転生したので前世の知識で生徒達と遊ぶことにする 作:popoponpon
遂に迎えたミレニアムEXPO当日。モルフォは寮の部屋で目を覚ましていた。
「……おはよう。早いね」
「ああ、今日はミレニアムEXPOの当日だからね」
「初めて聞いたけど、楽しそうだね」
こういう大きなイベントとあれば前日まで缶詰をされているようなものだが、モルフォだけが帰されたのにはあるのっぴきならない事情があり、十分な休息を取る必要があったのだ。別にそこまでする必要はないだろう、とはモルフォも思ってはいたものの、ある人物らの意向もあって受け入れざるを得なかった。
「……シロコ先輩も見に来る?気になるなら上着貸すけど」
「……いや、いいや。興味はあるけど……別に行きたいところあるし」
「あら……まあ、興味が出たら言ってください」
自室で準備をしていると、慌ただしそうにしながらも楽しそうにしているモルフォの様子にシロコ*テラーも気になったのだろう。とはいえ既にシロコ*テラーの方でも予定を入れていたようだ。
ミレニアムEXPOとは、過去にあったミレニアムプライズのような主にミレニアム生達をメインとしたイベントではない。外部の学園、トリニティの生徒達を招いて行われる交流会を兼ねた技術の祭典である。そのため、トリニティの生徒達も来るのだが、トリニティの代表としてセイアが来ることになっている。しかし裏でティーパーティーの中で何があったのかは不明だが、当日はモルフォにはセイアについて案内してもらいたいという話にいつの間にかなっていたのだ。
とはいえ、何か問題が起こるというわけでもなし。それにゲーム開発部の生徒ならばウケもいいだろうということやセイアとモルフォの交友関係を知っている面々もそれぐらいなら構わないと承諾したことでこの計画は実現したのだった。
★
準備を終え、学園に向かったモルフォは校門でセイアと再会する。その横にはミネの姿もあった。
「セイアさん、お久しぶりです。ミネさんも」
「やあ、久しぶりだね」
「お久しぶりです。あの一件は世話になりました」
セイアと再会し、喜ぶモルフォ。校内には既に多くのミレニアムとトリニティの生徒達が交流をしている様子があり、活気に溢れていた。しかし、セイアとミネが一緒であることを指摘すると、セイアは苦笑しながら肩を竦める。
「ミネも自由にしてくれても構わないんだが」
「そういうわけにはいきません。あなたの体調に何かあった時、速やかに救護をする必要がありますから」
「しかしね……」
「ナギサ様からも言われてますので。それに、ミレニアムは爆発事故がよく起こるような場所だとも聞きますし」
「……まあ、爆発はよく起こるけども……」
ミネとしてはセイアの体調が心配なようだ。そしてミレニアムの環境が理由とくればモルフォとしては残念ながら否定することはできない。実際爆発なんてたまによくあるのだ。
「ま、まあ……とりあえず見て回りますか?一応案内とかそこらへんも私に任されてますし」
「ふむ……そうだね。ここから分かれることはあるかもしれないが、とりあえず見て回ることで何があるのか把握してからでも遅くはないのかもしれな……」
ここでじっとしているより色々見て回ろうとどこか楽しそうにセイアが呟きながら視線を周りに向けたその時。セイアの視線がある一点を見て固まる。ミネも同様にそちらを振り向き、固まってしまう。
「どうしました?」
「あれはなんだい?球体の……戦車?」
「ああ、晄輪大祭で見ませんでした?案内用ロボット……だったっけ……?まあ、そんな感じのです」
視界の隅を通る、重武装された深緑色の球体をした謎の戦車。(晄輪大祭にあんなのいたかな……いたかも……)と、トリニティ生達の視線が突き刺さる当時のエンジニア部が深夜テンションといつものノリを掛け合わせて作り上げた謎のロボットを見つめる二人。
「……ま、まああれも気にはなるが置いておこうか……さて、移動でも」
「……そ、そうですね……おや?」
セイアの言葉に、ひとまずここでじっとしているのもそれはそれで問題だとミネも思ったのだろう。モルフォの案内に従おうとした、その時だった。ミネの視界の隅をヘルメットを被った少女が通り過ぎる。
「どうしたんだい?」
「いえ、今ヘルメット団の生徒が……」
「え?」
「……何か落ちてないかい?」
