転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
夢見モルフォ。ミレニアムサイエンススクールの一年生、帰宅部。ゲーム開発部のメンバーやエンジニア部との個人的な交友関係がある。ゲーム開発部への入部に関しては本人の意思により断っているとのこと。
(……あの子がゲーム開発部に入ってくれたら廃部通告なんて出さずに済むんだけどね……)
青髪の少女、早瀬ユウカは廊下を歩きながらそう呟く。セミナーというミレニアムにおける生徒会に所属している彼女としてもゲーム開発部のメンバーに対しては思うところが少なからずあるのだ。
「って、あれは……?」
と、ユウカの目の前にオレンジの髪を首まで伸ばした赤目の少女、モルフォが肩を落とした様子で歩いてきていた。彼女に見覚えがあったユウカが何があったのか声をかける。
「モルフォ、どうしたの?」
「あ、ユウカ先輩。ゲーム開発部に遊びに行こうとしたんですけど、才羽姉妹が外出してて」
「ああ……ゲームセンターにでも行ってるんじゃないかしら?」
「多分そうですね」
無駄足だったなー、そう言いたげな様子のモルフォ。とはいえ、肩を落としてこそいれど、そこまで残念と思っているわけでもない。むしろ三人がゲーム開発の為に過度に缶詰になってないだけましとも思ってる。自分も合流しようかとモモトークで連絡を取ってみようかとも考えたが、二人の時間に水を差すのも悪いだろうと両手を頭の後ろへと持ってくると、彼女の右手にぶら下がっていた布袋ががさっと揺れる。
「その袋は?」
ここで、袋に箱のような何かが入っていることに気付いたユウカが聞いてみる。ユウカも、モルフォの事は個人的に色々聞いてはいる。よく遊び道具を作ってはそれでゲーム開発部と遊んでいることや、エンジニア部からもその道具を作るための機械などを融通してもらっているだの。今、ゲーム開発部に行こうとしていたということは、彼女たちと遊ぼうとしていたものがそこには入っているのだろう。一体、何をしようとしていたのかは純粋に興味があった。
「ああ、ジェンガですよ」
「ジェンガ?」
やはり聞いたことのないものだ。首を傾げるユウカに、モルフォは彼女が興味を持っていることに気付く。
「時間があるなら、やってみますか?」
「……そうね、興味はあるし、少し付き合ってもいいかしら?」
モルフォの言葉に時間を確認する。そして、息抜きになればいいかなと思いながら、モルフォの誘いを受けるのだった。
★
「えっと……これ、積み木、よね?」
「まあぱっと見はそう思われても仕方ないです」
ユウカの目の前に積まれた、一列三本の木のブロックによって生み出された十八段のタワー。一体どんなものが飛び出すのかとわくわくしていたユウカにとっては正直拍子抜けだった。ただの積み木遊びではないか、と。実際、ルールを知らない人がみたらそういう風に見えるんだろうなとモルフォも否定せずに、ジェンガのルールを説明していく。
「ルールは単純。タワーの中から一本、ブロックを引き抜いて上に積み重ねていきます。これを交互に繰り返していき、崩した人が負けです」
「ルールも簡単なのね……」
「最初はどうってことはありませんが、後半は中々苦しいですよ」
では、最初はチュートリアルがてら私から始めますね、と言いながら、慣れた手つきで一本、真ん中の列を抜いて上に積む。交互ということは次は自分の番か、とユウカも抜くブロックを決めて、下の方に手を伸ばす。
(崩したら負け、ってことは左右のを抜くのはバランスが傾きかねないからあんまりよろしくないってことよね……だから真ん中で、後下の方なら重くなっているから安定して抜きやすいはず……!?)
