転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする   作:popoponpon

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暁のホルスとビッグシスター

 

「借金って……」

 

アビドス高等学校にはカイザーに対して負った膨大な借金がある。アビドスの生徒五名は、対策委員会としてその借金返済を目指して日々を過ごしているのだ。そしてカイザーは、アビドス高校を消すためにあの手この手で妨害工作を強いている。当初、暴力組織への対応の為にアビドスを訪れた先生も、借金問題のことを知り、アビドスに滞在して彼女達に協力しているのだそうだ。それを聞いたモルフォたちはこの学校が抱える事情に言葉を失っていた。

 

「もしかしたら、カイザーは本当に君達と引き換えにミレニアムの最新技術を手に入れようとしているのかもしれないね」

「うへぇ、そうなったらまずいねぇ。救助を呼んだ方がいいんじゃない?」

 

先生とホシノからそう言われ、ゲーム開発部は顔を見合わせる。

 

「確かに……セミナーに連絡して迎えに来てもらう?」

「それしかないのかな……うぅ、後でユウカに何言われるかわかんないよ」

「それは私が発端みたいなものだし私が怒られてくるよ。セミナー……いやネル先輩に電話した方が早いか……今日休みって言ってたし」

 

そう言うと、スマホを取り出してネルに連絡を入れる。幸い、今は特に何かしているというわけでもなかったのか、ネルもすぐに通話に出てくる。

 

『おう、どうした?途中でトラブったか?』

「あー、ネル先輩……実はその……ラーメン食べてたところを便利屋に爆破されてカイザーに通報したら追われて今アビドス高校に匿ってもらってるんです」

『お前何言ってんだ?』

 

突然告げられたモルフォの言葉に困惑するネル。とりあえずこちらがただ事ではないということは理解してもらえたようなので、ここに至るまでの流れを詳しく話していくと、

 

『お前馬鹿だろ。なんでカイザーに通報なんてしてんだよ……ネギ背負った鴨じゃねえんだぞ……』

「反省してます……」

 

電話口でもわかるぐらい、天を仰いでいるであろうネルの呆れた呟きが聞こえてきた。しかし過ぎたものは仕方がないと切り替えると、

 

『しょうがねえな……まあ、ちゃんとカイザーの連中の事言わなかったのはこっちだし……迎えに行きゃいいんだろ?ったく、こっちは休みだぞ休み』

「すみません、お願いします―――」

『いや待てよ。ついでにカイザーとおっぱじめたら随分楽しそうじゃねえか』

「あ、あの?」

『おう、ちょっと待ってろ。セミナーにきっちりこの事は報告してやるからよ』

「何が始まるんです?あっ……」

 

そしてネルとの通話が切れてしまった。モルフォの不穏な発言を聞いたモモイ達は互いに顔を見合わせる。

 

「……ね、ねえモルフォ。ネル先輩はなんて?」

「もしかして、自力で何とかしろとか……」

「多分、多分助けに来てくれるはずだと思うんだけどなぁ……なんかカイザーとおっぱじめたら楽しそうとか言ってた。後セミナーにもちゃんと報告しとくって」

「「「……」」」

 

それを聞いて三人は頭を抱えてしまった。間違いない、セミナーはどう判断するかはわからないがネルやC&Cはこの機会にカイザーをボコボコにするつもりだ。

 

「う~ん……アビドスみたいな小っちゃい学校で大きな学校に好き勝手されるのは困るんだけどねぇ……」

「も、申し訳ありません……」

「モルフォちゃんが悪いってわけじゃないのはわかってるから大丈夫だよ」

 

モルフォの言葉にホシノが苦言を呈する。そんな感じで大体十数分ぐらいしてからだろうか。モルフォのスマホに新たな電話がかかってくる。しかし、その番号は知らない番号だった。

 

「……?誰の番号だろこれ……もしもし、夢見です」

『あなたが夢見モルフォね』

「……え?この声……まさかリオ会長ですか?」

『そうよ』

 

セミナーからの電話かと一瞬思ったが、それならユウカあたりから来るのかな。などと考えていたら電話をかけてきたのはまさかのセミナーの会長、調月リオだった。

 