「?紙……?」
ミレニアムの生徒でもトリニティの生徒でもない謎の存在。別にヘルメット団の不良がミレニアムの中にいるだけならこういう日もあるか……って軽く流されるし、今日は変な奴らも入り込んでるな……となるだけなのだが。そんな人物が慌ただしくしていてしかも何かを落としたとなれば当然気にはなる。
「……これは、取引部品リスト?」
「……なんでそんなものが?」
「あの子……運搬のバイトでもやってたのかな?いやでも、こんな部品必要としてるところあったっけな……しかもこれ、確か一般流通してないような」
「わかるのかい?」
「まあ、全部が全部じゃありませんけど備品とかそこらへんは割と目を通したり調べたりする機会も多いので。エンジニア部にもよく行きますからね」
彼女が落としたものが何か調べてみる。それは取引部品リストであった。何かバイトでもやっていたのだろうかとは考えるも、そのリストを見てモルフォは首を傾げてしまう。少し気になったモルフォは少し考え始める。
「……怪しい取引の可能性はないのかい?」
「……さすがにそんなことはないとは思うんですがね……でも万が一があっても困るし……」
その様子を見て、闇取引を危惧するセイア。さすがにそんな大それたことはあってほしいとは思わないが、気にはなるのも事実。部品の方は部品で確認するとして、手が空いている人を探すことにする。
「ふむ、手伝おうか?」
「まだ確証があるわけでもありませんし……まあ、調べられる人に任せちゃいましょう。もしもし―――うん、トキ?ちょっと聞きたいことが……うん、うん。お願いね」
一先ず動いてくれそうな人物としてトキに当たってみると、二つ返事で承諾され、どこかやる気に満ちた様子で通話を切られる。トキに動いてもらってるしと一応ネルにも声をかけようと思ったのだが、残念ながらネルの方は通話には出なかった。
(……何かあったのかな。まあいいや、とりあえずこっちを……)
続けてモモトークを開いてウタハに連絡を取る。そしてリストの事を伝えると、一回来てほしいと言われる。
「……すみませんセイアさん、ミネさん。ちょっとこれをエンジニア部に届けようと思うのでそこまで付き合ってもらってもいいですか?」
「いえ、私は構いませんが……」
「ああ、私も構わないさ。それに、放っておくのもよくはないだろう?」
二人も承諾してくれたことで、モルフォは二人を伴ってエンジニア部の部室に向かう。中に入ると、そこには四人の生徒達がいた。
「やあ、待ってたよモルフォ」
部室そのものは解放してはいないが、万が一トリニティの生徒が入ってきた時のために見せちゃいけないものにブルーシートをかぶせて隠していたウタハとヒビキ。それに対して魂が抜けかかっているコトリの三人がそこにはあった。
「ほう、ここがエンジニア部とかいうところか」
「……色々ありますね……」
ミネが感心したような声音を漏らしている中、モルフォを見つけてフラフラと近づいてきたコトリが力尽きたように抱き着いてくる。
「待っていましたよぉ、モルフォ……」
「いやどうしたのコトリ」
「これは過労ですね。今すぐ救護をしなければ」
「ふ、ふふ……案じなくてもこれが終わればすぐにでも休みますとも……ですがその前にモルフォ、遂に、遂に完成しましたよ……」
「いや何を作ったのさ」
見ればコトリの手には謎の靴が握られている。明らかにブースターのようなものがついており、どう使うのかを何となく察し始めたモルフォの様子を見てコトリはテンションを上げながら説明していく。
「では説明しましょう!これは瞬発力増強シューズ!まだ試作段階なので一回限りですが瞬発力を大きく引き上げます!その用途は多岐に渡り大ジャンプやら超スタートやら色々!当初はネル先輩に与えて限界までやってもらおうと思ったのですが搭載する瞬発力増強装置のサイズの都合でこれ以上小さくできなくなり、足のサイズと普段の運動量などから考えるに一番これを面白そうに使えるのがモルフォだと判断しこのシューズをモルフォ専用のものとして作り上げました!是非そのスピードと威力に酔い痴れてください!」
「た、確かに面白そうだし作ってくれたのは嬉しいけどさ、コトリは大丈夫なの?」
「大丈夫です!三日三晩不眠不休で作っただけですから―――」
「救護!!」
