転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
「「「……」」」
三人の少女が座っていた。三人ともワイルドハントの深緑色の制服を着ている。その内の一人はフユだ。そして残る二人は、ベージュ色の髪の少女と、黄緑色の髪の少女だった。その内、黄緑色の髪の少女は、対面に座るアリスの姿に気付き、笑顔を見せる。
「久しぶりだね、アリス!」
「はい!リツも久しぶりです!」
ワイルドハントの三人の対面に座っていた五人は、ゲーム開発部であった。その中でも、モルフォとミドリはフユと、そしてリツとアリスはそれぞれ面識があったのだろう。リツとアリスは握手をしながらお互いに楽しそうに笑う。
「そういえば二人は知り合いでしたっけ」
「はい!一緒に綱引きをした仲です!」
「……ああ、晄輪大祭の時の……」
ベージュの髪の少女が思い出したように頷く。その様子を見て、フユも一度咳払いを入れると、隣に座るベージュの髪の少女に注目するように両手を振る。
「それでは、私とリツのことは皆さん知っているようですので紹介は割愛させていただきましょうか。こちらにいらっしゃるのが我らが特殊交易部の部長!桜井ミヨですよ」
「……よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
フユに手を振られながら紹介されたミヨが少し遠慮がちに言う。だが、モルフォ達の反応からそれが気難しいものとかではないと判断して少しだけ安心したように表情を緩める。
「えっと、以前フユさんからそれとなく話は聞きましたが……」
「……え、ええそうですね。なんでも、ゲームのシナリオを書いていらっしゃるとかで……まあ、その、インスピレーションになるかと」
「あー……えーと……私のシナリオ……ってことですよね……?」
先日、フユと会った時に触れていた話だ。モモイのことを聞き、引っ張り出してきたのがミヨのようだが、その時にフユが言っていたのは恋愛物のシナリオがどうという話であった。そして、モモイもそういう、ギャルゲーや乙女ゲーのシナリオ自体は確かに書いている。書いてはいるのだが。
「ただその……ちょっと色々な事情があってお蔵入りになってるものばかりで……」
「あ……い、いえ気にしないでください!そんな無理に見ようとか、そういうわけじゃないので!」
モモイの、遠慮がちな言葉に慌ててミヨが両手を振る。お蔵入りになったシナリオ。それは絶対に他人に見せたくないものだろう。それを絶対に見せたくないという気持ちは非常に理解できる。ここで無理矢理暴けば黒歴史になってしまうから。
「いやぁ、その……話自体はできてるし、別に公開してもいいはずだったんだけどゲーム的な都合でお蔵入りになっただけというか、そもそも男性キャラの方が設定倒れしたからお蔵入りになったというか」
「……?」
「……とりあえずこれがシナリオの一つなんですが……」
ユズが紙に印刷してきたプロットを渡す。本当に読んでいいのかとミヨがモモイを見やるが、モモイも供養も兼ねて読んでほしいと無言で頷いたのでそれを受け取っていく。
「……ふむ?ヒロインの一人は活発で運動神経がよくて、ゲームを始めとして多趣味で……主人公と出会って一目惚れしてしまい、そこからアプローチをしていく……いろんなところをデートして、仲を深めていき、最終的には結ばれ、エンディングでヒロインが大人になった時代まで時間が飛んでゴールインと……」
プロットを読み込んでいく。イベントや描写がぶつ切りになっている所も多いが、これ自体はゲームに落とし込む前提で考えられているのだろうと理解する。その上で読み取っていくと、複数ヒロインがいるという前提ならば属性を少し盛りすぎな気がするものの、別に問題ないようにも見える。イベントだって王道なものも多いし、内容も悪くない。エンディングもベタだが、ここまでプレイヤーが感情移入してきたキャラが大人となり、慕っていた人と結ばれて新たな人生のスタートとなるのはシンプルに喜ばしいことのはずである。
「……普通では?」
「ええ……」
「特におかしい部分はないと思うけど……」
どこに問題があるのかわからず、ミヨは勿論、左右から覗き込んでいたフユとリツも首を傾げてしまう。モモイは気まずそうにミドリを見ていたが、ミドリは溜息を吐きながら何故これが没になったのかを説明する。
「……ヒロインの攻略対象、先生がモデルなんです」