「セミナーの会長って……あのビッグシスター?」

「どんな人なの?」

「どうって……よくわかんない人?」

「……あなた達の生徒会長なのよね?」

「そうなんだけどね……私達ただの部活動で会長と距離近いわけじゃないからさー」

 

声だけは何かで聞いていたこともあってリオだとすぐに気付いたモルフォが冷や汗を流しながら対応している中、モモイ達は対策委員会にリオの事を聞かれて首を傾げていた。

 

『カイザーの工作はいずれ障害になると判断して、そちらにC&Cを派遣することに決めたわ。そのためにアビドスの自治区への侵入許可をもらいたいの。アビドスの生徒会の副会長を出してちょうだい』

「?アビドスの生徒会って対策委員会のことじゃ……とりあえず、スピーカーにしますね。どうぞ」

『……聞こえるかしら』

 

スマホ越しに聞こえてきたリオの声。彼女たちの反応から、ちゃんとスピーカーモードになっていることを確認したリオは、すぐに交渉を始める。

 

『事情は把握しているわ。アビドスの生徒会の副会長、小鳥遊ホシノはいるかしら』

「……ここにいるよ」

「あ、あの……申し訳ありませんが、アビドスの生徒会は存在していないんです。今、対策委員会がその権限を引き継いでいて」

『何を言っているの?アビドス廃校対策委員会という非公認組織があることは知っているけど、権限があるのは生徒会と、それに所属している彼女だけのはずだけど……』

 

アヤネが訂正しようとすると、即座にリオが言い返す。それを聞いて困惑するアビドスの生徒達。言葉が出てこないといった様子だ。

 

「……リオ。どういうことなのか説明してもらってもいいかな?」

『その声は……成程。あなたがシャーレの先生ね』

 

混乱している対策委員会のメンバーに代わり、先生がリオと話し始める。男性の声を聞いたリオはすぐにその正体を導き出すと、説明を始めることにする。

 

『簡単な話よ、対策委員会という組織は認可が下りていない。だから生徒会としての判断を行えるのは今も生徒会の権限を有している彼女だけなのよ』

「そうなの?ホシノ?」

「……えっと……」

『……待って?本当に知らないの?生徒会に所属しているのはあなただけなのよ?あなたが卒業したり何らかの理由で学校からいなくなったらアビドスは廃校になるのに引継ぎも何もしていないの?』

「……へ?」

 

そして、今度はリオの方が困惑してしまう。場が妙な雰囲気になる中、リオが続けた言葉にホシノも顔を青ざめた様子で目を見開く。とはいえ、スマホ越しのため、ホシノの様子はリオにはわからない。

 

『……まあ、いいわ。そこはそちらの問題……こちらとしてはあなたにC&Cの滞在と、カイザーとアビドスの自治区内で戦闘が起こった場合の許可さえもらえればいいのだから……』

「……ふ、ふーん……丁寧に対応するんだね。一々許可を取ろうだなんて」

 

だからこそ、疑問には思いつつもそこまで追求する必要もないとすぐに本題に入ろうとする。ホシノはヒナをちらと見ながら、返答していく。

 

「それで何が目的なの?ミレニアムなんて大きな学校じゃアビドスなんて好きにできちゃうでしょ」

『そんなことする意味なんてないわよ。アビドスという学校と土地にそんな価値はないのだから』

「はあ!?」

「言い方ぁ!!リオ会長、思いっきり喧嘩売ってませんか!?これ交渉ですよね!?」

 

対価は何か。それを聞いた途端に投げ込まれた火の玉ストレートに怒りを見せる対策委員会の面々。ホシノもしかめっ面を見せており、思わずモルフォがリオを窘めようとする事態に陥っていた。

 

『何か誤解をしているようだから事実を明らかにして受け入れてもらった方が合理的よ』

「だとしてもですよ!?事実を受け入れてもらうためにある程度事前に感情的に語り掛けるとか、そういう状況を整えるとかあるじゃないですか!最終的にこうした方が効率がいい、みたいなこともあると思うんですよ!私達のためにやってくれるの凄い嬉しいんですけど、さすがにその言い方はまずいと思うんですよ!」

