転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
燈籠祭は無事に終了した。とはいえこれは表向き、祭を訪れた人々や、何も知らない屋台の人達などへ向けての発表である。しかしその裏では、花鳥風月部の襲撃によって燈籠祭を台無しにするばかりか、百鬼夜行そのものが怪異によって揺るがされる程の事態が発生していたものの、それは百花繚乱を始めとする複数の組織、そしてシャーレの先生と偶然現地で合流し、共闘してくれたシャーレの部員と共に解決をしてくれた……ことになっている。
「―――と、いうことにしておきましょうか~、いやぁ、シャーレの先生がいてくれて本当に助かりましたよ~」
「あはは……まあ、協力できることはさせてもらうよ」
「……まあ、不可抗力であり、彼女たち自身もそれを望んだという背景はあったとはいえ、こうした方が丸いでしょうからね」
燈籠祭の翌日、陰陽部を訪れた先生はニヤらと共に今回の後始末について話をしていた。花鳥風月部の襲撃を無事退けることはできたものの、彼女達の撤退を許してしまっていた。
「それで、花鳥風月部について手がかりは何かあったりするのかな?」
「それがなんとも……まあ、まだ一夜ですからねぇ。そこら辺を調べていくのはこれからってことになるでしょう」
「調査はこちらで進めておきます。もし進展が何かあれば、また先生に協力を申し出ることがあるかもしれません」
「その時は是非協力させてもらうよ、カホ」
「ありがとうございます」
(……コクリコ、か)
花鳥風月部のトップ、おそらく部長と思われる人物、コクリコ。見た目は明らかに大人にしか見えないと聞いたその人物は何者なのかを考えながら話を続ける。
「いやはや、しかし……よもや三つ目の怪書を持つ人物まで出てきてしまうなんて」
「ニヤ。シロコ達は……」
「いえいえ、まさか彼女達を責めるなんてことするわけないじゃないですか。むしろ、奴らを退けてくれる手伝いを他学園の生徒なのにしてくれたんですから、むしろ感謝しかありませんよ。いやはや。怪我がないようで本当によかった」
ニヤが、陰陽部の生徒にあるものを持ってこさせながら慌てて先生に伝える。シロコ*テラー達が花鳥風月部の撤退を許してしまったのも、仕方のない事だと。そして、陰陽部の生徒が持ってきたのは、一冊の本であった。
「これって……もしかして」
「ええ、土生アザミ。花鳥風月部の一人が使ったとされる怪書です。これは陰陽部で厳重に管理する予定です」
「本来ならば今すぐにでも破棄して焼却でもしてやりたいところなのですが……」
「もしかしたら~……来る、かも?」
怪異を生み出す代物なんて、今すぐにでも消したいというのが本音だ。とはいえ、この怪書は現状だと花鳥風月部に繋がる唯一の手掛かり。チセの言う通り、このまま残しておけばもしかしたら花鳥風月部が取り戻しに来るかもしれない。そこを捕らえることができるかもしれない。だが、花鳥風月部に繋がる手がかりと言えば。
「……アヤメは?」
「アヤメさんですか……」
百花繚乱との戦いの後、眠りについたアヤメ。あの後、急いで病院に搬送されたものの、まだ彼女は目を覚まさないままだという。
「……一応調べた限りでは、現状怪異の影響はない……と思われます。とはいえ、私達が怪異について知っていることは殆どありませんので、不穏な様子などは何も見えない、というところから判断したという根拠のない情報になってしまいますが」
「百蓮の力が本当に伝承通りなら、アヤメの中の怪異の力は祓われている。そう解釈するしかないでしょうねぇ」
怪異の後遺症によるものなのかとも疑われたが、現状の彼女にそういった要素はもう残っていないようにも見えた。となれば、目を覚まさないのは単純に疲労によるものなのかとも思われたが、どうやらそういうわけでもないらしい。
「うーむ、なんといったらいいのか……」
ニヤとカホが困ったように互いに顔を見合わせる。先生がどういうことかと首を傾げていると、チセが手を上げて要約したかのように発言する。
「なんていうか、起きたくない感じ~」
「起きたくない……?」
「まあ、大体そんな感じなんですよねぇ……こう、詳しくと言われると困ってしまうのですが」