「グワーッ!?」
「コトリ―――!!」
尋常じゃないハイテンションの説明だけでも既にミネの眉がぴくぴくと動いていたが、これを作るために不眠不休で頑張ったという話を聞いて遂に限界が訪れたのかコトリの頭部に勢いよくライオットシールドが振り下ろされてしまう。
「……ミネ」
「彼女には然るべき救護が必要だと判断しました」
「……まあ、コトリには確かに休みが必要ではあったが……モルフォ、とりあえずこっちに連れてきてくれ。人を駄目にするベッドもできてね」
「あ、できたんですか」
「人を駄目にする……?」
これにはウタハも苦笑いするしかない。ひとまず意識が朦朧としていてピクピクしているコトリを連れてきてくれと言われ、運ぶとそこには清潔に整えられた一角と一目で安眠できるとわかるほどに整えられた大きなベッドがあった。
「温度、音、感触……全てにおいて安眠できることを目的として作られた最強のベッドさ。この空間に放り込めばコトリは一瞬で向こう側に行けるだろうね」
「成程?」
「……夢か」
「セイア様?」
「ああ……前々から考えていたことがあってね。モルフォ、ちょっといいかな」
「はい?どうし―――」
「私と一緒に寝てくれないか?」
「セイア様!?」
「なっ、なんだぁっ」
そこにコトリを寝かせようとした時だった。突然のセイアのカミングアウトにミネは驚いてしまう。ヒビキとウタハも一瞬聞き間違えたかとセイアを二度見する。その視線に気づいてセイアは何か著しく誤解させていることに気付き弁明を開始する。
「いや、待ってくれ。私はなくしてしまった能力を取り戻す方法を探したくてね……一緒に寝ればまた夢に入れるぐらいには私の能力も残ってるんじゃないかと思ってね。これは真面目な理由なんだ、そんな不埒な理由など毛頭ないんだ!そこだけは断言させてもらおう!!」
(おそらくまた一緒に遊びたいからなんだろうけど……でも興味はあるな)
「そういえばそういう話だったか……」
「でも、一緒に寝るだけでどうにかなるものなの?距離的な問題じゃない気もするけど……」
「こういうのは検証するのが大事なのだよ」
「……まあ、一理ある。モルフォはいいの?」
「まあ……いきなりでびっくりはしたけど……本当にできるかどうかは興味ある」
セイアの弁明のおかげで何とか意味は通じたのか、決していかがわしい意味はないとわかってもらえたようだ。モルフォとしてもどれだけ効果があるかどうかはおいといて試してみる価値はあるかもしれない。
「……大丈夫でしょうか」
「まあ……失敗したら失敗したでただ眠るだけになるんじゃないかい?それよりラボを開ける準備は大丈夫かな?」
「えーと、後は……」
コトリが端っこで意識を瞬く間に失っている中、その反対側で横になるセイアとモルフォ。そしてベッドの機能が発揮されると、二人の意識は疲れを一瞬で訴え始め、その意識を速攻で手放してしまうのだった。
★
「……ここは、私でもモルフォの夢でもないぞ……?」
次の瞬間、セイアが辿り着いたのは百鬼夜行のような景色の中であった。そこが自分やモルフォの夢ではないことは明らかだ。
「……建物?」
視線を後ろへと向けると、そこには建物があった。その縁側では、日差しと気持ちいい風を感じながら眠るアヤメの姿があった。
「彼女は……」
その正体をモルフォと話した記憶の中から引っ張り出そうとしていると、アヤメは何かの気配を感じたのかぼんやりとした表情のまま、閉じた目を擦りながら体を起こす。薄い金髪を揺らし、水色の羽織を着たアヤメの姿をセイアが見ていると。
「モルフォ……?今日は来るの早いね……もうそんな時間なの……」
「……は?」
「……んん……?」
アヤメはまだ目を擦っており、目の前の景色を見ようとしていない。だからこそ気配だけを感じたことでそれがモルフォではないかと考えたようだが、セイアの声にそれが別人であることに気付く。
「……一体誰―――」
「……だ」
「だ?」
「誰よこの女!!」
「……はい!?あっ?」
慌てて目を見開いた次の瞬間。ああこの少女がアヤメかとやっと思い出すと同時になんかこれだけは言わないといけないといけない気がしたセイアがとりあえずノリに任せて言った直後にセイアの体が意識を取り戻したのか光と共に消えていってしまう。
「……ええ……?モルフォのお友達か何か……?」