「めっちゃ会長に語ってるじゃんモルフォ……結構仲良かったりするの?」

「そういうわけじゃないと思うけどなぁ……」

「……モルフォ、誤解されるの好きな人じゃないから……」

『……その意見は覚えておくわ』

 

少しだけ落ち込んだような声音が聞こえてくるが、ひとまずリオから返事が来た。そして怒りを露わにする対策委員会達の中で、いち早く平静を取り戻したホシノが再びリオへの対応を再開する。

 

「……まあ、色々言いたいことはあるけどさ。なんでアビドスに価値はないって判断したのかな」

『……単純な話よ。土地もない、砂嵐の影響もある、過疎化も進行している……正直な話、わざわざアビドスで何かをしようとするほど、他の学園が価値を見出せる場所じゃないのよ。カイザーは砂漠の方に何らかの価値を見出しているようだけど……学園に関してはそうでもないのでしょうね』

 

そう並べ立てられると、怒りを抱いていた対策委員会も黙らされてしまう。ホシノは無言でそれを聞いていたが、やがて深い溜息を吐くと、

 

「そっかぁ……周りから見るとそう見えちゃうんだねぇ……確かに、そりゃ大した学校じゃないなぁ」

『……ただ、他の学園から見たら価値がないというだけで、そこに通う生徒から見たらそんなことはないのでしょうけど……』

「ん?」

『何でもないわ。とにかく、C&Cをそちらに派遣させるから、ミレニアムの生徒達の救助と、万が一カイザーがそちらの自治区に入った際にミレニアムの生徒が交戦する許可を出してほしいの』

「うーん、わかったよ。私が許可を出すしかないなら出しちゃうね」

『確認したわ。すぐにネルたちを派遣するわね』

 

そう言うと、リオとの通話が切れる。暫く無言になってしまったが、モルフォが少しずつ話を切り出す。

 

「えっと……うちの会長がごめんなさい……」

「まぁ気にしないでよ。それに、助けが来てよかったじゃん」

「リオはミレニアムと生徒達の事を考えているってわかったから。悪い子じゃなくて安心したよ。ところで……ヒナや便利屋の皆はこれからどうするの?」

 

モルフォたちがどう動くかはある程度目途が立った。では風紀委員会や便利屋はどう動こうとしているのか。それを確認するため、先生がヒナと便利屋を見ると、便利屋の面々は顔を見合わせる。

 

「どう、って言われても……」

「といっても、ここから出ていってカイザーの自治区を突破してゲヘナ……いや、ブラックマーケットに逃げ込むとしても難しいかもね」

「……いえ、あんな奴らに尻尾を巻いて逃げ出すなんてアウトローのすることじゃないわ」

 

そんな中、立ち上がったアルはふっと笑う。その姿に全員の視線が集まっていく中、アルは宣言する。

 

「奴らは目先の利益のためだけに私達を切り捨て、顔に泥を塗った……この屈辱は許される事ではないわ!奴らに教えてやるのよ!便利屋を敵に回すということがどういうことなのか!!」

「アル様……!」

「いいね、アルちゃんかっこいいよー!」

「……特にヒナの前で言うことじゃないと思うけど……まあ同意かな」

「……はっ!?」

 

元々、カイザーに傭兵か何かとして雇われていたのだろう。だが傭兵として使い潰すより捕えて交渉材料に使った方が効率がいいからと簡単に切り捨てられた事実は許される事ではない。そう高らかに宣言していたアルだったが、カヨコの指摘に冷や汗が流れ始める。慌てながらヒナの顔を見ると、ヒナは無言を貫いていた。そして、

 

「……カイザーを叩くことに関しては異論はないわ。今までの反応を見るにその線は薄いけど、奴らが何らかの拍子に条約に横やりを入れてきたら面倒だから、釘を刺すのは大事よ。それに……」

 

アルの話には極力触れず、自分の意見を述べながら、便利屋たちを一瞥する。今回の便利屋の行動には目を瞑る、その代わりにミレニアムとの間に火種が起きないよう、ミレニアムと手を組み、今回の一件の当事者である便利屋も事態の収拾に当たれということなのだろう。そこはアル達も理解できたようで、自分達の方に視線を戻したヒナに対して無言で頷き返す。