「……え?そうなんですか……?」
「まあ、このキヴォトスで頼りになる男性といえばあの人でしょうし。我々もお世話になりましたからね……別にモデルとしては普通では?」
「確か先生が来てから先生をスケッチする人とかもちょこちょこ増えてるよねー」
没になった理由は、攻略する男性が先生だったからだ。しかし、別にいいじゃないかと三人は首を傾げてしまう。先日、ワイルドハントに訪れた先生と協力してある件にあたった特殊交易部は、先生の人となりを多少は知っている。それ故に信頼できる人だと。そういう人だからこそ、モデルになること自体は決しておかしくはないのだが。
「……先生をできる限り忠実に再現したら、どれだけやっても好感度が一定の数値で止まってしまって……そのせいでエンディングに入らない不具合が起こってしまって」
「なんでそこでリアルを持ち込むんです!?」
思わず声を荒げてツッコんでしまうミヨ。言わんとすることはわかる。先生が生徒にうつつを抜かすのは教育者としてまずいだろうということは。というか先生がそうやって落ちる存在だったら正直ワイルドハントに来る前にとっくに誰かしらが落としているであろうことはミヨらも何となくはわかる。それがないのだから先生としてそういう一線は引いているはずなのだ。なんか不穏な噂を聞くがそれはそれとして。
「大人と子供だから恋愛はできないなんて言い出したら物語が始まらないでしょう!?」
「そうなんだよね……まあ、だから攻略相手のステータスを弄ろうみたいな話も出たんだけど……こう、解釈違いになったっていうか?」
「……あー」
ならば攻略対象の設定を弄ればいいのではないかとも考えたが結局没になったというモモイの言葉に、わかりみが深いとうんうんと頷いてしまうミヨ。
「でも、モデルが先生なら案外攻略方法とかもあるのでは……?」
「うーん、友情エンドならいくらでもできるんだけど」
「例えば?」
「一応考えたのだと……ヒロインは実はスーパーロボットの開発者で彼をそのパイロットの適性ありと見込んで接近していて、激しい戦いを通じて友情を深めるのとか……」
「え?」
「実はヒロインは武器になれる能力者で、非日常に巻き込まれた彼と契約して彼の武器として戦い、パートナーとして絆を深めていくとか……」
「あの」
「ヒロインが彼を特殊な力で変身させて、魔獣となった彼が世界を守るために戦う王道系の話とか―――」
「王道ってジャンルが違うのでは!?」
いやまぁ先生ならこうもなるかぁとミヨの隣でフユとリツが苦笑し、アリスが笑い、ミドリとユズが呆れている中、モモイが目を逸らしながら語る。なんだかんだでノリにノッて考えていた部分だったのだろう。それが没になった辛さはどうしてもあるようだ。
「一応そこの部分だけ書き換えて使えないかみたいには言われたんだけどぉ……これはこのキャラだからやりたいというかぁ……シナリオだけぶっこ抜いてキャラを変えるのは全然違うというか……」
「わかる……凄くわかる……!!」
モモイの手を固く握りしめ、うんうんと頷くミヨ。どうやら二人は魂で深くわかり合うことができたようである。
「……ではそろそろ、親交を深めるためにも一緒にゲームでもやりませんか?」
「ゲーム……ですか?」
「ほう……っと、それはトランプですか?」
「ええ、ただやるのはトランプではありません……やるのはインサイダーゲーム、ですよ」
「「「インサイダーゲーム?」」」
トランプを取り出したモルフォにフユが反応する。またドット&ボックスみたいなゲームかと思いきや、トランプを使うもの……と思いきや、モルフォが提案したのはインサイダーゲームなる謎のゲームであった。
「インサイダーゲームのルールは簡単です。マスター、インサイダーを一人ずつ、そして残る全員が庶民に分かれてゲームを行い、皆の中からインサイダーを見つけ出すんです」
そう言いながら、色のついたジョーカーとモノクロのジョーカーを取り出す。色のついたジョーカーがマスター、モノクロのジョーカーがインサイダーということらしい。後は適当にその二枚を含め人数分となるようにトランプを抜き出していく。
「インサイダーを見つける……」
「ええ」
インサイダーゲームは、役職をそれぞれ確認した後、まずマスターは自分がマスターであることを公開する。その後、全員に目を閉じさせ、お題を確認する。このお題はランダムで選ばれるのだが、今回はくじ引きや抽選に使われるツールを使って代用し、そこに各々適当にお題になりそうな皆が知ってるもの、車や銃などを入れてそこから一つ選ばれるようにする。選ばれたお題をマスターが確認した後、マスターも目を閉じてインサイダーがそのお題を確認する。