残されたアヤメはただただ困惑して首を傾げるしかなかったのだった。
★
「……モルフォ……」
「あ、目を覚ましましたか?」
目を覚ましていたモルフォ。何か弾かれたような気がしたが何かあったのだろうかと考えていると、セイアが笑みを浮かべる。
「セイアさん?」
「いやぁ……なんか、思ったよりも楽しめたよ」
「……何してたんです?」
「……なんかそういう感じのスラングか何かがあったから言ってしまったが……すっきりした」
「えぇ……」
困惑するモルフォに愉快そうな笑みを浮かべ続けるセイア。そして体を起こしながら、ふと気付いたことをモルフォに問いかける。
「よく考えてほしい、君の身近な子は金髪の子が多くないか?」
「そんなバカな……他にも色々いるでしょうに。大体髪の色なんて何かに関係あります?」
「そうですよセイア様……それで、何か変な夢でも見たんですか?」
「む……ああ、いや関係ない。ただ、手掛かりは掴んだよ」
個人的に気になること自体はあるが、モルフォと一緒に寝れば夢には入れる。今はアヤメとも混線している影響が出ているようだが、一先ず自分とモルフォの繋がりは決して途絶えてはいないという事実を知って少し喜ぶセイア。と、ここでモルフォのスマホに連絡が入る。
「……あ、ちょっと待ってください。トキからだ」
「何かあったの?」
「ああ、ヘルメット団の生徒を見つけたって話をしたでしょ?それでこのリストを持ってきて、トキに調べてもらってたんだけど……はい、もしもし……え?ネル先輩とリオ会長?他言無用に……?あー、その……実は……え?わ、わかった」
「……何かあったのかい?」
ウタハが質問する。トキとの話でネルやリオの名が出て、セミナー室に来てほしいと言われれば嫌でも気になるのだろう。モルフォはウタハ達を見て、それからセイアとミネを申し訳なさそうに見る。
「その、例の取引リストがちょっと怪しいことになってまして、えーと……」
「……悪いがお前ら、こっから動くんじゃねえぞ」
そう思った次の瞬間、なんとエンジニア部の部室にネルの姿が現れる。普段のメイド服ではなく制服に身を包んでいる彼女を見てヒビキが一瞬誰かわからないでいたがすぐに銃を見てネルだと気付き、驚いた表情になる。
「ネル、一体どうしたんだい?何が起こってるのかな?」
「……お前らにはついてきてもらう。でだ……あんたら、トリニティのお偉いさん達だろ?少なくとも今回の件については黙ってもらえねえか」
「……それは、ミレニアムで解決する、ということでいいのでしょうか」
開幕、ネルから手を引けと暗に言われたセイアとミネ。ミネの指摘にネルは頷くが、それを聞いたセイアが不満げな顔を浮かべる。
「ふむ、まあ言い分はわかるがね。少なくともこれで私達から見ても疑惑は確信に変わったわけだ。となれば、気にするな、と言われても難しいのではないかな?何せ、これはミレニアムだけの問題では済まない可能性もある」
「……はぁ、おいどうすんだ」
『……仕方ないわ。その二人も連れてきてもらっていいかしら』
「……リオ?」
『ウタハ、あなたも来てもらうことになるわね。他の部員は……カモフラージュをしてもらっていいかしら』
「……まあ、説明してもらえるなら私としては構わないけどね。コトリは寝てるわけだし……ヒビキ、後は任せていいかな」
あんまり大人数で動かれても困るのだろうか。リオの声が聞こえてくる。セイアとミネについてはもう仕方ないと割り切ったようで、後はウタハとモルフォにネルと一緒に来てほしいと告げる。一体裏で何が起こっているのか、困惑しながらもヒビキ達に後の事を任せ、ウタハは先に部室を出ていった面々についていこうとする。
「……ああ、そうだ。ミネ、彼女のことは大丈夫なのかい?やはり君が見た方がいいだろう」
「!それはそうですが……しかしセイア様」
「モルフォもいるし、彼女……美甘ネルもいるんだ。それにただ話をしにいくのに大丈夫も何もないだろう?」
「……それは、そうですね。色々気にはなりますが……やはり大事なのは救護……皆さん、セイア様のことをお願いします」
だが、これ幸いと何かを閃いたのかセイアは言葉巧みにミネをこの場に残らせる。これでミネを一人にしておけば彼女もいずれ自分の見たいところに向かうだろう。それよりもこれは何が裏にあるのか。内心ワクワクしながら、セイアは部室を出ていくのだった。