チセの言う通りではあるのだが、それだけでは……と困ってしまう先生。しかし、ニヤ達もどういうことかと言われても言葉通りとしか言えないのだ。
「……元々、アヤメさんは百花繚乱の委員長として、明るい人柄で誰にも慕われていた人物でした。それ故、多くの人物が彼女を頼りにし、彼女もまた百花繚乱の委員長としてそれに応え続けていたのですが……その日々が、彼女が精神を病むきっかけになってしまったのかもしれません」
かつて、アヤメがいた時の事を思い出しながら語るニヤ。彼女の心情について自分の予想も織り交ぜながら話した後、「ここからはあくまで私の想像でしかありませんが」と前置きをしたうえで、真剣な表情でうっすらと目を開きながら話し始める。
「アヤメさんが花鳥風月部に下ったのは、花鳥風月部の仕込みによるものかもしれません。いくら精神を病んでいたとはいえ、彼女が百花繚乱の委員長である時間は任期から見ても終わりが見えていたはずですからね」
彼女自身がその時間をどう捉えていたかはまた別の問題ではあるだろう。だが、彼女が百花繚乱でいれたのは高校生の間だけだ。その後は引継ぎなどもあるだろうし、そういった意味では見た目よりも委員長を務めている時間はそう長くないはずだと。そして、これまで精神が追い詰められていてもなお仮面を被り続けることができていた彼女ならば、最後まで走り切ることもできたはずではないかと。
「だからこそ、それを揺るがす出来事が起きた。百蓮の力を使えない、アヤメさんがそれを自覚してしまう出来事が……つまり」
「アヤメは、怪異に襲われてしまったと?」
「ええ、いや襲われたというよりも……おそらく、彼女に百蓮をわざと使わせて、その資格がなかったと認識させる必要があったのでしょうね。その結果、彼女は百花繚乱の委員長というアイデンティティを大きく揺さぶられることになった。百花繚乱の委員長たる資格は二つ……百蓮を継承することでその力を振るい、そしてクズノハに会う権利を有する。特に百蓮の方は急務だったのでしょう。また怪異に襲われ、その現場を他の人達に見られたら、自分は委員長ではないという証明になってしまいますので」
「……」
「百蓮の力については……怪異に対してしかその力を発揮しないところを見るに、正直私個人は過去の百花繚乱の委員長で実際に使えた者の方が少数派だとは思いますが……クズノハと実際に会った、という人物も正直いないのではないでしょうか?いえ、本当に会った人物ももしかしたらいるかもしれませんが……こればっかりは悪魔の証明に他なりませんね」
カホが付け加えた言葉にニヤも同意するように頷く。そもそもクズノハと会えた人物は二人が知る限りセイアとモルフォのみ。それも、ベアトリーチェが行った儀式によって彼女のいる空間に転がり込んだという偶然の産物でしかない。これが意味するのは、少なくとも彼女達が知り得る限り、真っ当な手段で会うことは不可能である、という点だ。
「でも、ナグサは会ったんだよね?だから、クズノハからメッセージを受け取ったって……」
「そうなんですよねぇ……そして百蓮を扱えたと。あくまで百花繚乱の規則に則るなら彼女が委員長であることを疑う余地はない、ということですね」
先生は、忍術研究部からナグサから受け取ったという、クズノハのメッセージを受け取っていた。彼女曰く、色彩に侵された者を元に戻す方法はないという。そのことについて先生も気にはなっていたものの、百鬼夜行で偶然にもシロコ*テラーと再会したこと、多少落ち着かない様子やどこか一歩引いている様子こそあったものの、徐々にだがモルフォ達ゲーム開発部に引っ張られる形で少しずつだがモルフォ以外とも打ち解け始めている事。そして、彼女自身が元の姿に戻るということについてそこまで関心を寄せていない様子をみせており、それによって不都合がなかったため、先生も彼女を元に戻す必要性はもしかしたらないのかもしれないと考えるようになっていた。
「……先生?」
「あ、ごめん、ちょっと別の考え事をしちゃってて、それでどういう話だったかな……」
「まあ、百花繚乱については今回色々ありましたからねぇ。色々考えが逸れちゃうのも仕方ありません。では改めて。百花繚乱はナグサさんによって解散令が出されていたと思いますが、解散令は取り下げられました。まあ、今回の活躍や百蓮の存在を考慮すると陰陽部の方から解散令は取り下げさせるつもりではありましたけど」