だがここで、ユウカは指の感触からある異常事態に気付く。それは、
(こ、このブロック……下手に抜こうとすると、タワーの上部分が引っ張られる!?しまった……忘れてたわ……)
下の段のブロックを抜こうとすると、上の段もその影響を少なからず受けてしまい、揺れてしまうということだ。そう、このタワーは全く固定されていないのだ。ただブロックを積んだだけなのだから当然といえば当然だが、とりあえず安定しているだろう下の段から抜けばいいだろう、という安直な考えをしていたことをユウカは後悔していた。
「一応、抜き始めたら最後までやらないといけないけど、そうでなければ変更はありにしましょうか」
「え、ええ……」
よかった。まだブロックに触れただけで抜こうとはしていないからやり直しは利く。しかし、下の段を迂闊に抜けないならどうするか。いや、このまま番を返さないでいるのも問題だ、とりあえず上の方の抜きやすい、安定した真ん中のブロックを抜いて上に積む。
「実は上の方が抜きやすいってのも中々の罠ね……」
「意外と面白いでしょう?」
「そうね……見た目ほど簡単なものじゃないわ」
正直、ジェンガを侮っていた。単純、だからこそ奥深い。確かに、こういうゲームは複数人でやると中々面白いものだろう。果たして、モルフォは次にどんな手を打ってくるのか。とはいえまだまだ真ん中が残っている段は16段ある。そこから適当に抜くだろうと思っていた、その時だった。
「じゃあ次はここで」
「え!?」
モルフォは一切の躊躇なく、端っこを抜いた。今はまだいいが、抜かれたブロックが積み重なっていけば、この端っこが抜かれた段は間違いなくタワーへ影響を与える。重心がずれてしまい、タワーは倒壊の危機に陥るだろう。つまりこれは、ユウカにミスを誘発させると同時に自分も追い込む諸刃の剣。
「や、やるわね……!」
「さあ、どうしますか?」
「う、く……」
ここで修正する手段は1つ。モルフォが抜いたブロックとは逆の位置にあるブロックを別の段から抜けばいい。そうすれば完全に、とまではいかずとも左右の重量がある程度整い、バランスもマシになるはずだ。
「……いや」
だが、ここでユウカの手が止まる。確かにこれは、一時しのぎにはなるかもしれない。しかし、よくよく考えてみれば逆なのではないだろうか?
というのもユウカは、徐々にブロックを抜きながらタワーを壊さないように高く積み重ねるゲームだと思っていた節があった。しかし、実態はその逆。相手に破壊させるために動くプレイこそが正解なのではないか、と。で、あれば自分が取るべき一手は。
「これでどう!?」
「おっと!?」
逆に、タワーのバランスを自分から崩しにいく。モルフォが抜いた位置と同じ、別の段のブロックを逆にすっぱ抜く。これで、後半になればなるほどにタワーはよりバランスを崩していく。モルフォを仕留める一手に繋がるはずだ、と。
「やりますね……」
「何となくだけどわかってきたわ。さあ、勝負はここからよ!」
「……これは、イチバチでやるしかなさそうか……」
深呼吸を一旦いれる。ユウカが安定した行動を取ってくるならもうちょっと様子を見つつ、ジャブを刻んでいこうかと思ったが、向こうも積極的な手を打とうとしてきた。となれば、こちらも攻めなくてはいけない。
「……」
じっと、タワーを見つめるモルフォの様子を、息を呑んで見守るユウカ。何せ、ユウカ視点ではモルフォはこのゲームの製作者なのだ。自分の知らない攻略法をいくらでも知っていてもおかしくはない。それがどんな影響をもたらすのか。そこから自分は抗えるのか。そんな期待と不安を抱えながら、彼女の指先を注視する。
「……ここ」
「!?」
そしてモルフォが選択したのは、端っこを一本抜いた段。その反対側のブロックだった。それを見たユウカの表情が引き攣っていく。
(いやそこ、崩れるでしょ!?)
単純な話、土台となっているブロックの数は、安定力に大きな影響を与える。三本あればもちろんだが、上の段と接する面積がまだ多い二本というのは絶妙なラインだった。しかしモルフォがやろうとしてるのは、真ん中の一本だけにするという博打。確かに真ん中の一本さえ残っていれば、タワーは支えられる。支えられるのだが、それをやろうとした場合の難易度の高さは、初見のユウカでも理解していた。
「……よ、よし……」
タワーがゆっくり、ゆっくりと揺れ始める。慎重に、1ミリ1ミリとブロックをずらしていく。ブロックが外れていくにつれ、タワーの揺れが大きくなっていく。倒れるのか、倒れないのか。その境目を攻め続けるモルフォの頬を冷や汗が流れる。気付けばユウカの握る手にも手汗がにじみ出てきていた。
「……ふぅううううう……!!」
「や、やったというの……!?」
そして、遂に。モルフォはその一本を抜いてみせた。だがまだ終わらない、タワーの揺れが安定したのを確認し、慎重に抜いたその一本を、タワーのてっぺんに置き直す。
「さあ……次はユウカ先輩の番ですよ」
やりきったといわんばかりの表情で汗を拭いながらユウカを見るモルフォ。しかし、ユウカとしてはそれどころではない。この建築物にこれ以上手なんか加えたくないという思いしかなかった。だがこれはゲーム。どちらかが建物を倒壊させるまで続くのだ。
「……く……さ、さすがにここで勝負になんて出れないわ……」
今の状況でさらにバランスを大きく崩すような抜き方をしたら、真ん中一本しかない段は瞬く間に力を失ってその上部を崩壊させるだろう。安牌を攻めるように、まだ手付かずだった段の真ん中のブロックを抜いていく。しかし、そのブロックですら、先ほどまでとは違い、明らかにタワー自体が動いているような感覚がある。モルフォの施した中抜き工事は、とんでもない欠陥をタワーに生み出してしまったのだ。
「次は私の番ですね」
続くモルフォも、真ん中を抜いていく。向こうも今は攻めるつもりはなく、ユウカが自滅するのを待つ算段のようだ。そして、二人は交互にブロックを抜いては積んでいく。それが繰り返される中で、モルフォは内心呟く。
(……な、長くない?)