★
「ここは……」
「ミレニアムの地下にこんな隠れ家が」
「ふむ……ミレニアムの地下は整備されてない所も多いとは聞いていたが、なるほどね」
一行がネルに案内された先はなんとミレニアムの地下であった。だが、そこにあった隠れ家は見るからにハイテクな内装となっており、多くのコンピューターやモニターがあった。そこにはリオとトキの姿が既にあった。
「待っていましたよ、モルフォ」
「……大事にしたくなかったからネルに頼んでいたことなのだけれど……」
「しょうがねえだろ。あたしがヘマしたとかじゃなくて別ん所からどんどん広がってたんだから」
「まあ、私達が知ったのは偶然だったわけだが……それで?何があったんだい?他にどれくらいの人が把握しているのかな?」
リオの言葉にネルも溜息を吐く。その様子を見ながらウタハが早速本題にいこうと言わんばかりにリオに声をかけると、リオも溜息を吐きながら説明を始める。
「この件を把握しているのはここにいない人たちだとチヒロ、ユウカ、ノアだけよ。そもそも今回、不可思議なデータの痕跡を見つけたことから暗躍する存在を把握したのが発端なのだから」
「……ふむ?よくはわからないが……問題があるとわかっていながら強行したってことかい?」
その言葉を全てを知っていた上で今回のイベントをやったのかとセイアは指摘する。これが些事であればまだいいが、セミナーの会長が動くとなればそんな生易しいものにはならないだろう。下手をすれば今日来ているトリニティの生徒にも危害が加わるかもしれない。そうなればセイアとしてはとても容認はできないのもある意味当然ではあった。
「……ミレニアムEXPOは大きなイベントよ。今回の為にと前々から準備してきた生徒達は大勢いる。問題を周知させれば中止になってしまうリスクがあるわ。それに……そのような素振りを見せれば犯人は行方を眩ます可能性もある。何せ相手はミレニアムのセキュリティを突破してデータを操作できる能力を持っているのだから」
「……この一件自体が盛大な陽動というわけか。成程、チーちゃんはサーバーのメンテナンスをしていた時に気付いたんだね。私達に伝えなかったのは敵を騙すには味方から、というわけかい?」
「まあそんなとこだ。だからモルフォのせいで知っちまったトキは例外だがアスナ達もこの事は知らねえ」
だが、リオとしても中止にするわけにはいかない事情もあったらしい。そしてリオの言い分にウタハやモルフォも同意するように頷く。ここまで死ぬ気で頑張ってきた生徒たちの事を考えればこれもある意味当然であった。
「……というのが今の現状よ。とはいえネルとここからはトキにも動いてもらう以上、あなた達は心配しないでいいわ。元の場所に戻ってもらっていいかしら」
「ま、強いて言うなら何も知らないフリして怪しまれないようにしてくれって感じだ」
「……ふむ。まあ言い分はわかったとも。だが……こちらとしても一つ要望があるんだがね」
「……?」
こうなってしまった以上、セイアはティーパーティーに所属していることもあって最低限の必要は必要だ。だがこの件に関わらないように、犯人を騙す演出を手伝ってほしいという名目で遠ざけようとしていたがその意図を理解していたセイアは、どこか楽しそうに不敵な笑みを浮かべると、己の要求を口にする。
「私も、その作戦に加えさせてもらえないかな?」
「……おい、こいつ正気なのか?」
「……えっと、何が目的なのかしら……?」
「……成程。これがおもしれー女というやつですか」
「トキ?」
が、この件に自分を加えてほしいという突然のセイアの言葉に、困惑するネル達。それもそうだろう。今回の一件はミレニアムだけで秘密裏に解決したいと思っているからこそ、巻き込む人数を最小限にしているのだ。不幸な事故で知っている人がどんどん増えているからこそ、その導線を潰すためにこうして事情説明が行われているのに肝心のセイアがどこかイキイキとした様子で首を突っ込もうとしているのだからリオとしても何を考えているのかと思わず頭を押さえてしまう。
「何を、かい?他意はないとも」
「お前何言ってんだ……おいモルフォ、こいつは本当に大丈夫なのか?」
「……ええっと、そうですね……大丈夫……でいいんですかね……?」