そして百花繚乱は無事に存続することが決まったようだ。ナグサも、以前よりも委員長として前向きになっているようであり、去っていった人たちはまだ戻ってはいないため人数も実質四人のままではあるものの、なんとかなってよかったとほっと胸を撫で下ろすのだった。
★
百花繚乱の本部。その縁側に腰掛けるゲーム開発部とユカリの姿があった。ユカリからアヤメとの戦いの顛末を聞き終えたモルフォは、今の彼女の様子を聞くことにする。
「大変だったんだね……それでアヤメ……さんは?」
「今は病院にいますが……折を見て百花繚乱の方で引き取ることになっています。ただ……ナグサ先輩が言うには、何か楽しい夢を見ているようだと」
ユカリが、少し離れた所でシロコ*テラーと共に立つナグサの姿を見る。そしてモルフォ達に視線を戻すと、
「いつか、アヤメ先輩が目を覚ましたいと思った時……その時まで待つと言っていました。身共も……キキョウ先輩もレンゲ先輩も、アヤメ先輩が目を覚ますその時を待つつもりです」
「そっか……でも、まさかこんな着地をするとは予想もしてなかったよね」
「あはは、確かに」
そう答える。百鬼夜行に来たこの数日で色々あったが、ユカリと付き合いながらも燈籠祭を楽しんで終わりだと思っていたら花鳥風月部やら怪異やらでとんでもないことになったものだと。モルフォの発言にモモイも思わず苦笑してしまう。
「……でも、今日で最後なんですね……寂しくなりますわね」
隣に座るモルフォをじっと見つめながら、寂しそうに呟く。二人とも同程度の身長が故か真正面からお互いの目を見つめ合う中、モルフォは突然笑いながらユカリの肩をポンポンと叩く。
「ひゃっ」
「寂しくって、別に今生の別れじゃないんだから大げさだって。そりゃ通ってる学園は違うけど、そっちの自治区に行けばいつでも会えるわけなんだし、そこまで気にしなくてもいいんじゃない?」
「それは……そうですけど」
別に用事なり行きたいと思えばモルフォだって百鬼夜行の自治区に行くし、それは逆もまた然りだ。ユカリが来たいと思えば自由にミレニアムに来ればいいのだから。
「それに、シャーレの部員になればシャーレでも会えるでしょ?」
「確かに……身共もシャーレの部員になれば皆さんとまた会えますわね!」
「はい!アリスもまたユカリと会いたいです!」
「今度さ、一緒にゲームしようよ!」
「それ……いいね」
「機会があったらさ、踊ってるところとか見たいけど……いい?」
モルフォの言葉に他の皆も乗っかってユカリに声をかけていく。その声を聞いていく内にユカリの寂しそうにしていた表情がどんどん明るくなってくる。
「はい!もちろんですわ!……本当に、皆さんと会えてよかった……」
「うん、私達もユカリと会えて凄く楽しかったよ……って、ユカリの方は結構大変だったからこういうのも違うかもだけどさ」
「そんなことありませんわ!身共も凄く楽しかったですし!」
偶然出会って、一緒に特訓したり、一緒に遊んだり。今にして思い返せば凄く濃密で、楽しい時間でもあった。あの充実した時間を過ごせたからこそ、今に繋がっているのだろう。そう思えば、感謝してもしきれない。特に、見様見真似であったとはいえモルフォが見せてくれた妙技があったからこそ、キキョウに勝つことができ、彼女を動かすことができたのだ。他の面々からも大事なことを教えてくれたが、特にモルフォに対する恩義は大きい。
「……また、近いうちに会いたいですわ」
「うん、また会おうね。あ、そういえば昨日以外ずっと一緒にいたからモモトークとか交換してなかったっけ」
「あ、そういえば……!」
モルフォの言葉でユカリは慌ててスマホを取り出す。そしてゲーム開発部全員とモモトークを交換し終えてワイワイと話に花を咲かせていると、その様子を部屋の奥から見ながら、レンゲが溜息を吐く。
「いいなぁ、ユカリのやつ。あーあ、アタシも自治区の外を出歩いてなんか出会いでも探してみようかなぁ」
「そんな都合のいいことなんてないわよ、諦めてた私達に」
「そういうもんかね……ま、そういうもんかもしれないか……」
「……ま、私達はこれからじゃない?」
そんなレンゲの姿をキキョウが呆れながら窘める。そして、縁側から離れた所にいたナグサとシロコ*テラーは他の人達には話し声が聞こえない程度の距離にいることを確認して口を開いていた。