実のところ、焦っていたのはユウカではなくモルフォだった。というのも、彼女の記憶上、ジェンガがここまで持つことなんてありえなかったのだ。というか真ん中一本残しなんてやろうものなら近いうちに倒壊するだろうに。というか一本残し自体モルフォは前世では中々できなかったのだ。
(これが冷酷な算術使いと呼ばれる女、早瀬ユウカ先輩……!)
多分、ユウカはその計算能力をジェンガの攻略という一点に費やしているのだろう。だからこそ、ここまでの粘りを見せている。そしてその粘りは、モルフォにとっては致命的な誤算だった。またしてもきてしまった自分の番。思わず天井を仰ぎながら、弱音を吐き出す。
「うわーお……どうしようかなぁ」
「……これ、後どこが抜けるのかしら……」
が、その一方でユウカもまた、触れるブロックがないことに悩んでいた。もしモルフォがここで成功したら自分は詰みだと薄々は察している。故に、ここでモルフォが抜く一本が大事なのだが。
「どれ触っても抜けそうだし……う、うーむ……いや、待てよ」
ふと、天啓を得たとばかりに、モルフォが一本のブロックに指をかける。それは、ユウカがモルフォに重ねる形で端っこを抜いた段。
「ま、マジ……!?」
いや、さすがにそれは無理でしょと言いかけたユウカだったが、さっきもモルフォは真ん中一本残しを成し遂げたことをすぐに思い出す。まさか今回も成し遂げるのか?そんな期待感にも似た感情で、モルフォの指を見つめる。
(大丈夫、大丈夫……私ならやれる……奇跡を、起こせ……!)
全身の感覚を限界まで研ぎ澄まし、目を細める。指先に力を込めて、全力でタワーを倒壊させないように、ブロックを引き抜いてみせるという意気込みの下、モルフォは目を見開く。
(この一本は重い……だけど、私は引く!例えこの指が、ぺっきり折れようとも―――!)
そして。
「あっ」
ユウカの呆気とした声と共に、ガラガラとジェンガは跡形もなく崩れ落ちてしまうのだった。
「うわああああああ!!」
ゲームの勝敗が決まった瞬間、モルフォが崩れ落ちる。やってしまった、というかあそこまで来て負けるのか!?と感じてしまったその敗北感はすさまじい。ジェンガでここまでの敗北感を味わってしまったのは先にも後にも今回だけな気がする。
「ま、負けた……!」
「なんとか勝てたようね……それにしても、と、とんでもないゲームを思い付くものね……」
やっと一息つけると言わんばかりに溜息を漏らしながら、ユウカは崩れ落ちたブロックの山を片付けるモルフォを見る。正直最初はただの積み木のゲームだと思っていたが、実際にやってみるとまさかこんなに精神をすり減らすほどに夢中になれて面白いものだとは思わなかった。
「でも、凄く楽しかったわ。ありがとう」
「あー、いえいえ、楽しんでくれたなら私も嬉しいです。やっぱり複数人でやると楽しいですね」
「でもまあ……そう何度もやるもんじゃないわね……段々精神的にくるから……」
(それに関してはユウカ先輩がガチってるだけで普通はもっと早く終わります)
とはいえ、良い気晴らしにはなったようで、満足そうな表情を浮かべるユウカ。彼女ならキヴォトスで一番ジェンガが強い生徒になれるんじゃないか。そんなことを考えながら、モルフォはジェンガを片付けていく。
「そういえば他にもあったりするの?こういうの」
「そうですね。持ってきましょうか?」
「あー、今はいいわ。また時間が空いたらで」
「わかりました」
そして、ユウカとまた遊ぶ約束をしながら、モルフォは笑顔を浮かべるのだった。