その後、マスター以外のプレイヤーは五分の間にマスターにお題を当てるために質問し、マスターはそれに対し「はい」「いいえ」「わからない」「どちらともいえない」のいずれかで回答する。この時点ではインサイダーも含め全員でお題を当てることを目指し、誰かがお題を当てた場合、再び五分かけて誰がインサイダーかを話し合う。そして多数決を取り、誰がインサイダーかを見破れば庶民の勝利、バレなければインサイダーの勝利となる。
「成程……インサイダーはいかにバレずに周りを誘導するかが大事、と……」
「でも人数が多すぎませんか?八人……いえ、実際はマスターが抜けるので七人、その内の一人というのは……」
「ふむ……通常ルールでは一人なんですが……今回はインサイダーを二人にしますか?確かフォロワーっていうインサイダー側の役職もありますが……これを吊っても庶民は勝てませんからね。今回はインサイダーを二人にして、どちらかが見破られれば庶民の勝利ということにしましょうか。まあ、それで簡単なようであれば次からはインサイダーを一人にしてプレイしましょうか」
二枚のジョーカーをインサイダーに、そこにスペードの3のカードを加え、それをマスターとする。トランプの割り振りをそれに変更し、各々にカードを振り分けていく。
「……では、マスターは私なので今回のゲームは私が仕切らせてもらいます」
そしてマスターとなったのはモルフォであった。まずモルフォがマスターであるスペードの3を見せ、全員に伏せてもらってお題を確認する。続けてモルフォも目を閉じて、二人のインサイダーが互いに顔合わせとお題の確認を行う。そしてゲームを始める前の準備が全て整う。
「では、お題についての質問を皆お願いしますね」
「質問……ふーむ、はいかいいえか、わからないかどちらともいえないか……」
「質問です!それは存在するものですか!!」
「え?あ、はい」
「いやアリスちゃん、存在しなかったら問題に出てこないような……」
「一応空想上のものもあるから質問としてナシってわけではないよ、だから答えははいだね」
まずはアリスが質問する。それに答えるモルフォという一連の流れを見て、インサイダーゲームはこういう感じで進行するということは全員に伝わったようで、
「ではそれは……買えるものですか?」
「はい」
「買える……では、生き物ですか?」
「いいえ」
「家にある?」
「はい」
「皆が持っているもの?」
「はい……いや、どちらともいえない?けどまあ、はいでいいはず……」
「い、一気に不安になったんだけど……」
ミヨ、フユ、ユズ、モモイと質問を繰り返していく。最後の質問にはモルフォも歯切れが悪くなり、全員が不安になってしまうが、基本的に皆所有しているという前提で話を進めることにする。
「皆が持ってて家にあって、生き物じゃなくて買える……もしかして家具?」
「いいえ」
「……それは、娯楽ですか?」
「はい」
「娯楽?娯楽……あっ、オモチャでしょ!」
「いいえ」
「えー違うの?」
ミドリ、ミヨ、リツがさらに質問を重ねていく。そんな中、ケイは今回のお題に気付き、アリスにそれを伝えていく。
『アリス、これは……もしかしたら』
「あ……確かにそれなら……!アリス、わかりました!答えはゲームです!」
ケイからその答えを聞いたアリスは、納得したように頷きながら宣言する。それを聞いた途端、周りから「あー」や「成程」といった納得の声が聞こえてくる。それを聞いたモルフォは笑顔を浮かべながら、
「正解だよ、アリス。今回のお題はゲーム。だけど……インサイダーゲームはここからだよ。二人いるインサイダーを見つけ出さなきゃいけないからね」
今回のお題の答えを告げる。ゲームは存在するものであり、買えるものであり、生き物ではない。家に存在しており、基本的に皆が持っている。それでいて家具ではなく娯楽である。これらの条件を満たすお題として合致している。全員で質問し、推理を重ねてケイと共に答えを導き出したアリスはドヤ顔を見せる。
「そういえばここからはモルフォちゃんも参加するんだよね?」
「うん、私もインサイダーが誰かは知らないからね。それじゃあ、タイマースタート」