「……よかったね、ユカリ……頼りになる人達と出会えて」
「……そうだね。ナグサも……取り戻せたんだね」
「うん……今は少し、疲れて眠ってるみたいだけど。いつか、きっと目を覚ましてくれる」
「……」
「その時……私はもう一度、やり直したい。アヤメの友達として、もう一度……」
「……もう一度やり直す……」
シロコ*テラーがぽつりと呟き、天を見上げる。そしてモルフォに視線を向けると、何かを決心したように頷く。
「……そうだね。やり直す……うん。ありがとう、ナグサ」
「え……?」
「今のナグサを見ていると私も……覚悟できる気がしたから。少し、頑張ってみるよ」
「……うん、頑張って。それと……こっちこそありがとう。手伝ってくれて」
何を頑張るかまではナグサもわからない。だが、それを聞かずとも、彼女が決心したことならと何も言わずに応援することに決めていた。ナグサの何かが吹っ切れた良い表情を見てシロコ*テラーも、もう一人のモルフォと再会する前にこの世界のアビドスの皆と会ってみようと。それから、彼女が現れた時に笑顔で迎えてやろうと。
「……結局、その腕はそのままなんだね」
「うん、でも……その内なんとかなるよ」
「そっか。なんとかなる……か」
そして、二人はナグサの右腕を見る。思えば二人の奇妙な関係の間に最初あったのはこの右腕だったのかもしれない。そこから、アヤメとシロコ*テラーの戦いが始まり、それから色々なことがあったのだ。結局この右腕はアヤメが戻り、花鳥風月部を撃退してもそのままだった。だが、いつかこの右腕もどうにかなるかもしれない。今はそんな希望も持てるようになっていた。
「……また、百鬼夜行に来なよ。その時はお勧めの焼き鳥屋教えてあげる」
「……ん、楽しみにしとく」
そう言い合い、二人は静かに笑うのだった。
★
「……はぁ」
数日後。屋敷の中にある和室で、シュロは溜息を漏らしていた。彼女の手に広げられていたのは。シュロが持つ怪書、稲生物怪録。そこには最強一角ライオンGと百鬼クロカゲJの絵が描かれていた。それは、シュロが一人で作り上げたものではない、ゲーム開発部の皆とあーでもないこーでもないと色々こねくり回しながら作り上げた成果であった。
「……うー……」
部屋の中を見渡しても、そこには自分以外誰もいない。むしろこっちの方が当たり前だというのに、なんだか寂しくてしょうがなかった。
(あの蛇女は……まーたエビス分校の方にでも行ってるんでしょう。怪書を失ってコクリコ様に会わせる顔もないんでしょう……まあ、手前も会いたくありませんが)
この屋敷にいるのは自分とコクリコだけだ。他の花鳥風月部のメンバーであるアヤメは既におらず、アザミは表向きの顔として運営しているエビス分校の自治区の統治に向かって以来、戻ってくることはなかった。彼女としても色々思うところがあったのだろう。どうせ表向きの顔の方に逃げているのだろうとシュロは適当に決めつけておく。
「……会いたい……」
「誰に会いたいって?」
「うぇ!?こ、コクリコ様!?え、あいやこれはその」
だからこそ、いつの間にか部屋の中にコクリコが入ってきていたことに気付かなかったのだろう。コクリコに呟きを聞かれたシュロは、慌てて起き上がり、コクリコから距離を取るように後ずさりながら慌てて怪書を閉じようとする。だが、あまりにも慌てすぎたせいか怪書は彼女の手から離れてしまい、コクリコの足元へと落ちてしまう。
「……ふむ。シュロや」
「は、はいぃ!」
「……いい友達を見つけたんだねぇ」
「……え……」
怪書を覗き込んでいく。そこにある、とても怪異とは思えない機械の獣。そして怪書に挟みこまれた、別の人物が描いたと思われる数枚の絵。そして、つい最近になってシュロが描いたと思われる、少女達の絵。それを見たコクリコは、優しい笑みを浮かべながら、シュロの頭を撫でる。
「……怒らないんですか?手前を……」
「怒ることなんて何もないさね……シュロ。友達と過ごした日々は楽しかったかい?」
「……楽しかったです」
「もう一度会いたいかい?」
「……それ、は……会いたい……です……」
そして、シュロに優しく問いかける。シュロはその問いに正直に答え、それを聞いたコクリコはより、表情を柔らかくするのだった。