 

「……そうですね……少なくとも、あれをどうにかしなければ。見てください」

 

ここで、アヤネがドローンで撮影した映像を見せる。そこには、アビドスの自治区に面したカイザーの自治区にカイザーPMCの軍勢が徐々に集まり始める光景が広がっていた。

 

「な……何よこの軍勢!?」

「夜の闇に紛れて攻め込もうとしている……?」

「いや、今夜は確か砂嵐がこっちまで来るはずだから、奴らも迂闊には攻めてこれないんじゃないかな。おそらく……攻めてくるのは砂嵐が止んで、視界も開ける翌朝……」

 

今のところは攻め込む素振りは見せていないが、それも時間の問題だろう。その時間は、窓を揺らす風の音を聞くに砂嵐が稼いでくれるようだが、それも一夜のものでしかない。その間に準備を進める必要がある。先生はカイザーの軍勢を見ながら考え始める。そしてヒナに向き直ると、

 

「カイザーはこのアビドスを無くそうとしている。それを認めるわけにはいかないんだ。子供達が通う学校を守りたい……ヒナ、力を貸してほしいんだ」

 

カイザーに勝つために、少しでも力が必要だと要請を頼む。それを聞いたヒナは、どこかへ連絡を取り始める。そしてその先から何かを聞いたのだろう、短く返事を返すと、

 

「……わかったわ。今回の原因を作ってしまったのは風紀委員会。だから後方支援の形でサポートさせてもらうわ」

「え、本当に!?」

「ええ……今回の一件、先生にも迷惑をかけてしまったから……」

「?どういうこと?」

「……アコが風紀委員会を独断で動かしたのは先生が目的だったの。ごめんなさい」

 

何故手を貸すのかの理由も含めて説明する。あくまでゲヘナとしては尻拭いのために今回の一件に協力する、というスタンスのようだ。

 

(だけど、まさかトリニティも動くなんてね……変な横やりを入れられないようにするためにカイザーの動きを牽制したいのは同じ、ということかしら……)

 

砂が舞い始めた外の景色を見ながら、ヒナは部下から聞いたその内容について考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意外ですね。あなたがここまでしっかり動くなんて」

「そうかしら?当然の行動をしただけだと思うけれど」

 

場所は変わって、ミレニアム。そこには、黒髪を長く伸ばした長身の女性とヒマリがいた。彼女こそ、先ほどまでモルフォに電話していたリオであった。

 

「カイザーがミレニアムの技術を狙っているのはわかっていたわ。これまではカイザーも曲りなりにも表立って問題ない様に動いていたみたいだけど、今回の機会は丁度よかった。それだけの話よ……それよりも」

 

リオがヒマリの顔を見る。ヒマリはリオが聞きたいことを既に理解しているのか、無言のまま次の言葉を促す。

 

「モルフォの夢と百合園セイアの夢が繋がっていること……あなたはどこまで把握しているの?」

「残念ながら私が知っているのはあなたに話したことが全てですよ。モルフォがセイアから続報を聞いているなら話は変わりますが」

「トリニティがこの事を把握しているかはわからないけれど……エデン条約で過敏になっているであろう今のトリニティと政治的な対立を生む行動は極力避けるべきね」

 

ヒマリもまた、今回のモルフォが巻き込まれた一件を知り、リオに情報を共有していたようだ。ミレニアムのトップであるリオの迂闊な行動でトリニティとの対立を生みたくはない、その意図もあって伝えられたモルフォとセイアの繋がりという情報は適切に利用されていた。

 

「何より……あの子達を守るために、この作戦は成功させる必要があるわ。都合のいいことに、どこにも属さないシャーレの先生もいるのだから、それも利用してね」

 

シャーレの先生。その情報を調べていたのはゲヘナだけではない。ミレニアムやトリニティ、他の学校も調べている所もあるのだろう。その特異性に注目したリオは、新たな一手を既に考えていた。とはいえ、この場ですぐにできることは少ない。一旦、今回の一件から意識を外した時、ふとモルフォから告げられた言葉が思い出されるのだった。

 

「……凄い嬉しい、ね……」

「……リオ?」

「いえ、何でもないわ」

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