「待ってくれたまえ、なんでそんな目をされなければならないんだい?」
「……とはいえ、ある意味都合がいいのは確かではあるわ……」
セイアとしては特に何も悪いことは考えていない。だからこそ頭を痛めているのだが。とはいえ、ここでセイアが力を貸してくれること自体は正直な所、リオ達から見れば悪い事ばかりでもない。
「彼女は招待客の立場ではあるのだから、疑われたり危険に晒されたりすることもなく、人目のある場所を堂々と歩ける。これは紛れもない利点よ。それを利用すれば会場内の不審な動きを調査してもらうこともできるはず。とはいえ……そうね、万が一が起こってもいけないわ。モルフォ、彼女と一緒に動いてもらえないかしら」
「あ……はい、いいですよ。まあ護衛の方も任せておいてください」
「成程、モルフォはセイアさんの護衛をと。では私はモルフォの護衛を」
「いや護衛の護衛ってなんだよ」
「……トキ、あなたはネルと一緒に動いてデータセンターの調査を行ってもらうわ」
セイアは立場がある。その立場を利用すれば表の方から犯人を追い込むこともできるはずだ。安全上の問題などもないわけではないが、それに関してはモルフォに元の役割である案内の立場を続けてもらいながら護衛を続けてもらえばいい。トキはネルと共に裏から調査を進めてもらい、一気に犯人を追い詰めてもらうようだ。
「……ふむ。私は色々理由をかこつけて色々な所をうろ付きながら機器のメンテナンスやらなんやらをしていけばいいのかな?」
「……ええ、そうね。インターネットと遮断されてこちらからでは分からない異変が潜んでいる可能性もあるわ。そちらを調べてもらいたいのだけど」
「まあ、乗り掛かった船だし、こんなしょうもないことで台無しにされてはたまったものではないからね」
「ええ、あなたなら大丈夫だと信じてるわ」
「ふむ……まあ、いいんじゃないかな?……それで、今はどこまでわかってるのかな」
「それについては大丈夫です。私が取引の証拠を入手しました、いぇーい」
そしてウタハもまた単独でうろつきながら情報を集める、ということが決まったところで現在リオ達が掴んでいる情報について聞こうとする。それを聞いたリオとネルがトキの方を見ると、トキがふっと笑う。
「取引から察するに彼女達の目的はお金でしょう。実際ヘルメット団からすればお金さえもらえればいいでしょうし。まあそのためにミレニアムEXPOをどうにかしてやろうとしているわけですが」
「……ちなみに先生に協力は要請しないのかい?」
「最初は考えたのだけれど、当然相手も先生の動向は注目しているはず。だから先生が行動を起こせばすぐに向こうが大きな行動に出る可能性があるわ。だけど、何も知らなければ……」
「なるほど、演技でやってるかどうかはわからないから警戒するしかないと。知らないなら知らないで先生が感づかれれば介入してくるから嫌でも意識せざるを得ないと。確かに、奴らの動きを鈍らせるにはいい案じゃないかな?」
「……」
先生に頼ることも考えたが、ことこの場においては先生にはいてもらうだけで圧をかけてもらう方がいいのではないか。ネルは微妙そうな顔をしていたが、ウタハもその利点を考えて頷く。
「ふむ、了解したよ」
「では、行動を開始しましょう」
そう言い合い、その場にいた面々は頷き合うと隠れ家から出て各々の行動を開始するのだった。
★
「……しかし、手がかりか。どうしたものかな」
「まあ、そう簡単に見つかるというわけでもありませんし、とりあえず一通り見て回りましょうか?」
トリニティから来た生徒達を引率するアスナやカリン、アカネの様子を見る。彼女達は今回の異変こそまだ知らないが、トリニティ生達に何かあっては一大事だとガイドなどをやってもらっているのだ。セミナーの保安部も動いており、ここら辺は表向きのトラブル対策の一環と言えるだろう。
「……キャアアアア!?」
「!?今の声は……」
「コハルだ!」
次の瞬間。ミレニアムの中を歩いていると、突然コハルの悲鳴がエンジニア部が展示を行っている今回の為に用意されたラボの方から響く。二人が顔を見合わせてそちらへ向かうと、そこには四本腕にキャタピラがついたロボットが暴走している姿があり、モルフォは焦ったように、そしてセイアはその特徴的な顔を見て思わず首を傾げてしまうのだった。