だが、インサイダーゲームはまだ終わっていない。モルフォが言うように、インサイダーが誰かを明らかにするのがこのゲームの本質だ。ここからは、この中に二人いる、巧妙に正体を隠しながらプレイヤー達を正解へ導こうとしていたインサイダーの正体を推理しなくてはならない。この中で白なのはマスターであったモルフォだけ。それ以外の全員が容疑者という状況の中、真っ先に疑われたのは―――
「ふむ、やはりこれは一番最初に質問をし、答えを出したアリスがインサイダーでは?」
「え!?違います!アリスは勇者……じゃなかった、庶民ですよ!」
「私はお姉ちゃんが怪しいと思うけど」
「ええ!?いやいや、私庶民だって!皆そう思うでしょ!?」
「……いやぁ、少なくともこの状況で自分がインサイダーだと言う人はいないだろうけど……」
アリスとモモイだった。アリスは単純に答えを知っていて閃いたような仕草で解答しただけではないかという根拠をフユが語り。そしてモモイを疑っていたミドリはある根拠を口にする。
「だってお姉ちゃん。皆が持っているって言ってたじゃん?それってさ、答えがゲームだから皆が持っているものだって認識していたってことでしょ?」
「いやいやいや!家にあるものなら皆持ってるかどうかって質問してもおかしくないでしょ!ユズはどう思う?」
「え、私!?私はえっと……まあ、今の所モモイがインサイダーとは言い切れないかなって……ひとまずしらみつぶしにするためにあんな質問をしたっていう可能性もあるし……」
「―――むしろ真っ先にモモイに擦り付けようとしたミドリが怪しいのでは」
「!?」
ボソリと一瞬だけケイが表に出て静かに呟く。特殊交易部の手前、ケイはその一瞬だけですぐにアリスに切り替わるが、その発言を聞いたミヨが考え始める。そして、
「……怪しい人物は絞れました」
「へえー、誰?」
「……あなた達二人ですよ」
ワクワクした様子のリツ、そして他の面々もミヨの両手を見る。その指先が向けられたのは、ミドリとフユであった。
「ちょっ!?いやいや私はどこからどう見ても庶民じゃないですか!なんか変な質問してました!?」
「わ、私も変なことは言ってないと思いますけど……」
「フユについては買えるものから生き物を出した理由についてもちょっと問いただしたいところですが」
「いやぁあれは……言ってから食べ物って言えばよかったかなって気付いて……」
「まあそこはいいです。それよりも問題なのは……この二人の質問ではなく、真っ先に突っつけそうな人をインサイダーだと断定したことですよ」
「……あー、真犯人が罪を擦り付けるために行動を起こすあの感じ」
ミヨの説明を聞き、モモイも何となく今の議論に既視感を思い出したのだろう。二人の言葉を聞き、その場にいた全員の視線がミドリとフユに向けられる。そして、その視線の圧に耐えかねたのだろう。ここで二人は致命的なミスをしてしまう。それは、お互いにちらと、一瞬ではあるが目を合わせてしまったのだ。そして、その一瞬を逃す面々ではない。
「……今、目が合ったね」
「これは、二人が同じ役職であることの証明……」
「い、いやぁ今のはたまたまで」
「……あ、もう時間切れですね」
慌てて弁明をしようとするフユだったが、無情にもタイマーの音が鳴ってしまう。そして、一斉に誰がインサイダーかを当てるために指を差すことになるのだが。フユとミドリは最後の抵抗をするかのようにアリスとモモイをそれぞれ指差すも、残る六人は三人ずつ、フユとミドリを指差してしまう。そして、フユとミドリのカードをモルフォが表向きにすると、そこにはしっかりと、ジョーカーが描かれていた。
「ば、ばれた……やっぱりあれって露骨すぎたのかな……」
「さ、さすがですねミヨ……この手の展開は得意分野でしたね……まさに特殊交易部部長の本領発揮といったところでしょうか」
「何が本領発揮ですか。これはフユが迂闊すぎただけでしょうに」
「まあ、最初は驚いたけどちょっと落ち着いて考えるとミドリも少し慌てすぎだったんじゃない?」
「かもしれない……お姉ちゃんに擦り付けるのはもうちょっと後で議論が進んでからとかの方がよかったのかな」
「私に擦り付けるのは確定なんだ……」
全員の役職が明らかになったことで、今回のゲームの反省会を行う。その中でミヨは成程と納得したり感心したりしながら楽しそうに頷く場面が幾らかあったところで、再びインサイダーゲーム二回戦を開始する。そしてミヨが引いたカードがジョーカーであり、それを見たミヨは、楽しそうに口元に笑みを浮かべるのだった。