない。

 

「……ま、いいか……なんかそのアザミって人もこれには憤慨してそうでリラックスできるね」

「あの蛇女はエビス地区で表面上のあっさい付き合いしかできない喪女ですからねぇ。手前とは違いますよ手前とは!手前が他の誰かと手を組んだことすらどうせ気付けていませんよぉ!」

 

いっそ裏切って敵対しているとなった方がマシなレベルだろうし、実際シュロは裏切っているのだが。シュロの指摘通り、アザミはシュロがゲーム開発部と手を組んで裏切ったという発想に中々辿り着けない。そのせいで余計にイライラしているのだと。

 

「で、でもどうするのシュロちゃん!このままじゃ最強一角ライオンGが!」

「く……ぐぬぬ……!」

 

しかし、アザミへの嫌がらせは大成功としても、状況は刻一刻と悪化していく。ライオンGは関節部を抑え込まれ始めており、身動きも取れなくなっていた。このままではライオンGは討伐されてしまう。そうなれば、シュロ達の戦いはここで終わりだ。

 

「がんばえー!ライオンさーん!」

「!!」

「負けるなー!」

「なんかよくわかんないけど勝ってくれー!!」

「……いいですねぇこういうの」

「ああ……昔ヒーローショーに行った時を思い出すよ……」

「ふふ、こういう溜めのピンチは悪くないよな……」

「徐々にボロボロになっていくこのシチュエーション、しゅき」

「こ、これは……」

 

ここからどうすればいいのか。ゲーム開発部の提案でもう一つ用意しているものは確かにあるが、それをどう使おうかとシュロが考えていた時だった。声が次々と上がる。それは、ライオンGの戦いぶりを見て湧き上がってくる応援の声の数々だ。多くの人々が、シュロ達が生み出したライオンGの活躍を期待し、心より望んでいるのだ。

 

「……お、おお……」

 

皆が、物語を期待している。皆が自分達の作り上げたものを望んでいる。おそらく、百物語で恐怖に逃げ惑う人々を見ているだけでは絶対に感じることができない高揚感が全身を満ちていく。

 

「今だよ、シュロ!」

「!」

「今こそ、あれを出すときだって!」

「決めちゃおう、シュロ」

「シュロ!合体です!!」

『ここまできたら、やるしかないでしょう?』

「み、皆……」

「ほら」

 

その高揚感に体を震わせていると、皆から声をかけられ、モルフォに背中を優しく叩かれる。

 

「見せつけてやりなよ。シュロの今までにない新しい百物語ってやつをさ」

「……ええ、やってやりますよ!!さあ、刮目せよ!これが手前の新たなる百物語……稲生物怪録が生み出した猫鬼クロカゲの新たなる姿!!」

 

シュロが怪書を掲げると共に、白い影が最強一角ライオンGの目の前に現れる。そこから、大地を震動させ現れたのは、最強一角ライオンGと同じぐらいの大きさを持つ、白銀のボディに身を包んだ機械的な猫であった。

 

「……は!?あ、あれは……まさか、クロカゲ!?で、でもあの姿は一体……!?一体何が―――」

 

遠目から見ても、それがわかったアザミは、唖然となりながらそれを見る。クロカゲと呼ばれるそれは本来、もっと生物的で、黒い体をしていたはずだ。それ故におどろおどろしく、猟奇的で、恐怖感を煽る存在だったはずだ。しかし、今現れたそれは、何故か生物とはかけ離れた無機物へと変わり果てていた。これでは、かつてのクロカゲが持っていた不気味さは完全に皆無だ。

 

「これが……新たなるクロカゲの姿……その名も、猫鬼クロカゲJ!!」

 

クロカゲJが咆哮と共にライオンGに取り付いていた怪異が次々と吹き飛んでいく。それによって自由を取り戻したライオンGがクロカゲJの隣に移動する。

 

「今です!クロカゲJ!!ライオンG!!お前達が、手前の百物語に、新たな境地を作り出すのです!!さあ!!合体です!!」

 

そして拳を突き上げたシュロの声に反応するように、クロカゲJが飛び上がると共にライオンGと一つになる。光となって分離したクロカゲJが次々とライオンGに装着されていき、クロカゲJを纏ったライオンGの全身に、色が灯り始める。ゲーム開発部渾身のアイデアが存分に注ぎ込まれ、誕生した新たなる最強一角ライオンGは、高らかに咆哮を上げる。

 

「「「うおおおおおおお!!!」」」

 

そこに、恐怖なんて感情はもうどこにも存在しなかった。あるのは、この百鬼夜行を脅かそうとする敵を倒さんとし、自分達の味方となる詳細も分からぬライオン型のロボットが、猫型ロボットと合体し、更なる姿へと変わったという展開だけである。溢れる熱気の中、ライオンGの叫びを聞いたアザミは、

 

「こ……こんなものが、こんなものが百物語であってたまるかあああああああ!?ふざけんなよボケがあああああああああ!!!」

 

憤慨しながら屋根が蹴破れるほどの強さで勢いよく足を叩きつけることしかできないのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。